「Nothing」と一致するもの

Nouveau Monica - ele-king

 昨年、ブラワンのEPを繰り返し聴いたという人は少なくないのではないだろうか。自ら主宰する〈Ternesc〉からの「Soft Waahls EP」と、年末に〈XL〉からリリースされた「Woke Up Right Handed EP」。2015年にベルリンに移り、〈Ternesc〉を設立してからのジェイミー・ロバーツはダブステップからテクノにシフトしたことで面白みが薄れてしまい、ムーディマンの声をサンプリングした“What You Do With What You Have”(11)のような遊び心からは遠ざかったような印象があったものの、一昨年の「Make A Goose EP」や「Immulsion EP」あたりからUKガラージの要素が復活し、とくに「Woke Up Right Handed EP」ではどうしちゃったのかと思うほど多彩なリズムを楽しませてくれた。“Gosk”や“Close The Cycle”がコミカルなブリープ・エレクトロかと思えば、“No Rabbit No Life”はマイク・インクとエイフェックス・ツインが出会ったようなドリルン・ベース(?)、さらに2拍子からブレイクでノイズ・ドローンに変わる“Under Belly”にも意表をつかれた。また、EPのタイトルに用いられている「Woke」(意識が高い)はラップのコンシャスと同じ趣旨で使われるブラック・ライヴス・マターのスローガンで、エリカ・バドゥ“Master Teacher”の歌詞が起源とされ、とくにフライング・ロータスがジョージ・クリントンをゲストに迎えたWoke名義「The Lavishments Of Light Looking」(15)以降、曲のタイトルなどに頻出するようになった。ここでは「右利きの人」を対象にするというヒネった使い方がされ、右利きの人に意識を高く持てという意味なのか、それとも暗に右翼に呼びかけているのか(?)。ブラワンはデビュー・アルバムのタイトルも『湿ったものは必ず乾く(Wet Will Always Dry)』(18)とか、どう取ればいいのかわからないタイトルが多く、楽しく悩ませてくれる存在である。

 この勢いでブラワンがセカンド・アルバムをリリースした……のではなく、フランスからヌーヴォー・モニカのデビュー・アルバムがこの波をかっさらっていった。UKガラージに主軸を置き、エレクトロとの境界線を面白いように舐め回す『BBB』はブラワンを若返らせ、2000年代前半のヴァイブスで染めたような温故知新を感じさせる。なんといってもまずは疾走感。UKガラージに特有のつんのめるビートが全体を貫き、抑制されたブリープのヴァリエーションが編み出される。過剰にリヴァーブをかけたスネアだけでワクワクしてしまうけれど、テンポは必ずしも早くなく、オフ・ビートをたっぷりと組み込むことでスピード感を醸し出していく。シャキシャキとしたスネアにトランペット・ドローンのような持続音を絡める“Be Quiet”からリズムとメロディの対比がエイフェックス・マナーの“Bluntin”へ。フランジャーをかけたハットが駆け回る“Bobby’s Bump”がとにかく最高で、ブレイク後に転調するところはかなりヤバい。シカゴ・アシッドの要素も裏地にピタリと縫い込まれ、“BS Unit”ではスネア、“Bounce Break”ではバスドラムがしっかりとリクルートされている。どの曲もほとんどビートの組み合わせだけでできているところが、そして、なによりも素晴らしい。『BBB』というのは曲のタイトルがすべて“B”から始まるからのようで、秋里和国『THE B.B.B.(ばっくれバークレーボーイ)』を思い出したり。



