「Low」と一致するもの

編集後記(2018年7月6日) - ele-king

 ロンドンの高橋勇人からはいっこうにレヴュー原稿(NONのコンピ/sound patrol原稿)が送られてこないけれど、先日ロンドンの坂本麻理子さんから以下のようなリンクが送られてきた。

https://www.theguardian.com/football/live/2018/jul/02/world-cup-2018-japanese-language-liveblog-japan-belgium-last-16

 日本ではあまり知られてないが、今回ガーディアンはW杯特設ページにて、すべての日本戦を(もちろんイギリス人が)日本語で実況していたのである。リンクを読んでくれればわかるように、なかなか熱い。この実況者、世間から非難を浴びたポーランド戦も感情的にはかんぜんに日本の側だ。

 https://www.theguardian.com/football/live/2018/jun/28/2018w

 日本戦の実況をイギリス人の日本語で読むというのも21世紀的で面白いといえば面白い。ベルギー戦で、あんなルカクのような怪物がいるチームを(マリーシア=ずる賢さ、ナシで)ギリギリまで追い詰めた日本代表は、いっきに国際的な評価を高めたけれど、じっさい、いままでW杯で日本が評価されたことといえば、サポーターが席をたつときゴミを持って帰るだとか、そんなことぐらいだったので、今回の評価というか、試合を通じて世界にインパクトを残せたというのはほとんど初めてのことだったんじゃないだろうか。

 音楽の世界でも、今世紀に入って日本の音楽がいままで以上に、エキゾティシズムとしてではなく純粋に作品として評価されてきていると言われている。が、そのひとつの発火点に、たとえばWIREのような左翼系知識人が関わっているメディアが、おそらく英米中心主義に対するアンチも込めてだろう、それ以外の文化圏の音楽を積極的に取り上げ続けていることがあると思う。日本だけが評価されはじめたわけではない。同じように、東南アジアも南米もアフリカもオセアニアもカナダも中東も。
 しかしながら、たとえば昨日挙げたイタリアのテクノのコンピレーションの参加アーティストのほとんどがUK(ないしはNYないしはベルリン)のレーベルから作品を出している。これは、アンダーグラウンドのシーンにおいて長い時間をかけて培われてきたものがあるからだろうな。

 W杯の事実上の決勝戦というのは、だいたいベスト8からベスト4あたりにあるものだ。今夜……というか深夜から朝方にかけての2試合は、そんなような試合だ。今大会のひとつの山場だろう。盛り上がりたい人は、ON-Uサウンドとシュガーヒル(オールドスクール・ヒップホップのリズム隊)との融合体、タックヘッドによる1987年のこの曲を聴いて気合いを入れましょう。

Tackhead - The Game

ブリグズビー・ベア - ele-king

 日本では現状、ロマン・ポランスキーの『告白小説、その結末』やウディ・アレンの『女と男の観覧車』は問題なく公開されているようだが、アメリカでは今後ふたりの作品を観ることはますます難しくなっていくだろう。養女の性的虐待疑惑から多くの俳優たちに「今後は出演しない」と言われているウディ・アレン、70年代の少女への淫行でアカデミーから追放されたロマン・ポランスキー。とくに厄介なのはポランスキーで、彼の過去の作品には未成年のセックスがモチーフとして入りこんでいるものもある。#MeToo以降の世界で彼らの新たな作品が成立しにくいのはともかく、かつての「名作」たちもまた封印されていくのだろうか。
 表現の作者と作品をどの程度切り離して考えるべきかというのはいま盛んにおこなわれている議論で、大ざっぱに言うとポリティカル・コレクトネス的価値観からアメリカはより作者のありように厳しくなり、ヨーロッパがそれに抵抗している……という図式があるにはある。が、アメリカもまた、Spotifyから「ヘイトコンテンツ」に当たるとされる楽曲が削除されたことに対しケンドリック・ラマーらミュージシャン陣が表立って反発するなど、一筋縄ではいかない様相となっている。たしかに、表現者が清廉潔白でなければならない世界は窮屈だし、ましてや表現の中身が当たり障りのないものばかりになってしまっては本末転倒だろう。表現規制に抵抗する勢力が台頭し始めているということだろうか。いずれにせよ、いま、ポリティカル・コレクトネスと表現の自由、そして作者の振る舞いと作品の関連性についてより時代に合った枠組が模索されており、多くの人間がそのことに頭を抱えている。

