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Home >  Interviews > interview with Big Thief (James Krivchenia) - USフォーク・ロックの至宝による壮大なる傑作

interview with Big Thief (James Krivchenia)

interview with Big Thief (James Krivchenia)

USフォーク・ロックの至宝による壮大なる傑作

──ビッグ・シーフ、インタヴュー

質問・文:木津毅    取材・通訳:坂本麻里子  photo: Alexa Viscius   Feb 14,2022 UP

 ミュージックのなかにはマジックがある──以下のインタヴューで、そうまっすぐに話す人物がプロデュースを務めていることは、間違いなくこのアルバムの美点であるだろう。異なるパーソナリティを持つ人間たちが集まって、それぞれの音を重ねていくことの喜びや興奮を「魔法」と呼んでいること自体が、ビッグ・シーフというバンドの魅力をよく表している。
もはや現在のUSインディ・ロックを代表するバンドと言っていいだろう、ビッグ・シーフの5作目となる『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』は、もともとエンジニアでもあったドラムのジェイムズ・クリヴチェニアが全編のプロデュースを務めた2枚組全20曲のアルバムだ。ニューヨーク州北部、コロラドのロッキー山脈、カリフォルニアのトパンガ・キャニオン、アリゾナ州ツーソンとレコーディング場所を4か所に分けて録音されたが、2019年の『U.F.O.F.』『Two Hands』のように音楽性を分けてリリースすることはなく、それこそビートルズのホワイト・アルバムのように雑多な音楽性が一堂に集められた作品になっている。ベースはフォーク・ロックにあるとは思うが、アメリカの田舎の風景が目に浮かぶような長閑なカントリー・ソングから、空間的な音響を効かせた静謐なアンビエント・フォーク、シンセとノイズを合わせたアブストラクトなトラック、パーカッションが耳に残るクラウトロック風の反復、そしてギターが荒々しく鳴るロック・チューンまで……曲のヴァリエーションそれ自体が面白く、なるほどビッグ・シーフというバンドのポテンシャルを十全に発揮したダブル・アルバムとまずは位置づけられるだろう。
 だが特筆すべきは録音である。まるで4人が間近で演奏しているかのような生々しいタッチがふんだんに残されており、呼吸の震えを伴うエイドリアン・レンカーの歌唱もあって、アンサンブルがまるで生き物のような温度や振動を携えているのである。アコースティック・ギターの弦の細やかな震えが見えるような “Change”、ノイジーなギターが奔放に咆哮し歌う “Little Things”、ドラムのリズムの揺れが不思議な心地よさに変換される “Simulation Swarm”……オーガニックという言葉では形容しきれない、揺らぎが生み出す迫力がここには存在する。
 そしてそれは、ビッグ・シーフがタイトな関係性によって成り立っているバンドだから実現できたものだと……、どうしたって感じずにはいられない。そもそもエイドリアン・レンカーとバック・ミークという優れたソングライター/ギタリストを擁するバンドであり、実際、ふたりは見事なソロ作品をいくつも発表している。けれども、サウンド・プロダクションにおいて重要な最後の1ピースであったジェイムズ・クリヴチェニア(彼もアンビエント/ノイズ寄りのソロ・アルバムを発表している)がいたことで、ビッグ・シーフはソロではないバンドが生み出しうる「マジック」を明確に目指すことになったのだ。このインタヴューでクリヴチェニアは技術的なこと以上に感覚的な説明を多くしているが、そうした抽象的なものを追求することがこのバンドにとって重要なことなのだろう。

 エイドリアン・レンカーが描く歌詞世界はどこか空想がちで、だから社会からは少し離れた場所で4人のアンサンブルは成立している。そこで見えるのはアメリカの自然の風景だけではない。動物たちが生き生きと動き回れば、想像のなかでドラゴンだって現れる。そして彼女は生や死、愛について考えて、仲間たちとそっと分かち合う。
 だからきっと、重要なのは魔法が存在するか/しないかではない。ビッグ・シーフは、魔法がこの世界にたしかに存在すると感じる人間の心の動きを音にしているのだ。

