![]() 石野卓球 / CRUISE Ki/oon |
石野卓球は、控えめなスタンスを貫いている。地味な卓球は、以前にも経験している。あれはたしかに『ベルリン・トラックス』の頃だったか。
『クルーズ』は、しかしあの頃の張りつめた緊張感ともまた違う。控えめだが、音の向こうにリラックスした卓球が見える。そしてその佇まいからは無垢なものを感じる。それは彼と出会ってそれなりに深く話したことがある人なら知っている彼の音楽への純粋な気持ちである。サーヴィス精神を忘れないこの男は、そうした彼の本性を包み隠すようなトリックも楽しんできているが、『クルーズ』にはそれがない。『スロッビング・ディスコ・キャット』のギャグもないし、『タイトル』の深い密室感もない。毒舌も女装もなければ歌もない。素っ裸のテクノ・ダンス・ミュージックが展開されている。
アルバムの最初に聴こえてくるシンプルだがヌケの良い4/4のキックの音に石野卓球のテクノ魂を感じる。1曲目の"Feb4"は彼がつねづね好んでいるトライバル・ビートとミニマリズムのコンビネーションで、ウォーミングアップとしては申し分のない心地よさを展開する。巻上公一の声とブラスの音をフックにした4曲目の"Hukkle"では、ヘヴィなバスドラとバウンドするベースラインが曲をドライヴさせていく。"Spring Divide"や"SpinOut"は力強いダンストラックで、いてもたってもいられなくなった石野卓球は"Arek"でエレクトロニックな陶酔に浸ろうとする。最後の"Y.H.F."はメロディアスで甘くディープなトラックだが、なんともさりげなく終わっていく。
石野卓球はポップとダンスフロアの往復者だ。そして本人はそう言われることを嫌がるだろうが、この国でもっとも影響力を発揮してきたテクノ・ミュージシャンである。石野卓球が新作について、そしてカガミとラヴ・パレードについて、ヴァイナルとデジタルについて......話してくれた。
どっちにしろ売れないんだったら楽しんで作ろうって。戦略的なことを考えたところであんま意味がないっていうかさ。あとねー。値段を下げたかったんだよね。だからミニ・アルバムということにしたんだけど、フル・アルバムだと3千円を超しちゃうからね。
■完全なソロとしては6年ぶりになるんだね。
石野:そう。ただ、川辺(ヒロシ)とやってたインクもあったから、そんなに空いている気持ちはないんだけど、なんかね......6年も空いたちゃったね。
■まさに「石野卓球が帰ってきた」という音だと思ったんだけど、自分のなかで課したテーマはある?
石野:ポップスでもなく、DJツールにもなり過ぎない。そういうのあんまやってなかったからさ。電気ではポップスを追求していたから、DJツールをやるって感じでもないじゃん、メジャーから出しているわけだし。
■作りはじめたのっていつ?
石野:6月ぐらい。時間が空いたときにスケッチみたいなのはその前から作っていたんだけど、方向が定まって、ちゃんと作業したのが実質、1ヶ月弱ぐらいかな。
■方向性に関しての迷いはなかった? やろうと思えば歌モノだってできちゃうわけだし。
石野:それがけっこうあった。どこに照準を合わせるのかがなかなかわからなくて。作業はしているんだけど、落としどころがわからなくて足踏み状態というかさ。煮詰まることはなかったけどね。ひとりでやってるから、煮詰まったら止めればいいじゃん(笑)。たしかに歌モノというか、ポップスをまたやってみるというオプションもあったんだけど、それをやりたいとは思わなかったんだよね。うん、最初からポップスという考えはなかったな。かといって、完全なDJツールを作るって感じでもないから、自ずとこうなったというか。
■しばらく電気グルーヴをやっていたしね。
石野:電気を長くやっていたから、そうじゃないものをすごくやりたいなというのはあったね。どっちにしても売れないからさ。
■ハハハハ。
石野:いや、ホントに。冗談じゃなくて。俺に限ったことじゃないよ。
■業界全体のことだよね。
石野:そう。それで久しぶりにやるからといって、ゲスト・ヴォーカルを入れて派手にやることも考えてなかったからさ、どっちにしろ売れないんだったら楽しんで作ろうって。戦略的なことを考えたところであんま意味がないっていうかさ。
■ハハハハ。でもホントに、ケレンミのない作品だなあと思いましたよ。地味で無垢な作品というか。
石野:あとねー。値段を下げたかったんだよね。だからミニ・アルバムということにしたんだけど、フル・アルバムだと3千円を超しちゃうからね。
■そうだね。
石野:いま、アルバム1枚3千円って高いでしょ。あ、野田兄、いまも(アルバム)買うの?
