「E E」と一致するもの

Wild Beasts - ele-king

 ワイルド・ビースツは、いまもっともロックに懐疑的なロック・バンドのひとつだ。自嘲的と言い換えてもいいかもしれない。それはたとえばポストロックにおけるロックの意味性の剥奪のようなものではなくて、相変わらず死滅しないロックのマッチョイズム、男性性に対してのものである。フェミニンあるいはクィアな男はR&Bシンガーとして自らを解放し、あるいはシルベスター・スタローンのようなひとでさえマッチョな男は『エクスペンダブルズ』(消耗品)だと言って自虐しているこの時代に、ロック・バンドをやろうなんて男(たち)はまだ幻想にすがっているのか? 2008年、「ニュー・エキセントリック」なんてタームが有効だった時代にアルバム・デビューしたワイルド・ビースツははじめからそうしたテーゼを内包しており、しかしあくまでフォーマットとしてはアート・ロックをやるという矛盾を抱えていた。そのねじれ方こそが彼らのおもしろさであり、批評家受けする所以でもあるのだろう。フォールズなどのごく一部の例外を除き、2008年前後にデビューしたアート・ロック・バンドの生き残りとしてワイルド・ビースツは、そうした問いを深めてきた。単純に、いまのUKロック・バンドが5枚めのアルバムを出せるということ自体が快挙だ。
 もちろん、ワイルド・ビースツの息の長さは何よりも音のユニークさによって獲得してきたものだ。とくにマーキュリー・プライズにノミネートされた『トゥ・ダンサーズ』(09)のイメージが強いだろう、金属的な質感ながら妙な粘りけを持った奇妙なファンク・ミュージック。エロティック、と言うよりはいかがわしさすら覚える強烈なファルセット・ヴォーカル。ワイルド・ビースツの纏う官能性は、いまどきのロック・ミュージックとしては生々しくフィジカルであることから来ている。知性的だがじつはバキバキに肉体派でもあり、それこそが自分たちを「野獣」と呼んだ理由にちがいない。

 プロデューサーに売れっ子ジョン・コングルトンを迎えた5作め『ボーイ・キング』は、プロダクションのメジャー感を強めたことによりまさに「ワイルド」な印象を前に押し出している。エレガントな風合いだった前作とは対照的だ。が、フォールズがハードロック化(マッチョ化)したのに対してワイルド・ビースツは、演奏と音色がハードになっても艶めかしさを失っていない。1曲めの“ビッグ・キャット”を聴いてみよう。ゆったりとしてシンプルなシンセとリズムのなか、シンコペートするメロディを歌うヘイデン・ソープの高音が聴き手の身体を撫でる。ビッグ・キャットとはイチモツのデカさに頼るしかない男への皮肉だそうだが、どこかしらその視線には憐憫も含まれているようだ。ぶっといエレキのせいかストーナーめいた質感もあるファンク・トラックの2曲め“タフガイ”もまた、逞しい男を演じることにすがる男の悲しみを異化する。ヘヴィなベースがドラムと地を這う3曲め“アルファ・フィメール”では群れの頂点に立つ女に屈する……。アルバムの前半はとくにそうだが、マッチョを装ったサウンドに乗せて、しかしフェミニンな歌を絡めながら男の存在意義を揺さぶっていく。
 転換となるのは6曲めの“2BU”で、この曲はアルバムのハイライトでもある。多くのひとがアノーニを連想するだろうトム・フレミングが深い声で、ロウなコミュニケーションを情熱的に求めてみせる。その様は両性具有的な佇まいを獲得していると言えるだろう。もう一曲フレミングがリード・ヴォーカルを取る“ポニーテイル”もまた、メランコリックに切実に愛を希求する狂おしいラヴ・ソングだ。そこではエフェクトのかかった声のループやシンセなどもかぶせながら、しかしたしかにヘヴィなロック・サウンドが鳴らされている。そしてラストのピアノ・バラッド“ドリームライナー”。はじめは男性性を対象化していたはずのアルバムは、やがて男(たち)の弱さや情けなさ、頼りなさを晒して幕を閉じる。

