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interview with Kuro

interview with Kuro

自分を爆発させたい

──Kuro、インタヴュー

取材・文:柴崎祐二    写真:小原泰広   Sep 30,2019 UP

 昨年リリースの TAMTAM のアルバム『Modernluv』は、それまでバンドが経てきた音楽的変遷の最新報告として、既存のファン以外を含む多くのリスナーにその魅力を知らしめることとなった。そのリリース時にも ele-king ではメンバーの高橋アフィとKuroにインタヴューを敢行し、豊富な音楽的バックグラウンドや卓越したセンスに迫ることができたが、今回はヴォーカル担当の Kuro による初のソロ・アルバム『JUST SAYING HI』の発売に際して、彼女の単独インタヴューをお届けする。
 バンド活動と並行して制作されたという本作、一聴して聞き取れるのは内外の最新系R&Bやヒップホップ、各種ビート・ミュージックとの強い共振だ。TAMTAMにおけるバンド・アンサンブル志向を一旦脇に置き、自身による奔放な作曲を交え気鋭のトラックメイカーたちを集結して制作されたその内容は、単に「ヴォーカリストのデビュー作」と呼称するにとどめることのできないヴァーサタイルな魅力に溢れている。
 ソロ活動開始のきっかけや各種トラックメイカーのチョイス、彼等との興味深いやりとり、自身の音楽的興味の現在、いまを生きる女性アーティストとしてのライヴリーな視点、作詞家としての美学とその矜持など、さまざまなトピックについて語ってくれた。


自分を爆発させたい、みたいな感覚があって。頭を空っぽにして、気分やノリみたいなものを大事に歌おうと思いました。ピッチを守ることとかより「オラッ」って勢いを出したいと思って。

ソロ活動は以前からやろうと思っていたんでしょうか?

Kuro:TAMTAM の活動をメインにしつつ、誰かとコラボしたりソロだったり、バンド以外の活動も増やしていきたいとは思っていたので、いつか良いタイミングがあればやりたいなとは思っていました。それを今年やることになったのは、レーベルの方から年の頭に提案をもらったというのがきっかけですね。

元々ソロ用の曲も作っていたんでしょうか?

Kuro:バンド用かソロ用かは別にして新曲のデモは定期的に作っていましたね。でも、今回それらの曲は結局全て入れなかったんです(笑)。正式にソロ・アルバムを作るとなって色々方針が見えてきてから作ったものですね。

「これはバンド向け」これは「ソロ向け」と差別化して曲を作ることはあまりしない?

Kuro:TAMTAM のデモを作るときは、ドラムや鍵盤、ギターとか、バンドの編成をなんとなく念頭に置いて作りますね。

今回はそういうのをとっぱらって作った?

Kuro:自分で作ったトラックに関してはそうですね。打ち込んだものが最終版になるというつもりで作曲したと思いますし、ベースレスだったりドラムの音色もエレクトリックが前提だったり。トラックメイカーに頼んだ曲についてはアレンジも含めヴォーカル以外は基本お任せにする形だったので、自分は歌に関連することだけに集中するという意味でまったく違う作り方でした。それぞれの方に作ってもらったトラックへ自分で作ったメロディーとコーラスラインと歌詞を集中して載せていくという工程でした。

もらったトラックを元にキャッチボールをする感じ?

Kuro:そうです。自分が仮歌を録音して送り返したものに対して、少し調整してもらったりしています。

なるほど。いわゆるシンガーソングライター的な作り方とソロ・ヴォーカリストへの楽曲提供的な制作法の中間のような形だったんですね。

Kuro:まさにそうですね。

昔からソロ・シンガー的なスタイルに憧れはありましたか?

Kuro:それが全然なかったんですよね(笑)。自覚的に音楽を作り始めたのはバンドが最初なので、メンバーと一緒に曲を作って歌うヴォーカル担当という意識が強くて、そもそも「シンガーです」というつもりが最初は特になくて。デビューしてから友達が増えていくに従って、ようやく徐々に世の中にはシンガーソングライターというソロ活動の世界があるんだな、とか実感できたような感じなので。

リスナーとしてはR&Bソロ・シンガーの音楽を好んで聴いていたんでしょうか?

Kuro:そうですね。TAMTAM はバンド形態ではありますけど、昔からリスナーとしては打ち込みトラックのものもバンドも分け隔てなく聞いていますし、ネオ・ソウル、レゲエやR&B、ヒップホップなどのポップ・ソングが歌のバックグラウンドにはあると思います。でも当時は「ソロ・シンガーになりたい、歌でやっていきたい!」とかは一度も思ったことないですね。特にフォーク的なシンガーソングライターと自分は距離があるなあと思っていました。

自分のジャンル的好みとして?

Kuro:好みの問題もあるかもしれないですが、自分が歌うことを除けば好きなアーティストは多いので、単純に自分との相性ですかね。

今回、トラックメイカーに発注せず自身でトラックも含め作っている曲も2曲(“HITOSHIREZ”“FEEL-U”)ありますね。これはどんな機材で作っていったんでしょうか?

