![]() salyu × salyu s(o)un(d)beams トイズファクトリー
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変化を望む人が好むのは、変化を肯定する音楽である。停滞を否定し、動き続けることを良しとする音楽だ。salyu × salyu(サリュー・バイ・サリュー)によるアルバム『s(o)un(d)beams』は、そういう意味では変わっていくことを望んでいる、すなわちレフトフィールドなポップだ。小山田圭吾がプロデュースしたこの作品は、まずなによりも耳を楽しませてくれる。Salyuは彼女自身がいち台の有能なシンセサイザー(合成装置)であるかのように、彼女のさまざまな歌と声を絞り出し、それらを惜しみなくコーネリアスの実験台(スタジオ)のミキサーに送り込んでいる。コーネリアスの得意とするギミック(遊び心)はいたるところに効いているが、まあ、個々の楽曲がよくできている。
彼女の(チョップされたような)複数の声がそれぞれの音程をキープして、ピアノとともにハーモニーを作っていく"ただのともだち"は、このアルバムの面白味を集約しているような曲である。"muse'ic"のような小山田圭吾の歌メロ作りの巧さが出ているような曲においても、彼女は声はただ歌うのではなく、空間をデザインする一要素のように機能している。声を機械に流し込み操作するという点ではブルックリンの才女、ジュリアンナ・バーウィックの新譜を思い出すが、緻密さ、ポップの度合いにおいては他に類を見ない......いや、コーネリアス以外に類を見ないユニークな音楽になっている。作曲はすべて小山田圭吾、作詞は七尾旅人、坂本慎太郎、いとうせいこう、国府達矢といった人たちの名前がクレジットされている。言葉と音楽が他人によるものであっても、歌と声だけでその作品の圧倒的な主役を演じられることをSalyuは主張している。まあ、これだけの個性派に囲まれながら、彼女は見事に声という音を発信しているわけです。
クロッシング・ハーモニーという、ハーモニーの構築という考え方に出会うんです。楽器で鳴らされる不協和音というものを声がやったときにまったく違ったものになる、そういう考えに出会ったときに、これならいっしょにできるんじゃないかと思ったんです。――Salyu
■お世辞抜きで、良いアルバムですね。ある意味ではパーフェクトなポップ・アルバムだと思いました。
Salyu:嬉しいですね。
■このアルバムの話は、最初はSalyuさんが持ちかけたんでしょ?
Salyu:はい。そうです。私からです。
■ポップ・アルバムと言っても実験的なポップ・アルバムですよね。まずはとにかく実験をしたかったのか、あるいはコーネリアスといっしょにやりかったという気持ちが強かったのか、どっちなんでしょう?
Salyu:後者ですね。
■後者。
Salyu:はい。もちろん実験的なことはやりかったんですけど、それをコーネリアスといっしょにやりたいという感じですね。
■コーネリアスが大きかったんですね。
Salyu:優先順位で言えばそうですね。実験的なことをやりたいということもあったんですけど、小山田さんと音楽を作りたいという気持ちはずっとあった。
■ずっとあったんですか。
Salyu:あったんです。でも、小山田さんも自分の音楽活動されているわけで、何か具体的にやりたいことがないとお願いもしにくいというか(笑)。
■はははは。
Salyu:まあ、しにくいっていうこともないけど、具体的にこちらが「こういうことやりたい」っていう話があったうえでいっしょに取り組めればなぁというのがずっとあったんですね。そうしたら、クロッシング・ハーモニーという、ハーモニーの構築という考え方に出会うんです。
■それは?
Salyu:楽器で鳴らされる不協和音というものを声がやったときにまったく違ったものになる、そういう考えに出会ったときに、これならいっしょにできるんじゃないかと思ったんです。
■なるほど。ハーモニーね。
Salyu:これはもう、小山田さんと組んでやりたいと。
■それまで面識はあったんですか?
小山田:ちょいちょい。
Salyu:ちょいちょいですね(笑)。小山田さんは私のことほとんど知らなかったんですけど(笑)。
小山田:いえいえ。うちのドラムのあらき(ゆうこ)さんとか、ベースの清水(ひろたか)くんとか、彼女のバンドにいたりして。
■なるほど。
小山田:彼女のバンドでギター弾いている名越(由貴夫)さんとかも知ってるし。
■名越くん、あー、俺も知ってますよ。ぜひ、宜しくお伝え下さい(笑)。
Salyu:わかりました(笑)。
小山田:だからバンドはみんな知り合いだったんですよね。で、ライヴ見に来てね。
Salyu:私が勝手に見に行ったんです。
小山田:あそっか。いっかい見に来てくれたんだ。
■いつのライヴ?
