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interview with Takuma Watanabe

interview with Takuma Watanabe

イマジナリー・ラストアフタヌーン

──7年ぶりのソロ作が照らし出す渡邊琢磨の現在地

取材:序文:松村正人    Aug 29,2021 UP

某アーティストによる『ラストアフタヌーン』のリミックスEPを近々リリースする予定で、8月下旬にはレーベルが詳細をアナウンスすると思います。いまは、イギリスの弦楽奏者にあてた新作にとりくんでいます。こちらはアルバムとは対極的な内容になると思います。

コンボ・ピアノの『Agatha』は〈イーストワークス〉のリリースなのでキップさんの参加はわかりますが、ラバーバラさんはどのようないきさつで参加されたんですか。

琢磨:ジョアン・ラバーバラを知ったのはたしか、モートン・フェルドマンのアルバム『Only』で、それでお声がけしたと思うのですが、どうやってコンタクトをとったのかその経緯を思い出せないですね。オフィシャルな窓口に連絡を入れたと思うのですが、当時はインターネットがいまのようではなかったので、FAXでやり取りしたのかもしれません。

『Agatha』にラバーバラさんはそれなりに参加していますよね。

琢磨:3~4曲ほど。リラックスして楽しかったおぼえがあります。その前後のキップ・ハンラハンのミュージシャン仲間との録音が慌ただしかったもので。

一服の清涼剤だったと。

琢磨:淡々と穏やかな録音ではありました(笑)。キップたちとはレコーディング後も飲みに行ったり、ライブハウスにジャムセッションに行ったり目紛しくも楽しかったです。

私としてはあの感じでまたやってほしいですけどね。

琢磨:去年の3月くらいに動けない感じになって大掃除をしていた際に、NYの録音時の写真なんかも出てきて感慨深かったです。パンデミックになった直後に彼らと久々に連絡をとりました。キップやブランドン・ロスにロビー・アミーンとか。お互いどうにかこうにか元気にやってますねと。

コロナ・パンデミックで過去の整理に割く時間ができたんですね。

琢磨:片づけをしつつ、アルバムのTD(トラックダウン)をする時間もできました。思索の時間をもうけて、発見がいろいろありました。

それはご自分の現在とりくまれていることや、これからやろうと考えていることについての思索ですか。

琢磨:そうですね。レーベル〈SN Variations〉との新しい出会いなどから、新たな可能性が生まれました。こういう状況下で、一方の扉は閉じてしまいましたが、また別の扉が開いたような感じです。

具体的にすすめていることを教えてください。

琢磨:某アーティストによる『ラストアフタヌーン』のリミックスEPを近々リリースする予定で、8月下旬にはレーベルが詳細をアナウンスすると思います。いまは、イギリスの弦楽奏者にあてた新作にとりくんでいます。こちらはアルバムとは対極的な内容になると思います。あとは、アルバムのリリース記念をかねてストリーミング・コンサートをやろうという提案がレーベルからきているのですが、イギリスのミュージシャンの演奏を収録して、後日その音を組み合わせて配信しようと思っています。

組み合わせるというのは具体的にどういうことをやるんですか。

琢磨:本来であれば欧州でプロモーションを展開したかったのですが、現状は難しいので、イギリスのミュージシャンにこちらから新作のパート譜をお送りして、後日その音データをこちらで編集で組み立てて、音楽映像作品にまとめるという計画です。なので、配信といってもリアルタイムではなく、収録した内容を映像も含めて編集して公開する予定です。

エイドリアンさんはレーベル運営者としてもいろいろ仕掛けていくタイプなんですか。

琢磨:エイドリアンは、テレビドラマや映画のサントラ制作も手がける音楽家ですが、興味関心が広範囲なので、よい意味でとらえどころがなく、彼が主催しているふたつのレーベルも、なにを主旨としているのかわかりにくいと思いますが、もう少しカタログが揃ってきたら、レーベルのイメージも明確化すると思います。先ごろ、エイドリアン自身の『9 Spaces』というアルバムがデジタルのみでリリースされまして、このアルバムに山本達久くんと参加したのですが、エイドリアンから僕らへのオファーというのが、クリス・ワトソンが集音したフィールド・レコーディングを土台に音をつくるというもので、なかなか抽象的かつ有意義なやりとりでした。それから9月には、〈GRM〉や〈Modern Love〉から次々と興味深い作品をリリースしているイギリスのチェリストで音楽家、ルーシー・レイルトンと、ECM専属アーティストでもあるパイプオルガン奏者キット・ダウンズのデュオ・アルバム『Subaerial』がリリースされます。いま上げたイギリスのミュージシャンたちは、エイドリアンの映画音楽の仕事などにも携わっていて、彼は大規模オーケストラと身近な音楽仲間を編成上組み合わせて、付随音楽などの仕事も行なっています。