■相変わらず、かなりの枚数買ってるよ。
石野:そうか、サンプルもらえないヤツも多いもんね。それでも輸入盤が3千円超えることはないじゃん。
■2500円以内で済むよね。
石野:高くても2500円でしょ。安いのになると1600円ぐらいじゃん。いま無料ダウンロードで済ませちゃう人が確実にいっぱいいて、そういう人たちは最初から買う気がないからいいんだけど、買おうと思ってたけど、高いから違法ダウンロードにしちゃうっていう人たちもいるから、そこはちょっともったいないなっていうかさ。
■値段で判断されちゃうんだったら、たしかにね。
石野:それを考えると、それぐらいの値段でやるのがいいかなと思って、それで、"ミニ・アルバム"にすると値段がこれぐらい(2300円)に抑えられるっていうさ。
■じゃあ、ミニ・アルバムというフォーマットに落ち着いたのは、フル・アルバムの予告という意味じゃなく、単純に価格設定の問題なのね。
石野:あともうひとつは、尺的にもこれぐらいがちょうどいいなっていう。フル・アルバムという考えもまったくなかったわけじゃないのね。でも、それをやったらいろんな要素を入れ込もうとしちゃうと思うんだ。それはやりたくなかったんだよね。BPMをある程度近いものにしちゃうとかさ、フル・アルバムでそれは難しいと思うからさ。あと、ミニ・アルバムといっても尺で40分以上あるんだけど、それぐらいがちょうど集中して聴けるんじゃない?
■まあね。
石野:フル・アルバムでも短いのあるじゃん。ラモーンズとかさ。ラモーンズと比べるのもどうかと思うけど(笑)。
■まあね(笑)。つまらない質問なんだけど、作っている作業自体はいまでもっていう、今回も純粋に楽しいわけでしょ。自分が楽しめているわけだよね?
石野:もちろん。自分が楽しめてないときできたものって、結局は作品自体も楽しくないからさ。
■久しぶりに聴くから余計そう感じるのかもしれないけど、たとえば1曲目の"Feb4"とか、4曲目の巻上公一さんの声をサンプリングした"Hukkle"とか、うまく言えないんだけど、「石野らしいな」っていうか、やりたいことをやっている無垢な喜びみたいなものをすごく感じたんだよね。
石野:それはある。いままでやりたくないことを無理矢理やっていたわけじゃないんだけど、縛りがあって作るものが多かったから。それはそれで嫌いじゃないんだけど。人に提供するものとか、そういうのが続いていたから......で、ソロを作るってなって、「何にも縛りがないですよ」って言われて、「さて、どうしよう?」ってなってさ(笑)。マゾヒスティックな悩みというか、「誰か縛って」って感じでさ(笑)。
■ハハハハ。
石野:ま、それもやっていくうちに馴染んでくるっていうかさ。
[[SplitPage]]昔さ、ホルガー・ヒラーが言ってたじゃん。「下らないことばかりを集めると、スーパー陳腐なものができあがり、言葉の裏にある本当の意味が見えてくる」って。あれと同じで、自分の感覚的な部分を次から次へと構築していくと、自分も意識していなかった自分が投影できるっていうかさ。
![]() 石野卓球 / CRUISE Ki/oon |
■よく昔から「インプットがなければアウトプットがない」という言い方をしていたけど、今回のインプットは何?
石野:毎週やっているDJかな。逆にそれ以外はない。それをなるべく出したいと思ったんだ。DJは毎週やっているんだけど、そのフィードバックに関してはこのところやっていた縛りがある仕事ではなかなか出せないことだったから。意図的に出さなかったんだけど。それ(毎週のDJからの影響)だけで作るってことはやってなかったからさ。
■毎週DJやっているんだよね。すごいよ。
石野:仕事だからね。
■仕事でもあり、楽しみでもあるんじゃない?
石野:でも、"毎日"会社行ってる人のほうが偉いと思う。
■ハハハハ。
石野:だって、俺は"毎週"だからね。
■でも、仕事として割り切ってやっているというよりも、楽しみもかねてやっているんでしょ?
石野:でも、そのどっちかってもんでもないよ。現場によるね。行ってみて、「あ、今日は仕事を忘れよう」ってときもあるし、「あ、今日は半分仕事かな」っていうのもあるし。100%仕事っていうのはないけどね。そういうのは(オファーを)受けないからさ。ケース・バイ・ケースだよね。基本的には楽しんでやっているけど、遊びだとは思ってないっていうかさ(笑)。100%仕事とも思ってないけどね。だから、まあ、幸せですよ。
■いまは活動の場は日本がメインでしょ?
