大反響を呼んだ、「対談:トーフビーツ×砂原良徳」に続いて、砂原良徳がリミックス・アルバムの全曲についてコメントしてくれた。90年代世代のヴェテランの耳に、新世代の音響はどのように聴こえているのか。どうぞ、お楽しみ下さい。
■アルバムの1曲目は自分(まりん)のリミックスだから、2曲目からいきましょう。
2.populuxe ― RAMZA Remix
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砂原:このひとは日本人なのね?
■このひとは日本人だね。
砂原:僕以外は全員が日本人?
■spazzkidはフィリピン出身でロサンゼルス在住のひと、ほかは日本人だと思う。で、このRAMZAさんはヒップホップ・シーンのひとですよ。Campanellaとか、日本のアンダーグラウンドのヒップホップ・シーンでは注目されているひとりですね。
砂原:へぇー! ヒップホップなんだ。僕はヒップホップというよりは、それこそ2000年代初頭に話題になっていた、エレクトロニカとかノイズっぽい印象を受けたんだよね。へー、ヒップホップだとは思わなかった。ノイズっぽいなと思ったほどだから。
■トーフビーツは、わりとアンダーグラウンドなヒップホップ・シーンのひとにリミックスを依頼しているんだよね。アナログ盤にはブッシュマインドのリミックスが入っているし。
砂原:細かく切り刻んでやっている感じはあるけど、とにかくヒップホップには全然聴こえなかったな。どっちかっていうと、ノイズとテクノな感じ。で、僕は本当に情報がないんだけれども、このなかでは一番日本人っぽくはなかった。海外の同じ世代に頼んだのかな、みたいな。そういう感じがしたかな。で、ヒップホップをやっていてこの音になっているんだったら、自由度は高いと思うな。
■実際そうだと思うよ。
砂原:とにかく、僕はこれ(このリミックス)を聴いた瞬間に、自分はドレスコードがあると思ってスーツを着ていったら間違いだったって思った。「スーツ着ていかなくてよかったじゃん!」みたいな(笑)。僕のリミックスがわりとまっとうにやっているからさ。そういう風に思ったことを憶えている(笑)。
3.Come On Honey! feat.新井ひとみ(東京女子流)― spazzkid Remix
砂原:これね! これはやっぱり日本人っぽい。日本人に聴こえたかな。日本のカルチャーをけっこうかじっているのかなって。
■ところが、これはさっき言った、LA在住のフィリピン系のspazzkidっていうひとなんだよ。
砂原:へー! でも、どういうのを聴いてどういうことをやってるんだろうね。フィリピン系ってまったく想像がつかないよね。とくにネットにとって国境はよりないものになっているんだろうね。だって僕、これは日本人に聴こえたもん。「こいつは部屋が狭いね」って(笑)。
■それはどういうこと? イメージ的に?
砂原:うん。日本人のクリエーターってすっごい狭い部屋に住んでいるイメージがあって、これを聴いたときも全体的なイメージとして、「部屋が狭い」っていうことが一番感じたこと。そういうひとたちってさ、スピーカーが近くにあるんだよね。
■なるほどね。
砂原:スピーカーってある程度離して、自分を頂点に三角にして聴かないと音の全体がわからないんだけど、日本人のクリエーターってそこそこ有名なひとでも、スピーカーがめちゃくちゃ近かったりするからね。「そんなにモデルに接近してデッサンができるのかな」って僕は思うんだけど。だから、ヌード・モデルに接近して描いている状態だよね(笑)。
■接写している感じ?
砂原:いや、接写っていうか、全体を描くために対象に近づいている感じがして。それは自分以外のリミックス全部に思った。どういう環境でどういうふうにやっているかは全然想像がつかないんだけど、とにかく2曲目、3曲目を聴いて思うのは、僕ら以上に国境や地域性がないんだなっていうこと。あと、カテゴライズも僕らの頃よりも曖昧になってきているんだなって感じる。
4.朝が来るまで終わることのないダンスを ― banvox Remix
■先日も話したけど、このひとはEDMでブレイクしてて、UKでも名前が知れてるひとですね。トーフビーツ曰く、もともとヒップホップをやりたい子が、流れでEDMを作るようになったらそれがバカうけしちゃったっていう。
砂原:なるほどね。これも部屋が狭くて、日本人っぽいかなと。日本のオタクだから、クラブじゃなくてネットの方が濃いよね。
■ベッドルーム感?
砂原:ベッドルームというか、パソコンのスピーカーとヘッドフォンだね。
■まりんの世代でも、みんな最初はスピーカーが近くなかった?