日本の現場ではなかなかそこまでは望めなさそうですね。

琢磨:時間もタイトですからね。ただ、イギリスではサントラの仕事はパートごとに分業することもあると思いますので、そういう制作過程の違いも関係しているかもしれません。イギリスもアメリカと同じく作曲と編曲は分業ではないかと思います。個人的には、編曲も作曲のうちだと思っているので、そのことについては少々懐疑的ですが、海外の映画音楽にはオーケストレーターという部門がありまして、作曲家が書いた曲をオーケストラに編曲することが主な仕事なのですが、楽曲の音色設計などはオーケストレーターが担っている部分が多々あると思いますし、作曲家の作業量は軽減するでしょうね。もちろん組合システムであるとか、製作ラインの構造的なちがいもあると思いますが、スタッフ各々が相互にコンプリメントしながら映画作品のクォリティを上げていくというのは、一考の余地はあると思います。

仕事を分け合いつつ質を高めると。

琢磨:そうですね。個人的には、音効や整音部の方々と連携が取れると、音楽もより実験的な試みが可能になると思います。

いまなにか映画音楽でとりかかっているものはありますか。

琢磨:詳細はまだお伝えできませんが、来月から作業に入る新作映画の準備を進めています。あと音楽を手がけた、横浜聡子監督の『いとみち』が先日公開になりました。パンデミックになった直後の仕事でしたので、いろいろ試行錯誤がありました。

具体的には?

琢磨:最近は状況次第で慣習化してきましたが、横浜監督との音楽打合せもzoomでしたし、もろもろの都合で整音の立会いもできなかったので、整音に先立って完成した音楽を全シーンに当て込んだオフライン・データを作ってお送りし、相対的なバランスのレファレンスにしてもらいました。あとは演奏者とスタジオで作業することが難しかったので、単独で録音していただいた弦の音を編集でひとつのアンサンブルにまとめたり、弦の代わりにムーグのパッドを入れたり。ただ『いとみち』は、主演の駒井蓮さんと、祖母役の西川洋子さんが演奏する三味線が映画のキーになっていますので、こちらで担当する音楽は、映画の雰囲気や演出を補足するくらいでちょうど良いと思っていました。

状況に対応していますね。

琢磨:データのやり取りなどはパンデミック以前から行っていたことなので、さほどのことではありませんが、とにかく状況の変化が激しいので、今後も周囲とコミュニケーションを取りつつ柔軟に試行していこうと思います。

琢磨:話変わりますが、今回自分でミュージック・ヴィデオをアニメでつくったんですよ。

あれおもしろかったですね。でもあれってなんなんですか。

琢磨:イタリアの音楽雑誌のアルバム・レヴューでは「ミュージック・ヴィデオは完成度が低い」と書かれましたが、実際そうなので反論はしませんよ(笑)。これもパンデミック以降予定が飛んだので、3DCGの研究をはじめたことがきっかけとなっています。あの感じのアニメが7作品くらいありまして、今年の10月には大分県の湯布院にある美術館で、そのアニメーション・フィルムの展示を行う予定です。

どうやってつくっているんですか。

琢磨:制作にはゲームエンジンなどを使ってます。適切な使用方法かどうかいまだにわかっていませんが....

琢磨さんは自分なりのやり方をみつけるの得意だよね。

琢磨:それ以外のやり方ができないともいえますが(笑)。最初は『ECTO』の次に撮ろうと思っていた映画の絵コンテというかVコン的なものを、3DCGで作ろうと思っていたのですが、人気の無い風景を作ったりするうちに面白くなってきて、アニメーション単体で作品化する予定です。しかし、3DCGの書き出しにはなかなか時間がかかるもので、20分くらいの尺になると半日以上要するので、なかなか作業が捗りませんね。

たいへんですね。

琢磨:爆速のコンピュータを使えば作業時間を短縮できるのかもですが、その緩慢さが自分のアニメーションの特色になっているような気もしてまして。実際、半日くらいかけてレンダリングが終わっていざ動かしてみると、まったく予想していなかった破壊的な動きをキャラクターがすることもあるのですが、やり直すのも面倒ですし、そのまま完成ということにしています。出来上がったアニメを眺めていると虚無感に駆られることもありますが、釈然としない時間を経てみないと、電撃的なことは起こりませんからね……。

何作か拝見しましたが、琢磨さんの脳内の対位法がみえるようで興味深かったです(笑)。

琢磨:昔からみている夢とか、こんな場所があったらおもしろいなとか、そういうイメージを具体化しているだけですけどね。

『ECTO』にも幾分かそういうところはあったと思うんですね。動きや空間の認識において、無意識下にあるものを映像化したいと考えていた節があったと思うんですね。

琢磨:数年おきにくりかえしみる夢がありまして、住みなれた家のなかで隠し扉を発見して、そこを開けてみると壮大な図書館があるとかいう感じの内容なのですが、こういう日常と非日常の連続性というのは自分に限ったことではなく、今日的なテーマではないでしょうか?詳細に考えたことはありませんが、何がしかのフォーマットでそのイメージを具体化していきたいです。『ECTO』の植物園が冥界に通じているのも、もしかするとその主題の変奏かもしれません。なので、いまつくっているアニメと『ECTO』はコンセプト的には通底しているかもしれません。こういってしまうと『ECTO』に出演いただいた、佐津川さんと染谷くん川瀬さんにはもうしわけないですけど。

