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Because I'm Worth It

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野田努   Jun 12,2014 UP
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 今回のワールドカップには、これまで感じたことのない異様な感覚が漂っている。たしかにワールドカップは、過去、生臭い政治にまみれることはたびたびあった。軍事政権下でのアルゼンチン大会のように、プロパガンダとして利用されることもあった。南アフリカ大会での反対運動も記憶に新しい。が、それにしても、おそらく、この地球上でもっともフットボールを愛している国、この地球上でもっとも華麗なフットボールをものにしている国──と世界中で思われてきた国──のなかで開催を反対する人たちが追い詰められた挙げ句の直接行動を起こし、落書きし、そのことが長く、そしてこれほどまでに顕在化するというのは、やはり、昔のように無邪気にワールドカップを楽しむということができなくなった時代の本格的な到来を意味しているのだろう。ロマーリオ(フランス大会のとき、デプス・チャージは彼を讃える12インチを出している)のように、現在の反対運動に共感を示している元セレソンもいる。もっとも、FIFAだけの仕業でもないし、本当に異様な感じだ。

 インガ・コープランドと呼ばれている女性の音楽は、こうした世界の異変を察知しているもののひとつだ。2010年、彼女とディーン・ブラントと呼ばれている男性とのふたりによるハイプ・ウィリアムス名義のアルバム・タイトル──『人が礼儀を捨てて、現実に目覚めたときに何が起こるのか見極めよ』は、いろいろな意味に解釈できるが、ひとつ言えるのは彼らが何らかの異変/乱れを感じて、それを伝えようとしていたことだ。
 また、彼らは、この高度情報化社会における錯乱を嘲るかのように、「ハイプ・ウィリアムスとはジェス・ストーンのサイドプロジェクトである」というホラ話を流し、自分たちは元八百長ボクシングの殴られ屋で、元アーセルだととか、虚言とケムリで人びとを煙に巻いていたことでも知られている。リスナーは、たんなる電子音以上のものをハイプ・ウィリアムスおよびディーン&コープランドの作品から引き出したわけだが、そうした「読み」がなかったとしても、彼らの作品にはサウンド的な魅力があった。何にせよ、彼らの来日ライヴの強烈な体験がいまだ忘れられない僕がインガ・コープランドのソロ・アルバムを聴かないわけがないのである。ディーン・ブラントとの謎の分裂(?)と、昨年の2枚のソロ・シングルのリリースを経て、彼女はつい最近アルバムを発表した。フィジカルはレコードのみで、レーベル名はない。名義は、彼女の名字だとされている、コープランド。

 ディーヴァとしての歌モノ路線というか異色のシンセ・ポップ、さもなければエクスペリメンタル、ざっくり言って彼女にはふたつ道があったが、本作で選んだのは、前者を装った後者であり、後者を取り入れた前者だ。
 エクスペリメンタルというのは曖昧な言い方だが、来日ライヴを見ている方にはあの凄まじい演奏の延長だと言っておこう。逃した人には、インダストリアルでもテクノでもハウスでもない、つまり焼き直しではない、新しい何かを目指した意欲作だと言っておこう。そう考えるとハイプ・ウィリアムス名義による、ダブの残響音のみで作られたかのようなあの音楽は、根無し草的なディーン・ブラントのソロを聴く限りは、インガ・コープランドが大きな役割を果たしていたのではないかと思えてくる。

 今回は、アクトレスがサポートしているのも大きいだろう。実際のところ、音的にはアクトレスの諸作、そしてアントールドのアルバムが思い浮かぶ。とはいえ、ノイズからはじまり、きぃぃーーーーんと、鼓膜を攻撃するような、危険な周波数のトーン(まさにあのときのライヴで発信されていたトーンである)が重なるこのアルバムは、ある意味では彼らの作品以上に挑発的で、耳障りだ。
 その高周波数音だけがきぃぃーーーーんと残され、音がピタッと途切れた瞬間にアクトレスが全面協力した“若い少女へのアドヴァイス”という曲が続く。この、アルバム中もっとも悲しい曲で、コープランドは都会で暮らす少女に向かって語りはじめる。「部屋を出て街に出るのよ/ロンドンはあなたの死ねる場所?/欺かれたときにはどんな感じがするの?/少女は何をすればいいの?/この街はあなたのものなの?」──こうして、アルバム・タイトルの『何故なら私にはその価値があるから』という、昨年のシングルと連続する自己啓発めいた言葉は反転され、前向きとされる未来への違和感が立ち上がる。

 実を言えば、最初このアルバムを聴いたときには、不完全で、焦点のぼやけた作品に思えたが、聴いているうちにどんどん音楽のなかにのめり込んでしまった。皮肉屋の作品だとも混乱を弄んでいるとも思えないし、間違っても社会派の作品ではないが、社会の異変に関わりを持っていることはたしかだと思えるのだ。また、たとえ音楽に曲名(言葉)がなくても惹きつけられるものがあり、彼女のエモーションを感じる。
 B面1曲目の“Fit 1 ”は、美しい平穏さと抑揚のない彼女の歌と緊張感、そして素晴らしいベースラインの、ポスト・ダブステップの先を見ているリズムがある。B面の最後から2番目の曲が、これまで彼女がシングルで披露してきたシンセ・ポップで、曲名は彼女の名前だとされている“インガ”。思わせぶりの曲名だが、自己主張の感覚はない。その曲では、彼女にしてはヒネりのない言葉、ひとつの真実──「私たちがすべき重要なこと/すべては数字が審査する」──が歌われている。さて、僕は家に帰ってニュースを見よう。今夜は早く寝なければ。なにせ明日の金曜日は早朝に起きなければならないからね。

野田努