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Home >  Interviews > interview with Eiko Ishibashi - 進化する音と歌の迷宮

interview with Eiko Ishibashi

interview with Eiko Ishibashi

進化する音と歌の迷宮

――石橋英子、インタヴュー

松村正人 、 野田 努    Jun 27,2012 UP
E王
石橋英子
Imitation of life

felicity

Amazon iTunes

 あるとき、ある音楽を憑かれたように聴き続けたり、突然放りだしたりするのは、なにもあなたが飽きっぽいからでも狂っているからでもない。私なぞ商売柄つい使ってしまうが、ジャンルという早見表のほかに、音楽には(音楽だけではないが)形式を構成する要素を配置する力があり、構造がある。と、やおら小難しく書きだしてしまいましたが、なんのことはない、私は私たちの心情の総和として、こんな音楽が聴きたいよね、というのがあるといいたいのです。時代のムードとも耳の季節感ともいえるものだ。その一方で「いま聴きたくない音楽」というものもやはりある。むしろ、季節感を考える上では聴きたくない音楽を考える方が近道だともいえる。
 私は数年前まで、プログレ(と揶揄含みで略してみる)的な装飾過多の音楽をまったく受けつけなかった。中高生の時分は好んで聴いていたはずなのに、いま聴くと、グルーヴに乏しく、ゴテゴテしていて、めまぐるしい。それがしばらく前から、気にならなくなったのはクラシカルあるいはゴチックと形容される音を聴き慣れたせいかもしれないが、ともあれ、構築的な音により惹かれる自分を発見したのは驚きだった。カーヴを曲がって視界が開けるような、継続的なのにあざやかなきりかえしを、私は季節の変わり目とも思ったのだった。
 『carapace』から『imitation of life』へいたる石橋英子の変化は音楽の潮流の変化を読みきったものといえる。いや「読み」というほど能動的なものではなく、石橋英子は現在の音楽の背後にある私たちが共有する耳のツボを感覚的に探りあてる術に長けているのだろう、『imitation of life』には"プログレッシヴ"な構築性が基調になっているものの、前作で試みた細やかなソングライティングの発展形ともいえるポップでやわらかな肌ざわりも消えてはいない。マリンバが変拍子をリードするパルスとなり、絡まったリズムの間を弦楽器が縫うインスト・パート、その浮遊する歌、この類い希なアンサンブルは「死んだ人たち」(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子)の仕業だ。
 2012年のロック/ポップスとして自信をもってレコメンドしたい作品である。

私ね、だんだん退行している気がして。最初に戻っていくような感じがするんですよ、いろんな意味で。最初ってカオスだったと思うし、そういう感じになっていく気がするんですよね。

石橋:この前、野田さんに会ったときも「レコメン!」っていわれました。私、レコメンという言葉を知らなかったから「レコメンってなんですか?」って訊いちゃいましたけど、やたらレコメンっていわれるんですよ。

■昨年末に出した紙の『ele-king』(Vol.4)の座談会で2011年のソウカツとして「レコメンがリヴァイヴァルした」といったら失笑されたんですが、石橋さんにこういう作品を出してもらって安心しました(笑)。

石橋:おまえのいった通りだったみたいな(笑)。

■とはいえ、じっさいにプログレシッヴ・ポップと謳っていますし、プログレ的なものを意識していないことはないですよね?

石橋:意識していないことはないですね。とはいえ、これはほとんど冗談みたいなものなんですけど、私のレコーディングの前に(プロデューサーである)ジム(・オルーク)さんのアルバムのレコーディングがあったんです。そのときにプログレのレコードをかけたり、YouTubeで観たりすることが多かったんですね。そのときから「次の英子さんのアルバムはプログレ・エピックだ!」っていわれ続けていたんです。ピーター・ガブリエルがいたころのジェネシスとかジェスロ・タルの『シック・アズ・ア・ブリック』とか。ジムさんは酔っぱらってるし、私は話半分で聴いていたんですけど、一度ジムさんがプロトゥールスでMIDIのレッスンをしてくれたんですね。こういう風につくると各パートのアレンジも考えられて、デモの段階で全体像がつくれるからやった方がいいといわれたんです。それでMIDIでデモをつくっているうちにほんとうにプログレっぽくなってきちゃった(笑)。

■どの曲からつくりはじめました?

石橋:"fugitive"という曲が最初です。この曲は『carapace』の特典用につくった曲で、この曲はギターでつくったんですが、バンド用にアレンジし直したらいい感じになったからいれたんですね。

■ギターを使って曲づくりしたのはどういう理由ですか?

石橋:ガット・ギターをもらったからです(笑)。それで弾いてみようって。

■これまでに弾いたことは?

石橋:ほとんどないです。さわっているうちにできた感じですね。

■そのわりに上手ですね。

石橋:そうかなあ。でも、それをジムさんにライヴで弾いてもらうんですけど、ジムさんは「弾きにくい」ということもありますね(笑)。初心者の変なポジションで弾いているから、弾きにくいみたいですね。弾きにくいみたいですね。じっさいMIDIを使ってつくりはじめたのは"silent running"からです。実質この曲がアルバム用の曲をつくろうとしてはじめてつくった曲です。

■その時点で組曲形式、コンセプト・アルバム的な構成を考えていましたか?

