「S」と一致するもの

STICKY - ele-king

 「下から眺める 景色は最低だね」("MAKE MONEY TAKE MONEY"より)。日本のヒップホップ・シーンにおける所謂ハスラー・ラップ・ブームを牽引した川崎を拠点とするグループ、SCARSから、SEEDA、BAY4K、BESに続いて独り立ちするSTICKYは、記念すべきファースト・アルバムを、道端に唾を吐き捨てるような、そんな苛立った調子ではじめる。「彼女のウツ病と親の離婚/身内の不幸も重なりBAD/誰もいない場所 オレだけの世界/オレの帰る場所はどこ」(BES feat.STICKY"ネバギバ"より)。その名を好き者の間で一躍有名にしたのはBESの『Rebuild』に提供したこの救いようのないラインだった。果たして、それから1年強、完成したアルバムは大方の期待通り、ひたすらダークでダウナーなストーナー・ラップに仕上がっている。そこには、ハスラー・ラップのパブリック・イメージと違ってヴァイオレンスな描写もクライム・ストーリーもほとんどない。その代わりに鳴り響くのが、延々と続くバッド・トリップめいた世間に対する恨み辛みと、他人に対する勘ぐり、そして自己嫌悪である。「落ち着かねぇFUCK/金が戻ってくるのは何時になる/目を閉じると不安が襲うし/目を開けると現実となる」("MAKE MONEY TAKE MONEY"より)。「取り戻せない 時間と金/苦しむ また苦しむ/穴埋めの為の労働/苦しむ また苦しむ」("LOST"より)。「見たい夢がある/現実は社会の底辺に」("タマには..."より)。「誰も信用できねぇよ/誰かを信用したいよ でも」("FEEL MY PAIN"より)。その通層低音となっているのは、『Where's My Money』というタイトルが象徴しているように、自分は搾取されているという感覚であり、それは今、この国の階層の2極化が進むと共に増えつつある被害者意識を持った若者たちの無言の叫びをはっきりと代弁している。しかし、このアルバムが、和製フーリガン=所謂ネット右翼の連中とは違って少しだけ救いがあるのは、そのストレスを発散するために自分より弱い人間を叩くのではなく、夢と仲間をもう一度、信じてみようという素朴な価値観からやり直そうとしているところだ。鬱々としたこの作品は、後半、地元川崎の荒れた光景を描いた"同じ環境 違う場所"、崩壊した家庭に育った少年時代を振り返る"FEEL MY PAIN"、ハスリングの果てに入れられた堀の中での瞑想"終わりなき道"といった流れで底の底まで辿り着き、ラスト・ソング(そいつは、奇しくもUSのストーナー・ラッパー、Kid Cudiのヒット曲と同じタイトルを持っている)で音楽とホーミーに導かれるようにゆっくりと浮上しはじめた瞬間、バッサリと終る。「この苦しみから抜け出す/THUG MANSIONから抜け出す/MY BLOCK 苦しみで病む/THUG MANSION オレなら抜け出せる」("DAY-N-NITE"より)。それは、決意のようにも、気休めのようにも聴こえるが、STICKYがこの言葉にまで辿り着いた過程を思うと感動せざるを得ない。

Flashback 2009 - ele-king

 2009年も様々な場所でいろいろな趣向のレイヴがたくさんあった。何百という中小のレイヴが濫立し本当にサード・サマー・オブ・ラヴといっても過言ではない。そこには、マスコミに取り上げられた"悪しき若者文化"を象徴するようなものから、DIYの精神と音楽への純粋な欲求から生まれた素晴らしい試みまで含まれる。いろいろ行きたかったが、日々の労働やなんやらで、結局僕がそのなかで唯一行けたのが9月19日〈タイコクラブ川崎〉だった。

 今回〈タイコクラブ〉が選んだ会場は川崎の東扇島東公園、そのすぐ近くで、僕は1日12時間以上の肉体労働を強いられている。毎日、目の前に与えられた仕事を黙々とこなす。あるのはただ労働のみ。島には流通系の倉庫と食品会社の冷蔵庫それ以外にはコンビニがふたつあるだけ。普段は日雇いの派遣労働者や主に中国人を中心とした出稼ぎの外国人、愛国精神にあふれた運送会社の兄貴たち、保守的な体育会系の人間が多く、僕のような人間には少々息苦しい場所だ。付近には石油化学工場があるため、風向きによっては島全体がナイロンの焼けた匂いで覆い尽くされる。僕はそれを肺に送り込みながら通勤し、そして帰路に着く。お世辞にもいい所だとは言えない。

 2009年の〈タイコクラブ〉は、そんな埋立地で開かれるレイヴ・パーティだ。たぶん、ここに遊びに来る連中のほとんどが、幻想としてのゲトーを一時的に消費するだけなのかもしれない。しかし、僕にとってこの島はリアルだ。生活を支える、労働の場だ。工場萌え? くそったれ。とってつけたようなデトロイト勢のブッキングには素直に喜べず、心境は複雑だった。ただ都心から1時間足らずでアクセスできるこの会場は、連休が取れない僕のような人間でも容易く足を運べる場所だった。なによりも場所の近さが僕の欲求に答えてくれたのだ。

 〈メタモルフォーゼ〉がオリジナル世代たちの築いたパーティだとしたら、〈タイコクラブ〉は僕らの世代によるパーティと言えるかもしれない。僕らは、あらかじめレイヴという文化が存在して、それを選択することができて、ダンス・ミュージックを聴いて育った世代だ。「自分たちが行きたいパーティをやっていたら次第に大きくなっていった」とオーガナイザーのひとりの森田さんは語っていたが、シンプルなコンセプトと現場目線での人選のもと、〈タイコクラブ〉は着実な支持を集めている。地域と連携を取りながら、さまざまな現場で見てきたものを、自分たちに合ったやり方に上手く当てはめているようだ。商業ベースのパーティが増えているなか、〈タイコクラブ〉のチケット代はそれほど高くない。今回のパーティでも20代半ばの、比較的若い、純粋に音楽を楽しみに来た客層を中心に数千人を集めていた。