小山田:『センシャス』の頃だよね。
Salyu:渋谷AXでやったときですね。あのとき初めて見て......。
■あの完璧なライヴをね。
Salyu:完璧なライヴを、はい。
小山田:完璧じゃないけどね。
■あれが完璧じゃないなら、何が完璧なのか(笑)。
Salyu:開場から開演まで、時間も完璧でしたね(笑)。
■終演から客引きまで(笑)。
Salyu:そのとき私、パスをもらって。しかもロビーまでしか行けないパスを。そしたらドラムのゆうこさんが「会いたいでしょ。そのパスでは楽屋に入れないからおいでー」って言ってくれて(笑)。それで「うわー」って楽屋に入れてもらったんですよね。そのときに初めてお会いしたんです。話したと言っても2~30秒ですよ(笑)。どわーってゲストが並んでいるなかで(笑)。
小山田:だいたいライヴのときの楽屋はたくさん人がいるからね。
Salyu:まあ、そのときが初めてで。
[[SplitPage]]その合唱隊が、レヴェルが高い合唱隊だったんですよ。複雑なドビュッシーとかの器楽曲を声で再現しているんだよね。それがね、もうむちゃくちゃすごいんですよ。とにかく今回やっているのは彼女の原点に近いんですよ。シンガーやってるのはそのずっと後だから。――小山田圭吾
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■僕も、たいへん失礼な話なんですけど、Salyuさんの音楽ってそれまで聴いたことがなかったんですね。
Salyu:いいんですよ(笑)。
■す、すいません(汗)。逆に言えば、僕みたいなリスナーは今回の作品で知ることができたんですけどね。それで以前の作品も聴いてみたんです。そしたらぜんぜん違うことをやっていて驚いたんです。今回の音楽は、いままでやってきたことをさらに発展させるとか、いままでやってきた音楽に新たな方向性を与えるとか、多様性を持たせるとか、そんなものじゃないでしょう。だからすごくドラスティックな挑戦に思ったというか、大変身とういか、「よくここまでやられたなぁ」と思ったし、「いままで何でやらなかったんだろう?」とも思ったんですよね。
Salyu:ことの発端がハーモニーということへの興味だったんで、それを21世紀のポップスとしてどう落とし込むかということがあって、それで小山田さんの力を借りたかった。それで、なぜいままでこれをやらなかったのかとういと、小さい頃から合唱をやっていたんですね。それでハーモニーということが小さい頃から身近にあったんです。ずっとやっていたし、愛しているし......、だから、挑戦ではあるんですけど、私にとっては原点回帰に近いんですよね。ガラっと新しいことをやったというよりも、もともと持っていたモノなんです。
■ああ、なるほどね。
Salyu:だから、Salyuとしてやっていることは、ポップスを歌う、ということを考えてやっているシンガーなんだけど、今回のsalyu×salyuというプロジェクトは、より幅広く引き出しをもっていて、小さい頃からやってきたこともそこに入っているという感じですね。幅広くやっているというか。
小山田:駆使している。
Salyu:そう、すごく駆使しているんです(笑)。
小山田:ライヴを見てもらえればよくわかると思いますよ。子供の頃にやっていた合唱隊の女の子、去年、結婚式で再会して、それでスカウトしてきて、いま4人組のコーラスグループ作って、このアルバムをぜんぶ再現するんだけど。
■ああ、こんど(4/15)DOMMUNEで放映しますよね。それ、楽しみです。しかし、合唱隊というのが新鮮でいいですね!
小山田:その話にすごくピンと来たんで。
Salyu:合唱隊というと人を集めなければならないんですが、たまたま10代のときにいっしょにやっていた同級生に会えて、それで彼女たちといっしょにやればいいんだって。
小山田:しかもその合唱隊が、レヴェルが高い合唱隊だったんですよ。複雑なドビュッシーとかの器楽曲を声で再現しているんだよね。それがね、もうむちゃくちゃすごいんですよ。
Salyu:ハハハハ。
小山田:とにかく今回やっているのは彼女の原点に近いんですよ。シンガーやってるのはそのずっと後だから。
■そうかー、その合唱隊という話を聴いてすべてがクリアになった気がしますよ、僕は。コーネリアスのポスト・パンク的な感性と合唱隊は合うだろうし、小山田くんがそういうのが好きなのもわかるし。あと、これは計らずとも、なんですけど、21世紀のポップで歌とエレクトロニクスというテーマはたしかにあって、ジェームス・ブレイクって知ってる?
