「Nothing」と一致するもの

Larry Nozero & Dennis Tin - ele-king

Sun Ra - ele-king

PHAROAH SANDERS - ele-king

DOROTHY ASHBY - ele-king

SUN RA - ele-king

猪俣猛とザ・サード - ele-king

ブラック・ルネッサンス - ele-king

Shades Of Brown - ele-king

 去る9月29日、3年ぶりのニュー・アルバム『Again』を発表したワンオートリックス・ポイント・ネヴァー。大胆なストリングスの導入、リー・ラナルドやジム・オルークの参加、生成AIの使用、「思弁的自伝」のテーマなどなど注目ポイント盛りだくさんの新作のリリースを祝し、今月はOPNにまつわるさまざまな記事をお送りしていきます。まずは第1弾、4人のOPNファンが綴るOPNコラムを掲載。第2弾以降もお楽しみに。

[10/13追記]第2弾、OPNの足跡をたどるディスクガイドを公開しました。

[10/20追記]第3弾、「ゲーム音楽研究の第一人者が語る〈Warp〉とOPN」を公開しました。

第1回 columns [4人のOPNファンが綴るOPNコラム]


4人のOPNファンが綴るOPNコラム

第2回 disk guide [ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー・ディスクガイド]


ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー・ディスクガイド

第3回 [ゲーム音楽研究の第一人者が語る〈Warp〉とワンオートリックス・ポイント・ネヴァー]


〈Warp〉とワンオートリックス・ポイント・ネヴァー

Sprain - ele-king

 世の中には聞いた瞬間に意識が持っていかれてしまうような音楽と、その良さに気がつくのに時間がかかる音楽がある。そして、スプレインの音楽はその両方を兼ね備えた音楽なのではないかと自分は思う。ロサンゼルスのスローコア・バンド(そうだと思っていた)スプレインの2ndアルバムからの先行トラック “Man Prpposes, God Disposes” がスピーカーからふいに流れた瞬間にあっというまに意識が持っていかれてしまった。やっていた作業が手につかなくなり、手を止め、手持ちぶさたになって、そして意味もなく鼻を触ったり顎を触ったりする。とにかく落ち着かない気分になってスプレインの名前を確認し、白黒の奇妙なポーズをとったアートワークについて思いを巡らせる。そうして頭に出てくるのは白黒のディス・ヒートの写真だ。ぶれた被写体と奇妙なポーズのディス・ヒートよりも鮮明ではっきりしていて、そこに時代の隔たりを感じもする。あぁしかしここにはストリングスのイントロダクションからポスト・パンクのサウンドの上で唾を飛ばすように喋り歌う現代的なシュプレヒゲザング、ノイズと共に訪れる小さなカオス、それを抜けた先に訪れる静寂がある。何が起こっているのかはっきり理解することはできないが、何かが起きているということは容易にわかるエネルギーが渦巻いている。

 同時代的な感覚で言うとスプレインは初期のブラック・ミディのポスト・パンクの性急さ、あるいはカナダ出身のデライラ(Deliluh)の持つ儀式めいた恐ろしさをもっているのかもしれない。アルバム全体を通して自己と対峙する世界に触れるような描き方から HMLTD が今年、2023年に出した素晴らしい2ndアルバム『The Whorm』のことも頭によぎったが、しかしアプローチがまったく違う。HMLTD がインタールードを挟み演劇的に強調しスポットライトを当てるかのごとく次々に場面を展開し物語を形作っていたのに対して、スプレインは重苦しい白黒の映像、長回しで表現するタル・ベーラの映画のようなやり方を試みている(それよりもずっと過激であるのかもしれないが)。アルバムの収録時間が1時間36分、全8曲のうち20分を超える曲が2曲、10分超えの曲が2曲、それらをつなぐカットも主人公が活躍するような物語もそこに存在しない。白黒のロングショットの時間と暴力的である種グロテスクなエネルギーのひずみの中にぼんやりと浮かんでくるものを意味だと聞き手が受け取るような、このアルバムはそんなアルバムのように感じられる。
 上に名前を挙げたようなバンドの40分前後のアルバムに慣れ親しんだ身としては、長すぎると二の足を踏んでしまいそうな収録時間だが、しかしこの音楽は聞きはじめるとダレることなく非常に魅力的に進んでいく。たとえば24分あまりの “The Commercial Nude” はひっかくようなノイズにはじまり、コラージュのカオスから、アコースティク・ギターで小さな諦めを吐露するような厳かな展開に入り、そうして気がつけば壮大な感情の波に飲み込まれ、突き抜けた先の虚無にたどり着く。わかりやすい静と動も境界線が消え滑らかに溶け合うような美麗さもなく、それぞれの要素が形を残したまま何事もなかったかのように現れる。どこかにたどり着くための過程ではなくて、その場に存在することが重要だというように、目の前の出来事について思いを巡らせているうちに気がつけば時間が流れていく。

 あるいはそれはスプレインがこのアルバムで楽曲ではなくて音楽が流れる空間を作り出しているからなのかもしれない。浸るでも聞くでもない、そこに存在する音楽を半自覚的な状態で眺めるような感覚。それは心地の良いものではなく小さな緊張感と不安を伴ってのもので、レイランド・カービーのアルバム、たとえば『Sadly, The Future Is No Longer What It Was』、で聞かれるような美しいものが壊れ失われていくピアノの音が鳴るなかで、スローコア由来の轟音ギターのが重ねられる “The Reclining Nude” のハッとさせられるような瞬間や、ブラック・ミディの1stアルバムに HMLTD のヘンリー・スピチャルスキーが参加したかのような “God, or Whatever You Call It” の曲中に何度も訪れる余韻と解放が生み出す感情を作り出し、そうしてそれらが頭の中にはっきりとしないイメージとして残り続ける。

 おそらくこのアルバムはひとつのジャンルに寄ったものでも、ジャンルがきれいに混ぜ合わされたものでもダメだったのだろう。40分のコンパクトにまとめられた収録時間でもきっとうまくはいかなかった。必要だったのはある種の異物感と、それが同じ場所でおこなわれているということだったのだ。ひとつの部屋で同じ人間に別の出来事が起きているような不条理さ、何かを切り取ったものではなく垂れ流しにも思えるような時間のなかで生成される薄ぼんやりとした感情こそが大事なのではと考えるが、しかしそれもはっきりとはわからない。スプレインの音楽は刺激的で即効性のあるサウンドであるのと同時に得体のしれない音楽でもある。わからないものをわからない状態のまま受け入れることを求めるような、このアルバムはおそらくそんなアルバムで、いまはそれがことさら新鮮に感じられる。

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