「Low」と一致するもの

 ミュージック・テープスを追っかけて早20年。1996年、初めてLAで見たショーはまだはっきり覚えている。アップルズ・イン・ステレオ、オリヴィア・トレマー・コントロール、そしてミュージック・テープスというラインナップだった。
 当時のミュージック・テープスのメンバーは、ジュリアン、アンディ(マシュマロー・コースト)、ジェレミー(ハック・アンド・ハッカショー、ニュートラル・ミルク・ホテル)。アップルズ・イン・ステレオは知っていたが、時間もわからないので、早めに来た。最初のバンド(=ミュージック・テープス)を見て、いままでにない衝撃を受けた。中心人物(=ジュリアン)は、バンジョー、ノコギリ、トランポリン、ギターなど様々な楽器(のようなもの)を演奏し、まるでチンドン屋と遊園地を合体させたようなカラフルなショーで、温かい気分になる。ショーが終わり、まったく会話にならないなりに(英語が喋れない)、どれだけ良かったか、衝撃だったかを説明し、向こうも全身で喜びを表現してくれ、気がついたら彼らの住むジョージア州、アセンスに来ていた。
 彼らと寝食を共にし、生活を知り、夢を具体的に語ってくれた。移動遊園地のサーカス・テントで、シアトリカルなショー(=オービティング・ヒューマン・サーカス)を実現すること。

 ミュージック・テープス(=ジュリアン・コスター)は、すでに5回以上、このオービティング・ヒューマン・サーカスを公演している。その間、ジュリアンは、ララバイ・キャロリング・ツアー、人の家でクリスマス・キャロルを演奏するツアーをしたり(著者は2回参加)(https://vimeo.com/33672614)、無音映画で演奏するワードレス・ミュージック・オーケストラにミュージックソウ奏者として参加したり(https://www.wordlessmusic.org/blancanieves-2012/)、ニュートラル・ミルク・ホテルのリユニオン・ツアーに参加したり(https://pitchfork.com/news/47783-neutral-milk-hotel-reunite-for-tour/)、ちなみに、ニュートラル・ミルク・ホテルの『In The Aeroplane Over The Sea』は1998年リリースに関わらず、10年後の2008年にはもっとも売れたヴァイナル・アルバムの6位に入り、『NME』ではオールタイム・ベストアルバムの98位にランクインしている。
 そんななか、ジュリアンは確実に自分のサーカス・プロジェクトを進行させ、去年の夏は、ハドソンリバー・パークでメリーゴーラウンドでのショーを開催した。

 今回はポッドキャストになって登場。たまたま地下鉄で、メンバーにばったり会い、今回のプロジェクトを教えてもらった。

https://www.orbitinghumancircus.com/

 エピソードは、10/12にスタート、2週間に1回水曜日に配信で、2月の末まで続く。11/9からツアーがはじまり、11/18にはNYにやってく来る。
「ジュニター(門番=ジュリアン)を中心に繰り広げられるオービティング・ヒューマン・サーカスの世界。神秘的に歌う鳥、トロンボーンを演奏する北極グマ、合法な時間旅行(いえ、本当に)、そして、並外れた展示達が貴方を迷わせる」
 2016年11月、周りの雑音から離れて、このマジカルな世界を体験してみよう。ジュニターの切ない摩訶不思議な世界は、現実の世界への新しいアイディアを届けてくれるようだ。

https://www.orbitinghumancircus.com/phone/the-music-tapes.html

Powell - ele-king

 パウウェル(ゴシップ誌風にいえば“テクの界次世代のスター候補”)の待望のデビュー・アルバムのタイトルは『スポート』で、死ぬほど単調な電子音、PCやiPhoneを叩きつけて破壊するかのようなインダストリアルなグルーヴ、アンダーグラウンド・ロックンロールと名付けられた瓦礫の音響、フランケンシュタインのためのDJミキシング……つまりここには、まったくスポーツらしさはない。
 先にリリースされた「フランキー&ジョニーEP」の“ジョニー”のPVはみんなでスイカを頭で割って喜んでいる。当方、先日頭の怪我で手術したばかりの身なので、あまり笑えないのだが、本当にアホだな~と思う。

 ちなみに「ジョニー」に参加しているジョニーは、ヘイトロック(HTRK)のジョニー・スタンディッシュである(あの身も凍えるようなダーク・サウンドのロック・バンドの女性ヴォーカリストだ)。
 パウウェルは、型にはまることがお嫌いなようだ。1994年の「Club Music EP 」で、これはちょとクラブ・ミュージックとは括られないのでは……という電子ノイズと疾走感を打ち出したかと思えば、そしてスティーヴ・アルビニの声をサンプリングし、アルビニから直に「私は地球上でもっともクラブ・ミュージックを憎んでいる。クラブ人間が大嫌いだし、連中の服装もやってるドラッグもみんな嫌いだ、私は君たちの敵だ」とメールされて話題になった「インソムニアック」は、しかし、実際のところパウウェルは、アルビニがいみじくもそのメールで記した「私が好きなエレクトロニック・ミュージックとは、クラフトワークやクセナキス、初期のキャバレ・ヴォルテールやSPKやDAFのようなサウンド」のほうに近いのである。(この件はファンの間で、アルビニはパウウェルを暗に評価しているからこういう表現をしたのではという議論にもなった)

 〈Modern Love〉や〈Blackest Ever Black〉、〈PAN〉や〈Mego〉などと音楽的にリンクしながら、パウウェルにはユーモアがあり、遊び心があり、ふざけているんだよな~。そのプリティ・ヴェイカントな感じがじつに良い。
 何はともあれ、わずか4枚のEPで注目され、〈XL〉と契約することになった大型新人のデビュー・アルバム『スポート』は、本国では10月14日発売。日本盤はボーナストラック(例の「インソムニアック」)付きで、11月16日に発売。確実に、今年のベスト・アルバムの1枚です。硬直したシーンにはこれぐらいふざけた音楽が必要でしょう!
 

