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![]() ディスタンスのDJでフロアは大盛り上がり |
今年で13年目を迎えている〈DBS(ドラムンベース・セッション)〉の「Dubstep Warz」にて、ロンドンからディスタンスとローファーが来日した。ディスタンスとローファー......贅沢なメンツである。ふたりのダブステッパーは、早い時期から忘れがたい作品を残している。それぞれタイプは違うが、キーパーソンであることは間違いない。夜の12時、僕は代官山ユニットの楽屋でふたりを待った。
楽屋のドアが開いて、ふたりが入ってきた。まずは最初にディスタンスの話を訊こう。僕の家には彼の2枚のアルバムがある。〈プラネット・ミュー〉から出ている『マイ・デーモンズ』(2007年)と『リパーカッションズ』(2008年)は、ともに深夜の都会の風景写真をアートワークにしている。実際にディスタンスの音楽は深夜の都会の片隅に我々をテレポートする。ブリアルのように......。
ローファーには待機してもらい、僕は神波京平さんとタナカ・テツジ君とグレッグ・サンダース――すなわちディスタンスを名乗る男を囲んだ。
ダブステップが変わってしまったからだよ。やたらノイジーになって、「ウワワワワ!」というサブベースのうるさい音がたくさん出てきてしまった。それで僕は、そう、ダブステップに飽きてしまったんだよ。
■どんな経緯でダブステップのシーンに入ったのか教えてください。あなたはスキューバの〈ホットフラシュ〉から2004年に出したシングルでデビューしていますよね?
ディスタンス:いや、あれは2003年だよ。
■ホント?
ディスタンス:間違いない。〈ホットフラシュ〉の002番だよね。
■で、そもそもはどういうはじまりだったんですか?
ディスタンス:UKのアンダーグラウンドにはドラムンベースとUKガラージとふたつあるんだけど、僕はガラージが大好きだった。ガラージがダークになってダブステップに発展する。〈テンパ〉から出たハッチャの『ダブステップ・オールスターズ・ヴォリューム・ワン』(2003年)、あのあたりからダブステップが広く認知されはじめていったよね。僕はガラージの延長でダブステップを聴きはじめて、そのダークなエレメンツに触発されたんだ。
■スキューバの〈ホットフラシュ〉レーベルから出したのはどんな経緯から?
ディスタンス:〈フォワード〉(注:ダブステップの伝説的なパーティ)で彼と会って、知り合ったんだよね。
■へー。
ディスタンス:ポール・ローズ(スキューバの本名)がまだスペクタという名前でやっていた頃だったね。彼はベルリンに移住したから、もう頻繁には会っていないけどね。いま彼は〈ベルグハイン〉で「サブスタンス」というパーティをやっているよ。
■あー、知ってる。最近、「サブスタンス」のミックスCDを出しましたよね。
ディスタンス:僕も呼ばれてそこでまわしたよ。
■〈フォワード〉はいつから行きはじめたんですか?
ディスタンス:2000年代の最初だね。ガラージをやっている友だちに教えられて〈フォワード〉に行った。衝撃だったさ。それで毎週通うようになった。
■どのくらいの人たちが踊っているの?
ディスタンス:20人ぐらいだったよ。
■20人!
ディスタンス:ハイプじゃないんだ。音楽に共鳴した人たちが集まって、すごい熱気だった。DJブースをみんなが囲んで、かかっているダブプレートをじーっと見るんだ。で、「スクリームって書いてあるけど、誰だよ?」って。そんな感じだった。ピンチはブリストルから車でやって来るんだ。ハッチャ、ヤングスタ、ベンガ......みんなそこにいたんだ。
■では、その場にいた20人がみんなDJやプロデューサーになるんだね。
ディスタンス:そうだね(笑)。僕はいつも、彼らのファンだった。で、いつしか自分でも作ってみようと、はじめるんだ。
■いまでもダブプレートを使っている?
ディスタンス:使っているけど、正直言うと、最近は減っている。技術的な問題なんだ。ダブプレートはハウリやすいし、床が揺れると針飛びしやすい。こればかりは仕方ない。CDRを使う機会が増えている。それから機内への持ち込みも最近ではかなり制限されているんだ。それもCDRが増えている理由のひとつだね。本当はダブプレートを使いたいんだけどね。
■最初のアルバムに『マイ・デーモンズ』というタイトルを付けたのは?
ディスタンス:それは最初に作りはじめたトラックのうちのひとつだったんだけど、僕はもともとメタルを聴いていて。
■メタルからその言葉が来たの?
ディスタンス:ノー、ノー、ノー。うーん、説明がちょっと難しいな。
■『マイ・デーモンズ』と『リパーカッションズ』のアートワークがすごく好きなんですよね。あの都会の夜の淋しい風景が、あなたの音楽にとても合っていると思って。
ディスタンス:そうだね。僕もそう思う。あれは、〈プラネット・ミュー〉のマイケル・パラディナスが探してきてくれたんだ。2000枚の写真のなかからふたりで探したんだよ。ニューヨークの写真家の写真なんだよ。
■えー? あれはサウス・ロンドンじゃないの?
ディスタンス:違う(笑)。たぶん、ニューヨークじゃないかな。
■ずーっと、クロイドンかサウス・ロンドンのどこかだと思っていました!
ディスタンス:ハハハハ。でも、あのヴィジュアルが僕の音楽に完璧に合っているのは間違いないよね。
■マイケル・パラディナスの音楽は昔から知っていたんですか?
ディスタンス:知らなかった。後から知ったよ。僕はガラージを聴くまでずっとロックを聴いていたら。
■どうして彼と知り合ったの?
ディスタンス:ヴェックスドのジェイミー(・ティーズデイル)から紹介されたんだ。曲を作りはじめた頃、完成するといつもジェイミーに送っていたんだ。ジェイミーはそれをそのままマイケルに渡してくれていたんだよ。
■2007年から自分のレーベル〈チェストプレート(Chestplate)〉をやってますよね? あれはどういう理由ではじまったんですか?
ディスタンス:うん、あれは自分の音楽の玄関口みたいなつもりではじめたんだけど、最近は新しいアーティストの紹介もしたいと思っている。
■いま8枚?
ディスタンス:そうだね。
■すべてディスタンスでしょ?
ディスタンス:いやいや、スクリームとベンガのスプリットも出しているよ。
■出したいと思っている新しいアーティストは誰ですか?
ディスタンス:まだ言えないけど、10番目は2枚組で新しいアーティストを収録するつもりなんだ。
■あなたのサード・アルバムは?
ディスタンス:年内に完成させるつもりです。
■〈プラネット・ミュー〉から?
ディスタンス:たぶんね。
ここでローファーと替わってもらった。短髪で長身の彼は、ロンドンのルードボーイなセンスをどこかに感じさせる。
さて、あらためて言おう。ピーター・リヴィグストン――ローファーの名で知られる彼はダブステップにおいて最重要人物のひとり。スクリーム、ベンガ、マーラ、コーキ、それらと並ぶキーパーソンである。
![]() ローファー、ポスト・ダブステップを指標する男だ |
言うまでもないことだが、ローファーがマーラとコーキの3人ではじめた〈DMZ〉は、リリースされているほとんどの音源がいまやクラシックである。彼が2004年にデジタル・ミスティックズ(マーラ+コーキ)&ローファーとして発表したEP「ダブセッション」は初期ダブステップの名盤の1枚で、2005年のローファーのソロ・シングル「ルート/ザ・ゴート・ステアー」はその時代のもっともドープな1枚として記憶されている。
また、ピンチの"パニッシャー"のリミックス、サーチ&デストロイの"キャンディフロッス"のリミックスも評判となった。ちなみにスクリームの「ローファー・リミックス」なる12インチは、レーベル面のアートワークがレジデンツである!(だからデザイン買いした)
もっともローファーの場合、そのキャリアに対して作品数は決して多いとは言えない。が、逆に出しているものはほとんど"間違いない。そういう意味で彼は、玄人好みのひとりと言えるだろう。
■どうしてマーラやコーキと知り合って、〈DMZ〉として活動するようになったんでしょう?