 『ボーイ・キング』は旧態然とした男の悲哀を皮肉りつつも、同時に共感と同情を滲ませながらゆっくりと浮かび上がらせていく。それは結果的に、中年化していくロック・ミュージックへの眼差しでもあるように僕には感じられる。そこで男たちはたしかに傷ついている。苦悩もしている。それがいまの時代におけるアート・ロックのアクチュアリティのひとつと言えるのではないか。それをたんなる観念の産物にすることなく、ファンキーかつセクシーなサウンドを遵守するのは野獣たちの意地のようだ。まったくもって独自の道を追求し続けるバンドである。

 ジョン・グラントは、ゲイとして歌うことを少しも恐れていないシンガーだ。その痛み、喜び、孤独、愛を赤裸々にさらけ出し、HIVポジティヴであることも公表し、さらにはその心境をも歌っている。だから彼が日本に来ると聞いたとき、僕が会ってほしいと真っ先に思ったのが田亀源五郎氏だった。田亀氏こそ、日本でゲイとして表現することをもっとも恐れていないアーティストのひとりだからだ。ゲイ・エロティック・アートというのは、ゲイであるということを肯定する、その支えになるはずのものだ。形は違えども、両者の表現にはゲイとして生きることがたしかに刻まれている。
 そうして実現した対談は、想像していた以上に熱を帯びたものになった。ゲイ・カルチャーの現在をヴィヴィッドに伝えるものになったとも思う。僕は立ち会いながら真摯な対話に胸を打たれるばかりだった。

 そして、その貴重な出会いは思わぬ続報をもたらしてくれた。ジョン・グラントは今月のHOSTESS CLUB ALL-NIGHTERで再来日することが決まっているが、その際に田亀源五郎氏がイラストを手がけたジョン・グラントの日本限定Tシャツが発売されるそうだ。田亀源五郎のタッチがたしかに感じられるクールな仕上がり。率直に言って、大手アパレルが手がけたプライド・コレクション系のアイテムよりも、ひと癖もふた癖もある絶妙なものになっていると思う。両者のファンだけでなく、先日の対談で興味を持たれた方にもぜひチェックしていただきたい。

 フロリダのゲイ・クラブで起きた銃乱射事件の数日後、ジョンはコンサートでカイリー・ミノーグをゲストに迎えて“グレイシャー”を歌いあげた。対談でも話題になった曲だ。僕は田亀氏の『弟の夫』の連載を毎月読みながら、その曲の歌い出しのことを思い返す……「自分の人生を生きたいだけ 知る限りのいちばんいいやり方で」。そして『弟の夫』に目を戻すと、そこではゲイたちの「自分の人生」が丹念に描かれている。あらためて、この特別な出会いを祝いたいと思う。 (木津 毅)



屍体×埋葬=? - ele-king

 ゾンビー=屍体、ベリアル=埋葬というわけで、この10インチは墓場のダンスホール、この10年間のUKアンダーグラウンド・シーンにおいて、そのダークさ、そのアンダーグラウンドさでもって、先へ先へ行こうという態度によって、リスナーを魅了してきた2人のキーパーソンによる大注目の曲だ。ベース・ミュージックがどこに行くのかという点、そしてポスト国民投票/ブリグジットのアンダーグラウンド・ミュージックを聴くという点において、まったく興味深い。聴かなければならない1曲である。

 シカゴ・ゲットー・ハウス的な声ネタの反復とベース・ミュージックのもっとも精鋭的な響きとが溶接する。テクノと呼ぶにはダンスを欠いて、ベース・ミュージックと呼ぶにはビートはミニマリスティック。そしてそれは深く深く沈んでいく。BPM的にはクラブでかけられるが、動くのは腰ではなく頭だろう。ひとつ言えるのは、このきつい社会からこぼれ落ちた者たちの居場所を拡張するのは、たとえばこういう音楽だということ(ここまでやってもいいんだという意味で、はみ出すことを恐れないという意味で)。とにかく、まあ格好いい。UKのアンダーグラウンド・ダンス・ミュージック、動いてますねー。

