1. James Blake / CMYK | R&S Records
わずか4枚のシングルによっていま急速に注目を集めているのがロンドンの21歳のプロデューサー、ジェイムス・ブレイクである。ジャイルス・ピーターソンは自分の番組に誘い、『ピッチフォーク』は12インチ・シングルなのに関わらずアルバムと同等の扱いをしながら「best new music」に選び、気の早いライターは「ヒップホップ革命における最終形態」とまで言い出す始末だ。
ブレイクは、彼の音楽から察するところ、アメリカのR&Bとヒップホップのファンである。ある情報筋によれば彼のサンプル・ネタはブランディからR.ケリーまであるらしいが、しかしこの若者は弁護料の心配することなく、それらのビッグネームたちの素材を切り刻む。90年代末のティンバランドとネプチューンズの記憶は、そして彼のコンピュータに流し込まれるとサイエンス・フィクションの舞台へと移動する。"CMYK"に最初に針を落とすとR&Bヴォーカルが聴こえるが(情報筋によればそれはケリスとアリーヤらしい)、その声はさりげなく微妙に変調する――これはブリアルが"アーチェンジェル"で使った"技"だが、ブレイクはそれをさらに過剰に押し進めているようだ。レコードの回転数が不規則になったかのような不安を醸し出し、そして叩きつけるようなビートが鳴りはじめる。2曲目の"Foot
Notes"を喩えるなら、ドラッグでいかれたアンドロイドのR&Bだ。声や音の変調と揺らぎによる不安定さはブレイクの"技"だが、ここではそれをずいぶんと引っ張って、そして無音状態を経て唐突にショーがはじまる。
"I'll Stay"は潰されてペシャンコになったヴォーカルに解体されたファンクとジャズのコードを合成する。"Postpone"は採集したいくつかのR&Bサンプルを面白いようにゆがませながら、ソウル・ミュージックをレトロと未来の両側に引き裂いているようだ。
ポスト・ダブステップとポストR&BのIDM展開と言ってしまえばそれまでだが、「CMYK」は新しい流れを作ってしまいそうな1枚である。そんなシングルが〈R&S Records〉から出ていることが、僕の世代ではなんとも感慨深い。
2. James Blake / The Bells Sketch | Hessle Audio
ジェイムス・ブレイクの最新盤で、ラマダンマンの〈ヘッスル・オーディオ〉から。「CMYK EP」ほど派手な使い方ではないが、やはりここでもヴォーカル・サンプルは彼の"技"として駆使されている。狂ったジャズ・ファンクと気が滅入るほどメランコリックな"The Bells Sketch"が素晴らしい。もったいぶった"Buzzard And Kestrel"で踊る人はあまりいないだろうが、"Give A Man A Rod"のダウンテンポにいたっては困惑した挙げ句、フロアから人は立ち去っていくであろう。それはブレイクの挑戦か、さもなければ自分の"技"に溺れてしまったかのどちからだ。
3. Pariah / Detroit Falls | R&S Records
〈R&S Records〉はこの路線が「いける!」と踏んで勝負を仕掛けているようだ。ロンドン在住のパリーア(アーサー・ケイザー)による「Detroit Falls」は、手法的にはジェイムス・ブレイクとほとんど同じで、つまりこれもまたブリアルの"アーチェンジェル"の発展型だ。あらためて『アントゥルー』(2007年)の影響力の大きさを思い知る。
A面の表題曲は、"デトロイトは没落する"というそのタイトルが暗示するように、モータウンあたりのデトロイトのソウル・ミュージックをサンプリングしているのだろう。リック・ウィルハイトのレヴューでも書いたが、この不況によって容赦なく荒んでいくデトロイトへのいたたまれない気持ちが込められているのかもしれない。
古いR&Bヴォーカルやホーンの音を変調させ、それをビートにリンクさせていく。「CMYK」と比較するとこちらのほうがダンサブルでヒップホップらしさがあり、ジェイディラへのリスペクトも感じる。