ローファー:ヤツらは僕が10代の頃、ほとんど同じエリアに住んでいたんだ。僕らはノース・クロイドンで育ったんだよ。コーキは隣の街にいた。15歳のときハードコア・ジャングルにハマって、サージェント・ポークスとマーラはMCをやりはじめるんだ。
■高校が同じだったとか?
ローファー:マーラとコーキとポークスは同じ高校だったけど、僕は違った。
■パーティで知り合ったの?
ローファー:いやいやいや、そういうのじゃない。ホント、同じエリアだったから、街をぶらぶらしていたら知り合った感じ。
■いいですねー(笑)。レゲエのサウンドシステムの影響はあるの?
ローファー:ダブに関してはプロダクションのスタイルにおいて影響を受けている。でも、僕が影響を受けたのは、レゲエというよりもジャングルとヒップホップなんだよ。もしくはアシッド・ハウス。
■アシッド・ハウス?
ローファー:ああ、〈トラックス〉や〈DJインターナショナル〉のシカゴ・ハウスとかさ、ミスター・フィンガーズ、マーシャル・ジェファーソン......。1987年とかさ、あの時代の音だよ。1988年のイングランドはすごかったんだぜ。
■ていうか、そのときあなたは何歳だったんですか?
ローファー:9歳かな。
■9歳でアシッド・ハウスかー、それは早熟ですね(笑)。
ローファー:さすがにパーティには行ってないよ。海賊ラジオ放送で聴いていたんだよ。
■だって小3ですよ。
ローファー:はははは。
ここで楽屋に突然、ドン・レッツが乱入する......。ドクター・マーティンの50周年イヴェントで来日していたという。嵐のようにやって来て嵐のように去っていったドン・レッツ......。
ローファー:ルーズ・エンズって知ってる?
■ルーズ・エンズ! えー、知ってるけど、その名前、ものすごく久しぶりに聴きました。(注:80年代にソウル、ジャズ、ファンクを演奏して、レアグルーヴからアシッド・ジャズへと繋げたグループ)
ローファー:だから、サウス・ロンドンって海賊ラジオがすごかったんだよ。ソウル、レアグルーヴ、アシッド・ハウス......、で、その代表格がルーズ・エンズだったんだ。
■へー、ブリストルにおけるワイルド・バンチみたいなものだったんですね。
ローファー:イングランドはやっぱ、海賊ラジオの影響がホントに大きいんだよ。
絶対に忘れたくないことなんだ。1981年にサウス・ロンドンのブリクストンで反政府の暴動が起きた。高い失業、低賃金、貧困、粗末な住宅に対するフラストレーションが爆発したのさ。そのときに警察がとった作戦の名前が「スワンプ81」というんだよ。
■しかし......アシッド・ハウスを聴いていたキッズがどうやってダブステップに入ったんですか?
ローファー:1998~1999年くらいまではジャングルやドラムンベースにハマっていたんだけど、でもちょっと飽きてしまって、ちょうどその頃は自分たちでも何か作ろうって感じで思っていた。マーラはまだガラージのMCで、ハッチャはガラージのDJだった。で、僕はマーラやハッチャといっしょにいつも車でドライヴしながらクラブに出掛けていたんだよね。で、その道中で、僕は自分の曲をかけていたんだ。それから僕たちはハッチャがまわしていた〈フォワード〉に行くようになった。
■ハッチャとはどうして知り合ったの?
ローファー:マーラを通じてだよ。ハッチャはビッグ・アップルという地元のレコ屋で働いていたんだよね。知り合ってから僕もビッグ・アップルに通っていたよ。
■じゃあ、ホントに同じ時期に複数の人間がいっしょになったんですね。
ローファー:そうだね。
■マーラたちと〈DMZ〉をはじめたときは最初からシリアスだった? それとも遊び的なところもあったんですか?
ローファー:最初から、ものすごくシリアスだった。ただしそれがカネになるとはまったく考えていなかったけどね。
■〈DMZ〉はしばらく休止していますよね?
ローファー:〈DMZ〉とは、まさにマーラ、コーキ、そして僕のことなんだ。だから......マーラと他の人との繋がりで〈ディープ・メディ〉(マーラのレーベル)がはじまって、僕と他の人との繋がりで〈スワンプ81〉(ローファーのレーベル)がはじまった。
■ローファーの名前で〈スワンプ81〉から出さないのは何故ですか?
ローファー:ローファーは〈DMZ〉だからさ。
■〈DMZ〉は終わったわけじゃないんですね。
ローファー:決して(笑)。焦ってリリースするようなことはしたくないんだ。僕たちの素晴らしい音が完成したら出す、でも、決して焦らない。
■あなた自身、自分の作品をここ2~3年出してないのは何故ですか?
ローファー:その理由のひとつは、ダブステップが変わってしまったからだ。やたらノイジーになって、「ウワワワワ!」というサブベースのうるさい音がたくさん出てきてしまった。それで僕は、そう、ダブステップに飽きてしまったんだよ。
■それがあなたの言う"ポスト・ダブステップ"なんですね。
ローファー:そうなんだ。〈スワンプ81〉はポスト・ダブステップのレーベルなんだよ。
■他にはどんなレーベルがある?
ローファー:〈Night Slugs〉、〈Hemlock〉、〈Hessle〉なんかがポスト・ダブステップをやっているね。
■あー、〈Hemlock〉はアントールド、〈Hessle〉はラマダンマンのレーベルですよね。ああ、なるほどー。
ローファー:レイヴ・ミュージックではなくクラブ・ミュージックだよね。初期のダブステップがレイヴに変質したものではないんだ。いわば初期の20人の世界だよ。よりグルーヴィーで、ドラムマシンで作られていて、あと128 BPMぐらいのテンポ......よりソウルフルなダンス・ミュージック、それは〈スワンプ81〉のコンセプトでもあるんだよ。
ここで、神波さんが「〈スワンプ81〉という名前にはブルクストンの暴動が関係しているんだよ」と教えてくれる。
■へー、そうなんですか。
ローファー:ああ、絶対に忘れたくないことなんだ。1981年にサウス・ロンドンのブリクストンで反政府の暴動が起きた。高い失業、低賃金、貧困、粗末な住宅に対するフラストレーションが爆発したのさ。そのときに警察がとった作戦の名前が「スワンプ81」というんだよ。
(注:私服警察をブリクストンに送り込み、暴動の関係者などを片っ端から逮捕した)
■まったく現代に通じる話ですね。
ローファー:まあ、そういうことだね(笑)。実際、僕の住んでいるエリアでは、その暴動の話はずうっと、いまでも世代を超えて語り継がれているんだよ。
実はローファーに話を訊いているあいだにディスタンスのプレイ時間がきてしまい、ブリクストンの話を聞いたときにはもうディスタンスのDJがはじまって30分ぐらい経っていた。
すぐにフロアに戻った。ディスタンスは......彼の作品世界のように、都会のダーク・アンビエントを繰り広げていた。良い感じで埋まったフロアからはときおり叫び声が聞こえた。そしてポスト・ダブステップを指標するローファーは......DJの1曲目にダブ・ポエトリーの伝説、LKJの"Di Great Insohreckshan"(『Making History』収録)をかけた。
そしてローファーは、取材で話していたように、アントールド以降のポスト・ダブステップをミックスした。それはアシッド・ハウス、テクノ、ジャングル、ガラージ、ダブステップ、それらUKアンダーグラウンド・ミュージックの絶妙なブレンドで、そしてその新しい音はものの見事にフロアをロックしたのだった。
ちなみに7月の〈DRUM & BASS x DUBSTEP WARZ〉――メアリー・アン・ホブス(17日)、そしてスクリーム&ベンガ(31日)決定!