 なお、この曲は9月初旬に〈ハイパーダブ〉からリリースされるゾンビーの4枚目のアルバム『Ultra』からの先行リリース曲。そのアルバムには、ダークスターやテクノ系のRezzett(トリロジー・テープスからの作品で知られる)も参加している。否応なしに期待は高まる。

Dego - ele-king

 フローティング・ポインツとUKグライムとの溝を埋めることができるのは、ディーゴだ。ジャングル/ドラムンベースの創世記におけるキーパーソンとして知られるディーゴは、まずUKハードコアをデトロイト・テクノと結びつけ、そして数年後にはUKハードコアをクラブ・ジャズとも結びつけた。ベース・ミュージックが成熟と洗練とに向かっている現在、この偉人が再評価されるのはなんら不思議ではない。
 今回は東京CONTACT、大阪CIRCUS、京都METROの3都市をツアー、各地Degoのニッポン・サポーターとの共演です!

Dego & The 2000Black Family - It Don't Get No Better

https://soundcloud.com/2000black

 Joy Orbison とWill Bankheadが運営するイギリスのレーベル"Hinge Finger"のショーケースが、シックなビジュアルで多くのファンを集めるブランドC.E.(Cav Empt) のサポートの元行われる。イギリスのアンダーグラウンドで、独自のテイストとビジュアルで人気を誇るThe Trillogy TapesのWill Bankheadが運営する兄弟レーベルとも言えるHinge Fingerは、"Peder Mannerfelt"を招聘。

 "Peder Mannerfelt"はスウェーデンのアーティスト、"Subliminal Kid"のメンバーとしてMassive Attackにリミックスを提供するなど、10年以上のキャリアを持つアーティスト。EPリリースに際してプレイを行う。

 アナログ機材から生まれるノイズとを印象的なボイスサンプルのカットアップで、新たなソニックウェーブ体験をさせてくれるだろう。さらに、幅広い選曲を見せるJoy Orbisonのプレイにも注目だ。CO/R名義でローなテクノ・トラックを収録した"Gudrun" EPリリースしたかと思えば、先日のNTS Radioではダンスホールからハウスまで縦横無尽のプレイを見せた。また、日本からのDJにはFuture Terror主宰のDJ NOBU登場。

 なにが起こるかわからないエクスペリメントを体感しにUNITに足を運んでみては。

C.E & HINGE FINGER

JOY ORBISON (Hinge Finger)

PEDER MANNERFELT (Peder Mannerfelt Produktion / Hinge Finger)

WILL BANKHEAD (The Trilogy Tapes / Hinge Finger)

DJ NOBU (Future Terror / Bitta)

日時 : 2016年9月10日(土) 23時30分〜

場所 : 代官山UNIT www.unit-tokyo.com

〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西1−34−17 ZaHOUSE

価格 : 前売り 3,000円 / 当日 3,500円

前売りチケット (8月6日土曜日発売開始):

e+ / LAWSON (L Code: 71247)/ diskunion (Shibuya CMS / Shinjuku CMS / Shimokitazawa CMS / Kichijōji) /JET SET TOKYO / TECHNIQUE / DISC SHOP ZERO / Clubberia / Resident Advisor / BEAMS Records / min-nano / TOXGO / have a good time / UNIT / C.E

※20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため顔写真付きの公的身分証明書をご持参願います


白川まり奈 妖怪繪物語 - ele-king

オカルト・SF・怪奇漫画界伝説の奇才・白川まり奈、驚愕の未発表作品を発掘! ここに刊行!!

『百鬼夜行絵巻』から鳥山石燕や
『稲生物怪録絵巻』を経て水木しげるに到る、
絵物語としての妖怪画の伝統を受け継ぐ偉業
―東雅夫(アンソロジスト、文芸評論家)

カバーは前面金箔押し+2色印刷
本文は6種類の紙を使い分けた、豪華特殊仕様!

