「UR」と一致するもの

Traxman - ele-king

 8歳といえば、日本では小学2年生だ。シカゴのトラックスマンは、小2か小3のときにDJをはじめているという。早熟というには度が過ぎているように思えるが、ブラック・コミュニティではそれだけDJの地位が高いのも事実だ。子供にとっても憧れの存在。うちの子供はいま7歳だけれど、家に2台のターンテーブルとミキサーがあっても、はっきり言ってまだDJという存在すらよくわかっていない。この文化に触れさせるため、メタモルフォーゼに連れて行ったりとか、自分なりに努力はしているが、これは僕の教育の問題ばかりでもないだろう。日本社会全体として、まだDJの地位が欧米にくらべて低いのだ。
 たとえばデトロイト・テクノの連中は、毎年8月に、デトロイト川に浮かぶベルアイルという島で、子供のためのフェスティヴァルを開いている。デリック・メイ、UR、ムーディーマン、ホアン・アトキンス、テレンス・パーカー......ビッグネームたちがみんなで協力しあっている。今年ですでに7回目で、小学生たちにDJカルチャーとテクノ/ハウス・ミュージックの面白さを伝えているのだ(入場料もたしか1500円ぐらい)。8歳の子供がローランドのシンセサイザーに興味を持って、ラップトップと同時にターンテーブルとミキサーを操れたとしても不思議ではない。

 トラックスマンにとっての最初のアルバムは、ベテランDJだけあって、『フライト・ミュージック』にくらべて洗練――この言葉ほどフットワークに似合わないものはないけれど、敢えて言えば――洗練されているように聴こえる。おそらくは本能的に生まれたであろうフットワーク/ジュークのリズム・パターンを対象化し、咀嚼しているのだ。曲によってはメロウなサックスやソウル・ヴォーカルまでミックスされている。それが違和感なくまとまっている。
 日本盤のライナーにはトラックスマンのインタヴューが載っている。面白いのは、彼がフランキー・ナックルズやロン・ハーディの時代のことを知っていることだ。たしかに『ダ・マインド・オブ・トラックスマン』には、ディスコからハウスへの時代の記憶がある。そして、フットワーク/ジュークの高速ハイハットやスネアからはずっと遠い昔のジャズのドラミングの記憶を喚起させる。そういう意味でこのアルバムは、殺気立つフットワーク/ジュークの攻撃性、DJダイヤモンドの『フライト・ミュージック』における破壊的な展開とは別の方向性を見出している。マッドリブめいたループ使いもあるし、ジェフ・ミルズのようなストリングスもある。ゲットー・ハウスならでのファンクネスがあり、伝統的なブラック・ミュージックとしての光沢がある......また、何よりもここには控えめながら性的衝動がある。そう、ディスコ/ハウスの記憶どころではない、現在進行形の衝動である。エロティシズム......、これもまたゲットー・ハウスからフットワークに受け継がれた重要な遺伝子だ。
 もちろん『ダ・マインド・オブ・トラックスマン』はフットワークのアルバムだ。ループするソウル・ヴォーカルの向こう側で、メロウなジャズのサックスの傍らで、激しい倍速のマシン・ビートが、分解されて鳴っている。アルバムのところどころで、盟友DJラシャドほど露骨ではないにせよ、性へのほとばしりも顔を出す。8歳が聴くにはまだまだ早いが、あと5年も経てば毎日聴いているはずだ。

HYPERDUB EPISODE 1 - ele-king

 歴史は繰り返す......ではないけれど、90年代後半のブロークン・ビーツが出てきた頃に似てきているのが現状。ダブステップがメインストリームになって、ブローステップが出てきた途端にアンダーグラウンド回帰がはじまっている。〈ハイパーダブ〉からキング・ブリットの作品が出ていることはその象徴のように思える。かつて、ブロークン・ビーツを先導した4ヒーローのふたりも復活している。
 しかし、そのいっぽうで、ハイプ・ウィリアムスとロレール・ヘイローといった、おそらくこれまでの多くの〈ハイパーダブ〉のファンが聴いてこなかったであろう、(インディ・ダンス/チルウェイヴ系のリスナーが追っていた)〈ヒッポス・イン・タンクス〉のアーティストを引っ張ってきているのが、最近のこのレーベルの興味深い動向だと言える。
 マンネリズムに陥っているダブステップにおいて、コード9はどんな手を打ってくるのだろう。ハウスとグライムをたくさんかけるのだろうか......。そしてジュークとか......。ハイプ・ウィリアムスはいったいどんなライヴをやるのだろう......、しかしサブウーファーを追加するくらいだから、とくにキング・ミダス・サウンドあたりは、相当な低音を出すつもりなんでしょう、いずれにしても、興味は尽きないですね!

 

東京 2012/6/8(FRI) 代官山UNIT
HYPERDUB EPISODE 1
featuring
KODE9 | KING MIDAS SOUND
DVA | HYPE WILLIAMS(Dean Blunt and Inga Copeland)
QUARTA 330 | AO INOUE | DJ KENSEI and much more

OPEN/START 23:00 前売TICKET¥3,800
※20歳未満入場不可。入場時にIDチェック有り。
必ず写真付き身分証をご持参ください。
You must be 20 and over with photo ID.

INFO: BEATINK 03 5768 1277

大阪 2012/6/9(SAT) CONPASS
OPEN/START tbc 前売TICKET¥tbc
INFO: tbc 協力: ZETTAI-MU (https://www.zettai-mu.net)

企画制作:BEATINK
INFO: BEATINK:03-5768-1277[www.beatink.com]

田我流 - ele-king

枯死していく風景のなかで 文:竹内正太郎

田我流
B級映画のように2

Mary Joy Recordings

AmazoniTunes

 序盤からオーヴァー・ペース気味のライヴ・パフォーマンス、だが一向に止まらないラップ、次から次へと吐き出される言葉、語られる思い、求めてやまないオーディエンス、 DJが落とす雷か発破音のようなビート......5月4日27時、私は渋谷〈Glad〉にいた。終盤、バースが丸ごと吹っ飛ぶほどの充実した消耗の中で、ますます発熱していくフロアをふと見渡すと、前列の方にいた、メガネをかけた同世代くらいの女性が目を引いた。凡庸な観察をすれば......彼女は、およそヒップホップを聴くタイプの女性には見えなかった(客観的に言って、筆者もそうだろう)。しかし、男性陣のフィジカルなモッシュのすぐ後ろで自由に、口元に微笑みを浮かべながら、いかにも伸び伸びと踊る彼女は、ヒップホップのビートと、パワフルなラップを切実に欲していたように見えた。言わば彼女は、会場全体のノリや、ラッパーの意図的な煽りとは無関係のレベルで、ただ自分自身のために、自らの人生のために踊っていたのだと思う。本人が喜ぶ形容ではないかもしれないが、その踊りはとても......そう、とても美しかった(誰が彼女からダンスを奪うのか?)。