MGMTは、この国のあるひとつの"ロック・シーン"という幻想がまだぎりぎり成立するのだという、その臨界点を示してくれるバンドだ。それは言い換えるなら、音楽専門誌を読み、大型CDショップで試聴し、月に幾枚かの新譜を求めるという、もしかするともう古くなってしまったかもしれないリスナー像の臨界点でもある。彼らはメジャーとインディ、ウェルメイドな音とクリエイティヴな音を差し貫く、ハイブリッドな存在感を備えている。そしてそのことによって分断(トライブ)化する"ロック・シーン"をかろうじて繋ぎ止めているかに見える。
デビュー作『オラキュラー・スペクタキュラー』の魅力とは、アニマル・コレクティヴをよりポップでよりファッショナブルに変換したという点に尽きる。2007年当時、アニマル・コレクティヴ『フィールズ』に代表される多幸的でトロピカルな極彩サイケデリアには、大きなエネルギーが噴出していた。影響力も新しさも気運もそこにあった。時代を動かすコテとして、それは他の様々なアーティストや表現のなかに潜りこむことになる。
MGMTのデビュー作はアニマル・コレクティヴが掘削したトンネルをより広い聴衆に向けて開通させるものであったとも言える。いや......と言うよりは、ポップ・マーケットの側から掘られた穴が、途中で彼らに当たっただけのことかもしれないのだが。ともあれ『オラキュラー・スペクタキュラー』は大きな支持を得て、彼らはグラミー賞の最優秀新人賞にまでノミネートされる存在となったというわけだ。
しかし、MGMTというのはポップということの両義性に非常に自覚的なバンドである。口を開けば、「人を不快にさせたい」「より劣悪でより非常識な音で人から非難されたい」といった露悪的な態度で自らの音楽性を相対化する。「不快」で「非常識」なはずが、世間的な成功を収めてしまったことに対する照れ。あるいはポップ・ミュージックと正面から向き合えない、幼い自意識......そんなものを抱えたバンドかと思っていたが、ブルックリンのデュオはセカンド・アルバム『コングラチュレーションズ』で、またしても抜け目なく見事なポップ・アルバムを作り上げたのである。
まずはレイドバック志向。ザ・ドラムスにも顕著なこのモードにフォーカスするのはセンスとしてコレクトだ。持ち味のウィアードなエレクトロ・サウンドを用いながら、ふたりはペイズリー模様を煌めかせるように、60'sサイケ~ガレージ的な傾向をずいぶんと深めている。
サイケデリックの伝説的バンドとして知られるラヴを思わせる雅やかな旋律を、シューゲイザーと呼ばれてしまいかねない独特の残響につつんで軽やかに疾駆する"イッツ・ワーキング"。オルガンが露悪的に跳ね回る"ソング・フォー・ダン・トレーシー"(テレヴィジョン・パーソナリティーズのリーダーに捧げられている)も印象的な曲だ。そして"サムワンズ・ミッシング"や"フラッシュ・デリリウム"からはグラム・ロックの肉感的なサウンドが溢れ出る。マーク・ボランもデヴィッド・ボウイも聴き取れてしまうブリティッシュ・マナーの70'sロックだ。
"サイベリアン・ブレイクス"のような曲にもハント・アンド・ターナーなどのUKフォーク・ロックの影響を感じるが、ときおり挿入されるアコースティック・ナンバーは今作の特徴のひとつでもある。アルバムは実にバランスが良く構成され、1曲1曲のアイデアもしっかりしている。そして"MGMT印"の柔らかいファルセット・ヴォイスはデイヴ・フリッドマン(本作ではミックスを手がけているようだ)のスペーシーな音と見事に一体となっている。
それにしてもこのスケールの大きなポップ感は特筆すべきである。プロデューサーがソニック・ブームということはその説明にならないだろう。とにかくこれはひとつのトライブに回収されない音で、いろんなタイプの人間に行き渡ってしまう可能性を持った音だ。そんな作品は今日珍しい。つまり年配のお客さんが店頭で聴いてふとジャケットを手に取り、シングル買い回りのインディっ子からサラリーマン、あるいは音楽雑誌と一緒にレジへ持ってくる高校生......、繰り返すようだが、なんだか久々に昔ながらの音楽の風景というものを目の当たりにしているようなのだ。
波を挑発し、波から逃げる、呑まれる前に全速力で逃げる、そしてそれを楽しんでいるかのようなデザインのジャケットも素晴らしい。それは彼らのあり方を象徴するかのようだ。腹を割らない感じとでも言ったらいいだろうか。そもそも頭の切れるふたりだ。今作ではブライアン・イーノやレディ・ガガ、ダン・トレーシーといったポップの固有名詞を弄びながら、どことなく世界に対してアイロニカルに振る舞っている。
直球勝負はしないのだ。さまざまな音楽的意匠を利用しながらサーフィ
ンしきる......驕慢で不遜にもみえるが、なかなかクールなファイティング・ポーズじゃないかと思う。
「そんな自分たちに」か「そんな世界に」か、それとも何に向けてだ
ろう、"コングラチュレーションズ"。晴れ晴れと美しい、これもデヴィッド・ボウイ風の終曲。四分音符で小粋に下降するベースラインには、終わりとはじまりが、諦念と期待が入り交じっている。彼らは器用だが、確として道が見えているわけではない。波は、不安定なものだ。これからどうしていくのかわからないけれど、とりあえずここまで渡りきって、おめでとう。ここにもアイロニカルなニュアンスがないわけでもないが、そのようなアイロニーの無限連鎖をいったん断ち切る"コングラチュレーションズ"であったらいいなと思う。
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MAXXI AND ZEUS
THE STRUGGLE
INTERNATIONAL FEEL(EU) /
»COMMENT GET MUSIC
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MAYNARD FERGUSON
PAGULIACCI-JOE CLAUSSELL REMIX
COLUMBIA (US) /
»COMMENT GET MUSIC
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H.FUTAMI PRESENTS『CONSCIOUS BLUES』
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ECD『TEN YEARS AFTER』»COMMENT
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HIRAGEN from TYRANT『CASTE』
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RAMB CAMP『Ramb Camp』
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BING『HOMENAJE A LA MUSICA COLOMBIANA』
»COMMENT
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STARRBURST『INSTRUMENTALS』
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SEMINISHUKEI PRESENTS『WISDOM OF LIFE』
»COMMENT
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SFP BRAND NEW Tee
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PAYBACK BOYS BRAND NEW Tee
»COMMENT
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blahmuzik『ABNOIZ』
»COMMENT
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永らく音信普通だった旧友とばったり再会したような......。面陳されたレコードのなかにこのシングルを発見したときには、そういう少し浮き足立った気分になってしまった。ステーシー・プレンの本作は、前作「ジ・エレクトリック・インスティトゥート・サンプラー(The Electric Institute Sampler)」から数えること5年、そして自身のレーベル〈ブラック・フラッグ〉からの作品としては実に8年ぶりとなるリリースである。その名も「アライヴ」ときたものだ。〈ブラック・フラッグ〉を復活させてのこのタイトル、否が応にも期待が高まる。
ステイシー・プレンはカール・クレイグと並んでデトロイト・テクノの第二世代を代表するアーティストだ。彼のサウンドは、デリックメイ譲りのエモーショナルなコードワークとパーカッシヴなリズム隊が持ち味である。しかし、ロマンティシズムのなかに隠しきれない猛々しさを孕んでいるデリック・メイのサウンドに対し、ステイシーは、そう......、デューク・エリントンのそれにも通じる漆黒の気品のようなものを纏っている。扇情的でありながらも、どこか一歩引いたようなクールさとスマートさが彼にはある。
今作は、そんな彼の一連の作品群の中でももっとも"熱い"部類に入る1作だ。彼の楽曲は浮遊感のあるシンセパッドを中心として構成されることが多い。しかし、今回楽曲の中心に据えられているのはソリッドで骨太なベースラインだ。2拍ループで突き進むベースラインにヒプノティックなシンセサイザーが絡み合うなか、「I'm back...」という彼の変調された声が響く。そこには彼独特のクールさはあまり感じられない。というか、ちょっと驚くほどストレートだ。サイドBに収録されたその名も"ハイテック・ソウル・ミックス"はアフロ・パーカッションがフィーチャーされたラフな作りになっており、さらにオールドスクールなデトロイトサウンドへの先祖がえりが進んでいるようにも思える。
折りしも今年はデトロイト・テクノが誕生して25年目の年だ。3月にはフロリダで行われたWMCに於いて『D25』と題された記念パーティも催された。そんな節目の年にステーシープレンは〈ブラック・フラッグ〉を通して何を見せてくれるのか? これは注目せずにはいられない。

前回紹介したアームやディクソンやヘンリック・シュワルツたち。いわゆる「ニュー・ハウス・ムーヴメントを牽引する〈インナーヴィジョンズ〉一派」の活躍を筆頭に、ゼロ年代から続くジャーマン・テック・ハウスの勢いはいまなおとどまることを知らない。そしてまた今月もドイツから非常にユニークなサウンドのEPが到着した。
アエラは、ゴールドウィル(Goldwill)のメンバーとして〈ワズ・ノット・ワズ〉や〈リーベ・ディティール(Liebe Detail)〉といった人気レーベルから意欲的に作品をリリースしているラルフ・シュミッツ(Ralf Schmidt)のソロ・ユニットである。ゴールドウィルではパーカッシヴなヴォイス・サンプル使いが印象的だったが、今作ではそういったファンキーな持ち味は影を潜め、より内省的な方向性を打ち出している。
サイドAに収録されている"フラワー・オン・ファイアー"は、ゆっくりと寄せては返す波のようなシークエンスと煌びやかなハープの音が織り成す音響世界がこの上なく美しいトラックだ。ヒプノスティックにこだまするシンセと、覚醒を促すかのようにときおり挿入されるノイズの配置も絶妙である。電気的でエッジーなサウンドと、フォーキーなチル感が共存している。そしてなにより、さじ加減ひとつ間違えると途端に土臭くなってしまうダブ処理を、トゥマッチになる一歩手前で優雅な側に留めているそのバランス感覚が素晴らしい。
続くサイドB収録の"エレヴェーター・ピッチ"は、水滴を連想させる電子音のアルペジオが印象的なミニマル・トラックだ。メインで鳴っているアルペジオ・フレーズは3連のリズムを基調としている。そしてそこにときおりピッチを倍速にしたり、反復周期をずらした音をミックスすることで、ポリリズミックなグルーヴが生まれる。そのサウンドがさらにディレイで飛ばされ、音のレイヤーはさらに複雑に重なり合う。そうすることによって、少ないの音色ながらも万華鏡のなかのビーズのように絶えず姿を変えて聴く者を惹きこんでいく。
アエラ、すなわちラテン語で「時代」を意味するそのユニット名に相応しく、今作はジャーマン・テック・ハウスのみならずビートダウンやニュー・ディスコ/コズミックといった、言わばモダンハウスの潮流そのものを飲み込もうかとしているかのようだ。個人的に2010年の上半期ベスト候補です!
