「Low」と一致するもの

パーソナルなの? 地球規模なの? - ele-king

 ミステリー・ジェッツ……あのミステリー・ジェッツだ。「テムズ・ビート」なんて呼ばれて親しまれたあの頃から時が止まっているひとは驚いてしまうかもしれない。コンスタントにリリースをつづけてきた彼らだが、1月に発売される新作『カーヴ・オブ・ジ・アース(Curve of the Earth)』ではスケールを増しているどころではない。その一端を先行シングルのヴィデオにて確認することができるだろう。彼らがフォーカスする生命の神秘とは──?

UKロックの異端児ミステリー・ジェッツが先行シングル「Telomere」のビデオを公開!
ミステリー・ジェッツ結成史上、最高傑作『カーヴ・オブ・ジ・アース』は来年1月15日発売!

今作ビデオはUNKLE「Hold My Hand」やフォクシーズ「Youth」を手掛けたジェームズ・コープマンが監督を務めています。今作ビデオでは生物の染色体の末端を保護する役目を担い、細胞老化に影響を与えるTelomere(テロメア)という生命の神秘をテーマを女性ダンサーとボーカル/ギターであるブレイン・ハリソンが泥に塗れながらエモーショナルに歌い上げている。

シングル「Telomere」に関して、作曲を担当したボーカルのブレイン・ハリソンがコメントを寄せている。「昨年の冬にスタジオを離れて、テムズ川に停泊するボートの上で1週間滞在していたんだ。携帯電話も通じない、TVもない場所で幾つかの本を持ち込んでた。そうした中、「全ての苦境や栄光は僕らの血の中に流れ生きている」というミラン・クンデラの祖先に関する本の中の文章に出会ったんだ。Telomere(テロメア)は僕らのDNAの末端にあるキャップ状のもので染色体を保護している。まるで靴ひもの先端の部分の様にね。 そして、それらは染色体の秘密を保持させ、究極の永続性を得る為のものだ。僕はこういった決して理解できない生命と死という共依存関係にあるアイディアが好きなんだ。ヘンリーと僕がこのような表現主義のアプローチで歌詞を書いのは今回初めてになるね。これは僕らのリスナーが点と点を繋ぐ事ができる良い機会になると感じたし、同様に映像作家にこの曲のビデオを依頼する時にこのアイディアを使ってもらう事にしたんだ」。

Mystery Jets - Telomere

ミステリー・ジェッツ史上最もパーソナルで完成された最高傑作と呼び声も高い彼らの最新アルバム『カーヴ・オブ・ジ・アース』。先月に開催されたHostess Club Weekenderにて新作アルバムの楽曲を最初から最後まで演奏するというスペシャルセットを披露、未公開の楽曲をライブで初体験でき日本のファンも大いに盛り上がりました。バンド本人達もライブ後に「日本のオーディエンスは最高だよ。未だ聞いた事の無い音源なのに楽しんで受け入れてくれたようだったね。」と手ごたえを感じていました。

2012年にリリースされた『ラッドランズ』以来3年振りとなる最新作『カーヴ・オブ・ジ・アース』は2013年夏と2015年夏の2回に分け ロンドンにてレコーディングされた。ボーカリストであるブレイン・ハリソンが行ったテムズ川河口に ある隔離された小屋でのセッションに加え、東ロンドンにあるボタン工場跡地に自らのスタジオを建てアルバムを完成させた。プロデュースは共にスタジオを建てた、マシュー・スウェイツの手助けを受け、バンド・メンバーであるブレイン・ハリソン、ヘンリー・ハリソン、ウィリアム・リース、ドラマーであるカピル・トレヴェディ、そして新規加入のベーシスト、ジャック・フラナガンの全員で制作されており、ミステリー・ジェッツ史上最もパーソナルで完成された最高傑作と言えるだろう。

■新作情報

アーティスト名:Mystery Jets(ミステリー・ジェッツ)
タイトル: Curve of the Earth(カーヴ・オブ・ジ・アース)
海外発売日:2016/1/15(金)
レーベル:Caroline / HOSTESS
品番:HSU-10058

【トラックリスト】
1. Telomere
2. Bombay Blue
3. Bubblegum
4. Midnight’s Mirrior
5. 1985
6. Blood Red Balloon
7. Taken by The Tide
8. Saturine
9. The End Up
10. Spiralling (日本盤ボーナストラック)
11. Kickass (日本盤ボーナストラック)
※日本盤はボーナス・トラック2曲、歌詞対訳、ライナーノーツ付
新曲「Telomere」iTunes配信スタート&アルバム予約受付中!

■バイオグラフィ
ブレイン・ハリソン、ウィリアム・リース、カピル・トレヴェディ、ジャック・フラナガン、ヘンリー・ハリソンからなるUK出身ロック・バンド。2006年にはフジロックにて初来日。80's、プログレッシヴ・ロック、サイケデリック・ロックと全ての良いとこ取りをしたようなキャッチーなサウンドでここ日本でも高い人気を誇る。2010年6月には名門レーベル〈ラフ・トレード〉移籍後初となるサード・アルバム『セロトニン』をリリース。そして12年4月、オリジナル・メンバーであるカイが脱退するも通算4作目となるアルバム『ラッドランズ』をリリースしHostess Club Weekenderで来日。15年11月、新メンバー、ジャック・フラナガンを迎え入れ5枚めのニュー・アルバム『カーヴ・オブ・ジ・アース』を2016年1月15日にリリース予定。2015年11月にHostess Club Weekenderにて3年ぶりの来日を果たした。

札幌のギター・ポッパーたち - ele-king

 日本のインディ・シーンが見えないところで地殻変動をはじめているかもしれない。このアルバムを聴いてそう思った。
 欧米ではあたりまえのように、過去を掘り起こし参照しながら新しいバンドが登場してくる。パンクにせよ、ギター・ポップにせよそのフィールドにいるなら知らなければいけない数多くの名盤の上に新作が連なってゆく。それがまたオーディエンスにフィードバックされながらシーンが形成され、受け継がれてゆく。

 日本で継続的なシーンが生まれてきづらいのはそのあたりに理由があるとつねづね思ってきた。しかしいま、地方のローカルなコミュニティから飛び出してくる20代前半のバンドはそのサウンドも活動のスタンスも、これまでとはちがった価値観を持っている。

 札幌を拠点に活動するTHE SLEEPING AIDES AND RAZORBLADESは、僕が深く関わっているレーベル〈KiliKiliVIlla〉から今年アルバムを出したNOT WONKに多大な影響を与えている。どちらのバンドにも共通しているのは貪欲なまでに音楽を追求する姿勢だ。彼らは自分が生まれる前の音楽でもほんとによく知っている。70年代のパンク、80年代のギター・ポップ、90年代のUK/USそれぞれのインディ・シーン、僕らレーベルのスタッフとバンドが集まると、いつもそんな話ばかりしている。それがほんとに楽しいのだ。30歳ちかい年齢差があるにもかかわらず。

 90年代生まれの彼らが60年代から90年代まで、それこそT・レックスからプライマル・スクリームまで楽しみながら引用、カヴァーしている様子からは音楽好きのあるべき正しい姿を感じる。このアルバムを聴くと世界各地のローカルなインディ・バンドから、ギター・ポップ、パンク、ニュー・ウェイヴまでを連想させる、きっと彼らは毎日音楽の話ばかりしているにちがいない。
 そうやって自分たちが愛してきた名曲、名盤をオーディエンスに伝えようとしている。いやもしかしたら彼ら自身がわかってくれるオーディエンスを見つけようとしているのかもしれない。まるでニッキー・サドゥンのようなヴォーカルの歌声から筆者が勝手に想像しただけなんだが。