 原田知世はムームを従えマイペースに自分の音楽を楽しんでいるようだった。アイドルからアーティストへここまできれいに転身した例も少ないだろう。もし"のりピー"のまわりに金ではなくて音楽好きの友人がたくさんいて、彼女がザ・KLFの『Chill Out』やフェネスの『Endless summer』を聴いていたら話は違っていたかもしれない。

 ムームのライヴも素晴らしかった。会場全体が独特の温かい空気に包まれた。声高にフェスでの連帯を強調するロック・バンドとは趣は違う。ぎこちない演奏ながら、音響を通じてじわじわと観客を引き込んでいった。"Green Grass Of Tunnel"――いい響きではないか。

 00年代以降の代表的なライブ・バンドとして彼らはもっと評価されてもよいのでは。相対性理論のブッキングは若い世代に訴えかけるのには充分だったかもしれない。が、正直僕にはそのライヴは酷いものに思えた。とてもこうした野外でグルーヴが出せるようなバンドだとは思えなかった。メンバーのひとりが病欠だったためかもしれない。ただ、どうしても足を止めて聴いてしまう彼らの音楽は、今回のこの会場にも合っていなかったようにも思う。

 4チャンネルのシステムによるモノレイクのライヴは強烈なものだった。グルーヴはより柔軟になって、ダブステップまでも吸収して、さらなる展開を遂げていた。やっぱりこういった会場にはなによりもぶっといベースが必要だ。自分の体に染み付いているだけかもしれないが。

 僕にとってのベスト・アクトはカール・クレイグだった。"Movement 3"と同時に彼のブースから海に向かって発せられたレーザーは本当に美しかった。当初は、地元ってことでディスってやろうと思っていたが、新旧のクラシックを織り交ぜながら力強いDJには説得力があった。やっぱりテクノはSF的なヴィジョンが似合う。僕もいつしか自分のルサンチマンなど忘れて、すっかりレイヴを楽しんでいた。まあ、そんなもんだ。
 もちろん、朝方のセオ・パリッシュとジェームス・ホールデンのダンス対決もパーティ・アニマルにはたまらないものであった。

 会場では思いがけないほどたくさんの友人に会った。普段良く会う仲間からクラブやレイヴ会場でしか話したことがない連中まで、たくさんの友人や知り合い。こんな場所でこんなレイヴが開かれたおかげだ。

 一緒に〈NYE〉というパーティをオーガナイズしている弓J、〈ポテ恋ディスコ〉のクロ君、週末はお店で働いているから、パーティにはめったに顔を出さないショウ君、カール・クレイグの時間にはケンゴさん、そしてかつて〈YELLOW〉などでよく見かけた名前も知らない彼らにも。そのなかのひとりのリョウ君は横須賀で〈SHELL〉という名のDJバーをはじめたという。彼とは昔、〈メタモルフォーゼ〉で知り合った。大きなパーティでよく見る"アイツ"だった。彼のオーガナイズするパーティの噂は聞いていたが、遂に店を構えるまでになった。同じ時代に同じフロアで育った彼の話しは、まるで自分のことのように嬉しかった。久々の再会がたくさんあった。僕らのまわりは、かつてはあった集合の場所――つまりみんなで遊ぶ場所を失っていたのだろう。

 この時代、自分らが楽しめる場所を確保することは容易ではない。好きな音楽を大きな音で聴きたいというそれだけの欲望だが、それはそう簡単に許されるものではない。狭い国だ、仕方がない。そう考えると、今回〈タイコクラブ〉がみつけた川崎という場所には意外にも可能性があるかもしれない。僕自身も向ヶ丘遊園という場所でパーティをはじめた。これからだ。うまくやることは難しいが、やめるつもりはない。

 かつて〈キーエナジー〉で踊っていた先輩は、あるとき僕に向かってこう言った。「かつて、うちらには世界市民だという自覚があった。この文化が世界を変えると思っていた。いまこの文化をカウンターだと思っているやつなんているんだろうか?」

 たしかにカウンターだと思っている人間は少ないだろう。雑誌『ele-king』の創刊からはや15年、テクノやレイヴはもはや珍しくも新しくもない。ある意味ではレジャーのひとつだろう。どの町にも箱やDJバーがある。15年前にはそんなこと想像できなかったはずだ。それを思えば、この文化の裾野は着実にひろがっている。

 音楽会社や雑誌がつぶれこの文化の先行きに不安を感じている人もいるだろう。が、それほど騒ぐことでもないようにも思う。社会がいま難しいのだ。ちなみに2008年の中小企業の倒産率は過去最大。アメリカやイギリスと同じ社会状況になってこそ、ようやくこの文化の本質が考えられるようになったとも言えるんじゃないか。あの夏は本当にクソったれだったのだと、骨身に沁みて感じる。

 そして、僕は思う。この文化はいったいどれほどの金のない若者を救ってきたのだろう。大切なのは歩みをやめないことじゃないか。手を変え品を変え、あれこれ考えることだ。ある人はパーティをオーガナイズし、ある人は店をはじめ、僕はDJをする。世界を回すことによってじょじょに世界が変わっていくんじゃないかと思っている。あと15年したらきっとわかるんじゃないかな。

let us talk about a battery - ele-king

20年前にアンビエント・ハウスを開拓したアレックス・パターソン、それから20年後に『アンビエント・ミュージック 1969―2009』を上梓した三田格、そしてパターソン博士によって人生を変えられたホワイ・シープ?が一堂に会する。

