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interview with Floating Points

interview with Floating Points

物静かな熱意とジャズと

──フローティング・ポインツ、インタヴュー

野田 努    撮影:小原泰広   Nov 16,2015 UP

Floating Points
Elaenia
[ボーナストラック1曲収録 / 国内盤]

Luaka Bop/ビート

JazzAmbientElectronic

Amazon

 レコード文化がリヴァイヴァルしているとか、あれはもう終わったとか、ここ数年のあいだ正反対のふたつの意見があるんだけど、フローティング・ポインツを好きな人は知っているように、彼=サム・シェパードの〈Eglo〉なるレーベルは、ほぼアナログ盤にこだわって、自らのレコード愛を強く打ち出している。なにせ彼ときたら、12インチにせよ10インチにせよ、そのスリーヴには、エレガントで、風合いのある贅沢な質感の紙を使っている。実際、いまじゃ12インチは贅沢品だしね。
 昔は12インチなんていったら、ほとんどの盤にジャケはなく、レーベル面でさえも1色印刷が普通だった。12インチなんてものは、カジュアルで、ハズれてもいいやぐらいの気楽さがあった。が、いまでは12インチ1枚買うのにも気合いが必要だ。ええい、これを買ったるわい! うりゃぁぁぁ、とかいってレジに出しているのである。
 フローティング・ポインツの傑作「Shadows」(2011年)を買ったときもそうだった。ええい、買ったるわい! うりゃぁ、これぐらいの気合いがなければ、いまどき12インチ2枚組なんて買えたものではない。家に帰ってからもそうだ。うりゃぁぁぁ、気合いを入れながらビニールを開ける。レコード盤を取り出し、ターンテーブルの上に載せる。針を下ろし、ミキサーの音量をそうっと上げる。さあ、キミは宇宙の旅行者だ。

 ようやく出るのか……そうか、良かった良かった。現在29歳の、見るからに大学院生風のサミュエル・シェパード、デビューから6年目にして最初のアルバム『Elaenia』は、待望のアルバムだ。ベース好きもハウス好きもクラブ・ジャズ好きも、みんながこれを待っていたのである。この5年、レコード店で新譜を買っていた人のほとんどが彼の作品を知っている。ダブステップ全盛期のUKから登場した彼の作品は、同世代の誰よりも、圧倒的に洗練されているからだ。
 ディープ・ハウスとジャズ、アンビエントやクラウトロックまでもが折衷される彼の音楽は、彼のレーベル・スリーヴ同様にエレガントで、若々しく、そしてロマンティックだ。さあ、キミも気合いを入れてレコード店に……いや、この度は、彼の作品が初めて、そう、初めてCDで聴けるのだ。まあいい。家に帰って袋を破り、再生ボタンを押すんだ。いまもっとも陶酔的で、コズミックで、ファンタスティックな冒険が広がる。あるいは、こんな説明はどうだろう? フローティング・ポインツとは、フライング・ロータスより繊細で、カール・クレイグよりもジャジー、ジェイミーXXよりも音楽の幅が広い。



 以下にお見せするのは、去る9月に彼らが来日した際の取材記録である。彼がいかに新しくて古い男なのかよくわかるだろう。取材日は、安保法案が可決された日の翌日だった。

僕には政治的な部分がありますし、世界の痛みも感じます。いま起こっていることに怒りを覚えることだってあります。それが自分の音楽に直接関係しているとは断言できませんが、何かしらの形で影響はあるでしょう。反民主的なものと日々戦うひとびとの姿は、僕の心を揺さぶります。

昨日の日本はけっこう大変な1日だったんですけど、ご存知ですか?

フローティング・ポインツ(Floating Points、以下FP):はい。テレビでデモの様子を見たことがあります。

どこのテレビですか?