The Pop Group - ele-king

 ザ・ポップ・グループが、35年振りのスタジオ・アルバムとなった『CITIZEN ZOMBIE』に続く、通算4作目のスタジオ・アルバム『HONEYMOON ON MARS』をドロップする。注目すべきは、1979年に発表され、いまなおポストパンクの名盤として語られる彼らのデビュー作「Y(邦題:最後の警告)」以来、37年振りにデニス・ボーヴェル(UKレゲエの最重要人物)とタッグを組んだことである。
 さらに、PUBLIC ENEMYの初期3作品のプロデュースを務めたプロダクション・チーム、ボム・スクワッドの一員であったハンク・ショックリーも3曲のプロデュースに関わっている。
 ボーヴェル曰く「再び彼らと仕事ができて、とても光栄だった。彼らは真に善悪を超越しているんだ」、とのこと。
 また本作のレコーディングとミックスは、2016年の初夏に、いくつかのスタジオに分かれて行なわれた。メンバーのマーク・スチュワートはこう語る。「これは造られた憎悪への反抗であり、異質なる遭遇とSF的子守唄で満たされた暗黒の未来への超音速の旅だ」

 『ハネムーン・オン・マーズ』は2016.10.28世界同時発売 / 日本盤ボーナス・トラック収録。日本盤ボーナス・トラックの“Stor Mo Chroi”は、アイルランドの伝統的な楽曲。バンドのメンバー全員でアレンジを施し、カヴァー曲として収録している。

HONEYMOON ON MARS / ハネムーン・オン・マーズ
1. Instant Halo / インスタント・ヘイロー
2. City Of Eyes / シティ・オブ・アイズ
3. Michael 13 / マイケル13
4. War Inc. / ウォー・インク
5. Pure Ones / ピュア・ワンズ
6. Little Town / リトル・タウン
7. Days Like These / デイズ・ライク・ジーズ
8. Zipperface / ジッパーフェイス (※1stシングル)
9. Heaven? / ヘヴン?
10. Burn Your Flag / バーン・ユア・フラッグ
11. Stor Mo Chroi / ストール・モア・クリー

Tr.11: 日本盤ボーナス・トラック

半野喜弘 - ele-king

 RADIQ名義(ベーシック・チャンネルのファンならPaul St. Hilaireとのコラボはいまでも記憶に焼き付いているでしょう!)や田中フミヤとのユニットDartriixなど、クラブ・ミュージックの領域においてはもちろんのこと、映画音楽の分野でも活躍してきたエレクトロニック・ミュージックの鬼才・半野喜弘。
 このたび、彼にとって初となる映画監督作品『雨にゆれる女』が、11月19日(土)よりテアトル新宿にて公開されることとなった。それに先がけ、11月5日(土)にCIRCUS TOKYOにて公開記念パーティ〈A WOMAN WAVERING IN THE RAIN〉が開催されることも決定している。映画と音楽というふたつの領域を横断する半野喜弘の現在を、目と耳の両方で体験してみてはいかが?

映画音楽の鬼才・半野喜弘 初監督作品
主演 青木崇高 × ヒロイン 大野いと

映画『雨にゆれる女』

RADIQ aka Yoshihiro HANNO 4年ぶりの主催!
映画『雨にゆれる女』公開記念クラブ・パーティ
“A WOMAN WAVERING IN THE RAIN”
開催決定!!

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パリを拠点に、映画音楽からエレクトロ・ミュージックまで幅広く世界で活躍し、ホウ・シャオシェン、ジャ・ジャンクーなど世界の名匠たちを魅了してきた音楽家・半野喜弘の監督デビュー作『雨にゆれる女』が11月19日(土)にテアトル新宿にてレイトロードショー
本作は、濃厚な色彩、優美な旋律、登場人物の息づかい……現代の日本映画には稀な質感の映像で紡ぐサスペンスフルな愛の物語。14年前のパリで、まだ俳優になる前の青木崇高と半野喜弘が出会い、いつか一緒に作品を作ろうと誓い合った。そして10年後の東京で2人は再会し、『雨にゆれる女』は生まれた。本作は今月末に行われる東京国際映画祭「アジアの未来」部門の日本代表に選出されている。

監督の半野は、ジャスやヒップ・ホップの音楽活動を経て、ヨーロッパで発表されたエレクトロニック・ミュージック作品で注目を集めたことを皮切りに、それらの活動が目に留まり台湾の巨匠・ホウ・シャオシェン監督『フラワーズ・オブ・シャンハイ』の音楽を手掛ける。その後ジャ・ジャンクー監督やユー・リクワイ監督、行定勲監督などとのコラボレーションを経て、ついに自らも映画製作に真っ向から携わることを決意。そんな半野の処女作とあって、その独自の映像表現に、坂本龍一、田中フミヤ、吉本ばなな、斎藤工、ジャ・ジャンクーからの絶賛コメントが届くなど、各界の注目をさらっている。

『雨にゆれる女』の公開を記念して、「I WANT YOU」から4年ぶりに半野喜弘主催のパーティー“A WOMAN WAVERING IN THE RAIN”の開催が決定! 音楽仲間が集結して、映画監督としての才能を開花させた半野を盛大に祝う!

“A WOMAN WAVERING IN THE RAIN”@CIRCUS TOKYO
■日時:11月5日(土)OPEN 23:00~
■場所:CIRCUS TOKYO(〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-26-16 第5叶ビル1F, B1F)
■出演者:RADIQ aka Yoshihiro HANNO
Neutral - AOKI takamasa + Fumitake Tamura (Bun)
Dsaigo Sakuragi (D.A.N.)
Taro
■料金:Door \2,000

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――出演者Profile
■Neutral
AOKI takamasa + Fumitake Tamura (Bun)、ふたりのアーティストによる不定形ビーツ・プロジェクト。両者の作家性の根底にあるミニマリズムを共有しながら、宇宙に揺らぐ波のように透明なサウンドの現象をキャプチャーする。
2015年1月、Liquidroom/KATAで行われたライヴ・セッションにて本格的に始動。
■Dsaigo Sakuragi
1/3 of D.A.N.
■Taro
90年代中盤に大阪でDJを開始。“TOREMA RECORDS”、“op.disc”などを手伝いながら現在にいたる。
■RADIQ aka Yoshihiro HANNO
パリ在住の音楽家/映画監督、半野喜弘によるエレクトロニック・ミュージック・プロジェクト。
ブラックミュージックを軸に多種多様なエッセンスが混ざりあい、野生と洗練が交錯する未来型ルーツ・ミュージック。

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【ストーリー】
本当の名を隠し、“飯田健次”という別人としてひっそりと暮らす男。人との関わりを拒む彼の過去を知る者は、誰もいない。ある夜、突然同僚が家にやってきて、無理やり健次に女を預ける。謎の女の登場で、健次の生活が狂いはじめる。なぜ、女は健次の前に現れたのか。そしてなぜ、健次は別人を演じているのか。お互いに本当の姿を明かさないまま、次第に惹かれ合っていくふたり。しかし、隠された過去が明らかになるとき、哀しい運命の皮肉がふたりを待ち受けていた――。

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★こちらのサイトor QRコードから映画『雨にゆれる女』ディスカウント・チケットをGET!
https://www.bitters.co.jp/ameyure/discount.html

劇場窓口にて割引画像を提示すると、300円引き!
(当日一般料金1800円→1500円、大学・専門1500円→1200円)
*1枚につき2名様まで *『雨にゆれる女』の上映期間中有効です。
*サービスデイ、会員など、ほかの割引との併用はできません。 *一部の劇場をのぞく。

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監督・脚本・編集・音楽:半野喜弘
出演:青木崇高 大野いと 岡山天音 / 水澤紳吾 伊藤佳範 中野順二 杉田吉平 吉本想一郎 森岡龍 地曵豪 / 十貫寺梅軒
企画・製作プロダクション:オフィス・シロウズ
配給:ビターズ・エンド
2016年 / 日本 / カラー / 1:1.85 / 5.1ch / 83分
©「雨にゆれる女」members
https://bitters.co.jp/ameyure/

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11月19日(土)より、テアトル新宿にてレイトロードショー!