没後15年以上経過する、このミステリアスな作家の作品のほぼすべて絶版。熱狂的なファンが血眼になって古書を探しているなか、未発表原稿が存在した。この「妖怪繪物語」は、白川まり奈が生前にライフワークとして取り組んでいた、幻の原稿である。ミントコンディションにて10数年眠っていた驚愕の内容が今明らかになる!! 解説はアンソロジストの東雅夫。妖怪研究家としての白川まり奈の魅力を解き明かす。

封入特典:
『侵略キノコ新聞』と題した投げ込み特別付録付き。マニア必読の知られざる白川まり奈の世界を紹介する。さらにここには、90年代にある雑誌に発表された、誰も読んだことのないであろう、超短編漫画作品を発掘し収録する!

■目次
第一話 鬼 
第二話 鉄鼠
第三話 九尾狐
第四話 付喪神
第五話 天狗の呪い
第六話 八人坊主ひとねぶり
第七話 輪入道
第八話 ムジナの祟り
第九話 河童

解説:東雅夫
未発表原稿との出会いから書籍化まで:古書ビビビ・馬場幸治



■著者プロフィール
白川まり奈(しらかわ・まりな)
一九四〇年長崎県生まれ。二〇〇〇年没。武蔵野美術大学を中退した後、漫画家、イラストレーターとして活動。オカルト系、SF系作品を曙出版、ひばり書房(二〇〇四年閉業)から多数発表。二〇一六年、現在多くの著作が絶版であるなか、幻の未発表原稿を発掘。今回、生前にライフワークとして取り組んでいたという幻の未発表原稿『妖怪絵ばなし』が『白川まり奈 妖怪繪物語』として書籍化される。

Blood Orange - ele-king

 このアルバムに収録された「撃たないで!」と叫ぶ声を何度か聴いた数日後、バトンルージュで黒人男性アルトン・スターリングが警官に銃殺されたニュースを聞いた。そしてそのすぐ後にはダラスの銃撃事件……。ブラッド・オレンジにとってBlack Lives Matterを象徴する一曲と言えば、昨年の7月に発表され、「肌」をモチーフにした11分にも及ぶ力作“ドゥ・ユー・シー・マイ・スキン・スルー・ザ・フレームス?”だが、それから約1年経ってもアメリカではひとが死に続けている。銃によって、そして人種の問題で。だから本作『フリータウン・サウンド』も、ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』のように、ディアンジェロ『ブラック・メサイア』のように、あるいはビヨンセ『レモネード』のように……ブラック・カルチャーにまつわる時代を象徴するアルバムになってしまった。そしてここからは、とても甘い愛の歌が聞こえる。

 『フリータウン・サウンド』のフリータウンとは、シエラレオネ共和国の首都であり、現在ブラッド・オレンジと名乗るデヴ・ハインズの父の出身地である。ハインズは英国で移民の息子として育ち、あるときはニュー・レイヴ期直前のダンス・パンク・バンドのメンバーであり(テスト・アイシクルズ)、あるときはフォーク・サウンドに手を出していたが(ライトスピード・チャンピオン)、ニューヨークに居を移しブラッド・オレンジとしてR&Bに集中していくことになる。存在としても音楽的にも流浪であり続けたハインズは、自らのアイデンティティをその自由の街に見出した。であるから、自然と「自分はどこから来たのか?」というルーツの問題に取り組むこととなり、前作『キューピッド・デラックス』では母の出身地であるギニアに赴いていたが、本作でもそのテーマを深めようとしている。根本的にはパーソナルなアルバムである。が、そうして西アフリカからの移民であった父と母のことを考えたときに、現在の隣人であり友人であるアフリカン・アメリカンへのシンパシーを覚えるようになったのだろう。
 アシュリー・ヘイズがミッシー・エリオットに捧げる詩の朗読から始まるこのアルバムは、おもに3つの文化によって支えられている。まずはブラック・カルチャー、彼を育んだクィア・カルチャー、そしてフェミニズムだ。“オーガスティン”(アウグスティヌス。ある意味でアフリカ移民であり、ボブ・ディランの歌のモチーフでもある)の瑞々しく感傷的なヴィデオを見るとそれらが彼のなかでどこまでも溶け合っていることがわかる。すなわち、マイノリティであることはハインズにとって最大のアイデンティティであり、そもそもはアフリカン・アメリカンでもなく、ゲイでもなく、女でもない彼こそが、それらを誠実な共感によってここで繋ぎとめようとしているのだ。それはたとえばジャネール・モネイのような存在と緩やかに共振していると言えるかもしれない。ドキュメンタリー映画のサンプルやスポークン・ワードを差しこむなどしつつ、ブラック・カルチャーの多層性を浮かび上がらせんとする挑戦が見て取れる。

