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Peaking Lights

Peaking Lights

Lucifer

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野田 努   Jun 29,2012 UP
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 飲み過ぎてしまった翌日の落ち方が年々酷くなっているような気がする。そして、心地よい夢から覚めたときの爽やかな朝というモノを体感できなくなっている。悲しい話である。
 「ルシファー」とは、「魔王」という意味もあるが「明けの明星」という意味もある。本作のタイトルの『ルシファー』は明らかに後者だ。催眠状態にかけられながら、ぎーぎーと揺れているデッキチェアに身体をもたれている。幸福な夢想のなかにいる......目が覚めると明星が見える。美しい1日がはじまる。『ルシファー』は、そうした幸福な愛とサイケデリックの見事な調和だ。

 インドラとアーロンによるこの夫婦ユニットの新作が至福へと導かれた大きな理由は出産だ。ふたりのあいだにはいま赤ちゃんがいる。『ルシファー』は植物の香り漂う催眠的な子守歌のようである。「私たちにとってこの作品は、遊びと陽気さ、無償の愛、リズムと脈、創造と振動についての記録です」と彼らは述べている。

 2~3年前のポカホーンティッドやサン・アロウが試みていたような、一風変わったダブ・サイケデリックは、いまピーキング・ライツを通して成熟に向かっている。2011年、ロサンジェルスの〈ノット・ノット・ファン〉からリリースされた彼らの前作『936』は、UKで人気盤となり、半年後には〈ドミノ〉傘下の〈ワイアード・ワールド〉から正式なライセンス盤がリリースされた。〈NNF〉としては異例のヒットというか、『936』は、ヨーロッパの連中をも催眠状態にしたのである。

 ピーキング・ライツは、〈NNF〉系の輪郭のぼやけたローファイ・テイストを活かしつつ、異国情緒を感じる歌の節回しとレゲエのフレイヴァー、ときにクラウトロックとをミックスしている。ポカホーンティッドやサン・アロウほどやり過ぎていないところも良かったのだろう。『ガーディアン』にも取り上げられ、その年末には〈ワイアード・ワールド〉からリミックス・シングル「Remixes」も発表されている。エイドリアン・シャーウッドというUKダブの御大から中堅どころのデム・ファンク、クラウド・ラップのメイン・アトラキオンズといった新世代まで参加した。それに負けじと、今年に入ってから〈100%シルク〉はハウス流儀のリミックス・シングル「936 Remixed」を切っている。

 『ルシファー』は、前作ほどレゲエっぽくはない。喩えるならビーチ・ハウスのダブ・ヴァージョンのようなアルバムだ。ヴィブラフォンの音色が印象的な"ムーンライズ"は彼らの新境地と言うべき、ローファイ・サイケデリック・ミニマル・ダブが展開されている。その曲は、生まれた息子に捧げる"ビューティフル・サン"と同様に、(本人たちの言うように)無償の愛の輝きを持っている。リズムマシンの音色を活かした"リヴ・ラヴ"の軽快さもそうだが、これらの愛の表現は、さしずめケミカルの力を借りない『スクリーマデリカ』である。サイケデリックな感覚――それはミキシングにおいて明白に出ている――は相変わらずだが、ドラッグ・ミュージックの陥りがちな独りよがりな過剰さがない。その代わり、ハルモニアのアンビエントにも似た微笑みがある。
 "コズミック・タイズ"や"ミッドナイト"は彼ららしいルーツ・レゲエの流用で、ポカホーンティッドの後期のサウンドをそのまま受け継いでいるかのようだ。また、こうした曲を聴いていると何故UKサイドがエイドリアン・シャーウッドにリミックスを依頼したのかがわかる。このサウンドは、ニュー・エイジ・ステッパーズの現代的ローファイ版とも言えるからだ。
 "LO HI"のぼんやりした音像からはダブステップの影響が聴ける。ロウソクが震えているような感じから、ざわつきはじょじょに大きくなる。そして、アルバムにおいてもっともダンス・ビートを強調する"ドリーム・ビート"へと繋がる。100BPMほどのゆっくりな曲で、ギターはときに歪むが、全体として『ルシファー』の優雅さを損なわない。クローザー・トラックの"モーニング・スター"は瞳孔を開いている人以外にも届くであろう明星だ。

 2度目の来日を果たしたアリエル・ピンクに話を聞いたとき、デヴィッド・アレンの話題で盛り上がったが、ピーキング・ライツのこの愛のアルバムにもいまどき珍しい楽天性がある。彼らは夫婦で屋台を引きながら手作りのおでん......ではない、電子音を発信しているようなものだが、それが今日コズミック・サウンドを生み出しているコミューンなのだ。気持ちよく1日を迎えるためにも深酒は止めよう(とくに二木信と出会ったら用心せねば......)。それよりも赤ちゃんといっしょに、家族といっしょに楽しい夜を過ごしてください、『ルシファー』はそう言っている。

野田 努