「S」と一致するもの

New Order - ele-king

 先日お伝えした石野卓球によるニュー・オーダーのリミックス、詳細が明らかになった。
 その曲「Tutti Frutti - Takkyu Ishino Remix」は、もちろんピーター・サヴィルのデザイン、そしてMUTE品番が付けられ、デジタル配信で12月11日、アナログ(12インチ)は来年3月16日にリリース。デジタル配信、アナログともに本日より予約が開始。まさかこんな未来が待っていたとは……アナログ盤はすぐに売り切れるので、くれぐれもお早めに。

 ちなみに本リミックス音源は、ニュー・オーダーからの影響をテーマにした作品サイト「シンギュラリティ」にて、石野卓球セレクトの「インストゥルメンタル・トラック・ベスト10」と共に全世界に向けて公開されている。本サイトには、石野卓球と並んでロバート・スミス(ザ・キュアー)、ショーン・ライダー(ハッピー・マンデーズ)、アーヴィン・ウェルシュ(映画『トレインスポッティング』原作者)、ザ・ホラーズ、808 ステイト、ラ・ルー、インターポール、ホット・チップ等、錚々たるアーティストが作品を寄せている。


Yasuyuki Suda (inception records) - ele-king

2015.11.29

GUITAR POP definitive 1955 - 2015 - ele-king

ギター・ポップの古今を訪ねる、名盤500枚の旅。

好評のディスクガイド、“ディフィニティヴ・シリーズ”最新刊!フォーク・ロック、ボサノヴァ、カントリー・ポップからネオアコへ、そして、21世紀のギター・ポップへ。

これは、ギター・ポップをめぐる成熟と未成熟の物語だ──。
変わることなく、しかしその不変の輝きによっていつの時代においてもファンを生みつづけてきたギター・ポップ。
本書は、ポスト・パンク期の名門レーベルやバンド、国内においてはネオ・アコースティックとして愛され親しまれたアーティストたちはもとより、彼らに先行する存在へと遡行し、また、新しい世代の音にその遺伝子と普遍性とをたずね、年代順に掲載するディスク・ガイドです。

ラテン・ポップス、ソフト・ロック、ネオ・アコースティック、ギター・ポップ、そして現在。
5つのカテゴリーでつぶさに眺める、新しいギター・ポップ本!

好評のele-king books“ディフィニティヴ・シリーズ”最新刊として登場です。


監修:
岡村詩野

執筆者:
北中正和、木津毅、坂本麻里子、沢井陽子、土屋恵介、デンシノオト、中村義響、野田努、橋元優歩、増村和彦、松村正人、松山晋也、水越真紀、三田格、与田太郎

 今年もっとも輝いた顔のひとつである。ハープを抱いた歌姫、フリーフォークのアイコン、確実にUSインディの一時代を築いたこのシンガー・ソングライターは、しかし同じところにはとどまっていない。ディヴェンドラ・バンハート『クリップル・クロウ』から10年、アニマル・コレクティヴ『フィールズ』からも10年だ。はやすぎて恐ろしい。

いま彼女は街に両足をつけ、ひとりの女として、歌うたいとして、そのなかに渦巻く感情のドラマツルギーでこそわたしたちを魅了する
(木津毅によるレヴュー、ご一読をお奨めしたい! )

 そう、新しいジョアンナは新しい歌をうたっている。それは今作を支えた編成とともに見るときもっとも鮮やかに、そしてもっとも直接的に感じられるだろう。東京はグローリア・チャペルでの公演も楽しみだ。

■Joanna Newsom Japan Tour 2016
ジョアンナ・ニューサム ジャパン・ツアー2016

 2015年秋にリリースされた最新アルバム『ダイヴァーズ』の興奮冷めやらぬ中、その歌声とハープで世界を魅了しつづけるジョアンナ・ニューサム6年ぶりのジャパン・ツアーが決まりました。彼女の歌とグランド・ハープ、ピアノを囲む今回の演奏家はライアン・フランチェスコーニ、ミラバイ・パート、ピーター・ニューサム、そしてヴェロニク・セレットの4人。もちろん『ダイヴァーズ』の大きな音楽世界を支えた選り抜きのメンバーたちです。さて、手を伸ばせば、世界でもっとも鮮やかなユートピアがそこで待ち受けています。息を吐き、足で蹴り、浮かび上がるダイヴァーたちの群れ。もちろん次はあなたが飛び込む番!

■ジョアンナ・ニューサム(Joanna Newsom)
米カリフォルニア州ネヴァダ・シティ生まれのハープ奏者/シンガー・ソングライター。グランド・ハープの弾き語りというユニークなスタイルで2000年代音楽シーン最大の「発見」のひとりでもある。これまでに『ミルク・アンド・メンダー』(2004年)、『Ys』(2006年)、『ハヴ・ワン・オン・ミー』(2010年)、『ダイヴァーズ』(2015年)と4枚のアルバムを米ドラッグ・シティ(国内盤はPヴァインから)より発表し、その世界観を大きく拡張。その音楽要素をジャンル名で回収することはおろか、もはや大きな「音楽」としか名づけられない唯一無二の個性となった。近年は2014年のアカデミー賞2部門にノミネートされた映画『インヒアレント・ヴァイス』に女優として出演、ナレーションも手がけるなど活躍の場を広げている。

公演

1月26日(火)
大阪 大阪倶楽部 4階 大ホール(06-6231-8361)
大阪府大阪市中央区今橋4-4-11
開場 6:00pm/開演 7:00pm
5,000円(予約)/5,500円(当日)*全席自由席
予約受付は12月7日正午より開始します。
予約:Cow and Mouse(cowandmouse1110@gmail.com)
予約方法:件名に「ジョアンナ・ニューサム大阪公演」と明記の上、お名前(フルネーム)、お電話番号、チケット枚数をご記入いただき、上記メール・アドレスまでご送信ください。確認後、購入方法を折り返しお知らせいたします。なお、携帯電話から申し込まれる方は、PCメールの拒否設定をされていませんようご確認ください。また、会場内はすべて自由席、ご来場順でのご入場となります。
大阪公演問い合わせ先:ハルモニア(080-3136-2673)、
Cow and Mouse
cowandmouse.blogspot.jpwww.facebook.com/cowandmouse

