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中東動乱も相変わらずヒート・アップしているようだけれど、エジプトで最初に騒動が持ち上がったときにヴィンセント・ラジオで(多少悪乗りも自覚しつつ)"エヴリバディ・ブリーディング(全員流血)"をかけたデヴィッド・サッカのフル・アルバムが完成(MP3でのリリースをカウントするとこれでセカンド・アルバム)。トロント在住でエジプトのトリックを名乗るUKファンキーのホープといえる逸材。アイコニカのリミックスを含む「ジ・オンリー・ウェイ・アップEP」やアアア!リアル・モンスターズからの「バトル・フォー・ノース・アメリカ」といった先行リリースからの採録は1曲もなく、シンセサイザーのタコ踊りが楽しい"エヴリバディ・ブリーディング"はいまだとダブステップとシカゴ・アシッドを横断させたドロップ・ザ・ライムのミックスCD『ファブリックライヴ53』にリスティングされている。
聖書に目があるというタイトルはちとコワい。あちこちのホテルの部屋に置いてある聖書が監視カメラに思えてくる。聖書とエジプトといえばフロイトの......ま、いっか。シンセサイザーが自在に躍る陽気なダブステップといったシングルの路線をさらに増幅させた前半から中盤までの展開はどれも期待通りの出来で、あっさりとガラージに落とし込まれたタイトル曲や寸止めの幸福感が繰り返される"ナポリ"などイメージの豊かさにまずは圧倒される。昨年末にリリースされた〈ナイト・スラッグス〉のレーベル・コンピレイションにも収録されていた"リベレイション・フロント"(Kをつければザ・KLF)はシカゴ・アシッドをまったく違う角度から構築し直したような曲で、どこかリッチー・ホウティンを彷彿とさせつつ淡々とした狂気に埋没させてくれる。これはいい。『ナイト・スラッグス・オールスターズ』でもベスト・トラックだと思っていたけど......やはりいい。マヤ・ポステップスキーらのトラストをヴォーカルにフィーチャーした2曲もなかなか効果的。
全体のイントロダクションやサイドCのオープニングとなる"ルークス・テーマ"をひとつの予感として、サイドDは全体に暗く、重い雰囲気に包まれた別世界へと突き進んでいく。ここで僕は完全にやられてしまった。ここに至るまでの流れをばっさりと否定してしまうかと思うほど内向的で、ダブステップに対する誤解があるとしかいえない展開なのに、暗さのなかに散りばめられた光の乱舞やネガティヴであることも楽しんでいるかのような乱暴さがそれを補って余りあり、さらにフリーキーな展開を恐れない"ベアリー"が止めを刺してくる。"ベアリー"は本当に強力である。アンダーグラウンド・レジスタンスがガラージ・ハウスの定義を書き換えたかのように聴こえる。"パニッシャー"をラリー・ハードがリメイクしたという喩えはどうだろうか...って、なんだか野田努のような文章になってしまった。そして、すべての集大成といえるエンディングへと雪崩れ込む。前半の持ち味と後半のダイナミックスが最後に来て完全に溶け合ってしまう。あー、カッコいい。これ以上、原稿なんか書いている場合じゃない......。
とてもエレガントなベース・ミュージックの誕生である。ブラボー! コマツ!
三田 格