「W K」と一致するもの

Future Brown - ele-king

 〈ハイパーダブ〉からのリリースでも知られるファティマ・アル・カディリ。LAのビート・ミュージック・デュオであるエングズングズのダニエル・ピニーダ&アスマ・マルーフ。シカゴ・ジュークの天才児Jクッシュ。この4人によるプロデューサー集団、フューチャー・ブラウンが来日する。今年の頭に〈ワープ〉よりリリースされたファースト・アルバムでは、グライム、ジューク、トラップ、ゲットー・ハウスなどが起こす鮮やかな音の化学反応が大きな話題を呼んだ。アルバムには多くのMCが参加していたように、今回の来日講演にはMCのローチ―が4人とともにステージに上がる。ファティマ・アル・カディリは去年も日本へやってきたが、フューチャー・ブラウンの来日は今回が初となる。スーパー・グループのセットを是非体感してほしい。


環太平洋電子音楽見本市 - ele-king

Day 1  語るべき音楽世界がまだある

Phew + Rokapenis
Black Zenith
Amplified Elephants
Philip Brophy
DJ Evil Penguin

文:松村正人 写真:伊藤さとみ / Satomi Ito

 コープス・ペイントの上半身裸の長髪の男が楽屋口からステージへ肉食獣のように歩み寄り壁際のドラムセットに就く。11月13、14日の2日間にわたって開催された「JOLT Touring Festival 2015」の初日はこうして幕を切った。


Philip Brophy

 メンバーはほかにいない、ドラム・ソロのようだ。やおら打ち込みの音が鳴る。ダンスミュージック的……だがどこか古びている。しかしまだはじまったばかり、意想外の展開があるかもしれない……がとくにない。1曲めを叩ききった。オーディエンスからまばらな拍手。説明もなく2曲め。似たような展開だが、ちょっと待て、よく聴くとこれはイエスの“燃える朝焼け”のリフか。ブラックメタルの恰好をした男が自作カラオケに合わせてドラムを叩く。しかもそれがブラックメタルとはそぐわない古典的プログレの、さらにいえば、超訳とでもいうべき、きわめて恣意的なトラック(基本的にメイン・リフをくりかえすだけ)というある種のコンセプチュアル・アートかもしれないが、伝わりづらい。学園祭のにおいがする。Xジャパンの恰好でTスクェアをカヴァーするような、そぐわないものを同居させる思いつきイッパツのパフォーマンス。私は嫌いでないどころか、学生時代はそういうことを喜々としてやった。ところが、そういうことをするとベクトルは内に向かう。楽屋オチというヤツだ。ああ3曲めはAC/DCの“サンダーストラット”か。私はその外しっぷりに色めきたつが、ほかのお客さんは遠くにいったような気がする。AC/DCに乗せ、〈スーパーデラックス〉がスタジアムになった瞬間である。

そのようにして、トップバッターのフィリップ・ブロフィのステージは終わった。つけくわえると、彼はカルト映画『ボディ・メルト(Body Melt)』の監督もつとめた才人で、パフォーマンスは毎回主旨を変えたコンセプチュアルなものになるのだという。そのことばにウソはなかった。

***


Amplified Elements

 微妙に温まった会場に次に登場したのはジ・アンプリファイド・エレンファンツ。今回は障がいをもつ男女、それぞれふたりがサンプラーやカオスパッド、タブレット端末を操作し、それをJOLT Inc.の創設者でもあるジェイムス・ハリックがサポートする、ソニックアート・グループ──と聞くと、日本のギャーテーズあるいは明日14日のフェスに出演する大友良英の音遊びの会などを思い出す。この2組はなりたちも音楽性を異にするが、前者は声ないし生楽器といった、比較的身体にちかい楽器をもちいているのが、エレファンツは電子楽器という、インターフェイスを介在する機材をもちいているのがユニーク。もちろん、上述のように彼らの使用機材は直感的に使用できるものが多いが、彼らはそれらの機材と戯れるように音を空中に放っていく。


 電子音楽のおもしろさは既存の楽器編成では実現できない音楽空間の生成だが、彼らの演奏は、既存のサウンド/アートの構図が、よくも悪くもその意味で先行する音楽的価値観を(意識せずとも)視野に収めがちなのにたいして、そもそもその前提に立っていないうえにメンバーの自由闊達な演奏の交錯は即興の理想のひとつにひらかれている、それはぎゃーテーズや音遊びの会にも通じるものだ。そのベクトルは聴取に向かうだけでなく、作品を作曲/構成するハリックの意図そのものにもむかい、音楽を時々刻々つくりかえる、緊張より融和を思わせるが、だからといってだれていない、非常に興味深いものだった。

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Black Zenith

 エレファンツにつづくダーレン・ムーア、ブライアン・オライリーからなるシンガポールのデュオ、ブラック・ゼニスはアブストラクトな映像との相乗効果による無情にまでにハードコアな世界。回路がショートする衝撃音を構造化するような音響はノイズないしインダストリアルを想起させるところもあるが、会場全体をあたかもモジュラー・シンセのパッチに接続するかのような錯覚をおぼえさせる、力感あふれるものだった。それはトリをとつめたPhew+ロカペニスとは好対照で、Phewのアナログ・シンセ弾き語りとロカペニスの映像を対置した演奏はやわらかとかかたいとか、あるいは色彩ゆたかだとか逆にモノクロームだとか、印象論で語れるものからどんどん遠ざかっていく。



Phew + Rokapenis

 抽象的なだけではない。ときにメロディ(の断片のようなもの)も見え隠れするが、それらはたやすく像を結ばない。声は音の一部だが、意味もなさないこともなく、たとえば近日リリースの新作にも収録する“また会いましょう”の星雲のような電子音のカーテンがひるがえる向こうに垣間見えるとことばとたんに寓話めく、Phewはおそらく、かつてないほど独自な境地にいたりつつあり、詳しくは新作リリース時に稿をあらためることもあるだろうが、はからずも電子音楽の環太平洋見本市の感もあったこのたびの「JOLT TOURING FESTIVAL 2015」初日はともに語るべき音楽が世界にはまだまだあることを示唆するえがたい機会だった。また会いましょう。

