ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Grischa Lichtenberger - Re: Phgrp (Reworking »Consequences« By Philipp Gropper's Philm) (review)
  2. interview with BBHF 歓びも、悲しみも痛みもぜんぶ (interviews)
  3. Nightmares On Wax ──ナイトメアズ・オン・ワックスが来日 (news)
  4. Neue Grafik Ensemble - Foulden Road (review)
  5. Local X9 World Hyperdub 15th ──15周年を迎える〈ハイパーダブ〉が来日ショウケースを開催 (news)
  6. マスターズ・アット・ワーク来日直前特別対談 時代を越える存在──DJ NORI と Dazzle Drums が語る MASTERS AT WORK (news)
  7. WXAXRXP Sessions ──〈Warp〉30周年を記念したシリーズ作品が発売、豪華面子が勢ぞろい (news)
  8. Madame Gandhi - Visions / Various Artists - Manara International Presents: The Ultimate Spice Mix (review)
  9. FTARRI FESTIVAL 2019 ──国内外の実験/即興音楽の現在が集結する最後の祭典が開催 (news)
  10. Hector Plimmer ──南ロンドンのメロウなビートメイカー、ヘクター・プリマーが新作をリリース (news)
  11. Daichi Yamamoto - Andless (review)
  12. Xinlisupreme ──シンリシュプリームが新曲をリリース (news)
  13. クライマックス - (review)
  14. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか (columns)
  15. Politics 消費税廃止は本当に可能なのか? (2) (columns)
  16. interview with KANDYTOWN 俺らのライフが止まることはないし、そのつもりで街を歩く (interviews)
  17. Columns Kim Gordon キム・ゴードン、キャリア史上初のソロ・アルバムを聴く (columns)
  18. Laraaji ──ララージがまさかの再来日、ブライアン・イーノとの名作を再現 (news)
  19. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第7回 ゆるい合意で、がんがん拡大 ――身を委ねてはいけない諸々について (columns)
  20. The Art Ensemble of Chicago - We Are on the Edge: A 50th Anniversary Celebration (review)

Home >  Reviews >  Live Reviews > 七尾旅人- @東京・キネマ倶楽部

七尾旅人

七尾旅人

@東京・キネマ倶楽部

2017年1月8日

文:野田努  
写真:新保勇樹   Jan 20,2017 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 ぼくは夢見ていた。アホだった。『if...』のマルコム・マクドウェウさながら、大人に逆らえばいいと思っていた。そしてロックと呼ばれる音楽は正義の音楽であり、パンクと呼ばれる音楽は弱者の側の音楽だと思い込んでいた。2016年ではっきりとわかったことは、音楽はかならずしも正義かどうかわからなく、かならずしも弱者の味方ではないということだった。
 それがエマニュエル・トッドがいうような「新しい階級闘争」なのかどうなのかぼくにはわからない。ぼくは敢えて階級を言うなら労働者階級出身だが、地方都市の商業街特有の、金はないが時間と気持ちに余裕があるという屈託のない環境で育ってしまったので、甘ちゃんで、正味どうにも馴染めない言葉なのだ。「そんなことないでしょう!」と言いたいのだが、いま、そうすぐには反論できない自分がいるのも事実。ブレグジットもトランプもニューリッチの思いがままと、それだけで割り切れればいいのだが、2016年は音楽をやっている側と弱者の気持ちとのズレが露わになったのは事実で(その穴を埋めようとしたエミネムは偉い=紙エレキング参照)、まあ手短に言えば、なんでもかんでも音楽=正義という図式にもとづくアイデンティティはぼくのなかでは崩壊した。さあ、水曜日のカンパネラを聴きながら一からやり直しだ。

 もちろん音楽の価値はそういう社会のみに還元させるものではない。が、しかし、この時代の揺さぶりのなかで、2016年の七尾旅人は気を吐いていた。彼は少なくとも本当に勇敢で、がむしゃらだったと思う。1月8日日曜日、東京の東の鶯谷、小雨の降る、寒い寒い夜だった。早く着きすぎたぼくは旅人が出てくる前にビールを2杯、3杯、そして4杯と、すっかり出来上がって彼を待つことになったのは当然のことだった。
 この晩の旅人は、映像作品『兵士A』での彼とは違って──というか、あのライヴが異常だったのだろう──ぼくが昔から知ってるあの旅人だった。冗談ばかりを言って笑わせて、ギターと歌で、彼の詩的な世界を繰り広げる。まさかジュークで踊るとは思わなかったし……初期の美しいラヴソング“息をのんで”を聴けたのは嬉しかったけれど、ぼく自身が自分でいちばん驚いたのは、あの、“兵士Aくんの歌”で涙が出て来たことだ。“Tender Games”を歌い終え、何の前触れもなくその歌が歌われたとき、昔ぼくの友人が言った、「東京オリンピックの開会式で、本来なら、憲法第九条を世界に自慢してやればよかった」という言葉を思い出した。

 じつはぼくは、梅津和時さんとのライヴを生で見るのは今回が初めてで、これはあとのほうで“スローバラード”のカヴァーでもやるんじゃないかという妄想をしてしまったのだが、もちろんそれは妄想に終わった。なにせ旅人には“Rolin'Rolin'”というキラーチューンがあるのだから。この曲を生で聴いたときのカタルシスは代え難いものがあり、この曲のビートはそれまでの3時間をあっという間に感じさせる。ライヴがはじまり3時間半が過ぎたあたりの最後に歌った新曲“素晴らしい人”は、彼のソングライティングの巧さ、歌作りの巧さが凝縮されたラヴリーな曲で、旅人の新しいはじまりを予告しているかのようだった。
 音楽はこれから本当に試されるだろう。正義なのか、そうじゃないのか。昨年末、紙エレキングで取材をお願いするとき、なんども彼の携帯に電話したのだけれど、ぜんぜん連絡が取れなくなった瞬間があって、どうしたんだろうと思ったら、いきなり夜中に電話があって、「ごめん、いま高江から戻っている最中で」と彼は言った。あ、この人の音楽はこれから先もずっと聴いていこう、とぼくは思った。

文:野田努