 景気の低迷も音楽業界の構造の変化も、彼らにとっては当たり前の日常として、ロックを聴きはじめたときからあったものだし、むしろどうでもいい人たちがまったく入ってこない歓迎すべき状況なのかもしれない。彼らのようなバンドが自分たちのできること、やりたいことを工夫しながら実現していくことがひとつのアティチュードの表明でもあるはずだ。

 特筆すべきは、このアルバムの取り扱いは全国の専門店だけでなく個人で商品を仕入れてライヴ会場や友人関係に販売する個人ディストロとネット・ショップが販売の中心となっている。こういうかたちでシーンに参加することも可能だし、それが地域のコミュニティの活性化にもなり、また各地に散らばるコミュニティを結び少しずつ広がってゆく現象が起きているのだ。音楽を配信とYoutubeでしか聴かない人にはけっして届かないだろうが、ロックやパンクに特別な夢を見ている人は自分でたどりついてほしい。このアルバムを見つけた人同士は絶対に話が合うはずだから。

 アナログ盤にちゃんとプレスされたCDが封入されて税込で2,000円! 世界を広げてくれるかもしれない買い物としては安いはずだ。

(与田太郎)

THE SLEEPING AIDES AND RAZORBLADES
FAVORITE SYNTHETIC

DEBAUCH MOOD
品番:BEBAUCH-009
https://debauchmood.blogspot.jp

THE SLEEPING AIDES&RAZORBLADES
/ MY STRANGE HEADACHE


名曲“luck”や“feather”がアナログ盤に - ele-king

 もはや説明不要な存在だろうか。ベッドルーム・エレクトロニカのユニークな才能、サーフ(Serph)の代表曲がアナログ盤になるらしい。「なるらしい」というか、これはクラウドファンディングを利用した企画で、アナログ盤に「する」のはわれわれだ。
 プロジェクトの概要によれば、ファンに人気の高い、かつサーフ本人も代表曲と認める“feather”“luck” “circus” “missing”が収録され、これはサーフ自らがリアレンジ。2曲ずつ2枚の7インチというかたちでの制作となる模様だ。もちろん河野愛によるアートワークは今回も際立った幻想性と抒情性をたたえている。ダウンロードコードも封入。
 なんでもタダな昨今にあってはアナログ盤など贅沢品であることにはまちがいないが、そもそも音楽が贅沢品でなくてどうしよう? おカネの問題ではない、いくらだろうがタダだろうが、音楽が贅沢でわくわくさせるものであることを、こうした心のこもったパッケージは思い出させてくれる。

【Serph代表曲アナログレコード化プロジェクト】
■クラウドファンディング・プラットフォーム:CAMPFIRE
■プロジェクトURL: https://camp-fire.jp/projects/view/3839
■募集期間:2015年11月1日 ~12月15日(45日間)
■目標金額:750,000円

収録曲より

Serph - feather (overdrive version)

Serph - luck (darjeeling version)

■Serph / サーフ
東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。
2009年7月にピアノと作曲を始めてわずか3年で完成させたアルバム『accidental tourist』を発表。以降、4枚のフルアルバムといくつかのミニアルバムをリリースしている。最新作は、2015年4月に発表した『Hyperion Suites』。
2014年1月には、自身初となるライブ・パフォーマンスを単独公演にて開催し、満員御礼のリキッドルームで見事に成功させた。
より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクトReliqや、ボーカリストNozomiとのユニットN-qiaのトラックメーカーとしても活動している。
https://soundcloud.com/serph_official


Future Brown - ele-king

 〈ハイパーダブ〉からのリリースでも知られるファティマ・アル・カディリ。LAのビート・ミュージック・デュオであるエングズングズのダニエル・ピニーダ&アスマ・マルーフ。シカゴ・ジュークの天才児Jクッシュ。この4人によるプロデューサー集団、フューチャー・ブラウンが来日する。今年の頭に〈ワープ〉よりリリースされたファースト・アルバムでは、グライム、ジューク、トラップ、ゲットー・ハウスなどが起こす鮮やかな音の化学反応が大きな話題を呼んだ。アルバムには多くのMCが参加していたように、今回の来日講演にはMCのローチ―が4人とともにステージに上がる。ファティマ・アル・カディリは去年も日本へやってきたが、フューチャー・ブラウンの来日は今回が初となる。スーパー・グループのセットを是非体感してほしい。


 いまや『ローリング・ストーン』誌も「いまや新しいブルックリン」と評価するアイスランドのエアウェイヴスに今年も行って来た(最近では、ジョン・グラントも引っ越した!)。たしかにレイキャヴィック(アイスランドの首都)のサイズは、ブルックリンのウィリアムスバーグぐらい。
 で、今年、ローカルで良かったバンドを思うがままに挙げてみると……


dj. flugvél og geimskip


bo ningen

 グライムスやコンピュータ・マジックのアイスランド版とも言えるdj. flugvél og geimskip(DJエアロプレインとロケットシップ)に、レイキャヴィッカダートゥア(発音できない……)は革命を起こしたい女の子10人のラップ・グループで、とにかくかわいい。2、3本のマイクを10人で次々にパスして行くのですが、間違えて違う人に渡したりしないのかなぁ、と素朴な疑問を抱いてみたり。ピンク・ストリート・ボーイズは今時珍しい、トラッシーなパンク・バンド。ヴォックは3年連続で見ているが、ドラマーが増え、よりバンドらしくなり、大御所の風格さえあった。シュガー・キューブスのリード・シンガーだった、エイナーのヒップホップ・プロジェクト、ゴースト・デジタルの大人気っぷりは流石、レコード屋から人が溢れ、道を渡ったところにも人が盛りだくさん。
 レイキャビックの『ヴィレッジ・ヴォイス』とも言われる、情報紙『grapevine』のライターのポールさんによると、ダークで、奇妙で、突拍子もない、Kælan Miklaが今年のエアウエイズのベスト1だと言っていた。私は、世にも美しい音を奏でるMr. sillaに一票。


pink street boys

 エアウエイヴスは、ニューヨークのCMJやオースティンのSXSWのアイスランド版と言った所だが、より個人が主張し、インディ感覚を忘れていない。リストバンドの種類がアーティスト、プレス、フォト以外にダーリンというVIPパスかあり、ダーリンを持っていると、長い列に並ばなくても良い。人気のショーはリストバンドがあっても列に並ばないとだめで、このダーリン・パスは大活躍だった。
 今年のハイライトは、ホット・チップ、ビーチ・ハウス、ファーザー・ジョン・ミスティ、バトルズ、アリエル・ピンク、パフューム・ジニアス、ボー・ニンゲン、グスグスなどで、私のハイライトは、断然ボー・ニンゲン。ブルックリンでも見て親近感が湧いたが、オフ・ステージでの腰の低さも好かれるポイントなのだろう。
 Samarisやkimonoのメンバーとアイスランド、ロンドン、日本、そして音楽に関しての対談が『grapevine』に掲載されている。
 今年のCMJではアイスランド・エアウエイヴスもショーケースを出し(dj. flugvél og geimskip, fufanu, mammútが出演)、アイスランドとブルックリンの位置はどんどん近くなっている気がする。

 昨年と比べて、街は少しだが変わっていた。空き地が取り壊され、新しいホテルができ、コーポレート企業が少ないアイスランドにダンキン・ドーナツができていた。と思えば、フリーマーケットに行くと、シガーロスのオリジナルのポスターが普通に売られていたり、道を跨ぐと壁にグラフィティが満載だったり、街には文化の匂いがする。ご飯は魚が新鮮で、何を食べても美味しいが、羊の頭、というギョッとするものがスーパーマーケットに売っていたりもする。名物は、パフィン(=ニシツノメドリ)とクジラですから。
 エアウエィヴスHQ近くのハーパ(窓のステンドグラスは光によって色が変わる!)と自然の美しさは相変わらずで、まるで他の惑星にいるような感覚に陥る。近くの水辺でまったりしていると、何処からともなく人が現れ、この最高の景色を共有出来る偶然と贅沢を、改めて堪能。こんな景色を毎日見ていたら、創作欲もどんどん湧く、と羨ましくも納得していた。