梅雨時が近づいてくると暗いレコードを聴きたくなる。落ち着いた音楽、というよりも"暗い"音楽だ。自分の話でなんなのだが、どうも僕は人よりちょっとばかり季節ごとのテンションのアップダウンが激しいようで......。しかも、これまた恥ずかしながら結構ステレオタイプな方向に。大体毎年春先に浮かれていろいろとやらかしてしまい、梅雨が近づいてくる頃にはどっぷりと反省の海に肩まで浸かることになるのだ。そんなときにしっくり来るのは、やっぱり底抜けに明るいラテン・ハウスではないと思う。
そんな前フリで紹介するのは、昨年なんと9年ぶりにオリジナル・フル・アルバム『ザ・バーゲンランド・ダブス』をリリースしたイアン・シモンズの作品だ。彼は90年代にはアシッド・ジャズ・シーンでカルトな支持を集め、トリップホップにも多大な影響を与えたバンド、サンダルズの一員としても知られている。そんな彼がアルバムをリリースするのに選んだのは、ジャズ・ルーツの良質なミニマル/クリックハウスをリリースしているドイツの〈ミュージック・クラウス〉だ。そして本作は、このレーベルの看板アーティストであるクラウス・デュオ(Krause Duo)を筆頭とした気鋭のアーティストたちによるリミックスEPである。
まず1曲目に収録されているのはリミックスではなく、イアン・シモンズ自身の未発表曲"ルーサー・ストリート・ブルース"だ。沈鬱なノイズと深いエコーがかけられたトランペットが印象的なこのジャズ・ナンバーは、さながらコールタールの沼のなかで聴くトリオ・ジャズとでも言ったところだろうか。ひたすらにダウナーである。続いて収録されている"スピーク"のイーブントゥエル(Even Tuell)によるリミックスも、これまた暗い。ショート・ディレイによって金属的な響きに加工された電子音と、ピッチを低く落としたヴォイス・サンプルのリフレインは、シカゴハウスのなかでも突出してバッド・テイストだったバムバムの作品にも通じるバッド・トリップ感を醸し出している。
この時期、こういったダウナーなレコードに手が伸びるっていうのは、たぶん、少数派ではないと思うんだよなぁ。収録されている4曲どれをとっても、浮ついた気分など一瞬でかき消してくれる素晴らしい薬効を持っている。ちょっと浮かれすぎた? と思ったときには、一度お試しあれ。
浮かれすぎたときに聴きたい1枚を紹介したのだから、今度は落ち込みすぎたときに聴きたい1枚を紹介するのが筋と言うもの。そこで紹介するのがバブル・クラブという聴きなれない名前のこのアーティストだ。実はこのバブル・クラブというのは、ロンドン在住のDJ/プロデューサーであるダン・キーリング(Dan Keeling)とエンジニアのロビン・トゥエルブトゥリー(Robin Twelftree)によるバレアリック・プロジェクトだ。ダン・キーリングといえば、カーク・ディジョージオとのユニット、クリティカル・フェーズの片割れと言うとピンと来る人もいるのではないだろうか?
サイドAに収録されたオリジナルミックスは、BPM115くらいのゆったりとしたエレクトリック・ブギーだ。たっぷりと脈打つようなベースとアコースティックギターのアルペジオは、思わず「これがバレアリックだ!」と言いたくなるほどの夢心地。あげくはリバーブとディレイで飛ばされた口笛まで入ってきて、もう言うことなし! である。サイドBに収録されたエリック・ダンカンの変名プロジェクト、ドクター・ダンクスのリミックスは、極力原曲を保ちながらも上物をさらに厚くして、より深めの空間処理を施してあり、こちらも極上のチルアウトチューンに仕上がっている。
実のところ僕は、わけあってこういうバレアリックな音にはちょっとした思い入れがある。それは遡ること10年、まだ僕が10代も半ばで地元に居た頃に端を発している。僕の地元は青森県は八戸市という本州の北端にあるちょっとした港町だ。お察しの通り、バレアリックとは程遠い。基本的に寒い。そこには田舎ながら一軒だけ、ダンス・ミュージックを専門に扱うレコード屋があった。昨年1月に閉店したその店は、名前を「リミックス・レコーズ」という。
その店には「親方」と呼ばれる、サーフィンと夕日を愛する店員が働いていた。当時テクノ小僧だった僕は、必然的に毎日親方の世話になっていた。〈アクシス〉や〈トレゾア〉のバックカタログを血眼になって集めているような当時の僕に、「そんなんばっかじゃ色気が出ねーぞ」と親方が薦めてくるのは大体決まってバレアリック・チューンだった。「スエニョ・ラティーノ」あたりを入り口にして、当時のイビサ系プログレッシブからホセ・パディーヤの一連の仕事まで。「いま全部ピンとこなくても年取ればわかるさ」といつも親方は言っていた。たしかに当時はピンと来たものはそのなかの半分くらいだったかもしれないが、思えばおかげで随分音楽性を広げてもらった。感謝してもしきれない思いだ。
話が大幅に逸れてしまった。要は、こういう黄昏が似合うような曲を聴くと暑い国への憧憬とともに毎日レコード屋の片隅で過ごした、ボンクラながらも楽しかった日々を思い出して少し元気になり、そして少しノスタルジックな気分になるのだ。
ジュラシック5のチャリ・ツナ(Chali 2na)やビタミンD(Vitamin D)とのコラボレートにより、ヒップホップやR&Bリスナーのあいだで話題となったシンガー・ソングライター、チョコレート。シアトルを中心に活動する彼女がウェスト・ロンドンのクラブ・ジャズ・ユニット、リール・ピープルと手を組み、彼らのレーベル〈リール・ピープル・ミュージック〉からシングルをリリースした。表題の"ザ・ティー"は、彼女が昨年発表したアルバム『トゥ・フーム・イット・メイ・コンサーン(To Whom It May Concern)』のなかの1曲だ。このアルバムは前述のビタミンDや、メアリー・J・ブライジも手がけるジェイク・ワン(Jake
One)の手によるR&Bを昇華した生音のダウンビートが中心となっている。そのなかでもひときわディスコ・フィーリングに溢れ異彩を放っていたこの曲を、リール・ピープル人脈のアーティストたちがリプロダクトした本作は、――そう、言うなれば"ニュー・ソウル以降のブラック・ミュージックとしてのハウス"を好む人びとのハートを打ち抜くことうけあいだ。