1月27日(水)
東京 キリスト品川教会 グローリアチャペル(03-3443-1721)
東京都品川区北品川4-7-40
開場 6:30pm/開演 7:30pm
5,000円(予約)/6,000円(当日)*全席自由席

1月28日(木)
東京 キリスト品川教会 グローリアチャペル(03-3443-1721)
東京都品川区北品川4-7-40
開場 6:00pm/開演 7:00pm
5,000円(予約)/6,000円(当日)*全席自由席

東京公演前売りチケット:
スウィート・ドリームス・プレス・ストア(sweetdreams.shop-pro.jp
*12月7日正午より、上記ウェブサイトにて特製チケットの販売を開始します。なお、送料として一律200円がかかりますので、あらかじめご了承ください。また、会場内はすべて自由席、チケットの整理番号順でのご入場となります。

企画・制作:スウィート・ドリームス・プレス
招聘:Ourworks合同会社
協賛:株式会社P-VINE
共催:Cow and Mouse(大阪公演)
音響:Fly-sound(東京公演)

Sweet Dreams Press
www.sweetdreamspress.com
info.sweetdreams@gmail.com

JOANNA NEWSOM: Divers
ジョアンナ・ニューサム/ダイヴァーズ
発売日:2015年10月23日
品番:PCD-18803
価格:定価:¥2,480+税

TRACK LISTING:
1. Anecdotes
2. Sapokanikan
3. Leaving the City
4. Goose Eggs
5. Waltz of the 101st Lightborne
6. The Things I Say
7. Divers
8. Same Old Man
9. You Will Not Take My Heart Alive
10. A Pin-Light Bent
11. Time, As a Symptom


 いまや『ローリング・ストーン』誌も「いまや新しいブルックリン」と評価するアイスランドのエアウェイヴスに今年も行って来た(最近では、ジョン・グラントも引っ越した!)。たしかにレイキャヴィック(アイスランドの首都)のサイズは、ブルックリンのウィリアムスバーグぐらい。
 で、今年、ローカルで良かったバンドを思うがままに挙げてみると……


dj. flugvél og geimskip


bo ningen

 グライムスやコンピュータ・マジックのアイスランド版とも言えるdj. flugvél og geimskip(DJエアロプレインとロケットシップ)に、レイキャヴィッカダートゥア(発音できない……)は革命を起こしたい女の子10人のラップ・グループで、とにかくかわいい。2、3本のマイクを10人で次々にパスして行くのですが、間違えて違う人に渡したりしないのかなぁ、と素朴な疑問を抱いてみたり。ピンク・ストリート・ボーイズは今時珍しい、トラッシーなパンク・バンド。ヴォックは3年連続で見ているが、ドラマーが増え、よりバンドらしくなり、大御所の風格さえあった。シュガー・キューブスのリード・シンガーだった、エイナーのヒップホップ・プロジェクト、ゴースト・デジタルの大人気っぷりは流石、レコード屋から人が溢れ、道を渡ったところにも人が盛りだくさん。
 レイキャビックの『ヴィレッジ・ヴォイス』とも言われる、情報紙『grapevine』のライターのポールさんによると、ダークで、奇妙で、突拍子もない、Kælan Miklaが今年のエアウエイズのベスト1だと言っていた。私は、世にも美しい音を奏でるMr. sillaに一票。


pink street boys

 エアウエイヴスは、ニューヨークのCMJやオースティンのSXSWのアイスランド版と言った所だが、より個人が主張し、インディ感覚を忘れていない。リストバンドの種類がアーティスト、プレス、フォト以外にダーリンというVIPパスかあり、ダーリンを持っていると、長い列に並ばなくても良い。人気のショーはリストバンドがあっても列に並ばないとだめで、このダーリン・パスは大活躍だった。
 今年のハイライトは、ホット・チップ、ビーチ・ハウス、ファーザー・ジョン・ミスティ、バトルズ、アリエル・ピンク、パフューム・ジニアス、ボー・ニンゲン、グスグスなどで、私のハイライトは、断然ボー・ニンゲン。ブルックリンでも見て親近感が湧いたが、オフ・ステージでの腰の低さも好かれるポイントなのだろう。
 Samarisやkimonoのメンバーとアイスランド、ロンドン、日本、そして音楽に関しての対談が『grapevine』に掲載されている。
 今年のCMJではアイスランド・エアウエイヴスもショーケースを出し(dj. flugvél og geimskip, fufanu, mammútが出演)、アイスランドとブルックリンの位置はどんどん近くなっている気がする。

 昨年と比べて、街は少しだが変わっていた。空き地が取り壊され、新しいホテルができ、コーポレート企業が少ないアイスランドにダンキン・ドーナツができていた。と思えば、フリーマーケットに行くと、シガーロスのオリジナルのポスターが普通に売られていたり、道を跨ぐと壁にグラフィティが満載だったり、街には文化の匂いがする。ご飯は魚が新鮮で、何を食べても美味しいが、羊の頭、というギョッとするものがスーパーマーケットに売っていたりもする。名物は、パフィン(=ニシツノメドリ)とクジラですから。
 エアウエィヴスHQ近くのハーパ(窓のステンドグラスは光によって色が変わる!)と自然の美しさは相変わらずで、まるで他の惑星にいるような感覚に陥る。近くの水辺でまったりしていると、何処からともなく人が現れ、この最高の景色を共有出来る偶然と贅沢を、改めて堪能。こんな景色を毎日見ていたら、創作欲もどんどん湧く、と羨ましくも納得していた。