 インディペンデント・ヒップホップ・イヴェント、〈INNOVATION)〉のオーガナイズ。無料での入場条件が事前に告知・ツイートされ、実質フリー・パーティのようになったイヴェントだ、何が彼女をあの会場に呼んだのかはわからない。だがやはり、田我流その人が呼んだのだと思う。「いま日本語ラップでこんなに盛り上がるライヴってねーんじゃねえの?」――ヤング・Gがそう煽るように、会場内は強固な空気が支配していた。だがそれは、映画『サウダーヂ』(富田克也監督)で田我流らが演じたアーミー・ヴィレッジが少しずつ巻き込まれたような、誰かを排除するための強固さではない。「ここにいる全員が原発反対ってことはないと思うし、それでいいと思う」――彼は震災後のディスコミュニケーションに、言わばより大きな寛容さをもって対峙しようとしていた。「未来なんかねえ(No-Future)」というパンク・ロックの逆説的な態度があるが、田我流は未来の変化を切望し、そのために言葉の最短距離を選ぶ。 SNSが包囲する諸縁に尽くすことで、個人的な幸福をある程度は堅守できるような時代にあっても、放置した未来がいまより悪くなるというのなら、彼はただまっすぐに声を上げるのだ。

下らねーシーンより目の前の危機
国は民を守らねー悪魔は無慈悲
今なら見える何を成すべきか
今なら見えるだろ? 何が必要か
"Resurrection"

 音楽的には、本作『 B級映画のように2』は総合度の高い作品である。ヤング・Gの作曲とプロデュースは、トラックとしてはサンプリング・ベースからバンド演奏まで、そして趣向としてはサウス・アレンジから中南米情緒まで、というように、本作にオムニバス作品ほどのふり幅を与えている。だが、前作『作品集 JUST』(2008 )と本作を重ね、透かして見てみると、そこにはやはり、主題という点でも大きな膨らみが見受けられる。ごく抽象的に言えば、富田が『サウダーヂ』で点描し、忌野清志郎がかつて歌ったバラバラ、言わば剥き出しのディスコミュニケーションと、田我流には向き合う準備があるのだ。

 さて、こういう典型の物言いをすると、反発や失笑があるだろうが、言わせてもらう。田我流は基本的には地方都市のレプリゼンターである。山梨県旧一宮町という、実に「見えにくい」場所の告発者として、彼はそもそもマイクを握っている。例えば、市町村合併、 TSUTAYA、BOOK-OFF 、ドン・キホーテ、乱立するショッピング・モール、大量の車を吸い込むパチンコ屋、閉ざされるシャッター、客よりもキャッチが多い夜の繁華街、何をするでもなく駅前にたむろするヤンキー......現在の渋谷を細かく因数分解したような繁栄の断片が、いま地方都市にはなし崩しにばら撒かれている。シネマテークたかさき( https://takasaki-cc.jp/)で『サウダーヂ』を観た後、私は人通りのない夜の高崎市が醸す映画世界との既視感で完全にバッド・トリップしていた(目の前をチープな単車が騒音をまき散らして走り去る......)。田我流はいち生活者として、そうした類型的な地方都市の退屈さを否定しないが、『サウダーヂ』での主演(あるいは 3.11の経験)は、その個人的な回路から、その背後に潜むより大きな社会圏へと接触していくための経験だったと言える。

 そして、この『 B級映画のように2』は、田我流というラッパーの二律背反するモチベーションを反映した複雑な作品でもある(それはブックレットの巻頭言としても綴られている)。 stillichimiyaを逆フィーチャーした"やべ~勢いですげー盛り上がる"を、仮に表題どおりの乱痴気騒ぎとするなら、インダストリアル・ロック調の"ロンリー"の深刻さは同一人物とは思えないほどの距離を跨いでいる(実際、田我流は声色をかなり使い分けるラッパーでもある)。現在分裂中のSIMI LAB から3人が参加した"ハッピーゲーム"はサラリーマン社会の緩やかな風刺。アルバム冒頭の"パニックゲーム"は、もはやナイーブな正義がいっさい成り立たないという、映画『ダークナイト』(2008)が抱え込んだ帝国の苦悩を楽曲内に移植しつつ、ヒップホップの戦闘性の中で愉快犯を気取るが、 ECD と組んだプロテスト・ラップ" Straight outta 138"ではその戦闘性を外に向けている。敗戦の象徴、世界戦争のアイコン、そうした核を平和的/科学的に克服しようとする二十世紀的(成長願望的)な想像力に対して、ハッキリとその有効期限切れを宣告する。某昭和歌謡曲からバトンを一方的に受け取る"あの鐘を鳴らすのは、、俺"は、分厚いシンセが高揚するヒップホップのチャンピオン・ソングだが、さらに深く掘り下げていくと、物語は"夜に唄えば"の内省に行き当たる。ひとりのヒーローとデカい愛ではなく、無数の小さな愛、その孤独な誠実さを想って、アルバムは終幕する。

これ以上は嘘はいらない 捨てよう
手探りで別の道をさ 探そう
きっと何かが変わりだす そっと
きっと何かが変わりだす そっと
"夜に唄えば"

 3.11後の「急速に失われていく社会」と、 3.11以前から「緩やかに失われていた社会」が互いに浸食し合っていく、 2012年というこの微妙なポイントで、実際的、物理的、行政的な復興の他に、希望はどのようにして回復しうるのか? そう、緩慢かつ急速に枯死していくこの風景のなかで――。田我流が立ち上げた問題意識はたぶん、そのようなものだと思う。結局のところ、アートは問題提起性以上のものを提出できるのだろうか? 教育に対する具体的な言及があるとはいえ、本作も基本的には問題提起役に徹している、それこそ爆弾魔のように。「たまに思うよこの世は地獄で」"夜に唄えば"、田我流はだが、そこをどうにかして破りたがっているように見える。彼が操守に生きるというのなら、それは長い戦いになるだろう。ボーナス・トラック"教訓・"(加川良、 1971)のカヴァーは、希望を語ろうとすれば摩耗することがあまりにもわかり切った時代に、それでもストラグルすることを選んだ人たちに対する彼の優しさだろうか。