石野:そうだね。海外のブッキング・エージェンシーで、アンディっていたんだけど。
■アンディ、覚えているよ。
石野:そうそう、彼が辞めちゃってさ。で、その頃はちょうど電気での活動がはじまった頃だったから、どっちにしても(海外に)行く暇がなかった。あと、リリースがないのに無闇に行ってもなあというのもあった。昔はけっこう経験として選ばずに行くっていうのがあって、それこそ0泊3日みたいなのもあったんだけどさ(笑)。いまは新しいエージェンシーと話をしている最中で、また行くようになるとは思うんだけど。
■いずれにせよ、毎週末、どこかしら行ってるんだね。
石野:そうだね。先週は沖縄に行ったあと〈AIR〉やって、あとは逗子もやって、で、今週はフジロックだね。
■DJとしては当たり前というか、ホントにそういうライフスタイルなんだね。
石野:1週間区切りだよね。そのほうがいい。週末DJやって、日曜日休んで、月曜日には戻す。昔はずっと(時間帯が)ずれっぱなしだったんだけど、いまは月曜日には無理してでも午前中に起きる。それが心地よい。
■健康的だねー。
石野:いままでだと、スタジオに夕方行って、夜中から朝までやって、というのが多かったんだけど、今回は昼にスタジオに行って、夕方には帰ってくる。
■規則正しんだね。
石野:そのほうが集中できるっていうかさ。で、家で聴いて、次の日にやることをまとめておくっていうか。そのほうが時間も無駄にならない。夜中にやっているとどうしても......閃くこともあるんだけど、閃きを追求し過ぎて、本末転倒になるっていうかさ(笑)。
■ハハハハ。
石野:けっこうあるよ。夜中の2時ぐらいに「おし、閃いた!」って、そうすると夜中の3時に終わるわけにはいかないからさ、5時や6時ぐらいまで作業するじゃん。でも、自分が何を探していたのかもわからなくなるっていうかさ(笑)。そういうのがなっくなったっから、何かすっきりした。
■スタジオに入る前には、もうなんとなく青写真はあったの?
石野:うん、BPMはだいたいこれぐらいでとか、歌モノはなしとか、そのぐらいのぼんやりしたものはあったね。過剰に装飾しないとか、あとは削ぎ落としすぎて無愛想にならないとか。方向としてはね、自分が毎週末DJやって、レコードも買っているし、それらから受けている影響がいちばんでかいからさ、黙っていてもそれが出てくるじゃない。それを具現化していくっていうかさ。
■現場から吸収したものが出ているっていうのは、現場のエネルギーみたいなもの、あるいはもっと具体的な音楽性に寄ったもの?
石野:言葉にするのが難しいんだけど......たとえば、すげー疲れていて、DJブースに入って「あー、今日は大変だなー」と思っていても、ブースのなかで前のDJのビートを聴いててさ、で、DJ代わったときにはすんなり入れちゃったりするんだよね。慣れというかさ。で、そのときの次にかけるレコードも自ずと決まってくる、それがノっている感じというかさ(笑)。
■その感覚みたいなもの?
石野:うん、コンピュータの前に座ると、そうしたフィジカルな部分が削ぎ落とされちゃって、いっかい頭のなかで翻訳しちゃうんだよね。それをなるべくなくすためにスタジオで立ってやるとかさ(笑)。
■なるほどね(笑)。
石野:なるべく気分がノっているうちにスタジオに入るとかさ。夕方に入ると、そこからまたエンジンがかかるまでに時間が必要だったりさ。早めに起きて、スタジオに行くと、ちょっと気分がノったまま(作業に)入れるんだよね。
■なるほど。
石野:だから、フロアのエネルギーってわけじゃないんだよね。もっと自分の内面的な問題というか。
■なんかね、石野卓球らしいリズムのクセがすごく際だっているし。
石野:それがないと困るんだけどさ。
■そうなんだけど。
石野:手癖は黙っていても出てくる。黙っていても出てくる手癖を大切にしたというかさ。昔さ、ホルガー・ヒラーが言ってたじゃん。「下らないことばかりを集めると、スーパー陳腐なものができあがり、言葉の裏にある本当の意味が見えてくる」って。あれと同じで、自分の感覚的な部分を次から次へと構築していくと、自分も意識していなかった自分が投影できるっていうかさ。そうすると「俺の手癖ってこうか」みたいなことがわかる。
■メリー・ノイズと一直線に繋がるものを感じましたよ(笑)。
石野:モチベーションのところではあんま変わってないっていうかさ。お金になるかならないか、まわりに巻き込んでいる人たちの人数が増えたとか、それぐらいの違いで、モチベーションは変わっていないからね。
■声ネタの使い方とかさ。
石野:そこはどうかな(笑)? 自分では何とも言えないけどね。実はさ、最近、(自分が10代の頃に作っていた)カセットをハードディスクにアーカイヴ化したんだよね。いちばん笑ったのが、ニュー・オーダーの"586"のカヴァーのデタラメ英語ぶり(笑)。
■ハハハハ。
石野:あれはすごかった(笑)。
[[SplitPage]]俺、このあいだ中国でやったんだけど、野外フェスだったのね。そのときは時間もそんな長くなかったら、レコードをCDに焼いて持って行ったのね。使うであろうレコードをさ。そうしたら、4枚ぐらいで済んじゃうんだよね。4枚で行くのも気が引けるっていうかさ(笑)。
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■話が変わるんだけど、ヴァイナルとダウンロードに関してはどんな意見を持っている?
