ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  2. Bonna Pot ──アンダーグラウンドでもっとも信頼の厚いレイヴ、今年は西伊豆で
  3. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  4. Neek ──ブリストルから、ヤング・エコーのニークが9年ぶりに来日
  5. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  6. アフタートーク 『Groove-Diggers presents - "Rare Groove" Goes Around : Lesson 1』
  7. Seefeel - Everything Squared | シーフィール
  8. 原 雅明
  9. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(後編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  10. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  11. ele-king cine series 誰かと日本映画の話をしてみたい
  12. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  13. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  14. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  15. Gastr del Sol - We Have Dozens of Titles | ガスター・デル・ソル
  16. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  17. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  18. John Carroll Kirby ──ジョン・キャロル・カービー、バンド・セットでの単独来日公演が決定
  19. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  20. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催

Home >  Reviews >  Album Reviews > Robot Koch- Songs For Trees And Cyborgs

Robot Koch

Robot Koch

Songs For Trees And Cyborgs

Project:Mooncircle

Amazon iTunes

Rekordah

Rekordah

Rekordah presents Astro:dynamics

Astro: Dynamics

Amazon iTunes

三田 格   Nov 12,2010 UP

 はて、フライング・ロータスの前ってどうなってたんだっけ? ああいうのはたしかグリッチ・ホップとかいわれてたよな。詳しい人によればその起源は1984年のジョン・フェクナー・シティ・スクォッドに遡れるとか、デヴィッド・バーン『ザ・ヴィジブル・マン』(97)にも兆候は現れていたということになるんだけど、まー、そういうのはワサビ漬けにして食べてしまうとして、スタートはやはりグリッチというエレクトロニカ的な方法論だっただけにアトムTM『XXX』かフンクシュトルンク『アペタイト・フォー・ディスクトラクション』といったドイツ文化圏にあり、ほぼ同時にプリフューズ73も出てくるという流れだったはずでした。前2者が2000年ちょうどのリリースで、プリフューズ73『ヴォーカル・スタディーズ~』が2001年、02年にはマシーン・ドラム『アーバン・バイオロジー』と続いて、03年には一気に廃れるんでした、たしか(初期の空気感はチョコレート・インダストリーズからリリースされた『ラピッド・トランジット』に真空パックされてるんだな)。

 04年から05年にかけてはこれがスイスやベルギーといったヨーロッパからのリアクションが増え、TTCやスタックス・オブ・スタミナ(現レイディオクリットほか)を中心とするジュネーヴ・コネクションを筆頭にノスレップ、ベータ・エーコ、ホーペン、果てはロシアからキャストも参入。06年にはファット・ジョンのようなヒップホップの主流にもその影響が認められるようになって、日本からもジェマプー(と読むのか?)、コンフリクト、エディットなどが頭角を現し、07年にはイギリスから『イクーデ』、アメリカは『シリコン・グラフィティ』、日本でも『ビート・アーキテクチャー』といったコンピレイションが勢力の維持をアピールしたカタチに(翌年にリリースされたラス・GのミックスCDやブルー・ジェムズ『ビート・マシーン』も同じような役割を果たしたといえる)。モードセレクターやクローズ・フォーなど他のジャンルに拡散し出したのもこの頃で、そして、何よりも〈オール・シティ〉からフドゥスン・モーホーク(と読むのが正しいそうです)とマイク・スロットのヘラルド・オブ・チェンジがさまざまな意味合いにおいてネクスト・レヴェルを用意したといっても過言では......(この辺りは『REMIX』で何度も力説したような気がするので省略)。

 ところが08年は全体的に見るとシーンはふたたび不調になり、どれもこれも小粒で存在感に乏しく、フランスやスペインから細々と変り種が出るにとどまっていた。そう、梅雨どきにフライング・ロータスがリリースされるまでは。
 ここからは、もうみなさん、ご存知、情報のインフレ状態ですね。どのレヴューを見ても「フライング・ロータスに通じる......」とか「どこかフライング・ロータス風の......」という言い回しの洪水が押し寄せ(個人的には中原昌也と共に盛り上がってしまったクップ・ケイヴ『ガービッジ・ペイル・ビーツ』がすでに懐かしい......)、人によってはドクター・ロキットを聴いてもフライング・ロータスに聞こえてくるし、ヒドい人になると......いや、やめておきましょう。簡単に人の評論家生命を奪ってはいけない。盗んでいいのはコンビニの売り上げだけだった。
 また、コッチーやモーホークなどダブステップとの融合やアブストラクト感覚を強めるなど、他のジャンルとの並存もごく自然におこなわれるようになり、逆にいえば、グリッチ・ホップだけを追求している人は地味な存在になっていったともいえる。ローンであれ、ルーキッドであれ、それだけをやっている人はどこか陰が薄く、「フライング・ロータスに通じる......」とさえも書いてもらえない。もしくは聴いてさえもらえない。

 ザ・テープとしても知られるロベルト・コッチはブロークン・ビートやドラムンベースが主体の3人組、ジャクージのメンバーでもあり、『ソングス・フォー・トゥリーズ・アンド・サイボーグス』は2作目のソロ・ワークにあたる。ザ・テープvs. RQMのパターンを踏襲し、MCにセレブラル・ヴォルテックスをフィーチャーしたシリーズ=ロボット・コッチは当初はオールド・スクール風のリズムに電子音を足すという図式を採用していたが、すぐにもインストゥルメンタル主体のプロジェクトへと移行し、曲によってさまざまなゲストを迎え入れ(ここではボックスカッター、1000ネームズほか多数)、全体としてはグリッチ・ホップの正統を保つ出来栄えを見せている。ここで展開されているのは、もしもフライング・ロータスが現れなかった場合の可能性といったようなもので、もちろん、そこからのフィードバックがまったくないものをつくることは事情上困難だとは思うものの、それでも、フライング・ロータスによって閉ざされてしまった可能性を探るものだといえる。そして、その結果はけして悪いものではない。全体にフゥドスン・モーホークの斑っけを丁寧に地均ししたような仕上がりで、グリッチ・ホップを生み出したヨーロッパがひとつの成果を上げたものだといえるのではないだろうか。

 同じようにグリッチ・ホップの正統といえる血流のなかで、さらに新たな可能性を模索し続けている存在にスラッガベッドとリコーダーがいる。前者の人気はダンスフロアではすでにそれなりのものがあるとして、スペインの7インチ・レーベル、〈ロー・ファイ・ファンク〉から「チェリー・コーク」をリリースした段階で早くも人気を決定づけたリコーダーことルーク・オーウェンは(マイク・スロット以外は)ほぼ無名の新人だけで構成された『アストロ:ダイナミズム』をコンパイルし、ダブステップだけでなく、スクウィーやウォンキー、あるいはチップチューンといった新たな傾向のなかで生き延びるグリッチ・ホップの可能性をマックスまで引き出している。しかも、自身の曲である"キャンディ・フロッシン"がとにかく素晴らしく、スラッガベッド"クランク・クランク"も彼のこれまでのベストではないだろうか? いわゆるデトロイト・テイストの強さもひとつの特徴であり、テープスやココ・ブライスのようにレゲエとの融合が試みられている辺りも興味深い(ちなみにマイヨーからほぼ同時にリリースされた『トロピカル・ヒート・ヴォリウム1』もほとんど同じメンツで構成されている)。

三田 格