砂原:でも極力離そうと頑張ってやってたけどね。いまのひとよりは遠かったと思う。そういう意識はあったから。僕も最初は自分の部屋でやっていたけど、距離はある程度取っていたよ。でも、いまはすごく近いひとが普通にいるからね。それじゃ音がわからないって僕は思うけど。
■なるほど。
砂原:最近の音楽の特徴というか、リスナーの50パーセントがヘッドフォンもしくはイヤフォンかパソコンのスピーカーだよね。普通のスピーカーで聴くことが珍しくなっているし、場所もないし、かつ音楽を聴く時間なんてないのかもね。通勤時間を、よく言えば効率的に使った結果、それがこういうふうになったというか。
■なるほどー、環境に応じてミキシングも変化してっていう?
砂原:僕はスピーカーで聴く方が好きなんだよね。ヘッドフォンで聴いていると違う感じになっちゃわないかな。
■俺も個人的にはまったくそうなんだよね。
砂原:この間も、エンジニアの益子(樹)さんと話していたんだけど、ここ(耳)にものを入れて聴くことが、人間USBに限りなく近いというか。ファイヤー・ワイヤーとかUSBっていう、それがもう入り口な感じがちょっとしちゃうよね。奇妙だなって思う。
■なるほどね。
砂原:僕もしなきゃいけないこともあるんだけどね。クリックが必要なときもあるから。
■曲には勢いがあるよね。で、僕が普段聴いている音楽とくらべると、ベースがすごい控え目というか、耳に入ってこないんだよね。
砂原:音の広さがあまりないからね。ベースの周波数は低いから、ある程度の空間がないと効果的に響かないんだよ。エコーにも空間が必要なんだけど、その感じが全然ないな。すごく近くて、狭くて、ちっちゃくて、詰まってて。でもね、それがダメっていうわけじゃないんだよ。このリミックスの全部がそうだよなって感じがする。
5.CAND¥¥¥LAND feat. LIZ ― Pa’s Lam System Remix
■神奈川県在住の3人組トラックメイカー。トーフビーツのネット・レーベル仲間だね。彼はこういう人たちをみんなに紹介したいんだよ。
砂原:もとは90年代に流行っていたR&Bとかに近いかったり、あとはドラムンベースっぽかったりとか……。ドラムンベースってなんだかんだ言って残ってるね。ドラムンベースも、もともとはレゲエとかダブからだもんね。
■ブレイクビーツだし。
砂原:そういうものもあって、いまだにドラムンベースっぽい独特のテンポの取り方が残っているなって感じがするよ。あとは編集で切り刻んでる。この間思い出したんだけど、アクフェンとかがわりと近かったかな。切り刻んでポピュラーなものにするというか。
■でもアクフェンはもっとポップ・アートでしょう?
砂原:そうなんだけど、切り刻んだ形をわっと広げて認知されたのって
あれが大きかったかなって、この前にふと思ったんだけど。
■いまのチョップの仕方ってさ、というか近年では「エディット」じゃなくて「チョップ」って言うじゃない?
砂原:うん、言うね。
■チョップという言葉で表現される感覚もソフトウェアと関係しているのかな?
砂原:すごく関係あるよ。昔は全部を手でやらなきゃいけなかったんだけど、いまは音量のレベルとかを見て本当にスパって切れるんだよね。だから昔は3、4日かかっていた作業がいまは一瞬でできるようになったから、こんな形でできるようになったというのがあると思うんだよ。
■ドラムンベースだけど、やっぱりベースがあっさりしているね。逆にこれが個性というか、UKやアメリカから見たらこれは日本っぽい感じに聴こえるのかもね。そのへんも確信犯としてやっているのかな。それはそれで、ひとつの戦略としてありなのかなって気もしなくはない。
砂原:どうなんだろうね……やっぱ非情に日本っぽいかな。アメリカンな感じはないね。原曲にはR&Bというか黒人音楽の要素があるかもしれないけど。
[[SplitPage]]6.おしえて検索 feat. の子(神聖かまってちゃん)― PARKGOLF Remix
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砂原:の子くんの曲だね。パークゴルフ。いい名前だね。90年代っぽい。