 ここでいちど、冷静にピンを打つなら、ほぼすべてのMCで反射的・爆発的に盛り上がるあの夜のライヴの非日常的な一体感には、少しばかり危うさを感じたのも事実だ。そこでは、このアルバムの抱える複雑な感情が、良くも悪くも吹っ飛ばされていたように思たのだ。やや欄外になるが、すでに17万再生を超えている"ゆれる( EVISBEATS feat. 田我流)"のミュージック・ヴィデオ、その4分43秒過ぎが秀逸だ。ゼロ年代、前野健太が「だれかのいとなみ/ぼくはしらない」"だれかの"と歌った、断絶された他者への想像力を、彼らは再び強く掻き立てている。日本語ラップという文化圏の外側、その圏外に暮らす人たちとの終わらない対話にこそ、田我流の目指す未来はあるのだと思う。私が期待するのはその一点だ。例えば、地方の片隅から都市のざわめきに耳を傾けること。異なる物語を生きる人びとに、届くかわからない手紙を出し続けること。繋がりの時代におけるディスコミュニケーションに、より大きな寛容さで挑み続けること。田我流の表情を見ていると、何だか前向きな予感さえしてしまう。これは何かの達成ではないが、少なくとも何かの始点、辛抱強い再出発だ。そう、多義的な作品集『 B級映画のように2』は、決定的に変化したはずの、だが驚くほど変わらないこの時代に、どこかにいるハズの仲間(それは地球の裏側にしかいないかもしれない)を探して強くもがいている。底知れぬ分断、バラバラ、あるいは泥の河の底で――。


文:竹内正太郎

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ティス・イズ・ア・レベル・ミュージック 文:中里 友

田我流
B級映画のように2

Mary Joy Recordings

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無理っていっそ言っちまいな
もうダメって認めて行くぜ、一から
"Straight out 138"

 昨年夏に公開されてから実に長いあいだロングランを続けている映画『サウダーヂ』。東京はGWの渋谷オーディトリウムでのアンコール上映最終回をもって一応の終了を迎えた......のだが、この回は早々に完売、遅れて観に行った僕は2時間半強、立ち見するハメに......(7月より再度上映する予定)。知らない人のために簡単に記しておくと、『サウダーヂ』は、富田克也監督によって、地方都市・山梨県甲府市を舞台に生活を送る日雇い労働者や移民を描いた作品で、登場人物は皆ここではないどこかに叶わない夢を託し、心の郷愁を求めている。

 そんな『サウダーヂ』でもひときわ存在感のある演技が素晴らしかった、田我流の『B級映画のように2』について。率直に言うと、僕は震災以降というタームの日本語ラップ作品のなかでは、今作は重要なコンセプトを持った作品だと思う。映画主演を経たことは彼に大きなインスピレーションを与えたらしく、トレーラーやらタイトルもそのものズバリで、物語性のある作品構造を持ち、同時に批評的ともいえる。B級という考え方やセンスもヒップホップと親和性は高く、これも重要なポイントと言えるかもしれない。

 コンセプトは何かと言えば、「自分殺し」だ。社会や周囲との対立や屹立を描くとともに、自分の弱さ――それまで国にお任せ、無関心で突き通していたのが3.11以降、初めて命が危険に晒されることによって露わになった自分たちの愚鈍さ、無力感のようでもあって......これは彼のインタヴューでも確認できるのだけど、彼は本作をつくることで、なかばセラピーのような浄化作用を自身にもたらしたようだ。
 本作のちょうど中間に並ぶ楽曲は、後半にかけて展開されるカタルシスを生むための重要な役目を果たしている。グロテスクな描写が印象的な"ロンリー"、実際に「自分殺し」を決行する"Resurrection(復活)"、そして"愛のテーマ"だ。これらの並びは、ある種の苦難を経験したからこそ表現できる内容だ。
 例えば"Straight out 138"。自身をアナーキストと称し、かつて「言う事聞くよなヤツらじゃないぞ」とラップしていたECDが、具体的な目的を持った反原発デモを継続中の現在では「言う事聞かせる番だ、オレたちが」とラップしていることにも言える(2月20日に行われた経産省前原発再稼働抗議で、ECDはこのバースをラップした)。「自分殺し」とは何なのか。言い換えて言うならば、まずは「自分を認めること」なのだということを田我流は強調し、繰り返す。冒頭の一節もそのなかのひとつだ。

 こうしたテーマを説得力をもって聴かせるのは難しい。たんに言葉を乗せるだけでは説教じみてしまうし、メタファーもときとしてメッセージを薄めてしまう。そこを『サウダーヂ』で天野猛という微妙な役柄を演じきった彼が、自らを自作自演し、エモーショナルにまとめあげたところに、彼のアーティストとしての地力を感じる。
 同時に、彼はレベル・ミュージックとしてのヒップホップの可能性を3.11から1年を経たいま、再提起している(この部分においてはTHA BLUE HERBの最新作にも同じことを感じ得たのだけど)。今作において言うならば、"Resurrection"を経たからこそ、"あの鐘を鳴らすのは、、俺"は感動的なクライマックスとなっている。貧しさのなかから生まれて隆盛を極めたヒップホップ・カルチャーと自分を重ね合わせながら、「ヒップホップにはやっぱ栄光が似合う」と高らかに歌うラインに泣けてくるのも、その曲が表現している葛藤があったからこそだ。

 本作にはひとつ仕掛けがある。それは隠しトラックとして収録されている加川良の代表曲なプロテスト・ソング"教訓I"のカヴァーだ。これはボーナストラックながら、田我流という表現者の本質を掴むキモだと思っていて、あくまで現実から目をそむけずに理想を掲げる本編を補完するかのように、「死んで神と言われるよりも/生きてバカと呼ばれましょうヨネ/きれいごと ならべられた時も/この命 捨てないようにネ/青くなって しりごみなさい/にげなさい かくれなさい」と、逃避もひとつの手段だとしっかり意見し、バランスをとっている。楽曲と彼の歌声とが素晴らしくマッチしていて、ブルージーで味わい深い曲に仕上がっている。
 賞味50分、カオスを経てネガポジ逆転、自分自身に戻るという流れをもった本作は、ひとつのストーリーテリングとしても素晴らしく、社会的関心を高めることの契機としても、僕は評価したい。大きな岐路に立たされている僕たちが聴くべき、エモーショナルで、清々しく、美しいアルバムだ。


文:中里 友

Shop Chart


1

Ruf Kutz

Ruf Kutz Ruf Kutz #5 Ruf Kutz / UK / 2012/5/31 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!LTD.250pcs.!!絶好調<RUF KUTZ>第5弾!こちらシリーズ史上最高傑作なのでは・・

2

Kenny Dixon Jr

Kenny Dixon Jr Ultra Rare Jan Remixes & Edits 3 Unknown / FRA / 2012/5/30 »COMMENT GET MUSIC
入手困難なMOODYMANNレア・ワークスをコンパイルしたMOODYMANN公認と思われる「ULTRA RARE JAN REMIXES & EDITS」第3弾!今回も垂涎級の極上レア・トラックが並びます。謎の初アナログ化トラックも!?