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Day2 即興音楽の構造化をめぐる3つのありよう

灰野敬二 + 大友良英
L?K?O + SIN:NED + 牧野貴
田中悠美子 + Mary Doumany
森重靖宗 + Cal Lyall
)-(U||!C|<
中山晃子 (alive painting)
DJ Evil Penguin

文:細田成嗣

 〈JOLT TOURING FESTIVAL 2015〉は、音響作家のジェイムス・ハリックが主宰するオーストラリアの団体〈JOLT〉が中心となって企画した、香港とマカオを巡るツアー・イヴェントの一環として行われた。ここ日本では、現在は東京在住のカナダ人アーティスト、キャル・ライアルが運営し、都内で継続的な無料イヴェントを手がけてきた〈Test Tone〉との共催というかたちになっている。〈JOLT〉は過去2012年と2014年にも日本でのフェスティヴァルを開催しているが、3年前のそれが日本の各都市を経巡りながら行われ、昨年は日本とイギリスとで開催されたのに対し、今回スポットが当てられたのは、近年そのオルタナティヴな音楽シーンへの注目度が高まりつつあるアジア圏だったと指摘することができるだろう。とはいえ、それはあくまでツアーの全体像から導き出されることであって、〈スーパーデラックス〉で行われたこのフェスティヴァルに、とくにアジア圏に対する目配せがあったとか、ましてやそれを代表するものだったというようなことはみられなかった。

 終始閑散としていた前日とはうってかわって、2日めは開場後も入り口の外まで人が並ぶほどの賑わいをみせていた。これから行われるライヴ演奏が、誰もが未だ体験していないものである以上、観客の人数が演奏の質をそのまま表しているわけではないことは言うまでもないが、そこにかけられた期待の大きさは推して知ることができる。おそらく7年ぶりに共演する灰野敬二と大友良英のデュオにとりわけ注目が集まったものと思われるが、全体が3部構成にプログラムされたこの日のイヴェントでは、まさに期待の中心が熱狂の頂点に達するようにして、圧巻のライヴをみせてくれた。同時にこの3部のプログラムは、即興音楽の構造化をめぐる3つのありようを、それぞれ提示していたようにも思う。まず第1部において、もっとも自発的な形態での構造化、すなわち、演奏家が演奏を始めることによって音楽が始まり、そこから演奏家が終わりを見出すことによって音楽が終わるという、即興演奏におけるスタンダードなありかたが示される。続く第2部では、演奏家の外部に設けられた開始と終了に対して、その中間をいかにして彩るかということに焦点が当てられることになる。そしてこのふたつのプログラムを受けて、第3部では、それらを止揚するような取り組みがなされていった。

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Yumiko Tanaka + Mary Doumany

 最初に登場したのは義太夫三味線の田中悠美子とハープのメアリー・ダウマニーだった。ダウマニーがハープを打楽器的に扱いながら生み出すリズムにのせて、卓上に寝かせられた三味線を田中はときには叩き、ときには弾きながら応対していく。即興演奏に特徴的ともいえる、相手の出方をうかがいながら有機的に反応していくやりとりは緊張感溢れるものだった。ふと気づくと地響きのような低音が聴こえはじめ、ごく自然な流れで演奏に参加していたジェイムス・ハリックがピアノの内部奏法を行なっている。さらにキャル・ライアルと森重靖宗がそれぞれバンジョーとチェロをもって参加し、クインテットによる集団即興へ。



森重靖宗 + Cal Lyall + )-(U||!C|< + 中山晃子

 ハリックとダウマニーによる唸るようなヴォイスが、田中の義太夫節とあいまって、どこか「日本的」ともいうべきおどろおどろしさを生み出していく。演奏者の背後の壁には、ヴィジュアル・アーティストの中山晃子によるアライヴ・ペインティングが映し出されていて、その都度の演奏にイメージを付与していたのだが、手元に用意した極彩色の液体を、垂らしたり流したりしつつその場で絵画を描き、それを拡大して投射された映像は、演奏の「おどろおどろしさ」と共犯関係を結ぶようにもみえた。その後、田中とダウマニーのふたりが退場し、残されたトリオによる演奏になる。バンジョーによる音楽的な和音を響かせもするライアルの演奏と、舞踏家のような身のこなしでチェロから深い低音を紡ぎ出す森重、それに引きつづき唸り声をあげながら解体されたピアノ演奏を聴かせるハリックの3人が、デュオからはじまった音楽に終着点を見出していった。

***

 転換を挟んで行われた次の演奏は、ターンテーブル奏者のL?K?Oと香港出身の音楽家SIN:NEDによるデュオが、映画作家の牧野貴によって作成された/されつつある映像作品に対峙しながら聴覚的余白を埋めていくというものだった。このまえに行われた演奏を第1部とするなら、この第2部はそれと好対照をなすものだったといえる。演奏家とコミュニケートしながらその場で即興的にイメージを生成していった中山晃子のペインティングと比較するとき、牧野の映像は演奏に触発されて変化していくというよりも、あらかじめ定められた枠組みの中で、不確定的に散りばめられていったノイズが、偶発的なイメージを生成していくといったものだった。


L?K?O + SIN:NED + 牧野貴

 その内容も対照的で、滴り落ちる極彩色の液体がグロテスクかつ官能的に蠢いていた中山の映像に対し、高速度で明滅する宇宙的なイメージから生み出される牧野のそれは、まるで内的世界がテクノロジーの力を借りて視覚化されたもののようだ。演奏のほうも、第1部のそれがアコースティック楽器による丁々発止のやりとりだったのとは異なり、電子的なノイズが、共同して映像作品に対する音楽を生み出していくといったふうであり、サウンドの移り変わりも緩やかに変化していった。とりわけ印象的だったのは、ドローン/アンビエントな響きからはじまった演奏において、中途、ターンテーブルの演奏も行なっていたSIN:NEDが、そのトーンアームの先端を咥えて「吹奏」しはじめたことだ。

 それを契機とするように、演奏は轟音ノイズの海へと突入していった。まるで教会オルガンのような奥行きのある共鳴が聴こえたターンテーブルの「吹奏」は、しかしながら、むしろ呼吸する根源的な身体性が、電子回路によってつねにサウンドと断絶させられてしまうという事態を象徴していたように思う。第1部における演奏者の身体性は、ここでは機械的な操作性へと変わり、ライヴの枠を演者のそれぞれが推し広げていったパフォーマンスは、枠によって切り取られるべき演奏をどのように満たしていくかという問題へと移されていった。

