「!K7」と一致するもの

Torn Hawk - ele-king

 リズムにやられる前はギターの音色が好きだった(高校生ぐらいの話)。アル・ディ・メオラまで買ってしまったけれど、技巧というものにまったく興味が持てなかった僕はジェフ・ベックもパット・メセニーも聴いた端から売り払ってしまった。ギターの響きに僕は何を求めていたのだろう。とくに好きだったのはギター・シンセサイザーで、スティーヴ・ヒレッジが先日、〈ドミューン〉でグリッサンドー奏法の起源はシド・バレットだという話をしたときは会場だけでなく、僕も自宅でひとりどよめいていた。いまなら、スティーヴ・ヒレッジがプロデューサーに起用していたのはスティーヴィー・ワンダーのエレクトロニクスを担当していたマルコム・セシル(『アンビエント・ディフィニティヴ』P.74)だったということも知っている。そう、おそらく僕が惹かれていたのは、サイケデリック・ミュージックの入り口だったのだろう。そのことが本当に体験できたのはアシッド・ハウスを待ってからになるけれど(スティーヴ・ヒレッジもシステム7として返り咲く)、最近のトーン・ホークを聴いていると、そのようにして無我夢中で「入り口」を探していた頃にあっさりと戻れてしまうからオソロしい。とくに春先にリリースされたルーク・ワイアット名義『ソングス・フロム・バッド・キッド・スクール』とは違い、ヘヴィなトリップ・サウンドにはまったく曲を割いていないサード・アルバム『泣きながら腕立て伏せをしよう』はじつにさわやかであまりに屈託がなく、言ってみれば聴き応えは減ったにもかかわらず、タイムマシーン効果は抜群である。まったく現在に引き戻されないw。

 しかし、ここまで縦横無尽にギターを弾きまくれば、トーン・ホーク=クラウトロック・リヴァイヴァルという図式にも陰が差しはじめる。そう多くはないけれど、ここにはなにげにカントリーの資質が滲み出している。ユージン・チャドボーンでもジャド・フェアーでもアメリカのサイケデリック・ギターといえば、どこかしらにカントリー・タッチが潜んでいたものだけれど、ゼロ年代のドローンからリヴァイヴァル・クラウトロックへと反転した流れにはそれらはまったくといっていいほど感じられなかった。以前にも書いたようにヒューマニズムを欠き、アメリカ人が異教的な世界観を示すことはけっこうな驚異だった。マーク・マッガイアーしかり、ジェフレ・キャンツ-レズマしかり。どれだけ開放的になっても、視点は外側にしか向けられず、ニュー・エイジという呼称まで呼び戻された(宗教用語としてのニュー・エイジは現在のアメリカ社会を成り立たせているマルチ・カルチャラリズムを否定するもので、集合無意識を肯定する概念。つまり、個人的な内面は否定されるもので、無意識に使われはじめたにしては、意外と的は得ていた)。それが、わずかに感じられる程度とはいえ、カントリー・テイストである。EDMがダンス・ミュージックをメタルに引っ張ってしまったからかもしれない。ルー・リードのような都市に対する深い拘泥がなければサイケデリックからヒッピー志向が導かれるのはごく自然なことだし、1970年代には探偵小説さえ都市を捨てた。メジャー・チャートにはテイラー・スイフトもいるしw。

 ハリウッド映画を観ていると、『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』や『アメリカン・ハッスル』など詐欺師の映画が増えたと思う(『グランド・イリュージョン』なんて途中までコンセプトはザ・KLFかと思った)。これはイラク戦争以降、内省的になり過ぎたアメリカが笑いや都市に回帰する契機を窺っているとしか思えなかったりするんだけれども、トーン・ホークはむしろ内省の極にあった『ツリー・オブ・ライフ』のような作品から苦悩を取り去り、形骸化したものとしてイナー・トリップを継承しているのではないだろうか。「内省」というのは、人それぞれだろうし、悩んでいることに酔ってしまう要素もあるだろうから、どこか甘美な経験になる可能性は高い。それを長引かせたい。自分の内面にもう少しとどまっていたいというような……(アウター・スペースを名乗っていたエメラルズのジョン・エリオットも3年前にイナー・スペースド名義を使いはじめた)。そのための音楽が半分で、それが『泣きながら』。そして、詐欺師になるために『腕立て伏せ』をはじめる。それとも単にEDMによって失われたアメリカン・レイヴのオールド・グッド・デイズを早くも懐かしがっているだけかな?

 トーン・ホークがカントリー・タッチのカンなら、キンクスやザ・バンドの曲をエールが演奏しているように聴こえてしまうのがムードイード。かつてサイケデリック・ロックというのは、それぞれの国の伝統的側面が剥き出しになる傾向があり、いわゆるインターナショナル性からは遠ざかるものだったけれど、ブラジルのバットホール・サーファーズことフマッサ・プレッタ(https://www.youtube.com/watch?v=-PQC4-LjD-E)といい、フランスのムードイードといい、トリップの要素を強めれば強めるほどお国柄、すなわちカントリーが前景化してくる傾向はいまでも変わらない(右派や民族派はメタルではなく、むしろサイケデリック・ミュージックを聴くべきでは?)。トマ・バンガルターやジャクスンと同じく、親がやはりミュージシャンだったというパブロ・パドヴァニ率いるムードイドはのったりとしたグルーヴを基本にアンニュイなポップ・サイケを全編で展開。ドライでスカっと抜けきってしまうトーン・ホークとは対照的にナメクジに体中を這い回られているような官能性がじつにラヴリーである(こういうの高校生の頃はわからなかった)。プロデュースはディアハンターやワイルド・ナッシングを手掛けるニコラス・ヴァーンヘス。