Kuro:元々 TAMTAM のデモ作りでも使っているんですけど、DAWは Ableton Live です。

打ち込みやダンス・ミュージック制作に適したDAWですよね。

Kuro:そうですね。でも、最初に買ったときはそういう判断軸はなくて単にバンドのみんなが使っているから程度の理由だったんですけど。いま思うとMIDI編集がスムーズだし、音源多いし便利で良かったなって。

通常のバンド用のデモ制作とは別に、いわゆるビートメイク的なことは前からやっているんですか?

Kuro:趣味的な感じなら結構やってます。それをこれまで世の中に出していることはあんまりないんですけどね。TAMTAM の最新アルバムに入っている“Nyhavn”が打ち込みだったり、生と打ち込みのミックスした曲があったりはします。

ビヨンセがコーチェラで「女性のヘッドライナー少なすぎない?」って言ったとき、はっとした部分はありました。日本のバンドに置き換えて考えると女性人口が圧倒的に少なくて、さらに女性が歌うバンドで自身で曲を書く人となるとほとんどいないんですよね。男性が女性をプロデュースしていることも多いし。

近頃DTMも大きく市民権を得て、色んなジャンルの人が自らの音楽を自宅で作っていますよね。DAWの発展や普及と歩調をあわせて日本のインディー音楽も凄く多様に展開してきたなあと思います。

Kuro:私が生まれた頃よりハードルは格段に下がっているでしょうね。デモを作るだけで色々操作法を覚えていきますし、最近は YouTube とかで簡単にハウツー動画を見られたりするので、自分たちもそんな中で TAMTAM での制作含めて、どういう音像を作りたいかということへかなり意識的になっていると思います。

この2曲、ほかトラックメイカーの人たちとも違うソリッドなカッコよさがあるなあと感じました。

Kuro:ありがとうございます。確かに自分でも自分以外の人が作らなさそうな曲ができたなという気がしていて。トラップを土台にしたり、普段バンドでできないことをやろうと思って作業していたんですが、でき上がったものを聴くと結果的に TAMTAM の曲に通じる要素も多い気がして(笑)。嬉しい発見だったし、自分の個性や癖が浮き彫りになったようにも思いました。

実際の作業も全てひとりで?

Kuro:ミックスの面では自分の知識だけだと自信を持ちきれなかったので、TAMTAM メンバーの高橋アフィさんを若干頼りました。イメージする音像に近づけたかったし、普段やらないということもあって色んな人の意見を聞きたかったので。

それ以外の曲におけるトラックメイカーの人選や発注はどのように進めていったんですか?

Kuro:最初は自分で全曲トラックを作ってみようかなとか、TAMTAM のメンバーを交えて生演奏の曲も作ろうかなとかいろいろ考えていたんですが、来年バンドのアルバムを出せればという予定もあって、あまり手一杯になってしまうのもよくないなと思って。で、これまでの活動で実際に出会ったり自分が好きで聴いていたトラックメイカーの人たちに頼んでみるのが面白いかも、と思って。なので、まずは近しい人からお願いしていった感じです。

初めはどなたに声を掛けたんでしょうか?

Kuro:ji2kia さん。以前彼の音源を聴いてすごくカッコいいなと思っていたから、まず連絡して。「良さそうなストックがあれば歌をのせたいので、聞かせて欲しい」って言ったら、それなら新しく作るよって言ってくれて。その次は ODOLA。“Metamorphose Feat. Kuro (TAMTAM)”という彼らの曲でフィーチャリング・オファーしてくれた経緯があったし、いい後輩って感じで慕ってくれるので。

Shin Sakiura さんは?

Kuro:Shin さんは今年の3月にTAMTAMで共演したのがきっかけですね。そのイベントでのライヴをみて、こういうメロウな楽曲で1曲は思い切りエモーショナルに歌ってみたいって思って。トラックメイクはもちろん、ギタリストとしても素晴らしい方です。

EVISBEATS さん。

Kuro:EVISBEATSさんは実はこの中では唯一お会いしたことのない方なんですが、レーベルのスタッフに曲の方向性を伝えたらアイデアとして頂いて、それですごく良さそう! と思ってお声掛けして。制作にあたっても対面でなくメールでやりとりさせていただいた感じです。普段ヒップホップのアーティストにトラックを提供していることが多い印象だったので、今回は歌とラップの中間的なものを狙えたらいいなと思っていて。そしたら凄くいいトラックが来て。ただ、エヴァーグリーンな感じのトラックで自分の歌がうまくハマるのかは心配だったんですけど、完成したら自分でも初めてなぐらいオープンな雰囲気の、器の大きい曲になって。こういうところがEVISBEATSさんパワーなのかなと感動しました。

君島大空さん。

Kuro:トラックメイカーの方に声を順次掛けていくなかでアルバムの最終的なバランスもなんとなく想像ができるようになって。で、あえて全然テイストの違う作風の人に頼んでも面白いかもと思って、君島くんに声をかけました。彼にお願いした“虹彩”だけは自分の作ったデモが先にあって、それのリアレンジをしてもらうような形で作ってもらいました。ギターをがっつり入れてくれて、かなり雰囲気が変わりました。

「こういう音楽性で」というイメージを各トラックメイカーへ発注の段階で伝えたんでしょうか?