***

 対照的なふたつのライヴを経て、灰野敬二と大友良英によるデュオがはじまった。2日間のフェスの大トリでもあるこの演奏は、まさに大円団というに相応しい圧倒的なもので、予定時間を大幅に超過して行われることとなった。灰野が歌唱する“イエスタディ”から幕を開けた演奏は、当然のことながらメロディがぐにゃりと変形したそれにビートルズの面影はなく、時折聞こえる、それもまた定かではないが、歌詞の部分的なフレーズによってそれがその曲なのだと判別できるもので、それに対して大友のギターは弦と金属の衝突による打楽器的ノイズで応戦していく。


灰野敬二 + 大友良英

 伴奏というよりも歌と拮抗するようにギターが向かい合う演奏だ。歌唱が終わると灰野はギターを手にとり、ギター同士によるノイズのデュオがはじまった。爆音の渦が観衆を包む。第1部でパフォーマンスを行っていた中山晃子が、ここでも演奏にイメージを付与していたのだが、一瞬だけ、灰野の背後に妖気が立ち昇るかのようなモヤモヤとした映像が投射されていた場面があった。だが「おどろおどろしさ」が、オーストラリア勢によるちょっとしたサービス精神のあらわれでもあったと思えば、ここにそれが出る幕はなく、そしてそのことを強調するかのようにして、中山はすぐさま別のイメージへと変化させていった。

 終了予定時刻を大きく過ぎてから、なんども大友が終わりの合図を出していたように思う。即興演奏において、その演奏を終了する場面は明確に定まっているものではないが、演奏しているとたしかにその時が訪れる、ということを、大友をはじめとした多くの即興演奏家はよく口にしている。そういった終了の契機がなんどもみられたように思う。だがそれも、灰野がつねに終わりを逸脱していくようにして拒みつづけ、演奏は継続していく。こうなってしまった以上、果たしてこの演奏は終わりを見出すことができるのかどうか、あるいはこのまま延々と続いていくのではないか……とまで思われた。だがしかし、それから暫く経ったあと、灰野がギターを置いてマイクを手にすると、大友もそれに合わせてギターを持ち直したのである。そして締めの一曲として「奇妙な果実」を歌いはじめたのだった。
 つまり、このデュオによる演奏は、はじめから終わりが定められていたのである。その瞬間、いままで見せていた「終わり」に対する逸脱が、ことごとく演奏の「中間」におけるパフォーマンスであったことに切り替わった。それは次の展開をその場で切り開いていく即興演奏に、あらかじめ「終わり」が設定されていることによって、より大胆に、かつどこまでも遠い地点を見せながら、「終わらない」演奏をなし得るように仕掛けた巧妙なトリックだったのである。

 これを第3部とするならば、すなわちパフォーマンスの枠をその場で構築していった第1部と、あらかじめ規定された枠のなかでパフォーマンスがなされた第2部を受けて、第3部では、始まりと終わりの行為が決められながら、むしろ決められていればこそ、その枠を自在に拡張し変化させることによって、予見不能な構造化をなしていったということができるだろう。個々別々に体験するだけでは捉えきれない原理のようなものが、ひとつの場所に複数並置されることで浮上する――フェス特有の異化作用が一層スリリングな展開をもたらした一夜だった。


B.B.KING - ele-king

 それは、まるで公民権運動の時代に逆戻りしたような風景に見える。思い思いのメッセージを掲げたプラカードを抱えながら路上に集まる、ブラック・ピープル。「私たちを撃たないで」、路上の上では小さな子供やお母さんたちがスローガンを掲げている。2015年、新しいブラック・ムーヴメント、#BlackLivesMatterが拡大している(紙エレキング17号を参照)。
 こういう時代において、音楽はムーヴメントのサウンドトラックとなる。2015年はケンドリック・ラマーの『ピンプ・トゥ・バタフライ』がそれに選ばれた。久しぶりに圧倒的なインパクトで“黒さ”を見せつけたこの作品のなかには、こんなフレーズが出てくる。「40エーカーの土地とラバ1匹よこせ」「あぁ、アメリカよ、悪いビッチだな。俺たちがコットンを積んでリッチになったのに」

 南北戦争以降のアメリカの南部、奴隷制のなか綿畑で働く最下層の農民たち、ミシシッピ川周辺、そこにはアメリカのポピュラー・ミュージックにもっとも大きなインパクトを与えたエリアがある。今日我々が耳にしている音楽の大いなる基礎となったブルースなる音楽は、そもそも南部のスタイルである。グリール・マーカスの『ミステリー・トレイン』がロバート・ジョンスンからはじまるように、そこはすべての出発点と言ってもいい。
 2015年5月14日に他界したB.B.キングは、ミシシッピの孤児の小作農からブルース歌手となり、やがて白いアメリカ中間層にも支持されるようになった通用「ブルースの王様」である。
 この度、日暮泰文氏の監修のもと、ele-king booksから刊行することとなった『キング・オブ・ザ・ブルース登場-B.B.キング』は、1980年に本国アメリカで刊行されたブルース研究の古典の1冊である。社会学の観点から、アメリカ黒人史の観点から、そして音楽学の観点から、ブルースの王者を分析した名著で、ことにシェアクロッパー・システム(小作人制度)という、ブルースの背景のひとつであり、当時の農民たちを縛り付けていた制度に関する踏み込んだ研究がされている。ケンドリック・ラマーがジャケのなかで、ドル札を見せびらかす理由がよくわかるだろう。
 また、本書においてはブルースが、どのように白いアメリカのなかで受け入れられていったのも詳細に語られている。それはある意味もっとも白いフォーク・リヴァイヴァルと呼ばれるムーヴメントだったのだが、そのあたりの話も興味深い。
 もちろん、B.B.キングは白い黒いといった人種を超越した、まさにアメリカを代表するブルース歌手/ギタリストであり、エンターテイナーだった。この機会にどうぞ、振り返って見て欲しい。
 なお、当然原書にはない、著者、チャールズ・ソーヤーによる弔辞も掲載している。

チャールズ・ ソーヤー
染谷和美 (翻訳)
日暮泰文 (監修),
『キング・オブ・ザ・ブルース登場-B.B.キング 』
ele-king books
Amazon

