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Sufjan Stevens

Sufjan Stevens

The Age of Adz

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野田 努   Oct 20,2010 UP
E王

 ワールズ・エンド・ガールフレンドが「気のふれたファイナル・ファンタジー」なら、『ジ・エイジ・オブ・アッズ』はさしずめ「気のふれたハリウッド映画」とでも言えばいいのか......。ああそうだ、こういう音楽はアメリカ人に説明してもらうのがいい。「スフィアン・スティーヴンスの『ジ・エイジ・オブ・アッズ』による最新の宇宙・未来派・教会・少年・モンスター映画・幻覚系を聴いたあとでは、あなたは、彼はスタジオから出てセラピストの診察台の上でヤバくなったという結論に達するかもしれない。彼は狂気の"創造的可能性"の探求者であり、彼はおそらく不遜にもアメリカのアウトサイダー・アートの文化的明るさを利用している。あるいはまた、彼が彼の創造的な忠誠心を失っているという非難から逃れるために狂気を装っている。わからないけど、それらは実は大した問題じゃない。僕にとって重要なことは、『ジ・エイジ・オブ・アッズ』がたまらなく楽しくて、そして複雑なまでにマスターピースであるということである」......、以上は『タイニー・ミックス・テープ』のレヴューからの引用。

 ついでにもうひとつ。『ピッチフォーク』から。「スフィアン・スティーヴンスの6枚目は、われわれが彼に期待するものと一戦を交える。今回は、彼のアメリカに関する雑学や歴史上の人物、そして特定の場所と人間らしさの代わりに、彼は自分自分の精神状態に接続している。バンジョーはない。不機嫌なエレクトロニクス、深いベースとドラムは湯沸かし器のように爆発する。2005年の『イリノイ』ではもっとも長い曲名は53字あったが、今回のそれは"I Want to Be Well"(17字)。彼は囁いていない。叫んでいる。そして『ジ・エイジ・オブ・アッズ』のクライマックスでは、この敬虔なキリスト教徒にして行儀の良いインディの気取り屋は、少なくとも16回は思い切り叫んでいる。『僕はふざけちゃいない!(I'm not fuckin' around!)』と」

 たしかに最後から二番目の曲、アルバムを最初から40分以上聴き続けたときに出てくる10曲目の"アイ・ウォント・トゥ・ビー・ウェル"の後半の叫びとコーラスの掛け合いはすさまじいものがあって、それは黒い笑いというよりは、もはや正真正銘の錯乱状態と呼ぶに相応しい。『僕はふざけちゃいない!』、その叫びはリスナーをますます混迷のなかに突き落とす。『イリノイ』のヒューマニズムと叙情詩は混乱に取って代わり、その音楽性も多彩というよりはケオティックである。IDMスタイルを応用しながら、古きアメリカの音楽(教会音楽からレス・バクスター、スティーヴ・ライヒからプリンスまで)が掻き混ぜられているのだが、それらは甘いようでいてどこか居心地が悪く、陶酔的なようでいてどこか苛立っている。

 そしてサイモン&ガーファンクルのようなハーモニーではじまるこのアルバムで、スティーヴンスは過去の愛、自殺願望、自己欺瞞、利己主義と自己嫌悪、破局、あるいは炎や神話......などについて歌う。20分以上もある組曲風の最後の曲"インポシブル・ソウル"は、もがき苦しむ魂の遍歴であり、最後もやはりサイモン&ガーファンクルのようなハーモニーで終わる。「きみに言ってやりたい:ああ! 力をあわせたら/ああ! ひどいことになったね」

 それが彼の本心なのか、素振りなのか、寓意なのか、悪意なのか、はっきりとわからない。そして、この壮大な内面のドラマについて深く首を突っ込みたくないというのも、正直ある。実際の話、訳詞を読みながら聴いていたら、ひどい船酔いにあったように、頭がくらくらしてきた。いや、だからそうではなく、エレクトロニカ・ポップの優れた結実としてこれを楽しもうと、少なくとも9曲目まではそのセンで聴いていられる......が、それもまあ、無理がある。美しい歌とたたみかけるコーラスを擁したパライノアックでスピリチュアルなこの音楽は、えもしれぬ複雑な幻覚を与えるのだ。容赦なく、それも圧倒的なまでに。

 これはアメリカ文化の廃墟の上で鳴り響く、異端者たちの交響楽団による分裂症的シンフォニーである。いずれにせよ、『ミシガン』と『イリノイ』でソングライターとして大きな賞賛を与えられたデトロイト出身ブルックリン在住のアーティストによる最新作は、ジャケットに使用されたロイヤル・ロバートソンのアートワークを見事に反映する、実にインパクトの強いものとなった。

野田 努