第一回:音楽と呼吸 その1 - ele-king

 どういうご縁なのか、僕の音楽作品のいくつかはアンビエント・ミュージックというジャンルにカテゴライズされ、一時期はアンビエントという括りに違和感を持っていた僕自身も、最近はそのこと自体にはあまり抵抗を感じなくなって来た。それというのも、僕がいまのようなリズムトラックや明確な旋律のない音楽を作りはじめた90年代は、70年代後半にブライアン・イーノが提唱したアンビエント・ミュージックがヒーリング・ミュージックと混同されていた部分が多くあったからだと思う。今でもそういう風潮はあるかもしれないけど、「アンビエントをやっています」というと「あぁ~、あのぼんやりとした何の主張もない感じのBGMね」という、声にならない声があった。

 ヒーリングもアンビエントも、それ以外の多くの音楽に求められるアッパーな高揚感とは全く逆の「音があることによって静寂が訪れる音楽」というダウナーなものを求められている点では同じものだ。けれどそこには明確な差がある。と、アンビエントを聴いている人は感じていると思う。僕の記憶が確かならばイーノはその差を「アク」があるかないか。という言い方をしていたが、僕の言葉で言えば、アンビエント・ミュージックには「呼吸」がある。それは音そのものにも内包されているのだが、そもそも、その「在り方」そのものが親密な関係を持っている。呼吸とアンビエント・ミュージックの関係はとても深い。

 「呼吸」というのは人間の生命活動の中でも極めて特殊で、重要なものだ。救急医療の世界では、意識を消失して倒れている人に対してまず確認することのABCは、Airway(気道確保)、Breathing(呼吸)という呼吸に関わることを何よりも先に確認して、その後にCirculation(血液循環動態)といった心拍に関わる確認をする。心拍がどんなに正常に動いていても呼吸がされていなければ人間の生命は維持できない。東洋医学においても呼気・吸気は様々な「気」が出入りする場として重要視されていて、「気」にまつわる精神と身体との東洋医学的な関わりを実際の臨床の場で実感することのできる生命活動でもある。

 例えば西洋医学で「過換気症候群」と呼ばれる症状は、不安や疲労によって呼吸回数の制御が難しくなり、1分間に20回以内という正常の呼吸回数を超えた頻呼吸が持続すると、体内の二酸化炭素が過剰に放出され、血液のpHがアルカリ性になり、手足にしびれを生じさせるという症状が起こり、救急車で運ばれてくる頻度の高い症状である。西洋医学では深呼吸をさせて呼吸回数を減らし、時には抗不安薬を用いたり、ペーパーバック法と言って吐き出した二酸化炭素をもう一度吸い込む(最近では一般的には勧められていない)という対症療法を用いるが、根本的な治療はない。これに対して東洋医学ではこの状態は「気逆」と呼ばれ、呼吸はしていて酸素も正常に取り込まれているのに、「気」が逆流しているために、空気が入って行かないような不安にかられる(そもそも不安自体が気逆や気滞によるもの)と考えられており、実際に気逆を治療する半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)のような漢方薬が数分程度で効果的に作用する。過換気症候群を繰り返す人の最初の治療は主にこの薬を用いつつ食生活の改善などを指導することで再発を防ぐことができるようになる。

 当たり前のことなのだが、「呼吸」は古今東西を問わず、人間の生命活動の中では最も大切なものであるとされてきた。しかし、その重要性について、特に精神と身体の関係が必要以上に分離されて考えられている唯物論的な科学の場ではあまり語られることがない。それは僕らの呼吸に対する認識が、その日常性ゆえに鈍化してしまっていることと、「酸素供給でしかない」という西洋医学的な側面の情報に感化されすぎてしまったせいでもある。古来より特に東洋において、呼吸は身体と精神の双方の局面からその制御が重要視されてきた。

 呼吸という活動の最たる特異性は、自分自身がそこに意識を向けることで、その活動に関与出来るという点にある。全ての人間が絶え間なく行っている幾多の不随意運動の中で、随意的にその活動を変化させられる最たる生命活動なのだ。そしてその活動は人間の肉体と精神の接点として大きな意味合いを持っている。先に挙げたように精神から呼吸が影響を受けることもあれば、呼吸から精神に影響を与えることが出来ることは科学的にも証明されている。端的に言うと、人間の自律神経には、戦闘体勢用の交感神経と休息体勢用の副交感神経があるが、西洋医学では上室性頻拍を抑制する方法として副交感神経を活性化し心拍数を下げる頸動脈マッサージが一昔前までは用いられていたが、これと同じ理屈で深呼吸は副交感神経を活性化し、心拍を抑え、気持ちを和らげるとされている。交感神経が優位になりがちな現代生活の中では、呼吸を用いて心を落ち着かせることに用いることが多いが、そういった目的としては胸式呼吸よりも睡眠時に行われている腹式呼吸の方が副交感神経を活性化させるので効果的である。

 話は少し逸れたが、この「日常的には意識されず、意識を向ければその活動に関与できる。」という随意と不随意の合間で行われている呼吸という生命活動の「在り方」が、環境としての音楽というアンビエント・ミュージックの「在り方」に通じる。アンビエント・ミュージックは本来そうした在り方を求めて生まれた音楽だ。