シガー・ロスのポスター


ニューヨークから直航便で6時間、時差は5時間。


 そしてニューオリンズ。今回はバンドのツアーで来たが、町も音楽も想像以上に素晴らしかった。ニューオリンズといえば、ブルースやジャズのイメージだが、インディ・ロックも、エレクトロ、ダンス・ミュージック、ヒップホップも何でも見ることができる。音楽会場がたくさん並ぶエリア(フレンチ・クオーター)では、バー、レストランなどがズラーッと並び、バーホップを楽しめる。ロック、ブルース、ジャズ、ホーン隊が10人以上いるビッグバンドや、2ピースのエレクトロ・ダンシング・バンド等、ミュージシャンはさすがに上手く、観光地になるに連れてカバーバンドが多かった。お客さん同士仲良くなるなどノリも良く、こちらは毎日がCMJやSXSWな感じ。
エレキング読者には、フレンチ・クオーターからは少し離れるが、私たちがショーをしたサターン・バーがオススメ。ここは元ボクシングを観戦する会場で、バルコニーが四方をグルっと囲み、バンドを180度何処からでも上から眺められる。何気に天井がプラネタリウムの様になっていたり、サターン(土星)が壁に、ドーンと描かれ、場末な感じが最高だった。
 今回お世話になったのは、ビッグ・フリーダ、シシー・バウンスなどでDJをしているDJ Rasty Lazer。ニューオリンズ・エアリフトも主催するニューオリンズのキーパーソンである。

www.neworleansairlift.org
https://en.wikipedia.org/wiki/Bounce_music

 エア・リフトが今年2015年夏に開催したアート/音楽・プロジェクト、「ミュージック・ボックス」の映像を見せてくれた。



 大きなフィールドに、多様なアートピースを創り、ミュージシャンが音楽を奏でるのだが、ディーキン(アニマル・コレクティブ)やイアン(ジャパンサー)、ニルス・クライン、ウィリアム・パーカーなど、面白いほどに、ブルックリン他のなじみある顔のミュージシャンが参加していた。

 このプロジェクトにも参加していたラバーナ・ババロンは、4年ほど前にブシュウィックで知り合ったアーティストだが、いつの間にかブルックリンからベルリンを経由し、ニューオリンズに引っ越していた。彼女曰く、ブルックリンより、こちらの方がアート制作に時間を費やせるし、露出する場がたくさんあると。たしかに彼女のようなパフォーマーは、あたたかい気候が合っているのかもしれない。
 そのDJ Rusty Lazerがキュレートするパーティにも遊びに行ったが、規模がブルックリンとまったく違うことに驚く。会場の大きなウエアハウスは南国雰囲気。手前にバー、真ん中にはトロピカルな藁のバー、回転車輪(ネズミの様にクルクル回る)、ポップコーンバス(中で男の子がポップコーンをホップし続けている)、ダンスホール(バウンス・ミュージック)、映像部屋(自分がライトの中に入っていける)、ライト&ペーパーダンスホール(上から紙のリボンが垂れ下がり、ブラック・ライトが照らされた部屋)、野外映画、仮装部屋(いろんなコスチュームが揃い、みんなで写真が撮れる)など、もりもりたくさんのエンターテイメントが用意されていた。人も今日はハロウィン? と思うくらいドレスアップ(仮装)している人ばかりで、こちらは毎日ハロウィン。

ニューヨークからは直行便で3時間半と。時差は1時間。

 全く違う2都市だが、空港に降り立った時から、違う空気を感じ、気候が音楽に与える影響も感じる。この2都市のパーティにかけるピュアな姿勢と気合は、ブルックリンは断然負けている。ブルックリンはパーティしつつも、頭は何処かで冷静だったりもする。さらに人びとが次々繋がっていくのが面白い。小さなインディ・ワールドにいるからか、今回もニューオリンズやレイキャビクからブルックリンの知り合いが繋がっていった。ブルックリンのエッセンスは、何処かで継がれていくのだろう。

世界はまだダニエル・クオンを知らない - ele-king

入学おめでとうございます - ele-king

 いきなりですが、赤塚不二夫先生生誕80周年記念行事のひとつとして、今週から、まさかのバカ田大学の特別講義がはじまります。場所は東京大学。ジム・オルークのファンにもお馴染みの坂田明先生、ドミューン宇川直宏先生の講義もあります。この機会をお見逃しなく。

 追記:先日、晴れて文庫化された、赤塚りえ子氏の名著『バカボンのパパよりバカなパパ』の後書きは大友良英氏。帯には氏の言葉が書かれています。「今の日本には赤塚不二夫が足りない!!」。
 赤塚不二夫生誕80周年祭、来年の9月14日まで続くそうです。

■バカ田大学
・開催日程:2015年12月1日(火)~2016年3月31日(水)
・開催場所:東京大学 山上会館(東京都文京区本郷 7-3-1)
・授業料 1コマ5,500円(税込/受講者全員にオリジナルノート付き) ※未就学児童入場不可
《チケット購入方法》一般発売日: 2015年11月14日(土) ・チケットぴあ https://w.pia.jp/t/akatsuka80/ Tel0570-02-9999
セブン‐イレブン/サークルK・サンクスで直接購入可能。 ・アーク https://ark.on.arena.ne.jp

■講師

河口洋一郎
2015年12月1日(火)

みうらじゅん
2015年12月5日(土) 2016年2月20日(土)

安齋肇
2015年12月5日(土) 2016年2月19日(金)

宮沢章夫
2015年12月26日(土) 2015年12月26日(土)

坂田明
2016年1月12日(火) 2016年2月18日(木)

浅葉克己
2016年1月28日(木) 2016年2月28日(日)

喰始
2016年2月6日(土) 2016年2月10日(水)

三上寛&宇川直宏
2016年2月14日(日) 2016年2月27日(土)