僕たちは全員リズムが大好きだし、リズムにグルーヴして欲しいと思ってる。それくらい、リズムには敏感なんだ。

『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』を聴きました。バンドにとっても現在のシーンにおいても今後クラシックとなるであろう、本当に素晴らしいアルバムだと思います。

ジェイムズ・クリヴチェニア(以下JK):(笑)わあ、素敵だな。ありがとう! 感謝!

(笑)。まずは制作のバックグラウンドについてお聞きしたいです。日本でのライヴを本当に楽しみにしていたのでパンデミックによってキャンセルされたのは残念だったのですが──

JK:うん。

坂本(以下、□):まあ、仕方ないことではあります……。

JK:(苦笑)

ただ、ツアーがなくなったことで制作に集中できた側面もあったのでしょうか?

JK:そうだね、僕たちからすればあれは本当に……自分たちだけじゃなく多くのミュージシャンにとっても、あの状況には「不幸中の幸い」なところがあったな、と。あれで誰もが一時停止せざるをえなくなったし、でもおかげで自分たちが過去5年ほどの間やってきたことを振り返ることができた。で、「うわあ……」と驚いたというのかな。じつに多くツアーをやってきたし、すごい数の音楽をプレイしてきたわけで、要するに、いったん立ち止まってじっくり考える余裕があまりなかった(笑)。それが今回、少し落ち着いて理解することができたっていうね、だから、「……ワオ、僕たちもいまやバンドなんだ。れっきとした『プロのミュージシャン』じゃん!」みたいな(照れ笑い)? とんでもない話だよ。それもあったし、あの時期の後で──だから、この状況はそう簡単には終わらない、長く続きそうだぞ、と僕たちがいったん悟ったところで、「みんなで集まろう。この間にいっしょに何か作ろうよ」ってことになったというかな。完全に外と接触を断ち、各自のウサギの穴にこもったままじっと待つのではなくてね。この時期が過ぎるまでただ待機していたくはなかったし、とにかく自分たちにやれることを利用しよう、少なくとも僕たちはバンドとして集まれるんだし、みんなで顔を合わせて音楽を作ろうよ、と。携帯画面をスクロールして、破滅的なニュースを眺めながら「ああ、なんてこった……」と滅入っているよりもね。というのも、パンデミックとそれにまつわるすべてに関しては、僕たち自身にコントロールできることにも限界があるわけだし、だったら音楽を作ろうじゃないか、と。

この2年には、エイドリアン・レンカーさんの『songs / instrumentals』とバック・ミークさんの『Two Saviors』と、メンバーの素晴らしいソロ・アルバムがリリースされています。『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』の制作に影響を与えることはあったのでしょうか。

JK:うん、絶対にそうだろうと僕は思う。とは言っても、それは必ずしも直結した影響であったり、言葉で簡単に言い表せる類の因果関係ですらないのかもしれないよ。ただ、バンド以外のところで誰もがそのひと自身の何かをやれるスペースを持っているということ、そしてバンド側にも彼らに対する信頼、そして自由を容認する余裕がじゅうぶんにあることは……そうだな、たとえばエイドリアンがソロ作を作りたいと思うのなら、イエス、彼女はやるべきだろう、僕もぜひ聴きたい、と。要するに、(パニクった口調で)「えっ、そんなぁ! 彼女がビッグ・シーフのアルバムを作りたくないって言い出したらどうしよう??」ではなくてね。僕もビッグ・シーフというバンドが好きでケアしてくれる人と同じで、レコードでとある楽曲を発表して、「これを彼女がソロ作でやっていたとしたら?」なんて考えるわけだけど──でも、そこでハタと気づくっていうのかな、それでも構わないじゃないか、と(苦笑)。これらの、僕たちがそれぞれにバンド以外の場で個人として重ねる経験は、じつのところバンドにとって非常にいい肥やしになっている、みたいな。おかげで、このバンドのスペシャルなところにも気づかされるし、かつ、たぶんバンドではやれなさそうなことを実践する柔軟性ももたらされるんだろうね。(苦笑)それでもOKなんだよ、だって、僕たちがお互いの音楽人生におけるあらゆる役割を果たすのはどだい無理な話だから。その点を受け入れるってことだし……うん、僕たちはいっしょにバンドをやっているけれども、と同時に個人でもある。それはいいことだ。