石橋:正直そこまでできないというか、考えてはいなかったです。今回は、バンドのライヴがあるたびに新曲をもっていく感じだったんですね。メンバー全員忙しいので、ライヴの前の練習も一回くらいしかできない。だからある程度詰めないといけない。ドラムのMIDIなんかはヘンな音だから、スタジオでじっさいに叩いたり、ジムさんが「ディス・ヒートみたいなリズム・パターンを叩け」って(山本)達久にいったりしながらつくりました(笑)。

■たとえば"introduction"みたいな曲は一回練習しただけでできますか?

石橋:無理やりライヴでやるんですよ(笑)。楽譜とか譜面にしちゃうと難しくみえるんですけど、やってみるとそうでもないですよ。ほかのひとの音を聴かないとか、そういったやり方で(笑)。

■変拍子の曲を演奏するコツは他のメンバーのリズムに惑わされないということですもんね。

石橋:そうそう。だからなんとなくのグルーヴができていれば、ほかのひとの音を聴かなければできるようになるんじゃないですかね。

■ちなみに、この曲は何拍子の組み合わせですか?

石橋:長いインストの部分は......(といってしばらく拍数を勘定する)達久がいうには(笑)、23と24の繰り返しということでした(笑)。でもそれは達久の数え方なんですが。それにベースはまたちょっとちがくって。

■前のアルバムから何を変えようと思っていましたか?

石橋:意図したのは、やっぱりつくり方かな。バンドでやろうと思っていたから、キャストも決まっていたし、メンバーも決まっていた。このひとのどういう演奏してもらいたいかを考えてつくっていった感じがあります。脚本を書くような感じでした。

■登場人物に当ててつくった感じだったんですね。

石橋:ちょっとした悪戯心みたいなものもありつつ(笑)。

■わざと厳しい演奏を要求してみたり(笑)。

石橋:そうそう。

■完全にバンド・サウンドですよね。

石橋:そうです。

■「もう死んだ人たち」というバンド名はどこからきたんですか?

石橋:私がつけたんですけど、(NHK FMの)「ライブビート」という番組に出演したとき、ラジオ番組だし、見えないだろうと思って(笑)、メンバーはジョン・ボーナムとジャコ・パストリアスとデレク・ベイリーとストラディバリって紹介したんですよ。だからなんとなく、バンド名も「もう死んだ人たち」。それがなんとなくそのまま続いたんです。

■それは石橋さんの理想のメンバーなんですか?

石橋:なんとなく死んだ人を探しちゃったんですよ。じっさいその人たちが集まっても(笑)。

■音楽にならなそうですね(笑)。それで、アルバムの全体像はすぐにできあがりました?

石橋:"fugitive""silent running"ときて、 "written in the wind"、その次が"introduction"でした。その後に"long scan of the test tube of sea"。5曲くらいできあがったあとに、ジムさんに「英子さん、そろそろ簡単な曲をお願いします」っていわれてつくったのが2曲目("resurrection")と最後の曲("imitation of life")だったんですね。それで全曲出揃った感じでしたね。

■坂田(明)さんをゲストに招いたのはどなたのアイデアですか?

石橋:私です。ベーシックを録ったときに、"imitation of life"では坂田さんに吹いていただきたいと思ったんですね。この曲のコード進行ができたときに、世界全体が溶けていくイメージがあったんです。坂田さんのブワーッていうサックスの音は破壊力があると前からずっと思っていてピッタリだと思ったんです。

■このアルバムはある種のメカニカルな側面のある作品ですが、坂田さんの登場によって、すごく混沌とした感じになりましたね。

石橋:グニャっとしたもの、カオスを表現したかったんですよね。

■その余韻が石橋さんの世界に対するものの見方を象徴しているんでしょうか?

石橋:私ね、だんだん退行している気がして。最初に戻っていくような感じがするんですよ、いろんな意味で。最初ってカオスだったと思うし、そういう感じになっていく気がするんですよね。

■そういうとき、音楽はどうあるべきだと思いますか?

石橋:それは明白にはいえないんです。音楽が社会にどう関わっていくべきかというよりも、それ以前に自分がなぜ音楽をつくるのか、という段階に留まっているので。

■その点については、音楽をつくるごとに問いかけがあるんですか?

石橋:なぜ自分がつくる必要があるのか、ということを考えているから、社会に対して音楽がなにができるか、といえば、私は音楽は無力だと思っているし、たとえば困ったことがあっても、音楽は役には立たない。役に立つこともあるかもしれないけど、それはあくまで結果論であって、つくる側が役に立っていると思ってつくれるわけじゃないと思うんです。

■自分の音楽が誰かの癒しになっているとは――

石橋:全然思わない。

■そういう声を聞くことはありますよね?

石橋:ありますけどね。結果として事実として、そういう声は受け止めますが、だからといってそれで自分のやることは定義されないというか、定義されるはずではないと思っています。

■毎回つくることに対するハードルはあるんですか?

石橋:つくるハードルがあるとすると、なぜつくるのかということです。それは毎回思います。曲をつくる課程、フレーズ単位で、ほんとうに必要な音なのかどうか考えますよ。

取材:松村正人+野田努 文:松村正人(2012年6月27日)

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