ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. フォーク・ミュージック──ボブ・ディラン、七つの歌でたどるバイオグラフィー
  2. Pulp - More | パルプ
  3. Cosey Fanni Tutti - 2t2 | コージー・ファニ・トゥッティ
  4. Derrick May ——デリック・メイが急遽来日
  5. Theo Parrish ──セオ・パリッシュ、9月に東京公演が決定
  6. サンキュー またおれでいられることに──スライ・ストーン自叙伝
  7. Adrian Sherwood ──エイドリアン・シャーウッド13年ぶりのアルバムがリリース、11月にはDUB SESSIONSの開催も決定、マッド・プロフェッサーとデニス・ボーヴェルが来日
  8. Little Simz - Lotus | リトル・シムズ
  9. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  10. 〈BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025〉 ——ノイズとレイヴ・カルチャーとの融合、韓国からHeejin Jangも参加の注目イベント
  11. Terri Lyne Carrington And Christie Dashiell - We Insist 2025! | テリ・リン・キャリントン
  12. interview with Rafael Toral いま、美しさを取り戻すとき | ラファエル・トラル、来日直前インタヴュー
  13. Swans - Birthing | スワンズ
  14. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  15. Columns 高橋幸宏 音楽の歴史
  16. Columns 高橋康浩著『忌野清志郎さん』発刊に寄せて
  17. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第3回 数字の世界、魔術の実践
  18. GoGo Penguin - Necessary Fictions | ゴーゴー・ペンギン
  19. 忌野清志郎さん
  20. Columns 6月のジャズ Jazz in June 2025

Home >  Reviews >  Album Reviews > Wolfgang Voigt- Kafkatrax

Wolfgang Voigt

Wolfgang Voigt

Kafkatrax

Profan

Amazon iTunes

三田 格   Oct 12,2011 UP

 カフカをモチーフにしているという話題だけが先行していた「カフカトラックス」を1枚にまとめ(て5曲をプラスし)たマイク・インクによる本人名義の4作目。ピアノをモチーフとした昨年の『フライラント・クラフィエムジーク』(裏アンビエントP189)がかなりいい出来だったので、つい買ってしまった。アート・ワークがよかったせいもある。活動を再開してからの勢いに押されているともいえる。......とはいえ、M:I:5やスタディオ1でやっていたことと大きく隔たりがあるわけでもない。『クラフィエムジーク』の方がリヴァイヴァルしつつあるミュージック・コンクレートとの親和性も高く、新機軸には富んでいたし、「カフカ」という目くらましがなければ、従来と同じミニマル・テクノの範疇でしかない。低音が効いていて、ビートはドイツに特有のメトロノミックなそれ。洗練度は格段に高い。

 アルバム全体に散りばめられているのはカフカの小説を朗読している「声」。これが断片的に聞えてきたり、あらゆる方向から、そして、折り重なって響き渡る。言葉の意味がダイレクトにはわからないので、内容的なことまではわからないけれど、基調は『クラフィエムジーク』で使い倒されたピアノと同じく、不安を呼び起こすような使い方が「カフカ的」だと信じられていることは確か。統合失調症の人が聴いたらどうなってしまうんだろうと思うようなオープニングを筆頭に、次から次へと「声」は波状に襲い掛かり、ヴァーゴやバム・バムなど初期のシカゴ・アシッドがそうであったように、どう考えてもバッド・トリップに誘い出そうとしているとしか思えない(ユーロ危機のサウンドトラックとしては充分すぎる効果を上げている)。とくにアルバム用につくられたクロージング・トラック「3.4」の重厚さには特筆すべきものがあり、14年前につくられた無機質でダークなM:I:5がどれだけ躍動感に満ちていたかを痛感させられる。メクチルド・フォン・ローシュ(裏アンビエントP133)もかくや、ゆっくりと地の中に引きずり込まれるようなループ・サウンドは、回転数を落としただけなんだろうけれど、逆説的に醸し出される甘美さと奇妙な説得力に満ち溢れている。このような重苦しさはヨーロッパの白人にしかつくれないに違いない...(ことダンス・カルャーに関する限り、アメリカもイギリスも再度、サマー・オブ・ラヴへと向かっているというのに...)。

 そういえばカフカと同じく、アメリカに行かずしてアメリカを描こうとしたラース・フォン・トリーアの映画『ドッグヴィル』は、この7月にオスロで大量殺戮を行ったアンネシュ・ベーリング・ブレイビクのフェイヴァリットなんだそうである(ゼロ年代における僕のベスト2作品でもあるけど。あとの2本は、クリストファー・ノーラン『メメント』とチャーリー・カウフマン『脳内ニューヨーク』)。

 ちなみに『カフカトラックス』と同じことを日本の小説でやるとしたら、誰のどの作品を使えば、同じように「不安」を煽れるのだろう?

三田 格