シガー・ロスのポスター


ニューヨークから直航便で6時間、時差は5時間。


 そしてニューオリンズ。今回はバンドのツアーで来たが、町も音楽も想像以上に素晴らしかった。ニューオリンズといえば、ブルースやジャズのイメージだが、インディ・ロックも、エレクトロ、ダンス・ミュージック、ヒップホップも何でも見ることができる。音楽会場がたくさん並ぶエリア(フレンチ・クオーター)では、バー、レストランなどがズラーッと並び、バーホップを楽しめる。ロック、ブルース、ジャズ、ホーン隊が10人以上いるビッグバンドや、2ピースのエレクトロ・ダンシング・バンド等、ミュージシャンはさすがに上手く、観光地になるに連れてカバーバンドが多かった。お客さん同士仲良くなるなどノリも良く、こちらは毎日がCMJやSXSWな感じ。
エレキング読者には、フレンチ・クオーターからは少し離れるが、私たちがショーをしたサターン・バーがオススメ。ここは元ボクシングを観戦する会場で、バルコニーが四方をグルっと囲み、バンドを180度何処からでも上から眺められる。何気に天井がプラネタリウムの様になっていたり、サターン(土星)が壁に、ドーンと描かれ、場末な感じが最高だった。
 今回お世話になったのは、ビッグ・フリーダ、シシー・バウンスなどでDJをしているDJ Rasty Lazer。ニューオリンズ・エアリフトも主催するニューオリンズのキーパーソンである。

www.neworleansairlift.org
https://en.wikipedia.org/wiki/Bounce_music

 エア・リフトが今年2015年夏に開催したアート/音楽・プロジェクト、「ミュージック・ボックス」の映像を見せてくれた。



 大きなフィールドに、多様なアートピースを創り、ミュージシャンが音楽を奏でるのだが、ディーキン(アニマル・コレクティブ)やイアン(ジャパンサー)、ニルス・クライン、ウィリアム・パーカーなど、面白いほどに、ブルックリン他のなじみある顔のミュージシャンが参加していた。

 このプロジェクトにも参加していたラバーナ・ババロンは、4年ほど前にブシュウィックで知り合ったアーティストだが、いつの間にかブルックリンからベルリンを経由し、ニューオリンズに引っ越していた。彼女曰く、ブルックリンより、こちらの方がアート制作に時間を費やせるし、露出する場がたくさんあると。たしかに彼女のようなパフォーマーは、あたたかい気候が合っているのかもしれない。
 そのDJ Rusty Lazerがキュレートするパーティにも遊びに行ったが、規模がブルックリンとまったく違うことに驚く。会場の大きなウエアハウスは南国雰囲気。手前にバー、真ん中にはトロピカルな藁のバー、回転車輪(ネズミの様にクルクル回る)、ポップコーンバス(中で男の子がポップコーンをホップし続けている)、ダンスホール(バウンス・ミュージック)、映像部屋(自分がライトの中に入っていける)、ライト&ペーパーダンスホール(上から紙のリボンが垂れ下がり、ブラック・ライトが照らされた部屋)、野外映画、仮装部屋(いろんなコスチュームが揃い、みんなで写真が撮れる)など、もりもりたくさんのエンターテイメントが用意されていた。人も今日はハロウィン? と思うくらいドレスアップ(仮装)している人ばかりで、こちらは毎日ハロウィン。

ニューヨークからは直行便で3時間半と。時差は1時間。

 全く違う2都市だが、空港に降り立った時から、違う空気を感じ、気候が音楽に与える影響も感じる。この2都市のパーティにかけるピュアな姿勢と気合は、ブルックリンは断然負けている。ブルックリンはパーティしつつも、頭は何処かで冷静だったりもする。さらに人びとが次々繋がっていくのが面白い。小さなインディ・ワールドにいるからか、今回もニューオリンズやレイキャビクからブルックリンの知り合いが繋がっていった。ブルックリンのエッセンスは、何処かで継がれていくのだろう。

 ダニエル・クオンを知ったのは3年か4年前のこと。都内の小さなライヴ・スペースで行われたイヴェントで、出演者のひとりがたまたま彼だった、という些細なきっかけだった。詳細は曖昧だが、ギターを抱えて椅子に腰かけ、少し訛りを含んだような英語詞で――時おり日本語も織り交ぜながらゆったりと歌い上げる、といった調子で、あくまで印象は典型的なシンガー・ソングライターのそれだったはずと記憶している。そして、そんな彼のインティメートな弾き語りに当時の自分が重ねて見ていたのは、たとえば王舟やアルフレッド・ビーチ・サンダルの北里彰久、あるいはパワフル・パワーの野村和孝といった、これもちょうどその頃に近い圏内でたびたび演奏を見る機会に恵まれた同じシンガー・ソングライターたちの音楽だった。

 もっとも、その時すでに彼は日本でのレコーディングを経験済みで、さらにこの少し前(2010年)にはファースト・アルバム『ダニエル・クオン』を日本でもリリースしていたことを自分は後になって知るわけだが。ともあれ、そんな彼の音楽が、あの頃の東京の――あえて言えば東京のインディ・シーンの風景にとてもよく馴染んで聴こえたことを思い出す。


ダニエル・クオン『ダニエル・クオン』
(Motel Bleu / 2010)

 といったダニエル・クオンについての個人的な原体験を記憶に留めていたこともあり、その数年後に次作の『Rくん』(2013年)を最初に聴いたときはすっかり意表を突かれた。かたや、ひとつ前の『ダニエル・クオン』は、ざっくりと言えばいわゆる弾き語りがメインで、ギターとピアノを中心に練られた演奏とウォーミーな歌声に、彼自身が敬愛するというエミット・ローズやポール・マッカートニーはおそらくもちろんのこと、ランディ・ニューマンやハリー・ニルソン、トッド・ラングレン等々の耳慣れた名前を連想したくなる一枚、というのが順番を前後して後日聴いたところの雑感。いまだったらトバイアス・ジェッソ・Jrなんかとも並べて聴きたい、70年代のシンガー・ソングライターの系譜を窺わせるグッド・メロディとグッド・ソングが詰まったアルバムだったが、対して、『Rくん』も基本的には弾き語りがベースではあるものの、その冒頭いきなり飛び込んでくるのは、ジョン・フェイヒィも思わせる緩やかなギター・アルペジオではじまる『ダニエル・クオン』のオープニングからは想像外の、ハーシュ・ノイズのように耳を劈く雨音(?)のサンプル。そして以降、ナレーション、館内放送、逆再生したような効果音、自然音や生活音の類、はたまた「AMSR」風の細かいブツ音が曲のいたる箇所で顔を覗かせ、なにやら奇想めいた気配が醸し出されていくのだった。


