「Nothing」と一致するもの

Sufjan Stevens - ele-king

 ワールズ・エンド・ガールフレンドが「気のふれたファイナル・ファンタジー」なら、『ジ・エイジ・オブ・アッズ』はさしずめ「気のふれたハリウッド映画」とでも言えばいいのか......。ああそうだ、こういう音楽はアメリカ人に説明してもらうのがいい。「スフィアン・スティーヴンスの『ジ・エイジ・オブ・アッズ』による最新の宇宙・未来派・教会・少年・モンスター映画・幻覚系を聴いたあとでは、あなたは、彼はスタジオから出てセラピストの診察台の上でヤバくなったという結論に達するかもしれない。彼は狂気の"創造的可能性"の探求者であり、彼はおそらく不遜にもアメリカのアウトサイダー・アートの文化的明るさを利用している。あるいはまた、彼が彼の創造的な忠誠心を失っているという非難から逃れるために狂気を装っている。わからないけど、それらは実は大した問題じゃない。僕にとって重要なことは、『ジ・エイジ・オブ・アッズ』がたまらなく楽しくて、そして複雑なまでにマスターピースであるということである」......、以上は『タイニー・ミックス・テープ』のレヴューからの引用。

 ついでにもうひとつ。『ピッチフォーク』から。「スフィアン・スティーヴンスの6枚目は、われわれが彼に期待するものと一戦を交える。今回は、彼のアメリカに関する雑学や歴史上の人物、そして特定の場所と人間らしさの代わりに、彼は自分自分の精神状態に接続している。バンジョーはない。不機嫌なエレクトロニクス、深いベースとドラムは湯沸かし器のように爆発する。2005年の『イリノイ』ではもっとも長い曲名は53字あったが、今回のそれは"I Want to Be Well"(17字)。彼は囁いていない。叫んでいる。そして『ジ・エイジ・オブ・アッズ』のクライマックスでは、この敬虔なキリスト教徒にして行儀の良いインディの気取り屋は、少なくとも16回は思い切り叫んでいる。『僕はふざけちゃいない!(I'm not fuckin' around!)』と」

 たしかに最後から二番目の曲、アルバムを最初から40分以上聴き続けたときに出てくる10曲目の"アイ・ウォント・トゥ・ビー・ウェル"の後半の叫びとコーラスの掛け合いはすさまじいものがあって、それは黒い笑いというよりは、もはや正真正銘の錯乱状態と呼ぶに相応しい。『僕はふざけちゃいない!』、その叫びはリスナーをますます混迷のなかに突き落とす。『イリノイ』のヒューマニズムと叙情詩は混乱に取って代わり、その音楽性も多彩というよりはケオティックである。IDMスタイルを応用しながら、古きアメリカの音楽(教会音楽からレス・バクスター、スティーヴ・ライヒからプリンスまで)が掻き混ぜられているのだが、それらは甘いようでいてどこか居心地が悪く、陶酔的なようでいてどこか苛立っている。

 そしてサイモン&ガーファンクルのようなハーモニーではじまるこのアルバムで、スティーヴンスは過去の愛、自殺願望、自己欺瞞、利己主義と自己嫌悪、破局、あるいは炎や神話......などについて歌う。20分以上もある組曲風の最後の曲"インポシブル・ソウル"は、もがき苦しむ魂の遍歴であり、最後もやはりサイモン&ガーファンクルのようなハーモニーで終わる。「きみに言ってやりたい:ああ! 力をあわせたら/ああ! ひどいことになったね」

 それが彼の本心なのか、素振りなのか、寓意なのか、悪意なのか、はっきりとわからない。そして、この壮大な内面のドラマについて深く首を突っ込みたくないというのも、正直ある。実際の話、訳詞を読みながら聴いていたら、ひどい船酔いにあったように、頭がくらくらしてきた。いや、だからそうではなく、エレクトロニカ・ポップの優れた結実としてこれを楽しもうと、少なくとも9曲目まではそのセンで聴いていられる......が、それもまあ、無理がある。美しい歌とたたみかけるコーラスを擁したパライノアックでスピリチュアルなこの音楽は、えもしれぬ複雑な幻覚を与えるのだ。容赦なく、それも圧倒的なまでに。