 けれども、たとえば2012年に自警団員にアフリカン・アメリカンの少年トレイボン・マーティンが射殺された事件に言及しているという“ハンズ・アップ”にしても、それはとても優しくて聴いているととろけそうなスウィートなR&Bとしてここに出現している。とびきり感傷的な。前作からの80年代R&Bという基本路線は変わらないものの、よりパーカッシヴに、よりソウルフルに、アレンジはより煌びやかになっている。エンプレス・オブことロレリー・ロドリゲスがコケティッシュな歌声を聞かせるバウンシーな“ベスト・オブ”。ズリ・マーリーが切なげに歌うジャジーなピアノ・バラッド“ラヴ・ヤ”。80年代風のシンセ・ファンクでクールな声をデボラ・ハリーが響かせる“E.V.P.”。カーリー・レイ・ジェプセンが囁くような発話を披露するシンセ・ポップの官能“ベター・ザン・ミー”。様々な女たちが入れ替わり立ち替わり登場し、このフェミニンな世界を作り上げている。プロデューサーでありながら、ダンサーたるハインズはその真ん中で歌って踊る。これが、僕がいま存在するストリートだとでも言わんばかりだ。
 ストリート……わたしたちがニューヨークを想像するときにたぶん思い描くであろう雑多な人間が交差する街角の風景が、このアルバムからは浮かび上がってくるようだ。ほかの街ではマイノリティとして疎外されてきた者たちの集まる場としてのストリート、そこではリズムに任せて誰もが踊っている。ジャズとファンクとヒップホップ、それらを緩やかに繋ぎとめるラヴ・ソングとしてのR&B。前作に比べて1曲1曲が断片的で、その分風景が次々に変わっていくような鮮やかさと動きがこのアルバムにはある。シリアスなテーマを持ちながらも、音の足取りが重くなる瞬間は一度もない。

 荒れ果てる時代に愛という言葉こそ虚しいという声もある。だからこそ愛を訴えることが必要なんだという意見もある。その両方に引っ張られる僕はだから、このアルバムの“ラヴ・ヤ”を聴く。「さあ、僕にきみを愛させて」……そこではそう繰り返される。何度も何度も。僕はある映画の「愛はあるのにそのはけ口がないんだ」という台詞をふと思い出すが、そんなに悲しいことはない。『フリータウン・サウンド』は、デヴ・ハインズが自身の出自をゆっくりと辿りつつ、いま起こっている悲劇を断片的に挿入し、しかしどこまでもひととひとと間に沸き起こる感情について歌うことで、分断された社会に愛することを思い出させようとするアルバムだ。それは逆説的に、いまの引き裂かれた状況を示しているのかもしれない。けれども、ここではたしかにたくさんの人間の息づかいが交わされている……それこそがわたしたちの喜びだと示すかのように。

Whitney - ele-king

 レイドバックしているのに「棘」がある。 ホイットニーのファースト・アルバム『ライト・アポン・ザ・レイク』を最初に聴いたとき、そう思った。ホイットニーといっても人名ではなくバンド名である。しかもその音楽性は、ザ・バンドのようだ、と書くと洒落か冗談みたいだが、たしかにそうなのだ。しかし真に重要な点は、ザ・バンド的70年代風のフォークロックなのにまったく懐古趣味的ではないという点にある。彼らの演奏や音楽には「いま」の空気が、あふれている。そしてそれは2016年現在の「いま」であって、最先端のモードであるとかないとかなどは関係がない。「いま」はいつの時代でも「いま」である。ついでにいえば、彼らが元スミス・ウエスタンズのドラマー、ジュリアン・エールリヒとギタリスト、マックス・カラセックであることも(それほど)は関係ない(と、あえていってしまいたい)。ホイットニーは、2016年の音楽であり、この夏に鳴り響くべき、いまのフォーク・ロックだ。じじつ、彼らの音楽にはそんな力がある。未聴の方は、まずは“ゴールデン・デイズ”を聴いてほしい。