小山田:ああ、チラリと。
■ダブステップ系の人で、輸入盤だけで日本でも3000枚以上売ってるんですけど、彼の音楽を特徴づけているのがまさに歌を電子的に操作するってところなんですよね。サンプリングしたネタを思い切り変調させるだけじゃなく、それで和音を作るんですよね。salyu×salyuの目指していることと決して遠くはないですよね。
Salyu:へー。
■コーネリアスの音楽の特徴にエレクトロニクスというのがあるじゃないですか。それはまた合唱以外の部分だと思うんですけど。
小山田:エレクトロニクスがいいとか、アコースティックがいいとか、あんまないですよね。
Salyu:なんでもアプローチしてみたいタイプなんですけど、今回とくにエレクトロニック・ミュージックをやりたいなということでもなかったね。
小山田:あくまで声が基本なんですよね。それがあれば、バックトラックはなにがあっても良いって感じだったんだよね。
■Salyuさんがコーネリアスでとくに好きなアルバムってなんですか?
Salyu:『ポイント』、それから『センシャス』。人生のなかですごい大きな出会い。
■どういう意味において大きかったんですか?
Salyu:えーとね、ちょっとロマンティックな言い方になるけど、私、1980年生まれなんですね。20歳になると世紀が変わると言われて育ってきたし、だから新しい世紀をすごく楽しみにしていたんですね。いろんなことが変わると子供の頃から思っているわけですよ。まあ、90年代後半からあまり変わらないんじゃないかなと思っていたんだけど、やっぱり期待があったんですね。でも、21世紀になってもあまり変わらないなというのがあって、「あまり変わらないな」と、「新しい世紀らしいこともあんまないな」と、そんななかで『ポイント』を聴いて、それが「変わった」と感じることができた最初の出来事だったんですよね。
■なるほど! 未来を感じることができたと。
Salyu:新世紀という実感をもらった作品。
■とくにどんなところにそれを感じたんですか?
Salyu:空間の広さ、空間のあり方の新しさというか。いろいろとあるんだけど、そういうことなんじゃないかな。
■なるほど。
Salyu:ポップだってこととかさ。
■ポップな曲はたくさんあるけど、コーネリアスのポップさは他と違うからね。
Salyu:そう。
■ふーん。そういうことで、今回はもう、プロデュースは丸投げ、「任せましたー」って感じだったの?
Salyu:そうですね。
小山田:そこまで気持ちよく投げてもらえたから、気持ちよくやらせてもらいましたよ。
■あと、コーネリアス的には、このところやってこなかった歌作りというか、ソングライティングというのもやっているよね。
小山田:そうですね。でも、それはもう、彼女に触発されてやった。自分ひとりではできないことだから。
■もともと歌メロ作るのが上手い人だから。コーネリアスではそれをあんま出さなくなっちゃったから。
Salyu:そうそう、だから、すっごい楽しみだったんですよね。どういうメロディをもらえるんだろうって。
[[SplitPage]]私、1980年生まれなんですね。20歳になると世紀が変わると言われて育ってきたし、新しい世紀を楽しみにしていたんですね。でも、21世紀になってもあまり変わらないなというのがあって、そんななかで『ポイント』を聴いて、「変わった」と感じることができた最初の出来事だったんですよね。――Salyu
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■歌詞に関しては複数の方が書いていますけど、それも小山田くんが決めたの?
