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北中正和
Feb 5, 2015
このアルバムは笑い声やざわめきとウォーター・ドラムと思われるサウンドで幕を開ける。ウォーター・ドラムはアフリカで女性や子供たちが水仕事の息抜きや遊びで水を手ですくったり、叩いたりしてまるで太鼓のようなリズムを作り出すものだ。そのウォーター・ドラムらしき音にやがて、おだやかな年配の女声の歌のくりかえしが加わり、40秒あたりから合成されたリズムやシンセサイザーのアンビエントな音にバトンタッチされていく。
説明不要かもしれないが、Clap! Clap! は、イタリアのジャズ・ミュージシャンアのクリスティアーノ・クリスチが、エキゾチックなエレクトロニック音楽をやるときのアーティスト名だ。彼はDigi G’Alessio名義でダブステップ的な作品も発表しており、この名前を見たら、イタリアの人気歌手Gigi D’Alessioを思い浮かべてにんまりする人もいるだろう。架空の島「ターイ・ベッバ」の神話世界へと聞き手を誘うこのアルバムのコンセプトも、そんな遊び心を感じさせる。音楽の骨格は、さまざまなリズムのエレクトロニックなダンス・ミュージックだが、そこに民俗音楽的な要素(主にアフリカの音楽)が巧みに組み合わせられている。
たとえば3曲目ではギター中心のイントロに続いて、アフリカの親指ピアノの演奏や、地域不明の子供たちのコーラスが出てくる。男性のターイ・ベッバ語?のハナモゲラな語りも入る。この曲のリズムのいくつかのパートはアフリカかどこかの太鼓を参照したのだろう。13曲目のイントロのコーラスと太鼓はアフリカ風で、太鼓はナイジェリアのジュジュのビートの強弱を裏返したのだろう。しかしエレクトロニックな音の部分は複雑なリズム・チェンジをくりかえし、メイシオ・パーカーばりのサックスの断片がフィーチャーされる。16曲目や17曲目で聞こえるのは西アフリカの木琴バラフォンか、それともインドネシアのアンクルンやガムランを模しているのか……。
目立つ例をいくつかあげたが、このアルバムでの民俗音楽的な要素の引用は、デイヴィッド・バーンやデーモン・アルバーンほどきまじめではなく、50年代のエキゾチカやハリウッド映画ほどフェイク感を強調しているわけでもない。過去のトライバル系の作品とくらべても、宙ぶらりんなおとぼけ感がこの人の個性だろう。いずれにせよここからアフリカ各地のハウス/エレクトロ系の音楽までは皮ひとつのちがいである。
北中正和