 アンビエントの祖と呼ばれるエリック・サティがパーティで演奏をしているときに「頼むから僕の音楽を聴かないでくれ」と言った逸話はよく語られる。サティは何故そんなことを思い立ったのか。それは表現するという行為自体が内包する自己肯定という過失への懸念と、表現者としての対話への欲求の間に生じるジレンマから生じたことだろうと思っている。音楽や音、特に生活環境の背後にある音と人間との関係を考える上では、この「音楽を聴かないでくれ」という願いは非常に大きな意味を持っている。

 そもそも表現というものはそれを不特定の他者へと向けた時点で、「自己肯定」という要素を少なからず含んでいる。特に形式や権威に抵抗し、神秘主義や東洋思想に強い影響を受けたサティは、そういった表現行為そのものに伴う違和感に対して誠実に接した結果、家具のように「環境」の一要素としてある音楽、つまり自我のない音楽という概念に辿り着いたのではないかと思う。仏教において完全なる廃絶を求められる「怒り」の背景には必ず自己肯定が存在している。サティをはじめ、ジョン・ケージやイーノと言った、アンビエント・ミュージックの祖と呼ばれる人たちが東洋思想に傾倒していることは極めて自然なことのように僕には思える。ところが、一方で人間には交換という営みが不可欠であり、表現は他者との対話がなければ成立しえない。それに加えて音楽という表現は他の芸術に比べてその場にいる他者への不可抗力的な侵襲性が高いという特殊な問題も関与してくる。

 サティが「僕の音楽を聴かないでくれ」と言ったのは、自分の表現と、そこにいる聴衆ではない人間、つまり音楽を聴いていない人たちがいる空間との対話、音楽と空間との相互浸透を実現したかった。「聴かないでくれ」というのもひとつの強要ではあるが、現在のように記録媒体による「音源」再生という文化や技術がまだ普及していない時代には、音楽が流れたとき、つまり音楽家が演奏を始めた時には耳を傾けて「音楽を聴く」という既成概念が今以上に強くあって、そこから聴衆を一度解放することも必要だったのだろう。実際に休憩時間に演奏された「家具の音楽」は、「休憩時に演奏される音楽をどうぞ聴いてくれませんように……くれぐれも」とプログラムに記してあった上に、演奏の開始と共に「おしゃべりを続けて!」とサティが叫んでも、みんな黙って座って音楽を聴いたらしい。そういった慣習からの解放というのも東洋思想的な試みと呼んでも良いのではないだろうか。

 そういった起源を持つアンビエント・ミュージックは、背後に流れていても「日常的には意識されず、意識を向けるとその存在に気付く」という呼吸的な在り方を求めている音楽と言っても良いだろう。この考え方はジョン・ケージが強く影響を受けた鈴木大拙の「妨害なき相互浸透」という言葉によって、より明確な方向性を持つに至った。妨害(自己主張・自己肯定)のない相互浸透(作品によって生じる対話・不確定性)という在り方がサティから現在に至るアンビエント・ミュージックの系譜における重要な要素であると僕は思っている。だからそもそも、アンビエント・ミュージックのライヴの在り方や、作品の在り方という話にもなってくるのだが、そういう話はまた次回以降に。

『音楽談義』が立体化! - ele-king

 本日発売! 一部すでに在庫が薄くなっているという情報もいただいており、申し訳ございません。紙版『ele-king』の同名人気連載(ディレクターズ・カット+追加収録大量!)が単行本化! でおなじみの『音楽談義 Music Conversations』、みなさんはもうお手に取っていただけたでしょうか。
 本書刊行を記念して、この対談が立体化。来月14日に青山ブックセンター本店さまにて著者のおふたりによるトークライヴが開催されることになりました。
 なにかと慌ただしい年末ですが、少なくともここだけは心からのんびりと過ごせる空間になるはず。おふたりといっしょに、トークと音楽を楽しみましょう。
 サイン会もあるようです。

■『音楽談義 Music Conversations』(Pヴァイン)刊行記念
保坂和志×湯浅学 トークイベント

 それぞれ小説家と音楽評論家として活躍する同学年のふたりが、おもに70~80年代のロック、ポップス、歌謡曲までを語り明かす、紙『ele-king』の同名人気連載が『音楽談義 Music Conversations』としてついに単行本化! 音楽論にして文学論であるばかりか、時代論で人生論。他の記事とは圧倒的に流れる時間の異なるこのゆったり対談は、このスピードでしか拾えない宝物のような言葉と発見とにあふれています。今回はその番外出張版トークイヴェント! 雑誌のほうでは毎度紙幅の都合で泣く泣くカットする部分もありますが、
イヴェントとこの新刊(保坂氏ゆかりの山梨での出張対談を含め、8時間におよぶ追加対談を含めた充実の内容!)はそんな部分もばっちり収録のディレクターズカット版。
このふたりにしか出せないグルーヴを堪能してください!

