Home > Reviews > Album Reviews > The Samps- The Samps EP
大きくはネオン・インディアン系と言えるが、わけのわからなさではこちらのほう上手。強いて喩えるなら、ザ・レジデンツがいま蘇って、チルウェイヴ・ディスコの波に乗ったとしたら......サンプラーに投げ込まれたR&B、ファンク、カートニッシュ・サウンドの断片、安っぽいレイヴ・サウンド、古びたグラム・ロック、スキゾフレニックで、いわばフリーキーなディスコ・ショーのハイパーモダン・ヴァージョン、それがザ・とうもろこし(サンプス)のデビュー12インチである。で、耳の早い方はよーく知っての通り、ザ・サンプスとは先頃、アルバム『ビフォア・トゥデイ』を発表したばかりのサンプル・マニア集団、アリエル・ピンクス・ホーンティッド・グラフィティのメンバーによるプロジェクトである。
もっとも......最初に自分で書いておいてこんなことを言うのは恐縮だが、このお茶目な3人組の音楽をチルウェイヴと括るには抵抗がある。何故なら彼らのDIY音楽には、チルウェイヴやドリーム・ポップ、グロー・ファイなどと呼ばれているものに共通するメランコリーがない。アリエル・ピンクがそうであるように、つまりシューゲイズがない。『ラヴレス』でもなければゲンイチでもないのだ。この音楽から聴こえる感情とは、ナンセンスな笑い、乾いた感情、バカバカしさ、喜び、大雑把に言ってそんなものである。むしろ『ビフォア・トゥデイ』以前の、アニマル・コレクティヴのレーベル〈ポウ・トラックス〉時代のアリエル・ピンクに近いと言えよう。
アッハッハッハッハ~というバカ笑いとお決まりのロック・ギターからはじまる1曲目の"ウィザードスリーヴ"は、途中、間抜けな男の声「あふあふあふあふ」によって転調すると途端クラウトロックに変わる。2曲目の"F.X.N.C."はベースラインがうねるスペース・ディスコ・ファンクだが、いわば発狂したジャズン・クルーとなって爆発する。3曲目の"イエロージャケット"は酔っぱらったアーバン・ディスコ・ソウルで、驚くほど楽天的なフィーリングを展開する。4曲目の"Thy"は脈絡のないシュールなエレポップ、5曲目"ハイパーボリック"にいたっては......Bボーイによるドタバタ喜劇である。そして、最期の曲"ペッパーグッド"虹色のミラーボールによる悪ふざけでこのインパクトの塊のようなレコードは終わる。
そう、これはまだヴァイナルのみの発売で、レコードしかない。〈メキシカン・サマー〉の戦略であり、それがUSインディの出したひとつの回答である。そして、ザ・とうもろこしにはサンプリング・ミュージックの最高に滑稽な現在が詰まっている。「自分が何をやっているのか本当によくわからないんだ」、とはザ・とうもろこしのひとり(そしてアリエル・ピンクのギタリスト)、まるで故スネークフィンガーを思わせる変人ギタリスト、コール・マーズデン・グライフ-ニールの言葉だが、たしかにこの音楽は「本当によくわからない」。それでも......惹きつける何かがある。ちなみに全6曲中、3分台が2曲、2分台が2曲、1分台が2曲、まるで初期のワイヤーである。
野田 努