ダニエル・クオン『Rくん』
(R / 2013)
Amazon

もっとも、その手の演出は『ダニエル・クオン』でも一部に散見でき、相俟ってそこには初期のデヴェンドラ・バンハートにも通じる仄暗さ、あるいはフリー・フォークが幻視したサイモン・フィンやティム・バックリーへの愛着、さらにはピーター・アイヴァースやロイ・モンゴメリーのウィアードなサイケデリアに対する好奇心さえ聴き取れなかったわけではない。が、『Rくん』においてはそうした、一見ジェントリーな歌いぶりの裏にある種の衒いのようなものとして見え隠れしていたアウトサイダーな嗜好が横溢していて、その深い綾のように刻まれたツイステッドなポップ・センスはさながら、〈ポー・トラックス〉に発掘された頃のアリエル・ピンクかその師匠筋にあたるR・スティーヴ・ムーア、いやいやジョー・ミークやレイモンド・スコット、ブルース・ハックあたりのカートゥーン趣味も思わせる感触に近い、と言ったらさすがに印象論で解釈を広げすぎだろうか。エレクトロニックな音色が増えてループも活用されたテクスチャーは、それこそフォークとアンビエントやニュー・エイジとの間、言うなればノスタルジアとヒプナゴジアとの間を揺れ動くようで、それが2013年の作品であるという理由から強引に何かに紐付けさせてもらうとするなら、ジェームズ・フェラーロと〈ビア・オン・ザ・ラグ(Beer On The Rug)〉のYYUを両隣に置いて鑑賞したくなる代物――というのが、はなはだ一方的だが『Rくん』に対する個人的な評価だったりする。


ダニエル・クオン『ノーツ』
(Pヴァイン / 2015)
Amazon

 そんな驚きが先立った『Rくん』と比べると、まずはより歌にフォーカスが当てられた、という印象も受ける新作の『ノーツ』。ケレン味たっぷりのファルセットやスキャット。旋回するコーラス。いろんな種類の楽器がにぎやかなアンサンブルを奏でるなか、時おり主張するエレキ・ギターが妙に可笑しい。けれどもちろん、『ノーツ』にはそうした歌や演奏以外の音も相変わらずたくさん詰め込まれている。遠くで聞こえる吹奏楽や子どもの合唱。果実をかじったり葉物を切ったりする音。ぐつぐつと沸騰した鍋。踏切の警笛音や商店のブザーといった雑踏のBGM。そうして音楽と多様な具体音が織りなすレイヤーを聴きながら、ふと、ある高名な音楽家の「ミュージサーカス」という作品のことを思った。それは、大きな建物のなかだったり公園のようなひとつの空間を舞台に、異なる音楽やパフォーマンス、多くの出来事が同時に行われるという、一種の演劇的なイヴェント。まあ、そこまで大掛かりではないまでも、しかし、ダニエル・クオンの音楽もまた聴いていると、さまざまな場所から音が立ち上り、互いに無関係であるようなそれらが結ばれることで、縁日的とでも言いたい愉快な光景が姿を現し目の前に迫ってくるような感覚に襲われるのだ。あるいは、試しに『ノーツ』を聴きながら近所を散策してみてもいい。すると、身の周りの環境音や具体音とさらに混じり合うことで聴取は拡散し、その瞬間、そもそも私たちは「音楽」だけを純粋に聴くことはできない、なんてことに気づかされるかもしれない――と。たとえばそんなふうにもダニエル・クオンの音楽は私を楽しませてくれるのである。

ダニエル・クオン - Judy


当日会場にて対象書籍(※)ご購入のお客様は、智司さん健児さん“子ども時代の写真”ポストカードをプレゼント! サイン会にもご参加いただけます!

※『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』(ISBN 978-4-907276-35-5)が対象となります
※先着70名様までのご参加となります。

福岡県糸島市の住宅地の一角、
子どもたちから「こうもりひろば」と呼ばれているガレージを拠点に、
とってもユニークなあそびのプロジェクトを実践されている、
ネイチャーライター、
「マイマイ計画」こと野島智司さん。

そして、野島さんの実のお兄さんであり、
人気声優さんとしてご活躍の一方、
音楽的なこだわりの深いライブ・イベントや、
朗読会にワークショップの開催など、
一様でない表現活動を展開しておられる野島健児さん。

職業も生活スタイルも異なるお二人ですが、
そのバックボーンにはとってもユニーク&クリエイティヴな子ども時代のご経験が。

この度開催されるのは、
その驚くほど豊かな遊びの記憶をたどりながら、
現在の多彩な活動や、
それを支える考え方、ものの見方について、
いっしょに思考をめぐらせるトークライブです。

何かにはっとする瞬間が必ずあるはず。
トークのあとは“兄弟セッション”もいっしょに楽しみましょう!

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チケットについてはこちらから
https://www.hmv.co.jp/st/event/22833
注文ページ
https://l-tike.com/search/?keyword=34965
Lコード:34965

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福岡県糸島市の住宅地の一角、
子どもたちから「こうもりひろば」と呼ばれているガレージを拠点に、
とってもユニークなあそびのプロジェクトを実践している、
ネイチャーライター/ものづくり作家、
「マイマイ計画」こと野島智司さん。

会員制でも教育施設でもない、
野島さん自身のための“ただの遊び場”を開放して、
まず自分がいちばんに遊びながらも、
「あそんでいる人の存在が、誰かのあそびをひらく」瞬間について、考えつづけています。
絵を描いたり、自然の素材やがらくたで何かをつくったり、
猫やトカゲと遊んだり、
そうしているうちに今日もいろんな子どもがやってきて──

ときおりは“ヘンテコどうぶつ”づくりや“こうもり探検”などのワークショップも開催、
そのほかにもお手製の絵はがきや“ナゾマイマイ”(磁石のかたつむり)などの製作、
写真や日々の取り組みを書きつづったりと、
「マイマイ計画」の活動は、ささやかだけどとっても多彩。
その活動のスタイルとともに
小さいままに、でも人から人へ、ゆっくりと広がりつづけています。

そんな野島さんは、
じつは小中高校に通わずに、自給自足を試みる一家とともに山中で育ち、
大学では動物学や教育学などを数々の研究室で学ばれたという、
珍しいご経験の持ち主でもあります。

自然と遊びに彩られ、
遊びからつながる学びにあふれた、
驚くほど豊かな体験の数々、
そして、そんな環境を根っことした現在の多彩な活動や、
思いがけない考え方、
やさしくて時間をかけたものの見方──

そんな野島さんの半生と活動が、一冊の本になりました。

『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』(ele-king books、2015)

そして今回開催されるのは、
この本の中、
とくに野島さんの子ども時代について書かれた第2章について、
じっくりと読み解くトークライヴ。

野島さんの実のお兄さんであり、
人気声優さんとしてご活躍中の野島健児さんをお迎えして、
その驚くばかりにクリエイティヴィティあふれる、
子ども時代の遊びのエピソードを掘り下げます。

うーん、もういっかい子どもに戻ったら、
自分もぜったいこんなふうに過ごしてみたい……!

音楽的なこだわりの深いライヴ・イベントや、
朗読会にワークショップの開催など、
一様でない表現活動を展開されるお兄さん・健児さんからも、
そうした豊かなバックボーンについて、
インスピレーションあふれるお話がきけるはず。

あそぶこと、学ぶこと、
自然のこと、
そして、マイマイ計画の活動を支える
「あそびらき」という考え方について、
さまざまな角度からお話をうかがいます。
トークの後は「兄弟セッション」も!?

21世紀日本のための“遊ぶ”哲学、ライブ編!



■『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』詳細
https://www.ele-king.net/books/004598/

マイマイ計画 (野島智司) × 野島健児 presentsマイマイセッション!