3

Craig Huckaby

Craig Huckaby Black Music / Child Of The Sun Sound Signature / US / 2012/5/23 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!<SOUND SIGNATURE>新作はあのMIKE HUCKABYの実兄CRAIG HUCKABYにフォーカスした興味深い一枚。黒人音楽愛に満ちたその名も"BLACK MUSIC"の初アナログ化&PIRAHNAHEADとの共作"CHILDREN OF THE SUN"をカップリング!

4

J Dilla

J Dilla Jay Dee's Revenge / Birthright Ruff Draft / US / 2012/5/31 »COMMENT GET MUSIC
間もなくリリースされるJ DILLA未発表音源を集めたニューアルバム「REBIRTH OF DETROIT」から先行10"シングル!リミテッド・クリアヴァイナル!

5

Mental Remedy feat. Carlos Roberto

Mental Remedy feat. Carlos Roberto Children From Bahia The Remixes Sacred Rhythm Music / US / 2012/5/20 »COMMENT GET MUSIC
JOE CLAUSSELLバンド=MENTAL REMEDYによる極上ラテン・フュージョン・ハウス!アコースティックなオリジナルは勿論、密林アマゾンを駆け抜けるB面テイクも◎

6

V.A.

V.A. Deep Classics Amour / FRA / 2012/5/30 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!第1弾/2弾共に絶好調の注目新興レーベル<AMOUR>第3弾!"LOVE & HAPPINESS"使いのA-1を筆頭に5 KING'S a.k.a. MR. K ALEXI SHELBY、DJ AAKMAELらによる極上ハウス・トラック搭載。

7

Nick Sole

Nick Sole Flower Soil Mojuba / GER / 2012/5/30 »COMMENT GET MUSIC
<MOJUBA>看板NICK SOLE新作!ダビーな陶酔感に包まるメディテーショナル・スロー・トラック"MISSION OF LOVE"◎

8

Will Sessions

Will Sessions True Story / Dub Rock Funk Night / US / 2012/5/30 »COMMENT GET MUSIC
BLACK MILKインスト・カヴァーにて恐らくキャリア初(?)となるレゲエ/ダブ・アプローチの"DUB ROCK"!USのヒップホップ/生音ファンクなグッド・レーベル<FUNK NIGHT>から主軸WILL SESSIONS新曲カップリング7"。

9

Girls We Like / D Bo

Girls We Like / D Bo The Do-Over Vol.4 The Do-Over / US / 2012/5/17 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!上質ビートダウンをカップリングした話題作。LAのサンデーアフタヌーン・パーティー代表格「DO-OVER」より派生したアナログ・ レーベル第4弾!

10

Los Miticos Del Ritmo

Los Miticos Del Ritmo Los Miticos Del Ritmo Soundway / UK / 2012/5/11 »COMMENT GET MUSIC
QUANTIC指揮の元、現地凄腕ミュージシャンからなる"QUANTICと神話の打楽器隊"、待望のフル・アルバム!伝統的な演奏形態を踏襲し つつも豊潤な音楽観と洗練のアレンジでアップデートした2012年型ハイブリッド・クンビア極上盤◎

Chart by JET SET 2012.06.04 - ele-king

Shop Chart


1

Calm Presents K.F.

Calm Presents K.F. Dawn Ep (Music Conception) »COMMENT GET MUSIC
4月発売のCalm Presents K.F.名義でのアルバム『From Dusk Till Dawn』からシングル・カット第二弾。本作もハーフスピード・カッティングを施した珠玉の一品です。

2

Beck

Beck I Just Started Hating Some People Today (Third Man) »COMMENT GET MUSIC
Jack WhiteのThird Manからの限定7インチ!!

3

Pacific Horizons

Pacific Horizons Re-Illumination Series Volume 1 (Pacific Wizard Foundation) »COMMENT GET MUSIC
Laのニュー・バレアリック人気ユニット、Pacific Horizonsによる2011年リリースの最新オリジナル・トラック2作をDj Cosmo & Yam Who?、Split Secsがリミックス。

4

Still Going

Still Going Walk That Shit Party (Still Going) »COMMENT GET MUSIC
Eric Duncan(Rub N Tug) x Liv Spencer(House Of House)の最強コンビStill Goingが手掛ける注目のレーベル第2弾作品!

5

Keep Shelly In Athens

Keep Shelly In Athens In Love With Dusk / Our Own Dream (Forest Family) »COMMENT GET MUSIC
チルウェイヴ~エレクトロニカ~ダウンビートの枠を超えるサウンドで絶大な人気を博すギリシアの男女デュオ。2枚のレアEpがForest Familyから嬉しすぎる再登場!!

6

Sweatson Klank

Sweatson Klank Elevate Me (Project Mooncircle) »COMMENT GET MUSIC
L.a.名門Alpha Pupからのリリースでもお馴染みTakeによるダブステップ通過以降の新プロジェクトSweatson Klank第1弾。当店大人気Project Mooncircleからの超話題作です!!

7

King Midas Sound

King Midas Sound Without You (Hyperdub) »COMMENT GET MUSIC
レジェンドThe BugことKevin Martinと日本人女性ヴォーカルHitomiのBlack Chowコンビに詩人のRoger Robinsonを加えた人気トリオの楽曲を、これ以上ない豪華メンバーが仕立て直した超話題盤です!!

8

Ital / Magic Touch

Ital / Magic Touch Anywhere You Want Me / From A Dream (100% Silk) »COMMENT GET MUSIC
100% Silkを代表する2人がソロで初顔合わせ。それぞれのオリジナルとお互いのリミックスを披露。どちらも気合の入りまくったミュータント・ディスコです!!

9

Arsenal

Arsenal One Day At A Time Ep (Play Out!) »COMMENT GET MUSIC
Hendrik Willemyns & John Roanからなるブリュッセルの古株ユニット、Arsenalによる昨年リリースの4thアルバム『Lokemo』から豪華リミックス・カットが新着!!