とはいえ彼らが作中でもとめられていた演技は今回のアニメとかさなる部分がありますよね。

琢磨:そうかもしれません。表情も分からないようなルーズショットが多かったので。いまは第7話をつくっているところです。『トワイライト・ゾーン』のように、オムニバスでつながっていく感じで、7話目もまた幽霊性がテーマです。キャンプ場で焚き火をしている男に幽霊が取り憑く話です。弦楽器の弱音と雨音が、薄っぺらな世界に臨場感を与えていると思います。

そういえば『ラストアフタヌーン』でも擦過音というか、微弱な音を効果的にもちいている場面は多々ありました。

琢磨:弦楽器の弓の圧を最低限にとどめてかつゆっくり弾くと、サーッという擦れるエア音のようになるのですが、そのエア音が実音に変わるか変わらないかのギリギリの狭間の音はいいですね。レコードをかけたときに聴こえてくるクラックルノイズ(パチパチ音)のような感じで。

電子音のグリッジ、接触不良音、エラー音と弦楽器のサワリのような音は作品に欠かせないものですか。

琢磨:しかしクラックル音やグリッチなどの音は少々食傷気味ですね。ああいう粒子系の音は、最近のエクスペリメンタル・ミュージックのある種の傾向かもしれません。最近は、Pヴァインから再発されたライトニン・ホプキンスの『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』と、マイケル・スモールの『The Parallax View』のサントラを聴いていました。ちなみに『Parallax View』のLP盤スリーブには、ジム(・オルーク)さんのコメントがついてますよ。話しが逸れましたが、そういう粒子系の音というのはテクスチャー生成に寄与しますし、ある意味では機能的な音です。そういう音楽的傾向や方法論とは無関係に、自分がイメージする音をどのように具体化するかを考えたいですね。粒子系の音はグラニュラーシンセで簡単につくれますが、手からこぼれ落ちる砂の音をマイクで録った方が、作品により適当な音になるかもしれません。本作に関して言えば、生楽器と電子音による不可分な合奏を考える過程で、そういった音の使用に着想したのではないかと。ただそれは、弦奏者の方々の解釈や多面的なアプローチによるところも大きいです。

顔ぶれを拝見するとうなずけます。

琢磨:特殊奏法や演奏記号も音楽史上のコンテクストから派生していますし、聴いてきた音楽や演奏者によって解釈に違いがでると思います。

そこまで含めた微細な表現が『ラストアフタヌーン』の聴きどころだと思います。

琢磨:今回はLPも出しましたが、ジム(・オルーク)さんに、マスタリングを手がけていただきました。

サウンドはたしかにジムさんのマスタリングの感じがありましたね。

琢磨:弦や曲のダイナミクスを保つのにマスターリミッターを最小限にしていたり、透徹したマスタリングにいまさらながらうなりましたよ。

最初のほうでももうしあげましたが、くりかえし聴けるアルバムだと思います。近年の活動が凝縮した作品とも思いましたが、『ラストアフタヌーン』は純粋な自作アルバムとしては2014年の『アンシクテット』以来なんですよね。

琢磨:そうですね。

サントラも何作かありますが。というより『アンシクテット』自体が琢磨さんの映画音楽制作の起点でもありましたよね。

琢磨:映画音楽のようなアルバムをつくるきっかけになったのも、映画音楽の仕事をはじめてからですし、映画音楽に携わるようになったのも、友人の自主制作映画が発端だったので、自発性はあまりないですね......。身近に起きる出来事を、自分なりにとらえていければと思います。

渡邊琢磨映像作品展『ラストアフターヌーン』

会 期 2021年10月23日(土)〜 10月31日(日)
時 間 10:00 〜 17:00
会 場 由布院アルテジオ(http://www.artegio.com/
住所/大分県由布市湯布院町川上1272-175
入場料 1,500円(企画展1,200円+常設展300円)
問合せ oitaartcollective@gmail.com

オープニングイベント
10月23日(土)同会場
開場/開演:14:30/15:00
出演:千葉広樹、渡邊琢磨
料金:2,500円

渡邊琢磨(音楽家)
宮城県仙台市出身。高校卒業後、米バークリー音楽大学へ留学。帰国後、国内外のアーティストと多岐に渡り活動。07年、デヴィッド・シルヴィアンのワールドツアー、28公演にバンドメンバーとして参加。自身の活動と並行して映画音楽を手がける。近年では、冨永昌敬監督『ローリング』(15)、吉田大八監督『美しい星』(17)、染谷将太監督『ブランク』(18)、ヤングポール監督『ゴーストマスター』(19)、岨手由貴子監督『あのこは貴族』(21)、横浜聡子監督『いとみち』(21)、堀江貴大監督『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21年9月公開予定)、ほか。https://www.takumawatanabe.com/

取材:序文:松村正人(2021年8月29日)

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