 『BBB』を聴いてそこはかとなく思い出すのがMIA『Kala』をプロデュースしたスウィッチのサウンド・メイキングで、彼のヒット曲“A Bit Patchy”やその後にフィジェット・ハウスと呼ばれるようになる彼のスタイルがアルバム全体にエコーしていると僕には思えてしまう。さらに言えばフィジェット・ハウスをダンスホールに応用したテリー・リン『Kingston Logic 2.0』やスウィッチ自らがダンスホールに取り組んだミズ・シング『Miss Jamaica』など、UKガラージがエスニック色を強めたUKファンキーに様変わりしていく前段階がこのあたりで力を溜め込んでいたことを『BBB』は再現し、アップデートさせていると考えるのは無理があるだろうか。アップデートというより当時の楽観的なムードをそぎ落とし、現代的な閉塞感で全体をコーティングし、最後のところは引き締めていくという感じ。その辺りがブラワンの試行錯誤とも共通のセンスに感じられるところだろう。ちなみにバイクの上でヘンな男が寝ているというジャケット・デザインは、ちょうど10年前にリリースされたジャム・シティが同じくバイクを横転さ得ることでJ・G・バラードのヴィジョンを想起させたのとは異なり、それでも人は生きているというフランス的な感触にも導かれる。

Tomorrow’s People - ele-king

 ヴァイナルにまつわる新しい試みを展開する〈Pヴァイン〉の「VINYL GOES AROUND」プロジェクト。その新作はシカゴ南部のソウル・グループ、トゥモロウズ・ピープルの1976年作『Open Soul』のジャケをあしらったオフィシャルTシャツだ。3色各5サイズとヴァリエイションもばっちり。
 さらには7インチ付属のセットも販売。同盤A面には、『Open Soul』表題曲を東京のディスコ・プロデューサー、T-GROOVEがエディットしたトラックを、B面にはアルバムの人気曲 “It Ain't Fair” を収録。なくなる前にチェックを。

シカゴ南部のソウルグループ、Tomorrow’s Peopleが1976年にリリースしたアルバム『Open Soul』のオフィシャルTシャツがVINYL GOES AROUNDにて限定販売。

シカゴ南部のソウルグループ、Tomorrow’s Peopleの1976年に制作されたアルバム『Open Soul』のオフィシャルTシャツが、Pヴァインが運営するアナログ・レコードにまつわるプロジェクト「VINYL GOES AROUND」にて限定販売されます。

『Open Soul』はDJやソウルマニアの間で究極のコレクターズアイテムとなっているアルバムで、DJ Sadar Baharも自身のフェイバリットにあげています。今回のTシャツは象徴的なアフロヘアの女性を中心にタイトルロゴや曲目、演奏者のクレジットなどがデザインされています。

また20分を超えるグルーヴィーなファンク「Open Soul」を、東京を拠点に世界で活躍するディスコ・コンポーザーT-GROOVEが7インチ・サイズにリエディットし話題となった「Open Soul」7インチとのセット販売も実施いたします。

・VINYL GOES AROUND 販売ページ
https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-1022/

[リリース情報①]
アーティスト:Tomorrow’s People
アイテム名:"OPEN SOUL" ORIGINAL T-SHIRTS
品番:VGA-1022
価格:¥5,280(税込)(税抜:¥4,800)
カラー:BLACK / ICE GRAY / LIGHT PINK
サイズ:S M L XL 2XL

[リリース情報②]
アーティスト:Tomorrow’s People
アイテム名:"OPEN SOUL" ORIGINAL T-SHIRTS + 7"
品番:VGA-1023
価格:¥7,480(税込)(税抜:¥6,800)
カラー:BLACK / ICE GRAY / LIGHT PINK
サイズ:S M L XL 2XL

[7” トラックリスト]
Side A : Open Soul (T-GROOVE Edit)
Side B : It Ain't Fair

BRIAN ENO AMBIENT KYOTO - ele-king

 初日から大盛況の展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」。好評を受け、土日祝の開館時間の拡大が発表された。あわせて、同展のオフィシャル・ヴィデオと展示写真が公開されている。

 「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」は、世界初公開の『Face to Face』、日本初公開の『The Ship』、ヴィジュアル・アーティストとしてのイーノの代表作『77 Million Paintngs』および『Light Boxes』の最新作、計4作を一挙に体験できる絶好のチャンス。