■札幌在住の1990年生まれの方ですね。やはり、トーフビーツの仲間で、このリミックスは、ガバっぽいよね(笑)。
砂原:ちょっとニコニコ動画っぽい感じというか。ん、やっぱりいままで聴いてきたなかで、一番ネットっぽい(笑)。基本的にみんな音符が細かいんだよね。ダカダカ、チャキチャキ、ドコドコ。
■トーフビーツが電気グルーヴは教科書だって言ってたけど、電気っていっても時代によって音楽性は変化しているわけで、彼らは、『KARATEKA』とか、『DRAGON』より前の電気グルーヴの影響が強いような気がする。ちょっとレイヴっぽいノリとか。
砂原:電気にはそういう時期があったね。『VITAMIN』と『KARATEKA』の間くらいじゃない? 『FLASH PAPA MENTHOL』とかあのくらいの時代。あの頃は速くてけっこう細かかった。あと音も歪んでたし。しかし、そう考えてみると、この前も話したけど、人生っぽいところとかもあるのかも。あと、コードとかそういうのがダークじゃなくて、普通のメジャー・コードだったりするけど、人生とか電気もけっこうそういうのが多かったかも。
■さすが俺みたいな年老いた人間はこのなかに入っていけないけど、若い子がこういう音楽でアがる気持ちも、わからなくはないというか。想像できなくはないかな。
砂原:まぁね。できなくはないけど、何かが欠けているような気もするし(笑)。
■ハハハハ。
砂原:別に、かけていてもいいのかもしれないよ。そこはわからないんだけど、聴いた感じではベースの概念が薄いというか。土台が緩い感じっていうかね。それなりに長くやっているから、僕はこういうことを言っちゃうかもしれないけど、もうちょっと土台がガッシリした曲があってもいいかなって感じがしちゃうんだよね。いまは土台の上に乗り切らないものを乗せている感じがある(笑)。
■ハウスが出てきたときも、ディスコ・ファンからは「こんなのは素人が作ったディスコでしょ!」って言われたわけだからね。
砂原:そうだよね。いつの時代も新しいものが出てくると、みんな大体はそういうことを言うしね。僕もその前の音楽を聴いているから、過去のことがデータとして蓄積されていると、そういうことしか言えないんだよ。ただ、時間が経たないとわからないこともあるから、それをダメだとは言わない。僕らがハウスをやっていた時代も、そういう批判をするひとはいたわけだしね。そのひとたちも、その前の世代から批判されていたわけだし。
■新しいことが起きるときには、必ず賛否両論があるし、こうして更新されるものだろうから。
砂原:あと、声が高いのが多くない?
■多い。
砂原:おおいよね(笑)。いわゆる、その、帰ってきた酔っぱらい的なさ(笑)。高い声のすっごく細かい編集ね。
■トーフビーツはヴォーカリストの選び方にも特徴があるよね。
砂原:そうかもしれない。
■なんで森高千里とボニー・ピンクなんだろうって。トーフビーツにとっての90年代イメージの象徴としてこうなったのかな。
砂原:どちらも90年代に主に活動していたわけだから。
■でも、90年代リアル・タイム世代からすると、彼女たちが90年代を象徴するヴォーカリストなわけではないからね(笑)。
砂原:90年代を代表するヴォーカリストって誰?
■たくさんいるけど。それこそUA、ACOとか。
砂原:それを言ったら、CHARA ACO UA、この3人だよね。
マネージャー氏:宇多田ヒカルとかも入るんじゃない?
■宇多田ヒカルってなぜか90年代ってイメージしないよね。
砂原:それはまた90年代後半の方っていうか。
■そうだね、前半と後半では時代の印象はぜんぜん違うもんね。
7.衣替え feat. BONNIE PINK ― Tofubeats Remix
砂原:うん、情報がやっぱり細かいね。
■トーフビーツのリミックスは、彼の仲間とはちょっと違う感じがしたけどな。
砂原:うん。彼もそこの先頭に立っているという意識があって、「何か新しいことをやっていかなきゃ」っていうのがあるのかも。僕はそんな気がするけどね。だって彼はずっと変化しているでしょう?