 トーマス・フェルマンも同席するとは聞いてなかった。なんだよ。頭の中では「スキゾフレニア」が流れはじめる。はじめましての握手をすると、パレ・シャンブール「ヴィア・バウエン・アイネ・ノイエ・シュタット」を口ずさみたくなってくる。いや、そうと知ってれば、あの不可解な『ロウフロウ』(04)をもう一度、聴いてから来たのに。ダブリーと組んで西海岸のアンダーグラウンド・ヒップ・ホップにアプローチしようとしたのはなぜだったのか。翌年にリリースされたジ・オーブ『オーキー・ドーキー』とはあまりにも明暗が逆で、何がどうしてどこがどうなっていたのか、気になって仕方のないアルバムだったというのに。

 そして、対談の相手であるホワイ・シープ?がやって来ない。もう、かれこれ30分近く待たされている。まったく偉くなったものだよな。ホワイ・シープ?がジ・オーブを待たせるなんて。民主党が政権を取ったんだなと実感する時はこんな......いや。

 時間つなぎに僕はたまたま持っていた『アンビエント・ミュージック 1969―2009』をフェルマンにプレゼントする。在庫が少なくなっているので(つーか、版元は2週間で品切れです)、無闇と渡せる数はないのだけれど、こういう時にはやっぱり役に立つ。僕が持っていたレコードの袋を指差して何を買ったのか見せてというような人である。アレックス・パタースンは自分の写真を見て笑い転げているだけだったけれど、熱心にページをめくっていたフェルマンはハットフィールド&ザ・ノースを見つけて「これ、好きなんだよ」という。ああ、なるほど。モーリツ・フォン・オズワルドがイーノ/ハッセルなら、トーマス・フェルマンは帽子畑。ある意味、とてもわかりやすい。

 ホワイ・シープ?がついに駆け込んできた。入ってくるなりジ・オーブ『バグダッド・バッテリーズ』に収録されている「サバーバン・スモッグ」を聴きながら走ってきたと皆にアピールする。
「これは走るのにピッタリの曲ですね」
「ありがとう」とフェルマン。
「はあ、はあ、はあ......」
 最悪のスタートである。

 気を取り直そう。

「ラヴィン・ユー」の通称で親しまれたジ・オーブのデビュー・シングルがリリースされたのは1989年。「20周年、おめでとうございます」と僕がいうと、ご機嫌になるかと思いきや、アレックス・パタースンは頭痛薬を飲みはじめる。昨日、ステージから転落して足が痛い上に歯も痛むらしい。そして、しみじみと「よくここまでやってこれたと思うよ」と感慨深げに頷いている。ジ・オーブのファースト・アルバム『アドヴェンチャーズ・ビヨンド・ザ・ウルトラワールド』を聴いて「僕の人生は変わりました」とホワイ・シープ?がいうと「僕の人生もだよ」とパタースンが切り返す。「こんなことがポップ・ミュージックでできるとは思わなかった」とホワイ・シープ?が続け、しばらくは思い出話。「レーベルに2万ポンドやるから2週間でつくれといわれたんだ」とか、パタースンがその頃、働いていた〈EGレコーズ〉が関心を示さなかったから自分たちで〈ワウ!ミスター・モドー〉を立ち上げたというような話。詳しくは『アンビエント・ミュージック 1969―2009』を立ち読みでもして下さい。

 そして、一気に20年後の世界。

「『オーブセッション』は過去の発掘音源をリリースするためのシリーズだと思っていた」と僕がいうと、フェルマンが得意げに「ルールは破られるためにあるんだよ」という。『バグダッド・バッテリーズ』は新録にもかかわらず「オーブセション」の3作目としてリリースされている。「じゃー、次にどんなルールを破るんですか?」と訊ねると、フェルマンは「次はオペラに取り組むんだ」という。その時は冗談だと思っていたが、実はこれは本当のことで、すでに作業にも取り掛かっているらしい。「昨日の夜もテレビでオペラを観ていたんだ」

「『バグダッド・バッテリーズ』はいつになくシリアスですよね?」と僕が続けると、パタースンはやや困ったような面持ちで「『プラスティック・プラネット』という環境映画のためにつくった曲はそうだね。映画の性格に由来しているところはあると思う」といって、『オーブセッション ヴォリューム2』を指差し、「これはジャケットが紙」、『バグダッド・バッテリーズ』は「これはプラスティック」とだけいった。『プラスティック・プラネット』は人類がプラスティックをつくりはじめてから人間の精子が減りはじめているということを報告するドキュメンタリー映画で、このまま行くと人類は......という内容のものらしい。「必ずしも映画を観る必要はないよ。映画には使われているけれど、サウンドトラックというわけではないから」

 オープニングとエンディングはベイシック・デャンネル風。みんなでジャム・セッションをやっている最中にキリング・ジョークのポール・レイヴンが亡くなったという報せが入り、そのまま彼の追悼曲になったものもある。「レイヴンズ・リプライズ」である。

「バグダッド・バッテリーズ」というのは3000年前につくられていた電池のことで、でも、「この時期にバグダッドという地名を使うということは、やはり戦争のことが頭にはあったんでしょう?」と訊くと、パタースンは「ジ・オーブはユーモアを大切にするグループだからね。そうだとは言いたくないけれど、そんな昔から文明を持っていた地だということを知ってもらうことで何かしら考えてくれたらとは思うよね」と、積極的には話したがらない様子。「20年前にも『ピース・イン・ザ・ミドル・イースト』というシングルを変名でリリースしていましたよね?」と深追いすると、「ああいうことは変名でやるんだ。あの時は湾岸戦争だった」と、これも口数は多くない。そう、メッセージの投げ方は婉曲的だけど、「バグダッド・バッテリーズ」や「ウッドラーキング」はとてもファンタスティックな曲で、それゆえにとても考えさせられる。ちなみに最近の遺跡調査の結果、チグリス・ユーフラテス文明はかなり高度な民主主義のシステムを有していたこともわかっている。

 後半はホワイ・シープ?との対談で僕はほとんど口を挟まなかった。そちらの方は動画でご覧下さい。ヴォイス・サンプルにこだわるホワイ・シープ?は真面目な顔で「ユーモア、ユーモア」と繰り返し、ジ・オーブはユーモラスな語り口で真面目な話をしてくれたという感じだろうか。そして、アレックス・パタースンは収録が終わってからどんどんユーモラスなキャラクターに変身し、1時間後には手のつけられない怪物と化していた! どこが歯が痛いって! ごぼう! ごぼう! ...って、そう叫んだかと思うといきなり観はじめたユーチューブがもはやなんだかさっぱりわからないし!