 6月25日からおなじ京都で開幕するデヴィッド・ボウイ写真展との相互割引も実施中とのことなので、この機会にぜひ足を運んでみよう。


77 Million Paintings


Light Boxes


Face to Face

black midi - ele-king

 ele-king 28号のブラック・ミディのインタヴューは読んでくれましたか? 彼らが何ものなのか、ほかと何が違うのかがよくわかる内容になっているので、ぜひ! で、その取材でもメンバー3人ともが自信満々に語っていた3枚目のアルバム『Hellfire』から先行リリース第二弾の曲“Eat Men Eat”のMVが公開されました。多彩なパーカッションからすさまじい叫びまで駆け上がります。曲の終わりの奇妙なレイヤーは、ファンから送られてきたものによって構成されているそうです。まずはこの規格外サウンド楽しみましょう。新作のリリースと来日ライヴを待ちましょう。

black midi - Eat Men Eat

µ-Ziq - ele-king

 テクノ界のリジェンド、マイケル・パラディナスの傑作のひとつ、『Lunatic Harness』の25周年記念盤が、ヴァイナルでは4枚組、CDでは2枚組の特別仕様でリリースされる。同作は90年代のパラディナスの遍歴が凝縮され、そして頂点に達したと言える作品、ここにはブレイクビーツ、ドリルンベース、あるいはラウンジからブレイクコアやガバまで、さまざまなスタイルが脈絡なく結合されている。いわゆるIDM作品で、いま聴くと時代を先走っていたことがわかります。
 オリジナル盤の13曲に加えて、この時代のシングル収録の曲やリミックスやデモ曲などが追加されて26曲が収録される。リリースは7月8日。

Buttering Trio - ele-king

 新世代のソウル・バンドとして近年その名をあげているテルアヴィヴのバターリング・トリオ。ベノ・ヘンドラー、ケレン・ダン、そしてリジョイサー名義で知られるユヴァル・ハヴキンからなるこの3人組が、8月3日に6年ぶりの新作をリリースする。通算4枚目のアルバムで、今回は当地のジャズ・シーンを支えるドラマー、アミール・ブレスラーも加わった強力な布陣。先行シングル曲“Come Hither”が公開中です。

Buttering Trio『Foursome』

ネオ・ソウル、フューチャー・ソウルバンドとして大注目のバターリング・トリオが、スマッシュ・ヒットを記録し来日公演も果たした2016年の名盤『Threesome』に続く、最新作を遂に完成!! ドラマーとしてアミール・ブレスラーも参加し、フューチャリスティックなソウル・サウンドと、エキゾティックなヴォーカルがさらに輝きを増した、最高傑作の4thアルバム!!

バターリング・トリオが遂に戻ってきた。しかも、ケレン・ダン、リジョイサー、ベノ・ヘンドラーのオリジナル・メンバーに、ドラマーのアミール・ブレスラーを加えた最高の組み合わせが実現した。10年に及ぶキャリアが作り上げた、この上なくグルーヴィなリズム、ドリーミーで魅惑的なメロディと緻密なアレンジ。それらが織りなす『Foursome』は、間違いなくバターリング・トリオの最高傑作だ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

先行シングルMV公開中 !!
「Buttering Trio - Come Hither (Official Video)」
https://www.youtube.com/watch?v=yYSRq60dzOY

Artist : Buttering Trio
(バターリング・トリオ)
Title : Foursome
(フォーサム)
Release : 2022/08/03
価格 : 2,400円+税
レーベル : rings / Raw tapes
品番:RINC89
フォーマット : CD
解説:原 雅明
Official HP : https://www.ringstokyo.com/items/-Buttering-Trio

Tracklist:
01. Good Company
02. Come Hither
03. See If It Fits
04. Move In
05. Desert Dream Romance
06. When I Face Your Beauty
07. Air In Rest
08. Keep It Simple
09. Don't Book Me
10. Succulent For Valentine
11. Close to You
12. Dancing with Insomnia
& Bonus Track収録予定

Putney Swope - ele-king

 2021年7月7日、85歳でこの世を去ったロバート・ダウニーによる永遠の名作、『パトニー・スウォープ』が7月22日から上映される。
 60年代のニューヨークを舞台にした、黒人がいきなり広告会社の社長になるという設定ではじまるこの映画は、当時のアメリカ社会の欺瞞を暴いた痛烈な風刺であり、過激なコメディであり、先見性に満ちた傑作。いま『リコリス・ピザ』で話題のポール・トーマス・アンダーソン監督がもっとも影響を受けた映画としても知られている。ちなみにこれは、ジム・オルークのオールタイム・フェイヴァリット映画でもある(かつてEメールの名前に本作のタイトルを使用していたほどだそうで……)。

