「Not Waving」と一致するもの

Rashad Becker - ele-king

 前作『Traditional Music of Notional Species Vol. II』(2016/〈PAN〉)から、じつに9年。現代エクスペリメンタル・ミュージックのマスタリング職人として知られるラシャド・ベッカーが、新作『The Incident』を自身の新レーベル〈Clunk〉から発表した。名エンジニアとしての多忙ぶりから、もはやアーティストとしての新作は望めないのではという見方もあった。実際、アンビエント作家シュテファン・マシューのように、創作活動を停止したエンジニアも少なくない。

 そんな中、自らのスタジオ名を冠したレーベルからの突如のリリースは、われわれリスナーにとって意外性に満ちた出来事だった。2010年代以降の尖端音楽を追ってきた者にとって、ラシャド・ベッカーはもはや “伝説” の部類に属する存在である。2025年にその新作を耳にできるという事実は、僥倖と言うほかない。しかも、そのサウンドは『Vol. II』後半からまるで自然に接続されるかのような連続性を感じさせる。彼はこの9年間、マスタリング業務の傍らでも、音に対する実験と探求を一度も手放さなかったのだ。音の実験とは、断絶ではなく連続なのだという事実を、彼は改めて示してみせた。

 不確定で非反復的な音の運動を主軸とした『Vol. I』(2013/〈PAN〉)、そこに繰り返しのリズムやモチーフが加わった『Vol. II』――そして本作『The Incident』では、再び不定形な音のうねりに、より強固な反復構造が交錯する。結果として現れる音響空間は、デヴィッド・チュードアの電子音楽『Rainforest』と、未知なる民族音楽とが交差するかのような、既視感と未視感がせめぎ合う音の迷宮だ。既知でありながら未知、馴染みがありながら異様、その矛盾を孕んだ連鎖こそが、『The Incident』の鮮烈さの核心である。

 全11曲構成の本作は、4部構成をなしているとされる。レーベル資料によれば、第1部は「情報化時代の終焉」に関する音的考察。ノイズと音が混じり合い、現実が情報によって書き換えられていく様相を音響で描くという。第2部は「言語と場所」が我々の理解に与える影響、第3部では「反響(repercussions)」をテーマに、鈍く増幅された “無関心” の状態を描写。第4部は「群衆によるドキュメンタリー・フィクション作品」を想定しているという。

 こうした主題は極めて抽象的であり、音からそれを読み取るのは難しい。しかし、SNSにおけるフェイク・ニュースや炎上といった現代社会の歪みに対し、ベッカーが問題意識を抱いていることは想像に難くない。彼にとってノイズは、情報の洪水に巻き込まれずに抵抗するためのオルタナティヴなのではないか。逸脱と闘争、そして反復――それらは現代の情報社会における “逃走線” を描く行為として響いてくる。

 以下、楽曲を順に見ていこう。まず1曲目 “Busy Ready What, Corroborators” は、軽快なリズムの反復で幕を開ける。跳ねるような電子音と歪んだノイズが交錯し、自然現象のように複雑で不思議な電子音楽が生成されていく。続く2曲目 “A Supposition Darkly” は、静謐なムードへと転じる。反復される乾いたビートが、あたかも未知の儀式を想起させる。3曲目 “Of Permanent Advent” はより厳粛な雰囲気をたたえ、架空の民族音楽のような趣を帯びる。音の間(ま)が深く、聴き進めるほどに没入感が高まる。

 4曲目 “All You Need To Know About Confusion” では音がさらに抽象化し、ミニマルな響きと微細なノイズがドローン手前の密度を形成。5曲目 “Zero Hour” はそのムードを引き継ぎつつ、中盤からリズミックな要素が加わり、音の輪郭が変容する。6曲目 “L’heure H” は、まるで自然の営みのようなノイズによる音響風景。カラカラと乾いた音が背後で心地よく響く。

 7曲目 “Stunde Null” もまた、乾いたメタリックなサウンドが打ち込まれる実験的な一曲だ。そして8曲目 “Sāʿatu Alṣṣufri” では、中東風の旋律断片がふと浮かび上がる。アルバムのハイライトともいえるこの楽曲は、儀式的ムードと圧倒的な音響空間で聴き手を包み込む。9曲目 “A Puttering Purgation” は、先の情熱的高まりを鎮めるように、再び静謐な音響へと移行する。

 10曲目 “Deadlock” ではアンビエントの要素が前景化し、インダストリアル風味の乾いた響きが漂う。そして、ラストとなる11曲目 “What Really Happened” は、本作最長の18分40秒。内的空間へと深く潜り込むような構成で、まさに「儀式音楽」とも呼ぶべき音の旅路が展開される。

 ラシャド・ベッカーのノイズはときに、現代社会における新たな「儀式」や「祝祭」の音楽として響く。筆者がふと連想したのは、意外にも灰野敬二である。音そのものは異なるが、ノイズを儀式化し、反復によって生成するという構造には、どこか通底するものを感じる。あるいは、〈モナド〉時代の細野晴臣、たとえば『Paradise View』(1985)の乾いたパーカッションや、架空の民族音楽的ムードとも共鳴する瞬間があった(もちろん、これは筆者の妄想にすぎない)。

 いずれにせよ、本作『The Incident』には、「実験音楽の先にある音の儀式」というテーマが刻まれているように思えてならない。ノイズを鳴らし、構築し、揺らぎを与え、反復させ、音楽へと昇華する。そのプロセス自体が、「ここ」でしか起こり得ない “事件=Incident” なのだ。音そのものの儀式化と、空想の民族音楽的リズムの再構築。その二重螺旋構造が生み出す、結晶のような音響作品。それが、『The Incident』なのである。

Shuta Hasunuma - ele-king

 蓮沼執太率いるオーケストラ・蓮沼執太フィルが今夏8月5日(火)、約2年ぶりとなるブルーノート東京での公演を発表。2部制での開催となる。

「現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ」掲げる蓮沼執太フィルは、管弦楽器のみならず笙、シンセサイザー、さらにはPAも参加する15名編成のプロジェクト。変則的なフォーマットでフリーフォームな活動、演奏を続けるかれらがジャズの名門として広く知られる場で、なにを披露するのかに期待がかかる。以下、公演詳細です。

蓮沼執太がコンダクトする、総勢15名による現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ“蓮沼執太フィル”が2年ぶりにブルーノート東京のステージを飾る。2010年に結成され、2014年に1stアルバム『時が奏でる』を発表。『アントロポセン』(2018年)、『symphil|シンフィル』(2023年)など意欲作をリリースし、フジロックフェスティバル2019、日比谷野外音楽堂のワンマン公演を成功に収め、オーチャードホールや東京オペラシティ等のホール公演も話題に。ライヴステージからコンサートホール、さらには銀座や六本木、京橋などの都市屋外でのパフォーマンスまで、あらゆる空間で音楽を奏でてきた彼らがジャズクラブでどんな音を響かせるのか。鬼才揃いのオーケストラとの再会が楽しみだ。