泉麻人
2016年2月19日(金) 2016年2月27日(土)

(※まだまだ続くそうです)

ダニエル・クオン - ele-king

Ha Ha, Just notes 増村和彦

 ──『ノーツ』というアルバム・タイトルが象徴する掌編的小曲は、集合体となって、永遠に未完のまま無限に続く可能性を燻らせている。

 Pヴァインのオフィシャル・インフォにも「ポピュラーミュージック症の重篤患者」とある通り、彼の音楽的な素養には驚くばかり。アルバムに収録された小曲はトラック数の数倍に及ぶというメロディ・メイカーぶりはビートルズを彷彿させるほどであるし、奇抜でありながら普遍性を身に纏うアレンジやミックスにキース・オルセンやカート・ベッチャーを重ね合わせるかもしれない。その手のことは、枚挙に暇がないが、裏側から対象を眺めるような観察観の鋭さは、言わば「aに対するa´」を勝ち得ている。作品からaを探し出すことは簡単かもしれないが、さまざまな音楽遺産の中から彼のa´を見出した時一つの幸福感を味わえるに違いない。それは同時に、音楽遺産の上に新たな視点を提示してくれる。
 そのような経験的な音楽の領域に説得力を持たせているのが、詩的な領域だ。何もコンセプトや歌詞のことではない。各曲は物語としては掌編的に完結していくが、そこにカタルシスはない。不満なき完結はある意味では死を意味する。はちきれんばかりのリビドーが(#5“mr.kimono”の頭のローズ・ピアノなんて手で掴めそうだ)、浄化されることなくアルバム全体を流れつづけることによって、長編のようないつ終わるとも知れない味わいを持たせている。タイトルの「note」と「複数形」の意味をそこに見た気がした。

 彼にそんなことを言ってもきっと「haha, just notes」と言うはずだ。それはそうにちがいない。矛盾するように同居するムードの気楽さが作品をしてベタつかせていない。各所に散りばめられたフィールド・レコーディングが、自己の中に入り込もうとするものでなく、映画の1コマのような効果を与えていることも象徴的だ。時に顔を出すシニカルな側面にも深刻さはない。これもタイトルが示すところであろう。

 たしかに、このアルバムにハイライトやメッセージ性はないかもしれない。彼の場合は、さまzまな倒錯や幻想の形態化自体がユーモアや物語を帯びながら音楽をなしていくところがあるように思う。それは、自己満足の空しい作業かもしれないが、閉ざされた空間で日曜日にしか愛好されない音楽の中にあって、稀有な存在であり、われわれはそのようなものに心酔するはずだ。

 ……なんだか難しいように書いてしまったかもしれないが、最後に一つ。ここまで歌が聴けるアルバムもなかなかないだろう。

増村和彦

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呪われたようにポップ 松村正人

 さきほど『ele-king』本誌にジム・オルークの原稿を書き終えた勢いというか熱さめぬままというか惰性というか、そういうもののまま、ジョン・フェイヒィの“Requiem For Molly”を聴いていたとき、それとアイヴズの交響曲4番と異同にあらためて慄然とし、本稿でそれをもちこんだのはそこに書き漏らしたためなのだが、この傾向を、かつて私たちはジムの音楽を述べるにあたりアメリカーナと呼びならわしたものの、ことばの深いところでそのことを考えてはこなかった。不在あるいは架空のルーツといい条、語りの構造を語らないことで片手落ちになっており、これは保坂和志が『遠い触覚』でリンチ(のおもに『インランド・エンパイア』)を語るさいのフィクションがたちあがるときの「遠さ」とも重なるが、このことについては別稿に譲るとして、私たちは音楽にドリームないしドリーミィの単語を被せるときその形容詞を甘くみすぎている。

 もっとも私は夢をほとんど見ないし、見たとしても脈絡のないものばかりなので実感はないが世の中にはどうも楽しい夢もあるらしい。願うだけであるものが手に入る万能感、おしよせる多幸感──それを音楽にこじつけると、いや、音楽はいまや思うことのすべてをだれもがひとりでたやすく実現できる、まさに夢の世界だが、想像できる範疇でできた音楽などとるにたらない。私はなにがいいたいかというと、夢の力学とはガタリがカフカを述べるにあたりもちだした「夢の臍」から来るもので、それはほとんど受動的な万能感といえるほどのある種の恐慌状態を指すとものであり、万能なのは夢そのものであり見る側ではない。というと付け焼き刃のフロイト派のようであり、しかも音楽をふくむフィクション全般を語るにそれをもちいることの、ジジェクめいたあやうさももちろんあるのだけど、なんかしっくり来ないのよ、柳沢慎吾に「いい夢見ろよ」といわれるたびに、うーむとなってしまう私としては。いい夢見たことないし。

 私はシンガー・ソングライター、ダニエル・クオンを知ったのは、このレヴューを引き受けてからという、はずかしながらクオンさんヴァージンの私だが『ノーツ』には巷間のドリーム・ポップに私の抱いてきたどこか食えない感じとは似ても似つかないものをもっている。略歴そのほかは健筆な著者の別稿をご参照いただきたいが、森は生きているの岡田拓郎、増村和彦はじめ、牛山健、小林うてなといった、数年前の日本移住後、東京インディ界隈で培った人脈を投入した『ノーツ』は、私は浅学ぶりをさしひいても確実にポップ度は増した。私が空手形を切っていると思われる方もおられようが断言します、『ノーツ』以上にポップな作品がおいそれとつくれるわけがない。それほどこのアルバムは呪われたようにポップだ。作者ではなく音楽がそうなっている。