石野:俺はどっちも使うんだけど、レコードのほうが音が良いっていうか......まあ、ハコによるよね。アナログ盤にチューニングされているハコは、レコード針がモニターから拾ってしまうフィードバックが聞こえないということを前提で作られているから、ヴァイナルをかけると音がすごくいいんだよね。その逆で、CDを前提で作られているハコでヴァイナルをまわすと、音がまわり過ぎちゃって、低音とかモコモコになっちゃうし、だからケース・バイ・ケースだな。「絶対にレコードでないと」っていうタイプでもないし、レコード買ってもCDに焼いて、どっちもいけるようにはしている。でも、どっちかとえばレコード派だけどね。使いやすいしさ。
■いろんなダンス・ミュージックがあるなかで、いまでもテクノの人がいちばんヴァイナルを使うって言われるじゃない。
石野:そうだね。
■ドラムンベースやダブステップでさえもいまデータが増えちゃってさ、ヒップホップはもうほとんどデータじゃない。テクノだけがいまだDJがヴァイナル使っているから、お店でもレコードが売れるっていうんだけど。
石野:ドイツが強いっていうのがあるんじゃないかな。あと、ヒップホップ以上に、その辺の兄ちゃんがレコード出せるっていう、その機動力っていうか。ドイツはいまでもレコード使うDJ多いからさ。イギリスももう、レコード使ってないでしょ。
■CDが多いよね。
石野:レコードいいんだけど、かさばるよね。
■CDになったのも、移動するときに面倒くさいというのもあるからね。運ぶのが楽だからね。とくに飛行機乗る人にとってはさ。
石野:最近のCDJはだって、USBでいけるじゃん。すごいことだよ。(メディアの選び方も)場所によるけどね。俺、このあいだ中国でやったんだけど、野外フェスだったのね。そのときは時間もそんな長くなかったら、レコードをCDに焼いて持って行ったのね。使うであろうレコードをさ。そうしたら、4枚ぐらいで済んじゃうんだよね。4枚で行くのも気が引けるっていうかさ(笑)。
■4枚、ハハハハ!
石野:考えが古いのかもしれないけどさ、それでもう何十枚かいちおう持っていったんだけどさ(笑)。
■中国はともかく、東南アジアは気候的にもレコードが合わないっていう話は聞いたことがあるけどね。
石野:ダウンロードのおかげで、地方のDJと東京のDJとの情報の格差がなくなったよね。それはいいことだと思う。昔だったら、通販でしか買えないとか、コアなものは東京ですぐに売れちゃうからとかさ、そういう情報格差がなくなって、フェアになったと思う。
■自分で買うときはレコード?