野島智司・著 『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』刊行記念トークライブ@ HMV&BOOKS TOKYO

開催日:
2015年12月11日(金)
19:00開演(18:00整列開始、18:30開場)

場所:
HMV & BOOKS TOKYO 6Fイベントスペース

内容:
トークショー

出演:
野島智司さん(著者/弟) ゲスト:野島健児さん(声優/兄)

プログラム:
Chapter1 talk!「やまの生活」
Chapter2 think!「世界はあそぶとこだらけ」
Chapter3 play!「マイマイセッション」

チケット:
3500円(+ローチケ手数料)
HMV&BOOKS TOKYO6Fローチケカウンターおよび全国のローチケ・Loppiにてチケットをご購入ください
詳細ページ
https://www.hmv.co.jp/st/event/22833

注文ページ
https://l-tike.com/search/?keyword=34965
Lコード:34965

限定特典:
当日会場にて書籍ご購入のお客様限定で、智司さん健児さん“子ども時代の写真”ポストカードをプレゼント&サイン会へのご参加

注意事項:
※トークショーはチケットをお持ちの方のみ参加できます。
※当日のご入場は、整理番号順になります。
※イベント当日は、チケットを忘れずに必ずお持ち下さい。
※イベント内容・出演者は予告なく変更する場合がございます。ご了承ください。
※イベント参加券は紛失/盗難/破損等、いかなる理由でも再発行は致しませんのでご注意下さい。
※イベント実施中の撮影/録音/録画は一切禁止とさせて頂きます。
※会場内にロッカーやクロークはございません。手荷物の管理は自己責任にてお願い致します。

【お問い合わせ】HMV&BOOKS TOKYO 電話番号:03-5784-3270(11:00~23:00)

書籍情報:
https://www.ele-king.net/books/004598/

出演者プロフィール:

■野島智司 のじま・さとし
1979年東京生まれ。東京農業大学農学部卒。北海道大学大学院地球環境科学研究科修士課程修了。同大学院教育学研究科修士課程修了。九州大学大学院人間環境学府博士後期課程中途退学。自然と人との関わりについて、動物生態学、社会教育学、環境心理学など、さまざまな角度からフィールドワークを行う。マイマイ計画(https://maimaikeikaku.net)主宰。著書に『ヒトの見ている世界蝶の見ている世界』(青春出版社)『カタツムリの謎』(誠文堂新光社)など。


■野島健児 のじま・けんじ
声優・朗読・ライブ
主な出演作品
PSYCHO-PASSシリーズ 宜野座伸元役
干物妹!うまるちゃん 土間タイヘイ役
スターウォーズ反乱者たち エズラ・ブリッジャー役



書籍売り場ではおふたりによる選書コーナーも!
いまを“あそびらく”30冊

野島智司さん、野島健児さんご兄弟が選ぶ、30の“わくわく”

マンガ、絵本から、自然科学まで。
現在の生活の中に“あそび”のスキマをひらいてくれる本を、
野島智司さん×野島健児さんが選んでくれました!
売り場ではコメントカードつきでご紹介しています。

忙しい人も時間がたっぷりの人も、
今日からわくわくするための一冊を見つけてくださいね!

MONK.T (Well-def Lab.) - ele-king

SWEET SOUL45 10選

第35回:花と血の時代 - ele-king

 テロルである。
 またもや欧州でテロル勃発。今回は規模が大きいぞってんで、すわ戦争か。とゴリラのように拳で胸を連打しているマッチョな人たちがあんまり多いもんだから、なんだか息苦しいわ。と思って、ちょっとまじめな記事を書いたらとんでもないことになり、いやネットのニュースサイトってのは半端ない。間違ってトップページにでも出ようもんなら、違う考え方を持つネット政治運動家の方々から、文体は硬質なのに内容な粘質。みたいな抗議、嫌がらせのメールがわらわらと殺到し、布団を被ってぶるぶる震えていたのですが、実はあの日は同じサイトのエンタメ欄のほうでも、「チャーリー・シーン、ゴムを使わずにセックスしたのは2人だけ」という当方の記事がアクセス1位を達成していたのですが、その辺りを突いてきたメールは1通もなかったので、ちっ。と思いました。
 まあ、そんな話はどうでもいいか。

               *******

 翌日、いつものように子を学校に送り、バス停に立っているとイラン人の友人が歩いて来るのが見えた。
 「ハーーイ!」と言ってひしっと固くハグ。って別にそんなことをしなくとも、彼女とは緊縮託児所(eg昔の底辺託児所)で一緒に働いている仲なのだが、ネットの暗がりの後には生身の人間の感触がうれしい。そのまま峠の茶屋に直行することになった(いやそれが本当に坂の頂上にあるのだ。グリーンティーも出してるし)。
 彼女に思わずバス停で抱き着いてしまった理由を話すと、友人はぎゃははっと笑った。
「テロはテロを呼ぶからね」と彼女は言う。
「……ああ」
「やる方もやられる方も傍観する方も、みんなアグレッシヴになる」
「なんかそういう世の中になったよね。やけに暴力的だもん。ここんとこ目にするものが」
「そう? ニュースの見すぎじゃない?」
「ああ……。やっぱ見ないほうがいいの?」
「いや、そういうのが好きなら見ればいいと思うけど、こっちのが可愛くない?」
と言って、彼女は自分の携帯の待ち受け画像を見せた。イランにいる親戚の赤ん坊の写真だという。何か昭和の頃の日本の写真館で撮られた写真のようなアナクロさがあり、座っている赤子の周囲に花々が美しく咲いていて、ボリウッド映画のスティルまたはピエール&ジルの作品さえ髣髴とさせるクオリティーだ。
「ああ、花だ」と思わずわたしは言った。
「ははは。私の国ではプロが写真撮るとこうなるの。家族写真でも何でも」
「キュート」
と言いながらわたしは別のことを考えていた。
 なんか最近、やけに花なのである。
 硬質ぶっても粘質な数々のメールが来る原因となった記事もバンクシーの「Flower Thrower」という作品についてのものだし、「パンと薔薇」だの「米と薔薇」だの、われながら最近は花についてばかり書いている。なんかそうなってしまうのだ。

              ******

 モリッシーがジーンズの尻ポケットからグラジオラスの花を垂らして登場した「トップ・オブ・ザ・ポップス」のザ・スミスの演奏シーンは、UKポップ・カルチャー史のアイコン的シーンと言われる。ザ・スミスには、「花の時代」と呼ばれる時期があった。それは1983年から1984年春までで( Mozipediaより)、ギグでもステージを花で覆ったりしていた。最初にザ・スミスのステージに花が登場したのは、1983年2月4日のハシエンダでのステージだったそうだが、花を使った意図は、マンチェスターの音楽シーンとハシエンダを取り巻く「殺菌されたようで非人間的な」環境に対する抗議だったという。「誰もが非人間的で冷たかった。花はとても人間的なものを象徴する。それは自然との調和でもある」「花は僕たちのツアーではPAシステムより重要」とモリッシーは当時語っていた。

 当時のUKのおもな出来事を振り返ってみると、非常に暴力的な時代だったことに驚く。炭鉱ストライキにおける労働者と警察の衝突。IRAの爆破テロ。航空機ハイジャック。フーリガン、レイシズム、相次ぐ暴動。人間と人間のグループが常にぶつかって負傷したり死んだりしていた時代だったのだ。そして、その世の騒乱を押さえ付け、締め付けることによってさらなる衝突と暴力を生んだ指導者がマーガレット・サッチャーだった。
 あの時代もニュースはさぞ物騒で血なまぐさい絵のオンパレードだったろう。花が見たくなる気持ちはわかる。ザ・スミスはステージ全体を花で覆うことで、その渇望をカウンター的ステートメントに変えたのだ。
 だが、すぐにファンも花を持ち寄ってステージに投げるようになり、そのうちモリッシーが花々に足を取られて転ぶようになって、ザ・スミスの「花の時代」は終わる。
 花もけっこう危険なのである。