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お問合せ:
パーティーについて:taro@opdisc.com
映画について:info@bittersc.co.jp

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Equiknoxx - ele-king

 〈ソウル・ジャズ・レコ-ズ〉が5年前にコンパイルした『インヴェイジョン・オブ・ザ・ミステロン・キラー・サウンズ(Invasion of the Mysteron Killer Sounds)』はザ・バグことケヴィン・マーティンとレーベル・ボスのスチュワート・ベイカーが当時のシーンからディジタル・ダンスホールと呼べる曲を掻き集めてきたコンピレイションで、伝統にも鑑みつつ、意外性にも富んだ内容となっていた。世の中があまりにも真面目すぎて気が狂いそうになる時はこれを聴くしかないというか。マンガちっくなアートワークも素晴らしく、いまだに文句のつけようがない。ただ、何がきっかけでこの企画が成立したのか、それだけはよくわからない。ディジタル・ダンスホールのピークはメタルとダンスホールが交錯した2001年を最後にリリース量は減るばかり。2011年に『インヴェイジョン~』がリリースされた後も、回復の兆しはどこにも見えず、カーン&ニークやゾンビーの試みも散発的な印象にとどまった。あるいはEDMと結びついたムーンバートン(というジャンル)が少しは目新しかったというか。すでにそれなりの知名度は得ていたディプロやウォード21をフィーチャーしていた『インヴェイジョン~』から、ほかに誰かルーキーが飛び出し、少しでもシーンを活性化させたかというと、そういうこともなく、そういう意味ではノジンジャ(Nozinja)しかアルバムを出さなかったシャンガーン・エレクトロや、実態はファベーラ・ファンクのミュージシャンが名前を変えて作品を提供していただけのバイレ・ファンキのコンピレイションと同じくで、「コンピレイションが出た時点で終わり」みたいなものではあった。それで内容はいいんだから大した編集力だとは言えるけれど(同作にこだわらなければもちろん一定の存在感を示したプロデューサーやMCはいる。MCスームT(MC Soom-T)やトドラ・T(Toddla T)、ミスター・ウイリアムズやスパイス、テリー・リン(Terry Lynn)、エンドゲーム(EndgamE)……ケロ・ケロ・ボニートやビヨンセ、サム・ビンガやジェイミー・XXもアルバムには取り入れていた)。

 要するにダンスホールというジャンルにはもう発展性は望めないのかなと思っていたのである。しかも、ギャビン・ブレア(Gavin Blair)とタイム・カウ(Time Cow)によるイキノックスは、最初はダンスホールを下敷きにしているとは思えないほどトランスフォーメイションが進行し、ダンスホールといえば陽気でハイテンションという枠組みからも逸脱していたために何が起きているのか僕にはわかっていなかった。ワールド・ミュージックは表現する感情が変わってきていると、それは自分でも書いてきたことになのに、先入観というのは恐ろしいもので、そのことに気づくまでに2カ月もかかってしまった。確か最初に「ア・ラビット・スポーク・トゥ・ミー・ウェン・アイ・ウォーク・アップ(A Rabbit Spoke To Me When I Woke Up)」を聴いた時はDブリッジ&スケプティカル「ムーヴ・ウェイ」のパクリかなと思ってしまったほど彼らの音楽はダンスホールと結びつかなかったのである(「ムーヴ・ウェイ」がダンスホールを取り入れてただけなんですけどね)。

「ああ、そうか」と思うと後はなんでもない。ダンスホールである。確かにダンスホールの要素がここかしこに見つかる。つーか、ダンスホールにしか聴こえない。それもそのはず、ギャビン・ブレアはビーニーマンを始め、スパイスやT.O.K.、あるいはダニエル“チーノ”マクレガーやティファなどジャイマイカのシーンに長いことかかわってきたプロデューサーで、いままでそれしかやってこなかった人物なのである。タイム・カウはケミカル(Kemikal)の名義で比較的最近デビューしたMCらしく、もしかして若いのかなと思って写真を眺めてみるけれど、とくに歳の差があるようには見えない。ふたりの役割分担もよくわからないし、レコード盤(限定でゴールド盤もあるらしい)には作曲のクレジットもない。録音は、古くは2009年に遡るそうで、ミスター・スクラフのジャケットなどを手掛けてきたグラフィック・デザイナーのジョン・クラウスがコンパイルしたものをデムダイク・ステアのレーベルが世に出している(ショーン・キャンティとマイルズ・ウィットテイカーもコンパイル作業にはかかわっていると記してある)。そして、それだけのことはあるというのか、やはり異質であることには変わりなく、「ポーリッジ・シュッド・ビー・ブラウン・ノット・グリーン(Porridge Should Be Brown Not Green)」になると何を聴いていたのか途中でわからなくなり、スネアの連打から始まる「サムワン・フラッグド・イット・アップ!(Someone Flagged It Up!!)」に至っては背景にダブ・テクノがそれとなく織り込まれ、ベーシック・チャンネルへのジャマイカからのアンサーといえるような面も出てくる(マーク・エルネスタスも気に入っているらしい)。

 アルバム・タイトルにも入っている「Bird」というのは、実際に鳥の声を模したような音作りにも反映はされているだけでなく、どうも彼らの音楽はダンスホールだけではなく、ソカにも大きく影響されているということを表しているようで、実際にアフリカン・ドラムとレイヴ・シンセイザーが絡む「リザード・オブ・オズ(Lizaed of OZ)」も耳慣れないサウンド・センスに仕上がっている。

 ここからまたダンスホールが……なんて。

Deep Medi 10 - ele-king

  去る10月1日、プロデューサーのマーラが2006年にスタートさせたダブステップ・レーベル〈Deep Medi Musik〉 のアニバーサリー・イベントが、彼のホームであるロンドンで開催された。
 多種多様なプレイヤーたちを紹介することにレーベルの目標は置かれ、その範囲はイギリスや同ジャンルのプロデューサーたちに収まるものではない。日本のエレクトロニック・ミュージックを代表するゴス・トラッドは、同レーベルからの諸作品で多くの注目を集め、〈Warp〉の看板ともいえるマーク・プリチャードやドラムンベースの鬼才、カリバーといった面々も、自身の顔のイラストがあしらわれた分厚い12インチをカタログに残している。そのサウンドをアップデートしているのは、若手のスウィンドルやカーン、グライム・シーンを支えるDJ、サー・スパイロらによるリリースだ。
 その飽くなき探究心を鑑みるに、先日、ジャイルス・ピーターソンの〈Brownswood Recordings〉からリリースした『Mirrors』において、ペルーで録音されたサウンド・マテリアルから幻想的な物語を作り上げたマーラ自身の魂は、レーベルに集うエネルギーと共にあると言っていいだろう。
 この夜のために総勢30名に登るDJやMCたちがひとつのステージに集結し、約1700人が入る会場のチケットも当然のごとくソールド・アウトだった。