 幕開けの“fruit, not apple”の果実(リンゴではない)を囓る音のほのめかすもの、つづく“hop into the love van”でダニエル・クオンは私たちをトリップに誘い出す。飛び乗るのはラヴ・ヴァン。ケン・キージーのバスを思わせるところもあるがあれほどトリッピーではない。行く先々には見知った顔も見える。ある停留所ではポール・マッカートニー卿のまわりをパイロットとエミット・ローズをはじめ、その音楽的遺伝子を受け継いだ無数の子どもたちがとりまき、たがいのポップ・センスの捻れぶりを競い合っている、人垣をかきわけるとジョンストンのほうのダニエルと鉢合わせして意気投合しないともかぎらない。どこを切っても、口ずさめそうなほど耳なじみがいいのに、場面はくるくる展開する。飛躍するというほどではないのに、全体的には断片の集積の印象を残す。『ノーツ』の表題はそこに由来するのかもしれないが、そこにはキース・オルセンやロイ・トーマス・ベイカーといった彼の偏愛の対象だというプロデューサーの手がけた作品名がメモってあるだろう。前者はフリートウッド・マックとかフォリナー、後者となるとクイーンであり、前述のパイロットもサードはロイのプロデュースだった。これだけ見ると音楽性はさておき、先日のレヴューされたジェームス・フェラーロに通じるガジェット感があり、クオンはそれをある種の付随音楽──というと即座に映画音楽を想起される方がいるかもしれないが、私がいいたいのは部分と全体のかかわりであり、クオンの『ノーツ』は全体がすべてに先行する。ところがそれはテーマとかコンセプトとかではない。まっしろなノートがまっさきにあるのである。ソフト・ロックにせよ、ロウファイであれラウンジであれ、そこには自由に書き込む余白がある。ブライアン・メイの亡霊さえ召還可能だろう(まだ死んでないが)。フィールド録音の多様は音楽と外との流通をはかる。そうすると音楽はフェイヒィにかすかに似た歪みをともなうが、特異なソングライティング・センスは埋もれないどころか、ますます際だっていく。このような作品はバンドではなかなか難しい。ゆえに『ノーツ』は東京のアンダーグラウンドの若い住人たちにも新風を吹きこむ作品として歓迎されるにちがいない。お年を召した方のなかにはモンドを想起される御仁もおられよう。しかもメロディが中心にしっかりあるから、訴えかけるのは好事家にとどまらない。肌ざわりから、カセットを出すのもひとつの手だとも思いました。

松村正人

『ノーツ』についてのノート - ele-king

 今回のアルバムのA&Rを務めました、柴崎と申します。日々、いろいろなアーティストの皆さんのCDやレコードの制作を担当させてもらっています。そんな中、今回はダニエル・クオンというこの特異なアーティストとアルバム『ノーツ』について、制作に関わったものとして、その魅力と妙味が皆さんへ伝わって欲しい…という思いのもと、おこがましくも筆を取らせていただいております。アルバムの内容の論評については他執筆陣の皆さんが手がけられていると思いますので、ここではレコーディングを進めていくにあたってのエピソードや私が感じたことを中心に、記してみたいと思います。

 私が初めてダニエルと出会ったのは、東京・高円寺の〈円盤〉で月例開催されているイヴェント「不明なアーティスト」において。一般的には未だ名が広く知られているとはいえないけれど個性的なアーティスト諸氏を迎え、まずはじめに演奏を披露してもらい、その後に企画者の新間功人氏(1983, ENERGISH GOLF etc)と不肖私を交え、昨今ミュージシャンに訊く機会もなかなか無いであろう「最近お気に入りの音楽」について改めてじっくりトークをするという趣旨の集まりなのですが、2013年6月に行われたその第1回目ゲストの一人としてダニエル・クオン氏を迎えたのでした。それまで私は漠然とした知識で彼の活動や存在は把握していたのだけれど、実際にどんな音楽を奏で、どんな人となりなのかといったことはその時点では失礼ながらよく知らずにいました。また、その時のライヴ演奏もじつをいうとあまり記憶に残っていなくて(本イヴェントの第1回目ということもあり「自分もこの後トークショーへ登壇する」ということへの緊張が烈しかったもので……)なんとも不甲斐ない限りなのですが、よく憶えているのは、彼の特異なキャラクターとその音楽趣味でありました。6月にもかかわらず外套を羽織り、終始俯き気味の姿勢で、日本語と英語を交えてポロリポロリと語るその姿容のインパクトもさることながら、彼が好む音楽として紹介していた数々のレコードのチョイスの興味深かったこと。チャールズ・アイヴス、ポール・マッカートニーの『マッカートニー2』、石川セリ、スコット・ジャレットなどなど……。その乱脈なチョイスからうかがわれる音楽嗜好に強く惹かれた私は、さまざまなレコード・トリビアでダニエルともども大盛り上がり、お陰様でトークショーは快調、お客様にもご満足いただいた(のではないか)……という一幕となりました。

 その後私も何やかやと日々を過ごす中、当時ファースト・アルバムをリリースしたばかりだった森は生きているのメンバー岡田拓郎氏よりある日、「ダニエル・クオンの『Rくん』(*1)聴きました? すごいですよ」と聞かされ、「ダニエルってあのダニエルか」と思った私は早速入手し、果たしてびっくりしたのでした。すごくて。あの、嬉しそうにレコードの話をするうつむき加減の青年の姿容と、この極めて刺激的な作品の内容が非常にすんなりと自分の中で結合していくのでした。「エクスペリメンタル」や「アヴァンギャルド」と形容しても、どこかそれだけでは捉え得ないユーモアや諧謔も色濃く匂い立ち、すっかり気に入った私は人に会うと「『Rくん』、いいよねー」などと喧伝する日々となったのでした。そんな知ったようなことを喧伝しながらも、実際に彼に再会する機会には恵まれること無く日々は過ぎていったのですが、2013年の冬ころだったかと思いますが、ある時ダニエルが新しいアルバムを作ろうとしているという情報をキャッチし、実際本人に再度会ってみて、どんな作品つくりたいのか、聞いてみましょうということになりました。その再邂逅の場でもはじめは俯き気味の彼でしたが、お互いにアルコールがからだに入ると饒舌になるという生理現象を最大限に活用し、具体的なアルバム制作のことはうちやって、エミット・ローズやクイーン、スパークス、フリートウッド・マック、フランク・ザッパなどなどのレコードについて、前述の岡田氏の他に同席していたPadok氏も巻き込んで、ただただみんなしゃべりまくり……その日のことはよく覚えていません。