 これはアメリカ文化の廃墟の上で鳴り響く、異端者たちの交響楽団による分裂症的シンフォニーである。いずれにせよ、『ミシガン』と『イリノイ』でソングライターとして大きな賞賛を与えられたデトロイト出身ブルックリン在住のアーティストによる最新作は、ジャケットに使用されたロイヤル・ロバートソンのアートワークを見事に反映する、実にインパクトの強いものとなった。

Glasser - ele-king

「お気をつけなさい。お気をつけなさい。.........」
海に囲まれたこのクールなジャパンは、あらゆる外来文化を不可思議な形に変えてしまうのだから。
「ことによるとデウス自身も、この国の土人に変わるでしょう。支那やインドも変わったのです。西洋も変わらなければなりません。我々は木々の中にもいます。浅い水の流れにもいます。(中略)どこにでも、またいつでもいます」芥川龍之介『神神の微笑』

 「我々」というのは日本の「神々」のことである。舞台は戦国時代、イエズス会の神父オルガンティノが京都の南蛮寺で日本の神々に出くわすという神秘体験を綴った短編だ。史実にはないようだが、引用部分は「日本の精神的風土」を考察する際によく用いられる。とくに補足はいらない。ビョークが森ガールになる風土である。引用箇所のニュアンスは、多くの人が思い当たるものであるはずだ。後述するが森ガールは、男女観と社会をめぐる価値転倒と逃避の契機を含んだ、日本オリジナルの女性類型だ。しかも比較的新しい言葉である。少なくとも逃避の要素のない、しかも2000年代以降の国内事情にほぼ無関係なビョークをここに結びつけるのは短絡と言えよう。

 グラッサーもめでたく変化(へんげ)させられ、ここ日本で森ガール的な受容をされていくのではないかと思う。リスナー側からすれば別段悪いことでもない。さすがにもうその呼称での訴求力は弱いかもしれないが、需要がなくなるわけではない。森ガールが聴いていそうな音楽は何ですか。「ヤフー知恵袋」のベスト・アンサーは以下のとおりである。「コーネリアス、カヒミ・カリィ、高木正勝、INO hidefumi、salyu、yuki」
 なるほど。「ニカ」か、霊妙な女性ヴォーカル。どだい定義があってないような概念であるが、「森ガール」は「鉄子」や「歴女」、「農ギャル」、「カツマー」とさえ共通して、「男性(社会)からどのように距離をとるか」という命題を有しているように思われる。さらにいえば「男女の性的な関係性の外にいかに脱出するか」「男性の気を引かずに(あるいは引かないことを装って)、且つ、可愛くある(女性として充実する)にはどうしたらよいか」といった問題である。その答えとして、資金を貯めて武装するという闘争路線をとるもの、森に向かい、鉄道へ向かい、非日常性と脱世界性を志向するもの等々に分かれるというわけだ。ここに「ニカ」的な音が召喚されるのはわからなくはない。社会の生々しさを脱臭する、エレクトロニカにはたしかにそうした側面もある。サリュやユキなどのエスリアルな女性ヴォーカルにも同様なことが言えるだろう。彼女たちの、つま先がわずかに地面を離れているような在り方にひかれるのである。