B面に収録された"Orpheus"は典型的なポスト・ダブステップ・サウンドで、言ってしまえばラマダンマンの模倣だ。ダビーなビートが生み出す空間にメランコリックなソウル・ヴォーカルが流れるように挿入される。この曲を聴くと彼がザ・XXの"ベーシック・スペース"のリミックスを手掛けている理由がよくわかる。ザ・XXのファンなら間違いなく好きなタイプの曲。
4. Ramadanman / Ramadanman EP | Hessle Audio
先日、『スヌーザー』誌のためにカリブーに取材したら、ブリアルのおかげでダブステップを好きになれたと話していて、僕の場合もまったく同じだと思った。ブリアルの『アントゥルー』はファンを増やしたばかりか間違いなく多様化をうながし、そしてアントールドやラマダンマンに方向性を与えたのだ。
ラマダンマンことデヴィッド・ケネディは写真で見るとずいぶん若いが、デビューは2006年だからそれなりのキャリアがある。自ら〈ヘッスル・オーディオ〉レーベルを運営しながら、〈ソウル・ジャズ〉からシングルを発表するなど2年ほど前から注目はされていたが、今年に入って発表したこの2枚組EPが僕にはずばぬけてよく聴こえている。DOMMUNEでも話したことだが、この音楽はプラスティックマンがダブステップをやっているように聴こえるのだ。A面に収録された"I Beg You"はまったくブリリアントなエレクトロニック・ファンクで、間違いなくテクノ耳を虜にする。裏面のふたつのトラックもファンク調だが、DJユースのパーツとして収録されているようだ。このあたりを上手にミックスしているテクノ系のDJが日本にいたら教えて欲しい。
もう1枚のほうの3つのトラックはどれもがアシッド・ハウス的なテイストを持っている。ねじまげられた空間を「はぁはぁ」という男のあえぎ声がこだましているD面1曲目の"Bleeper"にはラマダンマンのユーモア精神を感じることができる。こうした自由と楽しさが、カリブーのように「それまではダブステップのいかめしさに距離をおいていた」人たちを惹きつけていることをあなたは知っているのだろうか?
5. Kyle Hall / Must See EP | Third Ear
昨年の秋に〈ハイパーダブ〉から発表されたダークスターのヒット・シングル「アンディのガールフレンドはコンピュータ」によってカイル・ホールの名前を知った。彼はこのシングルのリミキサーだった。そのときはオリジナルのほうが良いと思っていたけれど、先日〈ハイパーダブ〉からリリースされた彼のシングル「ケイチャンク/ユー・ノー・ホワット・アイ・フィール」が実に素晴らしかったので、追ってみることにした。
ちなみにデトロイトのこのプロデューサーがどれぐらい若いかと言うと、1991年7月生まれだから、彼が生まれたとき、すでにデリック・メイは制作活動を休止していて、URのふたりは分裂しはじめている。恐ろしい話だ。デトロイトのジャズ・ミュージシャンの家系に生まれ育った早熟なホールは、16歳で〈ムーズ&グルーヴス〉からシングルを発表している。フライング・ロータスではないが、ある種のサラブレッドなのかもしれない。
〈サード・イヤー〉からのリリースとなった4曲入りの「マスト・シー・EP」は、インパクトの点では「ケイチャンク/ユー・ノー・ホワット・アイ・フィール」に劣るかもしれないが、デトロイト系を追っているファンにとってはこっちのほうが親しみやすいと思われる。何よりもスローテンポ・ハウスの"Must See"やアンビエント・ハウスの"Ghosten"には、デリック・メイや若かりし頃のカール・クレイグを彷彿させる、息を呑むような美しさが受け継がれているのだ。メランコリックでジャジーなメロディラインが、シンプルで気の利いたドラムパターンと結びついている。リズミックな遊びを展開する" Osc_2"やディープ・ハウスを披露する"Body Of Water"も悪くはない。
ポスト・ダブステップのような流行の音楽ではないが、これぐらい気持ちの入った12インチがコンスタントに出ているのなら、昔のように人はヴァイナルを探すようになるのだと思う。
6. T++ / Wireless | Honest Jon's Records