SHUTA HASUNUMA PHILHARMONIC ORCHESTRA × BNT 2025
蓮沼執太フィル × BNT 2025

〈Member〉
蓮沼執太
石塚周太(ギター)
itoken(シンセサイザー、ドラムス)
大谷能生(サックス)
音無史哉(笙)
尾嶋優(ドラムス)
葛西敏彦(PA)
K-Ta(マリンバ)
小林うてな(スティールパン)
ゴンドウトモヒコ(ユーフォニアム)
斉藤亮輔(ギター)
千葉広樹(ベース)
手島絵里子(ヴィオラ)
宮地夏海(フルート)
三浦千明(ヴォーカル、フリューゲルホルン)

〈公演日程〉
2025 8.5 tue.
1st show – 開場 5:00PM / 開演 6:00PM
2nd show – 開場 7:45PM / 開演 8:30PM

〈Music Charge〉
¥8,500(税込)
※サイドエリアL/R、カウンター以外のお席は、別途シートチャージがかかります。

〈予約開始日〉
Jam Session会員:5月25日(日) 12:00pm~ ※Web予約のみ
一般:5月28日(水) 12:00pm~ ※Web予約のみ

〈会場〉
ブルーノート東京 (東京都港区南青山6-3-16)

〈詳細ページ〉
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/shuta-hasunuma/

Ami Taf Ra - ele-king

 〈Brainfeeder〉があらたなアーティストを迎え入れた。モロッコ出身、現在はロサンゼルス拠点で活動するアーティスト、アミ・タフ・ラ。モロッコの伝統音楽であるグナワとジャズ、ゴスペルを融合させた独自のトライバル・サウンドを得意としているようだ。

 アミ・タフ・ラは〈Brainfeeder〉との契約にともない、かねてからツアーに参加するなどして親交のあるカマシ・ワシントンのプロデュースによるシングル“Speak To Us (Outro)”を公開中。タイトルに(Outro)とあるように、これはアルバムのリリースにも期待したいところ。以下、詳細です。

Artist : Ami Taf Ra
Title : Speak To Us (Outro)
Label : Brainfeeder / Beat Records
Release Date : Out Now
Format : Digital
Stream : https://amitafra.lnk.to/stu-outro

 今回新たに〈Brainfeeder〉との契約が発表されたアミ・タフ・ラは、北アフリカのモロッコ出身でロサンゼルスを拠点に活動するシンガーソングライターで、モロッコのグナワ音楽などアラブの伝統音楽をジャズやゴスペルと融合させ、高く評価されている。

 アミ・タフ・ラが契約発表にあわせて、長年のコラボレーターである伝説的サックス奏者カマシ・ワシントンがプロデュースを手がけた新曲「Speak To Us (Outro)」をクリオン・アレイが監督したミュージックビデオと共にリリースした。

 この曲は、“悟り”を求める旅が一生涯続くものであり、終わるのではなく、人生の光が強くなるにつれて深まっていくことを思い出させてくれる。〈Brainfeeder〉ファミリーの一員になれて本当にワクワクしているし、彼らがこれまで世に送り出してきた偉大なアーティストたちの系譜に加われることを光栄に思う。 ──Ami Taf Ra

 音楽を通じて文化の融合を探求し続けているアミ・タフ・ラは、自身のルーツを大切にしながら、さまざまな言語や国籍から新たな影響を取り入れ、独自のサウンドを築いている。文化の垣根を越えた融合と、アブドゥル・ハリム・ハーフェズ、ウンム・クルスーム、ワルダ、アスマハーン、ファイルーズといったアラブの伝説的ボーカリストたちの豊かな伝統に根ざしており、カマシ・ワシントンの影響により、スピリチュアル・ジャズ、アフロセントリックと呼ばれるアフリカ中心性理論、オーケストラの壮大さも融合している。

 キャリアを通じてアミ・タフ・ラは、デンマーク、トルコ、モロッコ、ベルギー、レバノン、ヨルダンなど世界中のステージで観客を魅了してきた。また、カマシ・ワシントンとのツアーにも参加しており、ハリウッド・ボウル・ジャズ・フェスティバルなどの全米の名高い会場やフェスティバルで共演を果たしている。他にも、トロンボーン奏者ライアン・ポーター、サックス奏者リッキー・ワシントン、パーカッショニストのカリル・カミングス、ベーシストのベン・ウィリアムス、ドラマーのジョナサン・ピンソン、ピアニストのジャメール・ディーンといった多彩なミュージシャンと共演してきた。この秋、アミ・タフ・ラは北米ヘッドラインツアーを開始し、9月22日にニューヨークのブルーノート公演で幕を開ける。

 アミ・タフ・ラは、音楽を通じた「つながり」と「癒し」の力に深い信念を持ち、ステージを超えて紛争や避難の影響を受けた地域社会とも関わってきた。オランダ人ミュージシャンのグループと協力し、子どもたちに向けた音楽と絵画のワークショップを開催した。その活動は子どもたちとミュージシャン、そしてアミ・タフ・ラが共演する2014年のアンマン・ジャズ・フェスティバルのオープニング・パフォーマンスとして結実した。

caroline - ele-king

 5月30日にセカンド・アルバム『caroline 2』のリリースを控えるキャロライン。初の来日公演が決定しました。東京は9月3日(水)@WWW X、大阪は9月4日(木)@BANANA HALLの2公演。総勢8名のユニークな面々はいったいどんなパフォーマンスを披露してくれるのか――新作が出たばかりという絶好のタイミング、逃すことなかれ。

caroline
ロンドンの8人組キャロライン、
2ndアルバムと共に記念すべき初来日ツアー決定!
襲い来る陶酔のノスタルジアに完全包囲される夜。


Designed by Sho Hanafusa

TOKYO - 2025.09.03(WED) - WWW X
OSAKA - 2025.09.04(THU) - BANANA HALL

先行リリースされた1stシングル「Total euphoria」に続く、キャロライン・ポラチェックをフィーチャーした2ndシングル「Tell me I never knew that」でインディー・ロック・ファンの心を鷲掴みにし、既にザワザワが拡がりを見せていたロンドン拠点の8人組キャロライン。新世代UKインディーズの中でも最も亜流に位置するマニアックなバンドと思われていた彼らが2ndアルバム『caroline 2』を5月30日に遂に放つ。1stシングルでありアルバムの幕開けを飾る「Total euphoria(完全なる幸福感)」のタイトルそのままにブッ飛んだ傑作の誕生だ。寄せては返す永遠のリフレイン、襲い来る陶酔のノスタルジア、気付いた時には彼らの音に完璧に包囲されているのだ。そして遂に記念すべき初来日ツアーも決定!もう出来ることはライブの衝撃を待つのみ。これは是非ライブで体験を!

