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やけのはら

Dream popRap

やけのはら

Sunny New Life

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

Amazon iTunes

竹内正太郎   Apr 17,2013 UP
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 ある季節を通り過ぎた後、ラッパーはどのように歳を取っていけばいいのか? そういった意味で、ここ数年におけるECDやイルリメの活動は、人工的なシンセ・ポップ『(((さらうんど)))』からsoakubeatsの挑発的なヒップホップ・ノワール『Never Pay 4 Music』まで、極端に言えばそれだけのふり幅のなかで今なお新しい表情を見せている。
 それはしかし、年齢的に、ある程度は対象化して考えることができる。が、それがやけのはらや七尾旅人となれば、話は違う。自分よりも少し早く生まれ、その分だけ早く音楽を愛し、その力を信じ、いまでいうスモール・ポップの時代が到来するのを牽制するかのように、盟友 Dorianとともにアンセムを次々とドロップ。いずれも七尾旅人との共演である"Rollin' Rollin'"や"Shooting Star"といった刹那のロマンティシズムは、移りゆく時代をインディペンデントで生きようとする人びとにとって、代えがたい道連れになったことだろう。
 ブッシュマインドとの共作、ゼロ年代屈指のドリーミー・ラップ"Day Dream"をひとつの到達点として、やけのはらは新しい季節に真夏の太陽を呼び込んだ。それが『This Night Is Still Young』だったし、"Good Morning Baby"だった。そこからすれば、本作『Sunny New Life』から聴こえる新しい言葉たち――太陽、キラメキ、リラックス、幸せ、未来、夢、光、希望、大事なもの――も、決して消費社会のパロディではないことがわかる(そういえば、やけのはらが連載を持つ『ポパイ』の最新号もハワイ特集だった)。彼は、リラックスしつつも前向きさを求めている。純粋に、意図的に、あるいはアンビヴァレントに――。
 そう、その前向きさは両義的だ。この『Sunny New Life』というアルバムには、前作で迎え入れた太陽が、水平線の向こうに落ちるのを見送るような、開放感と隣り合わせのメランコリーがある。落とし前としての、後日談。夏は終わった。仮にそれが、人が大人になることのメタファーで、"Shooting Star"や"Rollin' Rollin'"の輝きを忘れるこさえ意味するなら、そこが最初、微妙にしっくりこなかったのだが、先日公開された編集長によるインタビューを読み、腑に落ちた。ずばり、「人が大人になること」は本作の裏テーマであるらしい、と。

 今回は、新しさとか生活とか、統一したテーマで作りました。そして、「年を取っていく」とか「暮らしていく」とか、「大人になる」とか――「暮らしていく」っていうのは時間が経過していくから当然年を取るわけで。そこが裏テーマだったんですけど、それは誰にも指摘されてないですね。「大人になりましょう」っていうのを言ってるんです。interview with Yakenohara - ドリーミー・ラップ再び

 やけのはらは、だが、世間との距離を感じたままに大人になっていくことの違和感を捨てきれていない......ようにも見える。例えば、SAKANAの"ロンリーメロディ"ほどには――。キミドリの"自己嫌悪"の先に彼が求めたのは、人生の緩やかな肯定感、少なくともそこに漂う迷いや不安の払拭であり、そのムードはVIDEOTAPEMUSICの『7 泊8日』から転用されている2曲のリエディット、メロウ・アンセム"Blow In The Wind"(ceroの高城晶平が参加)と、平賀さち枝がふわふわのコーラスを添える"D.A.I.S.Y."(原曲は同作収録の"Slumber Party Girl's Diary")に顕著だ。
 悪戯にシリアスなわけではない。だが、『7泊8日』の持っていた企画性、そのデフォルメされた小旅行感は少しだけダウナーに、言葉の前向きさとは裏腹に、どこか神妙で切実なトーンに上塗りされている。トラックのサンプリングは軽量化され、隙間には言葉が詰め込まれる。もちろんやけのはらは、歌とラップの区別を曖昧にしたフロウをさらに滑らかに研磨し、アルバム全般に渡って軽快さを忘れない。
 それに、BETA PANAMAによるスティール・ギター、VIDEOTAPEMUSICによるレトロスペクティヴなサンプリング・アートとピアニカ、キセルの辻村兄弟、シーンのキーマンである MC.sirafuのスティール・パン、トランペット......などなど、さまざまなメンバーが本作の醸す脱力感の演出にひと役買っている。
 だが、"Shooting Star"や"Good Morning Baby"の頃の無根拠であるがゆえの前向きさは、もうないのかもしれない。それを嘆いていてはいけないのだろう。事実上のリード・トラックである Dorianとのアーバン・ソウル"City Lights"が象徴的で、PAN PACIFIC PLAYAからはお馴染みLUVRAWがトークボックスで参加しているが、好色さは抑えられ、都市生活者の夜をメランコリックに彩っている。そこには人生と対峙するやけのはらがいる。

 SAKANAのクラシック"ロンリーメロディ"へのアンサー・ソングとなったピアニカ・ポップ"Sunny New Days"や、やけのはらの社会意識が顕在化し、快速東京の福田哲丸も参加しているハードロック・ベースの"Justice against Justice"、SUIKA のMCである ATOMの未発表曲をカヴァーする形となったトロピカルな"IMAGE part 2"など、言及すべき曲は多いと思う。
 が、本作をやけのはらの「幸福論」として聴くなら、あるいは、快楽にノイズや混沌が伴っているか、という点で言えば、エンディングの"Where Have You Been All Your Life?"に尽きるだろう。ここでやけのはらは、リスナーに向けて直接的なコミュニケーションを試みる。瞬発的な祝福ではなく、聴き手の精神の近くまで丁寧に歩み寄っていく。できる限り言葉を尽くし、どこまでも優しく、サイケデリックに――。

 それは、より多くの人に言葉を届けるための、やけのはらの賭けであり、勇気だ。実際的な連帯ではなく、もっと緩やかな気分の繋がり。あえて言うなら、その言葉たちに、どこか余白が少ないように思えたことだけが心残りだ。それは、リスナーの想像力を信頼しきれていないことの裏返しとも言えやしないか。筆者が言うのではあまりにおこがましいかもしれない......だが、自分が育てたリスナーの耳をもっと信頼してくれてもいい。
 インタヴューでは、年齢が30を超えた、ということが何度か言及されている。そういえば、七尾旅人の"サーカスナイト"も、魔法が解けていく歌だった。ある輝かしい季節を、過去時制のなかに置いてくること。やけのはらは、アンチ・アンチエイジングとして、それを素直に受け入れようとしている。そろそろ大人になってもいい頃だ、と。そこには、3.11の影さえもがチラつく――。だが、その場所で語られる宙ぶらりんの夢があってもいいのではないか。何の根拠も出典も裏付けもいらない。誰に置いていかれても、僕らにはまだ音楽がある。

竹内正太郎