モノレイクといっしょに〈DIN〉を運営するトルステン・プレフロックによる12インチ2枚組で、すでにテクノDJのあいだでは人気盤となっている。彼は歴史のアーカイヴから、30年代末から40年代にかけて録音されたという東アフリカの楽器(ndingidi――読み方がわからない)の音、そしてその奏者であり歌手の声を見つけ、それらをサンプリング・ソースとして活用し、瞑想的な空間を作っている。面白いことにリズムは明白なまでにダブステップ(2ステップ、ジャングル)からの影響を取り入れている。ワールドカップをほぼ全試合観ているためにブブゼラの音にはすっかり慣れてしまい、よってこうしたエキゾティズムもとりたてて新鮮に思えなくなっているのだが、「ワイアーレス」はいわばブライアン・ジョーンズの『ジャジューカ』(これはモロッコだが)のミニマル・テクノ・ヴァージョンとして楽しめる。サイケデリックで、エクスペリメンタルで、とにかくぶっ飛んでいるのだ。
2ステップのビートを取り入れた"Cropped"にしてもダブステップからヒントを得た"Anyi"と"Dig"にしても、10年以上にもおよんで懲りもせず、結局のところベーシック・チャンネルの物真似しかできなかった多くのフォロワーとは確実に一線を画している。交錯するコラージュとそれら裏打ちのビートとのコンビネーションがなかなか面白く、ふたつのスピーカーからはうねりのようなものが立ち上がってくる。ネタ勝負の安直なトラックではない。その料理の仕方のうまさがこのシングルでは際だっている。殺気立つパーカッションと地鳴りのような低音の"Voices No Bodies"も魅力的だ。モーリッツ・ファン・オズワルドへのリアクションとも受け取れるが、ドイツのミニマル音楽の最新型は、ドイツのサッカーより面白く思える。





















実は筆者の友人でもあるUKのナショナル・クラブ・シンガー、カースティ・ホークショウ(Kirsty Hawkshaw)に「必ずあなたが参加しているこのニュー・アルバムを紹介するよ。」と約束したので、トップで紹介させて頂く......知り合い云々でなくとも、必ず紹介していただろうが......"純粋"に、ただ素晴らしいコンテンポラリー・アートコアと位置づけられる傑作なのだから当然である。
昨年、多様なアーティストのリリース・ラッシュを果たしたロシアからまたニューカマーが現れた。〈ホスピタル〉からの大ヒット・コンピレーション・アルバム『フューチャー・サウンド・オブ・ロシア』も記憶に新しい。エレクトロソウル・システム、サブウェイヴ、ボップ等々、寒い土地柄もあってか、北欧的感覚のディープ/エレクトロニカよりな作風を志すアーティストが多かった。が、今度はダンスフロア直系のエレクトリック・サウンドだ。彼ら、ダヴィップ&エンコードのようなサウンドがロシアでも台頭してきたのである。
サンフランシスコのダブステッパー、DJ Gだが、聴くたびに筆者のツボを付かれるプロデューサーだと思う。ミステリアスで空間系アトモスフェリックに展開したかと思えば、スライトリーなダビー色やスモーキーなハウスの要素を加えたプロダクションを出したり、あるいはトライバル・テッキーでミニマル・ライクなシリアス・ステップであったりと、とにかくパーカッシヴで重厚なダブステップをリリースしている。今回はアメリカのテキサスを拠点としている〈プッシング・レッド〉からのリリースで、テック・インフルーエンスなアトモスフェリック・ダブステップとディープ・ダブのカップリングとなった。〈プッシング・レッド〉と言えば、レーベル1番にリリースされた、サンフランシスコのジャス・ワンも素晴らしい。彼はディープ・ガラージや2ステップ色が強く、UKサウス・ロンドン志向の新世代ニュー・ガラージを提唱するひとりと言える。ジャイルス・ピーターソン主宰〈ブラウンズウッド〉からのジャズ・シンガー、ホセ・ジェームスの「Warrior」をサブトラクト(SBTRKT)とともにリミックスしている。今後もサンフランシスコから発信されるこの個性的なサウンドをこう位置づけよう。ローファーが語っていたこと、これが「ポスト・ダブステップ」であると。