■そうだね。「しらきや」の頃からものすごく変化している。
砂原:あと、年齢のことも関係あるでしょう。
■そこは大いにあるだろうね。
砂原:わからない。こっちが主流になる可能性もあるよ。僕はただの古い考えの人間になるのかも(笑)。
1.Don’t stop the music feat.高森千里 ― Yoshinori Sunahara Remix
■ここで、あらためてまりんのを聴かせてもらってもいいですか。比較してみよう。
砂原:僕のはだいぶ違うと思うよ。まず、他のものと比べると「間」がありすぎるよ。
■そうだよね。それが現代の特徴なのよ。要するに情報量の多さ。
砂原:でも社会の状況を音楽はなんだかんだ映し出していくからね。たとえば、戦前とか戦時中とかって、船でも飛行機でも大きければいいって時代があってさ。そうすると、テンポがゆったりして、うわーって曲が流行ったりするんだよね。今度、時間が忙しくなってくると、どんどんテンポが上がってきて、情報が多くなってくるとテクノみたいなものが出てきて、音が複雑に絡みあってきてさ。そうなってくると時代を映し出しているって意味では、僕のじゃないものの方が正しいかもしれないね。世の中ってこんなに情報は整理されてないもん。もっとめちゃくちゃだよ。
■たしかにね。
砂原:こんなもの(自分のリミックス)はテメェの理想でしかないっていう(笑)。現実逃避だよ、俺(笑)。
■ハハハハ。どっちが良いか悪いかじゃなく、やっぱり比べて聴くと、鳴りが全然違うね。
砂原:やっぱりスピーカーってこうなるんだけど、音が遅いほど耳に届くまでにやっぱり時間がかかるわけ。音が高くてその時間が短いほど、そのスピーカーの揺れが小さいから音が鳴り終わるまでの時間が短くて済むのね。
■うん。
砂原:だから僕の曲って、ある程度揺れるからテンポも遅くないといけないから、そういう計算がなされているんだよね。さっき言った通り、無い物ねだりの子守唄ですよ。
■トーフビーツはこれを望んでいたわけだし。
砂原:望んでいたのなら、それはそれでよかったんだけど、ただ僕は他のものとのギャップがすごいなと思って(笑)。
■たしかにね(笑)。もうひとりくらいヴェテランを入れればよかったのにね。
砂原:「ひとりだけスーツであとはスエット」っていうのが、これはこれで面白いのかもね(笑)。
■ただ、情報量の話で言うと、若いときって、大量の情報に対応できちゃうからさ。体がもう……
砂原:反能しちゃうんだと思う。
■まりんの場合は、クラフトワークやYMOからきているから、彼らの音楽は基本、引き算だもんね。
砂原:そうそう! クラフトワークはとくにね。ただ、いまの子たちがこういう状態だけど、10年経ったらどういうふうになるんだろうっていうのは興味があるね。
■うん。それはすごく興味があるね。
砂原:世代の特徴っていうのは明らかにあるから。何かが起きているし、何かが変化していくんだろうし、そういう楽しみや期待はあります。やっぱり、それでも時代は回っていくんだなって。不況と言われつつも、新陳代謝が起きているって思うし。
7.衣替え feat. BONNIE PINK ― John Gastro & Tofubeats 1960s Remix
■それでは最後にもう1曲。トーフビーツが友人と一緒に手がけたリミックスです。
砂原:こういうまっとうな曲が最後に入っているんだ。彼って実は器用なんだよね。この前の対談でも言ったけど、わりと曲らしい曲ができるんだなっていう。ひとりで冷静になってっていう。彼はシーンを背負っているんだよ。
■そうかもしれないね。
砂原:背負って自分が切り開いて、他の仲間も切り開いていくしかないし、自分が気づいたこともどんどんやって周りに見せて、自分にも周りにも刺激を与えていかなきゃいけない。自分だけじゃなくて、シーン全体のことを考えているし、こういう曲もやってみせたいしっていう意識があったんじゃないかな? この曲はわりとまとまっている方でしょう?
■そうだね。リズムのノリとかも悪くないしね。
砂原:全然悪くないよ。僕は森高さんが歌った曲のトラックのリミックスをやったから、データの中身を見たんだけど、意外とちゃんとしてるんだよね。とくにベースの打ち込みを見たときに、「これってけっこう難しいんだけどな」って思ったんだよね。
■なるほどね。
砂原:僕がやるときはそれをさらにエディットしたんだけどね。だから彼は器用ではあると思う。
■ただ単に衝動で力任せにやっているのではなくてね。
砂原:うん。そういうコントロールが自分でできていると思うよ。
■今回のリミックスで特に印象に残ったやつとかある?
砂原:印象に残ったものはとくにはないね。だけど、自分以外の全体の印象っていうのはあるかな。だから、「自分対他」っていう構図になっちゃったかなって印象。
■とくにミキシングに関しては、全部で8曲あるなかで、他の7曲のまりんととのギャップは著しいね。
砂原:彼らの世代の特徴というか、ネット・ジェネレーションの特徴がよく出ていると思った。「これすげえ面白いじゃん! 無人島に持っていきたい」って思えるものは正直に言ってなかったけど、これがどういうふうに変化していくのかって興味は自然に持ったね。
■なるほどね。
砂原:トーフくんだって最初はサンプルを切っていたノイズだったけどさ、どんどん変化してきているわけじゃない? だからどうなっていくのかなっていう。もっと僕が理解できないものになっていくかもしれないし、その逆なのかもしれなし、わからない。でも彼らもこの先どんどん経験値が増えていくわけだしさ。これからどうなっていくかもわからないわけで。
※また、ふたりの対談のカット部分は、3月末発売の紙エレキングvol.16に掲載予定です。