New Order - ele-king

 先日お伝えした石野卓球によるニュー・オーダーのリミックス、詳細が明らかになった。
 その曲「Tutti Frutti - Takkyu Ishino Remix」は、もちろんピーター・サヴィルのデザイン、そしてMUTE品番が付けられ、デジタル配信で12月11日、アナログ(12インチ)は来年3月16日にリリース。デジタル配信、アナログともに本日より予約が開始。まさかこんな未来が待っていたとは……アナログ盤はすぐに売り切れるので、くれぐれもお早めに。

 ちなみに本リミックス音源は、ニュー・オーダーからの影響をテーマにした作品サイト「シンギュラリティ」にて、石野卓球セレクトの「インストゥルメンタル・トラック・ベスト10」と共に全世界に向けて公開されている。本サイトには、石野卓球と並んでロバート・スミス(ザ・キュアー)、ショーン・ライダー(ハッピー・マンデーズ)、アーヴィン・ウェルシュ(映画『トレインスポッティング』原作者)、ザ・ホラーズ、808 ステイト、ラ・ルー、インターポール、ホット・チップ等、錚々たるアーティストが作品を寄せている。


Yasuyuki Suda (inception records) - ele-king

2015.11.29

 今年もっとも輝いた顔のひとつである。ハープを抱いた歌姫、フリーフォークのアイコン、確実にUSインディの一時代を築いたこのシンガー・ソングライターは、しかし同じところにはとどまっていない。ディヴェンドラ・バンハート『クリップル・クロウ』から10年、アニマル・コレクティヴ『フィールズ』からも10年だ。はやすぎて恐ろしい。

いま彼女は街に両足をつけ、ひとりの女として、歌うたいとして、そのなかに渦巻く感情のドラマツルギーでこそわたしたちを魅了する
(木津毅によるレヴュー、ご一読をお奨めしたい! )

 そう、新しいジョアンナは新しい歌をうたっている。それは今作を支えた編成とともに見るときもっとも鮮やかに、そしてもっとも直接的に感じられるだろう。東京はグローリア・チャペルでの公演も楽しみだ。

■Joanna Newsom Japan Tour 2016
ジョアンナ・ニューサム ジャパン・ツアー2016

 2015年秋にリリースされた最新アルバム『ダイヴァーズ』の興奮冷めやらぬ中、その歌声とハープで世界を魅了しつづけるジョアンナ・ニューサム6年ぶりのジャパン・ツアーが決まりました。彼女の歌とグランド・ハープ、ピアノを囲む今回の演奏家はライアン・フランチェスコーニ、ミラバイ・パート、ピーター・ニューサム、そしてヴェロニク・セレットの4人。もちろん『ダイヴァーズ』の大きな音楽世界を支えた選り抜きのメンバーたちです。さて、手を伸ばせば、世界でもっとも鮮やかなユートピアがそこで待ち受けています。息を吐き、足で蹴り、浮かび上がるダイヴァーたちの群れ。もちろん次はあなたが飛び込む番!

■ジョアンナ・ニューサム(Joanna Newsom)
米カリフォルニア州ネヴァダ・シティ生まれのハープ奏者/シンガー・ソングライター。グランド・ハープの弾き語りというユニークなスタイルで2000年代音楽シーン最大の「発見」のひとりでもある。これまでに『ミルク・アンド・メンダー』(2004年)、『Ys』(2006年)、『ハヴ・ワン・オン・ミー』(2010年)、『ダイヴァーズ』(2015年)と4枚のアルバムを米ドラッグ・シティ(国内盤はPヴァインから)より発表し、その世界観を大きく拡張。その音楽要素をジャンル名で回収することはおろか、もはや大きな「音楽」としか名づけられない唯一無二の個性となった。近年は2014年のアカデミー賞2部門にノミネートされた映画『インヒアレント・ヴァイス』に女優として出演、ナレーションも手がけるなど活躍の場を広げている。

公演

1月26日(火)
大阪 大阪倶楽部 4階 大ホール(06-6231-8361)
大阪府大阪市中央区今橋4-4-11
開場 6:00pm/開演 7:00pm
5,000円(予約)/5,500円(当日)*全席自由席
予約受付は12月7日正午より開始します。
予約:Cow and Mouse(cowandmouse1110@gmail.com)
予約方法:件名に「ジョアンナ・ニューサム大阪公演」と明記の上、お名前(フルネーム)、お電話番号、チケット枚数をご記入いただき、上記メール・アドレスまでご送信ください。確認後、購入方法を折り返しお知らせいたします。なお、携帯電話から申し込まれる方は、PCメールの拒否設定をされていませんようご確認ください。また、会場内はすべて自由席、ご来場順でのご入場となります。
大阪公演問い合わせ先:ハルモニア(080-3136-2673)、
Cow and Mouse
cowandmouse.blogspot.jpwww.facebook.com/cowandmouse

1月27日(水)
東京 キリスト品川教会 グローリアチャペル(03-3443-1721)
東京都品川区北品川4-7-40
開場 6:30pm/開演 7:30pm
5,000円(予約)/6,000円(当日)*全席自由席

1月28日(木)
東京 キリスト品川教会 グローリアチャペル(03-3443-1721)
東京都品川区北品川4-7-40
開場 6:00pm/開演 7:00pm
5,000円(予約)/6,000円(当日)*全席自由席

東京公演前売りチケット:
スウィート・ドリームス・プレス・ストア(sweetdreams.shop-pro.jp
*12月7日正午より、上記ウェブサイトにて特製チケットの販売を開始します。なお、送料として一律200円がかかりますので、あらかじめご了承ください。また、会場内はすべて自由席、チケットの整理番号順でのご入場となります。

企画・制作:スウィート・ドリームス・プレス
招聘:Ourworks合同会社
協賛:株式会社P-VINE
共催:Cow and Mouse(大阪公演)
音響:Fly-sound(東京公演)

Sweet Dreams Press
www.sweetdreamspress.com
info.sweetdreams@gmail.com

JOANNA NEWSOM: Divers
ジョアンナ・ニューサム/ダイヴァーズ
発売日:2015年10月23日
品番:PCD-18803
価格:定価:¥2,480+税