 映画は7月22日(金)渋谷ホワイトシネクイントほか順次公開。この機会を見逃さないように。
 詳しくはこちらを(https://putneyswope.jp/)。

Putney Swope
パトニー・スウォープ

デジタル・レストア・バージョン
A film by Robert Downey
ロバート・ダウニー 監督作品
1969, 85minutes, USA, Herald Productions
白黒・カラー
Featuringアーノルド・ジョンソン、ローラ・グリーン
withバディ・バトラー、アンソニー・ファーガス、ローレンス・ウォルフ
※7月22日(金)渋谷ホワイトシネクイントほか順次公開

Big Thief - ele-king

 2019年の2枚『U.F.O.F.』と『Two Hands』で大いなる飛躍を遂げ、今年2月に発表したアルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』も好評のビッグ・シーフ。いまやUSインディ・シーンを代表するバンドにまで成長した彼らですが、この絶好のタイミングで初の来日公演が決定。11月14日大阪、15日名古屋、18日東京の3都市をまわります。

 6月29日発売の紙版最新号『ele-king vol.29』ではビッグ・シーフを表紙&巻頭にフィーチャー。アルバム・リリース時にジェイムズ・クリヴチェニア(ドラムス)のインタヴューをウェブで掲載していますが、今回はバンドの精神たるエイドリアン・レンカー(ヴォーカル/ギター)とバック・ミーク(ギター)が登場。じつにさまざまなことを語ってくれています。こちらもぜひチェックを。

BIG THIEF
『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』全世界絶賛!
大注目バンド、ビック・シーフ待望の初来日、遂に実現!

グラミー・ノミネートによって一躍USインディ・シーンの中心的存在となったビッグ・シーフ。
2019年には『U.F.O.F.』、 『Two Hands』と2枚の傑作を発表し、2020年にはそれぞれソロ作品をリリースするなど充実した活動を送り、2022年2月11日にリリースされた2枚組の最新アルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』は、全世界から大絶賛されている。コロナ禍でソールドアウト公演が延期~中止となり、まさに待望の初来日が遂に決定した。

https://smash-jpn.com/live/?id=3692

BIG THIEF JAPAN TOUR

2022/11/14 (月) 梅田 CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演 19:00 (問) SMASH WEST:06-6535-5569 (smash-jpn.com)

2022/11/15 (火) 名古屋 CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演 19:00 (問) CLUB QUATTRO:052-264-8211 (club-quattro.com)

2022/11/18 (金) 渋谷 Spotify O-EAST
開場 18:00 / 開演 19:00 (問) SMASH:03-3444-6751 (smash-jpn.com)

オフィシャル先行予約:6/14 (火) 17:00~6/20 (月) 23:59 https://eplus.jp/bigthief/

最速プレオーダー先行予約:6/21 (火) 12:00~6/26 (日) 23:59 https://eplus.jp/bigthief/

一般発売:7/2 (土) 10時~発売
【大阪】 e+ (Quattro Web先行:6/27-28)・チケットぴあ (P:219-564)・ローソンチケット (L:53062)
【名古屋】 e+ (Quattro Web先行:6/27-28)・チケットひぴあ (P:219-634)・ローソンチケット (L:45427)
【東京】 e+・チケットぴあ (P:218-458)・ローソンチケット (L:70117)
□お問合せ: SMASH 03-3444-6751 (smash-jpn.com)

エイドリアン・レンカーとマックス・オレアルチック、バック・ミーク、ジェームズ・クリヴチェニアの4人で構成されるビッグ・シーフは2020年、ニューヨーク州北部、ロッキー山脈のトパンガ・キャニオン、コロラド州のロッキー山脈、アリゾナ州ツーソンの4カ所で5カ月間をかけてレコーディングを敢行。その中で完成した45曲から厳選された20曲が収録されたアルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』は、ドラマーのジェームズ・クリヴチェニアがプロデュースを手掛けた。また、それぞれのロケーションでアラバマ・シェイクスなどを手掛けグラミーも獲得しているショーン・エヴェレットや米SSWサム・エヴィアン、ビッグ・シーフの前作と前々作『U.F.O.F.』と『Two Hands』を手掛けたドム・モンクスらがエンジニアを務めている。各所で絶賛され続けているビッグ・シーフ最新アルバムは絶賛発売中。