 現在アメリカのなかで、こうした議論にもっとも敏感なのはコメディアンたちだろう。大人気コメディ番組〈サタデー・ナイト・ライヴ〉出身のチームで制作された『ブリグズビー・ベア』を見ても、ある表現(今風に「コンテンツ」といったほうが適切かもしれない)が作者とどの程度紐づけられるべきなのか考えていることがわかる。主人公の青年ジェームズは外界から隔離されたシェルターで暮らしており、両親に愛されて育ったものの自由はなく、唯一の楽しみはクマのキャラクターが冒険をしながら数学や日々の生活のルールを教えてくれる教育番組〈ブリグズビー・ベア〉だった。が、あるとき警察がやって来て両親は逮捕されてしまう。ジェームズが「両親」だと思っていたのは彼を赤ん坊のときに攫った誘拐犯であり、信じてきた世界はすべて嘘で、彼が大好きな〈ブリグズビー・ベア〉ですら偽の父親がジェームズのために作っていたものだった……。そして物語は、ジェームズが本当の両親に迎え入れられ、「リアル」の世界にどうやって馴染んでいくか模索していくところから動き出す。
 そこで鍵になるのが〈ブリグズビー・ベア〉、つまり犯罪者が作ったコンテンツなのである。ジェームズは番組への愛を語ることでギークの友人を作り、その続きを制作することで「リアル」の世界での生き甲斐や人間関係を構築していく。が、本当の両親からすると〈ブリグズビー・ベア〉は犯罪者どもが作った忌まわしい呪いでしかなく、見ようによってはジェームズはストックホルム症候群を引き起こしているとも言える。映画はそうした葛藤を経て、〈ブリグズビー・ベア〉という作品そのものの力でジェームズの新たな人生を祝福しようとする……たとえ犯罪者が作ったものであろうとも作品の価値はあると、ひとまずそうした結論の映画だと言えるだろう。なかでも、ジェームズが〈ブリグズビー・ベア〉の制作のために、原作者でありかつての「父親」(しかも演じるのがマーク・ハミル=ルーク・スカイウォーカーという、世界中に愛された「嘘の人物」である!)と向き合う場面は本作でもっとも美しい瞬間だ。

 ひとつ思うのは、こうした議論で表現の自由派はしばしば「作者と作品はまったく別物である」と主張するが、そんなに単純に割り切れるものではないということだ。少なくとも本作はその地点に問題を矮小化してしまっていない。YouTubeにアップされた〈ブリグズビー・ベア〉はヴァイラル的にヒットするのだが、その人気の理由は作品の力「のみ」ではどうやらなさそうである。サイケデリックでシュールな教育番組はそのカルト的な佇まいからひとを惹きつけるが、と同時に、犯罪者が偽物の息子への愛情から作ったものであるという「作品背景」がフックになっていることが示唆される。〈ブリグズビー・ベア〉が世のなかに受け入れられるのは、そこに何だかんだ言って愛情がこめられていたからだし、だからこそジェームズも作品を通して「リアル」の世界と交流できたという描かれ方である。
 しかしながら、もし仮に、偽の両親が性的虐待をジェームズにおこなっていたら〈ブリグズビー・ベア〉はどう描かれていたのだろう。偽の両親が本当には悪い人間ではないことが本作の優しさとも言えるし、踏みこめていない点だとも言えるだろう。描かれることはなかったのでわからないが、もし彼らの犯罪がある一定のラインを超えてしまっていたら、〈ブリグズビー・ベア〉は許されないコンテンツだし、ジェームズの番組に対する情熱もストックホルム症候群とされていたのではないか。そこの明確な線引きはどうしたってあるように思える。「作者と作品はまったく別物である」と結論づけてはならない何かが。
 だから、当たり前でつまらない着地点になってしまうのだが、そのラインがどこにあるのかを見極めることが重要なのだろう。が、つまらないからこそ価値があることなのだ。そしてそれは、時代によっても場所によっても、作品によっても背景によっても変わってくる。つまり、いまこそ批評の力が試されているということだろうし、アメリカのコメディアンたちは表現の自由を勝ち取るために怜悧な批評家であろうと努力しているということなのだろう。“This Is America”で今年話題を独占したチャイルディッシュ・ガンビーノ=ドナルド・グローヴァーがコメディアンであるのもそういうことだ。チャーミングな小品であるこの映画もまた、そうしたコメディが輝く時代を示している。