 グラッサーはキャメロン・メジローという美貌の才媛によるひとりユニットだ。キャメロンはブルー・マン・グループのメンバーであるという父を持ち、幼い頃からモータウンやニューウェイヴを聴いて育ったという。2009年にリリースされた〈eミュージック・セレクツ〉のコンピ『セレクティッド+コレクティッド』で、ガールズやペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートなど2000年代後期を象徴するバンドとともに収録されて注目を浴び、本デビュー・フルのリリースにいたる。その折の収録曲が、本作の冒頭を飾る"アプライ"である。これがアップル社のガレージ・バンドで作られているというのだから驚きだ。プロデューサーがついたとはいえ、もとのデモはかなり生きているらしい。トライバルで多層的なパーカッションと、信号音のようにぶっきらぼうなベース音以外は、彼女のヴォーカルのみ。しかしこの伸びやかで華のあるヴォーカルのために、じつにヴォリューミーな印象を受けるトラックである。ビョークと比較されることが多いようだが、華やぎと超俗性を兼ね備えたヴォーカルはたしかに共通したものを感じさせる。また、ビートや打楽器自体にはエスニックな趣味性が強いが、アルバム全体としては広がりのある、血色のよいエレクトロニカが基調となっている。要するに、品がよい。スレイ・ベルズのようにやんちゃでも、ボンジ・ド・ホレのようにホンマものの辛口でも、チューンヤーズのようにエクスペリメンタルでもない。どちらかというと美術館の白い壁によく映える音だ。
 決して否定しているわけではなく、この品のよさこそが彼女にポップな存在感を与え、成功の足がかりをつくることになると思う。彼女は次のファイストにもなり得る器である。マイスペースには裸足で機織り機に向かう写真が載っているが、じつに申し分ないショットだ。ここにはキャメロンのトライバル志向や巫女性が、ハイ・プレイシズやラッキー・ドラゴンズ等のブルックリン的なモードと共鳴しながら、高級ファッション雑誌のような完成度で写りこんでいる。あの声を縦糸に、あの美貌を横糸に、ガレージバンドという織り機を彼女は美しく操る......。コアなインディ・ファンから、普段は若いアーティストをチェックしない女性シンガー・ファンのおじさん、洋楽に馴染みがないという若い女性まで広くアピールするはずである。言わずもがな、日本においてはもちろん「森ガール」押しだ。"ホーム"の反復するマリンバは、アフリカンな土俗性を離れ、森深く湧き出づる泉の音となるだろう。"トレメル"のスティールパンはニットのやわらかいベージュにくるまれるだろう。お気をつけなさい。
 しかしどのようにこちらの文脈に捕われようが、音自体が変形するわけではない。グラッサーは文脈や環境にどのくらい対抗することができるだろうか。そして日本と日本の音楽ファンに何を残すことができるだろうか。

Chart by JETSET 2010.10.18 - ele-king

Shop Chart


1

CALM

CALM SAVE THE VINYL - EP1 / »COMMENT GET MUSIC
ニュー・アルバムからの12インチ・カット!アルバムのタイトルは自身のユニット名「Calm」、そこからのアナログ・カットは「Save the Vinyl EP」と尋常ではない思いが溢れた本作。

2

INNOSPHERE

INNOSPHERE SHINE / »COMMENT GET MUSIC
ATCQ + Lucy Pearlのような衝撃...! USから届いた素晴しきネオ・ソウル。心にスッと入ってくるクリアなサウンドとボーカルが堪らないボーナストラック入り全13曲。当店お馴染みのSweet Soulレーベルから何とJETSET先行リリースです!!

3

ALTON MILLER FEAT AMP FIDDLER

ALTON MILLER FEAT AMP FIDDLER WHEN THE MORNING COMES - INCL AMP FIDDLER REMIX / »COMMENT GET MUSIC
Superb Entertainmentの新作はデトロイトの重鎮、Alton Miller!既に、Joe Claussell、Loise Vega、Larry Heardがプレイ中の話題の1枚が入荷!デトロイトの新星、Kyle HallとAmp Fiddlerによるリミックスも収録。

4

80KIDZ

80KIDZ WEEKEND WARRIOR / »COMMENT GET MUSIC
遂に80kidzのセカンド・アルバム発売決定!!当店オリジナル特典付き。説明不要のジャパニーズ・インディー・エレクトロ・デュオ、80kidz!!当店爆裂ヒットを記録したデビュー・アルバム『This Is My Shit』から約1年半、遂にセカンド・アルバムが完成。メチャ楽しみです!!

5

DIPLO & TIESTO

DIPLO & TIESTO C' MON / »COMMENT GET MUSIC
なんとDiploがダッチ・トランス・レジェンドとコラボレート!!Jamie Fanaticのリリース辺りからダッチ・シーンとの交流も始まった辺境探求者Diploですが、今度はなんとトランス・シーン巨匠との奇跡のコラボが実現しました!!