A1に収録されたリール・ピープルによるエディットは、原曲のサウンドをほぼそのまま用いて4分間の原曲を6分にエクステンドしたものだ。オリジナルを尊重した作りになってはいるが、控えめながらも要所要所にダブやエフェクトを加えてチョコレートのシルキーでありながら力強いヴォーカルと、そしてある意味ヴォーカル以上に歌っているファンキーなベースラインの魅力をより引き立てている。A2に収録のラヤバウツ(Layabouts)によるリミックスはパーカッションとサウダージ感溢れるガット・ギターのカッティングが、この曲のエモーショナルな面をよりいっそう盛り上げている。B1のマヌーによるリミックスは、硬めのアコースティック・ピアノとオルガンのコンビネーションという90'sハウスの記号が随所に散りばめられたオールドスクールな作りになっており、ハウス界の大々ベテラン、トニー・ハンフリーズが絶賛したというのもうなずける出来だ。エレクトリックでトリッピーなサウンドが隆盛な最近のハウス事情だが、ときにはこういうオーガニックなヴォーカル物でホッと一息つきつつ体を揺らすというのもまた、乙なものだ。
映画『ミスター・ロンリー』のサウンドトラック・アルバムを置き土産に解散したらしきサン・シティ・ガールズのアラン・ビショップ(サーじゃない方)が運営するコンピレイション攻めのレーベルから、シリア産の(ほとんどテクノにしか聴こえない)カントリー・フォークの3作目。〈ファット・キャット〉が世に知らしめたコノノNo.1や、昨年は〈クラムド・ディスク〉が発掘してきたコンゴのスタッフ・ベンダ・ビリリもそうだったけど、ソウレイマンもワールド・ミュージックに対して持っているスピード感のイメージではありません。速いです。途中からは本当に速すぎます。イスラエルの戦闘機のように矢継ぎ早にタッチ・ア......いや。ワールド・ミュージックも掘る人が変わるとこうも違うというか......あー、かといってM.I.A.やチリのDJビットマンのように西欧のフォーマットに伝統を溶け込ませていくわけではなく、サンプラーやシンセサイザーを使いまくっているからというわけではなく、どこかで必然的にモダンな要素と絡み合わざるを得なかった結果なんでしょう(別なレーベルからはこんなメンツでもコンピレイションが→)。
ソウレイマンに関していえば本国ではかなりの人気者らしく、前2作とも500本以上のカセット・リリースからセレクトされたコンピレイションなんだとか(あー、やっぱり、このレーベルはコンピレイション......)。ちなみにソウレイマンというのは本名なのかなんなのか、ウィーン包囲で有名なオスマン朝のスレイマン一世にOを足してソウルと掛けたようなスペルになっています(シリア人がそんなことはしないかなー。西欧社会においてスレイマン一世はいまだに脅威として受け止められているらしく、スローン・レンジャー上がりのダイアナ妃がトルコのデザイナーを贔屓にしていたことは、ある意味、あの結末を暗示していたとも)。
オープニングは"いつかお前の墓をこの手で掘り返す"、続いて"ベドウィンの刺青""オレの心臓を打て""すべての女の子は婚約済み"といった曲が並び(英訳詞を見る限りでは女性にふられる歌が多いような)、ディプロが南半球で展開しまくっているような呆けたムードにはいっさいならず、パーカッションの激しさはURさえ思い出させ、ピヨピヨと飛び回る笛のような音はまるでYMO(そういえばハードコア・テクノにバグ・パイプを組み合わせたパープレクサーというユニットがあったなー)。すべてはライヴ音源らしいけど、これを聴いてシリアの人たちは踊り狂ったりしているのだろうか。いちど見てみたいような、そうでもないような。ベースが入っていないのはやはり残念だし......(砂漠にベースは響かないのかなー)。
ここまで読んで、どんな音楽なのか、さっぱりわからないという人は間違っていないです。アチャラすちゃらかガガンガがーん、ですよ。ビシッビシッビシッビシッでピュピューピュピューとか。10分以上に及ぶ"わからない/紅茶のなかの砂糖のように"はけっこうシリアスなんですけどね。
オウテカの来日ライヴ公演が決定したとき、彼らが指名したDJのひとりがデトロイト・テクノのオリジネイター、ホアン・アトキンスだった。これは......なかなかいい話だ。つねにマニアの注目に晒されながら、ときにリスナーを困惑させることさえ厭わないUKの電子音楽における高名な実験主義者たちのオリジナル・エレクトロへの偏愛は良く知られた話である。だから、当然といえば当然の指名なのだろうけれど......。しかし、デトロイトのファンキーなテクノの生臭さはベッドルームのIDM主義者の潔癖性的な志向性とは、まあ、言ってしまえば180度違う......こともないだろう。昔から彼らはレイヴ・カルチャーを擁護し、その庶民性を見下す連中を批判してきたし、何よりも彼らがオリジナル・エレクトロへの愛情を失ったことはたぶんいちどもないのだ。とにかくオウテカは今回、決してトレンディーとは思えないデトロイトのエレクトロ・マスターの宇宙のファンクネスを引っ張ってきたのである。そんなわけで、6月4日の〈DIFFER有明〉のパーティを控えたホアン・アトキンスに話を訊いてみた。
■いまデトロイトですか?
ホアン:そうだね。
■最近はどんな風に過ごされていますか?
ホアン:最近は〈Movement 2010〉に向けての準備で毎日忙しいな。〈Movement 2010〉は知ってるかい? デトロイト・エレクトロ・ミュージック・フェスで今年は5月29日~31にかけて開催されるんだよ。去年は......たしか83,000人くらい集まったって聞いたな。今年はモデル500名義でライヴで参加するんだけど、パーティを閉めなくちゃいけないからね。準備がけっこう大変で、最近はそれに向けてずっと準備を進めているという感じさ。日本のショウだって? まずは〈Movement 2010〉をキッチリやらなきゃいけないが、準備はもちろんしているよ。オレが日本を好きなことは知ってるだろ。
■体調のほうはいかがですか? DJは頻繁にやっていますか? 曲作りのほうは?
ホアン:ぼちぼちだね。曲作りに関して言えば、オレは取りかかるまでに時間がかかってしまうんだよ。シングルがもうすぐリリースされるけど、いまもまた新しいシングルに取りかかっている。正確に言えば、もうしばらくずっとそれに取りかかっているんだけどね。
■今回はオウテカ自らの指名で東京でのDJを依頼されたようですが、オウテカとは直接知り合いなんですよね? デトロイトにも来ていますし......。
ホアン:直接の知り合いではないよ。たしか過去にいちど会ったことがあるはずだけど。
■彼らはエレクトロ――といっても最近のファッション界で流行っているエレクトロではないですよ、マントロニクスやジョンズン・クルー、あるいはあなたのサイボトロンのようなオリジナル・エレクトロが大好きだから、それもあって依頼したんじゃないかと思うんですけど......。
ホアン:オウテカがマントロニクス、ジョンズン・クルーやサイボトロンが好きだっていうのは嬉しいね。オレを健全なラインナップのなかでやらせてくれて、彼らには感謝しているよ。
■実際、彼らとはエレクトロに関して話し合ったことがあるんじゃないですか?