彼らの次のアルバムは傑作だ。(自分が参加した)この曲は困惑するほど美しいパズルの1ピースに過ぎない。
- キャロライン・ポラチェック

caroline Japan Tour 2025
TOKYO - 2025.09.03(WED) - WWW X
OSAKA - 2025.09.04(THU) - BANANA HALL

OPEN 18:00 / START 19:00
前売:8,000円 (税込 / 別途1ドリンク代 / オールスタンディング) ※未就学児童入場不可

【チケット詳細】

先行発売:
BEATINK主催者先行:5/19(mon)18:00 (※限定枚数・先着、Eチケットのみ)
イープラス・プレイガイド最速先行受付:5/21(wed)10:00~5/25(sun)23:59 (抽選)
LAWSONプレリクエスト(大阪のみ):5/26(mon)12:00~5/27(tue)23:59 (抽選)

一般発売:5月31日(土)10:00~

《東京公演》
イープラス
LAWSON TICKET
BEATINK
INFO: BEATINK 03-5768-1277 www.beatink.com

《大阪公演》
イープラス (pre:5/26-27)
チケットぴあ
LAWSON TICKET
BEATINK
INFO: SMASH WEST 06-6535-5569 https://smash-jpn.com/

公演詳細ページ: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15067

label: Rough Trade Records / Beat Records
artist: caroline
title: caroline 2
release date: 2025.05.30.
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14915

国内盤CD
(解説書・歌詞対訳付き/ボーナストラック追加収録)
輸入盤CD
輸入盤LP
国内仕様盤LP
(数量限定/ブラック・ヴァイナル/日本語帯付き/解説書・歌詞対訳付き)
国内盤CD+Tシャツ
国内仕様盤LP+Tシャツ

Tracklist
01. Total euphoria
02. Song two
03. Tell me I never knew that (ft. Caroline Polachek)
04. When I get home
05. U R UR ONLY ACHING
06. Coldplay cover
07. Two riders down
08. Beautiful ending
09. _you never really get that far_ (Bonus Track for Japan)
10. Before you get home from the club bathroom (Bonus Track for Japan)

国内盤CD + Tシャツセット

日本語帯付きLP + Tシャツセット

CD

ブラック・ヴァイナル

日本語帯付きLP

※商品写真と実際の商品は異なる場合がございます。

rural 2025 - ele-king

 独自のバランス感覚で電子音楽にフォーカスした野外フェスを続ける〈rural〉が、去年に引き続き福島・沼尻高原を舞台に7月18日(金)から4日間にわたって開催される。
 国内外から総計39組ものアクトを招聘し、PhewによるライヴやOCCA、YAMARCHY、悪魔の沼などによるDJセット、ローカル・アクトにも通好みの信頼できるアーティストが勢揃い。ミニマルに、グルーヴィに、アブストラクトに、4日間のなかで沼尻高原の豊かな自然のなか、思い思いに素敵な音の旅を楽しめることでしょう。以下、詳細です。

rural 2025
7月18日(金)〜21日(月)
開場: 12:00、開演: 15:00、終演: 18:00
会場:nowhere CAMP, Fukushima (福島県耶麻郡猪苗代町大字蚕養字沼尻山甲2864)

LINE UP :
Akey
Akie
Amelia Holt
Atsushi Maeda
CHIDA & Manfredas - Solo + B2B Set
Cosmo
DJ Healthy
DJ HISUI
DJ KURI
ENA - Live
Erika - Live
Ginger Coven (Erika, Mareena, Resom)
illrinai
Innerworld
Inqapool - Live
Jane Fitz
KABUTO
Konstantin
Lily
Mareena - UNRUSH set
Nao
OCCA
olevv
Oscar Mulero
Phew - Live
Qmico
Resom
SAITO
Santaka + Yuki Nakagawa - Live
Takaaki Itoh & DJ Yazi
teppei
Toner
YAMARCHY
YANNY
YELLOWUHURU
ZUNDOKO DISCO
悪魔の沼 / Akuma No Numa
鏡民 / Kyomi

Ticket Price / チケット料金:
・全日券 / Full Days Entrance Ticket
Category5 / 25,000円 – 4枚以上の購入で1枚につき1,000円割引
25歳以下 / U25 Ticket / 14,000円
東北割 / Tohoku Region Discount / 17,000円

・3日券 / 3Days Ticket(7月19日(土)12:00開場)
Category5 22,000円 – 4枚以上の購入で1枚につき1,000円割引

・駐車場&キャンプチケット / Parking & Camping Ticket
場内駐車券 / On-site Parking Ticket / 7,000円
場外駐車券 / Parking Ticket / 4,000円
キャンプ券 – テント1張り/ Camping Ticket for 1 Tent / 4,000円
オートキャンプ券 – 車1台とテント2張り/ Auto-camp Ticket for 1 car and 2 Tents / 20,000円
└追加の駐車券1台 / Extra 1 Car / 8,500円
└追加のテント券 1張り/ Extra 1 Tent / 5,500円

野外フェスティバル rural 2025 は、去年に引き続き沼尻高原「nowhere CAMP」を舞台に、国内外それぞれの地域におけるテクノ、ハウス、実験音楽、またそれらを横断するシーンで際立った活動を続けるアーティストたちを招いて、7月18日(金)〜21日(月)の4日間の日程で開催をいたします。

前回もご好評頂いた福島県沼尻の温泉地帯に位置する温泉施設が隣接する会場で開催される本イベントには、今年もアウトドアステージとインドアステージにサウンドシステムを設置。海外から13組、国内から26組の総計39組のアーティストを招聘します。

今年はスパニッシュテクノの礎を築き、現行テクノシーンの生きる伝説とも形容される Oscar Mulero、ruralと長年にわたって深い関係性を築いてきた世界有数の稀有なセレクター、Jane Fitz がソロセットで登壇を予定。さらに〈The Bunker NY〉の創設者による特別なオファーによって誕生したスペシャルユニットGinger Coven(Erika、Mareena、Resom)の日本初公演が決定しており、各メンバーによるソロセットも披露されます。

加えて、ジャーマンミニマルの歴史の中で燦然と輝く〈Giegling〉共同創設者である Konstantin や、リトアニアを拠点にラジオDJからキャリアを始めた鬼才でありIvan Smagghe とのDJデュオ Dresden の片割れとして広く知られる Manfredas が 日本を代表するセレクター CHIDA とのB2Bとソロセットで出演。また今回Manfredasは、ドラマーのMarijus Aleksaと組むライブバンド Santakaとしての出演も決定しており、チェリストのYuki Nakagawa(KAKUHAN)とコラボレーションした一夜限りのスペシャルなユニットの演奏が初披露される予定です。

他にも、韓国出身のバイナルDJの Cosmoやニューヨーク拠点の稀有なセレクター Amelia Holt、〈PACIFIC MODE〉を主宰しニューヨークと東京のシーンを繋ぐDJ Healthy、近年益々勢いを増すインドのエレクトロニックミュージックシーンからは Innerworld と注目のグローバルアクトが名を連ねます。

