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彼女は猫とマドンナとテレビ・ゲームからインスピレーションを得ている......彼女は"ダブステップ界のファーストレディ"と呼ばれることを嫌う......と4月8日付の『ガーディアン』の記事には記されている。少し引用させてもらおう。「ブログで私のことをダブステップにおけるM.I.A.と呼ぶ人たちがいたけど」、彼女は鼻を鳴らす。「肌の色で判断するそれってハンスロウ(ロンドンの高級ホテル)みたいだわ。それは私の音楽じゃない。私の名字からある人は私をモスリム・プロデューサーと呼んだ。でも、私はイスラム教徒ですらない。スクリームのことを白人男性のキリスト教プロデューサーって呼ぶかしら?」
さて、〈ハイパーダブ〉がブリアル、コード9、キング・ミダス・サウンズに続いてリリースするアーティスト・アルバムがサラ・アブデル・ハミド、アイコニカの名前で知られるDJ/プロデューサーによる本作『コンタクト・ウォント・ラヴ・ハヴ』である。こう書かれることを彼女は好まないかもしれないが、本作は女性による最初のダブステップ・アルバムだ。
彼女はエジプト人の父とフィルピン人の母の元、ウェスト・ロンドンで育っている――実は僕は、このCDの解説を書いているのだけれど、その時点では彼女の背景がわからなかった。レーベルからの資料にもそうした詳細は記されていなかった。アラブ系じゃないかと勝手に推測してしまったが、間違いでした。『ガーディアン』の記事にあるように、人種によって先入観をもたれる事態を避けたかったのだろう。なにせ彼女は最初は、ニルヴァーナとホールのコピー・バンドのドラマーだったのだ。それから彼女はヒップホップとダブステップを手に入れた......という話だ。
2008年に〈ハイパーダブ〉からシングル「ミリー」(彼女が飼っている老いた猫の名前)でデビューしている。昨年は同レーベルから万華鏡のような美しいアートワークとともにサード・シングル「サハラ・マイケル/フィッシュ」を発表している。彼女は相当にゲーム好きらしく(彼女によれば片方の耳ではゲーム、もう片方の耳ではガラージを聴いて育った......という)、それは"サハラ・マイケル"のロボティックな感覚からも聴き取れるし、アルバムに収録された"イディオット"にいたってはレトロなコンピュータ・ゲームのロービットの音色を使っている。"ゼイ・アー・オール・ルージング・ザ・W"もまたクラフトワーキッシュなエレクトロで、こうしたブリーピーな(テクノ・ポッピーな)感性はアルバムの重要な個性となっている。そしてこれらトラックを聴いていると――またしても――このジャンルが拡張し続けていることを認識する。
そして"フィッシュ"だ。きっと多くの人は、このトラックにアンダーグラウンド・レジスタンスのコズミック・テクノと同類の感覚を覚えるのではないだろうか。エレガントで、勇気を与えるタイプの曲だ。他にもスペース・ファンク調の"ヴィデオ・ディレイ"、UKファンキー調の"プソリアシス"、あるいはデトロイティッシュな"ヨシミツ"等々、実に多彩な内容となっている。さすが〈ハイパーダブ〉がアルバムとして発表するだけのことはあるというか......、いや、しかしこのレーベルのたとえばブリアルやコード9などのディストピア志向と違って、アイコニカの『コンタクト・ウォント・ラヴ・ハヴ』は大らかで前向きなエネルギーを持った作品である。
ちなみにアイコニカというネーミングは、彼女のボーイフレンドが「iconoclastic(因習打破的な)」という単語のもじりとして発案したものだそうだ。アルバムを聴く限り、その名前は彼女にまったく相応しい。
野田 努