空間現代 - ele-king

 単音のギター・フレーズをサン・シティ・ガールズ的だとかいってみたり、重めのベースをノーウェイヴ(意外にDNAとか)・リヴァイヴァルにみたてたり、クリックを意識したドラムにsimをもちだしたり、歌とギターのユニゾンに「あぶらだこかな?」と呟いてみたり、『空間現代』にはなにかを彷彿させる瞬間は多々あるのだけど、総合してその彷彿したものと彼らが似ているかと問われると「はて?」と困る。彼らはマス・ロック以後のトレンドに同期した00年代の感性で複雑巧緻な曲想をタイトに演奏するものの、ギター(と歌)とベースとドラムスは楽曲の(時)空間に入れ替わり立ち替わり顔をだすだけで、三者がピッタリと重なる瞬間は全体の何割にも満たない。私は協和音や安定したリズムに「解決」するのを拒む姿勢が空間現代にはあって、その「解決」への抵抗は今日的だとおもうし、ノイズやクラブ・ミュージックの楽理的でない音が日常になった90年代以降の磁場をもう一度反転させたというか、屈折の屈折が表につきぬけたようなあっけらかんとした佇まいを音に感じます。15年前なら「違和」として成立していた表現が15年後には「宥和」を経た上でポップとして現れざるを得ない状況をさして「マイクロ・ポップ」と名指せるのだとしたら(ちがう?)、トリオ編成のロック・バンドというどこにでも転がってる形式を選択した空間現代はHOSEや相対性理論と同一直線上に位置するバンドであり、私は彼らのダジャレめいたネーミング・センスもふくめ、こういったバンドがいまの東京のアンダーグラウンドに多数存在しているような気がしてならない。

 私はここまで音を聴いた印象で書いてきたが送られてきた資料に野口順哉の解説があった。野口順哉(G、Vo)、古谷野康輔(B)、山田英晶(Dr)で2006年に結成した空間現代は元は「普通のロックあるいはパンク・ソングを作っていた」のだが「聴く音楽の幅が広がるにつれ次第と作る音楽にも変化起きてきました。より複雑に、より変な、何かが狂っているような珍妙な音楽を作りたいと思う様に」なったという。細かい楽曲解説は読者が本作を手にしたときの楽しみにとっておきますが、それを読む限り、私が一聴して感じた彼らのアイデアへの執着と、執着を実現するためのディシプリンは想像以上に高度だった。ズレを意思の力で貫くこと、互いに触発しあわないこと、しかし技術は放棄しないこと(彼らは細部はまだあらいとろこもあるが)。ポストモダンへのメタ批評っていい方はなにもいってないに等しいが、もっとも早いアートフォームであるポピュラー音楽はこうやって何度目かの死をむかえ、再生するのだろう。

Lightning Bolt - ele-king

 2009年11月15日、DMBQの演奏が終わった〈新代田フィーヴァー〉のフロアから数十人の客が押しだされるようにエントランスにあふれ、場内の熱気がここまでたちこめた。DMBQのステージを饒舌に語り、その前に演奏したインキャパシタンツとサーファーズ・オブ・ロマンチカに言及したかとおもえば、久しぶりに会った友人と肩を叩きあい近況を語りあう彼らの上気した顔はフットサルを一試合終えたかのように上気していて、汗の匂いの混ざった人いきれはライヴハウスよりもスポーツ会場のそれにちかいと思ったのは、私がビザの問題で中止になった3年前の来日公演の2年前に渋谷の〈O-NEST〉で見たライトニング・ボルトのライヴの印象をそこに重ねていたせいだろう。

 00年代のオルタナティヴ・シーンはその前半は90年代の圏域にあって、テクノからエレクトロニカへの生成変化をダンス・ミュージック・シーンのトピックだとすると、誰もが当時はサブジャンルの増殖が音楽史の要請というかリニアな歴史の必然(?)だと思っていたが、小泉政権下の平板化した価値観と対立したサブカルチャーに、どこかゆっくりと停滞していく感を抱いていていなくはなかったか? オルタナティヴ・ミュージックも例外ではなく、ライトニング・ボルトは94年に結成した私と同世代のバンドだから、97年のファースト『Lightning Bolt』のサイケデリックなトリップ・ミュージックには90年代のジャンクやノイズの残像がつきまとっていたし、ドラムとベースのアクロバチックな対比をコンポーズしたセカンド『Ride The Skies』(00年)からもメルト・バナナやルインズと似たコンビネーションが透けて見えて、スリリングだが完全に新しいとは思えなかった。私は当時の彼らの音楽はテンション――緊張感という意味とともに楽音と雑音のボーダーを志向するテンション・ノートの含意もある――があふれていて、彼らは即興演奏と同じスタンスで演奏に向きあっていたのではないかと思う。フリー・ジャズかフリー・インプロヴィゼーションかという問いの繰り返しになる気がするが、丁々発止の演奏の弁証法は意外にクセモノで、最後にはカタルシスに昇華する演奏は類型化しがちだったりする。それを回避するためにデレク・ベイリーはノン・イディオマチックなフレーズをノン・エフェクトで演奏する方法を選んだわけだし、ノイズ・ミュージックは五線譜をトーンクラスターで塗りつぶすことであらがった。ライトニング・ボルトはファースト以降、「即興的」なメソッドから切りかわった印象をもたせながら、ブライアン・チッペンデイルとブライアン・ギブソンには00年代にはいってしばらくはまだ引き出しがあったはずだ。それはなにを指すかといえば、プレイヤーに染みついた手クセ......といって悪ければフレーズやリズムのストックみたいなもので、互いに手札を切り合うふたりの関係がライトニング・ボルトのテンションに担保していたのではないかと彼らのキャリアを振り返ると思える。批判でなくそれはアートスクールの学生バンドだった彼らがどうやってライヴにインパクトをもたせるか直感的に導き出した道だったはずで、四の五のいわず彼らのライヴに足を運んだ誰もが体感することだと、二度目の来日公演(04年)でできたモッシュ・ピットのなかにいた私は思う。そのときもフロアでうねる人の波の中央でライトニング・ボルトは汗を飛び散らせて演奏していた。彼らの様子をこの目におさめるにはモッシュのうねりに踏みこまなければならない。そこにはダンス・ミュージックとハードコアの邂逅が起こったこの国の00年代DIYカルチャーへの米国からのアンサーの趣さえあった。