10

Lord Of The Isles

Lord Of The Isles Unthank003 (Unthank) »COMMENT GET MUSIC
Eneからリリースされた"Pacific Affinity"でも話題となったスコティッシュ・プロデューサーLord Of The Islesによる新作10インチ。

DJ SHO (Luv&Dub Paradise) - ele-king

82年よりキャリアをスタート。
高橋透氏、曽根氏らが在籍した伝説のDISCO六本木「TSUBAKI BALL(玉椿)」時代に「ラリー・レヴァン&ガラージサウンド」に出会い感銘を受ける。当時レジデンツだった「TSUBAKI BALL」にて85年よりDJ SONEと共にハウスサウンドオンリーの1オフパーティ「HOUSENATION」を手がけその後のクラブのあり方を示す。「TSUBAKIBALL(玉椿)」閉店後は活躍の場を求め全国を渡り歩き90年に念願のニューヨークへ移住。高橋透氏、DJ NORI氏がNY時代在籍した事で知られる「FUJIYAMA MAMA」にて長年レジテントDJとして活躍。15年のNEW YORKでのDJプレーを経て2005年に帰国後は「Luv&Dub Paradise」@神宮前bonoboを始め、実に20年以上ぶりに「HOUSE NATION since 1985」を静岡CLUB fourにて再開。また故郷姫路では「彩音」にもスタッフとして参加し、地元のCLUBでもレギュラーパーティーをスタートさせる。その経験からくる文脈に囚われない選曲と確かな技術で各地方にファンを増幅させ続けている。

Ring Of Fire Eclipse & Music 2012.5.26


1
Will Azada - Easy Does It - Mystical Disco

2
Shackleton - Touched - Woe To The Septic Heart !

3
Manmade Science - Phase - Philpot

4
Fushiming/Mamazu - Ride Music EP - Hole and Holland Recordings

5
Pirupa - Party Non Stop(DJ QU Remix) - Desolat

6
IORI - Moon - Phonica White

7
Rhauder - Acid Jam - Polymorph

8
DEADBEAT - Lazy Jane - Blkrtz

9
Mind Fair Presents....No Stress Express - Reach The Stars - Rough Cat Sounds

10
Psychemagik - Valley Of Paradise(Toby Tobias Remix) - Psychemagik

Desultory Choices 2012/5/29


1
Bruno Sacco - Deformed - Gravite

2
Alexey Volkov - Dust - Planete Rouge

3
Mike Dehnert - Avec - Fachwerk

4
Svreca - Obscur(Silent Servant Remix) - Semantica

5
Pillow Talk - The Real Thing - Wolf Aan Lamb

6
Katzuma - Life In The City - Kinjo Music

7
Dakini9 - Human Existence - Plan B

8
Alexey Volkov - Dust - Planete Rouge

9
Iori - Plateau - Bitta

10
Emilio Haro - Prrr Prrr - Radiaciones Armonicas

Ursprung - ele-king

 サード・アルバム『ブラック・ノイズ』で叙情派ミニマルのトップに躍り出たパンタ・デュ・プリンスが、古巣に戻って、同作にも参加していた写真家でワークショップのメンバーとしても知られるステファン・アブリーと新たに結成したミュージック・コンクレート-ミニマル・テクノ-クロスオーヴァーの1作目。ユニット名は「起源」を表し、アルプス山中で何度かセッションを繰り返し、自分たちでも「なんだろうね、これは?」と思うようなものが出来上がったという。ワークショップはちなみにマウス・オン・マースの運営するゾーニッヒから6作目と、いまのところ最後となる7作目をリリースしているクラウトロックの「はぐれ雲」。元はといえばパンタことヘンドリック・ヴェーバーが10年前に、まだハンブルグでステラというシンセ-ポップのユニットに加わっていた頃、ワークショップとは〈ラーゲ・ドー〉(ラドマット2000のサブ・レーベル)のレーベル・メイトだったことがふたりを近付けたらしい。

 鈴を転がすような柔らかい音が特徴的だった『ブラック・ノイズ』に対して、ウーシュプルンクは人を寄せ付けない緊張感のある音に支配され、なるほど「ギターをメインとしないドゥルッティ・コラム」というレーベルのアナウンス(https://www.kompakt.fm/releases/ursprung)もそれなりに頷ける。それこそフェネスやティム・ヘッカーなど、快楽的な音から遠ざかりはじめたゼロ年代初頭のエレクトロニカともオーヴァーラップするところが多く、このところヴォルフガング・フォイトが勢いを取り戻している感覚とも符号は合う。快楽主義に水を差すような動きは、レイヴ/テクノは何度も経験してきたことだし、結果的にはそれがダンス・ミュージックの幅を大きく広げてきたことも否めない。ハード・ワックスがはじめたダブステップのレーベル、〈ヒドゥン・ハワイ〉ではAnDがノイズ・ドローンに最小限のリズムを足すことでダブステップを成立させる試みなど、フォーマットの更新は常におこなわれている(ちなみにヴェーバーは2010年からゲイズ名義でノイズ・カセットを3本リリースしている)。

 とはいえ、『ウーシュプルンク』の85%はまだミニマル・テクノの範疇に収まっている。異様な物音にエレクトロのリズムが打ち込まれ、ギターのアルペジオが乱舞する「リジー」など、ややこしいことこの上ないにもかかわらず、観たこともない景色に連れ去られる感覚はレイヴ・カルチャーの王道からそれほどズレているとはいえないし、不安を煽るようなベース・ラインとシンセサイザーの合唱が異様なほど気分を左右する"ナイトバーズ"、多種多様なSEがこれでもかと詰め込まれた"イークソダス・ナウ"......と、繰り返し聴いていると『ブラック・ノイズ』からそれほど離れた作品ではないことが少しずつわかってくる。『ブラック・ノイズ』はいささか完成され過ぎたアルバムだったし、ひとりでは破れなかった完成度という名の壁をアブリーの力を借りて破壊したというのが実際のところではないだろうか。クラシック・ピアノと波の音が混沌としたイメージをつくりだすエンディングはあまりに荘厳で、彼(ら)なりの大袈裟なカタルシスの表現とも受け取れる。

Beach House - ele-king

 歌はつねにパフォーマンスであり、歌の言葉はつねに声に出して発せられる――声を運ぶものなのだ。(略)歌は詩よりも劇に近い。(略)
 ポップ・ソングでは、明瞭さではなく不明瞭な発声が歓迎される。そしてポップ歌手の価値は、歌詞にではなく、サウンド――歌詞にまつわる雑音――にかかっている。日常生活では、もっとも直接的で強烈な感情の表現は、あえいだり、うめいたり、笑ったり、泣いたり、などなどの、たんなる雑音と関わっている。感情の深さや真正しさは、言葉を見つけられないことによって計られる。「怖い」とか、「愛している」のような言葉になった表現だけでは、説明しようとしている心の状態には不適切に思えるのだ。これこそが歌がうたわれる第一の理由だ。そして、日々の生活で人びとは、雄弁家、女たらし、政治家、セールスマンなど、多舌の才に恵まれた人に不信を抱く。詩的であることでなく、不明瞭さこそ、ポピュラー・ソングの作詞家の誠実さの徴なのだ。
      サイモン・フリス『サウンドの力』(細川周平、竹田賢一訳)