6

MAXMILLION DUNBAR

MAXMILLION DUNBAR COOL WATER / »COMMENT GET MUSIC
12"で既にヤラれた方、お待たせしました!注目の1stソロ・アルバムが遂にリリースです。80'sエレクトロの空気をふんだんに盛り込んだ繊細なサウンドを軸に、あくまでヒップホップ的アプローチで作り上げた極上の全8曲!

7

OK GO

OK GO WHITE KNUCKLES (REMIXES) / »COMMENT GET MUSIC
アルバム"of the Blue Colour"からのリミックス・シングル!!Passion Pitによる胸キュン疾走エレポップB-1を筆頭に、オリジナルのポップ・センスをを見事に活かしたエレクトロ・ダンス・トラック全4ヴァージョン。メチャクチャ良いです〜!!

8

MAGNETIC MAN

MAGNETIC MAN MAGNETIC MAN / »COMMENT GET MUSIC
ダブステップを超越した21世紀型ポップス特大傑作1st.!!SkreamとBengaの親友コンビにArtworkを加えたダブステップ最強トリオ・プロジェクトMagnetic Man。特大アンセム"I Need Air"も搭載の大傑作1st.アルバムの登場です!!

9

JAMES BLAKE

JAMES BLAKE KLAVIERWERKE EP / »COMMENT GET MUSIC
神がかり緻密エディット。魅惑のパウダーシュガー・ポップ傑作が到着しました!!同系統の超新星Pariahによる"Safehouses EP"も爆裂ヒット中のベルギー老舗から、"Cmyk EP"や"Bells Sketch"も聖典化した天才James Blakeが再光臨!!

10

BAS AMRO

BAS AMRO LE HUITIEME ARRONDISSEMENT / »COMMENT GET MUSIC
Radio Slaveも大興奮のアトモスフェリック・テック・ハウス、これはかなり最高です!!データ配信主体での活躍も目覚しく、テクノ/テック・ハウス・シーンから絶大な期待を寄せられていた若干19歳のダッチ・アクト"Bas Amro"。手腕を振るったWolfskull Limitedからの素晴しい一枚をご紹介させていただきます。

