もうジャージを脱ぐ必要はない
『コンニチワ』は、ロンドンから生まれたグライムというやり方で世界にチャレンジしたアルバムだ。
メリディアン・クルー、ロール・ディープを経て、2006年に自身のクルー/レーベルである〈ボーイ・ベター・ノウ〉を創設し、これまでに同レーベルから『グレイテスト・ヒッツ』、『マイクロフォン・チャンピオン』そしてメジャー・レーベルから『ドゥーイン’イット・アゲイン』と、3枚のフル・アルバムをリリースしてきたスケプタ。しかし、近年彼の名前と「グライム」自体を世界的に知らしめたのは、2014年にリリースされたシングル「ザッツ・ノット・ミー」だ。 また、2015年にはモボ・アウォーズでカニエ・ウェストと共演、2016年の初めにはニューヨーク現代美術館モーマ PS1でのパフォーマンス、ドレイクが〈ボーイ・ベター・ノウ〉と契約するなど、海を超えアメリカ、そしてアートやファッション界からも注目を集めた。そんななか、2016年5月、1年の発売延期を経てようやくリリースされたのが、フル・アルバム『コンニチワ』だ。
このアルバムには、ロンドンの不良らしく、反抗的で暴力的、そしてユーモアと力強いストリートのグライムがある。しかし、グライムをメインストリームでリリースするという一見に単純に見える行為は、それほど難しいことだったのだろうか?
これまで、アンダーグラウンドのグライムをメインストリームに持ち込むことは、MCにとってひとつのチャレンジだった。ディジー・ラスカル やワイリーはメジャー・レーベルと契約しメインストリームに挑戦してきたが、キャリア的に成功したとは言い難い。その後、彼らは「パーティ・チューン」を出してヒットを狙い、ストリートの物語を捨てて「アメリカのセレブのように」気取らなければならなかった。ポップ・カルチャーにおける「グライムらしさ」はナイフ、ギャング、喧嘩のイメージを内包しており、それらは大衆向けには「脱臭」すべきものだったからだ。スケプタの『ドゥーイン’イット・アゲイン』も、いま聴き返せばダブステップの流行りに乗ったポップスのようである。
しかし、今作ではスケプタはインディペンデントでの制作を貫き、いい意味で仲間とやりたいようにやっている。スポーツ量販店のJD スポーツで売られているような、ロンドン郊外の不良たちが着るジャージのセットアップ。それに身を包むスケプタは象徴的だ。
Yeah, I used to wear Gucci
I put it all in the bin cause that's not me
確かに俺は昔はグッチ着てたけど
それは俺らしくないからもうゴミ箱に捨てちゃったよ
(Sekepta - That’s Not Me)
リリックは粗さや怒りに満ちている。“クライム・リディム”では、警察やストリートのいざこざのストーリーをラップし、「It Ain’t Safe = 安全じゃない」というラインはスケプタの地元トッテナムのイメージと重なる。2011年に起こったイギリスの暴動がトッテナムからはじまったように、そこは「警察にとってすら安全じゃない」場所だ、と。
リリックの外側にも注目すべきだ。リードトラックの“マン”のMVは、グライム黎明期から発売されているドキュメンタリーを手掛けてきた、リスキー・ローズ(Risky Roadz)が撮影。その荒削りな映像は2000年代のグライム・ビデオのスタイルを継承し、これまでのMCが「脱臭」してしまった要素を全て飲み込み、音は粗く、ギャングの「遊び」はヴィデオの隅々に浮かび上がっている。
Skepta - Man
ミュージック・ヴィデオの内容も、彼の警察への反抗的な態度の表明である。“シャットダウン”のMVが撮影されたのは、スケプタの弟JMEの出演が警察によって中止されたイベントが開催される予定だったバービカン・センターであり、ショーディッチの駐車場では無許可でレイブを行った。このようなリリックの外側における、よりローカルな文脈でのアクションが、スケプタのアティチュードのリアルさを裏付けている。
Skepta - Shutdown
『コンニチワ』が「ストリートらしさ」を失わなかったことには、彼ら自身のホーム〈ボーイ・ベター・ノウ〉からのリリースである点も関係しているだろう。メジャー・レーベルと契約せずともインディペンデントで莫大なセールスをあげる、それ自体が凄いことだ。それを支えるのは、同じくインディペンデントな海賊ラジオ、YouTubeチャンネル、グライムをプッシュしてきた無数の音楽メディアたちであり、そこでローカル・スターは日夜生まれていて、ノヴェリストやチップといった次世代のMCたちが今作の客演陣にはクレジットされている。
サウンド面では、“ザッツ・ノット・ミー”ほど、クラシックなグライムのエッセンスを感じられなかった。USを意識した“ナンバー feat. ファレル・ウィリアムズ”にはリリックにもサウンドにもそれがない。また一貫したストーリーがアルバムになかったためか、どこかシングルの寄せ集めのような印象を抱いた。しかし、いくつかの曲にはシングル・カットにふさわしいパンチラインがある。
彼はジャージを脱がずに、ジャージをクールに魅せた。初週全英チャート2位という功績によって、「自分たちのやり方でやればいい」と世界に証明したのだ。






イギリスの二人組が90年代に発表したクラシック。2013年にパーシャル・レコーズから再発され注目を集めた。力強くうなりをあげるベースラインとキック上に、エコーのかかったハーモニカのメロディとボイスサンプルが浮遊するアツい1曲。
アメリカのポートランドから現在進行形のダブミュージックを7インチで発信し続けているザムザム・サウンズ。最新作では、ベン・クロックやマルセル・デットマンらの作品を思わせる、残響に漬け込んだキックが特徴的なヴァージョンを収録。このモノトーンな雰囲気にはテクノ心がくすぐられるはず(試聴では2:00からヴァージョンになっています)。
東京の1TAとe-muraが結成したプロダクションユニットによる貫禄のステッパーズ。硬質なキックの下でベースラインが這うように攻め立てる中、次々と素材が放り込まれていく。リズムを崩した中盤の展開は盛り上がり必至。
多才にして奇才、DJソトフェットのレゲエサイド。アレンジはオールドスクールなダブマナーに沿っているものの、ミックス処理はスッキリとしておりモダンな仕上がり。デジタル過ぎないデジタルダブ。
これまでに何度か再発されている80年代ステッパーズ。エフェクトのかけ具合と素材の抜き差しによる微細ながら絶妙なアレンジで延々とグルーヴが持続するヴァージョンが秀逸。野太いベースがたまらない。



終始穏やかなスティーヴン。この日着ていたのはヨーダのTシャツだった。
みんなリミックス盤は聴いた? 今回のニュー・オーダーの来日をサポートした石野卓球。