Sir Spyro - Topper Top ft. Teddy Bruckshot, Lady Chann and Killa P - 2016

 オープン時刻の9時になると会場のエントランスには長蛇の列ができていた。ネットで買ったチケットの購入画面をスキャンし、厳重な荷物&ボディチェックをすませ、開始30分後に会場へ飛び込む。徐々に聴こえてくるのは、A/T/O/Sがシンガーを引き連れて放つ、悲哀に満ちたビートだ。サウンドシステムはヴォイドのインキュバスが設置され、重低音がまだ人がまばらなフロアに地鳴りを起こしていた。
 最初のDJであるサイラスと共に、リュックを背負ったドレッドヘアーのMCサージェント・ポークスもステージに登り、10年以上に渡ってロンドンのダブステップを支え続けてきた声を張り上げる。炎のような男だ。続くKマンがDJデックに立つ頃には、フロアは多くの人々で埋まり、〈Deep Medi〉のイラストを描き続けてきたタンニッジのプレイでこの日最初のリワインド(注:オーディエンスの反応が大きい曲を、DJが巻き戻して最初からプレイし直すこと)が巻き起こった。次の曲のメイン・シーケンスが流れた瞬間に上がる歓声とたくさんの拳。その曲がクラシックではなく今年リリースのこの曲であったことから、ベテランの彼もフロアとともに成長していることがうかがえる。

Dstrict - Drowsy - 2016

 日付が変わる頃には移動するのも困難なほどの数の人々で会場が溢れかえっていた。往年のファンから20代前半の若者まで、多くの世代が入り混じっている。
 ブリストル新世代を代表するカーン&ニーク、リーズ在住のコモドによるバック・トゥ・バックによって、会場はさらなる熱量で包まれた。ニークのシンプルでソリッドな選曲と、カーンのキラー・チューンとが相乗効果を生む。2012年の彼のレーベル・デビュー作である“Dread”がプレイされたとき、フロアは揺れに揺れた。コモドもそこに彼独自の変則的なトライバル・チューンを加えてうねりを生み出し、オーディエンスをロックし続ける。
 カーン&ニークと同じくブリストル出身のライダー・シャフィークが、ここではマイクを握った。ポークスの情熱的なパフォーマンスとは対照的に、彼はクールな立ち振る舞いで呪文を唱えるかのように淡々と言葉を紡ぎ、時に歪んだ声で低音を華麗に乗りこなす。クラブに舞い降りたダブポエットさながらのその姿は、奇しくもその日が命日だったMCスペースエイプに重なっても見えた。豊穣な才能とともに世代は確実に引き継がれているのだろう。続いてステージに上がった、ダブステップにファンクやジャズを持ち込んだ功績を持つシルキーとクエストのセットで、スウィンドルが流れた時も同じことを思った。

Kahn - Dread - 2012

 ゴス・トラッドとトゥルース、そこにマーラが加わって始まった2時15分からの怒涛の1時間、これは間違いなくこの日のピークだろう。マーラは自身のアンセム曲“Changes”でセットをスタートさせ、トゥルースが スクリームの“Midnight Request Line”をかけた時、フロアには狂気が渦巻いていた。僕の記憶が正しければ 、セット前半のゴス・トラッドの選曲はほぼ全てリワインドされていたように思う。“Babylon Fall”がかかったときの会場の一体感も素晴らしかった。
 ダブステップの定義が定まっていない頃に登場したゴス・トラッドのプロダクションは、計り知れない影響をUKのシーンに与え、マーラと初めて顔を合わせたときに彼が口にした「お前を日本に連れて行くから」のひと言は、日本でのダブステップのさらなる拡散に貢献した。人や情報の流れがトランスナショナルになった現在において、住んでいる場所や地域が個人の活動を遮るものではない。それを体現する一例がダブステップというムーヴメントであり、ゴス・トラッドのようなミュージシャンなのだろう。

Goth-Trad - Babylon Fall feat. Max Romeo - 2011

 これ以降も重低音は消えない。スプーキーとサー・スパイロによるMCにレディ・チャンとキラPを向かえたグライム・セット、レーベルの記念すべき第1作目である“Kalawanji” がリワインドされまくったクロームスターとジェイ・ファイヴのバック・トゥ・バック。ハイジャックとベニー・イルが“Cay’s Cray (Digital Mystikz Remix)”をプレイしたとき、終演間際であるにも関わらずフロアには多くの小さな火が灯っていた。

Fat Freddys Drop - Cay’s Crays (Digital Mystikz Remix) - 2006

 〈Deep Medi〉が作品をリリースし続けたこの10年の間に、ロンドンの音楽シーンには実に多くの変化が起きた。オリンピックの再開発などにより高騰した家賃のため、レコード店やクラブが閉鎖し、多くのプロデューサーたちがロンドンを離れている。最近では、ドラッグによる死亡事故が相次いだとはいえ、行政や警察の過剰に見える対応のもと、ロンドンの看板クラブであるファブリックの営業ライセンスが剥奪されてしまった。気のめいる出来事はこれからも続くのかもしれない。
 じゃあ、ここにはどんな希望がるのだろう。プレイの途中で、マーラはこんなことを言っていた。「〈Deep Medi〉は俺のものじゃない。いままで参加したプロデューサー全員のレーベルだ」。これは仲間に向けられた感謝の言葉であり、特定の中心を持たずに拡散していこうとする、ひとつの意思表示でもある。実際のところ、マーラは彼自身がレーベルに関わっていることを、2009年頃まで明らかにはしていなかった。この日のタイムテーブには彼の名前がなかったのだけれども、おそらくそれはそういう意図によるものだ。
 ここで先ほどのゴス・トラッドの例に視点を戻す。東京で実験を繰り広げていた彼がロンドンの地下室で産声を上げたばかりの音楽の一部になったように、世界のどこかで起きていることに関わることができるのは現在を生きる僕たちの権利だ。なんとかファブリックを救おうという活動もネットを介し世界規模で広がり、現在多くの支援金が集まっている。そして何より、10年前にロンドンで生まれたダブステップが今日も健在で、それを支えているのが、世界中でそこに耳を傾けている人々だということも忘れてはいけない。分断の風潮も至るところにある一方、確実に広がるこの水平の繋がりは、自分たちの人生を傾けることができる何かを守る大きな力なのだ。
 これからもダブステップと〈Deep Medi〉には夢を見させてもらおう。終演後、ゴミだらけになった会場でそう思ったのは僕だけだろうか。