 ヴィクトリアの歌は、まさにそのパフォーマンス、その不明瞭さにおいて圧倒的な生命力を持っている。彼女の声は中性的で(二コやマリアンヌ・フェイスフルの系譜)、そして実にありふれた、たわいものない主題を、しかし力強い、何か特別なものに変換する能力を持っているのだ。
 重厚なストリングス・サウンドがその感情の起伏をうまくサポートする。『ティーン・ドリーム』が出た2010年の1月、個人的に人生の崖っぷちに立っていた時期でもあってので(まあ、つねにそうだとも言えるが)、僕は新幹線のなかで、流れる景色を追いながら初めてそのアルバムを聴いたときに、おそろしく深い感動を覚えたのである。ポップにおいては「何が歌われるかではなくいかに歌われるか」が重要だというサイモン・フリスの分析は、我々日本人が長いあいだ洋楽に親しんでいることの根拠でもある。だからといって、『ティーン・ドリーム』を『ラヴレス』と比較しようとは思わないけれど。

 とにかく、『ティーン・ドリーム』はドリーム・ポップの代名詞となった。『デヴォーション』の薄明かりの憂鬱は、"浜辺の家"というバンド名のちょっとした逆説の延長線上にあったに過ぎなかった......が、『ティーン・ドリーム』は海から遠く離れて、いわば夢のなかを自由に歩くソウルだった。自分の感情を抑えずに行動することが自由と呼べるのなら、ビーチ・ハウスの3枚目のアルバムにはそれを誘発する力がある。"ゼブラ"、そして"ウォーキング・イン・ザ・パーク"......これらある種凡庸な主題も、しかしヴィクトリアの歌とストリングスによって、不明瞭さのなか、何か別の意味をふくらませるのである。
 我々がラヴ・ソングを好むのは、動物的な本能から来る性愛もさることながら、愛の告白にマニュアルがないように、求愛という行為が創造的でなければならないからだ。優れたポップスはときとしてそうした生活のなかの創造を後押しするものだが、2010年において『ティーン・ドリーム』はその行為におけるエースだった。最強のカードであり、切り札だった。鳴っていたら耳に入ってくる音楽であり、大衆操作や商業的戦略に支配されたポップスを本来の無垢な姿に戻すという意味においても、それは正真正銘のドリーム・ポップだった。

 買ってからまだ10日ほどしか経っていない現時点で、『ブルーム』を批評するのは難しい。基本的には『ティーン・ドリーム』の方法論の焼き直しと言える。たしかに魅力的なドリーム・ポップではある。憂鬱やためらい、それら説明しづらい感覚は、"神話(Myth)"や"時間(The Hours)"といったビーチ・ハウス節と呼べる曲からズキズキと伝わってくる。"野生(Wild)"の気だるく甘美なメランコリーも自然と耳に、いまもなお、無垢に入ってくる。彼らは自分たちの良さをわかっているし、おそらく、ファンの期待にも応えているのだろう......が、完成度という点で前作を上回っているとは言い難い。
 『ブルーム』の重大な欠点をひとつ挙げるなら、センチメンタリズムの王道が少なからず混在していることだ。とくに"他人(Other People)"のような、テレビのコマーシャルにでも使われそうなほどのMORには違和感を覚える。いわゆる「前作以上にポップになった」というクリシェで説明されるのだろうが、たんなる迎合的なメロディにも思える。
 とはいえ、まあ、たとえば1枚のアルバムを買って、そのなかに3~4曲、胸がときめくようなポップスがあれば充分に満足できるのであれば、『ブルーム』は間違いなく良いアルバムだ。2曲であれば先に挙げた"神話"と"時間"。3曲であれば"アイリーン(Irene)"。俗事におけるささやかな夢が待っている。夜、街が静かになったときに再生しよう。

interview with Tickles - ele-king


Tickles
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 今日の文脈で言えば、アンビエント・ポップ(そしてIDMリヴァイヴァル)に当てはめることもできるだろう。ひと言で言えばロマンティックな音楽で、ベルリンの〈モール・ミュージック〉や〈カラオケ・カーク〉、ケルンの〈コンパクト〉から出ていたとしても違和感はない。トゥ・ロココ・ロットやウンダーの叙情、あるいはクライドラーの室内楽的なエレクトロニカを思い出す。とにかく、このあたりの固有名に反応する人が好きな音である。エイフェックス・ツインのような冗談があるわけではなく、ボーズ・オブ・カナダのような幻覚症状があるわけではないが、オルゴールのようにまとまりをもった愛らしい音楽と言える。わずかな感情の変化にも敏感に感応するような、ピアノ、ないしはトイ・ピアノの音が心地よい。先日、イーライ・ウォークスのデビュー・アルバムを出したばかりの中目黒の〈MOTION±〉が新しくリリースするのは、「かねてから目を付けていた」という湘南在住の鎌田裕樹のプロジェクト、ティックルズの3枚目のアルバム『オン・ア・エンドレス・レイルウェイ・トラック』だ。ちなみに〈MOTION±〉レーベルをやっているのは、〈ワープ〉をライセンスしているビートインクの元スタッフと元『remix』編集部のテクノ担当者なので、おのずとレーベルが好むところの音楽性もうかがい知れよう。
 『オン・ア・エンドレス・レイルウェイ・トラック』の帯には、レーベルによる「線路は続くよ どこまでも」 というコピーがある。僕はそのコピーを最初に見たとき、あまりの身も蓋もない表現に「マジっすか!」とレーベルの人に笑ってしまったが、CDの封を切ると中面に手書きの線路があった。3拍子の曲からはじまる『オン・ア・エンドレス・レイルウェイ・トラック』は、ある意味では汚れのないイノセントなアルバムだ。それは牧歌的な情熱によって、リスナーをゆっくりとした旅に連れて行く。

逆にそんな時期だからこそ、音楽というのは感情を逆撫でするようなものではなく、単純にもっと優しさを感じ取れるようなものであっても良いのかなって。みんながみんな怒りや反発の方向を向いていてもそれはそれで芸がないというか......

インタヴュー前にいったいどんな見た目の人なのかなって想像していたんですが、想像とまったく違っていました(笑)。

tickles:はははは。どんなイメージだったんですか?