 数年前のライヴは90年代から00年代へのシフトを印象づけた――彼らは結成当初からずっとそんな感じだから自覚なんてないだろう――けど、一方で反論の余地のない圧倒的な肉体性はそこに注視するあまり音楽性の移り変わりに向ける目を曇らせた。私は『Earthly Delights』のライナーで「高いピッチにチューニングしたドラムスと、トリッキーなベースによるリフでストップ&ゴーをくりかえす構築方法に作品ごとの異同はない」と書いた。私は今回のライヴでそれを追認するだろうと高を括っていた節がなくもなかった。エントランスからライヴ・スペースに戻るとフロアにしつらえられたドラム・セットのまわりには人垣ができていた。人垣はすでに前のめりだった。私は今回は後方に構えていた。演奏がはじまると、客同士は肩をぶつけあいモッシュがはじまった。彼らの姿はここから見えない。私はしずかに演奏に聴き入っていたが、そのうち身体を揺する衝動に勝ってドラムスとベースの最小単位のユニットが繰り出す音の重なりに耳を奪われた、むかし(?)のいい方でいうとロックされたっていうの? 平面だと思っていた絵が立体にみえたというか、演奏の奥行きは肉体性の発露と拮抗したインナーなトリップ感をもっていた。前方の人壁を眺めていた私の視界の右から左へ塩田正幸が担ぎ上げられ横切っていった。私は終盤にむかう演奏を聴きながら、彼らはライヴ・バンド然としたパフォーマンスの土台にある音楽性を進化させ、リフ(レイン)の組み合わせで構築した楽曲に演奏の成熟度が垂直のレイヤー構造とも和声的な厚みを加えてきて、4作目の『Hyper Magic Mountain』(05年)で音が変わったと思ったのは音質がよくなったせいだけでなく、両ブライアンの音楽に向かうスタンスが変わったせいじゃないかと自問しはじめた。そこにはスポーティなまでのテクニックのせめぎあいから音楽の有機的な結びつきへのたしかな「異同」があり、『Hyper~』を経て、『Earthly Delights』で彼らはオルタナティヴ・ミュージックの90Sから00Sへの微細だがしかし見過ごせない変化を推し進めてきた。

Pablo - ele-king

 スコットランドはグラスゴーのターンテーブリスト、マイケル・ハンターによるデビュー・アルバム(CD2枚組)で、地元の硬派レーベル〈ソーマ〉からのリリース。ハンターは、マニアのあいだではそれなりに名が通っていて(しかし......どう考えてもこれはジャズ・ヒップホップじゃないでしょ!)、すでにヨーロッパでは、13年前のDJシャドウによる『エンドトロデューシング』を引き合いにバズが起きている。実際の話、ハンターはシャドウのように、ピーナッツ・バター・ウルフのように、古いソウルやジャズ、あるいはサウンドトラックを蒐集してはリサイクルする。ジ・アヴァランチーズのように、ナールズ・バークレーのように、それらを機械に通してノスタルジック・ポップスへと変換する。
 "Sing"のようなアップビートなジャズを聴いていると、ぐるぐる回る7インチ・シングルが目に浮かぶ。"Fairchild "のようなグルーヴィーなファンクを聴いていると、70年代のアメリカにトリップしたような気分になる。"Sky Is High"はナイトメアズ・オン・ワックスのソウルフルなダウンテンポだ。"'The Story Of Sampling"は、この手の音楽のテーマ曲である。ラッパーは、その曲名の通り、サンプリング音楽における講釈をたれる。言葉がわかれば相当面白いらしいが、仕方ない。
 CD1枚目の最後に収録されている"High Jazz"は、いまのところこの人の最大のヒット曲で、このアルバムのハイライトでもある。美しいジャズ・ピアノを、アルト・サックスの音色を、20年前のコールドカットのようにカット&ペーストする。エレガントなこのトラックは、60年代/70年代のアメリカのブラック・ミュージックへの憧れの旅を締めくくるのに相応しいと言える。
 そんなわけで、心配しなくて大丈夫、あなたはすっかり時間の経過を忘れるでしょう。ディス・イズ・ア・ジャーニー......。

Matias Aguayo - ele-king

 ミニマルの将来だって? 知ったこっちゃないわよ。昨年のシングル「ミニマル」(DJコーツェによるリミックスを含む)によってヒットを飛ばしたチリ人で、かつてクローザー・ミュージックのひとりとして活動しながら、初期〈コンパクト〉の名声にも一役買っていたマティアス・アグアーヨは、しかしミニマルが同じところをぐるぐる回っている事態を許さない。2005年の『Are You Really Lost』以来のセカンド・アルバムとなる本作は、おおよそスペイン語の声だけで作られたミニマルである。15歳の石野卓球も同じことをしていた。高校1年生の彼は、自分の声をボスのギター用のコンパクト・サンプラーに取り込んでループさせ、その上にシンセをかぶせながらデペッシュ・モードの"ニュー・ライフ"をカヴァーしていた。あの時代とは、機材も状況もぜんぜん違う。で、可笑しいのが、アグアーヨがこのアルバムで展開している"実験"は、どうにもテクノ・ポップめいていることなのだ。声のサンプルを楽器代わりに使うという発想が、まあ、80年代的ではある。