『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』はまず、ジェイムスさんが全体のプロデュースを務めたことが大きなトピックかと思います。前作までと今回で、あなたの役割や行動で大きく変わった点は何でしょう?

JK:そうだな……今回僕がこうプロデュースしたいと思った、「たぶん僕たちはこんな風にやれるんじゃないか?」というアイデアを抱いた、その理由の多くは、こう……自分たちの前作レコーディングでの経験を理解・吸収していってね。そうやって、「このやり方は自分たちには効果的みたいだ」、「こうすれば自分たちは気持ちよく作業できる」、「これくらい時間をかければいいらしい」といった具合に状況を眺めていたし、そうした自分のリアクションの数々はクリエイティヴ面で実りあるもののように思えた。で、そんないわば「舞台裏」の知識、僕自身がバンドの一員として現場で目にしたあれこれがあったおかげで、「あ、たぶん自分には、僕たち全員がいい気分でやれる場をセットアップできるぞ」って手応えを感じた。かつ、フレッシュで新しくも感じられる状況をね。というのも、誰もがちょっと脇道に逸れていろいろと探りたがっているのは僕も承知していたし、でも、これまで時間の余裕がなかった。それだとか、やりたい曲があっても「いや、それはちょっと……」とダメ出しが出たりね。他と比べて異色だからとか、カントリー過ぎるとか、ヘヴィ過ぎるなどなどの理由で。だから、ヘヴィな曲はここ、カントリーな曲はあそこ、という風にそれらの分のスペースをとっておくのはどうかな? と考えた。とにかく場所を作り、エイドリアンのいつもとは違う曲の書き方だったり、僕たちがいっしょに演るときの様々なプレイの仕方、それらのもっと幅広いレンジを捉えてみよう、と。と同時に、ちょっと失敗しても大丈夫なくらいの余裕も残そうとしたよ(苦笑)。及第点に達さなくても気にしない、とね。

レコーディング・セッションを4か所に分けたのは、実験的だと思いますし、エンジニアとウマが合わない危険性だってありましたよね?

JK:(苦笑)ああ、うん。

でも、この制作スタイルをとったのは、録音する土地から何か影響を与えられるからでしょうか?

JK:うん、間違いなく……そこだろうね。実験的な側面がたしかにあった。とは言っても、何も「奇妙な音楽を作ってみよう」って意味での「実験」ではないけどね!

(笑)ええ、もちろん。

JK:ただこう、これは実験だし、うまくいかないかもしれないって感覚はあった。どうなるか試してみたい、と僕たちは好奇心に駆られていたんだと思う。録る場所、そして各エンジニアの作る異なるサウンドには、こちらとしても非常に反応させられるものだから。で、そこで起きるリアクションのなかに実際、バンドとしての僕たちの強みのひとつ、自分たちのやっていることにちゃんと耳を傾けられるって面があるんじゃないかと僕は思ってる。僕たちは自分たちの音楽が好きだし、だから何が共鳴するのか分かるっていうのかな、内的な反応が生じる。「おっ! このひとがレコーディングすると、僕たちの音はこんな風になるんだ。面白い!」とか、「興味深いな、たぶんもっとこれを掘り下げられるんじゃない?」と。で、それを4人の人間がそれぞれにやれるのは、バンドとして様々なリアクションがある、ということでね。たとえば、メンバーの誰かは「フム、これは生々しい(raw)、うん、エキサイティング!」って感じるし、一方で別のひとはもっとこう、そこで音響面で違和感を覚えて「ここはもっと探っていかないと……」と感じる、みたいな。とにかくそうやって、僕は異なるリアクションを引き出そうとしていった。というのも、僕たちは各自が好き勝手にやっていて、「あー、他の連中も何かやってるな」と看過するんじゃなく、お互いにとても反応するバンドだからね。しっかり耳を傾けている。だから、いい箇所があると「そこ、気に入った! いいね!」ってことになるし、逆に「この曲はうまい具合に進んでない。何か他のものが必要じゃないか」ってときもあって。