 曲の、というよりサウンドに不思議な棘を感じないだろうか。70年代的な曲調・演奏なのにリラクシンする直前のなにか。この「棘」と「いま」を、「若さ」という言葉に置きかえてもいいだろう。が、しかし、それは同時代的な現象でしかない「若者」ではない。むしろ時代や歴史を超えても存在する普遍的な「若さ」に思える。そして「若さ」とは、たいてい傷を付けられているものだ。その「若さ」を、より音楽に近づけていえば、たとえばペイル・ファウンテンズなどの80年代ネオ・アコースティックな音楽のような「若さ」ともいえるだろう。かつて80年代のペイルはブリューゲルホーンとゼブンスのコードにのせてバート・バカラック調の曲を歌っていた。2016年のホイットニーはザ・バンドやコリン・ブランストーンのようになろうとしているのだろうか。

 むろん、だれもが知っているようにネオアコ的な「若さ」には、不思議な「老成」もつきまとうものだ。それは歴史が終わったという諦念によるものだろう。しかし、ホイットニーの彼らには「終わった歴史を生きている」という諦念は希薄に思える。現在は2016年なのであって、1983年ではない。1996年でもない。2004年でもない。進化・停滞するリニアな歴史はとうの昔に終焉をむかえた。フラット/平面的な時間軸に置かれた歴史をわれわれは生きはじめているのだ(80年代リヴァイヴァルが終わって次は90年代の番かと思いきや、1971年と1978年が混在し、1983年と1996年が同時にきている感覚。なぜか。たぶん、20世紀が終わったからだ。フォルダ的な、反復的な、リヴァイヴァルが無効になった)。

 では彼らの「棘」はどこにあるのか。音楽的な部分でいえば、肝はジュリアンのドラムにある。全体的にリラクシンな演奏だが、ドラムだけがやや前のめりで、まるで楔を打ち込むような演奏をしているからだ。“ゴールデン・デイズ”を聴けばわかるが、レイドバックした演奏の中に、まるで棘のように打ち込まれるドラムによって、ホイットニーは80年代ネオアコでも90年代のギタポでも00年代のインディでもない「2016年のいま」の音楽になっている。このドラムの「硬さ」が、70年代的レイドバック感覚の音楽に、ヒリヒリとした現在性を注入しているわけだ。ドラムが音楽に同時代性の輪郭線を与えている、とでもいうべきかもしれない。この「若さ」特有のヒリヒリした感覚、つまりは「棘」と「傷」が、もっとも全面化している曲が唯一のインスト曲“レッド・ムーン”ではないかと思う。この前のめりのドラムと、つたないジャズのようなホーンが胸をうつ。

 つぎに重要なエレメントはエレピの響きである。アルバム1曲めはエレピのイントロによる“ノー・ウーマン”ではじまるのだが、このコード感に、かすかに70年代中期のAOR/ディスコ感覚を聴きとることができるはず(彼らの世代でいえばダフトパンクの『ランダム・アクセス・メモリー』の存在が大きいのかもしれない)。その意味で、エレピが全面にフィーチャーされている“ポリー”の「ダンス・ミュージック感」は重要だ。この曲の存在によって、本作は70年代初期と後期をつなげているのだ。

 そしてなにより重要なのは、ドラマーであるジュリアンがヴォーカルをつとめている点にある。ライヴ映像を見れば一目瞭然だが、ドラムを中心としたステージ・フォーメーションとなっている。ザ・バンドやYMOなどの系譜を置くことは簡単だが(思わず高橋幸宏氏ならば本作をどう聴いたのかと知りたくなってしまったほどだ)、私はむしろヴォーカリストを中心とするロックバンドの形式に対して、カジュアルにノーを突き付けるパンク感覚ではないかと思った。そう、棘とは傷と反抗である。レイドバックした演奏に込められた傷と棘。だからこそ、アルバムのラスト曲にして、多幸感にあふれたカントリー調の“フォロウ”が胸に深く突き刺さるのだ。