■概要

日時
2014年 12月 14日 (日)
開場 14:30~
開始 15:00~

料金
1,080円(税込)

定員
110名様

会場
本店 大教室

お問合せ先
青山ブックセンター 本店
03-5485-5511 (10:00~22:00)
ウェブサイト https://www.aoyamabc.jp/event/hosaka-yuasa/

■著者紹介

保坂和志(ほさか・かずし)
1956年山梨県生まれ。90年『プレーンソング』でデビュー。93年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、95年『この人の閾(いき)』で芥川賞、97年『季節の記憶』で谷崎潤一郎賞、平林たい子文学賞を受賞。著書に『カンバセーション・ピース』『小説修業』(小島信夫との共著)『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』『小説、世界の奏でる音楽』『カフカ式練習帳』『考える練習』など。2013年『未明の闘争』で野間文芸賞受賞。近刊に『朝露通信』。

湯浅学(ゆあさ・まなぶ)
1957年神奈川県生まれ。著書に『音海』『音山』『人情山脈の逆襲』『嗚呼、名盤』『あなのかなたに』『音楽が降りてくる』『音楽を迎えにゆく』『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ1962-1966』『~1967-1970』『ボブ・ディラン ロックの精霊』(岩波新書)など。「幻の名盤解放同盟」常務。バンド「湯浅湾」リーダーとして『港』『砂潮』など。近刊に『ミュージック・マガジン』誌の連載をまとめた『てなもんやSUN RA伝 音盤でたどる土星から来たジャズ偉人の歩み』(ele-king books)がある。

■書籍情報


Amazon

『音楽談義 Music Conversations』

70年代、僕たちは何を聴いていただろう。
ボブ・ディラン、レッド・ツェッペリンから、歌謡曲、フォーク、ジャズまで! 保坂和志と湯浅学が語りつくす。

レコードへの偏愛を語り、風景が立ち上がる。
小説家、保坂和志。音楽評論家、湯浅学。同学年のふたりが語るフォーク、ロック、ジャズ。音楽メディアでも文芸誌でも絶対に読めない、自由奔放な音楽談義。

著:保坂和志・湯浅学
発売日:2014年11月28日
四六判、ソフトカバー、全256頁
定価:本体1,800円(税別)
ele-king:https://www.ele-king.net


Objekt - ele-king

 ネオ・ナチと記念写真を撮っていた女性閣僚2人はそのままで、お金が絡んだ女性大臣は2人とも辞任。女性たちの積極登用がたどった結末は、日本人はお金が絡まないと真剣にならないということをさらけ出しただけだった。なんというか、品がない。お金より大事なものがこの国にはない。少なくとも国政レベルでは。そもそも国政というのは自由か平等かという問いの前で揺れるものなのに、日本人が選挙のたびに選んでいたものは「強い」につくか「弱い」につくかということだけだったとしか思えない。それもきっと「強い」には「お金」があったからで、流れに乗るという感覚さえじつは一度もなかったのかもしれない。スコットランドだって大きな譲歩を引き出したというのに、それぐらいの面白味を感じようとしたこともなかった。それとも流れがあるとしたら「日本人の判官贔屓」が稲田朋美のゴス・ロリでネオ・ナチという美学には勝てなくなってきたということか。

 2011年にセルフ・レーベルから2枚のEP『#1』『#2』でいきなりUKガラージのホープに躍り出たT・J・ハーツもデビュー・アルバムは〈パン〉からとなった。勢いがあるといえばそれまでだけど、ちょっと前まで〈パン〉がジョセフ・ハマーやキース・フラートン・ウィットマンといった実験音楽を主体とするレーベルだったことがウソのように思えてくる。〈パン〉に限らず実験音楽からテクノに乗り換えてくる流れは快楽主義に対する距離感が無邪気ではなく、どこか奥歯にモノが挟まったような感触も残ってしまうけれど、オブジェクトはスタートからフロア志向だったせいか、〈パン〉へのエントリーにはヒートシックやリー・ギャンブルとは正反対の意味が感じられる。それはかつてジェフ・ミルズが快楽主義に埋没せず、どれだけ「困難さ」をダンス・ミュージックにもたらすことができるかとした課題をトレースするもので、結果的にそれが次のタームを呼び寄せた(どころかトランスまでジェフ・ミルズに染まってしまうほどポテンシャルにあふれていた)ことを思うと、UKガラージがテクノへと回帰するベクトルのなかで大きな差異を作り出していくことは期待できる。実際、2014年はキンク(Kink)やヤング・マルコ、あるいはマトム(Matom)やアワント3(Awanto 3)などのデビュー・アルバムを僕も古くからのテクノ・ファンとして楽しむことは楽しんだけれど、慣れ親しんだ風景に浸っている以上の動機はなく、もはやテクノも大半は『ALWAYS』と同じだからである。エンペラー・マシーンのカムバック・アルバムにも僕はノスタルジーしか発動させられなかった。

 デリック・カーターとともにインダストリアル・ボディ・ミュージックのインパクトをブラック・ミュージックに反映させた先駆者としてのジェフ・ミルズはいつどこのタイミングでダンス・ミュージックの文脈から呼び戻されてもおかしくない存在である。シフティッド(Shifted)やルーシー(Lucy)、あるいは今年の台風の目となったエックマン「エントロピー」やドラムン・ベースのフェリックス・Kにさえ、その影響はこだまし、〈パン〉に限らず、ここ数年はとくにその気運が強かったと思える。オブジェクトがメロディというよりもジャズのアドリブのような音を断片的に撒き散らすことが多いのも、そうした印象を強める要因にはなっているだろう。オブジェクト自体はダブステップやベース・ミュージックに囚われることなく、この3年間でゆっくりとハード・エレクトロに舵を切っている。それこそデビューはSBTRKTとのスプリット・シングルだったものが、2014年にはドップラーエフェクトとタッグを組むほどデトロイトナイズされ、現在はベルリンを活動のベースとしているせいか、『フラットランド』に横溢している感触は90年代初頭にベルリンとデトロイトが結びついたモーメントを洗練させたように聴こえる部分が多い。サイバー・エレクトロとでも呼びたくなる“ドグマ(Dogma)”、それこそジェフ・ミルズを〈ラスター・ノートン〉がリミックスしたような“ワン・フォール・スウープ(One Fall Swoop)”、あるいは2拍子で突っ走る“ストレイズ(Strays)”など、イギリスではじまったレイヴ・カルチャーが持っていた猥雑さをムダのない機能主義へと向かわせたベルリンのストイシズムが基調には横たわっている。そして、アンディ・ストットに匹敵するデザイン感覚が発揮されていることも強調しておきたい。