楽曲をぶつかり合わせ、コントラストを生むことである種の深みを作りたい、と。古典的な、「アルバム」に必要とされるひとつの一貫したソニック体験というか──「完璧で破綻のない35分くらいの経験」みたいなもの、それにさよならする、という。

カリフォルニア、ニューヨークなど、多彩なロケーション/環境で制作されましたが、どのような影響をレコーディングした土地から受けましたか?

JK:大きく影響されたと思う。でも、たぶん……「ここではこれを」といった具合に、それぞれの土地環境に特定の狙いを定めてはいなかったんじゃないかな? 僕たちにとってはそれよりも、各地に違いがある、それ自体がいちばん重要だった。だから、実際に違うわけだよね──砂漠に囲まれた暖かな土地で、いままでと違う相手とレコーディングしたこともあったし、一方で、たとえば(コロラドの)山岳地帯に行ったのは冬で、おかげでものすごく外部から隔離されていた。だから、各地におのずと備わった違いの方が、「これはここで録らなくちゃいけない。あれはあそこじゃないとダメだ」的な考えよりも大事だったんじゃないかと。ある意味、僕たちに新鮮と感じられる場である限り、どこでやってもよかったっていうかな? というのも、レコーディング作業に取り組んでいる間だけじゃなく、僕たちはその場に溶けこんで暮らしていたわけだし──たとえばニューヨーク上州で録っていた間は、朝起きると散歩に出かけ、その日の空模様に反応したり。だから、確実に場所/環境には強く影響されたと思うけど、それは具体的に「ここにこう作用した」と指摘しにくい何かだ、みたいな?

はい。

JK:と言っても、僕たちが求めていたのもそこだったんだけどね。だから、寒いし、表も暗いっていうレコーディング環境と、対してすごく暑くて、全員シャツを脱ぎ捨てて汗だくでプレイする、そうした対照的な状況下では、自分たちのプレイだって確実に変化するだろう、と(笑)。

(笑)暑いと、もっとリラックスできるでしょうしね。

JK:(笑)うんうん。

本作のコンセプトを提案したのはジェイムスさんだそうですが、なぜ今回のアルバムでは多様な音楽性をひとつのアルバムに集約することが重要だったのでしょうか? たとえば『U.F.O.F.』と『Two Hands』のように、音楽性で分けることは選択肢になかったのでしょうか。