石野:うん、なんでかっていうと、レコードのほうがまだ周波数帯域が無限の可能性があるように思えるからなんだよね。もっと性能のいいディスコミキサーと針との組み合わせで、さらにもっと良くなるんじゃないかって。デジタルの音もよくなっているけどね、それでも上下は切られているから。まあ、こんなこと気にするのも俺の貧乏根性だと思うけどね(笑)。デジタルでもいま96kHzってあるじゃない。たしかに96kHzにもなりうるけど、441で買ったら441は441じゃん。mp3はmp3だし。レコードで持っていれば、これから来るであろうもっと高いサンプリング・レートの対応もできるっていう安心感もあるよね。
■なるほど。
石野:だからiTunesをほとんど買わないのは、あれはmp3じゃない。昔のミュージックカセット買っている感じ。
■俺は意外と買うんだよ。
石野:個人で聴くにはいいんだよ。でもあれで(DJやって)お金は取れないっていうか。あれは個人で聴くものでみんなで聴くものじゃない。レコードはひとりで所有するもっていうよりもみんなで聴くものっていう俺の概念があってさ(笑)。CDはどちらかといえば自分で聴くもの。まあ、最近はCDのあり方もレコードに近づいてきているけどね。
■CDの寿命が20年だっていう説があるじゃない。ケースにもよるんだけど、CDをケースから取り出すときにどうしても盤が曲がっちゃう。それで、いつの間にかCD盤のなかで亀裂が生まれて、そこから酸化しちゃうっていうね。
石野:あとね、なかのインクだって説があるよ。いまのCDは違うけど、昔のCDは銀紙を貼っただけのものもあって、その銀紙に文字が書いてあって、その文字から酸化してっちゃうっていうね。
■それで読み込めなくなっちゃうんだよね。CDって、80年代に出ているじゃない。ゼロ年代になって、聴けなくなったCDが出てきたってね。
石野:当時は100年保つって言われてたのにね(笑)。
■いや、俺は永遠に保つって聞いてたよ(笑)。
石野:ハハハハ。永遠に保つってことほど信用できないことはないからね。
■俗説かもしれないけど、CDは20年、レコードは200年とかってね。結局、レコードのほうが保つんだよね。
石野:ホントにそう思う。実際にいくつかのソフトで、レコードは持っているけどCDで買い直して、で、さらにリマスターのCDが出て買って、結局、何枚かCDでも持っててさ、「そういえばレコードも持っていたな」と思ってレコードを聴いてみたら、すごくホッとしたことがあったんだよね、パレ・シャンブルグなんだけどさ。ガキの頃に聴いていた帯域をレコードでぜんぶ覚えていたんだよね。いくらリマスターされても、最初に聴いたのとはやっぱ違うよ。
■パレ・シャンブルグ(笑)。
石野:CDっていうのは自分で焼けちゃうからね。でも、CDRは便利なメディアだと思う。
■ちょっと大きな話なんだけど、そういうメディアの変化とも関係しているかもしれないんだけど、音楽が売れなくなっていることに関してはどう思う?
石野:当然だと思うけど。だってさ、簡単に無料で手にはいるようになったしさ。
■違法ダウンロードが原因だと思う?
石野:それだけじゃないよね。値段が高いとかさ。あとは情報がすごく入ってくるようになったから、1曲1曲の音楽の重みが昔よりも軽くなったというかさ。所有することもエネルギーが必要だったじゃん。レコードを大事にするとかさ。データを大事に扱うってあんまないからさ。
■俺は絶対に違法ダウンロードしないんだよ。やっぱ音楽がタダになったらマズイと思ってさ。
石野:エコだねー(笑)。ちゃんとゴミ分別するでしょ。そこはでも、なるようにしかならないと思うからさ。
■俺らが子供の頃はFMでエアチェックして、録音していたじゃん。
石野:でも、俺らはマニアだから、いずれそのレコードを買いたいと思っていたじゃん。いまはそういうハード・リスナーが減ったんだと思うよ。違法ダウンロードで満足しちゃうヤツが増えたんじゃないかな。
■悲しいよな。
石野:でも、しょうがないよ。だって、何万曲とかが持ち歩けたりするんだしさ。昔はだって、ウォークマンなんてさ、20曲とかでしょ。それを何度も繰り返し聴いているんだから。もっと聴きたければさらにカセットテープを持ち歩くっていうかさ。それってもう立派なマニアじゃん(笑)。だってさ、ウォークマンが出る前なんかさ、新しいレコード買ったら早く学校から帰りたくて仕方なかったじゃん。いま普通に授業中でも聴けるからね(笑)。
■インターネット文化についてはどう思う?
石野:俺はそんなにどっぷり浸かってない。
■YouTubeであるとか。
石野:YouTubeは使ってる。ありがたい話だよ、俺の人生時代の映像とかアーカイヴ化されているしさ(笑)。俺すら知らない映像まであるしさ。でも、コミュニケーション・ツールとしてはそんなに使ってない。ブログやってるわけでもないし、twitterも頻繁にやらないし、あんまり言葉で発信したいことがないっていうか。駄洒落は言ったことあるけどね(笑)。
■それはね(笑)。しかしこの10年で音楽をめぐる環境がホントに変化したよね。
石野:ホントだよね。さらに変わっていくんだろうね。それこそさ、うちらの孫の世代なんか、「えー、音楽作ってお金になったの?」っていう時代になると思うよ。
■いや、それはなっちゃいけないよ。
石野:いや、なるよ。
■なんで?
