ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Oyubi - White birch burns
  2. P-VINE 50TH ANNIVERSARY POP UP STORE ──代官山蔦屋書店にてPヴァインのポップアップ・ストアが登場
  3. mary in the junkyard - Role Model Hermit | メアリー・イン・ザ・ジャンクヤード
  4. interview with Toru Hashimoto 橋本徹がブラジリアン&ブリージンなコンピに込めた渋谷系の哲学 | 『Free Soul』&『Cafe Apres-midi』最新作をめぐって
  5. THE CROWD──ele-king presents HIP HOP JAPAN
  6. Seefeel - Sol.Hz | シーフィール
  7. Kassel Jaeger - Sub Re | カッセル・イェーガー
  8. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  9. GEZAN - I KNOW HOW NOW
  10. 未来マニア──エレクトロニック・ミュージック・ガイド
  11. Columns 7月のジャズ Jazz in July 2026
  12. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  13. Columns Holy Tongue UKダブを更新するバンド、ホーリー・タンの初来日公演
  14. doooo ──立方体のレコード!? 岩手出身のDJ/プロデューサー、ドゥーによるぶっ飛んだ新作がリリース
  15. Columns Introduction to P-VINE CLASSICS 50
  16. 吉岡誠 - 江戸アケミ、四万十川から
  17. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル
  18. 下津光史 - @青山 月見ル君想フ  | 踊ってばかりの国
  19. interview with Loraine James ロレイン・ジェイムズの“ポップ”な冒険 | ——来日直前インタヴュー
  20. Free Soul × P-VINE ──コンピレーション・シリーズ「Free Soul」とPヴァイン創立50周年を記念したコラボレーション企画、全50種の新作Tシャツ

Home >  Reviews >  Album Reviews > Peaking Lights- Lucifer

Peaking Lights

Peaking Lights

Lucifer

Mexican Summer

Amazon iTunes

野田 努   Jun 29,2012 UP

 飲み過ぎてしまった翌日の落ち方が年々酷くなっているような気がする。そして、心地よい夢から覚めたときの爽やかな朝というモノを体感できなくなっている。悲しい話である。
 「ルシファー」とは、「魔王」という意味もあるが「明けの明星」という意味もある。本作のタイトルの『ルシファー』は明らかに後者だ。催眠状態にかけられながら、ぎーぎーと揺れているデッキチェアに身体をもたれている。幸福な夢想のなかにいる......目が覚めると明星が見える。美しい1日がはじまる。『ルシファー』は、そうした幸福な愛とサイケデリックの見事な調和だ。

 インドラとアーロンによるこの夫婦ユニットの新作が至福へと導かれた大きな理由は出産だ。ふたりのあいだにはいま赤ちゃんがいる。『ルシファー』は植物の香り漂う催眠的な子守歌のようである。「私たちにとってこの作品は、遊びと陽気さ、無償の愛、リズムと脈、創造と振動についての記録です」と彼らは述べている。

 2~3年前のポカホーンティッドやサン・アロウが試みていたような、一風変わったダブ・サイケデリックは、いまピーキング・ライツを通して成熟に向かっている。2011年、ロサンジェルスの〈ノット・ノット・ファン〉からリリースされた彼らの前作『936』は、UKで人気盤となり、半年後には〈ドミノ〉傘下の〈ワイアード・ワールド〉から正式なライセンス盤がリリースされた。〈NNF〉としては異例のヒットというか、『936』は、ヨーロッパの連中をも催眠状態にしたのである。

 ピーキング・ライツは、〈NNF〉系の輪郭のぼやけたローファイ・テイストを活かしつつ、異国情緒を感じる歌の節回しとレゲエのフレイヴァー、ときにクラウトロックとをミックスしている。ポカホーンティッドやサン・アロウほどやり過ぎていないところも良かったのだろう。『ガーディアン』にも取り上げられ、その年末には〈ワイアード・ワールド〉からリミックス・シングル「Remixes」も発表されている。エイドリアン・シャーウッドというUKダブの御大から中堅どころのデム・ファンク、クラウド・ラップのメイン・アトラキオンズといった新世代まで参加した。それに負けじと、今年に入ってから〈100%シルク〉はハウス流儀のリミックス・シングル「936 Remixed」を切っている。

 『ルシファー』は、前作ほどレゲエっぽくはない。喩えるならビーチ・ハウスのダブ・ヴァージョンのようなアルバムだ。ヴィブラフォンの音色が印象的な"ムーンライズ"は彼らの新境地と言うべき、ローファイ・サイケデリック・ミニマル・ダブが展開されている。その曲は、生まれた息子に捧げる"ビューティフル・サン"と同様に、(本人たちの言うように)無償の愛の輝きを持っている。リズムマシンの音色を活かした"リヴ・ラヴ"の軽快さもそうだが、これらの愛の表現は、さしずめケミカルの力を借りない『スクリーマデリカ』である。サイケデリックな感覚――それはミキシングにおいて明白に出ている――は相変わらずだが、ドラッグ・ミュージックの陥りがちな独りよがりな過剰さがない。その代わり、ハルモニアのアンビエントにも似た微笑みがある。
 "コズミック・タイズ"や"ミッドナイト"は彼ららしいルーツ・レゲエの流用で、ポカホーンティッドの後期のサウンドをそのまま受け継いでいるかのようだ。また、こうした曲を聴いていると何故UKサイドがエイドリアン・シャーウッドにリミックスを依頼したのかがわかる。このサウンドは、ニュー・エイジ・ステッパーズの現代的ローファイ版とも言えるからだ。
 "LO HI"のぼんやりした音像からはダブステップの影響が聴ける。ロウソクが震えているような感じから、ざわつきはじょじょに大きくなる。そして、アルバムにおいてもっともダンス・ビートを強調する"ドリーム・ビート"へと繋がる。100BPMほどのゆっくりな曲で、ギターはときに歪むが、全体として『ルシファー』の優雅さを損なわない。クローザー・トラックの"モーニング・スター"は瞳孔を開いている人以外にも届くであろう明星だ。

 2度目の来日を果たしたアリエル・ピンクに話を聞いたとき、デヴィッド・アレンの話題で盛り上がったが、ピーキング・ライツのこの愛のアルバムにもいまどき珍しい楽天性がある。彼らは夫婦で屋台を引きながら手作りのおでん......ではない、電子音を発信しているようなものだが、それが今日コズミック・サウンドを生み出しているコミューンなのだ。気持ちよく1日を迎えるためにも深酒は止めよう(とくに二木信と出会ったら用心せねば......)。それよりも赤ちゃんといっしょに、家族といっしょに楽しい夜を過ごしてください、『ルシファー』はそう言っている。

野田 努