 不思議だったのは『フラットランド』というタイトルである。これだけ豊富なリズム感を有しながら、どうして「平坦」だというのか。それは、しかし、リズムのことを指しているのではなく、ヴィクトリア朝を風刺した19世紀の中編小説に由来するらしく、詳しくはわからないけれど、ある種の視野の狭さを考察したものらしい。ジェフ・ミルズがいつしか宇宙人視点でしかものを見なくなっているように、少なくともオブジェクトは現在の音楽状況なのか、ダンス・カルチャーを見て「視野が狭い」と思うことがあるということだろう。〈ハッセル・オーディオ〉からのリリースもあるオブジェクトがデビュー・アルバムは〈パン〉を選んだ理由もそれに連動していたにちがいない。〈キーサウンド〉や〈テクトニック〉からシングル・リリースを重ねてきたビニースもアルバムは流れに乗って〈パン〉からとなるのだろうか?

音楽談義 Music Conversations - ele-king

保坂和志と湯浅学。それぞれ小説家と音楽評論家として活躍する同学年のふたりが、おもに70~80年代のロック、ポップス、歌謡曲までを語り明かす、紙『ele-king』の同名人気連載がついに単行本化! 音楽論にして文学論であるばかりか、時代論で人生論。他の記事とは圧倒的に流れる時間の異なるこのゆったり対談は、このスピードでしか拾えない宝物のような言葉と発見とにあふれています。毎度紙幅の都合で泣く泣くカットする部分もありますが、本書はそんな部分もばっちり収録のディレクターズカット版。保坂氏ゆかりの山梨での出張対談を含め、8時間におよぶ追加対談を含めた充実の内容。

このふたりにしか出せないグルーヴを堪能してください!

Faust - ele-king

 ザッピ&ペロン組によるファウストの新作が出た。と、その前に、なんでバンド名の頭にこんな説明をつけるのかというと、つっこんだジャーマン・ロック好きにはいまさらな話だけど、現在のファウストは69年結成時のオリジナル・メンバーであるヴェルナー・“ザッピ”・ディーアマイアー(ドラムス/メタル)&ジャン・エルヴェ・ペロン(ベース/ヴォーカル)組と、ハンス・ヨアヒム・イルムラー(キーボード)組にぱっくり分裂してしまっているからなのだ。ざっくり言うと、ザッピ&ペロン組はいまも変わらずファウストのシュールでアヴァンギャルドな精神面を体現し、イルムラー組はどこまでも遠く突きぬけるファウストのラジカルな音響面を更新しつづけている。この3人のあらぬ方向にねじ曲がった突起のぶつかり合い、そのユーモアの危ういバランスこそが往年のファウストの魅力だったのだけど、いまはおのれの道をいくそれぞれのファウストの姿を見守るしかない。と言っても彼らの間にいわゆるややこしい「のれん問題」は(おそらく)なく、そのうちふたつが合流するだろうなんて能天気に夢想しながらも、それぞれのファウストを聴き比べるのが甘美なひとときだったりするのだが。

 さて、ザッピ&ペロン組のファウストの新作に話を戻そう。まさか、前作『サムシング・ダーティー』(2010)を聴かずして「90年代以降の復活ファウスト」を軽視するなんて不届きものはいないと思うけど(でも、たしかに00年代の彼らはやや退屈で精彩を欠いていた)、2010年以降の彼らの奔放な爆発力、バラエティ豊かなんて生やさしいものではない意味不明なワケのわからなさは、70年代のファウストを想起させるには十二分で思わずにやりとしてしまう。それは、イルムラー主導のファウストでも同様で、『ファウスト・イズ・ラスト』(2010)では、22曲94分にもおよぶ可笑しみのある暴力的音響が展開されて心臓を鷲づかみにされる。