DJ NOBU (FUTURE TERROR) - ele-king

地下室でヴァイナルで鳴らしたい10曲


1
Jens Zimmermann - Sequenz 31 - Treibstoff

2
Lucy - Kalachakra -Prologue

3
L.B. Dub Corp - It's What You Feel - Ostgut Ton

4
Schermate - Schermate 005 at (YELLOW) - Schermate

5
Donor/Trusss - Sude 3 - Thema

6
DJ Nobu - Friday (Nobu's Edit) - Grasswaxx Recordings

7
Mike Parker- GPH14 - Geophone Record

8
Silent Servant -Discipline - Sandwell District

9
Planetary Assault Systems - Hold It (Deuce Remix) - Ostgut ton

10
tobias. - Balance - Ostgut ton

KJ a.k.a DJ PATROL (ECHOPARK) - ele-king

最近のBest10


1
Baker(s) Dozen - Piano Lessons - Foot And Mouth

2
Tracey Thorn - Why Does The Wind? - Buzzin' Fly

3
Justin Vandervolgen - I Love You - TBD Classics

4
DJ Oji - Sweet Intoxicated Woman - White Label

5
Shahrokh Dini - Chewed Life - Compost

6
Frisvold & Lindbaek - Bozak - Full Pupp

7
Doomwork - Fever Sax - Arearemote

8
Walter Gibbons - Jungle Music - Strut

9
Joaquin Joe Claussell - The Drifting Of A Snow Flake Into Darkness - Sacred Rhythm Music

10
Smith & Mudd - The Surveyor -Claremont 56

DJ NOZAKI (PRIMO ONLY / IOIOP) - ele-king

DJ NOZAKI's HOT10TOT10TROT10 vol.1


1
Buddah Brand - Ningen Hatsuden Syo classic mix inst. - 76 Records

2
Miroslav Vitous - Purple - cbs/sony

3
Die Verboten - Eivissa - love&peace

4
Carlos Santana - One With You - cbs

5
Ray Mang - Angel - mangled

6
Marvin Franklin - Kona winds - kkua

7
Andre Carr - Disco frisco - harmony

8
Tatsu Yamashita - Love space - air

9
Tatsu Yamashita - Windy Lady - air

10
YOTSU KAIDOU Nature - Urban Combatt 2001 - guntez

Shitaraba - ele-king

ここんとこ2ヶ月DJしてないDJチャート


1
MusSck - Shinigami -Car Crash Set

2
Daniel Savio - Lordoftheflies -Losonofono

3
Cosmic Revenge - Cold Hearted -Fortified Audio

4
Stagga - Timewarp -Robox Neotech

5
Daniel Savio - Sqoui Sweet Sqoui -Losonofono

6
Dels - Shapeshift -Big Dada

7
MusSck - Death Note - Car Crash Set]

8
Dibiase - Renegade Slap (Devonwho Collab) -Alpha Pup Records

9
Sepalcure - Every Day Of My Life -Hotflush

10
Paradeigma - Galoperidol -Another Chance Recordings

DJ yoshimitsu(S.E.L) - ele-king

autumn dub selection 2010


1
Troyah - Disco Dub Set - S.T Eeik

2
Augustus Pablo - no entry - maroon

3
Farmer In The Sky - JAHTARI RIDDIM FORCE - BASTARD JAZZ

4
Prince Fatty - Gin and Juice - Mr.Bongo

5
Grand Magneto- Let's Dance -Big Single

6
Tony Brevett & The Israelites -Starlight - Motion

7
Tommy McCook - Fisherman Special - Vivian Jackson

8
Keith Hudson - Pick A Dub - Mamba

9
Scientist -Scientific Dub - Clocktower

10
Scientist -Scientist Meets the Space Invaders - Greensleeves

DJ Wataru Takano (HOUSE GROW) - ele-king

最近のお気に入り


1
Frederic Francois Chopin - etude - kentaro iwakis island jazz remix - RAMBLING

2
JUZU a.k.a MOOCHY - Re:momentos movements - CROSSPOINT

3
Waltz - Quater Man-blendmix - JET SET

4
V.A - THE WORLD ENDS:AFRO ROCK & PSYCHEDELIA IN 1970S NIGERIA - SOUND WAY

5
DENPUN - FINAL FANTASY - dplab

6
Waves - Encounter - BEAMS RECORDS

7
Fela Kuti - WITCH CRAFT -K CIV Edit- - K CIV

8
Jeremy Duffy - Eagle Flight - Duff Disco

9
DANNY KRIVIT - EDITS BY MR.K LIMITED 12" SAMPLER #1 & #2 - STRUT

10
COLM K + FREESTYLEMELLOWSHIP - DANCING SKULLS - Bastard Boots

Group Inerane - ele-king

 グループ・イネラネ......西アフリカのサハラ砂漠南のニジェールの、サハラ砂漠の遊牧民トゥアレグ族のロック・バンドによる最新アルバムである。ターバンを巻いた砂漠のロック・バンドで、彼らがストラトキャスターを抱えているだけでも、まあ、絵になる。ちなみに『ギターズ・フロム・アガデス』の"アガデス"とはこんな光景のところである。
 『ギターズ・フロム・アガデス』の第一作目は2007年にリリースされている(それは現在、1万円を超える高値が付けられている)。レーベルはこの10年、タイのロックからベトナムのフォーク、シリアやマリ、リビアやサヘルの最新の音楽など、東南アジアから西アフリカの音をかき集めては発表している、サン・シティ・ガールのアラン・ビショップとヒシャム・マイェットによる〈サブライム・フリーケンシーズ〉。同レーベルから出ているシリアのカントリー・フォーク集に関しては三田格が本サイトで紹介しているが、そう、USでは〈サブライム・フリーケンシーズ〉、UKでは〈オネスト・ジョン〉や〈ストラト〉とかいろいろ、ゼロ年代以降の欧米ではエチオピアのジャズや南アフリカのハウスやシャンガーン・エレクトロ、バゾンバ族のダンス・ミュージックなど、アフリカ音楽への新たな関心が高まっていて(それもインディ・ロック、クラブ系、ヒップホップ系からだ)、トゥアレグ族による砂漠の音楽シーンも熱心に紹介されている。世界的に有名なのは日本盤も出ているティナリウェンで(とくに2004年の『アマン・イマン〜水こそ生命』はよく知られている)、グループ・イネレンも評価の高いバンドのひとつである。