国内シーンからは、日本電子音楽黎明期から現在に至るまで活動を続ける Phew によるライブセット、カルト的な人気を誇る屈指のディガートリオ 悪魔の沼 に加えて、緻密な国産ハードテクノミュージックの代表格であるTakaaki Itohと圧倒的な技術力と信頼で世界の舞台にまで上り詰めたDJ YaziがB2Bセットで登壇。他にもアブストラクトベースミュージックの雄として世界で活躍するENAによるライブセット、世界最高峰の舞台でも認められるミニマルグルーヴの旗手KABUTO、近年世界中の名門クラブ/フェスティバルからの指名も相次ぐ OCCA、YAMARCHY が登場。ZUNDOKO DISCO や Akieら注目のアーティストたちも再びruralに帰還します。他にも多数のそれぞれの地域で信頼の厚いローカルDJたちが登壇を予定しています。

東北の美しい山々と湖に囲まれた沼尻高原は、日本百名山のひとつ安達太良山の麓に位置し、敷地内にある沼尻高原ロッジでは源泉かけ流しの温泉を楽しめるほか、フロアとのアクセスも良い場所で快適にキャンプを楽しんでいただける会場です。去年に引き続きレンタルテントやオートキャンプサイトもご用意しておりますので、キャンプ初心者の方やフェスに身軽に参加したい方はこちらをご利用ください。また会場近くには幾つかの提携宿があり、中ノ沢温泉エリアと会場間はシャトルバスを運行予定。会場へは車で都内から約3時間半程度、渋谷から出発するツアーバスは約4時間で会場へと到着します。

他にも、選りすぐりのフェス飯出店や地元の銘酒、クラフトビールを取り揃え、普段とは違った贅沢な音楽体験を楽しんでもらえるよう準備を進めています。都会の喧騒から離れて、大自然に囲まれた環境で楽しむ電子音楽の祭典で、今年もお会いしましょう。

その他の詳しい情報はruralオフィシャルサイトをご確認ください。

https://ruraljp.com/

 デイヴィッド・リンチは、ポップ・ミュージックの秘めたる威力をよくわかっていた映画監督である。それが無防備なリスナーのなかに入ると、やがては禁じられた欲望に火を点けて、ときにその人の人生に深刻な影響を与えてしまう。ゆえに、ササクレだった言葉ややかましい音響などではない、相手を警戒させないポップ・ミュージックこそ危険になりうるのだ。 『ブルーベルベット』で挿入されるロイ・オービソンの “イン・ドリームス” を思い出してほしい。映画的異化効果は、平凡な日常品、たとえば部屋の照明やドアノブなどを突然不気味なものに変えてしまう。同じように、他愛のないポップソングこそが見せ方によっては深い意味を持ちえるものなのだが、それを、つまり異化効果を音楽それ自体において高めることもできる。すなわちテクスチュア(質感)に注力するかどうか、その要素があるかないか──初期のヴェイパーウェイヴがわかりやすいかもしれない。テクスチュアを持った楽曲は、それがどんなに凡庸なラヴソングであったとしても違って聞こえる。普通だと思っていたものが奇妙に聞こえる。

 テクスチュアを聞かせるポップソングのことを現代ではドリーム・ポップと呼んでいる。リフやメロディやリズムではない、テクスチュア。そのルーツにあるのが、コクトー・ツインズでありディス・モータル・コイル(あるいはA.R.ケイン)だ。デイヴィッド・リンチが『ブルーベルベット』で使用したかった曲は、ディス・モータル・コイルのファースト・アルバムの2曲目、 “Song to the Siren” だったことは有名な話である。ヘロインの過剰摂取により28歳で夭折した唯一無二の声を持つ歌手、ティム・バックリーの1970年のアルバム『Star Sailor』に収録された、セイレーン神話──ホメロスの叙事詩に登場する、人間を死へと誘う魔性の歌声をもつ妖女──に着想を得たこの曲を、1984年にリリースされたUKの〈4AD〉というレーベルの金字塔の1枚、『It'll End in Tears』のなかで歌ったのは、ほかでもない、コクトー・ツインズのエリザベス・フレイザーだった。

ディス・モータル・コイルの当時の日本盤では“Song to the Siren”が “警告の歌” なる邦題という、「Siren」を妖女ではなく「サイレン」だと誤謬している。いかにTMCやコクトー・ツインズが日本で理解されていなかったかを物語っている実例だ。

 エレクトロニック・ミュージックを好きなリスナーがドリーム・ポップを好むのは、エレクトロニック・ミュージックの多くがテクスチュアの音楽であるからだ(ザ・ケアテイカーを思い出そう)。エレクトロニック・ミュージックを好きなリスナーがフィル・スペクターやジョー・ミークに関心を示すのも、彼らの人工的に脚色されたサウンドにはテクスチュアへの渇望があるからだ。まあ、エレクトリック・ギターにおけるエフェクターだってテクスチュアを生んではいるけれど、曲全体にそれがなければドリーム・ポップとは言えない。
 90年代のなかばだったか、三田格から「いまコクトー・ツインズを聴くとすごくいいぜ」と言われたことがあるが、それはじつに理にかなった話で、コクトー・ツインズは、そのテクスチュアにおいて、つまり何を歌うかよりも、そのサウンドをどう響かせるのかには注力した先駆的バンドのひとつで、しかもその恍惚とした音響はあたかも天上の音楽を想わせた。エレクトロニック・ミュージックがもっとも勢いのあったその時代、ドリーム・ポップの始祖と再会するのは時間の問題だったのだろう。当時の〈4AD〉がコクトー・ツインズにとっての相応しい音響を求めてアンビエント作家のハロルド・バッドと組ませて1枚のアルバム、『The Moon And The Melodies』を作ったということは、アイヴォ・ワッツ=ラッセル(*)に30年後の音楽が見えていたとは言わないまでも、感覚としては未来を感知していたことになる。

 さて、「株主資本主義とクレジットカード、規制緩和による見せびらかし消費が傲慢に跋扈する80年代末期」──ゴスの歴史をみごとに描いた『魔女の季節』の著者、キャティ・アンスワースにいわく「異界の気配を喚び起こす術を身につけていた」コクトー・ツインズは、スコットランドのフォルカークなる町にて、1979年、まだ十代だった男女によって誕生した。産業革命のとき重工業で栄えた運河の町で、1970年代以降は製油業の拠点となり、やがて巨大な石油化学コンプレックスとなった、アンスワースにいわく「誰にも愛されず、美しさとも無縁な土地」から、やがてこの世のものとは思えないと評された声と天上のサウンドを持つドリーム・ポップが生まれたという事実には、このスタイルの本質を知る手がかりがある。
 その霧深さゆえに神秘的で、容赦なくリスナーを異界へと連れ去ってしまうコクトー・ツインズは、既述したようにのちにドリーム・ポップと呼ばれるスタイルの大いなる始祖とされているが、フレイザーの、気体のような歌声をもったサウンドを現代ではエーテル(英語読みすれば「イーサー」)系ないしはイシリアル・ウェイヴともタグ付けされている。「イシリアル(Ethereal)」の語源、古代ギリシャ語では「上空の澄んだ空気」や「神の住む天の領域」を意味するそうだ。コクトー・ツインズの──何を語っているのかではなく、どのようなテクスチュアで語るのか、どのように響かせるのかというアプローチには、大衆音楽におけるオルタナティヴな可能性が広がっていた。それはよく言われるように、詩を書くよりも絵画を描くことに近い。(**)

