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野田 努   Jan 06,2014 UP
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 アルバムの1曲目がキラーだ。『R.I.P.』(2012年)も『Splazsh』(2010年)もそうだったかもしれない。今回も1曲目(“Forgiven”というのが曲名)を聴いたとき、心底格好良いと感じた。何回聴いても良い。その格好良さは、過去のテイストとは違う。とくにアンビエント色を強めた『R.I.P.』とは対照的だ。音色はくすんでいるがリズミックで、ダンサブルで、ファンクの躍動感がある。ドレクシアの後継者という言い方が使えるなら、このアルバムのためにあるかもしれない。ゲットーのダーク・ファンタジー、アフロ・フューチャリズム、想像力を働かすには、充分なほどの仕掛けがある。この原稿を書いている現在、午前中だし、寒い曇り空が広がっているので、『ゲットーヴィル』を聴くには申し分のない条件が揃っている。しかもテレビではプレミア・リーグの録画放送をやっている。スパーズがユナイティッドのゴールを脅かしている……

 年末から年始にかけては、子供とサッカー番組をぶっ通しで見た。もちろんW杯への予習をかねてだが、サッカーは、会話を持てないときの親子にとっては最高の潤滑油で、とくに好きになれないシティやチェルシーの試合であろうとも話のサカナとしてあまりあまる。小学生の中学年となれば、日本代表がロビンのいないオランダ代表に引き分けても喜ばないし、フランス革命とはニューキャッスルを意味する。ちなみに、昨年末三田格がレヴューで触れていたトルコは、サッカー・ファンのあいだでは欧州リーグの元スーパースターわんさといることで知られる。Jリーグとは比較にならないほど監督も選手も有名人が多い。チャンピオンズ・リーグを戦っているガラタサライ(イスタンブルの人気クラブのひとつ)の数年前の監督はライカールト(永遠のスター)だし、いまの監督はマンチーニ(前々インテル、前シティ監督)、クラブにはドログバ(元チェルシー/コートジボワール代表)とスナイデル(オランダ代表)もいる。かつてジーコを監督に招いたライヴァルのフェネルバフチェにはカイト(オランダ代表)がいる。トルコのシュペル・リガは、その熱狂も含め、欧州四大リーグに次ぐリーグへとなりつつあるとも言われている。ついでながら言えば、本田圭佑が前に所属していたCSKAはロシア陸軍のクラブが元になっているし、移籍先のACミランの会長は悪名高きベルルスコーニ、現在シティを抜いて1位のアーセナルは兵器工場の労働者のクラブからはじまっている。年末に亡くなられた大滝詠一さんは、日本音楽における分母としての「世界史」を強調されていたことで知られるが、サッカー・ファンは、否が応でも世界史と直面している。
 と、話は大きく脱線したが、まあ、単純な話、アグエロを見ているだけでも今年のW杯のアルゼンチンはかなり強いだろうとか……、日本の子供から見てもプレミア・リーグ(もしくはチャンピオンズ・リーグ)は面白いので、家族の会話をうながしてくれる。僕の週末の感情(悲しみや喜び、憂鬱と錯乱)に振り回されるJリーグと違って、帰属意識なんかにかき乱されることもなく、気楽に見れるところも良いのだろう(もちろん現地では日本以上の強い帰属意識の衝突が繰り広げられている)。
 いやいや、そうじゃなくても、アクトレス(ダレン・カニンガム)が、19歳まで、世界最高のリーグのウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンFCに所属していたという過去には興味をそそられる。稲本潤一も在籍したことがあるクラブだ。テクノ・ファンがここで思い出すのは、セルジオ・メンデスと一緒にアルバムを作ったブラジルのペレではなく、本気で野球選手を夢見たデトロイトのマイク・バンクスだが、アクトレスの数少ないインタヴュー記事を読んでいると、彼は、日々ストイックに人生を過ごしているバンクスとは正反対で、いかなるときもウィードを手放さない瞑想的な生活を送ってらっしゃるようだ。そのライフスタイルの違いは、音に出ている。『ゲットーヴィル』は、最初聴いたときはずいぶんトゲのある、暗いアルバムだと感じたが、繰り返し聴いているうちに気持ち良くなった。

 アクトレスがフットボーラーを辞めてDJになり、そしてレーベルをはじめた頃はマシュー・ハーバートに夢中だったというが、ほとんどの場合の彼は、自分の音楽を説明するのにデトロイト・テクノを引用している。ときに自分はホアン・アトキンス(デトロイト・エレクトロ)の系譜だと言い、『ダミー・マグ』という最新型を好むポストモダン小僧御用達メディアを相手取って、いまでもインナー・シティの“グッド・ライフ”は通用すると主張し、若いインタヴューアをたじろがせている。しかし、彼の音楽にはハウス的なカタルシスはないし、彼自身も言うように、損得勘定で作っている音楽だとは到底思えない。ただただ純粋な探求心があり、聴き手の度肝を抜く。
 怪我をしなければアクトレスは可能な限りボールを蹴っていたのだろう。『R.I.P.』のように死を連想させながら、情熱によって音を追求している彼の逆説的な前向きさにも、人生の舵を大きく別の方向に切ったことが関係しているのかもしれない。現在ウェスト・ブロムには、有名どころで言えばアネルカ(元フランス代表/元アーセナル~元チェルシー等々)がいる。ピークを過ぎた選手だが、ウェスト・ブロムはイングランド中部の歴史あるクラブだ。ダレン・カニンガムのポジションはどこで、どんなプレイヤーだったのだろう。 90年代なかばの数ヶ月だけ我がチームに在籍して、その後スペインのデポルティーボ・ラ・コルーニャで世界的評価をモノにしたブラジル人のジャウミーニャはザ・スミスのファンだったという。南米の選手らしく華麗なフェイントを駆使するミッドフィルダー(清水ではFWで使われていたが)がマンチェスターの暗い叙情詩のどこに共感したのか知るよしもないが、それを思えば、UKミッドランド工業地帯のアフリカ系のフットボーラーがUS北部の廃墟から生まれた電子音楽に共振することは驚くには値しないかもしれない。噂によればこれが最後の作品になるとか……どうせガセだろうとは思うけれど。

 アナログ盤の値上がりがきついし、YouTubeをパトロールするのが苦手なので、昔よりも難易度は高まっているように思うけれど、2014年も良い新譜に出会えますように。今年は、地上最大の祭典と呼ばれるW杯がある。サッカーと同じように、音楽を探究することは、個人的な意味を越えた何かにぶち当たる。それを世界史と呼ぼうが、社会と呼ぼうが、ブラジルでは、ディフェンダーをうまく騙すことは人生と深く関わりがあると思われている。ずるい子こそがうまい子になる。2014年は64年ぶりにトリックスターの聖地でW杯が開催される!

野田 努