TRACK LISTING:
1. Anecdotes
2. Sapokanikan
3. Leaving the City
4. Goose Eggs
5. Waltz of the 101st Lightborne
6. The Things I Say
7. Divers
8. Same Old Man
9. You Will Not Take My Heart Alive
10. A Pin-Light Bent
11. Time, As a Symptom


 いまや『ローリング・ストーン』誌も「いまや新しいブルックリン」と評価するアイスランドのエアウェイヴスに今年も行って来た(最近では、ジョン・グラントも引っ越した!)。たしかにレイキャヴィック(アイスランドの首都)のサイズは、ブルックリンのウィリアムスバーグぐらい。
 で、今年、ローカルで良かったバンドを思うがままに挙げてみると……


dj. flugvél og geimskip


bo ningen

 グライムスやコンピュータ・マジックのアイスランド版とも言えるdj. flugvél og geimskip(DJエアロプレインとロケットシップ)に、レイキャヴィッカダートゥア(発音できない……)は革命を起こしたい女の子10人のラップ・グループで、とにかくかわいい。2、3本のマイクを10人で次々にパスして行くのですが、間違えて違う人に渡したりしないのかなぁ、と素朴な疑問を抱いてみたり。ピンク・ストリート・ボーイズは今時珍しい、トラッシーなパンク・バンド。ヴォックは3年連続で見ているが、ドラマーが増え、よりバンドらしくなり、大御所の風格さえあった。シュガー・キューブスのリード・シンガーだった、エイナーのヒップホップ・プロジェクト、ゴースト・デジタルの大人気っぷりは流石、レコード屋から人が溢れ、道を渡ったところにも人が盛りだくさん。
 レイキャビックの『ヴィレッジ・ヴォイス』とも言われる、情報紙『grapevine』のライターのポールさんによると、ダークで、奇妙で、突拍子もない、Kælan Miklaが今年のエアウエイズのベスト1だと言っていた。私は、世にも美しい音を奏でるMr. sillaに一票。


pink street boys

 エアウエイヴスは、ニューヨークのCMJやオースティンのSXSWのアイスランド版と言った所だが、より個人が主張し、インディ感覚を忘れていない。リストバンドの種類がアーティスト、プレス、フォト以外にダーリンというVIPパスかあり、ダーリンを持っていると、長い列に並ばなくても良い。人気のショーはリストバンドがあっても列に並ばないとだめで、このダーリン・パスは大活躍だった。
 今年のハイライトは、ホット・チップ、ビーチ・ハウス、ファーザー・ジョン・ミスティ、バトルズ、アリエル・ピンク、パフューム・ジニアス、ボー・ニンゲン、グスグスなどで、私のハイライトは、断然ボー・ニンゲン。ブルックリンでも見て親近感が湧いたが、オフ・ステージでの腰の低さも好かれるポイントなのだろう。
 Samarisやkimonoのメンバーとアイスランド、ロンドン、日本、そして音楽に関しての対談が『grapevine』に掲載されている。
 今年のCMJではアイスランド・エアウエイヴスもショーケースを出し(dj. flugvél og geimskip, fufanu, mammútが出演)、アイスランドとブルックリンの位置はどんどん近くなっている気がする。

 昨年と比べて、街は少しだが変わっていた。空き地が取り壊され、新しいホテルができ、コーポレート企業が少ないアイスランドにダンキン・ドーナツができていた。と思えば、フリーマーケットに行くと、シガーロスのオリジナルのポスターが普通に売られていたり、道を跨ぐと壁にグラフィティが満載だったり、街には文化の匂いがする。ご飯は魚が新鮮で、何を食べても美味しいが、羊の頭、というギョッとするものがスーパーマーケットに売っていたりもする。名物は、パフィン(=ニシツノメドリ)とクジラですから。
 エアウエィヴスHQ近くのハーパ(窓のステンドグラスは光によって色が変わる!)と自然の美しさは相変わらずで、まるで他の惑星にいるような感覚に陥る。近くの水辺でまったりしていると、何処からともなく人が現れ、この最高の景色を共有出来る偶然と贅沢を、改めて堪能。こんな景色を毎日見ていたら、創作欲もどんどん湧く、と羨ましくも納得していた。


シガー・ロスのポスター


ニューヨークから直航便で6時間、時差は5時間。


 そしてニューオリンズ。今回はバンドのツアーで来たが、町も音楽も想像以上に素晴らしかった。ニューオリンズといえば、ブルースやジャズのイメージだが、インディ・ロックも、エレクトロ、ダンス・ミュージック、ヒップホップも何でも見ることができる。音楽会場がたくさん並ぶエリア(フレンチ・クオーター)では、バー、レストランなどがズラーッと並び、バーホップを楽しめる。ロック、ブルース、ジャズ、ホーン隊が10人以上いるビッグバンドや、2ピースのエレクトロ・ダンシング・バンド等、ミュージシャンはさすがに上手く、観光地になるに連れてカバーバンドが多かった。お客さん同士仲良くなるなどノリも良く、こちらは毎日がCMJやSXSWな感じ。
エレキング読者には、フレンチ・クオーターからは少し離れるが、私たちがショーをしたサターン・バーがオススメ。ここは元ボクシングを観戦する会場で、バルコニーが四方をグルっと囲み、バンドを180度何処からでも上から眺められる。何気に天井がプラネタリウムの様になっていたり、サターン(土星)が壁に、ドーンと描かれ、場末な感じが最高だった。
 今回お世話になったのは、ビッグ・フリーダ、シシー・バウンスなどでDJをしているDJ Rasty Lazer。ニューオリンズ・エアリフトも主催するニューオリンズのキーパーソンである。

www.neworleansairlift.org
https://en.wikipedia.org/wiki/Bounce_music

 エア・リフトが今年2015年夏に開催したアート/音楽・プロジェクト、「ミュージック・ボックス」の映像を見せてくれた。



 大きなフィールドに、多様なアートピースを創り、ミュージシャンが音楽を奏でるのだが、ディーキン(アニマル・コレクティブ)やイアン(ジャパンサー)、ニルス・クライン、ウィリアム・パーカーなど、面白いほどに、ブルックリン他のなじみある顔のミュージシャンが参加していた。