 軽く説明しておこう。ディス・モータル・コイル、「この死すべき肉体/この儚き現世」なる詩的な名前を持つコレクティヴは、80年代なかばの〈4AD〉、つまりワッツ=ラッセルが仕組んだ企画もので、言うなればレーベルの才能を結集させたプロジェクトだった。コクトー・ツインズのフレイザーとロビン・ガスリーの2人、そして、もうひとりの重要メンバー、60年代にはダスティ・スプリングフィールドやウォーカー・ブラザーズらと仕事をしていた作曲家/編曲家の父を持つ音楽人、ベガーズ・バンケットのレコード店で働いていたサイモン・レイモンド。『It'll End in Tears』の1曲目“Kangroo”では、20年後には〈エディション・メゴ〉から作品を出すことになる若きシンディトークが歌っているが、その曲──ドラッギーな熱狂的な夢、ワッツ=ラッセルの説明よれば「ヴェルヴェッツの “ヘロイン” とシド・バレットを足して二で割った曲──のレイモンドによるベースラインを聴いたら、数年後の『ツイン・ピークス』のあの有名な “Fallin” を連想できるはずだ。
 予算の都合からディス・モータル・コイルの“Song to the Siren”の使用を断念せざるをえなかったことで、デイヴィッド・リンチは、その代案として自ら詞を書き、アンジェロ・バダラメンティに曲を依頼し、そしてジュリー・クルーズに歌ってもらうことにした。こうして生まれた曲が『ブルーベルベット』の終盤、ジェフリーとサンディがスローダンスを踊るシーンで挿入される“Mysteries of Love” だ。当初リンチは、“Song to the Siren”の音響を模した曲を求めたが、すでに職業音楽家としてのキャリアのあるバダラメンティを起用したことで、結果、ディス・モータル・コイルにはないオーケストレーションと、そしてエーテル系ではあるがエリザベス・フレイザーとは別種の、羽の生えたような声を持つジュリー・クルーズという稀代のシンガーと巡り会えることができたのである。


Julee Cruise  Fall - Float - Love: Works 1989-1993 Cherry Red

 先日、〈チェリー・レッド〉からCD2枚組で、ジュリー・クルーズ(1956–2022)の最初の2枚のアルバムに、ボーナス曲を加えてカップリングした『Fall · Float · Love(Works 1989–1993)』がリリースされたので、この1週間はこればかりを聴いている。ジュリー・クルーズはリンチ映画の専属歌手ではなかったし、彼女にはより幅の広いキャリア(クルーズはかのB-52's にも参加)がある。しかし、ぼくのなかのクルーズは、“Mysteries of Love” がきっかけとなり、リンチ、バダラメンティとの素晴らしい共犯関係のなかで歌うクルーズであることから逃れられない。そこで生まれた名曲 “Fallin” ——このドリーム・ポップの古典は、『ツイン・ピークス』第一話の最後のほう、ロードハウス〔*物語の舞台となった町のナイトクラブ〕のステージ上で披露された。黒いレザージャケットにミニスカート、頭には黒いレザーのフラットシルクハット、一時期の戸川純ないしはマーク・アーモンドのような服装で歌うクルーズは、さながら悪夢から目覚めることがないこの世界から逃避するゴスの使徒だ。エリザベス・フレイザーの腕には「Siouxsie」というタトゥーがあった。もちろんこれはスージー・スーへの尊敬であり、だからコクトー・ツインズの、要するにドリーム・ポップがパンク・ロックとゴシックとの交差点から生まれたことの証左でもある。

 クルーズの最初の2枚のアルバム(1989年『Floating into the Night』と1993年の『The Voice of Love』)とは、ともにリンチ(作詞)、バダラメンティ(作曲)との共作で、ともにリンチ作品と連動している。前者には“Mysteries of Love”や“Fallin” があり、『ツイン・ピークス The Return』の最終回でクルーズがロードハウスで歌う“The World Spins”がある。後者には、リンチで唯一のコメディ(暴力ロマンス)映画『ワイルド・アット・ハート』に挿入された“Kool Kat Walk”、また、『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』に挿入された“She would Die for Love”と“The Voice of Love”があり、劇中ロードハウスでクルーズが歌う“Questions in a World of Blue”もある。
 だが、彼ら3人の2枚のアルバムは、リンチ映画に使われている曲が収録されているから価値があるのではない。デイヴィッド・リンチが好んだ50年代アメリカのポップス(もしくはアメリカン・ポップスの源流のひとつ、ブロードウェイ・ミュージカルなど)の再解釈/80年代的解釈が、いまでも魅力的だから価値があるのだ。リンチは一時期、それこそ『ワイルド・アット・ハート』におけるエルヴィスとマリリンがわかりやすいが、50年代アメリカに執着した。そして、『ブルーベルベット』のもっとも重要な登場人物のひとりの名前が『オズの魔法使い』の主人公からの引用であろう、ドロシーで、『ワイルド・アット・ハート』のルーラが自分を重ねているのもドロシー。そして、1939年の『オズの魔法使い』でドロシーを演じているのは戦前の、つまり最初期のポップスター、現代でいうところのセレブ、反逆児でもないのにアウトサイダーたちの絶対的アイドル、葬儀においてストーンウォールの暴動を促したジュディ・ガーランドそのひとである。

「この世界全体が野性の心で、そのうえ極めて奇妙(This whole world’s wild at heart and weird on top)」、『ワイルド・アット・ハート』でルーラはそう繰り返す。この世界全体が、抑制不能な心であると。これは、『ブルーベルベット』で反復される「変な世界(It's a strange world)」に対応している。そしてそれより数年前に、スージー・スーはこう歌っている。「異常な世界から正常を求めて地上を目指したら、私はより悪化した」(“Overground”)
 異界から抜け出してきたかのような、クレオパトラめいた化粧のじつに堂々としたパンクの女王とリンチとの直接の繋がりはまったくない。シュルレアリスム的な表現という点と、正常だと思われるものを異常に見せる(バンシーズの“Happy House”を思い出せ)という点では似ているかもしれないが、パンクとリンチを繋げるのは、ラモーンズもジョニー・サンダースもブロンディも、そしてマルコム・マクラレンがまさにそうであったように、50年代的なスタイルへの偏愛だろう。ゆえにレトロなポップスが遍在する80年代ニューウェイヴに、当時のリンチは共感できた。

 

『Floating into the Night』と『The Voice of Love』を聴いてあらためて思うのは、この2枚において、リンチとバダラメンティは50年代ポップスのクリシェを使い倒していることだ。そう、クリシェばかりだから退屈なのではない。クリシェばかりだからいい。それを限界まで使うことはリンチが映像でもやっていることだ。敢えてクリシェにこだわることでテクスチュアが活かされる。このアプローチは、ドリーム・ポップというタグを一躍有名にしたビーチハウスの3枚目、ないしはマジー・スターのようなサウンドにも見受けられる。
 とはいえ、『ロスト・ハイウェイ』を映画館で観た人にはわかることだが、あの映画で印象的なサウンドは不穏なドローンでありサブベース、あるいは金属音だ。この特異なサウンドはそれこそデンシノオトが本サイトで紹介しているような音響作品を先取りしているし、かのフェリシア・アトキンソンのオールタイム・ベストにクルーズの『Floating into the Night』が挙げられていたことも、じつに感慨深い。(***)