yahyel - ele-king

 さあ、どうだ。やってやったぞ、こんちくしょう。先日こちらでもアナウンスしたヤイエル(yahyel)初のCD作品『Once / The Flare』だが、なんと、即完売だったそうである。おまけにApple Musicの「今週のNEW ARTIST」にも選出されたらしい。僕だけじゃなかった。みんなも「こりゃあイイ!」って思っていたんだ。僕は間違っていなかった。もうそれだけで十分だ……
 なんて満足していたら、今度は待望のデビュー・アルバムのリリースがアナウンスされた。全然十分じゃなかった。ヤイエル、これからである。アルバムはオーウェルの『1984』や『AKIRA』、『マトリックス』や伊藤計劃からインスパイアされたものになっているらしい。ヤイエル、冴えている。気になるデビュー・アルバムの発売は11月23日。それに先がけ、10月22日に開催される〈HOUSE OF LIQUID〉への出演も決まっている。
 まだちゃんと綴れないかもしれない。まだうまく発音できないかもしれない。でもみんな、もうかれらの存在は覚えたでしょう? 時は、満ちた。

限定CD即完も話題の新鋭
yahyel が満を持して放つ待望のデビュー・アルバム
『Flesh and Blood』発売決定!

日本人離れしたヴォーカルと最先端の音楽性、また映像クリエイターを擁する特異なメンバー編成で、今各方面から注目を集める新鋭 yahyel(ヤイエル)が、渾身のデビュー・アルバム『Flesh and Blood』のリリースを発表!

2010年代、インディを中心として海外の音楽シーンとシンクロするアーティストがここ日本でも次々に現れるようになったのを背景に、2015年にバンドを結成。今年1月には、いきなり欧州ツアーを敢行。その後もフジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉に出演し、METAFIVEのワンマンライブでオープニングアクトを務めるなど、着実にその歩みを進めていった。一方で、先週リリースされた初のCD作品『Once / The Flare』が、発売と同時に売り切れ店舗が続出する盛り上がりを見せ、Apple Musicが今最も注目すべき新人アーティストを毎週1組ピックアップし紹介する企画「今週のNEW ARTIST」にも選出されるなど、予想を遥かに上回る反響を呼んでいる。

yahyel - Once


『AKIRA』や伊藤計劃、ジョージ・オーウェル『1984』、『マトリックス』をインスピレーションに、ディストピア性を押し出した本作『Flesh and Blood』には、全10曲を収録。シングルとしてリリースされた「Once」や、昨年自主制作でリリースされた楽曲も、アルバム用に新たにミックスされたアルバム・ヴァージョンとして収録されている。マスタリングは、エイフェックス・ツインやアルカ、ジェイムス・ブレイク、フォー・テット、FKAツイッグスなどを手がけるマット・コルトンが担当している。

インターネットをはじめとする音楽を取り巻く環境の変化を、ごく自然に吸収してきた世代が、ここ日本でも台頭する中、際立ってボーダーレスな存在であるyahyel。現代のポップ・ミュージックの「いま」を鮮やかに体現するこの新星が放つ待望のデビュー・アルバムは、11月23日(金)リリース! iTunesでアルバムを予約すると、現在発売中のEP収録の「The Flare」がいちはやくダウンロードできる。

なお、yahyelは10月22日(土)に恵比寿LIQUIDROOMにて開催されるHOUSE OF LIQUIDへの出演が決定している。
https://www.liquidroom.net/schedule/20161022/30921/

label: Beat Records
artist: yahyel
title: Flesh and Blood
ヤイエル『フレッシュ・アンド・ブラッド』
cat no.: BRC-530
release date: 2016/11/23 WED ON SALE

【ご予約はこちら】
amazon: https://amzn.to/2dBcCcf
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002109
tower records: https://tower.jp/item/4366338/
iTunes: https://apple.co/2dx8RrM

yahyelオフィシャルサイト:https://yahyelmusic.com/
アルバム詳細はこちら:https://www.beatink.com/Labels/Beat-Records/yahyel/BRC-530/

Tracklisting
1. Kill Me
2. Once (album ver.)
3. Age
4. Joseph (album ver.)
5. Midnight Run (album ver.)
6. The Flare
7. Black Satin
8. Fool (album ver.)
9. Alone
10. Why

[今後のライブ]

HOUSE OF LIQUID
featuring live
Seiho
yahyel

featuring dj
Aspara (MAL/Lomanchi)
Licaxxx

2016.10.22 saturday midnight
LIQUIDROOM
open/start 24:00
adv.(now on sale!!!) 2,000yen / door 2,500yen[under 25, house of liquid member→2,000yen]

※深夜公演のため20歳未満の方のご入場はお断り致します。本人及び年齢確認のため、ご入場時に顔写真付きの身分証明書(免許書/パスポート/住民基本台帳カード/マイナンバーカード/在留カード/特別永住者証明書/社員証/学生証)をご提示いただきます。ご提示いただけない場合はいかなる理由でもご入場いただけませんのであらかじめご了承ください。(This event is a late night show, we strictly prohibit entrance of anyone under the age of 20. We require all attendees to present a valid photo ID (Drivers License, Passport, Resident Registration Card, My-number card, Special permanent resident card, Employee ID, Student ID) upon entry. For whatever reason, we will refuse entry to anyone without a valid photo ID.)

info: LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net

海外からの来訪者の増加傾向著しい日本の主要都市、東京と大阪。共に、多種多様な文化が集まり交差する拠点としても長らく日本の音楽シーンを牽引し続け、今やオーバーグラウンド/アンダーグラウンド問わず世界のシーンへと飛び出すアーティストたちを多く生み出している。そんな二都から現れた若手最注目株たちがなんと、2016年3回目の開催となるHOUSE OF LIQUIDにて大激突。


yahyel | ヤイエル

2015年3月に池貝峻、篠田ミル、杉本亘の3名によって結成。

古今東西のベース・ミュージックを貪欲に吸収したトラック、ブルース経由のスモーキーな歌声、ディストピア的情景や皮肉なまでの誠実さが表出する詩世界、これらを合わせたほの暗い質感を持つ楽曲たちがyahyelを特徴付ける。

2015年5月には自主制作のEPを発表。同年8月からライブ活動を本格化し、それに伴いメンバーとして、VJに山田健人、ドラマーに大井一彌を加え、現在の5人体制を整えた。映像演出による視覚効果も相まって、楽曲の世界観をより鮮烈に現前させるライブセットは既に早耳たちの間で話題を呼んでいる。

2016年1月には、ロンドンの老舗ROUGH TRADEを含む全5箇所での欧州ツアーを敢行。その後、フジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉ステージへの出演やMETAFIVEのワンマンライブでオープニングアクトを経て、9月に初のCD作品『Once / The Flare』をリリースすると、発売と同時に売り切れ店舗が続出。Apple Music「今週のNEW ARTIST」にも選出されるなど、今最も注目を集める新鋭として期待されている。

Tycho - ele-king

 サンフランシスコを拠点に活動するプロデューサー、スコット・ハンセン。彼を中心としたアンビエント・プロジェクトがティコである。かれらはこれまでも〈Ghostly International〉から『Dive』(2011年)、『Awake』(2014年)と話題作をリリースしてきたが、去る9月30日、新作『Epoch』が急遽iTunesにてリリースされた。これまでのかれらの特徴を引き継ぎながらも、様々なスタイルから影響を受けた新たなティコ・サウンドが打ち出された作品となっている。要チェックです!