 シングル・カットされている"Rollerskate"は良くできたポップ・ミニマルで、男の低い声と女の声が絶妙に交わっているトラックにディスコ・ソングが乗っかる。〈コンパクト〉らしい無邪気な音楽だ。"Ritmo Tres"は『ピッチフォーク』によれば「トーキング・ヘッズ・オン・E」だそうで、まあ、「ミニマル」もそうだったが、たしかにそのアフロビートはテクノ・サウンドのなかで咀嚼され、ユーフォリックに変換されている。僕はこの人のフェイクなエキゾティズムが気に入っていて、だから僕に言わせれば「マーティン・デニー・オン・E」となる。アルバム最後の曲"Juanita"は、ケルンのクラブとポリネシアの海岸を繋いでいるようだ。一瞬、何か騙されたような気持ちになるかもしれないが、しばらくすれば心地よくなる。ユーフォリックに変換されているから。"Koro Koro"も好きな曲のひとつ。これはまるで......リオの海岸でクラフトワークがサンバを演奏しているようだ。

 だいたいiTUNESでこのアルバムを取り込むと、ジャンルは"Easy Listening"となる。まあ、たしかにそうかもな~。

Stash 60 - ele-king

 『Stash』は世界的にも珍しい、モーション・グラフィックスやミュージック・ビデオ、CG、ショートフィルム、テレビCMなど最新の映像を紹介する月刊のDVDマガジンで、今回の号が発刊60号そして5周年を記念したものとなる。『Stash』が04年にスタートした当初は、まだYoutubeがこの世に存在していなかった。つまり、まだ世界には革命が起きてなくて、国境やNTSCだのPALだの放送方式の違い、そんなものを意識する必要があった。映像系のフェスに行くとか、NHKあたりで特集が組まれるのをじっと待つか、そうでなければこういうソフトで見るしか、海外の映像に触れる機会はなかなかなかったのだ。

 実際にサーチしたわけじゃないが、ここに収録されているようなレア映像もほとんどはネット上で見られるだろう。では、パッケージ・ソフトとしての本作の意義は何かと考えたとき、彼らが使っている"キュレーション"というタームが形容するような映像のセレクションとプレゼンテーションの形にそれが存在すると言えるのではないか。作家のクレジットや放送媒体などの情報だけでなく、制作の背景や使用ソフトなど、プロや学生はもとより、コアな映像マニアもすごく興味のあるだろう情報を網羅したブックレットがつくのも嬉しい。輸入盤なので、残念ながらテキストはすべて英語だが、それでも解読する価値のあるものだ。

 2枚組のスペシャルな号となった今回のイシューでは、シャイノーラの監督したコールドプレイの"ストロベリー・スウィング"のMVが目玉のひとつだろう。巨大黒板に描かれたチョーク画とその上で演技する人物(メンバーのクリス・マーティン)を上空のカメラで撮影してストップモーション・アニメに仕上げたという壮大すぎる作品は、なんと制作に3ヶ月もかかったそうだ。

 また、リーマン・ショック後の世界を象徴するようにCMの数は少ないし、ゴージャスなものが見られるわけでもないが、飛び出す絵本を模したフォードのCGアニメのCMやドイツの電力会社の巨大モンスター・キャラを起用したピクサー風ファンタジー仕立てのもの、またタイポとグラフィック表現の変化で多彩な読み物のジャンルをヴィジュアル化したメルボルン作家フェスのモーション・グラフィックCMなどは、素晴らしい。日本では、誰も積極的に広告を出さなくなって貧乏くさいCMばかりになってしまった現状と比べたら、創意工夫やつきない表現意欲を感じるものばかりだ。

 また安価で高性能のPCと使いやすいソフトのおかげで、時間とアイデアさえあれば素人でもずば抜けた作品が作れることの証左のように、学生制作のショートフィルムがすごいことになっている。特に、日本のアニメに影響を受けたようなタッチのものは、そのスーパーフラットな質感と、作り手が備えた独特の視点がうまくブレンドされて、日本の商業アニメには絶対にない世界を描出。その出来の良さには唸ってしまう。マッドハウスと4℃が合作したような近未来SFの『La Main Des Maitres』はフランスの学生。独特のタッチとパースが湯浅政明の『マインド・ゲーム』や『ケモノヅメ』を思わせる『Inside/Out』はイスラエルの学生の作品だ。彼らが潤沢な予算とプロダクションを得て、商業制作したらと思うと、末恐ろしい。不況のおかげでこういった学生の作品にもスポットが当たるようになったのは、間違いなく苦しい状況にあるだろう映像業界において怪我の功名なのかも。

Fuckpony - ele-king

 06年のデビュー作では、アーティスト写真もプロフィールもデュオとして打ち出していて、それはリリース元の〈ゲット・フィジカル〉の意向もあったのかもしれない。後に"Heater"という07年最大のヒットを放って大躍進するSamimとのジョーク・ユニットとしてのファックポニーは一作で役目を終え、その後はジェイ・ヘイズのソロとして再起動する。しかも、新たな活動拠点となったのはベルリンの女番長エレンの〈ビッチ・コントロール〉だ。

 そもそも本プロジェクトの根幹はソウルで、P・ファンクとプリンスからの影響をハウスに融合させようとするというものだとプレス資料に書かれていて、マジか?と耳を疑うひとも多いかもしれない。なにせ、前作はおふざけだったのか、本気でやっても技術が追いつかなかったのか、チープなオールドスクール・ハウスにところどころ歌で味付けした、といような印象だった。たしかにベンドする怪しいシンセとか、妙なヴォーカルとか、いま聴き直すとあぁそうかと納得いく部分も多いが、音だけではそういうアプローチというのは伝わらないレヴェルだったと言わざるをえない。フィラデルフィア出身でソウルやファンク、ヒップホップにも強い影響を受けているという彼のバイオを再確認すると、同郷のジョシュ・ウィンクのことも思い出される。そういえばヤツもかつて多作な割にいろいろ迷走してたよなぁ......。