 3人が作ったこの朦朧としたポップソング集は、なにか別の世界に繋がっている装置である。ぼくたちはこれらポップソングを耳に流し込みながらなにか別のものを聴いているのだ。それはポップソングが異様に思えるさかしまの世界のことではなく、ポップソングが気持ちよく鳴っている世界そのものがさかしまであるかもしれないという反転をうながしている。ロードハウスは、エッシャーの絵のようにどこからかこの現実の裏側にめくれている。『ブルーベルベット』は絵に描いたような幸福な50年代的アメリカの風景からはじまる。しかし主人公が、茂みのなかに切断された耳──いわば闇の世界へのパスポート──を拾ってしまってから世界は一変する。

 闇のない世界などない、すべては試される。今夜もまた羽の生えた声がどこかへ連れていってくれるだろう。「私が夢見たのは、あなたが私の夢を見ていたから?(Did I dream, you dreamed about me?)」──これはリンチが使いたくても使えなかった “Song to the Siren” の一節である。ティム・バックリーが歌ったこの曲に永遠の命を与えたのはエリザベス・フレイザーとロビン・ガスリーだった。そしてその妖光を世界中にばらまいたのが、デイヴィッド・リンチ、アンジェロ・バダラメンティ、そしてジュリー・クルーズだった。周知のようにクルーズは2022年6月に旅立ち、同年12月にはバダラメンティも永眠した。リンチが突然逝ったのは今年の1月のことである

(*)アイヴォ・ワッツ=ラッセルはベガーズ・バンケット創設メンバーのひとりにして〈4AD〉の設立者。〈4AD〉のイメージ、つまりコクトー・ツインズのサウンドはこの人なしではあり得なかった。ディス・モータル・コイルもこの人のアイデアから生まれている。

(**)エリザベス・フレイザーのもっとも有名な歌のひとつに、マッシヴ・アタックの “Teardrop” がある。この曲の歌詞を訳して意味を探っても徒労に終わる。重要なのは言葉の発語されたときの音感であり、全体から聞こえるイメージなのだ。

(***) https://thequietus.com/interviews/bakers-dozen/felicia-atkinson-bakers-dozen-favourite-albums/9/

【追記】コクトー・ツインズの物語は、ここに書いたのはほんのひと欠片に過ぎない。彼らのとくに素晴らしい4枚のアルバム『Head Over Heels』(83)、『Treasure』(84)、『Victorialand』(86)、『Blue Bell Knoll』(88)で聴けるあの天上の音楽を思えば、しかしじっさいは残酷なまでに両義的で、不幸な崩壊をしている。また、これはよく知られている話だが、バンドが終わり、ロビン・ガスリーと別れたエリザベス・フレイザーが恋に落ちたのは、かつて“Song to the Siren”を歌ったティム・バックリーのひとり息子、スージー・スーを大きな影響だと公言するジェフ・バックリーだった(ちなみにジェフは、ディス・モータル・コイルの『It'll End in Tears』の1曲目、 奇才アレックス・チルトンの曲“Kangroo” を演奏しているが、このオリジナル曲が VUの“ヘロイン”に近いことは、バックリーのヴァージョンのほうがよくわかる )。周知のようにバックリーは30歳で溺死する。それからフレイザーはブリストルに移住し、やがて、明らかにコクトー・ツインズの影響がうかがえるかの地のコレクティヴ、マッシヴ・アタックと出会うのだった。

Saho Terao - ele-king

 寺尾紗穂のニュー・アルバムが6月25日にリリースされる。これまでも『わたしの好きなわらべうた』のように、日々を暮らす人民の歌と向かいあってきた寺尾紗穂。その新作は『わたしの好きな労働歌』と題されている。日本各地の、いまとなってはほぼ忘れられた歌たちに新たな息が吹き込まれているにちがいない。現在、先行シングルとして “エンヤマッカゴエン” の配信が開始している。これは山形は最上の、「寝させ唄」だそうだ。6月21日には草月ホールでライヴもあります。詳しくは下記を。

”歌はいつも仕事の隣にあった” 寺尾紗穂多彩なゲストアーティストを迎えたコンセプトアルバム「わたしの好きな労働歌」発表

寺尾紗穂が『わたしの好きなわらべうた』(2016)、『わたしの好きなわらべうた2』(2020)に続く、新たなるコンセプトアルバム「わたしの好きな労働歌」を6/25に発表する。

今作では、寺尾がライブで全国を訪れる中で見つけた楽曲や、アートプロジェクトのリサーチで出会った楽曲がおさめられており、古くから日々の暮らしの中で育まれ、さまざまな心情を纏って日本中で歌われてきた労働歌を中心に、行事歌や子守唄などを含めて13編を収録。
あだち麗三郎、伊賀航、歌島昌智、小林うてな、近藤達郎、チェ・ジェチョル、やぶくみこ、大熊ワタル、音無史哉、Altangerel Undarmaaといったゲストプレイヤーを迎えて新たなアレンジを吹き込んだ。
岩手の行事歌「あらぐれ」では、折坂悠太とのデュエットも収録される。

5/14には第1弾先行配信シングルとして、山形・最上の船歌から生まれ、寝させ唄として伝わる「エンヤマッカゴエン」を、6/11には第2弾先行配信シングルとして、東京・板橋に伝わる、麦打ちの時に歌われた労働歌「板橋の棒打ち歌」が先行配信リリース。
また、6/21に開催される東京・草月ホールのワンマンライブではアルバムの先行販売も実施。

労働歌を通して過去と現在を繋ぎ、日本の歴史や社会性をも紐解く寺尾紗穂の本質とも云える作品となっている。

寺尾紗穂コメント

月ぬかいしゃなど一部の知られた曲を除き、 収録した歌の多くはすでにその土地でも忘れられています。なんとか歌を残そうとした40~50年前の人たちののこした記録によって、 出会うことができた曲たちです。ふるさとにかつてこんな歌があったのか、 と思いを寄せてもらえたらうれしいです。

アルバムリリース情報

発売日:2025年6月25日(水)
品番:KHGCD-005
定価:¥3,300(本体¥3,000)
発売元:こほろぎ舎
販売元:PCIMUSIC

【収録曲】
01 島根「佐津目銅山鉱夫歌」(出雲市佐田町)
02 山形「エンヤマッカゴエン」(最上郡真室川町安楽城)
03 福岡「ずくぼじょ」(八女市豊福、大牟田市)
04 東京「ひとつとせ」
05 岩手「あらぐれ」(和賀郡和賀町山口)
06 愛媛「浜子歌」(今治市大三島町口総)
07 東京「田うない」(板橋区徳丸)
08 愛知「せっせ」(豊田市稲武)
09 東京「籠の鳥より」
10 兵庫「宍粟の守子歌」(宍粟郡千種町奥西山)
11 高知「宿毛田植え歌」(宿毛市仲市)
12 沖縄「月ぬかいしゃ」(八重山地方)
13 東京「板橋の棒うち歌」(板橋区)