 むろん、こんな理屈など彼らの音楽を前にするとどうでもよくなる。マックスのギターに、ジュリアンのコリン・ブランストーンを思わせる声と「棘」のようなジュリアンのドラム。そして、瀟洒なエレピ、ネオアコの記憶を想起するホーンなどなど、すべてが奇跡のように、「いま」の「インディ・ロック」として鳴っているからだ。ただ、この夏に聴けばいい。棘と反抗と、ポップ・ミュージックが醸す美しい瞬間のために。などと思って、ジャケに目をむけると美しい赤い薔薇のアートワークであった。薔薇と棘。ああ、まさに、と深く納得するほかはない。

YOUNG JUJU - ele-king

キャンディタウンの勢いは止まらない。今年2月にデビュー・アルバム『Soul Long』をリリースしたIOに引き続き、キャンディタウンの中心メンバーのひとりであり、BCDMGにも名を連ねるラッパー、ヤング・ジュジュがデビュー・アルバムのリリースを決定した。
キャンディタウンのメジャー・デビューも決定し、破竹の勢いを見せる彼らであるが、リーボックとのコラボレーションで話題となった“Get Light”において、フューチャーされていたヤング・ジュジュは、今もっとも注目されているラッパーの一人といっても過言ではないだろう。
先日リリースされた先行曲、“The Way”ではプロデュースにMASS-HOLE を起用し話題となったが、今回のアルバムには、IOやドニー・ジョイントといったキャンディタウン勢の参加はもちろん、フラッシュバックスのFEBB、jjjの参加も予定されているとのこと。日本語ラップ・シーンの注目株たちの邂逅をバックに、ヤング・ジュジュはいったいどのようなアルバムを生み出すのだろうか。激シブ、ドープな最新型クラシックを期待!


 友だちが最近、人生にちょっと疲れてインドに行って、見違えるほど変わって帰って来た。1ヶ月程度の旅行だったし、その間に運命的な何かがあった訳ではないから、本人はその自分の変化に、まだ気付いてはいない。

 「一人旅」というものに、若い頃は人生の革命が起こることを期待する。僕もそうだったし、今もその興奮を旅の前に抱くこともある。だけど、冷静になってこれまで関わって来た周りの人を見ると、旅の後に彼ほどの明らかな変化、というよりは変異を果たした友人を思い出すことができない。

 ウイルスと細菌は全く違うもので、大きさも1000倍ぐらい違うし、そもそもウイルスは「生物」ではない。細菌は細胞壁に囲われた身体を持っていて、その内部にいろいろな役割を与えられている器官を持っている。栄養さえあれば自己増殖もエネルギー産生もできるから「生物」とされる。それに対してウイルスは、生物の細胞ひとつひとつに含まれる体全体の設計図みたいなDNAやその情報運搬役のRNAのような遺伝子のみが、カプシドという殻に包まれた状態。だからウイルスは自己増殖ができない。必ず感染する相手(宿主)の細胞の機能が必要で、その中に入り込み、その宿主の設計図の中に自分を埋め込んで、宿主の細胞に自分を大量生産してもらう。自分だけでは子孫はおろかエネルギーさえ作れないので「非生物」とされている。つまり、ウイルスは生物の残骸の一部みたいなものと言えばイメージがつくかもしれない。

 ちなみに抗生物質というのは細胞壁を壊す薬だから、細菌にしか効かない。普通の人がかかる「風邪」の8割以上の原因がウイルスだとわかってから、人類の抗生物質の使用量は大きく減った。とはいえ、見切り発進も未だに多い。

 細胞の突然変異が起こる確率は、10万~100万回に1回の細胞分裂で起こる。その突然変異の細胞が様々なレベルで自然淘汰を受けて、その環境に適合した性質が残されて行くのが進化の原動力とされる。僕らの遺伝子は、絶えず宇宙からくる放射能(宇宙線)に晒され、日常生活で摂取する様々な物質によって傷つけられている。そういった遺伝子を変化させる原動力のひとつとして、ウイルスがある。地球史上、ウイルスは様々な生物の内部に入り込み、「他力」によって自己複製をしながら変化してきた。インフルエンザウイルスが毎年流行るのは、その変異があまりに早く、人間がその免疫を獲得しにくいからで、一度感染したら、治る頃にはすでに違うウイルスに変異していると言われている。時間の長短はあれ、無数のウイルスたちが、地球史上の中でかなり長い間、こうした営みを繰り返して、常に生物の突然変異と進化の礎を築いてきた。