 さて、本作はいきなりかつてのブラック・ドッグとかのデトロイト・フォロワーを彷彿とさせるメランコリックな響きのシンセが絡みあう"R U Feeling Abroad"でスタートする。つづく2曲目も変調されたヴォーカルは入ってくるが、同路線。これは、本気だぞ......というかまた趣旨変更か、と思わせて、3曲目ではケーラ・サイモンのソウルフルなヴォーカルが思いっきりフィーチャーされ、いきなりピンクのライトが照らされるようなハウスの世界へと一変する。中盤はやはりハウシーなのだ。しかし、前作より音数を減らしてみたり、ボンゴやピアノといったシンプルでコンベンショナルな楽器にフォーカスを絞って曲を組み立てることによって、ただヴィンテージ感を出してみたというジーンズ屋じゃねーんだからというような印象にも陥っていない。

 そしてやはり後半は再度メランコリー漂う世界に再度舞い戻って、ゆっくりと幕を下ろしていく。別にノスタルジーに浸りたいわけでもないし、いまさらそういう音を積極的に聞きたいと思っていたわけでもないが、まるで〈ワープ〉の『Artificial Intelligence 2』に収録されてても違和感がないぞという"Always Sunday"とか、やはりぐっと来てしまう。なんだろう、この切なくなるような甘酸っぱいものがこみあげてくる感じ。ミニマルの最前線で戦ってきたトップDJのひとりが、ここに来たかっていうのは非常に興味深くもあり、流行のループを感じるようでもあり。

 蛇足ながら、コンゴの戦争被害者を救済する目的でチャリティー活動、さらに踏み込んだ政治的活動にも足を突っ込んでいる彼、まぁ作品とはあまり関係ないとはいえ、「ホントの愛は永遠」「土曜の夜のフロアでイク」「触っちゃだめよ見るだけならいくらでもいいわよ」とかアホ丸出しのタイトルはどうなんだ、と思ってしまう。LOVEうんぬんを取材でも語ってるわけだけど、なんか全部嘘っぽく聞こえるんだよね。

intervew with 2562 - ele-king

正直言うけど、ミニマル・テクノにはいっさい肩入れしたことはないんだ。それよりも僕はソウルフルなデトロイト、あるいは生でディープなハウスを好む。

 去る11月17日、代田橋の〈FEVER〉に七尾旅人のライヴを聴きに行ったとき、偶然にも中原昌也と会って、その雑談の途中、なぜか話が2562のセカンド・アルバムに......。そうです、いまではすっかりオランダのダブステッパーとして認知されてしまったデイヴ・ハイスマンスによるダブステップ・プロジェクト、2562のセカンド・アルバム『アンバランス(Unbalance)』が本当に面白い。

 1年前の、2562名義によるファースト・アルバム『エイリエル(Aerial)』は、欧米でも日本でも「ダブステップとミニマル・テクノとの出会い」と評価されたものだけど、どうやらこのオランダ人はそれが気にくわなかったらしい。以下、簡単ではあるけれど、来日前に彼にメール・インタヴューを試みて、いろいろわかった。あー、そうか、それで今回の新作『アンバランス』は、解釈の仕方によっては、音に酔うことを拒んでいるようにさえ聴こえるのだ。

 それはファーストとは全然違うし、同じオランダ人で、同じようにハウス/テクノからの影響をダブステップに混ぜるマーティンの、今年出たファースト・アルバムとも全然違う。マーティンの耳障りの良いダブステップ・ハウスと比較して、2562のほうはまさにバランスを失っているようだ。が、それは際どいところでデトロイティシュなファンクとして成立している。ダンス・ミュージックとして踊れるけれど、関節を逆に曲げてしまいそうである。

 とにかく、シングルとして先行リリースされた「Love In Outer Space」が象徴している。人はこのトラックを聴いて、まさかこれがダブステップだとは思わないだろう。強いてジャンル分けするなら、テクノが妥当だ。僕ならモデル500あたりのエレクトロの近くに並べる。とはいえ、それでもこのグルーヴ――ややつんのめるような、もたついたビート感覚は確実にダブステップ以降のものではある。そしてそれはクラウトロックのように真っ直ぐ進んでいく感覚ではなく、やたら曲がりくねったりしうながら進んでいるのか戻っているのかよくわからない感覚......、関節を逆に曲げて踊ってしまいそうな......。
 手短に言えばエレクトロ・スペース・ファンク、ただしものすごくユニークなそれ......である。

こんにちわ、このメール取材を受け入れてくれたありがとう。最近はDJで忙しい?

秋はホントに忙しかったよ。数週間前にオーストラリア・ツアーから戻ってきたばかりなんだ。その前は、イギリスでもずいぶんとプレイしたな。こんど日本でやるギグが今年最後になる予定だ(注:取材は来日前にしている)。12月は家でリラックスしながら、新しい作品を作りたいと思っている。

僕は一度だけデンハーグに行ったことがあるよ。クリーンな町だったという印象を持っているんだけど。

ホント? きっと天気が良かったんだね(注:実際に良かった)。僕はあの町が好きだけど、同時に、ちょっと退屈で灰色な感じにも思うんだ。でもそれが良いことでもある。あまり面白味のない町だから、自分のことに集中できるんだよ。

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そもそもあなたはどうやって音楽のシーンに入ったの?