もっとシャープな線の細い感じの人をイメージしていたんですけれど。

tickles:太めです(笑)。

だははは。いい意味で裏切られたというか、敬意を込めて言いますけど、ひと仕事し終えてきたって感じっすね。ま、ビールでもどうぞ(笑)。プシュ。

tickles:ありがとうございます。プシュ。

では、さっそくですが、よろしくお願いします。

tickles:お願いします。

荒井君(レーベルのスタッフ)からティックルズのことを教えてもらって、僕の好みの音楽であるのと同時に、最近、日本のアンダーグラウンドにおいて共通した感覚が増えてきているなという印象を持っていたので、ぜひ話を聞いてみたくて。

tickles:ありがとうございます。

それを感じることってあったりしますか?

tickles:ライヴではいろいろなジャンルの人とやらせてもらうんですけれど、これまで自分と近いなって感じた経験はほとんどないですね。まあ、あくまで僕の知っている範囲では、という感じですけれども。

スタイルは違うけど、たとえばフォトディスコとか、彼もある種の穏やかさというか、平穏を表現しているアーティストなんですけれどね。

tickles:興味ありますね。今度、聴いてみます。

ポスト・ロックやエレクトロニカって聴いていましたか?

tickles:エレクトロニカはそれほどのめり込んで聴いたわけではないですが、ポスト・ロックに関しては20代の初めによく聴いていたし、ライヴもよく観にいっていました。なかでもゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーが大好きでしたね。

へえ。でも現在のティックルズの音楽性はゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーとは全然別物というか、むしろ対極じゃないですか? 初期のフォー・テットやディラン・グループのほうに近いような気がしますれけど。

tickles:もちろんフォー・テットやディラン・グループも好きでしたよ。でも自分が表現したい本当のところは、むしろゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラー寄りというか。もっと激しいものであって、それを自分なりに押し進めていった結果、現在のような音楽性に辿り着いたという感じなんです。

ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーに強く惹かれたのは、どうしてなんでしょう?

tickles:ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーのサウンドは、猛烈にアナーキーでインディペンデントな臭いがして、とにかくそれがかっこ良かったですね。その当時僕はメッセージのある音楽が好きで、音楽っていうものはファッションになってはいけないというか、もっと力強いものでなくてはいけないと思っていたので、ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーのあの強烈なメッセージ性というか、パンク的な要素がとにかく胸に突き刺さったんですよね。
 でも、その後、自分で音楽を作るようになってから考え方がちょっと変わってきて。作品をリリースしたあとは、その作品って作り手の手を離れて、リスナーのものになるじゃないですか? というか、僕はそう思っていて、そうであれば、メッセージよりも、聴き手に寄り添うような作品であればいいなと思うようになって。それでだんだんいまのような作風になっていった感じです。

ゴッドスピードって、もしかしたらレディオヘッドの『キッドA』よりも大きな影響力を持っていたかもしれない......ただ、それらがティックルズとはどうも結びつかない(笑)。

tickles:まあ(笑)。とはいえ、間違いなく自分のルーツだし、大きな影響を受けていることはたしかです。いつかはゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーのような大所帯バンドで、いまの音楽をライヴでやってみたいなって思ったりしますね。

ゴッドスピードには有名な、"ザ・デッド・フラッグ・ブルース"の「車は燃えている、運転手はいない。下水道は孤独な自殺者で溢れている......」というフレーズがあるじゃないですか。彼らはこの世がいかに絶望的か、それをとことん表現したバンドでしたよね。でも、ティックルズは、リスナーに暗い現実を叩きつけるようなことはしないじゃないですか?

tickles:それはそうですね。むしろいまはそうあるべきじゃないと思っています。

その意味では、対極であるとも言えますよね?

tickles:なるほど。そういう意味では、まさに対極ですね。暗い現実を叩きつけるなんて、やりたくないですからね。

それはなぜですか?

tickles:いま、時代的になのかもしれませんが、いろんなことに反感を持ったり、強いメッセージを持った曲が多いという印象を持っているんです。自分としてはそればっかりになってしまっては表現としては面白くないなと思っていて。逆にそんな時期だからこそ、音楽というのは感情を逆撫でするようなものではなく、単純にもっと優しさを感じ取れるようなものであっても良いのかなって。みんながみんな怒りや反発の方向を向いていてもそれはそれで芸がないというか。ティックルズとしての表現は、いまはそういうものだと考えています。

ティックルズの音楽にはパンク的な要素がどのような形で存在していますか?

tickles:サウンドというよりはむしろ活動のスタイルや精神的な部分ですね。これまで2枚アルバムを自分のレーベル〈マダガスカル〉から出しているんですけど、それは音作りはもちろん、流通やプロモーションも可能な限りすべて自分たちの手でコントロール出来るようにやっていました。そうしたDIY的なやりかたで音楽を世に送り出すということが、僕にとってのパンクかなと思いますね。今回は本当に信頼できる仲間たちと一緒にやれるチャンスだったので、〈MOTION±〉からリリースすることになりましたけど。

本作も制作においては、ほとんど自分ひとりでやっているわけですよね?

tickles:そうですね。

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フォー・テットやディラン・グループも好きでしたよ。でも自分が表現したい本当のところは、むしろゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラー寄りというか。もっと激しいものであって......


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そもそもticklesはいつ頃にスタートしたんですか?

tickles:ファースト・アルバム『ア・シネマ・フォー・イヤーズ』を出したのが2006年。で、2008年にセカンド・アルバム『トゥデイ・ザ・スカイ・イズ・ブルー・アンド・スペクタキュラー・ヴュー』を出して、4年空いて今回の『オン・アン・エンドレス・レイルウェイ・トラック』ですね。

はじめた当時と比較して、現在はどういう部分が変化していると思いますか?

tickles:最初はメンバーがふたりいて、いまほど生楽器を使わない、打ち込み主体のサウンドだったんですよ。

時間が経つにつれて、どんどん生楽器が増えて、今回のような温かみのあるサウンドに変わってきた感じなんですね。

tickles:そうですね。

本作ではどんな楽器を使っていますか?

tickles:ピアノ、ギター、トイピアノ、ピアニカ、ベース......。

鍵盤が多いんですね。

tickles:家にある楽器は鍵盤が多いですね。あとドラムはサンプリングですけど、ほとんど自分で叩いてます。

基本的にはご自宅で録られているんですか?

tickles:ピアノとドラムはスタジオで録りましたけど、あとはすべて自宅です。

『オン・アン・エンドレス・レイルウェイ・トラック』(線路は続くよ どこまでも)というタイトルには、どのような意味が込められていますか?

tickles:アルバムを作っている途中で、僕たちが昔から知っている「線路は続くよ どこまでも」というフレーズを英語にしたものにしようと思っていたんです。英語にすると、字面がちょっと淡白な感じになってしまうんですけど、わりと楽観的な意味合いで、これからも楽しくやっていけたらいいね、というような意味合いで付けました。このジャケットは友だちにお願いしたんですけど、彼が僕に持っているイメージがこんな感じなんだと思います(笑)。

これは絵なんですか?