              ******

 緑茶をすすりながらイラン人の友人は言った。
「花って言えば、最近、センターであったポピー事件って知ってる?」
「何それ」
「いや、それが大変だったのよ」
と彼女は解説を始めた。センターというのは、わたしと彼女が働いている託児所の本体にあたる場所であり、無職者と低額所得者、移民・難民やホームレスの方々を支援している慈善施設である。
 彼女の話を聞くと、こういうことであった。英国では11月11日の第一次世界大戦休戦記念日は戦没者記念日でもある。日本は戦没者というと第二次世界大戦を思い浮かべることが多いが、英国は断然、第一次世界大戦だ。第一次世界大戦の激戦地だったフランダース地方に咲く赤いポピーの描写で始まるカナダの詩人ジョン・マクレーの詩が英誌に発表されて大反響を呼び、以降赤いポピーは戦没者たちのシンボルとなった。11月になると多くの英国人が胸にポピーのバッジをつけて歩いている所以である。
 で、あるムスリムの家族が11月の初めに全員胸にポピーのバッジを付けてわたしたちが働く慈善センターにやって来たのだという。
 彼らはパキスタンからの移民で、一家を支えていたお父さんは市役所に勤めていたそうだが、勤務していた部署がこの緊縮のご時世でリストラされ、4人の子供を抱える彼の家庭は我々の施設に相談に来たらしい。
 地方の街では、ムスリムが11月にポピーのバッジを付けているというのは見たことがなかった。が、ここ数年で変わって来ている。ISが世間を騒がせたり、社会の右傾化が進むにつれ、ムスリム・コミュニティーの一部の若者の間で「ポピーを胸につけよう」運動が広まっているのだ。特に若い女性は、赤いポピー柄のヒジャブを頭に巻いたりしているし、アナキスト団体経営のカフェなどに行くと、その運動をサポートする英国人女性もポピー柄のヒジャブを頭に巻いてカウンターで働いている。
 くだんのパキスタン人家庭の長女もポピー柄のヒジャブを巻いていたそうで、両親も弟たちもポピーを胸につけてセンターの食堂に現れたという。
 すると、食堂の隅に座っていた英国人のおっさんが唐突に激怒して暴れ出し、そのポピーを外せと彼らに怒鳴りつけ、止めに入ったヴォランティアの大学生がおっさんに殴られて軽傷を負うという騒ぎがあったらしい。
「そのおっさんって誰? わたしも知ってる人?」と聞くと友人は言った。
「M」
「ああMかあ…」
とわたしは放心してため息をついた。
 Mというのは元パンク&アナキストの60代の爺さんなんだが、鬱を認知症でこじらせているという噂があり、言動がここのところ不安定だ。
「で、その一家はどうなったの?」と尋ねると友人は言った。
「いやさすがに、それっきり来てない」

 ポピー問題は、今年は特に悩ましかった。女優のシエナ・ミラーが英霊追悼週間にポピーのバッジをつけずにテレビに出たというのでバッシングされ、英霊記念日式典に労働党首として出席したジェレミー・コービンのお辞儀の角度が足りなかったとかで、彼の頭部と胴体の角度を測って10度だ15度だと分析していたメディアもあった。こうしたムードを受け、キャメロン首相も自分の写真にフォトショップ加工でポピーバッジを貼らせていたという疑惑が浮上していたし、一番びっくりしたのは、ブライトン市内のある公立小学校のフェンスに直径2メートルはあろうかという真っ赤なプラスティックのポピーが複数出現し、校庭上空に英国旗が、ってそれも1本や2本じゃないのである。『幸福の黄色いハンカチ』状態でユニオンジャックがびっしりはためている様(先週からこれはフランス国旗に変わっている)をバスの窓から見たときには「まじかよー」と思った。あんなにキッチュ(ミラン・クンデラが言う意味での)な追悼の場をわたしは見たことがない。

 「ポピー問題は気が重いね。あれも一応、花なんだけど」
とわたしが言うと、十代の頃に国が戦時中だった友人は表情ひとつ変えずに言った。
「あれは花じゃなくて、血でしょう」
 一面に咲いた赤いポピーの中を歩きながら戦没者を追悼する女王の写真が頭に浮かんだ。
 欧州は花と血の時代に突入したのかもしれない。
 

interview with Floating Points - ele-king


Floating Points
Elaenia
[ボーナストラック1曲収録 / 国内盤]

Luaka Bop/ビート

JazzAmbientElectronic

Amazon

 レコード文化がリヴァイヴァルしているとか、あれはもう終わったとか、ここ数年のあいだ正反対のふたつの意見があるんだけど、フローティング・ポインツを好きな人は知っているように、彼=サム・シェパードの〈Eglo〉なるレーベルは、ほぼアナログ盤にこだわって、自らのレコード愛を強く打ち出している。なにせ彼ときたら、12インチにせよ10インチにせよ、そのスリーヴには、エレガントで、風合いのある贅沢な質感の紙を使っている。実際、いまじゃ12インチは贅沢品だしね。
 昔は12インチなんていったら、ほとんどの盤にジャケはなく、レーベル面でさえも1色印刷が普通だった。12インチなんてものは、カジュアルで、ハズれてもいいやぐらいの気楽さがあった。が、いまでは12インチ1枚買うのにも気合いが必要だ。ええい、これを買ったるわい! うりゃぁぁぁ、とかいってレジに出しているのである。
 フローティング・ポインツの傑作「Shadows」(2011年)を買ったときもそうだった。ええい、買ったるわい! うりゃぁ、これぐらいの気合いがなければ、いまどき12インチ2枚組なんて買えたものではない。家に帰ってからもそうだ。うりゃぁぁぁ、気合いを入れながらビニールを開ける。レコード盤を取り出し、ターンテーブルの上に載せる。針を下ろし、ミキサーの音量をそうっと上げる。さあ、キミは宇宙の旅行者だ。

 ようやく出るのか……そうか、良かった良かった。現在29歳の、見るからに大学院生風のサミュエル・シェパード、デビューから6年目にして最初のアルバム『Elaenia』は、待望のアルバムだ。ベース好きもハウス好きもクラブ・ジャズ好きも、みんながこれを待っていたのである。この5年、レコード店で新譜を買っていた人のほとんどが彼の作品を知っている。ダブステップ全盛期のUKから登場した彼の作品は、同世代の誰よりも、圧倒的に洗練されているからだ。
 ディープ・ハウスとジャズ、アンビエントやクラウトロックまでもが折衷される彼の音楽は、彼のレーベル・スリーヴ同様にエレガントで、若々しく、そしてロマンティックだ。さあ、キミも気合いを入れてレコード店に……いや、この度は、彼の作品が初めて、そう、初めてCDで聴けるのだ。まあいい。家に帰って袋を破り、再生ボタンを押すんだ。いまもっとも陶酔的で、コズミックで、ファンタスティックな冒険が広がる。あるいは、こんな説明はどうだろう? フローティング・ポインツとは、フライング・ロータスより繊細で、カール・クレイグよりもジャジー、ジェイミーXXよりも音楽の幅が広い。



 以下にお見せするのは、去る9月に彼らが来日した際の取材記録である。彼がいかに新しくて古い男なのかよくわかるだろう。取材日は、安保法案が可決された日の翌日だった。

僕には政治的な部分がありますし、世界の痛みも感じます。いま起こっていることに怒りを覚えることだってあります。それが自分の音楽に直接関係しているとは断言できませんが、何かしらの形で影響はあるでしょう。反民主的なものと日々戦うひとびとの姿は、僕の心を揺さぶります。

昨日の日本はけっこう大変な1日だったんですけど、ご存知ですか?

フローティング・ポインツ(Floating Points、以下FP):はい。テレビでデモの様子を見たことがあります。

どこのテレビですか?

