ele-king Powerd by DOMMUNE

Home >  Reviews >  Album Reviews > The Invisible- Patience

Album Reviews

The Invisible

AlternativeJazz

The Invisible

Patience

Ninja Tune / ビート

Tower HMV Amazon

小川充   Jul 26,2016 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 昨年のフローティング・ポインツの『エレーニア』にはいろいろなミュージシャンがフィーチャーされていて、ゾンガミン名義で活動する在英邦人のススム・ムカイ、メルト・ユアセルフ・ダウンやオウニー・シゴマ・バンドなどで演奏するトム・スキナーに混じり、ジ・インヴィジブルのレオ・テイラーがドラムで参加していた(ちなみに、彼は英国が誇るジャズ・シンガーのノーマ・ウィンストンの息子で、つまり父親は昨年他界したピアニストのジョン・テイラーである)。その後のツアーでもレオはバンド・メンバーとなっており、フローティング・ポインツのライヴ・サウンドには欠かせない存在のようだ。両者の間にいつ頃から交流が生まれたのかはわからないが、恐らくフローティング・ポインツが生楽器演奏を多く取り入れるようになった2010年あたりのことではないだろうか。2012年にはジ・インヴィジブルの“ウィングス”という曲をフローティング・ポインツがリミックスしていたのだが、この曲は彼らの2枚めのアルバム『リスパ』からのカットだった。だから、今回のジ・インヴィジブルの新作『ペイシェンス』はそれから4年ぶりのアルバムとなる。

 ジ・インヴィジブルはレオのほかに、ギターとヴォーカルのデイヴ・オクム、ベースとシンセのトム・ハーバートからなるUKのトリオだ。トム・ハーバートはポーラー・ベアというジャズ・バンドのメンバーでもあり、またデイヴとトム・スキナーといっしょにジェイド・フォックというユニットで活動していた。それぞれセッション・ミュージシャンとしても活動し、アデル、セント・ヴィンセント、グレース・ジョーンズ、ジェシー・ウェア、ベック、オノ・ヨーコ、ジャック・ディジョネット、マシュー・ハーバート、ルーツ・マヌーヴァ、ホット・チップ、ジェイミー・ウーン、ゾンガミンなどの演奏に参加する。ジ・インヴィジブルは音楽的にはインディ・ロックにカテゴライズされることが多く、レディオヘッドからジ・エックスエックス、フォー・テットにロケットナンバーナインなどを繋ぐ位置にあるバンドと言えるだろう。だから、フローティング・ポインツの音楽性にも共通するところがある。2009年にファースト・アルバム『ジ・インヴィジブル』をマシュー・ハーバートの〈アクシデンタル〉からリリースし、マーキュリー・プライズにもノミネートされた。2012年には〈ニンジャ・チューン〉に移籍して『リスパ』をリリース。この『リスパ』制作期間中にデイヴの母親が亡くなり、それを反映したメランコリックな要素が強いものだった。また、アコースティックなバンド・サウンドを軸としつつ、エレクトロニック・サウンドも取り入れたのがジ・インヴィジブルであるが、『リスパ』はそのエレクトロニックな要素がより増えていたように思う。一部で用いたアフリカ音楽のモチーフも新鮮だった。

 この新作『ペイシェンス』は、初めて外部からのゲストを交えたアルバムとなっている。フローティング・ポインツことサム・シェパードが『エレーニア』の返礼で参加し、デビュー時から演奏や作曲でサポートしてきたジェシー・ウェアもコーラスに加わる。ほかに新進シンガーとして注目を集めるロージー・ロウ(今年ファースト・アルバム『コントロール』を発表したばかり)、オルタナティヴなロック・シンガー&ギタリストのアンナ・カルヴィ、ニュージーランドのサイケ・ポップ系シンガー&ギタリストのコナン・モカシンが参加しているが、ロージー・ロウとアンナ・カルヴィもデイヴ・オクムがプロデュースをする間柄だ。そうしたゲストとのコラボにより、内省的な色が強かった『リスパ』に比べ、ずっと外に開かれたアルバムという印象が強い。もっと平たく言えば、彼らにしては「ポップ」なアルバムになっているのだ。ジェシー・ウェアが参加した“ソー・ウェル”などは、実際ジェシーのアルバムに入っていてもおかしくない曲だ。エレクトロニック色もより強くなり、“ベスト・オブ・ミー”のようなニューウェイヴ・ディスコ~アーリー・ハウス的な曲もある。“セイヴ・ユー”はじめ、ロージー・ロウが参加する“ディファレント”、アンナ・カルヴィ参加の“ラヴ・ミー・アゲイン”は、いままでの彼らにはあまり見られなかったファンク色が見られる。こうしたファンク色についてはディアンジェロの『ブラック・メサイア』からの影響が見られるが、デイヴはアルバム制作に先駆けてしばらくロサンゼルスに滞在し、そこでこうしたファンクからLAビート・シーンのサウンドをいろいろと吸収し、作曲を行っていったようだ。

 いままでの彼らの作品にはダークなイメージのものが多かったが、“ライフ・ダンサーズ”や“メモリーズ”には軽やかな浮遊感があり、コナン・モカシン参加の“K・タウン・サンセット”もコナンの持味のフワフワしたソフト・サイケ感が広がる。アルバム全体を通じて明るくてポジティヴなイメージが感じられるのは、やはりデイヴがLAで吸収した空気感と無縁ではないだろう。もちろん、ジ・インヴィジブルなので普通のポップ・アルバムというわけではなく、明るいといってもイギリス人特有の屈折感が消えることはないのだが、彼らの中で何か変わったことはたしかだろう。個人的にはブラインア・イーノとの3部作を経て、また新しいスタートを切った『スケアリー・モンスターズ』の頃のデヴィッド・ボウイに似た印象を持つアルバムだ。

小川充