石野:だって、いままでタダだったものを課金するのって無理だし、よほど大きな力が働いたとしても地下に潜ってやるだろうから、結局はいたちごっこというか。だから......、入場料を取るとか、投げ銭みたいなところに強いミュージシャンはやっていけるとは思うけど。あるいは、昔のドーナッツ盤の頃に戻るとか、あとはものすごく値段が下がるとか、そういうことじゃないかな。
■難しいね。
石野:難しいと思うよ。俺はパッケージも含めて好きだから。自分がミュージシャンをやる前から好きだから、そういうのがなくなっちゃうのが淋しいと思う。
■いまでも新譜、中古問わずに買っている?
石野:ぜんぜん買っているね。レコードもCDもすごい買ってる。
[[SplitPage]]あとね、あんま密室的なものにしたくなかったっていうのもあるかもね。やっぱね、密室的なものをもって夏にプロモーションするのはきつい。密室的なことを何度も言わなきゃならないじゃん。それが精神衛生上、良くないんだよね(笑)。
![]() 石野卓球 / CRUISE Ki/oon |
■ところで、カガミくんが亡くなったよね。石野はすごく近しい仲だったからさ。
石野:もちろん。
■やっぱ、そこで思うところはあったと思うんだけど。
石野:もちろんショックだし、あいつのキャラのなかから"死"っていうイメージが出てこないっていうか、そういうものからもっとも遠い存在だったでしょ。
■ホントにそうだよね。
石野:ただね、「こいつ歳を取らないな」とは思っていたんだよね。こんなこと言って誤解されたくないけど、死んでホントにそれが永遠になっちゃったよね。
■どちらかといえば天才肌というか、自分を持っている人だったからね。
石野:そうだね。
■ちょうど今回の作品を作っている途中じゃない、彼が亡くなったのは。
石野:まったくそうだったね。ちょうどアイツから、アイツが死ぬ何日か前にメールでmp3が送られてきてさ、よく送ってくれていたんだよ。何も書かずにただ音源だけ送ってくるっていうさ。で、聴いたらちょっといままでとは違うネクスト・ステップな感じの曲もあったからさ、アルバムを作るとも言っていたし、「ああ、がんばっているんだな」と思っていたところだったからさ。
■今回の『クルーズ』に影響してはいない?
石野:気持ちのうえでは絶対にあるけど、具体的にはない。でも、あれだけ近しい人間で、あれだけ長いあいだいっしょに過ごしてきたから、何にもないって言ったら嘘だよね。もしかしたら、俺の気持ちは自分の意識していないところで出ているのかもしれないけどさ。
■そうか......。
石野:ラヴ・パレードのこないだの事故といっしょだよ。それと近いっていうかさ。もちろんカガミの死とはぜんぜん別物なんだけど。
■ラヴ・パレードの事故も悲しい出来事だったけど、あれはどうなの? ラヴ・パレードが悪いわけでもないんでしょ?
石野:もちろん。でも、俺が最後に行ったのは2006年のエッセンでやったやつかな。そのときに「うわ、もうずいぶん違うものになっているな」というのは感じていた。ベルリンのラヴ・パレードが2000年代のなかばぐらいになくなったじゃん。ベルリンのラヴ・パレードは最後まで行ってたんだけど、それでも最後の頃はもう別のものになっていたし、ベルリンを離れた時点で、ラヴ・パレードの役割はもう終わっていたと思うんだよね。実際に権利も売っているし、別の人がやっているし、違うのは当然なんだけど。
■もうピースな感じは残っていない?
石野:うちらが知っているラヴ・パレードではないよ。ドクター・モテなんかまったく関係ないし、よさこい祭りみたいな感じ。
■エスカレートし過ぎていた?
石野:ていうか、たんなるテクノ祭り。テクノ祭りでもないか、たんなるでかいダンス・イヴェント。うちらが知っているラヴ・パレードは、なんでこれがはじまったのかを多少なりとも意識して参加していたじゃん。だけどそれがもうまったくなくなっていたっていうさ。もはや意識する人がまったくいないっていうか。そう思ったけど。
■それでもまさかって感じだったでしょ。
石野:いや、もう、びっくりしたよ。今年の二大びっくりだよ。20人の死者の数って......だって、20人ってもう災害レヴェルっていうかさ、テクノ・パーティっていううちらが慣れ親しんだものから20人死ぬっていうのが、さっきのカガミの話じゃないけど、結びつかないっていうかさ。だからこそ、ショックっていうかさ。あとさ、ドイツの音楽シーン、テクノ・シーンやダンス・シーンに落とす影は尾を引くんじゃないかなっていう。
■マスコミからのネガティイヴなキャンペーン?
