ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Still House Plants 驚異的なサウンドで魅了する | スティル・ハウス・プランツ、インタヴュー
  2. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  3. Senyawa - Vajranala
  4. Interview with Beatink. 設立30周年を迎えたビートインクに話を聞く
  5. Columns ♯8:松岡正剛さん
  6. DUB入門――ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ
  7. interview with Galliano 28年ぶりの新作を発表したガリアーノが語る、アシッド・ジャズ、アンドリュー・ウェザオール、そしてマーク・フィッシャー
  8. Beak> - >>>>
  9. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  10. MariMari ——佐藤伸治がプロデュースした女性シンガーの作品がストリーミング配信
  11. KMRU - Natur
  12. Various - Music For Tourists ~ A passport for alternative Japan
  13. interview with Creation Rebel(Crucial Tony) UKダブ、とっておきの切り札、来日直前インタヴュー | クリエイション・レベル(クルーシャル・トニー)
  14. Jonnine - Southside Girl | ジョナイン
  15. Columns 8月のジャズ Jazz in August 2024
  16. Takuma Watanabe ──映画『ナミビアの砂漠』のサウンドトラックがリリース、音楽を手がけたのは渡邊琢磨
  17. CAN ——ライヴ・シリーズの第6弾は、ファン待望の1977年のみずみずしい記録
  18. Undefined meets こだま和文 - 2024年8月24日(土曜日)
  19. Cybotron ──再始動したサイボトロンによる新たなEPが登場
  20. interview with Toru Hashimoto 30周年を迎えたFree Soulシリーズの「ベスト・オブ・ベスト」 | 橋本徹、インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Jam City- Classical Curves

Jam City

Jam City

Classical Curves

Night Slugs

Amazon iTunes

三田 格   Jun 25,2012 UP
E王

 グライムからスタートして独自のサウンド・スタイルにたどり着いたジャック・レイサムによるデビュー・アルバム。いまやUKを代表するダンス・レーベルとなった〈ナイト・スラッグス〉からはキングダム「ドリーマ」やヘリックス「ドラム・トラックス」といった画期的なシングルが連打されているわりに、アルバムはまだエジプトリックスに続いて2枚目となる(CDには先行シングルからメイン・アトラキオンズを起用したカップリング曲も採録)。

 シングルから追ってきた人にはわかると思うけれど、「独自の」としたのは、グライムの特徴とされる重いベースは最初から強調せずに、ハットやパーカションを前景化させ、少しずつサウンド全体から丸みを取り除いて細部に至るまでソリッドに仕上げたことで、まるでグライムの骨格だけが残ったようなスタイルだからである。いわば、この10年近くハウス・ミュージックが吸収し続けたエスニック・ビートから音響的な要素をすべて剥ぎ取り、リズム・パターンだけを文脈から切り離して組み替えた状態というか。南アのクワイトが、いまやジャーマン・テクノにしか聴こえなくなってきたのとは正反対の位相にあり、発想的にはオランダのバブリングに近いといえる。グライムからハウスへのベスト・アンサーといったら大袈裟だろうけれど、ボルティモア・ビートにはじまり、バイレ・ファンキなどを経由して、いままたニュー・オリンズ・バウンスへと邁進する辺境マニアのディプロとは裏表のような位置関係にあるのかもしれない。

 そもそもグライムはUKガラージをエスニック化した音楽だし、ガラージが都会的な音楽であるためには、やはり、一定時間が経過した後で脱臭作用が必要だったとも考えられる。レイサムが「シティ」を名乗っているのはなるほど必然であり、そもそも様々なエスニシティを外縁化させたままでいられると思うほうが傲慢で、外縁化させておくポーズのためにジャム・シティを必要としたともいえる。レイサムの「気取り」は徹底しているし、そのために彼がリズム感を手離したわけでもない。むしろオフ・ビートだけで成り立っている曲もあるぐらいで、ディスコ・ミュージックがここまで複雑なリズムを獲得したことには歴史を感じてしかるべきだろう。あるいは、これは〈ナイト・スラッグス〉全体にもいえることなのかもしれないし、レーベルのボス、L-ヴィス1990のデビュー・アルバムが〈マッド・ディセント〉に提供した路線とはかなり方向性が異なっていたことでもそれはよくわかる。

 かつてレニゲイド・サウンドウェイヴは「ダンス・ノイズ・テラー」あるいは「パブリック・エネミーへのイギリスからの回答」と評されたことがある。両者を結びつけるものは、ブレイクビーツがまだ新鮮なトレンドであった時期に混沌とした音楽をつくったということしかないように思えるけれど、ここでもブラック・ミュージックに特有の騒々しさは整理され、ソリッドな質感のものに磨き上げるという転換はおこなわれていた。同じフェイクでもトーキング・ヘッズ『リメイン・ライト』に腹を立てたコニー・プランクが『ゼロ・セット』をつくったときにも似たようなことは起きていたのではないだろうか。そのような剥き出しの人工性に対する愛着が最大の魅力であり、ジャム・シティが繰り返したこともきっと同じことなのである。都市というのはどうだか知らないけれど、「都会」はまだ生きている。ジャック・レイサムはそれを証明した。そう思いたい。

 といいつつも、ハウスやテクノに溶け込もうとするエスニック・ビートにも僕はまだまだ消費意欲は掻き立てられるw。そもそも2年前にUKガラージにのめり込むきっかけをつくってくれたロスカの2作目は前作よりもかなりグライム寄りだったし、ドイツの〈ディスコB〉からはディプロへのアンサーとしては上出来のシュラフトーフブロンクス(Schlachthofbronx)『ダーティ・ダンシング』、急速に多様化を進める〈ハイパーダブ〉からはDVA『プリティ・アグリー』、プラティナム・パイド・パイパーズから〈ナイト・スラッグス〉に乗り換えつつあるシオン・ロックハート(Tiombe Lockhart)のキュービック・ジルコニア(Cubic Zirconia)『フォロウ・ユア・ハート』ほか、今年に入ってからも紹介し切れなかったものはけっこう多い。まだまだ気取らない日のほうが多いということか。

三田 格