ドラゴンが連れていく最高の飛翔 ──rockin’on

豊かな土地に色とりどりの花が咲き乱れるような多様な楽曲群 ──Music Magazine

現代USインディの顔役 ──MUSICA

USで最も素晴らしいバンドの1 組 ──The Guardian

瞬時に満足させるが、その魅力と謎は何年も響き続けるだろう ──Uncut 9/10

ゆっくりと堪能して消化しなければならない、不定形でスタイルが多岐に渡るレコード ──Mojo ★★★★

ビッグ・シーフの魔法を垣間見ることができる…… ──Loud and Quiet

label: BEAT RECORDS / 4AD
artist: Big Thief
title: Dragon New Warm Mountain I Believe in You
release: NOW ON SALE

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12242

Carlos Niño & Friends - ele-king

 ジャズ、ヒップホップ、アンビエントを横断、多方面に活躍するLAのキイパーソン、カルロス・ニーニョ。2020年にプライヴェートでリリースされ速攻で売り切れとなっていた貴重な作品が、リマスタリング+新曲追加の仕様で公に発売されることになった。コズミックなアンビエント・ジャズに仕上がっているようで、これは楽しみ。ライナーノーツは岡田拓郎、CD盤を入手しましょう。

Carlos Niño & Friends『Extra Presence』

サム・ゲンデルやネイト・マーセロー、ジャメル・ディーンにディアントニ・パークスといったロサンゼルスのキーパーソン達が集結した、カルロス・ニーニョの最新作!!

「スピリチュアル、インプロヴィゼーション、スペース・コラージュ」をテーマにした、コズミック・アンビエント・ジャズサウンド。2020年にプライベートでアナログとカセットテープでリリースされ、即完売していた話題の作品をリマスタリングを施し、新曲とボーナストラックを追加して日本限定盤ハイレゾMQA対応仕様の2CDでリリース!!
ライナー解説:岡田拓郎

カルロス・ニーニョはサウンドの旅を続ける。ジャンルという層の下にあるサウンドを探査し、驚くべき洞察力で捉え直す。サム・ゲンデルやジャメル・ディーンら信頼を寄せる者たちも、その旅に加わる。そして、リスナーもまた旅の参加者の一人だと、カルロスは捉えている。パンデミックを挟んで出来上がった本作は、そのサウンドが持つ存在感を伝える、まさに特別な一枚だ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

先行シングルMV公開中 !!
「Carlos Niño & Friends - "WaterWavesArrival" (featuring Jesse Peterson)」
https://www.youtube.com/watch?v=xPO1LIJycfk

Artist : Carlos Niño & Friends
(カルロス・ニーニョ・アンド・フレンズ)
Title : Extra Presence
(エクストラ・プレゼンス)
CD Release : 2022/08/03

価格 : 2,800円+税
レーベル : rings / International Anthem
品番:RINC91
フォーマット : 2CD
解説:岡田拓郎
Official HP : https://bit.ly/3tPGBXx