ホアン:もしかしたら話したかもしれないけど、なにせオレが彼らに会ったことがあるのはおそらく過去の1回だけだっていうこともあって何を話したかはあまり覚えてないんだよ。
■オウテカに関して、あなたの評価を聞かせてください。
ホアン:正直、オレは彼らの音楽についてよく知らないんだ。彼らの音楽をあまり聴いたことがないんだよ。でも彼らがエレクトロを好きだと知って、オウテカに興味を持ったよ。次のときまでに必ず彼らのカタログをチェックしておく。アルバムも最近出たんだろ。日本に行くまでに必ずそれも聴いておくよ。
■2005年に『20 Years Metroplex: 1985 - 2005』をベルリンの〈トレゾア〉から発表しましたが、あれはまさにこの20年のあなたの歴史でした。あのコンピレーションに関するあなたのコメントをください。
ホアン:あれはオレが過去に作ったトラックのなかでもとくに人気があるものを集めたものさ。あれを出そうと思ったのはみんながオレに、「なんであの作品の収録トラックはどれもCDでリリースされてないんだ?」、「どうなってんだよ」ってしつこかったからだな。オレ自身としては、あの作品はオレのトラックがより広いところに行くためのプラットフォームになればいいと思って取りかかった。そう思って作った作品だよ、あれは。2枚のCDにあのトラックを入れ込むのには少し苦労したけど、それに挑戦しているときの気分は悪くはなかったね。
■どんな反響がありましたか?
ホアン:良いフィードバックを得ることができたと思っているよ。世界中で受け入れられたかどうかはわからないけど、オレのまわりからのあの作品に対しての反応はかなり良いものだったよ。
■あなたのレーベル〈メトロプレックス〉そのものはもう動くことはないのでしょうか?
ホアン:いや、動きだしたいと思っている。でもその前にギアをかけてアクセルを踏む準備に入らないとね。新しいトラックに取りかかりたいと思ってるよ。ショウももっとやりたいね。
■この10年の、つまりゼロ年代のエレクトロニック・ミュージックのシーンをあなたはどう見ていますか? 停滞していると思いますか? それともゆっくりでも前進していると思いますか?
ホアン:うーん、停滞してはいないと思うけどね。ゆっくりどころかオレはすごい勢いで進化していると思うよ。まわりではいろいろ起こっているみたいだし。
■具体的には誰がいますか?
ホアン:いまの前進の仕方からするとたくさんいるはずだけど、オレには今誰かの名前を挙げることはできないかな。
■例えば......フライング・ロータスのような新しい世代の音をあなたはどう見てますか?
ホアン:フライング・ロータスの名前は聞いたことがあるんだけど、彼の音楽はまだ知らないんだ。ごめんよ。正直に言うよ。オレには娘がいるんだけど、彼女が最近音楽を作っている。まだ作品の制作段階だがそれが発表された日には事件になる。彼女のスタイルはどこにもないもので、素晴らしい。彼女のアーティスト名はMilan Ariel。アトキンスをつけるかどうかは彼女もまだ決めてないようだけどね。
■あなたのなかに新作を発表する予定はありますか? もしあるなら具体的に教えてください。
ホアン:モデル500名義のシングルがリリースされる。〈Movement 2010〉で披露するつもりだよ。そのシングルは〈R&S〉から4週間から6週間後にはリリースされるはずだよ。
●今回の日本でのセットについて教えてもらえませんか? なにか特別なことをプランされているようでしたらそれについても教えてもらえればと思います。
ホアン:Very Groovy。Very Very Sexy Groovyなエレクトリック・ダンス・ミュージック・セットを披露しようと思っている。オレはいつだって一夜限りのスペシャルな夜を作り上げるために本気でショウに取り組む。今回は日本だっていうこともあって、オレ自身も正直楽しみにしているし、オレのショウはいつだって特別なんだ。どこでやっても全力で取り組むだけさ。ただ日本やオーディエンスのヴァイヴスがオレに伝わって、意識せずとも自分が特別に納得できてしまうようなプレイを繰り出してしまうことにもなりかねないと思っているよ(笑)。それに今回は特別にアンリリースド音源をいくつか持って行くつもりなんだ。過去にデモとしてしか存在しなかったトラックをね。他のアーティストのもオレの自身のも。もうすぐリリースされるシングルも、もしかするとプレイするかもしれないな。
■それでは最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
ホアン:愛してるぜ。オレたちはVery Sexy Funkyナイトをともにするんだ。準備をしておいてくれよ。オレは日本のファンを愛しているんだ。Don't miss it!
![]() Autechre |
![]() Claude Young |
出演 : Autechre, Juan Atkins, Claude Young and more.
日程 : 2010.6.4(Fri) OPEN / START 22:00
会場 : ディファ有明
料金 : 前売り ¥5,500 / 当日¥6,500
*20歳未満の方はご入場出来ません/
入場時に写真付身分証の提示をお願いします。
YOU MUST BE 20 AND OVER / PHOTO ID REQUIRED
企画・制作 : BEATINK / BEAT RECORDS
MORE INFO >>
https://www.beatink.com/events/autechre2010/
よく考えてみたら......というか考えるまでもなくアシュラ・テンペルの『インヴェンションズ・フォー・エレクトリック・ギター』のアートワークは恐ろしくダサいもので、1975年当時にしてもあの田舎者丸出しのファッションはいかがなものだったのだろうかと思う。そして1977年の『ニュー・エイジ・オブ・アース』の2曲目――曲名は"優しい海"。このセンスもまた、恐ろしくダサいものだが、しかしUKの元パンクスはパンクが制度化したときにパンクの美学の正反対に位置する"優しい海"を選んだのである――とデヴィッド・トゥープは書いている。それが形骸化したとき、その反対側にいくのがUKポップ・カルチャーの特徴である、とこの著述家は述べている。トゥープの説が正しければ、我々はものの見事にUKのそうした振り子的な動きに影響されたと言える。この国の元パンクスも、ある時期に『インヴェンションズ・フォー・エレクトリック・ギター』に震え、"優しい海"に泣いたのだから。
プリンス・トーマスのアルバムのジャケも、お世辞にも格好いいとは言えない。コズミック・ディスコのスターのひとりの最初のソロ・アルバムだ。もうちょい気が利いたデザインがあってもいいのではないかと思う。タイトルは『プリンス・トーマス』とこれもまあベタで、等身大を強調しているのは言われなくてわかる。ちなみにこのセンスは、何かの正反対として機能しているのだろうか。まあ、あるとしたらエレクトロだろうな。レディ・ガガにとくに関心を持てない人間からするとどうでもいい話だけれど。
プリンス・トーマスはこの5年、リンドストローム&プリンス・トーマスとして多くの作品を発表している。6枚のシングルを出し、3枚目のアルバムを出している。実際トーマスはノルウェーのコズミック・ディスコの王様、ハンス・ピーター・リンドストロームのパートナーとしてキャリアをスタートさせている。リンドストロームの手伝いをしながら、2004年に彼のレーベル〈Feedelity〉からリンドストローム&プリンス・トーマスとしてデビューすると、翌年には自分のレーベル〈Full Pupp〉を立ち上げ、トッド・テリエのシングルをリリースしている。2007年にトーマスはミックスCDを出しているが、その選曲――ジョー・ミーク、クルーエル・グランド・オーケストラ、ホルガー・チューカイ、ボーズ・オブ・カナダ、ホークウィンド等々――には、リンドストロームとは違ったトーマスのセンスが出ている。80年代のポップスを"最高"だと賞揚するリンドストロームに対してトーマスのセンスはよりクラウトロックやサイケデリックに向いているようだ。今作『プリンス・トーマス』を聴いてなおさらそう思った。
アルバムを聴きながら思い出したのは、マニュエル・ゲッチングのミニマリズムではない。ノイ!のギタリストだったミハエル・ローターのオプティミズムである。とくにアルバムの前半にはハルモニアがスペース・ディスコをやったような、実にテキトーな、すなわち脳天気な、ゆるゆるなトリップが展開される。よく晴れた日にみんなでピクニックに出掛けるような、そんな底抜けな楽天性だ。だいたいドラミングは......若い頃のクラウス・ディンガーである。