 さて、そこで......まずは、デトロイトのことを何も知らずに"ストリングス・オブ・ライフ"を聴いたときのことを思い出してみよう。そして彼らの背景を思わず、音だけに集中してみる......というのは、『タイニー・ミックス・テープ』のレヴュワーが「背景に囚われずにこれを聴け」とうるさいからである。
 M.I.A.問題の反動だ。われわれが思っている以上に、USの音楽業界はテロリストを父に持つという神話性に振り回されたのかもしれない。まあ、それを思えば『ニューヨーク・タイムス』のスキャンダルな記事も理解できなくもない。たしかに......、もしマッド・マイクがIT企業の役員の息子だったとしても、"ハイテック・ジャズ"は同じように多くのクラバーを踊らせたに違いないが、しかし背景を気にしすぎるなというのもある意味ナンセンスだ。音楽は環境に磨かれるわけだし、知ることによってわれわれは理解を深めることができる。そしてそれは踊ることとはまた違った喜びになりうる。ともあれ、『タイニー・ミックス・テープ』のレヴュワーは、ある種のたとえ話として、ライナーノーツに頼らなくても、それだけ本作が素晴らしい音楽だと言いたいわけである。たしかに「この音楽はまったく素晴らしくて、生命を主張し、あらゆる方法で祝福する」。異論はない。

 スタジオ・ライヴによるこれは、ラフな録音ながら、彼らの音楽の魅力は伝わる。いわば地球の裏側の砂漠を旅するジミ・ヘンドリックスによるダンス・バンドである。A面の1曲目の"Telalit"がとくに最高で、これは3拍子の曲だが、ビビ・アーメドとコウデデのふたりによるエキゾティックだがどこかブルースなギターのリフが反復し、独特なシンコペーションを生んでいる。トゥアレグ語のヴォーカルが挿入され、欧米で言うところの"サイケデリック・ガレージ・ロック"な様相を見せるが、欧米のそれとは違う独特の響きを有している。B面の1曲目の"Tchigefen"と2曲目の"Ikabkaban "もまた3拍子の曲だが、前者はソウルフルで後者は瞑想的でサイケデリックだ。どの曲に関しても言えるのは、ギターのリフとそのアンサンブルがユニークなことで、音量としてもヴォーカルより大きく、それはこの音楽の魅力のひとつになっている。

 トゥアレグ族はニジェールとマリで反政府武装闘争を展開している。砂漠の遊牧民としての長い歴史を持つ彼らは、欧米化を拒み続け、そして生活に窮している。最初のアルバムでセカンド・ギターを弾いていたアジ・モハメドは活動家のひとりとして頭を撃たれ死んでいるが、ビビ・アーメドは新しいギタリストとしてコウデデをバンドに加入させると、このアルバムを録音した。
 ニジェールは2010年、軍のクーデターにより軍事政権となり、国境の閉鎖と夜間外出の禁止を発令した。トゥアレグの音楽シーンにはややこしくも大きな物語がついてまわる。『タイニー・ミックス・テープ』のレヴュワーはそれを忌避したいのだ。何故ならグループ・イネラネの音楽からは、そうした好戦的で政治的なニオイがまずしないからである。音楽はダンス・ミュージックであり、祝祭性に満ちている。彼らはパーティ・バンドなのだ。

 そして......M.I.A.を知らなければタミル・タイガーのことなど関心も寄せなかったように、グループ・イネラネを聴かなければトゥアレグ族について調べようとする契機を持たなかっただろう。音楽は祝祭だが、より多くを学ぶための入口にもなる。

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