FP:イングランドのニュース番組です。

今回のあなたのアルバムからは、70年年代初頭のハービー・ハンコックであるとか、チック・コリア、あるいはスピリチュアル・ジャズみたいな要素を感じ取りました。

FP:ははは(笑)。そうですか。

あの頃のジャズは、彼らが生きていた当時の社会やポスト公民権運動みたいな政治的なものと、どこかで繋がっているものですけれども、あなた自身の音楽は社会とどのように関連づけられると思いますか?

FP:えーっと……。

最初から大きい質問でごめんね(笑)。

FP:いままでで一番難しい質問ですね。「イエス」と答えることもできるでしょう。ぼくには政治的な部分がありますし、世界の痛みも感じます。いま起こっていることに怒りを覚えることだってあります。それが自分の音楽に直接関係しているとは断言できませんが、何かしらの形で影響はあるでしょう。反民主的なものと日々戦うひとびとの姿は、ぼくの心を揺さぶります。
 今回の日本の出来事だって同様です。こういったことは必ず自分の音楽へ感覚的に還元されると思います。ですが、それが感情のサウンドトラックであっても、特定の政治的なものに対する音楽であるとは言えません。このアルバムにはアメリカの銃社会に着想を得たものがあります。幼い少女が自分の父親を誤って撃ってしまったという事件がありましたが、それはぼくにとってかなりショッキングでした。そのときに感じた悲しみを曲にしたんです。
 このように社会の出来事はぼくの音楽に影響をもたらします。ニュースは毎日必ず見ますし、国内外の出来事に関心があります。でも音楽的に、その出来事からというよりは、もっと「大きなスケール」で影響を受けています。

良き回答をありがとうございます。

FP:こちらこそ素晴らしい質問をありがとうございました(笑)。

ぼくは、初期の「ヴァキュームEP」(2009年)からすごく好きで、あなたの〈イグロ・レコーズ〉のリリースをコレクションしているくらいなんです。だからいつアルバムを作るんだろうとずっと思っていたんですが、すっごく時間がかかりましたね。アルバムってことで、気合いが入りすぎていたのでしょうか?

FP:大学の博士課程に在籍していたことがひとつの理由ですね。自分の頭が科学に集中した時期で、音楽のリリースは趣味のようなものになっていました。なのでアルバムの“大きな物語”に意識を傾けるのが難しかったんです。博士課程に進んでからの4年間でも、音楽はわずかですが作っていました。それで去年の4月に修了して、それから3、4ヶ月でアルバムを完成させたので、制作期間が長かったわけではないんです。同時にふたつのことができない不器用な人間なんです(笑)。

趣味とおっしゃいましたが、あなたにとって音楽が趣味でなくなったのはいつですか?

FP:博士課程に進む前から音楽を作っていて、自分の〈エグロ〉からリリースしていました。音楽活動は単純にすごく楽しいですからね。Ph.D.の研究が進んでいくうちに、レーベルも自分の音楽もどんどん成長していきました。音楽がちゃんと軌道にのりそうだったので、3、4回は博士課程を断念しようかとも考えました。ただ研究の終わりが見えてきていたので、投げ出さずに頑張ることにしたんです。その間は、音楽とPh.D.が戦いを繰り広げていましたね。
 それで博士課程が終わったときには、〈エグロ〉は立派なレーベルになっていたので、心境は前の続きをやるという感じではありませんでした。なので、Ph.D.を取得した次の日からスムーズにぼくはフルタイムのミュージシャンになれたのかもしれません。

あなたの神経科学の研究とあなたの音楽は完全に別のものと考えてもいいですよね?

FP:全然違います。科学と音楽がどう繋がっているのかよく訊かれるんですが、実はそれは自分にとっても謎です(笑)。

ははは(笑)。でも、フローティング・ポインツというネーミングは、サイエンスからきているかと思ってました。

FP:とってもつまらない回答になってしまうのですが、自分が音楽を作るときに使っていたソフトから採りました。そのうちの設定に「フローティング・ポインツ」と表示されていたんです(笑)。

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ひとつだけ明確な物語が表現されている曲があって、それがタイトル曲の“エレニア”です。冬になると南アメリカの中央へ向かって飛ぶ渡り鳥についての話で、その鳥の名前がエレニア。そういう夢を見ましてね……。夢って、あの寝ているときに見るやつですよ(笑)。


Floating Points
Elaenia
[ボーナストラック1曲収録 / 国内盤]

Luaka Bop/ビート

JazzAmbientElectronic

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あなたの初期のレコードは〈プラネットμ〉と〈R2レコーズ〉から出ていますが、それは2009年で、当時はUKでダブステップがすごく強かった時期だったと思います。あなたの作品は日本ではハウスのDJがかけていて、時代はあなたにダブステップを作らせたかったんだろうけど、あなたはディープ・ハウスやテクノをすごく作りたかった、という印象を受けました。

FP:当時はロンドンに住んでいたんですが、プラスティック・ピープルで開催されていた〈FWD〉はダブステップの世界的なホームのような存在でした。ですが、ぼくは〈FWD〉に行った次の日には、同じ場所へセオ・パリッシュのプレイを聴きに行きました。当時から違ったジャンルを聴くことがぼくは大好きでしたね。聴くだけではなく、様々なスタイルの曲も作っていました。ときにクラシカルなもの、ハウス、ダブステップといった具合です。周りのプロデューサーがリリースしそうな音楽を作っていたことはたしかですね。でも、ダブステップを作ることを期待されていたときも、他のジャンルであっても作りたい曲を作っていました。

あなたの〈エグロ〉のスリーヴ・アートは、デザインもそうですが紙の質までこだわっていて、すごく丁寧に作っています。それはいまのレーベルには珍しいというか。昔のレコード全盛期に対するあなたの特別な感情を感じるんですけど、その辺はいかかですか?

FP:お世辞でも嬉しいです(笑)。おっしゃる通り、かなり気を遣っています。ぼくはコレクターとしてたくさんレコードを買い集めてきました(1万枚のコレクションらしい)。〈ブルー・ノート〉の日本盤も買ったりしました。オリジナルの日本盤は、アメリカでプレスされたものよりも質が良いんですよ。紙も厚いですし、帯付きで中にはビニールのスリーヴやライナーが入っていて、細部へ注意が行き届いています。
 短い時間でレコードを量産しなければいけないシングルの市場では、そういった点が無視されがちですよね。でも、ちょっと時間をかければ紙もいろいろ試せて、同じ予算で質のいいレコードを作ることができるんです。ぼくはロンドンで、芸術を先攻している友だちといっしょに住んでいたので、アートワークに関する意見を出し合っていましたね。〈エグロ〉のアートワークは全部がその友だちによるものです。デザインだけではなく、なかには紙のサンプルを持っているひともいましたよ。

じゃあ主にはレコードを買うんですか?

FP:どんなフォーマットでも買いはしますが、ほとんどはレコードです。実は、いま家にCDプレイヤーがないんですよね(笑)。

あなたの世代だと相当な変わり者なんじゃないんですか?

FP:もちろん。ぼくの次の世代だと、完全にMP3ですよね。6、7歳若かったらぼくもレコードを買っていなかったかもしれませんね。

あなただって十分若いですよ(笑)。

FP:いつからレコードを買ってるっけな……、たしか12歳のときからですね。

それはどういう影響からなんですか?

