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Zed Bias

Zed Bias

Biasonic Hotsauce - Birth of the Nanocloud

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L-Vis 1990

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三田 格   Oct 26,2011 UP

 マッドスリンキーの名義でダブステップに乗り換えたのかと思っていたデイヴ・ジョーンズがやはりというか、勢いづくUKガラージにカムバック。ブレイクビート・ガラージの元祖と目されるプロデューサーで、グライムに与えた影響も少なからずとされながら、フューチュリスティックス名義の『フィール・イット・アウト』がすでに8年前となることもあり、若手のディプロやスウィッチに追い上げられて(?)、サウンドも適度に刷新。ブレイクビート・ガラージの「その後」を自ら回収するようなアルバムに仕上がった。

 サスペンス映画を模したイントロダクション(インサートとして全体で4パートに渡るラジオ・ドラマ仕立て)に続いてラガマフィンがまずは3連発。セロシー、ダイナマイトMC、ロスコ・トリムと軽快に飛ばしていく。ここでコールドカット"ストップ・ディス・クレイジー・シング"を思い出すようなロートルは次で息が詰まる思いをしたかもしれない(僕は思い出さなかった)。長い付き合いとなるジェナ・G(『ビッチフォーク』参照)を起用し、ソウル2ソウルの初ヒット"フェアプレイ"へと続くからである。ハウスのテンポでカヴァーされた同曲はそれこそセカンド・サマー・オブ・ラヴのイントロダクションをなした曲だった。パンチの効きまくったGのヴォーカルが過去と現在を瞬く間に往復する。思ってもみないほど増幅されたスウィング感。これはやられた。

 さらにシーン全体からのリスペクトを反映するかのようにトッドラ・Tとの"クールエイド"は初期808ステイト風、現アフリカ・ハイテックのマーク・プリチャードと組んだ"トラブル・イン・ザ・ストリーツ"は妙にストイックで、しんみりとしたフォルティDLとの"ルシッド・ドリームス"と曲調は千変万化しつつ、エレクトロとガラージの接点が様々な角度から検証される。ベース以外にはスネアだけをループさせるなどシンプルな構成が目立ち、メイジャー・レイザーにはない円熟味が演出される。あるいはジェイムズ・ブレイクや彼が参考にしたともいわれるサブモーション・オーケストラのように深く沈み込んでしまうパートもなく、ある一定のレヴェルをうろつく感じはいかにもDJ的。、サム・フランクとのR&B、典型的なアシッド・ハウスといえる"サルサ・ファンク"と続いて、まるでスクリームみたいだなと思ったら、実際にスクリームとの"バッドネス"で一気にクライマックスへ(これがシングル・カット)。ベスト・トラックはスペシャリスト・モスを起用した"クールナーマン"かな。

 基本的には地味なベース・ミュージックだし、まとまりの良さはあまりにもイギリス的。ニュー・オーダーやベースメント・ジャックスがベース・アルバムをつくったら、きっとこんな感じになることでしょう。

 ゴリラズやギル・スコット・ヘロンにも飛び火したUKベースは、ゾンビーの2作目やサブトラクトからアフリカ・ハイテック、クルードスン、アンチ-Gと広範囲にクロスオーヴァーを進め、ナイト・スラッグスを運営するジェイムズ・コノリーのデビュー作はまっすぐそこに着地した。同レーベルからはガール・ユニットやエジプトリックスといったUKガラージの変化球を送り出し、マッド・ディセントでは爆笑モードを展開してきた人物なので、何を軸にしている人なのかいまひとつ掴めなかったのだけれど、人工と自然を刺し違えたようなタイトルとデザインの交錯が楽しい『ネオン・ドリームス』は、ナイト・スラッグスからの先行シングル「フォーエヴァー・ユー」に導かれるようにして全体的にはガラージ王道のつくりとなったのである。シンプルでストレートもいいところというか、ロック的な刹那さとはどこかで距離があり、これもシンセ-ポップ・リヴァイヴァルの一環だとすると、1980年前後にジノ・ソシオやフリーズが発揮していたファッション性と同調するものがあり、アディーヴァやヤズなどセカンド・サマー・オブ・ラヴのイントロダクションとして数限りなく消費したダンス・ポップも髣髴とさせる。もしか...しなくても、新たな時代の「フェアプレイ」を生み出そうというつもりなのだろう。新たにシングル・カットされた「ロスト・イン・ラヴ」ではジェイヴィオン・マッカーシーがクールにラヴ・ソングを歌い上げる。

 過剰な切なさと儚いムードの探求は主にニック・フックとの共同作業から導かれている。微妙なニュアンスを散りばめた「ザ・ビーチ」に、ミニマルな装飾で最大限の効果を上げようとする「アイ・フィール・イット」など、まるでハウス・ミュージックの誕生に立ち会い直しているような気分の曲が前半を占め、TTCのテキ・ラテックス(現サウンド・ペリグリーノ)とパラ・ワンを迎えてパリで共作された3曲が中盤でそれらを横切るようにして差し挟まれる。とはいえ、テキ・ラテックスもかつてのコミカルなイメージではなく、これも切ないヴォーカルに徹するなど、全体のイメージを裏切るようなことはない。どこにも何も残さない「フィール・ザ・ヴォイド」。ファッションとして一瞬で消費される覚悟はできている。あいつがこんなに2枚目でいいんだろうか...。

 どこまでもロマンティックで虚無的。ある種の無力感はここで救われるような気がしないでもない。それこそフクシマを忘却するために、これほどよくできた装置はないだろう。「エヴリワン・ニーズ・ア・テーマ・チューン」が話題のジュリー・バッシュモアも「ワン・モア・デイ」でフィーチャーされている。

三田 格