・サンフランシスコを拠点に活動するティコ、
5枚目となるニュー・アルバム『エポック』を急遽配信にてリリース!

サンフランシスコを拠点にグラフィック・デザイナーとしても活動するスコット・ハンセンによるソロ・プロジェクトとして始まった、ティコ。
04年のファースト・アルバムのリリース以来コンスタントに作品を発表し続け、13年のTAICOCLUBで初来日、15年のジャパン・ツアーは即日ソールドアウト、そして今年のTAICOCLUBで帰還を果たすと会場には満員のオーディエンスが詰めかけるなどここ日本でもエレクトロ・アーティストとしては破格の人気を誇っています。

そんな彼らが、なんと急遽5枚目となるニュー・アルバム『エポック』を配信にてリリース!
今年に入ってから7月に突如新曲“Division”を公開するなどじわじわと動きを見せていた彼らですが、先日アルバム・タイトルにもなっている新曲“Epoch”を公開するとiTunes JPにて注目トラックに選出されるなど早くも話題沸騰。
今回のアルバムは過去作と同じくスコット・ハンセン自身が作曲とプロデュースをおこない、いままでのティコらしさを残しつつも新曲“Division”で展開した7/8のテンポなど複雑で繊細なサウンドが特徴。ロック、ダンス、エレクトロニックなどの幅広いジャンルからインスパイアされたティコの生み出す最新サウンドがふたたび世界を魅了します!

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ニュー・シングル“Epoch”はこちら:

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Download "Epoch" in The Ghostly Store:
https://www.theghostlystore.com/products/tycho-epoch-1

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“Division”はこちら:

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今作からZac Brown(ベース/ギター)と、ナイトムーヴスとしても活動しているRory O’Connor(ドラム)が加入した3人編成のバンド形態となっているので、より進化したライヴ・パフォーマンスも期待できそう。
来日公演の実現が待たれます!

■リリース情報
アーティスト:Tycho(ティコ)
タイトル:Epoch(エポック)
レーベル:Ghostly International / Hostess
価格:1,500円
絶賛配信中!

<トラックリスト>
1. Glider
2. Horizon
3. Slack
4. Receiver
5. Epoch
6. Division
7. Source
8. Local
9. Rings
10. Continuum
11. Field

ニュー・アルバム『エポック』iTunes大絶賛配信中!

【バイオグラフィー】
サンフランシスコを拠点に活動するスコット・ハンセンによるソロ・プロジェクト。彼はISO50という名義でグラフィック・デザイナーとしても活躍する。02年から音楽活動を始め「The Science of Patterns EP」、04年に1stアルバム『サンライズ・プロジェクター』、06年に00年代のエレクトロニカ・シーンで最大の影響力を持ったレーベル〈Merck〉より『パスト・イズ・プロローグ』をリリースし、一躍話題となる。11年に〈Ghostly International〉からリリースした『ダイヴ』がロングセールスを続けており、14年に2枚目となるアルバム『アウェイク』をリリース、そして今作からZac Brown(ベース/ギター)と、ナイトムーヴスとしても活動しているRory O’Connor(ドラム)との3人編成のバンド形態となっており、より進化したライヴ・パフォーマンスとなっている。TAICOCLUB'13で初来日、15年に初単独来日公演をおこない公演はソールドアウト、大盛況を収める。また、今年1月に『Awake (Remixes)』をリリースし、TAICOCLUB'16にて再来日した。そして9月、5枚目となる新作『エポック』を配信にて急遽リリース。

Frank Ocean - ele-king

あなたの表面に浮かぶ印
あなたのしみだらけの顔
傷ついたクリスタルが
あなたの耳からぶら下がって
あなたの怖れは 僕には計り知れなかった
僕は仲間たちには 共感できない
本当は 外側で生きたい
ここにいて 頭がおかしくなるくらいなら
むしろ僕のプライドを粉々に砕いた方がましだ
たぶん僕は馬鹿なんだ
たぶん僕は移動するべきなんだ
どこか落ち着けるところへ
二人の子供たちとプール
僕は臆病者だ
僕は臆病なんだ(★1)

 ポップソングが持つ、既存のフォーマットに絡め取られず、果てしなく自由であること。ルールで固められたホームの、遥か上空を浮遊すること。彼が臆病でないことは、このアルバムの作りを見れば分かる。彼は移動する。

 彼は内側から外側へ移動する。あるいは境界線を移動させ、外側を内側に引き入れる。しかし内側と外側は、見方ひとつで反転してしまう。

 17の名前が付けられたピースたちは、典型的なR&Bの楽曲の長さと比較して、不自然なほど長くてもいいし、逆に短くてもいい。それはシンガーソングライターのソロ・アルバムだが、必ずしも、常に歌声が聞こえていなくてもいい。ビートは、何らかのテンポを刻むが、ダンスフロア向けにチューニングされていなくてもいい。それが、外側で生まれたこのアルバムの色。歌モノのクリシェの外側へ、彼が移動することで拾い上げた、ブロンド色。

 何かを拾い上げたということは、何かを捨てたということだ。フランクが捨てたものたち。そのひとつ。バックビートに打ちつけるスネア。もしくはバックビートをひとつのカテゴリとするビートそのもの。現代的なR&Bの世界の内側がこれまで共有してきたバックビートを疑うこと。結果、中盤から後半にかけて、スネアとキックなき楽音がビートを刻むプリミティヴな風景が展開する中、途中キックとスネアの世界観に回帰する“Close To You”のどこか牧歌的な響き。

 一拍目のキックで沈み込む身体を引き上げるスネア。抑圧された欲望を解放するクラップ。言い換えれば、目の前のあなたを抱き締めることの、あるいは殴りつけることの表象としてのスネア。これらのクリスピーな因子たちを沈黙の沼の底に放置することで、示す、反動。