 いま振り返って思い出したのですが、ダニエルと会うとお酒を飲んでばかり……。ひたすら最近聴いているレコードの話や彼の日々の生活の鬱屈についてなど、まるで制作と関係無いようなことばかりを話していた気がしますが、もちろんダニエルも私もサボっていたわけではなく、ゆっくりとしたペースではあれど、アルバム制作に向けての準備は着々と進んでいき、2014年春頃には録音担当のPadok氏と具体的な製作方法を吟味し、スタジオを選定(*2)するなど具体的な作業がはじまっていきました。

 そして……そこからはもう一気呵成、怒涛の工程で、と書きたいところであるのですが、まさしくここからが彼の真の才気と本領を思い知ることに……。溢れ出るアイデアが溢れるままに任せる彼のレコーディング・ワークに、私やPadok氏、ドラムス担当の牛山健氏も頭に「??」を浮かべながらも応えていく日々。そもそも楽曲の「構成」を決め込んでからレコーディングに臨む、といった一般的な手法は彼にとってはあくまで手法の一つでしかなく(当たり前と言っては当たり前なのですが)、次々に変化を遂げていく楽曲に、その日のその日のラフミックスを聴く私は「あれがこの曲でこれがあの曲で、これがこう録り直したからこうなって、こういう楽器が入っているファイルが最新でこれが前のやつで……」と頭のなかが沸騰寸前、というか沸騰してしまい……そこで悟ったのです。これは一度自分の中の自明性を破壊せねばならぬ、と。何を大袈裟な、というハナシですが、ダニエルの提出するアイデアのスピード感に追いついていくためには、このようなある種の達観というか、「なんでもこいや」的に自分の心身を大きなアンテナに化し、ある種のアフォーダンス状態に自分をおいて……とかとかぐるぐると考える日々。私などからすると「ここにそんなフレーズを!? え、逆にあそこはなにも手を付けないの!?」といった具合で喫驚するばかりでしたが、煩悶しつつも一方で確信めいたような態度とともに、スタジオでいろいろな想念を爆発させながら試行錯誤を繰り返しているダニエルの姿が印象的でした。この時期、増村和彦氏を招いたパーカッション録音(増村氏は後に数曲のドラムスでも演奏に参加)や、小林うてな氏を招いたスティール・ドラムの録音なども行っています。

 そして、2015年に入ってからも散発的にスタジオ作業を続けながら、入れ替わるように、牛山氏宅などでの録音や、ダニエル一人によるレコーディングとミックスの作業に入っていくことになります。同時にレコーディング機材環境の整備や新たな曲への制作などを行いながら、今回のアルバム『ノーツ』に特徴的に聴かれるフィールドレコーディングの作業も彼は日常的に行っていたようです。彼本人もその方法を私に語ってくれたことがありますが、映像的な感覚を重視して、それぞれの音を採集し、配置していくという行き方の元、モノクロの下書きに彩色されるように加えられていく音の数々。都市生活に浸っている我々には当たり前すぎて見過ごし聞き逃してしまうような日常的な雑音(電車の発車ベルであったり、街頭での演説であったり、遊戯にふける児童の嬌声であったり……)が、音として掬い取られていくようでした。

 あるとき、ダニエルがお気に入りとして挙げた小説として、19世紀末フランスの作家J.K.ユイスマンス(*3)による小説『さかしま』があります。この象徴主義の巨匠の代表作は、日本では澁澤龍彦訳によっても読まれている古典的名著でありますが、遺産を食いつぶしながら隠遁生活を送る貴族である主人公デ・ゼッサントが、蕩尽の限りを行うばかりで物語的な筋というものもとくに無い、だけれど非常に特異な魅力を湛えた小説です。デカダンの大伽藍的な作品として世に評価されていることもあり、ダニエルもそのようなデ・ゼッサントの浮世を厭うピカレスク的な一面に共感を抱いているのかな? と思ったりもしましたが、どうやらもっと違った共通点があるような気がしてきました。