予告編

Akuphone - ele-king

 いわゆる「ワールド・ミュージック」に分類される音源がリリースされる際、しばしば「辺境」という言葉が用いられるけれど、それはつまり自分たちは「辺境」ではない、自分たちは「中央」である、という意識の表れとも言える(西洋から見れば日本だってある意味「辺境」なわけだけど、日本のアーティストの新譜が出たときに「辺境」サウンドなんて紹介のしかたはしない)。「辺境」だから良いんじゃなくて、その音楽それ自体が良いんだと、そういうふうに紹介していきたいものである。
 ともあれ、昨年のコゥ・シン・ムーンやキンク・ゴングなど、まずはサウンドありきで良質な発掘を続けているフランスのレーベル〈アクフォン〉から、またもや強烈なタイトルが送り届けられた。今回は60年代~70年代のスリランカの大衆歌謡にフォーカスした2枚組コンピレーションで、アフロとアジアが交錯する収録曲もたいへんエキサイティングなんだけれど、ブックレットの解説もおもしろい。たとえばアフリカ系ディアスポラの影響下で生まれた「バイラ」を、エドゥアール・グリッサンの「クレオール」と関連づけて紹介したりしている。日本語訳のついた国内流通盤がおすすめです。

世界音楽の新興レーベル〈アクフォン〉がスリランカのヴィンテージ歌謡をディグ

旧音源発掘、フィールド録音から新作まで、世界音楽を様々な切り口から掘り起こす注目の新興レーベル〈アクフォン〉によるスリランカ・ポップの企画盤をご案内。M.I.A.のルーツ。紅茶と香辛料と宝石の国。実は素晴らしい音楽の宝庫でもあるスリランカ。隣国インドや仏教、ヒンドゥ教、大航海時代にまで遡るポルトガルとアフリカからの影響。様々なエレメントがミックスして出来上がった1960年代後半から70年代にかけてのこの国の大衆歌謡を総括した、ありそうでなかった画期的なコンピです。

◆ 「バイラ」や「サララ・ギー」などと呼ばれるスリランカの大衆歌謡を、同国のポップ音楽を黎明期から支えた重要レーベル〈スーリヤ・レコード〉の音源を中心に、民族や宗教をまたいで横断的に総括した2枚組コンピレーション。

◆ カリプソにも通じるトロピカル感、シタールやタブラの絶妙なスパイス加減、アシッドなフルートやサーフなエレキ・ギター、ハレやかなフェスティバル・ムードなどなど、様々な要素が混然一体となり醸し出される独自の音世界にただただ驚かされるばかり。スリランカのポピュラー音楽の多様性と豊かな響きを堪能できる決定盤。

◆ スリランカ音楽の歴史やスーリヤ・レコードの成り立ち、各アーティストの紹介などを含む、充実した24ページにわたるブックレットも必読(日本語対訳付)。

◆ キンク・ゴング(祝来日!)、コゥ・シン・ムーンやガムラン・ウォーリアーズなどなど、アジアを中心とした驚きの復刻、フィールド・レコーディングから新録まで、世界の音楽を様々な切り口から掘り起こすフランス発の注目新レーベル〈アクフォン〉からのリリース。

◆ https://akuphone.com

■アーティスト名:V.A.
■アルバム・タイトル:SRI LANKA : The Golden Era of Sinhalese & Tamil Folk-pop Music(スリランカ ― シンハラとタミルのフォーク・ポップ音楽黄金時代)
■商品番号:RTMCD-1305
■税抜定価:3,200円
■発売日:2018年7月1日
■レーベル:Akuphone / カレンティート
■直輸入盤(帯・24頁英文ブックレット英文解説対訳付)