 あるいはぶつ切りにされ、突発的に挿入されるコラージュのサウンド・ピース群。ティム・ヘッカーやOPNが弄ぶ時空の歪みが、随所に配置された60分超の音の連なり。たとえば“Nights”や“Godspeed”の曲中で肌触りが異なるピースが導入されたときの、あなたの驚きの表情、あるいは好奇心に満ち、仄かに潤んだ瞳の輝き。カーテンが引かれる動作とともに、突然喜怒哀楽の価値が入れ替わったり、心地よさの定義が転覆されたりする世界。

 尺の長い曲と短い曲のふるまいの、圧倒的な差異。まずは、長い曲。弾き語りの楽曲は裸体だ。その裸体に、どのように布をあてがって、隠しながら曝け出し、ラインを強調し、あるいは輪郭を霧で包むかを探求しているのが、フランクのプロダクションだ。ドライな音場でピアノやギターに伴奏される彼の歌声は、あなたが手を伸ばせば、触れられるほど、そこにある。一方で、深い残響音の支配する音場で、彼の歌声は、あなたの目が届かないところまで離れゆく。リヴァーブやディレイは、あなたとの距離を測る物差しだ。いや、そもそもラヴ・ソングというもの自体が、あなたと誰かの距離を測る観測機なのだから、フランクが投げかけるサウンドの肌触りに、あなたは素直に近さや遠さを感じればいい。

 次に、尺の短い曲。たとえば、アンドレ3000のライムで埋め尽くされた“Solo (Reprise)”。フランクはどこで何をしているのか。そこにあるのは、アンドレのライムと、フランクの不在を証明するビート。不在のピアノコード。彼を象徴する歌声を不在とすることのオーラにより、逆に存在感を強調すること。マイルスがトランペットを置いて、オルガンを叩いた“Rated X”のように。セカンド・アルバムにして、すでに不在でいられることへの驚嘆。

 マガジン付属版のオープニングを、加工したヴォイスと日本人のラッパーのライムで飾ること。「君たちを預言者にしてあげる/まずは未来を見てみよう」と歌うフランクに、「今しかない時間/大事にしな/何憶万人も/いい人ならいるよ」と返答するKOHH。逆にKOHHのヴァースの「誰かのことを/誰も縛れはしない/他人の心」というラインに、フランクはアルバムを通して対峙している。人はそれぞれが、他人には計り知れない「怖れ」を抱えている。

 2012年、フランクは4つ前の夏の記憶、つまり19歳のときの夏の記憶をネットで世界に向けてカミングアウトした。彼は、自分と同じ19歳の青年を前にしたその時の状況を「絶望。逃げ場はない。その感情とは交渉の余地はなかった。選択の余地もなかった。それが初恋だった。それが僕の人生を変えた」と記した。

1942年生まれ、ニューヨークはハーレム育ちのアフロアメリカンでゲイのSF作家、サミュエル・R・ディレイニーは、ダナ・ハラウェイの「サイボーグ宣言」を批判する論考である「サイボーグ・フェミニズム」の中で次のように述べている。

ひとつの立場から、私は読む。
ひとつの立場から、私はこの読みかたには何かが欠落しているように思う。
かくて、私はひとつのテクストを──テクストのシミュレーションを──ひとつの立場からもうひとつの立場へ手渡す。私のものとはいいがたい借りものの立場から、あなたのものともいいがたい立場へ。このテクストは私のところへ回ってきたが、あなたもまたこれを誰かに手渡すだろう。(★2)

フランクがこのアルバムで模索し、示そうとしているのは、過去に描かれたことのない、歌と、感情と、愛と、人間のあり方だ。かつてディレイニーが僕たちの外側の生物/機械や世界を描いたテクストで、それらを探究したように。フランクは、外側との境界線を軽々と跨ぎながらも、友人や恋人との関係を通して、人は自己の意識の内側、そして皮膚の内側に留まらざるをえないという事実を繰り返し突きつけられる。そして“Be Yourself”ではロージー・ワトソンによってピア・プレッシャーの無化が諭され、“Solo”では「So low」な自身の内側において、孤独=soloであることの高み=ハイになることのポジティヴネスが探られる。

しかしフランクが“Nikes”という楽曲において、ひいてはこのアルバムにおいて証明していることがある。70億の二乗で示される組み合わせから、28歳のルイジアナ育ちのLAのシンガーと、26歳の王子のラッパーのヴァースが連結されることで、何が見えるのか。その、目も眩むような、確率の脆弱さ。そして、その吹けば飛んでしまいそうな確率が生き延びたことで現れた、外側と内側を重ね合わせることで生じるランドスケープの新奇さ。そして、あなたは気付くかもしれない。あなたの日常における他者との出会いも、実は、このように新奇な風景を更新しているのだという事実に。それぞれの怖れは個別のものでも、その怖れから生まれる言葉は共有されうる。他人の内側の怖れは共有できずとも、その怖れから生まれた言葉=テクストは他者に手渡され、外側で書き足され、組み合わさる。その組み合わせに、賭けてみること。

一光年の距離はどのくらいだろう

アルバムはこの言葉で締め括くられる。フィーチャリング・ゲストを単純に並べただけではない、言葉の組み合わせ。ケンドリック・ラマー、ビヨンセ、アンドレ3000、KOHH、ジェイムス・ブレイク、キム・バレル、セバスチャン、そしてフランクの弟や友人の家族、つまり他者の言葉=テクストが有機的に、しかし都度交わらない確率に晒されながら組み合わされたアルバムの、最後のライン。アルバム最後の曲“Futura Free”は、メインの楽曲の後、途中40秒間の空白を挟んで、ノイズ塗れの会話群がコラージュされる。その中で、最後に聞き取れる言葉。ひとつの問い。アフロ・フューチャリズムの想像力が、現在の方向に折り畳む未来。折り返された現在にプロットされた未来が、あるアーティストや作品に、突如として、顔を覗かせることがある。

ディレイニーは、前述の引用部に引き続き、次のように記している。

おそらく、それは移行に関するシミュレーションにほかならない。
読むことによって、我々はそれを食い止めるのだろうか?
読むことによって、我々はそれとともに歩むのだろうか?(★3)

フランクは、移動の目論みをこのアルバムに落とし込んだ。あなたは、このアルバムをどう読んでもいい。いかようにも解釈して、あなたの言葉=テクストを付け加えてもいい。そのために、“Futura Free”の40秒間の空白が、あなたを待っているのだから。

★1:フランク・オーシャン『Blonde』(2016年)より“Seigfried”。
★2、3:巽孝之編『サイボーグ・フェミニズム』2001年、水声社。

吉田雅史

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大勢が僕たちを嫌ってるし、僕たちが存在しなければいいと願っている
──フランク・オーシャンのタンブラーより