 おっと、失礼しました。いい加減にザッピ&ペロン組のファウストの新作に話を戻そう。フタを開けるまで何が飛び出すかまったくわからないファウスト。本作のパフォーマーのクレジットにはザッピとペロンの名前しかなく、ある程度シンプルなファウストを想像していたのだけど……こいつは思った以上である。過剰な装飾をそぎ落とし、ひとつの音の響きと行間にありったけのシャレをこめる。ファウストのダダイスティック・マインドがむき出しではないか!
 1曲め“Gerubelt”の冒頭から刻まれるペロンのミニマルなベースライン。自由に音を発しながらもゆったりとしたリズムをキープするザッピのドラミング。そして、2曲め“80hz”ではボゴバキ、ガリゴリとした物音ノイズが炸裂し、続く“Sur Le Ventre”ではザッピのお家芸ともいえる、リズムのすき間の絶妙な位置に「ト、タン」と立体的なタムを挿入した反復ビートが現れるわ、おまけにメタルは打ち鳴らされるわでもう……重いリズムに刺激され、体の奥底にひそむ何かが高ぶりぐつぐつ煮え立つのがわかる。さらにペロンのヘロヘロとしたフランス詩のヴォーカルも登場したりして宴もたけなわ。また、“Cavaquinho”“Gammes”などペロンの嗜好と思われるケルティック〜フォーク調の楽曲が織りこまれたかと思えば、ミシンの音を増幅させたリズムが暴走する“Nähmaschine”(そういえば97年の来日ライヴでは、ザッピがコンクリート・ミキサーをカラカラ回して変なリズムを作っていたな)、ピアノとドラムがガサゴソと音を問いかけ合う“Nur Nous”、ストリングスの引っ掻き音と持続低音をきっかけに、細かなリズムと攻撃的な音響が連続する“Palpitations”など現代音楽さながらの実験も横行する。そして、拍子の抜けたトランペットが鳴り、まるでブリジット・フォンテーヌ『ラジオのように』におけるアート・アンサンブル・オブ・シカゴみたいにフリーキーな演奏が聞ける“Eeeeeeh...”、永遠にサビにたどり着かない叙情的なメロディが繰り返されるラストの“Ich Sitze Immer Noch”でもって2014年度版ファウスト劇場は幕を閉じる。

 『j US t』と表記して「Just Us」と読ませる本作のタイトル。「ただの私たち」とでも訳せばよいのだろうか。かつて97年に『You Know Faust(あなたはファウストを知っている)』なんてタイトルのアルバムを発表したように、彼らは自身の伝説をパロディ化する。90年代におけるジム・オルーク、ステレオラブら音響派と呼ばれたアーティストとの交流。ノイズ/インダストリアルの元祖たらしめる鉄パイプやガラスが散乱した工事現場さながらのステージ。発煙筒焚きまくりでチェインソーから火花飛び散る過剰な演出(先述の来日ライヴのアンコールではハンマーでTVをたたき壊してドカン!ハイ終了!)などなど。伝説がひとり歩きし、異常にデフォルメされたファウスト像に応える再始動後の彼らのあれこれも愉快だったけど、そんな喧騒も収束したいまこそ、老いを極めたファウストの知的暴力に耳を尖らせたい。さすがに70年代に残されていまや語りぐさとなった4枚の名作のインパクトを越えることはないけど、そこには古老の知恵と幼児のラジカリズムを(洗練とはほど遠く)荒唐無稽に混ぜ合わせて余分な色気と肉づけを削ぎ落とした骨組みだけの音楽がごろんと横たわる。そう、いままさにまな板の上に乗せられて音楽解体ショーがはじまるかのように! いつになく空虚で不条理に。それでいてタイトでシャープに。まるで彼らのファースト・アルバムのジャケットにあしらわれた拳のレントゲン写真そのままに、亡霊のごとく超現実的なゲンコツ(=ドイツ語で「ファウスト」)にガツンとやられて虚無に襲われてしまうのだから、私たちは現実のなかで、はてな? とこうべをかしげるしかない。

JAWS - ele-king

 ロバートってのがいてなんだか危ないらしい。というような、ものすごいざっくりとした感じではあるが、昨年末から今年にかけた出会ったナイスな人たち、たとえばブルース・コントロールのふたりやドラキュラ・ルイス(Dracula Lewis)のシモーネ・トラブッチがそう漏らしていて、どう危ないのよ、と訊ねたところブルース・コントロールのギタリストであるラスがこれをみせてくれた。

 なるほど。こりゃ危ない。

 これは、「エクスペリメンタル・ハーフ・アワー(Experimental ½ Hour)」という、音楽家に限らないあらゆるパフォーマンス・アートをブロードキャストで配信する移動スタジオ式TVプログラムである。2010年にポートランドからはじまり、現在はLAにその拠点を置く本プログラムには、過去にも素晴らしいキャストが出演しているので時間がある人にはぜひチェックしていただきたい。
 話を戻すと、これは噂のジョーズ(JAWS)ことロバート・ジラルディンとドラキュラ・ルイスのシモーネのセッションであり、このふたりの親交は深く、過去にジャームスのクソカヴァー・ユニット、セックス・ボーイズ(Sex Boyz)としてベルギーのアート・スカム・レーベル、〈ウルトラ・エクゼマ〉から出していた7インチの印象を裏切らない見事な妙技をみせつけてくれている。

 くだんのシモーネが主宰する〈ハンデビス・レコーズ〉より2011年の『ストレス・テスト(Stress Test)』以来のアルバムである『キーズ・トゥ・ザ・ユニヴァース(Keys To The Universe)』がリリースされた。仲よすぎですが彼らはゲイではありません。ロバートは神出鬼没の人物のようであり、LAを拠点に活動しているとのことだが、僕は彼をLAで見かけたことはなく、シモーネとミラノにいたり、NYでエクセプター(Excepter)の連中に混ざっていたりとフラフラしながらも精力的なパフォーマンス/音楽活動をおこなっているようだ。
 過去の〈ハンデビス〉のリリース同様、ジョーズもパフォーマンスを重要とするアーティストではあるので、ライヴ未見の僕が早急に判断できる代物ではないのかもしれないが、上記の動画や彼が制作した過去の怪しい自画撮りPVでその狂気と油ギッシュな世界観を垣間みることができる。しかし、モトクロス系のクラッシュをコンパイルしたアルバムからのトラックのヴィデオは単純に美しく、カタルシスに満ちている。