石野:それもあるだろうし、関わっている人たちの気持ちに落とす影だよね。「いままで通りに、それはそれで楽しみましょう」っていう風にはならないからさ。けっこうボディブローでじわじわくると思うから。
■ニュースを観て、「まだこんなに人が集まるんだ」とも思ったけどね。
石野:だから、最初のモットーを理解してないからそれだけ集まるんだよ。もちろんはじまって20年も経ってさ、20年も経てば世代交代もしているし、いま20歳の子にしたら生まれたときからあるものだからさ、理解しろっていうほうが無理だしさ、コントロールしているのはモテとかそういう初期の人ではなくて、金で買い取って請け負っている人たちだからさ。あとは町にどれだけ金を落とすかっていうかさ。
■しかし、ホントに大きな事件が続いたものだね。
石野:そうだね、うちのなかではね。いますぐには変わらないけど、なんか象徴的なことかなとも思うよ。
■どういう象徴なの?
石野:楽天的な考えが難しくなってしまうというかさ。それで楽天的な考えが否定されるのが嫌だけどね。
■俺はちょうど静岡に帰っているときにニュースで知った。
石野:俺はアンディからメールで知ったんだけど、警察はそこで止めてしまってはパニックになるから、続けさせたらしいんだけど、ただ、いまは客も何が起きたのか携帯とかでわかっちゃうからさ、結局、11時で終わって、ウェストバムはやらなかったっていう話だけどね。だってさ......オルタモントよりも人が死んでいるんだよ。
■やるせないよな。それではまた話を変えましょう。結局、フル・アルバムは控えているの?
石野:うん。夏はフェスもあるし、〈WIRE〉もあるし、賑やかなことがいっぱいあるからそれが終わってから、本腰を入れて作ろうと思っているんだけど。そのあいだに気持ちも変わるだろうから、どんなものになるのかぜんぜんわからない。まあ、次もミニ・アルバムでいいかな(笑)。その形態、俺はけっこう好きだよ。
■ハハハハ。
石野:果たして、フル・アルバムって需要があるのかなって思うし。
■あるでしょ。
石野:アマゾン知ってるよね?
■もちろん。
石野:DVD付けたほうがCDだけよりも安くなるの知ってる? たとえば石野卓球ソロ・アルバム、初回限定DVD付きのほうが通常盤より安くなってしまうんだよ。
■ああ、再販制度によって。
石野:それっておかしいでしょ。だから、電気のときはDVD付きにして値段を下げていたんだけど。でもさ、それやってると、フル・アルバム出す度に映像を付けなきゃならないって、映像がマストになっているって、変な状況でしょ。それは違法ダウンロードとはまた別のところでの歪みだよね。
■こないだレインコーツにインタヴューしたんだけど、俺らの頃って、レインコーツなんか日本盤出てなかったじゃん。で、しかも円が安かったから、UK盤なんて2800円ぐらいしたじゃん。
石野:もっとしたじゃん。静岡なんか3800円だったよ。
■いや、それはドイツ盤でしょ。リエゾン・ダンジュールズがそれぐらいだったと思うんだよね。UK盤は2800円だったと思うんだよ。それで、日本盤が2500円でしょ。当時は外盤って、汚いモノってイメージがあったじゃない。
石野:俺はそれはないよ。UK盤を買って、嬉しくて、中身のにおいをクンクン嗅いでいたけどな。「いいニオイだなー!」って(笑)。
■えー、ホント?
石野:俺は日本盤は、ジャケットの紙が厚くて、あか抜けてないなーと思ってたくらいだから。
■マジ?
石野:ぺらぺらな感じがいいじゃない。
■とにかく当時は、高校生にとって2800円ってものすごく高かったからさ。
石野:当時とは物価が違うけど、たしかにいま2800円って言っても高いよね。
■それでミニ・アルバムなんだよね。素晴らしい発想だね。今年は〈WIRE〉も10周年で。
石野:いや、違うよ、えーと、12周年だよ。
■そうか、12年かー、それすごいよな。
石野:ねぇ。ひと周りだもんね。こんな続くと思ってなかったもん。
■〈メタモルフォーゼ〉もそうだけど、続くものは続いているのがすごいよ。
石野:不況だから、大変なところもあるけど、でも、こればかりはさ、行かないとわからないという"体験"だからね。ただ、こっちも続けるためにやってきたわけじゃないからさ。それが続いたのは副産物として嬉しいね。
■やっぱ感慨深い?