FP:イングランドのニュース番組です。

今回のあなたのアルバムからは、70年年代初頭のハービー・ハンコックであるとか、チック・コリア、あるいはスピリチュアル・ジャズみたいな要素を感じ取りました。

FP:ははは(笑)。そうですか。

あの頃のジャズは、彼らが生きていた当時の社会やポスト公民権運動みたいな政治的なものと、どこかで繋がっているものですけれども、あなた自身の音楽は社会とどのように関連づけられると思いますか?

FP:えーっと……。

最初から大きい質問でごめんね(笑)。

FP:いままでで一番難しい質問ですね。「イエス」と答えることもできるでしょう。ぼくには政治的な部分がありますし、世界の痛みも感じます。いま起こっていることに怒りを覚えることだってあります。それが自分の音楽に直接関係しているとは断言できませんが、何かしらの形で影響はあるでしょう。反民主的なものと日々戦うひとびとの姿は、ぼくの心を揺さぶります。
 今回の日本の出来事だって同様です。こういったことは必ず自分の音楽へ感覚的に還元されると思います。ですが、それが感情のサウンドトラックであっても、特定の政治的なものに対する音楽であるとは言えません。このアルバムにはアメリカの銃社会に着想を得たものがあります。幼い少女が自分の父親を誤って撃ってしまったという事件がありましたが、それはぼくにとってかなりショッキングでした。そのときに感じた悲しみを曲にしたんです。
 このように社会の出来事はぼくの音楽に影響をもたらします。ニュースは毎日必ず見ますし、国内外の出来事に関心があります。でも音楽的に、その出来事からというよりは、もっと「大きなスケール」で影響を受けています。

良き回答をありがとうございます。

FP:こちらこそ素晴らしい質問をありがとうございました(笑)。

ぼくは、初期の「ヴァキュームEP」(2009年)からすごく好きで、あなたの〈イグロ・レコーズ〉のリリースをコレクションしているくらいなんです。だからいつアルバムを作るんだろうとずっと思っていたんですが、すっごく時間がかかりましたね。アルバムってことで、気合いが入りすぎていたのでしょうか?

FP:大学の博士課程に在籍していたことがひとつの理由ですね。自分の頭が科学に集中した時期で、音楽のリリースは趣味のようなものになっていました。なのでアルバムの“大きな物語”に意識を傾けるのが難しかったんです。博士課程に進んでからの4年間でも、音楽はわずかですが作っていました。それで去年の4月に修了して、それから3、4ヶ月でアルバムを完成させたので、制作期間が長かったわけではないんです。同時にふたつのことができない不器用な人間なんです(笑)。

趣味とおっしゃいましたが、あなたにとって音楽が趣味でなくなったのはいつですか?

FP:博士課程に進む前から音楽を作っていて、自分の〈エグロ〉からリリースしていました。音楽活動は単純にすごく楽しいですからね。Ph.D.の研究が進んでいくうちに、レーベルも自分の音楽もどんどん成長していきました。音楽がちゃんと軌道にのりそうだったので、3、4回は博士課程を断念しようかとも考えました。ただ研究の終わりが見えてきていたので、投げ出さずに頑張ることにしたんです。その間は、音楽とPh.D.が戦いを繰り広げていましたね。
 それで博士課程が終わったときには、〈エグロ〉は立派なレーベルになっていたので、心境は前の続きをやるという感じではありませんでした。なので、Ph.D.を取得した次の日からスムーズにぼくはフルタイムのミュージシャンになれたのかもしれません。

あなたの神経科学の研究とあなたの音楽は完全に別のものと考えてもいいですよね?

FP:全然違います。科学と音楽がどう繋がっているのかよく訊かれるんですが、実はそれは自分にとっても謎です(笑)。

ははは(笑)。でも、フローティング・ポインツというネーミングは、サイエンスからきているかと思ってました。

FP:とってもつまらない回答になってしまうのですが、自分が音楽を作るときに使っていたソフトから採りました。そのうちの設定に「フローティング・ポインツ」と表示されていたんです(笑)。

取材:野田努(2015年11月16日)

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