「エンヤマッカゴエン」配信リンク
LinkCoreYoutubebandcamp

公演情報
寺尾紗穂
草月ホール公演(予定販売枚数終了、当日券販売あり)

2025年6月21日(土)
開場17:00 /開演18:00
一般指定席¥7,000/中~大学生指定席¥5,000/子ども指定席¥4,000
※未就学児童は、保護者1名につき、膝上観覧1名まで無料。
赤坂・草月ホール
東京都港区赤坂7丁目2-21

出演:寺尾紗穂、あだち麗三郎、伊賀航、歌島昌智、音無史哉、折坂悠太、小林うてな、近藤達郎、やぶくみこ

お問い合わせ
HOT STUFF PROMOTION
050-5211-6077(平日12:00~18:00)
https://www.red-hot.ne.jp/

Mark Stewart - ele-king

 マーク・スチュワート、2023年に早すぎる旅立ちをしてしまった、音楽家としてもヴォーカリストとしても、あるいはアジテーターとしても稀代のアーティスト。シーンの土台作りにも尽力を尽くしたブリストルの英雄が生前録音し、急逝する直前に完成していたアルバムがあったと。それが8作目のソロ・アルバム『The Fateful Symmetry』となる。

 最近リリースされたシングル「Neon Girl」には、元ザ・レインコーツのジーナ・バーチがバック・ヴォーカルとして参加、プロデュースはYouth。アルバム『The Fateful Symmetry』は2025年7月11日にリリースされる。

マーク・スチュワートは自らのヴォイスを純然たる主観的内面性の表現としてではなく実験用動物の咆哮、怒りに満ちた金切り声、非個人的な熾烈さの連なりとして扱う。その声は切り刻まれ、ノイズ‐ハイパーダブな音の景観に改めて配布し直され、デュシャン的なファウンド・サウンドやかつて楽器だったものを凶悪にねじ曲げることで作り出されたノイズと混ぜ合わされる。
——マーク・フィッシャー『K-パンク 自分の武器を選べ』(坂本麻里子訳)より

 The Pop Group、Mark Stewart & Maffia、そしてソロアーティストとして、スチュワートはDIY精神、急進的な政治思想、プロテスト運動、哲学、テクノロジー、アート、詩といった要素に根ざした先駆的な作品群を世に送り出してきました。『The Fateful Symmetry』は、ガーディアン紙が評した通り「崇敬されるカウンターカルチャーの音楽家」としての彼の存在を証明し、最良の時代と同様に大胆かつ先見的なサウンドを展開しています。
 本作は、スチュワートの尽きることのない創造性と、内省的かつ力強いアーティストとしての一面を強く打ち出す作品でもあります。極めて表現力に富んだ革新的なアルバムであり、より良い世界を願う、激しくも美しいマニフェストです。
 唯一無二で、常に常識の枠を越え続けたアーティスト、マーク・スチュワート──その魂は今も響き続けます。
 なお、日本盤には、日本をこよなく愛してきたマークから日本のファンのために、ボーナストラック1曲とオリジナルには収録されていない英語歌詞及び日本語対訳が特別に収録されることが決定しました。

マーク・スチュワート (Mark Stewart)
ザ・フェイトフル・シンメトリー (The Fateful Symmetry)
Mute/Traffic
2025年7月11日(金)発売
解説:小野島 大
日本盤のみオリジナル英語歌詞及び日本語対訳(オリジナル盤には歌詞無し)の掲載と
ボーナストラック1曲収録が決定!

Tracklist
1. Memory Of You (先行シングル)
2. Neon Girl (第二弾シングル)
3. This Is The Rain
4. Everybody’s Got To Learn Sometime (Bébe Durmiendo Cumbia Bootleg)
5. Stable Song
6. Twilight’s Child
7. Crypto Religion
8. Blank Town
9. A Long Road
10. Memory No.9 日本盤のみのボーナストラック


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Jane Remover - ele-king

 ハイパーポップ/デジコアというムーヴメントを近くで見守ったり、遠目に眺めたりして過ごすうちに、気づけば4、5年ほどの月日が経った。ここ日本でも先日、シーンの渦中で活動するSSW・lilbesh ramko主催の「さようなら、バビフェス。」という、コロナ禍に端を発するハイパー・シーンの躍進を象徴したようなイヴェントが開催され、会場には1300人超のキッズが押しかけるまでに達した。

 ただ、昨年にはPitchforkにて「The Lost Promises of Hyperpoptimism(ハイパーポプティミズムの失われた約束)」というコラムも発表されるなど、国内外において「ハイパー」の終焉が叫ばれはじめて久しい。もはや数年前「ハイパーポップ」と呼ばれていた現象は黎明期をとっくにすぎ、新たな揺籃期を迎えたと言えるだろう。

 そんなハイパー・ムーヴメントの発展と並走するようにして数年間で成長を遂げた「パンデミック世代」のアーティストは枚挙に暇がないが、その代表的存在として挙げられる人物が、ジェーン・リムーヴァーという2003年生まれのアーティストだ。

 ジェーンは、パンデミック中にSoundCloudやDiscordを「Dltzk(デリートズィーク)」名義で行き来し、「デジコア」(*ハイパーポップから派生し、トラップ~クラウド・ラップに接近したマイクロ・ジャンル)シーンにおけるアンセムをいくつもリリースしてきた。
 同シーンの先駆者として世界中のユースの支持を集めてきたジェーンは、(2010年代のヴェイパーウェイヴ・ムーヴメントがそうであったように)サブ・ネームを複数持ち、なかでも「leroy(リロイ)」(c0ncernとも)という名義で発明した「ダリアコア」(大量のサンプル・ソースとクリッピング極まった音像で構成されたコラージュ的サブ・ジャンル)は賛否両論あれ、「ハイパー」を考える上で避けては通れないエポックメイキングな作品群だった。ジェーンが発明した往年のヒット・ソングを大量にマッシュアップするというジョークのような手法が、ほかのアーティストに自身なりの解釈である「◯◯core」を次々と発表させ、いまでは新たな音楽ジャンルとして一定の定着まで見せてしまっているのだから。

 そんなジェーンの新作『Revengeseekerz』は、タイトルを直訳すると「復讐の探求者(たち)」というニュアンスになる。本作に込められた「復讐心」とは、なにに向かうものなのか?