基本的に、ダンス・ミュージックが好きなんだ。ひとつの種類の音楽だけを聴いてきたわけじゃないけどね、ダンス・ミュージックは10代の頃からずっと好きだった。90年代初頭にハウスにハマって......だけどプロダクションを覚えたのはずいぶん遅くて、わずか6年前さ。僕は心底音楽を作りたいって思っている、それも以前にはないような新しいものをね。で、ダブステップにもその過程で出会ったんだよ。とても興味を抱いた、2005年ぐらいだったかな、シーンのなかに多くの実験が繰り広げられていたんだ。でもね、ハウスとテクノがいまでも僕のホームだ、自分ではそう思っている。

何歳ですか?

30歳。

2562って名義は......?

ハーグで昔住んでいた僕のエリアコード。もう引っ越してしまったけど、その家の部屋でずいぶんと音楽を作った。アルバム(Unbalance)に収録した"Narita(成田)"がその家で仕上げた最後のトラックだったな。1年前に日本に来たときに作りはじめた曲なんだよ。

A Made Up Sound名義とDogdaze名義について教えて。

A Made Up Soundは僕のなかでもっとも長いプロジェクト。僕にとってまさにハウスやテクノといったエレクトロニック・オリエンティッドな音楽をやるときの名義だ。2562はベース・ミュージック。このふたつの名義の作品はたまに近づくことがある、だけど僕のなかでは明白に分けて考えている。Dogdaze名義はサンプル主体のプロジェクトだったけど、もうこの名前は使わない。2562の新しいアルバムのなかでその名残りが聴けるよ。

ブリストルの〈テクトニック〉からリリースすることになった経緯を教えてください。

〈テクトニック〉が、僕が最初に2562の音源を送ったレーベルなんだ。何故かと言えば、僕は彼らの音が大好きだから。ここ2年、2562は〈テクトニック〉から出している。レーベルをやってるピンチも最高のヤツだし、他のレーベルを探すなんて考えられないね。

2562が出てきたときダブステップとミニマル・テクノの混合だってみんな評価したよね、そのあたりのバックグラウンドについて話してください。

正直に言うけど、ミニマル・テクノにはいっさい肩入れしたことはないんだ。それよりも僕はソウルフルなデトロイト、あるいは生でディープなハウスを好む。90年代半ば以降はドラムンベースやブロークンビーツも好きだった。〈メタルヘッズ〉や〈リーンフォースド〉......というかそのシーンのすべてが。

あなたのシングル「Love In Outer Space」がホントに好きでね、この音楽からはデトロイティッシュなフィーリングを感じましたよ。モデル500、UR、カール・クレイグ......。

それは、ありがとう。実際のところ、このトラックは2年前にエレクトロ/テクノのトラックとして作りはじめたんだよ。しばらく放っておいて、こないだの夏に完成させた。デトロイト・テクノは大好きだ。90年代、僕はまだ若過ぎて、それをリアルタイムで聴いていなかった。だから、追体験したんだよ。デトロイトはテクノのルーツだ。だから、テクノに影響される――それはデトロイトに影響されるってことを意味するんじゃないのかな。

セカンド・アルバム『Unbalance』のコンセプトについて訊きたいんだけど。

アルバムは『Aerial』が出る前から作りはじめている。あのアルバムが出たとき、実はまったく嬉しくなくて、もうとにかく新しいことをやりたかっただけなんだよ。正直言って、作りはじめたときはコンセプトはなかった。わかっていたことと言えば、自分が何か違うことをやりたがっていたこと。そのひとつの例が、昔自分がやっていたサンプル主体の音作りだったりするんだ。

タイトルを『Unbalance』としたのは?

最初にそのタイトルの曲ができたんだ。アルバムの多くのトラックは僕に落ち着きのなさを与え、その言葉がアルバムのタイトルにするに相応しいと思った。自分の音楽について心理学的な説明をするのは好きじゃないけど、たとえばの話をしよう。ある日突然自分の作品が世間から注目されて、毎週末ギグ(DJ)のために飛行機に乗るような生活になってしまう。それはその人の人生にものすごいインパクを与えてしまうものなんだよ......。

マーティン(Martyn)は古い友だち?

彼の音楽は大好きだよ。

ふたりとも似ていると思うんだけど。つまり、ハウス/テクノからの影響をダブステップに混ぜているという点が。

知り合ったのはこの2年。音楽を通じて知り合ったんだよ。彼の音楽は本当によく聴いている。人が僕たちふたりを比べたがるのはわかるよ。同じオランダ人だし、同じようにハウスとテクノが好きだし、似ていると感じるのはわかるんだけど、僕自身はまったく別物だと思っているんだ。だいたい彼のほうが僕なんかよりもメロディアスだし、キャッチーなフックがあるでしょ。ハハハハ。

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あなたの音楽でもっとも大切なものは?

作った音楽による。クラブ・トラックならグルーヴとエナジーをもっとも大切にする。アルバムにおいては物語性を重視するよ。音楽が語り出して、聴き手を最後まで惹きつけていく、それが僕の目指すところだ。おそらく緊張感はそのために必要なんだ。ただし、リスナーに感情を押しつけるようなことはしたくない。むしろ自由に解釈できる余白を残しておきたい。

おそらく人は、いまでもダブステップを内向的でダークな音楽だと思っています。しかし、現実的にはダブステップは加速的に多様化しています。ダブステップの将来に関するあなたの意見を聞かせてください。

僕は最近は、ダブステップに関してはそれほど注意を払っていないんだ。だから将来については何とも言えないな。ただ、最近はとても多くの興味深いベース・ミュージックが出ているように思う。それらはどんなカテゴリーにも当てはまらない類のものだ。それは実に健康的なことだよ。そしてそこには多くの実験が繰り広げられている。本当に早く、再び、ことが動いているんだ。

 2562のセカンド・アルバム『アンバランス』を聴いていると、いちど売れてしまったことでなおさら彼のなかの欲望が増幅したことを感じる。今年彼がA Made Up Sound名義で出したシングルも良さそうなんだよな~。本当は、僕はシングル「Love In Outer Space」のB面が好きなのだ。アルバム未収録のその曲"Third Wave"は、はっきり言ってデトロイト・テクノそのもの、実に格好良く決まっている。

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