ジョリ・カルル・ユイスマンス
『さかしま』(1884)
※桃源社 1962 /
光風社 1984 /
河出文庫 2002
 
澁澤龍彦訳

 デ・ゼッサントはまあ確かに、現代の視点から見ると、経済的な生産活動を忌避してただ個人的な消費と愉楽に遊ぶいわゆる「ダメ人間」ではありますが、重要な点はそうした彼の生活風紀上の特異さについてではなくて、もっと根本的な、モノや美を観るときの視点という気がするのです。たとえば、デ・ゼッサントが、色彩に対して異常なコダワリを開陳しながら屋内の調度品の配置を物語っていくところなど、まるでダニエルがさまざまな楽器の音色効果とその配置を嬉々として語っている顔が浮かんでくるみたいです(ちなみに、ダニエルはデザイナーでもあります)。また、「健康的な読み物」としてのディケンズの小説を読み触発されたデ・ゼッサントが、思い立ってロンドンへ旅行しようと外に出かけようとしたけれど、どうせ旅先では不愉快なことがたくさんあるんだろう……と月並みな旅行中に具体的に起こりうる不愉快な事案を次々に思い浮かべたとたんにロンドン行きを翻意にして、そして、そうした想念が膨らんでくるにしたがい、そもそもそういう想念をもって起こりうる自体が事細かに心に浮かんだ時点でもう彼の地(ロンドン)に行ったのも同然だからもはや行かなくてもいい、むしろ想念上のロンドンの方が事実自分にとっては気味のよいものであろうと嘯く場面……。そんな場面に見られるような、ユイスマンスならではの曲折したユーモアについても、ダニエルのそれと共振をしているのではないかと感じます。これは、単なる主人公デ・ゼッサントの負け惜しみ的述懐というわけではなく(一見そう感じさせるところにユイスマンスの卓越したユーモアセンスがあるわけですが)、頭のなかで想念がインフレーションを起こした時に現れる滑稽を愛でるような筆致で描かれたこのロンドン旅行取り止め事件は、世に広く共有される現場・経験重視的な思考法への軽蔑と撹乱、想念の側に美徳の盃を取らせる象徴的な勝利宣言でもあるとも読めるわけです。そして、ダニエルにおける「音」と小説のここでのトピックたる「旅」が並置されるとき、大勢の人に経験されることでさまざまな意味付与をされクリシェへと成り下がってしまった「意外性に乏しいポップミュージック」(=多くの人に経験されたであろう「意外性に乏しいロンドン旅行」)を珍重するよりも、自らの頭の中に渦巻く想念を培養基として、ポップ・ミュージックの意味性を撹乱し、いきおい想念の自由さを浮かび上がらせるようなダニエルの創作態度との関連性も見えてくるようです。また、デ・ゼッサントが語る、西洋宗教芸術へのペダンチックな興味や、信仰や形而上学的問題への志向性などといった部分でも、本アルバム『ノーツ』の歌詞に数々の現れる宗教的キーワードと何がしかの関係性があるのではないかしら……? あるいは、「シンガーソングライター」という形容を極度に嫌うダニエルのこと、ユイスマンスの反私小説的態度及び反自然主義的な態度にも共鳴をしているのか……? ああ、また頭が沸騰してきました……。

 何やら下手くそなユイスマンス論めいてきてしまったのでこのあたりで止しますが、一方で大変重要なのは、デ・ゼッサントが想念のみの世界に閉じこもるのではなく様々な嗜好品や優れた芸術品の価値を積極的に愛でながら独自の思想を語っていくように、ダニエルも自らの想念のみに拘泥するわけではもちろんなく、これまでに産み落とされてきた優れたポップ・ミュージックへの憧憬を隠そうとしないということでしょう。彼と会う度に語られるエミット・ローズ、スパークス、ルパート・ホルムズ、10ccなどへの敬愛には、それらの先達たちが彼らの想念とともに作り上げた音楽が担ってきたラジカルリズムへのシンパシーと、そうして不断に蓄積されてきたポップ・ミュージックの豊穣な歴史を愛でる確かな視座、そうした重ね合わせを感じるのです。

 こういった考えは、今年夏からのアルバム制作の終盤の頃、彼自身による執拗なダビング作業と音響効果の追求(一般的な「ミックス」という工程上の用語と、ニュアンス的にどうも違うので、「音響効果の追求」と書きます)の日々の中でいろいろとやりとりしながら、私の中で徐々に深まっていったものでした。徐々に歌入れを進める中で明らかになっていく歌詞世界に窺われる、音韻そのものとしての言葉を無遠慮に配置することで意味を無力化していこうとするような鋭敏な感覚と、一方で同時に意味性の連鎖の中に違和を創出してゆくような高度なユーモア性といったもの。あるいは、「A~B~サビ~A~B」といったような一般的なポップ・ソングの構造を食い破るように「A~B~C~D~E……」と、作業を経るごと増殖分裂をしながらアップデートされていく曲構成にしても、ポップ・ソングの定石性へのラジカルな批評になっているようでいて、ポップ・ソングそのものへの理解と偏執とそのフォーマットへの愛が逆説的にほとばしってくる……。そういった二重性というものが彼の創作に通底する態度であり、突出した魅力なのではないか、という考えが日々私の中で強く沸き上がっていき、いよいよマスタリングを経て完成した時に確信となりました。

 つらつらと書き散らしてきましたが、そもそもインサイダーたる私がこのように作品をホメるのも恥ずかしいのですし、こそばゆいことおびただしい。だけれども自信を持っていうことができますが、このアルバムはいわば、ラジカルと歴史的豊穣の重ねあわせの中にたゆたっているポップ・ミュージックのイデアをはっしと掴み、作品の中で充分に輝かせることに成功している、相当に稀なる一作ではないでしょうか。そしてさらには、そうした重ね合わせ状態のテーゼが、どこまで意図的に仕組まれているのかといったこと自体がまた別のミステリーであるという、三次元的な奥行きを持った構造も見え隠れするという……。
 うーん、でもたぶん、ダニエルは苦笑を浮かべながら「柴崎、おまえは考えすぎだ」と言いそうです!
ダニエル・クオンの最新アルバム『ノーツ』、是非末永くお聴きいただけましたら幸いです。きっと、ずっとあとになっても新鮮さを失わない作品だと思いますので。

*1
ダニエルが変名「Rくん」名義でリリースした、前作に当たるアルバム『Rくん』のこと。

*2
宅録とフィールドレコーディング中心の『Rくん』の反動もあり、一般的なスタジオ環境にてドラムをレコーディングしたり、生ピアノでの録音など、いわゆる「一般的な」の制作手法を踏襲するような進め方にトライしたいというダニエルの希望もあり、何曲かのリズム・レコーディングはそうした方法で行いました。

*3
ジョリス=カルル・ユイスマンス。19世紀フランスにおいて象徴主義を代表する作家として活躍した。代表作に、本文でも触れられている『さかしま』がある。

 ダニエル・クオンを知ったのは3年か4年前のこと。都内の小さなライヴ・スペースで行われたイヴェントで、出演者のひとりがたまたま彼だった、という些細なきっかけだった。詳細は曖昧だが、ギターを抱えて椅子に腰かけ、少し訛りを含んだような英語詞で――時おり日本語も織り交ぜながらゆったりと歌い上げる、といった調子で、あくまで印象は典型的なシンガー・ソングライターのそれだったはずと記憶している。そして、そんな彼のインティメートな弾き語りに当時の自分が重ねて見ていたのは、たとえば王舟やアルフレッド・ビーチ・サンダルの北里彰久、あるいはパワフル・パワーの野村和孝といった、これもちょうどその頃に近い圏内でたびたび演奏を見る機会に恵まれた同じシンガー・ソングライターたちの音楽だった。