Kuro:発注にあたって私と各トラックメイカーの間に共通言語があったほうがいいなと思っていたから、リファレンス的な音源を渡しながら依頼しました。「このアーティストのこの曲の雰囲気が好きだ」っていう、自分の趣味を伝えるようなプレイリストをいくつか作って相談していきましたね。全曲に共通するトーンとして、バンドでの曲よりもフロアユースなものにしたかったので、そのあたりも意識して伝えました。

たしかにアタックの強い低音感を含めて全体的に現場での鳴りが意識されている印象を受けました。一方で ji2kia さんや君島さんの曲にはアンビエント的なテイストも感じます。

Kuro:そうですね。順序的に制作の最初の方に見えてきたのがそのふたりの曲だったんですが、それがわりとアンビエント寄りのものでした。それはそれで凄くいいなと思ったんですけど、自分の嗜好として完全にそういうタイプでもないので、もう少しぱきっとしたピースも入れたいと思って、Shin さんの曲でそういう相談をしたりしましたね。

そういった制作法だと、最終的に全体をまとめ上げるのがなかなか一筋縄ではいかなさそうですね。

Kuro:私も最初はそう思っていたんです。バラバラで聴いていると疲れるようなアルバムではなくてスムーズに繰り返し聴けるものにしたかったので。色んな人に頼んだっていうことで正直不安はあったんですけど、最終的に自分が歌うと予想以上に自分の色でまとめることができたのは、歌う人間として嬉しかったです。それでいて、やはり各曲違うテイストがあってそれぞれ味わえるみたいな感じになったかなと。もちろんトラックメイカーさんやエンジニアさんのチューニング力はあるものの、ですね。

ミックスはどういった形で?

Kuro:オケのミックスは各トラックメイカーさんに9割型お願いしました。その後、歌録り、歌とオケとのミックス、マスタリングの3つは big turtle STUDIOS でやりました。そのお陰でさらにまとまったと思います。いま思い出したんですが、“TOKIORAIN”は最終ミックス終了の2時間前にそれまでとまったく違うオケのステムが ji2kia さんから送られてきてめちゃくちゃびっくりしました(笑)。最初は4つ打ちのビートが全体に敷かれているような曲だったんですが、もっと冒険的なものがマスタリング当日に送られてきて。でも、それがとても良かった。

それは焦りますね(笑)。でもその効果もあって、アルバム終盤に向けて凄くよい流れになっている気がします。

Kuro:そうですよね。

一部の曲でギターとトランペットの生演奏も入っていますね。特に“FOR NOTHING”でのアイズレー・ブラザーズのようなギター・ソロは強烈です。

Kuro:そうそう、凄い勢いのあるテイクですよね(笑)。TAMTAMのライヴ・サポートをやってくれている Yuta Fukai 君に弾いてもらって。今回、制作期間中TAMTAMでカナダへツアーに行っていて、それが終わった後サンフランシスコに住んでいる Fukai くんのお姉さんの家に泊まりに行ったんです。そこでくつろいでいるときに録ったのがこのギター(笑)。特にフレーズも決め込まずに2~3テイクちゃちゃっと弾いてもらって、いちばんよかったひとつを選ばせてもらいました。最後の方でしれっと爆発的なソロをぶちこんでいて、プレイバックしたときは笑っちゃいました。

全編構築的な印象のアルバムの中で、あそこだけ生のセッション感があって面白いです。トランペットはどなたが? 曲に陰影を与えるようなプレイが素晴らしいですね。

Kuro:今回あえて私が吹かずに、友達の堀君(Kyotaro Hori)に頼みました。以前から彼のトランペットが凄く好きで。技巧的な奏者ならたくさんいると思うんですけど、わかりやすく海外アーティストで例えて言うとクリスチャン・スコットみたいな。そういうセンスを持っているジャズ・トランペッターは貴重だなと思っていて。これもとくにフレーズを決めず、アドリブ的に3テイクくらい吹いてもらったんですが、どれもめちゃくちゃ良くて。歌詞で表現したかったことを楽器の音色ひとつで広げてもらったような気がしています。

取材・文:柴崎祐二(2019年9月30日)

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Profile

柴崎祐二/Yuji Shibasaki柴崎祐二/Yuji Shibasaki
1983年、埼玉県生まれ。2006年よりレコード業界にてプロモーションや制作に携わり、これまでに、シャムキャッツ、森は生きている、トクマルシューゴ、OGRE YOU ASSHOLE、寺尾紗穂など多くのアーティストのA&Rディレクターを務める。現在は音楽を中心にフリーライターとしても活動中。

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