JK:ああ、なるほど(笑)。そうだな……僕は個人的にぜひ、自分たちの音楽に備わった異なるスタイル、それらがすべて等しく共存したものをひとつの作品として聴いてみたいと思っていた。だから、僕たちはバンドであり、かつエイドリアンはこれらのいろんなムードを備えたソングライターでもある、その点をもっと受け入れようってことだね、何かひとつのことに集中したり、「これ」というひとつの姿を追求するのではなく。それよりも、それらを丸ごと捉えることの方にもっと興味があったし、そうやって楽曲をぶつかり合わせ、コントラストを生むことである種の深みを作りたい、と。それによってある意味……んー、いわゆる古典的な、「アルバム」に必要とされるひとつの一貫したソニック体験というか──「完璧で破綻のない35分くらいの経験」みたいなもの、それにさよならする、という。それよりもっとこう、とにかくごっそり曲を録ってみようよ、と。結果、もしかしたら3枚組になるかもしれないし、1枚きりのアルバムになるのかもしれない。ただ、作っている間はどんな形態になるかを考えずに、僕たちはやっていった。それよりもとにかく、たくさんプレイし、たくさんレコーディングしようじゃないか、その心意気だった。その上で、あとで編集すればいいさ、と。4ヶ月の間、あれだけ努力すれば、そりゃきっと何かが起きるに違いない(苦笑)、そう願っていたし、その正体が何かはあまりくよくよ気にせずとにかく進めていった。何であれ、自分たちがベストだと思う組み合わせを信じよう、そこには僕たちを代弁するものが生まれるはずだから、と。

本作はロウ(raw)な音の迫力が圧倒的なアルバムですよね。たとえば先行曲 “Little Things” の野性的なギター・サウンドが象徴的かと思いますが、このアルバムにおいて、ある種の音の生々しさや激しさはどのようなアプローチで追求されたのでしょうか?

JK:思うに、ああしたロウさ、そして自然な伸びやかさの多くはほんと、練習のたまものだというか、長年にわたり培ってきたものなんじゃないかな。自分たちがこつこつ積み重ねてきたものだっていう感覚があるし、じょじょに気づいていったというか……だから、アルバムを作るたびに「うおっ、これだよ、最高じゃん!」みたいに思うんだ(苦笑)。要するに、過去に作ってきたアルバムのなかでも自分たちのいちばん好きなものっていうのは、少々……何もかもがこぎれいにまとまった、オーヴァーダブを重ねて完璧に仕上げた、そういうものじゃなくて、少々ワイルドな響きのものが好きでね。“Little Things” だと、あの曲でのバックのギターの鳴りはクレイジーだし、どうしてかと言えば──実際、ある意味クレイジーな話だったんだよ。というのもあのとき、彼はまだあの曲をちゃんと知らなかったから。エイドリアンが書いたばかりのほやほやの曲だったし、彼はそれこそ、曲を覚えながら弾いていたようなもので、そのサウンドがあれなんだ! だからエキサイティングな、違った響きになったし、いつもなら彼はちゃんと腰を据えて(落ち着いた口調で)「オーケイ、わかった、こういうことをやるのね、フムフム」って感じだけど、あのときはもっと(慌てた口調で)「えっ、何? この曲をいまやるの?」みたいなノリだったし(笑)、僕が惹かれたのもそういうところだったっていうか。ずさんさやミスも残っているけど、と同時に自由さが備わっている、という。

なるほど。その話を聞いていて、ニール・ヤングのレコーディングのアプローチが浮かびました。たしか彼もよく、きっちりアレンジを決め込まずに録音したことがあったそうで。ある意味、最終型がわからないまま、レコーディングしながらその場で曲を探っていくっていう。

JK:(苦笑)ああ、うんうん!

ただ、その探っていく過程/旅路が音源にも残っていて、そこが私は好きです。

JK:うん、すごくこう、「(他の音に)耳を傾けながら出している」サウンドだよね。その曲をまだちゃんと知らなくて、しかも他の連中がどんな演奏をするかもよくわからない、そういう状態だと──やっぱり、自動操縦に頼るわけにはいかないよ(笑)。次にどうなるかつねに気をつけなくちゃいけないし、お互いに「次のコースが近づいてる?」、「だと思うけど?」、「あっ、そうじゃない、違った!」みたいに(苦笑)確認し合うっていう。

自分の音楽的な反射神経・筋肉を使って反応する、という感じですね。

JK:うん、そう。

そうやって他のメンバーの音をしっかり聞きながら、いろんなヴァイブをクリエイトしていく、と。

JK:イエス、そうだね。

質問・文:木津毅(2022年2月14日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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