ドラムステップ<DRUMSTEP>と言う新たな潮流が生まれつつあるのは、ご存知だろうか? ローファーは"ポスト・ダブステップ"について語っていたが、そのことはダブステップに限らず、ドラムンベースやUKガラージなどのリアル・アンダーグラウンド・ミュージックにも当てはまる。そこで先述したドラムステップだ。ちょうど、ドラムンベースとダブステップの中間のBPM、ビート・プログラミングなのだが、いかんせん、現時点では存続するかいなか、疑い深いくらい中途半端感が否めない。そのサポートしている中心にいるのが、〈テクニーク〉などからリリースしているダブ・ファンデーションやD・ブリッジ、コンシーケンスなどだ。
ジョン・ケージを敬愛するカリバー。奇抜なインダストリアル・センスをサウンドデザインするプロデューサーで、すでに多くののドラムンベースの名曲を送り出している。昨年はドミニク・マーティン名義でのインディ・ロックやシネマティック音響/現代音楽を融合したアルバムを披露し、シーンに衝撃を与えている。











"UKガラージ"がテムズ川から南に位置するクロイドン近郊で"ダブステップ"へとトランスフォームしたのは周知の通りである。そこからしっかりと広がって、あるいはインターネットや媒体などを通してウイルスの如く目まぐるしい速度で感染していったわけだ。いまは亡きクロイドンの伝説的レコード店〈Big Apple〉から育っていったダブステップの先導者たち――スクリーム、ハイジャック、ローファーなども、"ガラージ"というフィルターを通り、インスパイヤーされている。実は筆者は2001年から2004年までのあいだのロンドン在住中、サウスロンドンのクラハムノースに住んだことがある。が、当時サウスロンドンでこのようなムーヴメントが起こっていようとは知る由もなかった。たしかにクロイドンが位置する南ロンドン周辺は、古くからジャマイカン・ミュージックやジャングル、ドラムンベース、ガラージの恩恵を受けた音楽が豊富なエリアではあるが......。
〈ノンプラス〉とは、ディープでアトモスフェリックなドラムンベースをリリースしていたインストラ:メンタル(Instra: Mental)主宰のレーベルである。インストラ:メンタルは、2009年に〈ノンプラス〉を立ち上げ盟友ディーブリッジ(dBridge)とともに「ワンダー・ウェアー/ノー・フューチャー」をリリースすると、続いてインストラ:メンタルの「ウォッチング・ユー/トラマ」を発表、シーンにディープ・ドラムンベースとでも呼ぶべき新風を巻き起こしている。ところが、2009年中頃からダブステップへとシフトしていくのである......もっともインストラ:メンタルの"音質"と"ダブステップ"との相性が抜群であったのは明らかだったのだが......。とにかく、彼らはダブステップへの転身により、アーティストとしてより輝き放ったのである。
いまもっともホットな......と言うか、流行っている......と言うか、制作者が目指しているといったほうが適切かもしれない。ダブステップのサブジャンルとして絶大な支持を得ているアトモスフェリック・ダブステップという潮流である。ロンドンの現在の事情に詳しい友人からそう聞いた。つまり、数年前のブリアルやコード9のようなアトモスフェリックな曲調は、あったことはあった......が、しかし、それを飲み込む程のダークな質感やインダストリアル・ノイズ・スケープといったものが上回っていたため、純粋の"アトモスフェリック"と言うものが流行りだしたのは、ここ最近に至っての話ではないであろうかと思う。どこか......このようなひとつのジャンルが派生していった流れは......と考えたとき、まったく同じ現象が時代を経ていま起こっていると気付いたのである。これは、90年代の中期に一世を風靡したドラムンベースのサブジャンル"アートコア"である。
DJの視点からみて、このうえなく重宝する作品と言うのは多々ある。DJミックスによって素材の重なり具合によって作品の表情が180度変わったり、そこから予想だにしなかったグルーヴが生まれたりと......ロング・ミックス/ブレンドをこよなく愛す筆者の三台ミックス・スタイルにとって、小節単位でミックス部分を計算し、レコードをサンプルのように使うこの方法は、シンプルなサウンドほど変化させがいがあり、そこに"ハマる"貴重なものを見つける快感があるというわけだ。



