 6月12日の夜は眠れなかった。フロリダ州オーランドのゲイ・クラブで49人が殺された銃乱射事件の続報を次々に追っているうちに気がつけば朝になり、精神的にすっかり参ってしまったのだ。そのひと月前にたまたまゲイ・クラブに遊びに行っていた僕は、自分が被害者になるところを……ホモフォビアの凶悪犯に殺されるところを想像した。あるいは逃げ惑う自分を。それから少し経って、犯人がクラブの常連であったことからゲイもしくはバイセクシュアル男性であった可能性が高い(というか、確実にそうだろうと自分は思う)ことが報じられると、いっそういたたまれない気持ちになった。僕は自分が加害者になるところを……自分が同性愛者だと受け入れられず、自己嫌悪とルサンチマンに駆られてホモフォビアに囚われる自分を想像した。自分が被害者にも加害者にもなりえる世界に、いまなお生きている現実を突きつけられた気分だった。そして考えても詮ないことが頭をよぎった。犯人は、フランク・オーシャンの『チャンネル・オレンジ』を聴かなかったのだろうか……と。

 『チャンネル・オレンジ』は、オーシャンが自分の失恋を赤裸々に綴り、歌うことでそれを乗り越えていこうとするところで終わるアルバムだった。そうして自分の恋を葬送し、自身を受け入れる作業でもあった。“フォレスト・ガンプ”……それはラヴ・ソングにおいてはごくありきたりの失恋の物語だったはずだが、青年が青年に抱いた恋心について描かれていたために、ブラック・ミュージック/ポップ・ミュージックを更新する1曲と「なってしまった」。彼自身は自分の表現において、自分自身に正直でありたかっただけだ。社会に何かを強く訴えるとか、自分がきっかけとなるとか、そういうことは優先して考えられていなかったはずだ。僕もあの曲を、あのアルバムをそう捉えていた。
……だから、オーランドの銃乱射事件からしばらく経って、冒頭で引用したメッセージをオーシャンが事件を受けて発表したとき、僕は少し驚くとともに鋭く胸を突かれたような気がした。迷うことなく、「We」「Us」という人称を使っていたその熱のこもった文章に。その時点で発表されていた新作のタイトル『ボーイズ・ドント・クライ』──ザ・キュアーの引用──がどうして複数形なのかようやくわかった。それは反語だ。「僕たち」は、いつだって泣き続けているのだと。僕がフランク・オーシャンを聴いているといつも感じるのは、マイノリティとはたんに人数が少ないということや「属性」のことではない、ということだ。

 散々待たされてようやく発表されたヴィジュアル・アルバム『エンドレス』、そしてそれに続いた『ブロンド』は、「We」「Us」についての作品集だ。虚実入り乱れるストーリーテリングを特徴としていたそれまでの作風に比べ、より内面的で、よりパーソナルな度合いが高まったとされるが、自分には聴けば聴くほどに「僕たち」や「わたしたち」の音楽に思えてくる。膨大かつ多岐にわたるコントリビューター/インスピレーション元のリストのせいもある。ジャンルをやすやすと越えて行き来する音楽性によるところもある。よりエモーショナルな声で歌われている痛みや傷が、とことん赤裸々であるがゆえに生々しいからでもあるだろう。たとえば1曲め、“ナイキス”──あまりに感傷的で、あまりに美しいオープニング・ナンバー──ではエフェクトのかかった声が「RIP トレイヴォン」と告げる。もちろん、銃殺されたトレイヴォン・マーティンのことだ。「RIP トレイヴォン、僕みたいなニガー」。このナンバーのエクステンデッド・ヴァージョンでは、そして、KOHHのラップに引き継がれる。あるいはまた、タイラー・ザ・クリエイターとファレル・ウィリアムスがクレジットされている“ピンク+ホワイト”では涼風を感じるようなスムースな演奏に乗せて自身の生い立ちが綴られているが、それは後半ビヨンセとの現在のポップにおいて最高にリッチで眩しいコーラスとなって表現される。また、ギターの弦の震えが優しげな“スカイライン・トゥ”では夏の記憶がケンドリック・ラマーの客演をさりげなく加えながら映し出される。イントロのキーボードの響きがいかにもフランク・オーシャンらしいバラッド“ホワイト・フェラーリ”ではビートルズの“ヒア、ゼア・アンド・エヴリホウェア”が、“ジークフリード”ではエリオット・スミスが引用されている。それらは彼自身が想いを寄せてきた/寄せているアーティストたちやミュージシャン、シンガーが総動員されたものであり、彼の内面世界に溶け込んでいる。これまで以上にR&Bやソウルの囲いをあっさりとはみ出る音楽的な幅広さにかかわらず、統一感があるのはそのためだろう。そもそもアートワークがヴォルフギャング・ティルマンス──90年代のアンダーグラウンド・ゲイ・カルチャーを現代アートの領域まで拡張したドイツの写真家──だという時点で、フランク・オーシャンというひとがアメリカのメインストリームにおけるブラック・カルチャーの枠を大きく外れた感性のひとだということがわかる。
 叶わなかった恋、ドラッグ、SNS時代における虚しいリレーションシップ、子ども時代の記憶と肉親への想い、ポップ・スターとしての空虚さや孤独……『ブロンド』における音楽的/文化的な折衷性や多層性は、フランク・オーシャン自身の感傷を中心としてかき集められたことによるものだ。それは彼の弱さや正直さからできている。ポップ・スターもアンダーグラウンドの新鋭も、肌の白いひとも黒いひとも黄色いひとも、生きているひとももう死んでしまったひとも召喚されて、ここで息を吐き出したり音を鳴らしたりしている。オーシャンの心の震えが、それら大勢の人間の表現と少しずつ共鳴している。その、少しずつ、という感覚こそがフランク・オーシャンのポップ・ミュージックだと思える。彼の音楽にとっての「僕たち」とは、彼が説明されるときにしばしば言われる「ゲイもしくはバイセクシュアル男性」、ではない。たくさんの、本当にたくさんの人間たちの吐息のことだ。

 このアルバムのムードを端的に示しているのがラスト2曲だろうか……とくにビートレスの“ゴッドスピード”は出色だ。ゴスペルのコーラスは、しかしカットされ、ときにピッチシフトされてどこかしら不完全でいびつなものとして響いている。それにどこまでもセンチメンタルな鍵盤と歌──存在しなければいいと願われている僕たちが、しかしそれでも存在していること。多様性やダイヴァーシティなんて言葉を政治家が声高に叫ぶ現在において、それでも行き場所を見つけられない人間たちの逃げ場所が『ブロンド』だ。いまこのときも燃えさかる憎悪を一瞬だけでも忘れられるように、そこでは少しばかり苦しそうに、だが慈しみをこめて、「I will always love you」と歌われている。

木津毅

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DJ WADA (Dirreta) - ele-king

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DJ WADA - Garden (sample) c-90+DL CODE

from Field Of Mouth Records

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