 このプロジェクトにも参加していたラバーナ・ババロンは、4年ほど前にブシュウィックで知り合ったアーティストだが、いつの間にかブルックリンからベルリンを経由し、ニューオリンズに引っ越していた。彼女曰く、ブルックリンより、こちらの方がアート制作に時間を費やせるし、露出する場がたくさんあると。たしかに彼女のようなパフォーマーは、あたたかい気候が合っているのかもしれない。
 そのDJ Rusty Lazerがキュレートするパーティにも遊びに行ったが、規模がブルックリンとまったく違うことに驚く。会場の大きなウエアハウスは南国雰囲気。手前にバー、真ん中にはトロピカルな藁のバー、回転車輪(ネズミの様にクルクル回る)、ポップコーンバス(中で男の子がポップコーンをホップし続けている)、ダンスホール(バウンス・ミュージック)、映像部屋(自分がライトの中に入っていける)、ライト&ペーパーダンスホール(上から紙のリボンが垂れ下がり、ブラック・ライトが照らされた部屋)、野外映画、仮装部屋(いろんなコスチュームが揃い、みんなで写真が撮れる)など、もりもりたくさんのエンターテイメントが用意されていた。人も今日はハロウィン? と思うくらいドレスアップ(仮装)している人ばかりで、こちらは毎日ハロウィン。

ニューヨークからは直行便で3時間半と。時差は1時間。

 全く違う2都市だが、空港に降り立った時から、違う空気を感じ、気候が音楽に与える影響も感じる。この2都市のパーティにかけるピュアな姿勢と気合は、ブルックリンは断然負けている。ブルックリンはパーティしつつも、頭は何処かで冷静だったりもする。さらに人びとが次々繋がっていくのが面白い。小さなインディ・ワールドにいるからか、今回もニューオリンズやレイキャビクからブルックリンの知り合いが繋がっていった。ブルックリンのエッセンスは、何処かで継がれていくのだろう。

世界はまだダニエル・クオンを知らない - ele-king

入学おめでとうございます - ele-king

 いきなりですが、赤塚不二夫先生生誕80周年記念行事のひとつとして、今週から、まさかのバカ田大学の特別講義がはじまります。場所は東京大学。ジム・オルークのファンにもお馴染みの坂田明先生、ドミューン宇川直宏先生の講義もあります。この機会をお見逃しなく。

 追記:先日、晴れて文庫化された、赤塚りえ子氏の名著『バカボンのパパよりバカなパパ』の後書きは大友良英氏。帯には氏の言葉が書かれています。「今の日本には赤塚不二夫が足りない!!」。
 赤塚不二夫生誕80周年祭、来年の9月14日まで続くそうです。

■バカ田大学
・開催日程:2015年12月1日(火)~2016年3月31日(水)
・開催場所:東京大学 山上会館(東京都文京区本郷 7-3-1)
・授業料 1コマ5,500円(税込/受講者全員にオリジナルノート付き) ※未就学児童入場不可
《チケット購入方法》一般発売日: 2015年11月14日(土) ・チケットぴあ https://w.pia.jp/t/akatsuka80/ Tel0570-02-9999
セブン‐イレブン/サークルK・サンクスで直接購入可能。 ・アーク https://ark.on.arena.ne.jp

■講師

河口洋一郎
2015年12月1日(火)

みうらじゅん
2015年12月5日(土) 2016年2月20日(土)

安齋肇
2015年12月5日(土) 2016年2月19日(金)

宮沢章夫
2015年12月26日(土) 2015年12月26日(土)

坂田明
2016年1月12日(火) 2016年2月18日(木)

浅葉克己
2016年1月28日(木) 2016年2月28日(日)

喰始
2016年2月6日(土) 2016年2月10日(水)

三上寛&宇川直宏
2016年2月14日(日) 2016年2月27日(土)

泉麻人
2016年2月19日(金) 2016年2月27日(土)

(※まだまだ続くそうです)

『ノーツ』についてのノート - ele-king

 今回のアルバムのA&Rを務めました、柴崎と申します。日々、いろいろなアーティストの皆さんのCDやレコードの制作を担当させてもらっています。そんな中、今回はダニエル・クオンというこの特異なアーティストとアルバム『ノーツ』について、制作に関わったものとして、その魅力と妙味が皆さんへ伝わって欲しい…という思いのもと、おこがましくも筆を取らせていただいております。アルバムの内容の論評については他執筆陣の皆さんが手がけられていると思いますので、ここではレコーディングを進めていくにあたってのエピソードや私が感じたことを中心に、記してみたいと思います。

 私が初めてダニエルと出会ったのは、東京・高円寺の〈円盤〉で月例開催されているイヴェント「不明なアーティスト」において。一般的には未だ名が広く知られているとはいえないけれど個性的なアーティスト諸氏を迎え、まずはじめに演奏を披露してもらい、その後に企画者の新間功人氏(1983, ENERGISH GOLF etc)と不肖私を交え、昨今ミュージシャンに訊く機会もなかなか無いであろう「最近お気に入りの音楽」について改めてじっくりトークをするという趣旨の集まりなのですが、2013年6月に行われたその第1回目ゲストの一人としてダニエル・クオン氏を迎えたのでした。それまで私は漠然とした知識で彼の活動や存在は把握していたのだけれど、実際にどんな音楽を奏で、どんな人となりなのかといったことはその時点では失礼ながらよく知らずにいました。また、その時のライヴ演奏もじつをいうとあまり記憶に残っていなくて(本イヴェントの第1回目ということもあり「自分もこの後トークショーへ登壇する」ということへの緊張が烈しかったもので……)なんとも不甲斐ない限りなのですが、よく憶えているのは、彼の特異なキャラクターとその音楽趣味でありました。6月にもかかわらず外套を羽織り、終始俯き気味の姿勢で、日本語と英語を交えてポロリポロリと語るその姿容のインパクトもさることながら、彼が好む音楽として紹介していた数々のレコードのチョイスの興味深かったこと。チャールズ・アイヴス、ポール・マッカートニーの『マッカートニー2』、石川セリ、スコット・ジャレットなどなど……。その乱脈なチョイスからうかがわれる音楽嗜好に強く惹かれた私は、さまざまなレコード・トリビアでダニエルともども大盛り上がり、お陰様でトークショーは快調、お客様にもご満足いただいた(のではないか)……という一幕となりました。