tickles:アクリル板を5枚ぐらい重ねて、立体にした絵なんです。それをさらに箱に入れたという。なかなか伝わりにくいかもですけど。

へー、面白いジャケットですよね。これを最初に見たときに、ある種、宮沢賢治的というか、童謡的なイメージを連想したんですけど、どういうコンセプトで作ったのですか?

tickles:実はこの手法は、ユーリ・ノルシュテインというロシアのアニメーション作家が作品を展示する時に使うやりかたを真似したものなんです。ユーリ・ノルシュテインが童話的な作品を作る人だし、ロシアやチェコのアニメーションが好きだったりもするので、そういう感じは出てるかもしれないですね。

そうした童話的な世界観とティックルズの音楽にはどのような関連性がありますか?

tickles:そうですね。アニメをアニメイトする(命を吹き込む)という行為と、音楽に自分の魂を吹き込むという行為は似てるのかなって思いますね。電子音楽なんですけど、そこに有機的なものを入れたいというのは常々思っていることでもありますし。

なるほど。ちなみにピアノをずっとやられていたんですよね?

tickles:幼稚園くらいから、10年ちょっとやっていましたね。

じゃあ鍵盤は昔から得意なんですね。

tickles:最初に触れた楽器だし、いまでも曲を作るときに最初に触るのは鍵盤であることが多いですね。

とてもリズミカルな演奏だなって思ったんです。ハウスやテクノのプロデューサーが作るリズムとも違うし、ロックをバックボーンに持つ人の感じともまた違う。とても独特なリズム感があるなと思いました。

tickles:そこは完全に無意識というか、ある種の手癖みたいなものだと思います。シーケンサーにパチパチと打ち込むんじゃなくて、手打ちで打っていくので。メロディ先行で、後からリズムを付けていくので、そういう感じになっているのかもしれないですね。

ゴッドスピード以外で、インパクトのあった音楽ってどんなものですか?

tickles:いろいろありますけれど、シガー・ロスのライヴを観たときはかなり感動しました。うーん、あとは何かなあ。

シガー・ロスもゴッドスピードもとてつもなく壮大なサウンドだけど、ティックルズはもっと身近な感じがしますよね。

tickles:そうですね。僕がスタイルだけシガー・ロスやゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーのようなサウンドをやっても何の説得力もないというか。僕ができる音楽というのは、現在のティックルズのようなサウンドっていうことなんだと思います。

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楽観的な意味合いで、これからも楽しくやっていけたらいいね、というような意味合いで付けました。このジャケットは友だちにお願いしたんですけど、彼が僕に持っているイメージがこんな感じなんだと思います(笑)。


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なるほど。ティックルズ以前にはどんな音楽活動をしていたんですか?

tickles:中学から高校くらいまでバンドをやっていて、その後にパンクのDJをやりはじめました。で、DJをやるようになってから次第にいろいろなジャンルの音楽を聴くようになって、テクノやエレクトロニカをメインにプレイするようになり、自分たちでもエレクトロニック・ミュージックをやってみようということで、ティックルズをはじめたという感じです。

パンクのDJってどんな感じの?

tickles:基本、自分の好きな曲をかけるだけっていう感じでした。70年代のパンクもかけるし、90年代のハードコアとかも。envyとか大好きだったので。

なぜDJをやろうと思ったんですか?

tickles:友だちに知らない新しい曲を聴かせたいとか、そういうたわいもない理由だったと思います。

地元の藤沢のクラブでDJをしていたんですか?

tickles:主に藤沢や横浜のクラブ、ライヴハウスですね。いまもうなくなってしまったお店も多いですけど。

パンクをやっていた人が、こういう音楽にどうやって辿り着くのかというのが、とても興味あるんですよ。

tickles:自分のなかではまったく別のものをやっているという意識はなくて、表現の仕方が変わったとしか言えないんですよね~(笑)。

日本のパンクも好きでしたか?

tickles:よくライヴを観に行ってましたよ。それこそenvyとかスメリング・カンツ(toeの前身となるハードコア・バンド)とか。

めまぐるしくトレンドが変わるこのご時世ですが、新しい音楽は積極的にチェックしているほうですか?

tickles:いや、しているほうではないと思いますが、どうですかね。

インターネットはあまり見ないですか?

tickles:見ますけど、音楽の情報を得るために使うことは多くはないと思いますね。

最近、面白かった音って何かありますか?

tickles:〈コンパクト〉から出ているウォールズは好きでした。

いいですよね。

tickles:あとは〈ニンジャ・チューン〉から出ていたボノボの『ブラック・サンズ』とか好きでしたね。

なるほど。ああいう音楽を聴くと、自分のやっている音楽もあながち間違っていなかったのかなって思います?

tickles:あまりそういう感じで考えたことはないですけど、好きなので共通するものはあるんだと思いますね。

曲のタイトルはどのように付けるんですか?

tickles:いろいろですよ。曲を作ってから、それを聴いてみて自分のなかに生まれたイメージを基に付けることもあるし、曲を作っている途中で付けちゃうこともあります。

曲のタイトルについて重視しているほうですか?

tickles:重視しているほうだと思います。

なぜですか?

tickles:昔からかっこいいタイトルって好きなんですよね。昔、メッセージのある曲が好きだったと言いましたけど、タイトルってその象徴だと思うんですね。かっこいいタイトルは、もうそれだけで胸に刺さるじゃないですか。だから自分もタイトルにはこだわりたいですね。

普段はどんな生活をしているんですか?

tickles:CMの制作会社からの発注を受けたり、他の音楽の仕事とかもしてます。

ライヴはひとりでやっているんですか?

tickles:いまはそうですね。ラップトップにシンセサイザー、サンプラー、エレピなどの音を入れてオーヴァーダブしていくような感じです。

ティックルズとしてのこの先のヴィジョンはどんな感じですか?

tickles:できればなるべく早く、次のアルバムを出したいなって思っています。もっとシンプルな楽曲のものを出したいです。あと別名義でミニマルなタイプの作品も出してみたいですね。今回はかなり生音を入れているので、まったく別のタイプの曲の構想もあるので、それをかたちにしてみたいですね。

contrarede presents SCHOOL OF SEVEN BELLS JAPAN TOUR 2012
東京・FEVER公演

2012/6/14 (Thu)
Shindaita, FEVER(03-6304-7899) OPEN 19:00 / START 20:00
LIVE: SCHOOL OF SEVEN BELLS, tickles
ADV ¥4,700 / DOOR ¥5,200 (+1drink)

主催: contrarede 企画制作: contrarede
協力: Plancha / Art Union, Shibuya Television
TOTAL INFO: contrarede 03-5773-5061 https://www.contrarede.com

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