小山田:いや、それは彼女と相談して。
■ちなみに坂本慎太郎の"続きを"の歌詞は、震災のコメントとして彼がele-kingに寄せてくれたんですけど、ものっすごい反響があったんですよ。
小山田:ああ、DOMMUNEに出てたよね。それは僕らもびっくりしていたんだよね。
■それが計らずとも最後の曲になっているんだね。
小山田:そうなんですよね。実は震災のあとにこの曲をあらためて聴いたんですよ。本当は、震災の後に別の曲を発表する予定だったんですけど、それを急遽、この曲にしようって、Salyuたちと演奏したやつをYouTubeにアップしたんだよね。そのときも歌詞に対する反応がすごかった。で、その曲をやる前に、坂本くんに連絡して「やるけどいい?」って言ったら、「実はそう思っていた」って。「歌詞をele-kingに上げるけどいい?」って。彼ももちろんこういう状況を想定して書いたわけじゃないんだけど、でも、その言葉が何かいまの気持ちを代弁してしまった。そういうことって、偶然にしろ、あるときにはあるからね。
■salyu×salyuのこのアルバムを最初に聴いたときには、良い意味でエンターテイメントだと思っていたんだけどね。それがね......。
小山田:......うん。
■Salyuさんは自分でも歌詞を書いてますよね。
Salyu:どっちかと言うと、あんま好きじゃない。
■作詞はダメ?
Salyu:苦手なんですよ。
■なんで(笑)?
Salyu:なんでかって言うと、もうすでにある曲を演奏するのが音楽だと思って育ってきているんです。
■あー、そうか。
Salyu:合唱も、山のように譜面があって、人の作った曲を自分がどう演奏するのかってことが音楽だと思って育ってきている。だから、人からいただく(曲の)ほうがフィットしますね。
小山田:坂本くんに歌詞を書いてもらいたいといったのもSalyuだから。
■そうなの。俺は疑いもなく、これはいかにも小山田くんかと思っていた。
小山田:僕ももちろん、思ってはいたんだけど、ゆらゆら解散したばっかりだったから、ちょっと言いづらくて。
Salyu:ハハハハ。
小山田:でもSalyuが言ったから、ちょっと言ってみようかなと(笑)。
Salyu:ねー。あれは感動的でしたよね。
■いろんなタイプの曲をやっていると思うんですけど、かなり実験的な曲もやってますね。声がループしているヤツ。
小山田:"歌いましょう"かな。
■そう、あれ。
小山田:あれは僕が適当に作った曲。Salyuが忙しいときに、彼女の仮歌を僕がチョップしたり編集したりして、それで作った。
■あれは......ひと言で言ってしまうと、アニマル・コレクティヴというか。
小山田:そう、気持ち悪いですよね。
Salyu:ハハハハ。
■あの曲だけブルックリンなんだよね(笑)。ジュリアナ・バーウィックという女性アーティストの作風とすごく近い。
Salyu:ライヴでは、ループ・マシーンを使って、いよいよというか......(笑)。
小山田:いや、あれ面白かったよ。
■まあ、ホントにいろんなタイプの曲をやっているよね。
小山田:うん、可能性をいろいろ試している。そういうところはファースト・アルバムっぽいでしょ。
■ということは、次作も考えている?
小山田:まだぜんぜんわかんない。お互いの活動もあるんで。ただ、このプロジェクトに関しては面白かったんで、またチャンスがあればやりたいですけどね。
■小山田くんがここまで全面的にやっているのって、いままでないでしょ?
小山田:自分のアルバム以外ではないですね。まあ、自分のアルバムも4年ぐらい前なんで(笑)。
■このあとライヴが控えてますけど、小山田くんは参加する?
小山田:参加できるときがあれば参加します。ライヴはすごく面白いですよ。
■生でやるの?
小山田:9割生だよね。同期させる曲もちょっとあるけど、ほぼ生ですね。すごく面白い。
■アルバム・タイトルの『s(o)un(d)beams』にはどんな意味があるんですか?
Salyu:音を視る、というか、光を聴くという感覚、そういうニュアンスを込めたタイトルですね。
小山田:歌詞ではっきりとアルバムでやりたかったことを言ってる曲なんで、それをアルバムのタイトルにもしようってね。
■ちなみに、ふたりの共通する趣味っていうのはあるんですか?
小山田:なんだろうね。あ、トレーシー・ソーンは好きだよね?
Salyu:トレーシー・ソーンは好き(笑)。あとは......アントニー!
小山田:アントニーはいいよね。
■やっぱ、歌唱力がある人が好きなんですね。
Salyu:好きですね。ああいう人たちの歌は身体に来ますね。
※なお、salyu × salyu のツアー情報はここ(https://www.salyu.jp/salyuxsalyu)をチェック!








