 その後私も何やかやと日々を過ごす中、当時ファースト・アルバムをリリースしたばかりだった森は生きているのメンバー岡田拓郎氏よりある日、「ダニエル・クオンの『Rくん』(*1)聴きました? すごいですよ」と聞かされ、「ダニエルってあのダニエルか」と思った私は早速入手し、果たしてびっくりしたのでした。すごくて。あの、嬉しそうにレコードの話をするうつむき加減の青年の姿容と、この極めて刺激的な作品の内容が非常にすんなりと自分の中で結合していくのでした。「エクスペリメンタル」や「アヴァンギャルド」と形容しても、どこかそれだけでは捉え得ないユーモアや諧謔も色濃く匂い立ち、すっかり気に入った私は人に会うと「『Rくん』、いいよねー」などと喧伝する日々となったのでした。そんな知ったようなことを喧伝しながらも、実際に彼に再会する機会には恵まれること無く日々は過ぎていったのですが、2013年の冬ころだったかと思いますが、ある時ダニエルが新しいアルバムを作ろうとしているという情報をキャッチし、実際本人に再度会ってみて、どんな作品つくりたいのか、聞いてみましょうということになりました。その再邂逅の場でもはじめは俯き気味の彼でしたが、お互いにアルコールがからだに入ると饒舌になるという生理現象を最大限に活用し、具体的なアルバム制作のことはうちやって、エミット・ローズやクイーン、スパークス、フリートウッド・マック、フランク・ザッパなどなどのレコードについて、前述の岡田氏の他に同席していたPadok氏も巻き込んで、ただただみんなしゃべりまくり……その日のことはよく覚えていません。

 いま振り返って思い出したのですが、ダニエルと会うとお酒を飲んでばかり……。ひたすら最近聴いているレコードの話や彼の日々の生活の鬱屈についてなど、まるで制作と関係無いようなことばかりを話していた気がしますが、もちろんダニエルも私もサボっていたわけではなく、ゆっくりとしたペースではあれど、アルバム制作に向けての準備は着々と進んでいき、2014年春頃には録音担当のPadok氏と具体的な製作方法を吟味し、スタジオを選定(*2)するなど具体的な作業がはじまっていきました。

 そして……そこからはもう一気呵成、怒涛の工程で、と書きたいところであるのですが、まさしくここからが彼の真の才気と本領を思い知ることに……。溢れ出るアイデアが溢れるままに任せる彼のレコーディング・ワークに、私やPadok氏、ドラムス担当の牛山健氏も頭に「??」を浮かべながらも応えていく日々。そもそも楽曲の「構成」を決め込んでからレコーディングに臨む、といった一般的な手法は彼にとってはあくまで手法の一つでしかなく(当たり前と言っては当たり前なのですが)、次々に変化を遂げていく楽曲に、その日のその日のラフミックスを聴く私は「あれがこの曲でこれがあの曲で、これがこう録り直したからこうなって、こういう楽器が入っているファイルが最新でこれが前のやつで……」と頭のなかが沸騰寸前、というか沸騰してしまい……そこで悟ったのです。これは一度自分の中の自明性を破壊せねばならぬ、と。何を大袈裟な、というハナシですが、ダニエルの提出するアイデアのスピード感に追いついていくためには、このようなある種の達観というか、「なんでもこいや」的に自分の心身を大きなアンテナに化し、ある種のアフォーダンス状態に自分をおいて……とかとかぐるぐると考える日々。私などからすると「ここにそんなフレーズを!? え、逆にあそこはなにも手を付けないの!?」といった具合で喫驚するばかりでしたが、煩悶しつつも一方で確信めいたような態度とともに、スタジオでいろいろな想念を爆発させながら試行錯誤を繰り返しているダニエルの姿が印象的でした。この時期、増村和彦氏を招いたパーカッション録音(増村氏は後に数曲のドラムスでも演奏に参加)や、小林うてな氏を招いたスティール・ドラムの録音なども行っています。

 そして、2015年に入ってからも散発的にスタジオ作業を続けながら、入れ替わるように、牛山氏宅などでの録音や、ダニエル一人によるレコーディングとミックスの作業に入っていくことになります。同時にレコーディング機材環境の整備や新たな曲への制作などを行いながら、今回のアルバム『ノーツ』に特徴的に聴かれるフィールドレコーディングの作業も彼は日常的に行っていたようです。彼本人もその方法を私に語ってくれたことがありますが、映像的な感覚を重視して、それぞれの音を採集し、配置していくという行き方の元、モノクロの下書きに彩色されるように加えられていく音の数々。都市生活に浸っている我々には当たり前すぎて見過ごし聞き逃してしまうような日常的な雑音(電車の発車ベルであったり、街頭での演説であったり、遊戯にふける児童の嬌声であったり……)が、音として掬い取られていくようでした。

 あるとき、ダニエルがお気に入りとして挙げた小説として、19世紀末フランスの作家J.K.ユイスマンス(*3)による小説『さかしま』があります。この象徴主義の巨匠の代表作は、日本では澁澤龍彦訳によっても読まれている古典的名著でありますが、遺産を食いつぶしながら隠遁生活を送る貴族である主人公デ・ゼッサントが、蕩尽の限りを行うばかりで物語的な筋というものもとくに無い、だけれど非常に特異な魅力を湛えた小説です。デカダンの大伽藍的な作品として世に評価されていることもあり、ダニエルもそのようなデ・ゼッサントの浮世を厭うピカレスク的な一面に共感を抱いているのかな? と思ったりもしましたが、どうやらもっと違った共通点があるような気がしてきました。


