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Dorian

Dorian

Melodies Memories

felicity/P-Vine

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加藤綾一   Oct 05,2010 UP

 この、山下達郎の代表作『フォー・ユー』などのジャケットでもお馴染みの、80年代を代表するイラストレーター、鈴木英人のイラスト・タッチを模したドリアンのアルバム・ジャケットを初めて見たときは、これは往年のシティ・ポップへの憧れの情景を描いているのか、それとも彼らの世代による彼らなりのシティ・ポップを新たに獲得したという宣言なのか、そのどちらかなのではないかと、アルバムの内容に期待と不安を入り交じらせた。往年のシティ・ポップといえば、読んでその名の如し、土臭い生活感が滲み出るローカル・コミュニティを基盤とする60~70年代のフォークに相反する形で80年代に拡大した、都会的な享楽を描く歌謡音楽である。戦後の高度経済成長を経てきたことで生まれたこのジャンルは、プロダクションや演奏技術の洗練を背景に、和製AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)とも呼ばれ、高年齢層へと目配せをした結果、現実の写実よりも、空想に耽ることを主としたリリックも目立っていた。

 しかし、ドリアンといえば横浜を拠点とするクルー〈パン・パシフィック・プレイヤ〉周辺とも親交が深く、それこそ、「粗大ゴミをお宝に変える醍醐味」と路上の煌めきを掬い取ってラップするやけのはらとも多くの共同作業を重ねている。グローバリズムに浸食されるこの国のポップ・ミュージック・シーンに於いて、ローカルなコミュニティで活動するアーティストの代表格として知られている存在とも言える。多くのローカル・パーティの現場で、甘くメロウでトロピカルなディスコ・サウンドを鳴らし、幾度もの高揚を生み出している。そして、そこに集まったユースたちは週末の開放感を噛み締めている。だからこそ、ドリアンがシティ・ポップの世界観へ全面的に傾倒してしまったのであれば、自分を含め、彼の音楽をナイトクラビングのサウンドトラックとして楽しんでいたうだつの上がらないユースたちは戸惑うのではないかと。これが最初に書いた「期待と不安」のうちの「不安」である。

 ところどころベタなピアノ・ハウスがあり、全体的にウェルメイドな作りではある。が、洗練された都会の音楽というよりも、裕福ではない郊外の悪ガキたちが気心知れた仲間たちと夜の海岸線へと車で繰り出ような、一時の享楽を描いたミッドナイト・クルージングといった印象を感じる。シティ・ポップの享楽性とは違っている。代わり映えのない埃っぽい日常のなか、彼らはそれが一時的なものであることも十二分に理解しているのだろう。家に辿り着いた瞬間には、散らかった部屋を見て、一気に現実の世界に戻されることもままある。そんな灰色の現実からの脱出という逃避も、都会での生活への憧れも全て内包した上で、夢見心地なディスコの世界へと放り込んでしまう彼の音楽は、ナイトクラビングの醍醐味を伝えるパワフルさがある。
 アルバムの終盤のハイライト、七尾旅人とやけのはらが参加した"シューティング・スター"という曲では、「この一瞬のキラメキを/そう/永遠に信じよう」とやけのはらはラップしている。そう、これはたしかに、一瞬でも構わない、キラメキを獲得する為の音楽なのだ。これこそが、やけのはらのラップする「鳴り響くアーバン・ソウル」であり、この日本で生き辛さを感じながら生活する現代のユースによって刷新された、新たなシティ・ポップともいえるのだ。アルバムを聴き終えると、このジャケットが妙にしっくり来るのである。

 アルバムのベスト・トラックは、中盤に配された、70~80年代に活躍したアメリカの女性ソウル・シンガー、デニース・ウィリアムスの代表曲"フリー"のインスト・カヴァー。原曲で描かれている、開放感を謳歌するリリックはないけれど、シンセサイザーのレイヤーを重ねてダイナミックに描いたこのインスト・ヴァージョンを聴いているだけでも、穏やかな自由の歓喜を感じることができる。この曲を聴いて、今宵も一瞬のキラメキを獲得しに、夜の街へと繰り出そう。

加藤綾一