 寒いと風邪をひく。というのは当たり前のことのように共有されていて、風邪っていうのは、外部からのウイルスや細菌の侵入がなければひかないものだと一般的には考えられている。だけど、僕は本当にそうなんだろうかと疑問を持っている。もちろんインフルエンザのようにそういう時もあるだろうけど、寝ていて体が冷えたその時に、いつもたまたま風邪の原因ウイルスとの接触があるというのは考えにくい。

 漢方治療をしていると、「気」を増幅させる「補気剤」の内服で、毎月風邪をひいていた人が、1年間一度も風邪をひかなかった。なんていうことが当たり前のようにある。おそらく「風邪」というものの多くは、常に風邪症状を生じさせるなんらかのウイルスが体内にいて、環境が変わるたびにそのバランスが崩れることによって症状が現れている。

 そもそも「風邪」という定義もすごく曖昧で、頭痛は「風邪」なのか、食欲低下は「風邪」なのか、抑うつ気分は風邪で不安は「風邪」じゃないのか。僕は極端な話、そういう症状のひとつひとつには体内のウイルスが相当な部分関与しているんだろうと思っている。

 僕は微生物学免疫学教室と東洋医学科に在籍していた時期があった。その二つの科の教授が同じ人で、エイズウイルス関連でNatureという科学雑誌にも何度か論文が掲載されている。僕の今の医学観はその人の影響を強く受けている。その教授が4月5月の診察になると、患者さんの舌や脈を診ながら「春は草花や虫が動き出すように、体内のウイルスも動き出すんだ」と言っていた。

 これが科学的に正しいかどうかはわからない。だけど、B型肝炎やC型肝炎のように、体内に慢性的に持続感染しているウイルスを持っている人は、4月5月にそれまで安定していた体調が悪くなることが多い。それに限らず、毎年同じ季節に体調が悪くなるという人は、まだ発見されていない何らかのウイルスの影響が大きいだろうと思っている。(おそらくこの世の中には、人類が同定することのできたウイルスより、まだ発見されていないウイルスの方が圧倒的に多い)

 人間は60兆個の細胞で構成されるが、その100倍以上とも、1000倍以上とも言われる細菌やウイルスというものでひとつの生命が構成されている。だから、寒いと風邪をひくというのも、そういった常に在中するウイルスが変化するのがひとつの要因だというのは、まんざら外れてもいないと思っている。

 インドに行って変わった友人は、帰国後に再会する前に、A型肝炎というインドの食物から感染するウイルスによって肝炎を発症して入院した。幸い彼はそのインド製のウイルスとの格闘に打ち勝って生き残った。A型の持続感染はほぼないと言われているが、少なくとも彼の体細胞の遺伝子には「インドのウイルス」、もっと言えば、「インド人が文化と共に育んで来たウイルス」が一時的ではあれ入ったのだ。それが彼の体内の無数のウイルスの中の一員として、微量ながら今も残っている可能性は低くはない。

 そう思って彼を見ると、日に焼けたせいかもあるけど、旅行前にあった少女漫画に出てくるような美しさが消え、インド人っぽく見えるようになった。そう思って話を聞くと、どうやったら金を稼げるか。という話が増えたようにも感じる。でも、確実に言えることは、彼は旅の前より明らかに、元気になった。

 人間は音楽に精神を動かされる。同じように、あるいはそれ以上に人間は、ウイルスに動かされている。

 そうこう言う僕も、インド旅行の最後にガンジス川の水を飲んで、随分と激しい下痢をした。僕の中にもガンジス川製のウイルスがたぶんいる。聖なる川ガンジスのウイルスは壮絶だった。僕も絶えずインドのウイルスに動かされているのかもしれない。

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