ジョリ・カルル・ユイスマンス
『さかしま』(1884)
※桃源社 1962 /
光風社 1984 /
河出文庫 2002
 
澁澤龍彦訳

 デ・ゼッサントはまあ確かに、現代の視点から見ると、経済的な生産活動を忌避してただ個人的な消費と愉楽に遊ぶいわゆる「ダメ人間」ではありますが、重要な点はそうした彼の生活風紀上の特異さについてではなくて、もっと根本的な、モノや美を観るときの視点という気がするのです。たとえば、デ・ゼッサントが、色彩に対して異常なコダワリを開陳しながら屋内の調度品の配置を物語っていくところなど、まるでダニエルがさまざまな楽器の音色効果とその配置を嬉々として語っている顔が浮かんでくるみたいです(ちなみに、ダニエルはデザイナーでもあります)。また、「健康的な読み物」としてのディケンズの小説を読み触発されたデ・ゼッサントが、思い立ってロンドンへ旅行しようと外に出かけようとしたけれど、どうせ旅先では不愉快なことがたくさんあるんだろう……と月並みな旅行中に具体的に起こりうる不愉快な事案を次々に思い浮かべたとたんにロンドン行きを翻意にして、そして、そうした想念が膨らんでくるにしたがい、そもそもそういう想念をもって起こりうる自体が事細かに心に浮かんだ時点でもう彼の地(ロンドン)に行ったのも同然だからもはや行かなくてもいい、むしろ想念上のロンドンの方が事実自分にとっては気味のよいものであろうと嘯く場面……。そんな場面に見られるような、ユイスマンスならではの曲折したユーモアについても、ダニエルのそれと共振をしているのではないかと感じます。これは、単なる主人公デ・ゼッサントの負け惜しみ的述懐というわけではなく(一見そう感じさせるところにユイスマンスの卓越したユーモアセンスがあるわけですが)、頭のなかで想念がインフレーションを起こした時に現れる滑稽を愛でるような筆致で描かれたこのロンドン旅行取り止め事件は、世に広く共有される現場・経験重視的な思考法への軽蔑と撹乱、想念の側に美徳の盃を取らせる象徴的な勝利宣言でもあるとも読めるわけです。そして、ダニエルにおける「音」と小説のここでのトピックたる「旅」が並置されるとき、大勢の人に経験されることでさまざまな意味付与をされクリシェへと成り下がってしまった「意外性に乏しいポップミュージック」(=多くの人に経験されたであろう「意外性に乏しいロンドン旅行」)を珍重するよりも、自らの頭の中に渦巻く想念を培養基として、ポップ・ミュージックの意味性を撹乱し、いきおい想念の自由さを浮かび上がらせるようなダニエルの創作態度との関連性も見えてくるようです。また、デ・ゼッサントが語る、西洋宗教芸術へのペダンチックな興味や、信仰や形而上学的問題への志向性などといった部分でも、本アルバム『ノーツ』の歌詞に数々の現れる宗教的キーワードと何がしかの関係性があるのではないかしら……? あるいは、「シンガーソングライター」という形容を極度に嫌うダニエルのこと、ユイスマンスの反私小説的態度及び反自然主義的な態度にも共鳴をしているのか……? ああ、また頭が沸騰してきました……。

 何やら下手くそなユイスマンス論めいてきてしまったのでこのあたりで止しますが、一方で大変重要なのは、デ・ゼッサントが想念のみの世界に閉じこもるのではなく様々な嗜好品や優れた芸術品の価値を積極的に愛でながら独自の思想を語っていくように、ダニエルも自らの想念のみに拘泥するわけではもちろんなく、これまでに産み落とされてきた優れたポップ・ミュージックへの憧憬を隠そうとしないということでしょう。彼と会う度に語られるエミット・ローズ、スパークス、ルパート・ホルムズ、10ccなどへの敬愛には、それらの先達たちが彼らの想念とともに作り上げた音楽が担ってきたラジカルリズムへのシンパシーと、そうして不断に蓄積されてきたポップ・ミュージックの豊穣な歴史を愛でる確かな視座、そうした重ね合わせを感じるのです。

 こういった考えは、今年夏からのアルバム制作の終盤の頃、彼自身による執拗なダビング作業と音響効果の追求(一般的な「ミックス」という工程上の用語と、ニュアンス的にどうも違うので、「音響効果の追求」と書きます)の日々の中でいろいろとやりとりしながら、私の中で徐々に深まっていったものでした。徐々に歌入れを進める中で明らかになっていく歌詞世界に窺われる、音韻そのものとしての言葉を無遠慮に配置することで意味を無力化していこうとするような鋭敏な感覚と、一方で同時に意味性の連鎖の中に違和を創出してゆくような高度なユーモア性といったもの。あるいは、「A~B~サビ~A~B」といったような一般的なポップ・ソングの構造を食い破るように「A~B~C~D~E……」と、作業を経るごと増殖分裂をしながらアップデートされていく曲構成にしても、ポップ・ソングの定石性へのラジカルな批評になっているようでいて、ポップ・ソングそのものへの理解と偏執とそのフォーマットへの愛が逆説的にほとばしってくる……。そういった二重性というものが彼の創作に通底する態度であり、突出した魅力なのではないか、という考えが日々私の中で強く沸き上がっていき、いよいよマスタリングを経て完成した時に確信となりました。

 つらつらと書き散らしてきましたが、そもそもインサイダーたる私がこのように作品をホメるのも恥ずかしいのですし、こそばゆいことおびただしい。だけれども自信を持っていうことができますが、このアルバムはいわば、ラジカルと歴史的豊穣の重ねあわせの中にたゆたっているポップ・ミュージックのイデアをはっしと掴み、作品の中で充分に輝かせることに成功している、相当に稀なる一作ではないでしょうか。そしてさらには、そうした重ね合わせ状態のテーゼが、どこまで意図的に仕組まれているのかといったこと自体がまた別のミステリーであるという、三次元的な奥行きを持った構造も見え隠れするという……。
 うーん、でもたぶん、ダニエルは苦笑を浮かべながら「柴崎、おまえは考えすぎだ」と言いそうです!
ダニエル・クオンの最新アルバム『ノーツ』、是非末永くお聴きいただけましたら幸いです。きっと、ずっとあとになっても新鮮さを失わない作品だと思いますので。

*1
ダニエルが変名「Rくん」名義でリリースした、前作に当たるアルバム『Rくん』のこと。

*2
宅録とフィールドレコーディング中心の『Rくん』の反動もあり、一般的なスタジオ環境にてドラムをレコーディングしたり、生ピアノでの録音など、いわゆる「一般的な」の制作手法を踏襲するような進め方にトライしたいというダニエルの希望もあり、何曲かのリズム・レコーディングはそうした方法で行いました。

*3
ジョリス=カルル・ユイスマンス。19世紀フランスにおいて象徴主義を代表する作家として活躍した。代表作に、本文でも触れられている『さかしま』がある。

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