Alva Noto + Ryuichi Sakamoto - ele-king

 ジョージ・ルーカス監督のデビュー作『THX 1138』(71)は『1984』と並ぶディストピアの古典『すばらしい新世界』を下敷きにしたSF映画で、いまでは普通の演出だけれど、人工性を際立たせたセットにブイ~ンとかヒュウウウ~とかカチカチカチとかクリンクリンといったSEを流し続けることで観客を不安な気持ちに陥れ、機械文明に批判的な視点を与える作品だった。タルコフスキーなどのSF映画に大きな影響を受けたというカールステン・ニコライがとりわけ音楽との関連で言及する映画がこの『THX 1138』で、6Aus49名義のバンドが解散した後、96年からソロでリリースし始めたノト名義や00年から使い始めたアルヴァ・ノト名義の作品はまったくもって『THX 1138』の効果音をそのまま再現したものか、これにリズムを足した作品といえる。タイトルもそのことを指し示しているかのような『Prototypes』(00)から試しに何曲か聴いてみると、“Prototype 10”は不気味なトーンの持続、“Prototype 2”は不安が身体に染み込んでくるようで、“Prototype 6”は感情を表現することが許されない未来人の内面を描写しているといった感じだろうか(『Prototypes』は各曲にタイトルがなく、19年の再発盤で初めてナンバリングが施された。ちなみにルーカスの2作目は『アメリカン・グラフィティ』で、自動車のナンバーがTHX、3作目は『スター・ウォーズ』で、同シリーズの設定には1138という数字が随所で使われている)。


 僕がノト名義の曲を聴いたのは〈ミル・プラトー〉のコンピレーション『Modulation & Transformation 4』(99)が最初だった。これは同レーベルがドイツを中心に質が変わり始めた「エレクトロニカ」をいち早く包括的に紹介した編集盤で、マイク・インクのガス、ピーター・レーバーグ、マウス・オン・マース、テクノ・アニマル、トーマス・ケナーなど新たな時代の波に乗りきれた中堅やニューフェイスたちが36組も集められ、ドイツ以外では池田亮司の名前もあった。「エレクトロニカ」という呼称は一時期のもので、リスニング・テクノやラウンジ・リヴァイヴァル、あるいはグリッチやファウンド・サウンド(注)といったダンスフロアを意識しない電子音楽がいわば一本化されて、このタイミングで篩にかけられ、安直にいえばミュジーク・コンクレート・リヴァイヴァルがスタートを切った瞬間だと考えればいいだろう。そして、ここからマーク・フェル(SND)やミカ・ファイニオらが次の時代を切り開き、アルヴァ・ノトはフェネスやヤン・イエリネクと並んでシーンの代表格となっていく。01年にリリースされた『Transform』が早くも傑作である。シンプルなパルス音だけで構成された同作は『Prototypes』とは異なり、既成のリズムから波形をコピーして、そのパターンにグリッチを当てはめたものらしい。そう、“Module 4”や“Module 6”の音数の少なさときたら! これで腰が動いてしまうのだから最初は驚くしかなかった。“Module 7”などはヘッド・バンギングすら誘発しかねなかった(『Transform』の各曲も再発時のタイトル)。


 東京で初めてアルヴァ・ノトのライヴを観た坂本龍一はシュトックハウゼンを思い出したと語っている。90年代のテクノには少し距離を感じていたらしい坂本はニコライのサウンドにはすぐに親近感を感じ、池田亮司にニコライを紹介してもらったと同じインタヴューで続けている(池田亮司とニコライは当時、サイクロ.というユニットを組んでいた)そして、リミックスをオファーし、ニコライがこれに快く応じたことがすべての始まりとなる。この当時、坂本は「エレクトロニカ」を大量に買い込んでいる。どんな人でも1年に1日だけ卸売価格でCDを買うことができる店があり、僕も何度か利用させてもらったけれど、そこで「坂本さんが倉庫にあったCDを端から端まで買っていったんですよ」ということだった。レゲエが理解できず、坂本が諦めずに2年間もレゲエを聴き続け、ついに「わかった!」というエピソードが示す通り、坂本は熱心な勉強家で、自分への投資を怠らないタイプの音楽家なのである。僕が知っているミュージシャンの多くは人付き合いや音楽以外のことにお金を使い、「新しい音楽」を聴かない人が多い。どういうわけかブレイクした時点で「止まってしまう」のである。アルヴァ・ノトの周辺で何が起きつつあるのか。それを坂本が本気で知ろうとしていたことがこの話からは伝わってくる。90年代の坂本龍一は映画音楽家であり、オーケストラの指揮者であり、どちらかというとモダン・クラシカルの系譜に位置していた。そこから見える未来に坂本は大きく軌道修正を加えた。しかも、アルヴァ・ノトと坂本龍一による最初のコラボレーションは早くも『Transform』の翌年にリリースされている。『Modulation & Transformation 4』から数えても3年しか経っていない。