 〈PAPER〉が実施したインタヴューで、ジェーンは本作を「盲目的な怒り」のアルバムであると述べ、かつてのクィア・ポップスター、ジョージ・マイケル(ワム!)の名を挙げつつ深いリスペクトを捧げている。そもそもハイパーポップというムーヴメントの根底には閉塞感を打破しようとする衝動だけでなく、日陰の存在と扱われたクィアが胸を張って生きるための音楽である、という精神性も含まれている。アメリカを中心に多様性が再び否定されゆく時代に陥ったいま、『Revengeseekerz』はそうした圧力に抵抗するためのレベル・ミュージックである、と読み替えられなくもない。

 アルバムを通して聴いていくと、3曲目の “Star people” では中盤2分半あたりで突然スロー・ダウンし、生のベースとギターにトラップのハイハットが混じり合った、インディ・ロックとトラップのキメラのような展開に移行する。ジェーンの固有性はこういったアプローチに宿っている。

 「デジコア」というマイクロ・ジャンルは、ヒップホップに直結させるより、その手法を換骨奪胎した上でメロコアやエモのようになっていった、「オートチューンの効いた新しいインディ・ロック」とでも解釈するほうが正しい、というのが持論だ。そう見ると、デジコア・シーンではそれが当然の流れのように、数多くのアーティストがギター・ロック的な要素を自作に取り入れていった。

 ただ、ハイパーポップから枝分かれしたデジコアはその性質上、インディ/オルタナティヴ・ロックの意匠を参照しつつも、結果的にはトラップやEDMの持つ引力に引っ張られていることが珍しくない。そんななか、ジェーンはインディ・ロックに漸近していくようなアプローチをここ数年続けており、見事に新しい折衷感覚を提示してみせた。これは明確にジェーンのメロディラインや編曲のセンスが開花した結果といえるだろう(ジェーンはインディ・ロックに真正面から挑戦する「venturing」という架空のバンド・プロジェクトも手掛けており、アルバム『Ghostholding』を本作と同時制作していた。ジェーンの多面性はこうしたアプローチにも感じられる)。

 後半にかけての展開は本作の白眉だろう。デジコア世代の新たなクラブ・バンガーである “Dancing with your eyes closed” やシューゲイザー的解釈のバッドトリップ・ソングの “Dark night castle” も素晴らしいけれど、とくにラスト・ナンバーの “JRJRJR” はインディ・ロックの意匠とデジコアの方法論を折衷しつつ、まったく新たなものとして提示して見せた出色の出来といえる。

 リリックで「I might ball out on a new face, change my name, then my city(新しい顔を見つけて、名を変えて、住む街を変える)」とも言っているように、ヴェイパーウェイヴの始祖のひとり・ヴェクトロイドのスタイルに影響を受けたジェーンは、かつてたくさんの顔を持っていた。「So should I change my name again?(また名を変えるべきかな?)」と不安げにこぼしたそばから「JR, JR, JR」と自身の名を何度も叫ぶ。匿名性を破棄して、ジェーン・リムーヴァーとして前に進むという決意表明のようにも伝わってくるメッセージだ。それもまた、なにかに対する復讐なのだろう。

 そういえば、以前ele-king編集長・野田さんに「いまって、フロアでかかると沸くようなアンセムはないの?」と訊かれ、答えに窮したことがある。自分が間近で観測しているクラブ・シーンは一枚岩ではないから、確たるアンセムというのが思いつかなかった。

 いまでは、「ポスト・ハイパー」的な場におけるアンセムなら、自信をもって1曲挙げることができる。それは本作に収録された “Dancing with your eyes closed” にほかならない。この曲のMVで描かれたようなフロアが今日も世界中のどこかに現れ、陰のある若者たちを夢中にさせている。

*6/17追記:内容に一部誤りがありましたので訂正しました。

MAJOR FORCE - ele-king

 1988年に高木完、藤原ヒロシ、屋敷豪太、工藤昌之、中西俊夫によって設立された日本初のクラブ・ミュージック専門レーベル〈MAJOR FORCE〉。その黎明期を彩ったフライヤーを中心に展示する“RETURN OF THE ORIGINAL ART-FORM featuring MAJOR FORCE~’80s-‘90s TOKYO FLYERS EXHIBITION”が神泉のギャラリー〈JULY TREE〉にて開催される。
 これは〈MAJOR FORCE〉の日= 5月4日(“May the 4th”)にて、再始動第1弾シングル『MURDER FORCE 2025 REMIX feat. LEO今井』配信にともなう企画で、ほかにもいろいろ東京クラブ・カルチャーのフライヤーが展示される模様。しかも、『DUB入門』のなかでも野田が〈MAJOR FORCE〉クラシックの1枚に挙げている『GRASS ROOTS DUB』、SKATE THINGグラフィックによる同作ジャケをモチーフにしたコラボTも限定発売される。行きましょう!



『RETURN OF THE ORIGINAL ART-FORM featuring
MAJOR FORCE~’80s-‘90s TOKYO FLYERS EXHIBITION』

会期:2025年5月17日(土)~5月31日(土)
会場:JULY TREE(ジュライ・トゥリー)
企画協力:MAJOR FORCE PRODUCTIONS 、FILE RECORDS、SSAA(somewhere sound art association), KxLx5 Personal Collection

■MAJOR FORCE (メジャーフォース)
MAJOR FORCEは、1988年にMELONのメンバー中西俊夫、K.U.D.O、屋敷豪太と、Tiny Punxの高木完、藤原ヒロシの5人によって設立された東京を拠点とするプロダクション&レーベルカンパニーである。
Wild BunchのDJ Miloと制作した「Return of Original Art Form」や、Tiny Punxの「Last Orgy」など、世界的に話題を呼び、高橋盾やNIGO®など、後の原宿シーンにも大きな影響を与えました。
1990年代には、中西とK.U.D.Oはロンドンに拠点を置き、Major Force Westを設立し、Mo Waxから重要な作品をリリース。その後レーベルは一時休止状態でしたが2018年に30周年を迎え、復活。現在はK.U.D.Oと高木の2人を軸に活動をしている。

『RETURN OF THE ORIGINAL ART-FORM featuring MAJOR FORCE~’80s-‘90s TOKYO FLYERS EXHIBITION』
会期:2025年5月17日(土)~5月31日(土)
※詳しい営業日等お問い合わせについてはJULY TREE 公式Instagramにてお願いいたします!
会場:JULY TREE(ジュライ・トゥリー)
入場料:500円(税込)
企画協力:MAJOR FORCE PRODUCTIONS 、FILE RECORDS、SSAA(somewhere sound art association)、KxLx5 Personal Collection

タイトル:MURDER FORCE 2025 REMIX feat. LEO今井
リリース日:2025年5月4日(“May the 4th”)
レーベル:MAJOR FORCE
配信:Spotify / Apple Music 他 各種ストリーミングサービスにて順次開始
• ヴォーカル:LEO今井
• ギター:立花ハジメ
• ビート原案:中西俊夫(ブレイクビーツ)
• グラフィック:浅野忠信による原画を2025年仕様でリミックス
・配信リンク:https://big-up.style/D91RIArAh8

JULY TREE(ジュライ・トゥリー)
住所:153-0042
東京都目黒区青葉台4-7-27 ロイヤルステージ01-1A
・HP: www.julytree.tokyo
・Instagram:@july_tree_tokyo
・Twitter: @julytree2023
*営業日時間等お問い合わせについてはJULY TREE 公式Instagramにてお願いいたします。

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