 スターゲイト、プリミティヴ・アート、スカル・カタログことソーン・レザーとともにハンデビス・ギャングを構成するにふさわしい超マイウェイな感覚を捉えた世界観とコンセプチュアルな表現様式の可能性は完全に未知数! 危ないですな。

つながった世界──僕のじゃがたら物語 - ele-king

80年代の日本を疾駆した、伝説のバンド、じゃがたら……。そのリアルかつ予見的な言葉と態度、圧倒的なパフォーマンスでバンドを導いた江戸アケミ亡き後も、音楽はいまだ若い世代にも聴き継がれ、デモに繰り出す人たちのなかに、都会でもんもんと暮らしている人たちに語り継がれている。

じゃがたらは、音楽的には、アフロビート、ファンク、ダブの異種交配に特徴を持っている。その音楽面において重要な役割を果たしていたのは、ギタリストのOTOだった。彼がバンドのダブのセンスを注ぎ、ワールド・ミュージック的ヴィジョンをもたらしたとも言えるだろう。

本書は、OTOが赤裸々に語る、彼の自叙伝であり、じゃがたらの物語であり、そして、じゃがたらを経て、元ゼルダのヴォーカリスト、サヨコとのサヨコオトナラでの活動、東京を離れ、熊本の山で、農作業をやりながらほぼ自給自足の暮らしている彼からのメッセージだ。

Arto Lindsay, Paal Nilssen-Love - ele-king

 惚れ惚れとするレコードに、そうそう出会えるものではない。録音されている音楽の唯一無二さ、録音物それ自体への偏愛、盤を包み込むアートワークへのフェティッシュの悦楽がすべて出そろい、そのうえで尚かつ人生の核心への強烈な一撃/一音が発生している場合のみに生じる稀有な出来事といえるからだ。そして、このアート・リンゼイの新しいアルバムこそ、そのような事態を引き起こす稀な存在なのである。

 そのアルバムの名は『スケアシティ(Scarcity)』という。私は、いままさに、アートのギターから発するノイズの暴風に、声の咆哮に、リズムの痙攣するような刻みに、音響の震動に、ギターのピックアップから発せられる軋みに、圧倒されている。そのノイズの横溢に惚れ惚れとしている。エレクトリック・ギター、叫び声すべてがインプロだ。なんという暴発的なノイズか。なんというエレガントな爆音か。このギターの音は何か。この音は何か。彼の演奏は何なのか。例外という場所にある、さらなる真の例外状態から鳴らされる音、音、音、音の渦。いや、そもそもこの音は音楽なのだろうか。音楽を超えているのではないか。いや、音楽だ。音楽的なノイズというべきか。音と音の隙間、無調とノイズの隙間に音楽が宿っている。まさに、あのアート・リンゼイのノイズ/ギターとしか言いようがない音。

 もっとも本盤は、アート・リンゼイのソロ作品でない。ノルウェイのジャズ・グループ、アトミックのドラマー、ポール・ニルセン・ラヴとの競演作である。演奏は2013年7月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロでライヴ録音された(このライブはブラジルの〈Quintavant〉というノー・ウェイヴ魂が炸裂するような作品をリリースするレーベルの企画。このレーベルは現代的ノー・ウェイヴ作品ばかりをリリースしており注目だ。https://quintavant.bandcamp.com/。ポール・ニルセン・ラヴの音源もリリース)。

 とはいえ、アート・リンゼイの名が、レコード・ジャケットの表面に堂々と印刷されたアルバムを手にしたのは何年ぶりのことだろうか。むろんベスト盤や参加作品などではなく、いわゆる新録音の作品として、である。となると2004年の『ソルト』以来ではないか。つまり、10年ぶり。とはいえ、今年のアート・リンゼイはベスト盤『アンサイクロペディア・オブ・アート(邦題・アート・リンゼイ大百科)』(ライブ盤と2枚組)をリリースしており、さらには来日も果たし、小山田圭吾らとライヴを行い、日本の観客にむけて、その健在ぶりを示したばかりだ。

 このアルバムも、アート・リンゼイ印の強烈なノイズ・ギターが、アルバム全編にわたって炸裂している。まさに健在。この作品をリリースしたポール・ニルセン・ラヴには感謝しかない。彼の自主レーベルから〈PNL〉からリリースされたのだ。本作は、先に書いたよう全編インプロ演奏のパッケージングだ。90年代中期以降のソロ作品に聴かれた瀟洒なブラジリアン・ミュージックの要素は、表面上はまったく皆無である。
 アートは、まるでDNA期のような独自チューニングのギターを掻き毟り強靱なノイズを発しつづける。そこにポール・ニルセン・ラヴの複雑なドラミングが絡み合い何とも激シブなサウンドが生成/炸裂していくのだ。二人の演奏のテンションは半端ではないが、アートのノイズ・ギターがそうであるように、本盤の演奏にはどこか冷め切った詩情がある。それはブラジルという彼のもうひとつの「故郷」で生まれた裏返しのサウダージ感とでもいうべきものかも知れない。冷徹と激情。ノイズとサウダージ。その相反するものが圧倒的な爆音/ノイズとして瞬間的に生成しており、ああ、これはアート・リンゼイの音だと惚れ惚れしてしまうのだ。
 
