ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Masato Matsumura これからの前衛音楽のために (interviews)
  2. Ninjoi. - Masayume (review)
  3. Norhern Soul ──『ノーザン・ソウル』、この最高な映画を見たらスリムのデニムを履けなくなる (news)
  4. The Matthew Herbert Big Band ──ハーバートがビッグ・バンドで新作をリリース、発売日はイギリスがEUを離脱する3月29日 (news)
  5. Phony Ppl - mō'zā-ik. (review)
  6. 打楽器逍遙 12 行進 (columns)
  7. interview with Phony Ppl NY発 新世代が奏でるソウルの真髄 (interviews)
  8. Columns TINY POPというあらたな可能性 (columns)
  9. K Á R Y Y N ──〈ミュート〉期待の新人がアクトレスの人工知能とコラボ&ファースト・アルバムをリリース (news)
  10. 天国でまた会おう - (review)
  11. James Blake ──ジェイムス・ブレイク新作の日本盤CDがリリース (news)
  12. The Specials - Encore (review)
  13. interview with Mark Stewart 俺は永遠の楽観主義者だ (interviews)
  14. interview with Simon Halliday 元〈WARP〉スタッフ、現〈4AD〉社長に話を訊く (interviews)
  15. Bbno$ - Recess (review)
  16. Mars89 ──たったいま聴こう。東京新世代のプロデューサー、Mars89が新作をリリース (news)
  17. Beirut - Gallipoli (review)
  18. interview with Mark Stewart & Gareth Sager 歴史的名盤の裏側を語る (interviews)
  19. Kankyō Ongaku ──日本のアンビエントにフォーカスしたコンピレーションが発売 (news)
  20. Random Access N.Y. vol.110 史上最悪のスーパーボウル騒動 (columns)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Dean Blunt & Inga Copeland- Black Is Beautiful

Dean Blunt & Inga Copeland

Dean Blunt & Inga Copeland

Black Is Beautiful

Hyperdub/ビート

Amazon iTunes

野田 努   May 18,2012 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
E王

 真実を言うことだけが音楽の役目なのだろうか......とにかく、まあ、ようやくハイプ・ウィリアムス(映像作家)本人からクレームが来たのかもしれない、ハイプ・ウィリアムスあらためディーン・ブラント・アンド・インガ・コープランド(DB&IC)と、新たな策も考えずにふたりの名をそのまま名乗っているところが、そしてまた、曲名を最初の1曲目のみ付けて、「あとは面倒くさいからいいか」とばかりに、最後の15曲目までをすべて数字にするというやる気のなさを見せながら、『ブラック・イズ・ビューティフル』は傑作だ。アクトレスの新作と並んで、ここ1ヶ月にリリースされる作品のなかでは群を抜いている。

 『ブラック・イズ・ビューティフル』には、諧謔性がある。1曲目の壮絶なドラミングのあとには、拍子抜けするほど軽いシンセ・ポップの"2"が待っている。わけのわからない"3"、Jポップ(相対性理論?)のパロディの"5"、わけのわからない"6"とか"8"とか......リスナーは、ディーン・ブラントの口から吐かれる煙にまかれる。『ワン・ネーション』のドリーミーな感覚とはまた違っている。ディーン・ブラントは、日銭を稼ぐために賭博のボクシングの試合に出てはぶん殴られて負けていたという話だが(負けるのが彼の役だった)、たしかに彼らの音楽は、頭を打たれ、視覚がぶれ、そして記憶が飛んで地面に倒れたときのようである。クラクラして、感覚がなくなり、わけがわからない......。そもそもハイプ・ウィリアムスとしては、"超"が付くほどのローファイで脈絡のない電子音楽を作っているが、『ブラック・イズ・ビューティフル』ではナンセンスがさらに際だっている。彼らにトレードマークがあるとしたら「ごほごほ」と咳き込むループだが、それはスモーキーな感覚というよりも喘息を思わせる。不健康で、だがそれを良しとしている。
 『ブラック・イズ・ビューティフル』は嘘を付いているかもしれないが、誠実なアルバムである。半年後に何が起きてもみんな驚かないでろうこの社会の危うさをものの見事に表しているかもしれない。彼らの意味の放棄は、ツイッターやネット掲示板で見られるタチの悪い虚言、崩壊するマスメディアへのアイロニカルな反応かもしれない。

 『ガーディアン』の取材では、ディーン・ブラントはラップは嫌いでオアシスばかりを聴いていると話している。彼の将来の計画は、レスリングの学校に通っているあいだにデトロイトに行ってレーサーになることだそうだ。「僕は、世界の終わりを恐れることに僕の人生すべてを費やしてきた。そして、僕の10代すべてはその研究のためにあった」と、ディーン・ブラントは『ガーディアン』の記者に話している。「世界の終わりの徴候は、人があまりにたくさんの情報で満たされるときだ」
 それがいまだ。いわゆる"情弱"を差別するデジタル社会のカースト制度への反発心が彼らにはあるようだ。いっさい喋らないというインガ・コープランドは、最近、アーセナルの女子チームの試験を受けたそうである。

野田 努