石野:......あんまないね。来年あるかどうもわからないしさ、そういうつもりでずっとやっているから。
■ハハハハ。
石野:あんま覚えていないんだよね(笑)。4年前も5年前もぜんぶいっしょくたになっていて。自分の頭のなかでしっかりアーカイヴ化できていないし、だから続いたのかもしれない。テキトーさっていうかさ。
■タフな人間だからな、石野とか瀧みたいな人は。
石野:鈍い人間だって(笑)。それは野田兄もわかると思うけど、静岡の風土が生み出した鈍さっっていうか、俺も野田兄もそうだよ(笑)。
■こないだノブ君に話を訊いたときに、今年の正月に静岡にDJやりに行ったんだって。で、カツヨシと会って、すごい褒め言葉として「俺、全国でいろんな人間見てますけど、カツさんほどずぼらな人間には会ったことないです。カツさん見てるとホントに勇気づけられます」って言ったんだって。そうしたら「え、それどういうこと?」って怒られたって(笑)。
石野:うちらは静岡を出ているから「ずぼら」って気がついてるけど、意外と静岡の人は自分が「ずぼら」ってわかってないんだよね。何故かって言うと、全員ずぼらだから(笑)。
■ハハハハ!
石野:あれすごいよね。政令指定都市で全員ずぼらってさ(笑)。別にがんばる必要もないっていうか、がんばりたきゃ名古屋か東京に行けって感じじゃん(笑)。
■ハハハハ。そういえば『クルーズ』のジャケットは自分で撮った写真を使っているんだよね?
石野:熱海から初島に行く船があって、その船でかっぱえびせんを捲くと鳥がすごい寄ってくるのね。ヒッチコックの『鳥』みたいに。たまたまそのときに撮った写真で、作品の中身に関係のないものをジャケットにしたいっていうのがあって、で、とくに今回は全体的にパーソナルなものにしたいっていうのがあったから、「あ、ちょうど良いのがある」って。初島まで30分ぐらいじゃん。だからこれは後づけだけど、30分ぐらいで"クルーズ"でミニ・アルバムっていう。これはプロモーション・トークだね(笑)。
■いままで、『ベルリン・トラックス』も『スロッビング・ディスコ・キャット』も『カラオケジャック』も、みんな凝ってたじゃない。ある種のギミックというかさ。
石野:それを毎回やったら「次は何?」ってなるじゃん。電気のアー写っていうかさ。それはそれでいいんだけどさ、今回はそういう感じじゃなかった。ギミック的な脅かし的なところもなかったし、派手にしたくないっていうわけじゃないんだけど、なるべくパーソナルなものにしたほうが伝わりやすいかなっていうか。
■やけに清々しい感じじゃないですか。
石野:色は毒々しいよ。
■あー、たしかに色によって見え方が違う写真だね。
石野:あとね、あんま密室的なものにしたくなかったっていうのもあるかもね。やっぱね、密室的なものをもって夏にプロモーションするのはきつい。密室的なことを何度も言わなきゃならないじゃん。それが精神衛生上、良くないんだよね(笑)。
■当たり前の話だけど、同じエレクトロニック・ダンス・ミュージックでも、『ベルリン・トラックス』や『スロッビング・ディスコ・キャット』の頃とはどこか趣が違うよね。
石野:あの頃は外からの刺激がすごかったし、それをカタチにするっていうのもあったけど、それもういまのやり方じゃないかなっていう。
■『スロッビング・ディスコ・キャット』の頃に比べると毒がなくなったのかなという気がしたんだけど。
石野:毒というか、屈折した感覚が減ったのかもしれない。
■ああ、そういうことだね。
石野:屈折したものを表現するとダメージがすごくでかいというか、屈折はなくならないんだけど、それは自然に出てくるものというか、隠そうと思って隠せないというか。ニュートラルにやっていくいと、自分の屈折していない部分が出てくるんだけど、屈折していない部分も出てくるから。そこはもう、作為的にはやらないほうがいいかなっていうね。
■なるほど、ホントにそんな作品だったね。それでは〈WIRE〉、楽しみにしています。今日はどうもありがとう。






