我慢強く集中して聴くことができるリスナーには、悪戯めいたサイケデリックな仕掛けを楽しむことだってできる。マカロニウェスタン風のギターはエフェクトで歪み、クラスター風のプロダクションにミラーボールがキラキラと回転する。コズミック・ディスコのアルバムというよりは、まるで最新のクラウトロックに聴こえる。大袈裟な話じゃない。本当に、アルバムの4曲目までは。試しに10分以上もある"ザワークラウト"(注)なる曲を聴き給え(とくにギター)。トーマス王子は確信犯としてそれをやっているのだ。
もっともトーマスは、後半には彼のダンスフロアのフリークアウトを用意する。5曲目から6曲目にかけてはパワフルなビートを響かせ......、が、しかし最後の7曲目ではダウンテンポのなかにふたたび脈絡のないシュールな音を放り込んで我々を煙に巻く。
思っていたよりずいぶんこのアルバムを楽しむことできた。ユーモアも効いている。少なくとも都心で安い天体望遠鏡を覗くよりも、『プリンス・トーマス』を聴いたほうがエキサイティングだと思うよ。そして遠い未来の音楽ファンが、決して格好いいとは言えないこのジャケを手にすることだって充分にありうると思う。パンクが制度化されたときに。
(注)ザワークラウト:ドイツ人が昔から食べているキャベツの漬け物で、クラウトロックの"クラウト"はここから来ている(元々はだから蔑称として"クラウトロック"だった)。これ豆知識。
小野島 大 / Dai Onojima
音楽評論家。隔月(奇数月)にジャンルレスなパーティ「bug III」を渋谷Lazy Worker's Barで開催。次回は5/21(金)。
詳細はhttps://onojima.txt-nifty.com/まで。
twitterはhttps://twitter.com/dai_onojima
ジェフ・ミルズの新作『The Occurence』は、「宇宙」をテーマにしたここ最近の一連のコンセプト・ワークの集大成とも言うべき力作だ。前作『Sleeper Wakes』のストーリーから宇宙遊泳中に起こった出来事をモチーフとして展開する。また彼にとって6年ぶりのミックスCDでもある。手塚治虫『火の鳥』のカットをスリーヴに引用し、日本初の「ヴァイナル・ディスク」を使用するなど、このプロジェクトへの並々ならぬ力の入れようがよくわかる。そして音楽の内容もまた、いかにもジェフ・ミルズらしい、ジェフ・ミルズにしかできない、深遠にして唯一無二の硬質なテクノ美学が繰り広げられる。まさに宇宙空間を彷徨っているような謎めいた音像、どこまでも幻想的かつ覚醒したイメージ。そこには難解で思索的な世界観があるが、決して聴き手を排除するようなものではなく、むしろその音の波のなかでゆったりと遊ばせてくれるような懐の深さがある。まさに音による別世界旅行である。本作に先駆け、去る1月1日に東京・渋谷〈WOMB〉で開かれた「宇宙からの帰還」を祝うパーティでは、全曲新曲のみで6時間のセットを構成するという意欲的な試みもおこなっている。
![]() Jeff Mills / The Occurrence Third Ear |
だが、高度にコンセプチュアルで壮大な世界観をみっちりと組み上げることでますます孤高の念を強めつつある、このテクノの哲学者は、一方でダンス・フロアの最前線からは少し距離を置いているようにも見える。『Sleeper Wakes』でも本作でも、いわゆるフロア・コンシャスに展開するフィジカルなダンス・トラックはほとんどなく、リズミックな曲も、全体のスペース・シンフォニー的な超然とした流れの中での起伏がつけられるぐらい。クラブの現場ではハードでファンキーな楽曲も多くプレイされクラウドを熱狂させる場面もあるのに、リリースものにおいては、そうした側面を見せなくなってしまった。かって誰よりもハードでファンキーでフィジカルな、恐ろしいほど研ぎ澄まされたダンス・トラックを連発して世界中のフロアを熱狂させたこの男は、いま、なにを考えているのか。
テクノ自体、フューチャリスティックな面をもっていて、そこに向かって自由に想像力を働かせることができる音楽だということです。ですが現実的にはダンスフロアに止まってしまっている。
■新作を拝聴しました。このようなコンセプトのアルバムをいま作られた理由はなんだったんでしょうか?
ジェフ:今作は『Sleeper Wakes』からの抜粋で、『Sleeper Wakes』の物語のなかでももっとも重要だと思われる出来事(The Occurrence)をフィーチュアして焦点をあて、それをさらに広げたものを、アルバムという形で表現したいと思ったのです。今回のミックス・アルバムを作った目的のひとつは、『Sleeper Wakes』の曲(「Space Walk」)をいかに物語を語るように伝えるか、ということでした。スポークン・ワードのような効果を出すために、そういった曲を足してみるなどいろいろ工夫してみました。こうした試みは初めてだったので、とてもチャレンジングで、やり甲斐がありましたね。今後も、『Sleeper Wakes』のなかから別のパートをフィーチュアして新たなアルバムを作る可能性もあると思います。
■あなたは3年の間宇宙を旅して、2010年1月1日0時0分1秒に東京・渋谷〈WOMB〉のパーティに帰還した、という設定でコンセプトを進めてきたわけですが、その「帰還」の瞬間は、あなたにとってどんな体験でしたか?
ジェフ:3年という長いあいだ日本に戻っていなかったわけですからね。しかもその前まではかなり頻繁に日本を訪れていましたから。なのでちょっと緊張していました。でも、その瞬間に向けてかなり綿密な準備を重ねてきましたし、細かいディテールまで全部決め込んでいきましたから、そういう意味では自信を持ってチャレンジできました。セッティングなども自分にとっては新しいやり方を使ってのイヴェントでしたから、新しい体験をすることができました。でもその新しいチャレンジに対して日本のクラウドがどんな反応をするかは、予想もつきませんでした。
■実際にプレイしていかがでしたか? クラウドの反応も含めて。
ジェフ:ちょっといままでとは違っていましたね。3~4年(日本では)プレイしていなかったから、以前のクラウドとは多少違っていることは予想できましたが、今回はかけた曲がすべて新曲でしたから、お客さんにとっても初めて聴く曲ばかりだったわけです。なのでクラウドの共感を得るまで少し時間がかかったんですが、0時から6時までひと晩中ひとりでプレイしたので、じっくりと時間をかけて、最終的にはクラウドだけではなくクラブのスタッフなど、イベントに関わった人たちすべてとともに、なにかひとつの結論のようなものを見いだせたんじゃないかと思います。
■その「結論」とは?
ジェフ:4年以上かけて、〈WOMB〉のレジデンシーからこの『Sleeper Wakes』のプロジェクトまでの一連のコンセプトのシリーズにひとつ終止符を打つことができたこと。レジデンシーだったりアルバムだったり、いろんな側面からこのプロジェクトを完結させることができました。そしてお客さんの側も、新しいサウンドを受け入れる許容量が十分にあるという手応えを得ることができました。『Sleeper Wakes』のコンセプトにしても、これを日本のみならず世界中で進めることができるという確実な自信を得ることができました。実際、ヨーロッパなどいくつかの国で、同じようなコンセプトでいくつかパフォーマンスをやっています。そうした繋がり、自信めいたものを得て、このコンセプトを続けることができるという「結論」を得られて、少し安心しているところです。
■『Sleeper Wakes』のプロジェクトをやることで、あなたが得たものとは何だったんでしょうか?
ジェフ:いちばん大きいのは、つねに新しいサウンドを作り出していくということに、自分自身なにも抵抗を感じずにできるようになったし、お客さんもそれを受け入れてくれる、というたしかな自信を得たことでしょうね。とくに日本に関しては、あえて4年間のブランクを作って、自分はつねに新しいサウンドを作り、新しいものを探し求めているというメッセージを送り続け、実際に4年後にまったく新しいものを提供することができました。結果として今回のプロジェクトは成功したということで、これからは、レコードを出してツアーをやって......という手続きを経ずともオンタイムで新しいものをお客さんに伝えることが、当たり前のこととしてできるようになったということが、今回のいちばんの成果です。
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■それまであなたの活動において、「新しいものをやる」ということの困難さを感じていたことがあったわけですか?