 もっとも、その時すでに彼は日本でのレコーディングを経験済みで、さらにこの少し前(2010年)にはファースト・アルバム『ダニエル・クオン』を日本でもリリースしていたことを自分は後になって知るわけだが。ともあれ、そんな彼の音楽が、あの頃の東京の――あえて言えば東京のインディ・シーンの風景にとてもよく馴染んで聴こえたことを思い出す。


ダニエル・クオン『ダニエル・クオン』
(Motel Bleu / 2010)

 といったダニエル・クオンについての個人的な原体験を記憶に留めていたこともあり、その数年後に次作の『Rくん』(2013年)を最初に聴いたときはすっかり意表を突かれた。かたや、ひとつ前の『ダニエル・クオン』は、ざっくりと言えばいわゆる弾き語りがメインで、ギターとピアノを中心に練られた演奏とウォーミーな歌声に、彼自身が敬愛するというエミット・ローズやポール・マッカートニーはおそらくもちろんのこと、ランディ・ニューマンやハリー・ニルソン、トッド・ラングレン等々の耳慣れた名前を連想したくなる一枚、というのが順番を前後して後日聴いたところの雑感。いまだったらトバイアス・ジェッソ・Jrなんかとも並べて聴きたい、70年代のシンガー・ソングライターの系譜を窺わせるグッド・メロディとグッド・ソングが詰まったアルバムだったが、対して、『Rくん』も基本的には弾き語りがベースではあるものの、その冒頭いきなり飛び込んでくるのは、ジョン・フェイヒィも思わせる緩やかなギター・アルペジオではじまる『ダニエル・クオン』のオープニングからは想像外の、ハーシュ・ノイズのように耳を劈く雨音(?)のサンプル。そして以降、ナレーション、館内放送、逆再生したような効果音、自然音や生活音の類、はたまた「AMSR」風の細かいブツ音が曲のいたる箇所で顔を覗かせ、なにやら奇想めいた気配が醸し出されていくのだった。


ダニエル・クオン『Rくん』
(R / 2013)
Amazon

もっとも、その手の演出は『ダニエル・クオン』でも一部に散見でき、相俟ってそこには初期のデヴェンドラ・バンハートにも通じる仄暗さ、あるいはフリー・フォークが幻視したサイモン・フィンやティム・バックリーへの愛着、さらにはピーター・アイヴァースやロイ・モンゴメリーのウィアードなサイケデリアに対する好奇心さえ聴き取れなかったわけではない。が、『Rくん』においてはそうした、一見ジェントリーな歌いぶりの裏にある種の衒いのようなものとして見え隠れしていたアウトサイダーな嗜好が横溢していて、その深い綾のように刻まれたツイステッドなポップ・センスはさながら、〈ポー・トラックス〉に発掘された頃のアリエル・ピンクかその師匠筋にあたるR・スティーヴ・ムーア、いやいやジョー・ミークやレイモンド・スコット、ブルース・ハックあたりのカートゥーン趣味も思わせる感触に近い、と言ったらさすがに印象論で解釈を広げすぎだろうか。エレクトロニックな音色が増えてループも活用されたテクスチャーは、それこそフォークとアンビエントやニュー・エイジとの間、言うなればノスタルジアとヒプナゴジアとの間を揺れ動くようで、それが2013年の作品であるという理由から強引に何かに紐付けさせてもらうとするなら、ジェームズ・フェラーロと〈ビア・オン・ザ・ラグ(Beer On The Rug)〉のYYUを両隣に置いて鑑賞したくなる代物――というのが、はなはだ一方的だが『Rくん』に対する個人的な評価だったりする。


ダニエル・クオン『ノーツ』
(Pヴァイン / 2015)
Amazon

 そんな驚きが先立った『Rくん』と比べると、まずはより歌にフォーカスが当てられた、という印象も受ける新作の『ノーツ』。ケレン味たっぷりのファルセットやスキャット。旋回するコーラス。いろんな種類の楽器がにぎやかなアンサンブルを奏でるなか、時おり主張するエレキ・ギターが妙に可笑しい。けれどもちろん、『ノーツ』にはそうした歌や演奏以外の音も相変わらずたくさん詰め込まれている。遠くで聞こえる吹奏楽や子どもの合唱。果実をかじったり葉物を切ったりする音。ぐつぐつと沸騰した鍋。踏切の警笛音や商店のブザーといった雑踏のBGM。そうして音楽と多様な具体音が織りなすレイヤーを聴きながら、ふと、ある高名な音楽家の「ミュージサーカス」という作品のことを思った。それは、大きな建物のなかだったり公園のようなひとつの空間を舞台に、異なる音楽やパフォーマンス、多くの出来事が同時に行われるという、一種の演劇的なイヴェント。まあ、そこまで大掛かりではないまでも、しかし、ダニエル・クオンの音楽もまた聴いていると、さまざまな場所から音が立ち上り、互いに無関係であるようなそれらが結ばれることで、縁日的とでも言いたい愉快な光景が姿を現し目の前に迫ってくるような感覚に襲われるのだ。あるいは、試しに『ノーツ』を聴きながら近所を散策してみてもいい。すると、身の周りの環境音や具体音とさらに混じり合うことで聴取は拡散し、その瞬間、そもそも私たちは「音楽」だけを純粋に聴くことはできない、なんてことに気づかされるかもしれない――と。たとえばそんなふうにもダニエル・クオンの音楽は私を楽しませてくれるのである。

ダニエル・クオン - Judy

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