FP:単純に安かったからです。ぼくはマンチェスター生まれなんですけど、当時はどの家庭でも親はCDを買っていました。ちょうどCDが出はじめたときで、値段がとても高かったんですよね。そのときぼくはクラシックにはまっていたんですが、例えばショスタコヴィッチの作品を新品でCDで買うとなると、60ポンドはしたんですが、中古レコード屋に行けば昔のヴァージョンが60ペンスで買えたんです。自分が必要とする音楽を聴くために、レコードを買うのが一番手っ取り早い方法でしたね。

ショスタコヴィッチみたいな作曲家の名前が出てくるとこがあなたらしいですね。

FP:彼はひとつの例えですが、ぼくにとって大きな影響源のひとりですね。ぼくはピアノを習っていて、クラシックのトレーニングを受けていました。メシアンやショスタコヴィッチ、ストラヴィンスキー、武満徹がお気に入りです。いまでも彼らの音楽をよく聴いていますよ。それと同時に、ビル・エヴァンズ、ハービー・ハンコック、チック・コリア、ジョージ・デュークも好きです。彼らにはたくさんの共通点を感じるんです。それらをひとつの世界として見ていて、境目はありません。同じ世界にジャズとクラシックとエレクトリック・ミュージックが存在しているんです。
テクノやミュージック・コンクレートは全然詳しくなかったんですが、エイフェックス・ツインなどを初めて聴いたときは、以前から自分が聴いてきた音の文脈で十分に理解することができたんです。ハウスやディスコだって同様です。でも最初にテクノから聴きはじめていたら、クラシックを理解できなかったかもしれませんね。

アーサー・ラッセルみたいですね。あのひとも現代音楽とディスコ、みたいな感じでしたから。でもあなたはジャズがあるからまた違うのかな。

FP:アーサー・ラッセルはぼくのヒーローです。彼とクラシックの間にも境界線はないと思います。

コンピュータ1台でアルバムを作った方がよかったかなと思います。アナログ機材をたくさん使ったぶん、故障が多くて大変だったんです(笑)。とってもイライラしました。せっかくストリングスを録音したのに、ミキサーが壊れていてたりとか……。これがコンピュータ上の作業だったら何の問題もないのになぁ、と(笑)。

今回のアルバムっていうのは、すごく大きな曲が7曲あって、時間がかかったのもわかるんですけど、教えていただきたいのが、あなたが先ほど言いかけていた大きな物語というものですね。それから、このアルバムがどのような録音をされたのかということ。生の音とかを使いつつも、完全にあなたのなかでコントロールされて作られていると思いました。

FP:必ずしもプロットがある物語ではなく、抽象的なものですが、自分にとっては一貫性が感じられる作品が完成したと思っています。そのなかで、ひとつだけ明確な物語が表現されている曲があって、それがタイトル曲の“エレニア”です。冬になると南アメリカの中央へ向かって飛ぶ渡り鳥についての話で、その鳥の名前がエレニア。そういう夢を見ましてね……。夢って、あの寝ているときに見るやつですよ(笑)。
 イメージのなかで渡り鳥の群れが南へ向かって飛んでいるんですが、1羽だけはぐれてしまって冬の森へと落ちてしまう。そこで何が起きるかというと、森が鳥を助けようとようとその体を包み込みはじめるんです。風が吹いて、木々の枝が動いて……。意味わかんないですよね? まぁ、夢ですから(笑)。結局鳥は助からないんですが、森が命を吸収し、その生を森全体が引き継ぐんです。我ながら、なかなかポエティックですね(笑)。
 曲は電子音を背景にはじまって、ピアノによるメロディは鳥たちの歌声を表しています。曲が半分くらいまで進むんで森の場面になると、こんどはピアノがバックになって電子音がメロディを刻みはじめます。つまりここでは曲のパートそれぞれが、物語の要素を語っているんです。 

それをアルバムのタイトルにしたのはなぜなんですか?

FP:この曲の持つ明確な物語が、アルバムの中核を成すように思えたからです。それに語感もとてもいい(笑)。

録音は、どうやっておこなったのでしょうか? 

FP:ロンドンにある自作のスタジオで行いました。博士課程がはじまるときに作ったもので、大きさはこの部屋(8畳ぐらい?)の5倍ほどありますね。ロンドンのほぼ中心にあってロケーションも抜群で、その場所を見つけられて本当にラッキーだったと思います。作業は木材を切るところからはじめました。音楽を聴いたり作ったりするのと同じで、スタジオを作るのも趣味のひとつになっていました(笑)。頑張ったのでけっこうちゃんとしたスタジオになりましたよ。
 『エレニア』を録音したのはそのスタジオです。日本製のテープ・レコーダーのオタリMX-80を使っていますよ。すっごく大きいやつです(笑)。それとコンピュータ、シンセサイザー、マイク、大きいミキシング・デスクがあります。曲を作るときはまずスコアを書いて、それをプレイヤーに渡して演奏してもらいました。

何人くらいのミュージシャンが参加したんですか?

FP:少しずつセッションを進めていったんですが、もっとも多いときで5人はスタジオにいましたね。10人くらい詰めようと思えばスタジオに入ります(笑)。ドラムとベース、ピアノとストリングスをいっしょに録音して、そこに電子音を加えていきました。メインのモジュラー・シンセサイザーはブクラ(Buchla)を使っています。パッチを組むのが複雑で大変でした。このシンセはノイズを作るのに役立つんですが、今回のアルバムではレコーディングの中心に据えて、ストリングスの音をブクラに通してエフェクトを掛けたりしています。それから、テープ・レコーダーは後から修正があまりできないので、正確に演奏し、目的の音を作るように心がけていましたね。

今回のアルバムの制作を通して、あなたが得た番大きなものは何ですか?

FP:そうですね……。あんまり奇をてらわずに、ここはマジメに答えた方がいいですよね(笑)?

別にジョークでも大丈夫ですよ(笑)。

FP:わかりました(笑)。振り返ってみると、コンピュータ1台でアルバムを作った方がよかったかなと思います。アナログ機材をたくさん使ったぶん、故障が多くて大変だったんです(笑)。とってもイライラしました。せっかくストリングスを録音したのに、ミキサーが壊れていてたりとか……。これがコンピュータ上の作業だったら何の問題もないのになぁ、と(笑)。
 ぼくが前に出した「シャドウズ」(2011年)のことを、みんなはEPと呼ぶんです。たしかに5曲しか入っていませんが、曲はけっこう長くて全部で40分くらいあるので、ぼくは「シャドウズ」をアルバムだと思っています。その経験から「アルバムって何だ?」と思うようになりました。ぼくにとって「シャドウズ」には一貫性があるので、楽曲群をひとつの音楽作品として捉えることができます。でも周りは「5曲しか入っていないから、やっぱりEPだよ」としか言わない。でも今作は「シャドウズ」より2分長いだけなんです。違いはそれしかないのに、『エレニア』はアルバムと呼ばれているわけです(笑)。

それはいいことを聞きました。「シャドウズ」は、音楽的な繋がりという意味で今作と似ていると思っていたんですよ。あなたのは、もっとフロア向けのシングルもありますし。

FP:どうして「シャドウズ」の話をしたのかといえば、当時はスタジオを持っていなかったので、あの作品はエレクトロニクスで作られているんです。1日だけスタジオを使える日があったので、ちょっとだけストリングスが入っていますけどね。だけどいまはスタジオが完成して、毎日ストリングスの録音ができる(笑)。これからはもっと演奏を取り入れていきたいです。

ちなみに「シャドウズ」のCDは出ていないですよね?

FP:出ていないですね。日本で海賊盤は出回っているかもしれない(笑)。CD化の話もしているんですけどね。

出さなくていいです(笑)。でも、『エレニア』はCDで聴きます。

FP:はははは。『エレニア』はバンドで作った作品なので、そのメンバーでヨーロッパとアメリカをツアーをする予定です。11人の大所帯ですよ。ドラム、ベース、ギター、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノ、トロンボーン、サクソフォン、クラリネット、フルート。このメンバーでクロアチアでライヴを行いました。まだボイラー・ルームにアーカイヴが保存されていると思いますよ。ツアーで日本に来れたらいいですね!

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