ジェフ:以前からセットのなかにいくつか新曲を組み込む実験はやっていたんですが、過去の経験では、まったくふだんと違うセットをやるときには、オーガナイザーから「そういうことは事前にお客さんに知らせて欲しい」と言われるんです。でもそんなのは馬鹿げている。お客さんはその日どんな体験をするかはわからないけれども、それを楽しみに来る、という環境を作りたかった。そのひと晩のためにテーラーメイドされた曲をプレイする、すべてはその日のための曲をかける。それがスペシャルなイヴェントではなくて、いつもそうであるような、そんな環境を作りたかったのです。
■パーティでのDJプレイというのは、ある種の芸能/エンタテイメントという側面もあると思います。お決まりの定番曲をかけてお客さんに喜んでもらう、というような。そうした部分に嫌気が差していたということもあるんでしょうか
ジェフ:そういうお決まりのダンス・イヴェントを否定するつもりはまったくありません。これだけテクノロジーの発達した現在、いろんなオプションがあってもいいのではないか、ということです。私はDJや音楽を作ることに関して、長いことプロフェッショナルとしてやってきました。なのでその両方を提供するというスタンスをとっていきたい。ほかのDJがどういうやり方をするにせよ、自分としてはその時その時のイヴェントのために曲を作り提供するというやり方を自分のスタイルとして作り上げていきたいのです。今回のプロジェクトが成功したことで、そうしたスタイルが日本のみならず受け入れられつつあると実感しています。
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テクノは今後ハードでフィジカルに訴えるものというよりも、もっとメンタルに働きかけるものが大きくなっていく。サイケデリックで、メンタルにトリッピーなものが主流になっていくような気がします。
■以前あなたは、もうミックス・アルバムは出さないと宣言し、実際に長いこと出していなかったわけですが、今回なぜあえてミックスCDという形で出したのでしょうか。
ジェフ:今回に関して言えば、ミックスは結果としてそうなったというだけです。いままでのものはクラウドを踊らせるためにスムーズに曲を繋げる、いわばディスコ・ミックスだったんですが、今回に関してはミックスというよりはトランスレーションですね。サイエンス・フィクションのシナリオを語っていくに過程で、結果的に曲がミックスされたということです。それというのも、物語のバックドロップとしてこの音楽が流れているというシナリオだから、必然的に曲と曲が繋がっていくんです。だから、今までのいわゆるDJミックスがディスコ・ミックスだとしたら、これは「ストーリー・ミックス」とでも言えるようなものと言えるでしょう。
■なるほど。さきほどあなたは、言葉を紡ぐようにストーリーを語った、とおっしゃいましたが、そういう物語的な表現にこだわる理由とは?
![]() Jeff Mills / The Occurrence Third Ear |
ジェフ:ひとつに、プロダクション的な面。音楽をストーリー・テリングのように使うことで、より良いプロダクションの結果が得られ、自分のプロダクション能力も上げることができる。そうしたことを常に意識し努力することで、音楽で何かを語ることが可能になっていくと思います。もうひとつは、もともとテクノ自体、フューチャリスティックな面をもっていて、そこに向かって自由に想像力を働かせることができる音楽だということです。ですが現実的にはダンスフロアに止まってしまっている。なので私は人びとの気持ちを刺激してイマジネーションを喚起して、自分たちの現実からはなかなか届かない別世界に引き込むような、そういうテクノ本来の世界を表現していきたいと思ったのです。現代社会ではあらゆることが目まぐるしく起きていて、なかなか現実の能力だけではすべてを理解しきれない。そのために想像力が必要なんですが、テクノはその一助になるということを再認識させたいのでです。
■サイエンス・フィクションという言葉が出ましたが、あなたは宇宙に限らず、「タイムマシーン」や「メトロポリス」など、SF的なモチーフにこだわってきました。あなたにとってサイエンス・フィクションとはどういう魅力があるんでしょう?
ジェフ:テクノとサイエンス・フィクションは切っても切り離せない存在じゃないかと思います。SFのBGMとしていちばんマッチするのがテクノじゃないでしょうか。というのも、テクノの、構成があってないようなオブスキュアな感じというのが、SFのなかで表現される、現実ではないような想像を超えたストーリーとうまく合致するんです。もちろん私だけではなく、ホアン・アトキンスとかケニー・ラーキンといった多くのテクノのプロデューサーがそうしたことを意識して曲を作っています。テクノの素晴らしさを一般にアピールするには、SFと関連づけるのがいちばんわかりやすいのではないでしょうか。
■今作のアート・ワークに手塚治虫の「火の鳥」を使ってますね。
ジェフ:テクノとサイエンス・フィクションというふたつのアート・フォームを結びつけるためのステップとして、今回手塚さんの絵を使わせてもらえることになったのはラッキーでした。もともとのコンセプトは同じようなもので、彼はヴィジュアルで表現しているし、私の場合は音楽で表現している。根本にあるものは同じだと思うし共感しています。
■さきほど「ダンスフロアに止まらないテクノ本来の魅力」ということをおっしゃいましたが、あなたはここ最近ダンス・フロア向けのシングルをほとんど出していません。それはダンス・トラックスだけではないテクノを追求していきたいという意欲のあらわれなんでしょうか
ジェフ:アナログ12インチのシングルは出していますが、ダンス・ミュージックという観点であまり考えてないことはたしかです。リリースするものに関しては、リスナーが何かを感じ取って、それが頭の片隅に残って、またなにか新しいものを聴きたいと思ってくれればいい。あとは、この音がどういう風に作られたのか、この先どういう風に発展していくのか、まったく予想ができないようなものを作っています。
■ふむ。あなたのクラブでのプレイではかなりハードでファンキーな面も出ているのに、リリースされるものでは、今回のCDも含めそうした面はほとんど出てきません。これは現場でのプレイと録音物を分けて考えているということですか。
ジェフ:たしかに意図的に分けて考えています。ダンスフロアで人びとが踊りたがっているいるのに、それなりの曲をかけないわけにはいかないでしょう。ハードな曲やファンキーな曲をかけて、その場のクラウドが肉体的になにかを分かち合って一体感を生むことを、ことダンスフロアにおいてDJはひとつの目的にしていますからね。そこで初めて自分のプレイを自分の表現したいものへと発展させていくことができるようになる。でもアルバムに関してはお客さんが目の前にいるわけではないので、もう少しフリーな気持ちで自由に表現できるし、アルバムを聴いてくれるリスナーは踊るというより、聴くという環境で接してくれていると思うので、音にさまざまなヴァリエーションを加えることができると考えます。
■なるほど。しかし個人的な要望なんですが、もう少しハードでファンキーな曲もアルバムで聴きたいと思います。
ジェフ:(笑)なるほど。これは個人的に感じているんですが、テクノが今後どうなっていくか考えると、日本だけじゃなく世界的に、ハードでフィジカルに訴えるものというよりも、もっとメンタルに働きかけるようなものが大きくなっていくんじゃないでしょうか。サイケデリックで、メンタルにトリッピーなものが主流になっていくような気がします。なので、これからハードとかソフトとか、そういうジャンル分けはなくなってくると思います。クラブの現場ではDJとして、その夜の流れを作っていくなかで、どこかのタイミングでクラウドをプッシュする必要があってハードな曲もかけますが、アルバムでもストーリーテリングのために、ダンスフロアほどハードでなくても、そういった強弱やメリハリはつけているつもりです。
■最後の質問です。メタモルフォーゼでX-102として来日されるということでいまから楽しみなんですが、どんな内容になりそうでしょうか。また今後X-102としてレコードを作る予定がありますか?
ジェフ:それは言えません(笑)。もともとX-102は「土星の輪(ring of saturn)」をテーマにしているプロジェクトなので、そういうテーマのライヴになると思います。それ以外は、残念ながらシークレットだ(笑)。
スカイプ越しに聴いたジェフの声は、こちらの挑発的な質問にもあくまでも冷静であり知的であり、静かな自信に溢れていた。たんなるダンスフロアの道具としてのテクノを拒絶し、あくまでもアート・フォームとしてのテクノを厳しく追求しながら、電子音楽の可能性と未来を提示しようとする。彼によってテクノはただの快楽装置ではなく、何事かを語りメッセージを投げかけるだけの幅と深みを得るに至った。そしてその作業はさらに深度を増しながら、いまだ終わる気配がない。
8月のメタモルフォーゼに先駆け、5月30日には、2012年5月21日(月)午前7時34分、東京にて観測される金環日食にむけてのカウントダウン・イヴェント〈SOLAR FREQUENCY〉にも出演が決定している。いまこそその姿を確認せよ。