 先に書いたように、このアルバムは、すべてインプロ/ノイズである。つまり彼のギターのノイズをとことんまで堪能できるアルバムだ。聴けば分かるがアートの熱情はまったく衰えていないどころか、爆音と痙攣するようなノイズ・ギターはますます研ぎ澄まされている。
それに応答し、ときには演奏を牽引するポールのドラミングも素晴らしい。“Scarcery1”で、それまで複雑なドラムプレイを繰り広げていたポールが、突如、裏拍のシンプルなリズムを叩きだし、そこにアートのノイズ・ギターが交錯するあたりは、本盤のクライマックスといえる。

 録音時間26分。その短さもクールだ。アナログ盤ではA面“Scarcery1”に18分の演奏を33rpmで収録し、B面“Scarcery2”に6分42秒の短い演奏を45rpmで収録している。CDは当然2曲入りだ。パっと始まり、ザクっと終わる。これぞノーウェイブ・スピリッツではないか。いうまでもなく、その瞬間に生成していくような演奏の密度は「26分」という時間概念を遥かに超えており、無限の時間が一撃のノイズに圧縮されているようだ。
 
 この圧縮されたノイズの一撃の中に、私はアート・リンゼイという一人の男の人生を聴く。この10年、アート・リンゼイの身に何があったのか。彼は2004年にニューヨーク離れ、ブラジルに移住したらしい。その後、一説には病気になったとも、契約もなかったとも言われているが、どんな理由があってにせよ、彼は、何らかの欠乏状態にあったのではなかと想像してしまう(むろんまったく反対に充足していたといえるかも知れない)。欠乏、そして不足。『スケアシティ』という捻ったアルバム名から想像できる事態の数々。YouTubeに上がっているライヴ演奏などを見れば、一瞬にして分かってしまうが、今の彼は、そんな人生の複雑な棘を、ノイズとして表現しているように思える。人生のサウダージ・ノイズ。

 アルバムは見開きのダブル・ジャケットになっており、中面には大きくアートとポールの写真が使われている。その二人の醸し出す雰囲気が素晴らしいのだ。中年になり、いささか贅肉のついたアートの、その無精髭と、冷徹でクールな視線。ヨレヨレなのに、棘のようにかっこいい。まるで亡命者のような彼の佇まいは(実際、彼はまさしく亡命者であろう!)、なんとも素晴らしい。

 本作のミックスとマスタリングは、 ノルウェイのノイズ・ユニット、ジャズカマーのラッセ・マーハウグが行っている(ラッセ・マーハウグは、ポール・ニルセン・ラヴと共演し、〈PNL〉より『ストーク』(2007)、『ノー・コンボ』(2011)を発表。またジム・オルークを加えたトリオ演奏作『ザ・ラヴ・ロボット』や、大友良英を加えたトリオ作『エクスプローション・コース』なども2013年にリリースしている)。その埃に塗れたような霞んだ音は、ブラジルのストリートを思わせもする素晴らしいものだ。また、この作品の魅力的なアートワークも彼の手によるものである。

ハリー・ポッターが左翼って本当? - ele-king

ハリー・ポッターが左翼って本当?

12人の英国人セレブの人生を通して、
政治リセットの現代に「左翼の意味を問う」。

保育士にして英国のいまを見つめる“ゴシップ”・ライター、
ブレイディ・みかこによる待望の新刊!

Mrビーン、映画監督ケン・ローチやダニー・ボイル、元ハッピー・マンデーズのベズ、元スミスのモリッシー、ビリー・ブラッグ等々……
英国大衆文化はかくも「左翼」がお好き。しかし、では、何故に?

UK在住の日本人女性ライターが、12人の英国人セレブの人生を通して、
政治リセットの現代に「左翼の意味を問う」書き下ろし痛快エッセイ!

■目次
1945年のスピリットを現代に伝える映画界の大御所──ケン・ローチ(映画監督)
モリッシー、ザ・クラッシュ&ハリー・ポッター──J・K・ローリング(作家)
言論の自由とMrビーン──ローワン・アトキンソン(コメディアン・俳優)
マラカスとリアリティー党──ベス(元ハッピー・マンデーズ)
LGBT界のゆるキャラ大御所──イアン・マッケラン(俳優)
セックス、ドラッグ&ポリティクスを地で行く革命のアジテーター─ラッセル・ブランド(コメディアン・俳優)
左右にゆれるポリティカル系炎上セレブ──モリッシー(ミュージシャン)
地域コミュニティーのパワーを信じるジャズ・ウォリアー──コートニー・パイン(ミュージシャン)
神父になりたかった映画監督──ダニー・ボイル(映画監督)
大人のナショナリズムの必要性を説くシンガー・ソングライター・アクティヴィスト──ビリー・ブラッグ(ミュージシャン)
チャヴ愛に燃える女性パンク・ライター──ジュリー・バーチル(作家/批評家)
黒人であることとゲイであること。そしてフットボール選手でもあること──ジャスティン・ファシャヌ(元フットボーラー)

■ブレイディみかこ  Brady Mikako
1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。一児の母、保育士、ライター。2013年に刊行された著書『アナキズム・イン・ザ・UK ──壊れた英国とパンク保育』は話題を呼び、ロングセラーに。

■ザ・レフト──UK左翼セレブ列伝

ブレイディみかこ 著

本体1,800+税
B6判 224ページ
2014年12月10日発売
ISBN:978-4-907276-26-3
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