 ニコライは最初、坂本から渡された音素材のうちピアノの演奏に惹かれたという(坂本いわく、「ピアノの演奏は2%ぐらいで、残り98%のエレクトロニクス・ミュージックにはぜんぜん興味がもたれなかった(笑)」)。「坂本のピアノになかなか手を加えられなかったニコライは何度かツアーを重ねるうちに打ち解け、大胆にプロセッシングを加えられるようになった(大意)」という発言もあるので(前掲)、『Vrioon』では主にニコライがプロセッシングを担当し、それを土台にして2人で作業を進めるという過程を経たと思われる。『Transform』と較べると、同じくミニマリズム(音数が少ないこと)でありながら躍動感は極力抑えられ、アンビエント表現の比重が高い。リヴァーブをかけたピアノもレイヤーを重ねるよりはひとつの音が現れては消えるまでをじっくりと観察しているようで、間隔を長く取り、音が空間に染み渡るプロセスを強く意識させる。主観と客観を並走させているというのか、見事にスキゾフレニックというのか、ニコライによる機能的なグリッチと坂本のメランコリックなピアノは将棋の試合のようにお互いに間を詰め合い、離れては近づき、近づいては離れ、混じり合ってしまうことなく、静かなテンションを維持し続ける。冒頭に引いた『THX 1138』に喩えるとニコライが映像を担当し、坂本が役者の演技に相当するというか。これまでに何度も書いたことだけれど、『Vrioon』はなかなかの傑作である。京都の石庭で聴いたらどんな感じがするだろうと何度も想像してしまった。

 『Vrioon』を皮切りに『Insen』『Revep』『Utp_』『Summvs』と、5部作がすべてリマスターを施されて年内に再発される予定(タイトルの最初の文字を繋げると「V・I・R・U・S(ウイルス)」になる!)。奇しくも今年、プラスティックマンのエレクトロニクスとチリー・ゴンザレスのピアノという同じ組み合わせのコラボレート・アルバム『Consumed in Key』がリリースされている。リッチーもゴンザレスもパラノイアックなアプローチを取り、強迫的な展開が頻出するので、時代も違うし、方向性はまったく異なるものの、『Vrioon』とはあまりにも対照的で、続けて聴くと音数が圧倒的に少ない『Vrioon』の方が緊張感は高く、最初の音が鳴ると同時に透き通った景色の向こうに連れ去られていたことがよくわかる。『Consumed in Key』にあるのはコロナ禍の濁った感じや俗っぽさを諦めきれない猥雑さといったところで、そう考えると『Vrioon』には浮き世と憂き世を入れ替えたような形而上学的なセンスがあり、それこそシュトックハウゼンが抱いた「普遍への夢」が含められていると考えたくなってしまう。少年が歌う断片的なメロディにカチャカチャと電子音が絡みつく“Gesang Der Jünglinge”と同じとは言わないけれど、音がしない瞬間が多く、透き通るような感触には似通ったものがあることは確かだろう。アルヴァ・ノトのライヴを観てシュトックハウゼンを思い出したという坂本龍一の直観は、たぶん、正しかったのである。

*『Vrioon』のリマスター盤にはスペインの美術雑誌「MATADOR I: ORIENTE」に付けられたCD用に録音された「Landscape Skizze」がボーナス・トラックとして追加されている。

(注)「ファウンド・サウンド」とはフィールド録音のように楽器の演奏ではない音が音楽に使われていること、あるいはその音を出す物体(ファウンド・オブジェクト)のことで、「具体音」と意味は同じ。ジョン・ケージやシュトックハウゼンが手法として確立し、ピエール・アンリやブライアン・イーノがあまたの応用例を展開したのち、イーミュレイターやサンプラーの普及によって80年代以降はダンス・ミュージックでも広く応用されるようになった。「エレクトロニカ」の時期にはこれをダンス・ミュージックとは異なる文脈に戻す傾向が増え、とくにフェン・オバーグ(フェネス+ジム・オルーク+ピーター・レーバーグ)がその先頭に立った。

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