【収録楽曲】

CD1

01. PAUL FERNANDO : Egoda Gode
02. W.D. AMARADEVA : Soken Pala Ne
03. CLARENCE WIJEWARDENA : Gamen Liyumak
04. PARAMESH : Naan Unnai Thedum
05. THE FORTUNES : Instrumental Baila Medley
06. SANATH & MALKANTHI NANDASIRI : Netha Giya Hematana
07. A. E. MANOHARAN : Kaffiringha
08. PANI BHARATHA & PARTY : Ceremonial Drums
09. MIGNONNE & THE JETLINERS : Jeevithe Vasanthaye
10. SHAN : Anbil Valarnthai
11. AMITHA DALUGAMA : Pinna Mal
12. MAXWELL MENDIS : Mama Bohoma Bayauna
13. POLICE RESERVE HEWISI BAND : Vairodi Wannama
14. SHIROMI FERNANDO : Handa Haami
15. WIMALA AMARADEVA : Goyam Gee

CD2

01. INDRANI PERERA : Eka Dawasak
02. W.D. AMARADEVA : Mindada Heesara
03. WINSLOW SIX : Roshi
04. THE MOONSTONES & INDRANI PERERA : Sigiriya
05. SANATH NANDASIRI : Deepa Tupe Vihare
06. SIDASI TURYA VADAYAKO : Drum Orchestra
07. NALINO NEL : Gavaskar The Century Maker
08. LOS FLAMINCOS : Bolanda Katha
09. W.D. AMARADEVA : Sinidu Sudu Muthu
10. LILANTHI KARUNANAYAKE : Malli
11. CLAUDE & THE SENSATIONS with NOELINE MENDIS : City Of Colombo
12. H.R. JOTHIPALA : Durakathanaya
13. INDRANI PERERA : Amma
14. THE GOLDEN CHIMES : Kimada Naave
15. VICTOR RATNAYAKA : Perakumba Davasa

Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/B07CJ6G5DH/

PREP - ele-king

 ロンドンの4人組のバンド、プレップ。降り注ぐ太陽と透明なプールサイドを思わせる彼らの音楽は、80年代という時代特有の煌きを2018年に再生する。モダンなシティ・ポップ? むろん懐古主義ではないし、そもそも過去は再生できない。そうではなくプレップの奏でる音楽は、ポップ・ミュージック特有の「エンドレス・サマー」を提示しているのだ。終らない夏。永遠の夏。
 それは幸福の記憶である。それゆえ刹那のものでもある。すぐに消えてしまうものである。存在しないものだ。夢だ。だからこそ切ない。胸を打つ。求める。プレップは、そんな感情を弾むようなメロディと、美しいハーモニーと、踊らせてくれるリズムによって結晶する。

 結論へと先に急ぐ前に、彼らの経歴を簡単に記しておきたい。プレップのメンバーは、ルウェリン・アプ・マルディン(Llywelyn ap Myrddin)、ギヨーム・ジャンベル(Guillaume Jambel)、ダン・ラドクリフ(Dan Radclyffe)、トム・ハヴロック(Tom Havelock)ら4人。活動拠点は、ロンドンであり、近年はアジア諸国での評価も高く同地でツアーを敢行し、好評を博しているという。日本にもこの2018年5月にツアーで訪れ、演奏を披露した。
 メンバーについて簡単に説明をしておこう。まず、ルウェリン・アプ・マルディンはクラシック/オペラ・コンポーザーで、キーボード奏者である。彼の豊かな音楽素養によって生まれるハーモニーは、プレップの要だ。そのルウェリンに声をかけた人物が、「Giom」名義でハウス・ミュージックDJとして活動するドラマーのギヨーム・ジャンベル。彼がバンドのビートを支えている張本人である。
 ふたりがデモ曲を制作し、「ドレイクやアルーナジョージなどのレコーディングに参加し、グラミーにノミネートされたヒップホップ・プロデューサー」のダン・ラドクリフにデモを送り、結果、メンバーが3人になった。サンプリングを駆使したモダンなトラックメイクはダン・ラドクリフの手によるものだ。
 さらに、ダンの友人でもあるヴォーカリストにしてシンガー・ソングライター(Riton、Sinead Hartnett、Ray BLK等と共作歴あり)のトム・ハヴロックも加わり、超名曲“Cheapest Flight”が生まれたというわけだ。一聴すれば分かるが、この曲にはポップの魔法が宿っている。微かな切なさが堪らなく胸に染み入る。

 こういった1970年代から1980年代にかけて流行した音楽のテイスト、いわばAORやディスコ、フュージョン、ブルー・アンド・ソウル系の音楽は「ヨット・ロック」と称されている。サンセットビーチやリゾート感の心地よさや切なさを表しているのが理由らしい。言いえて妙だ。夏の陽光、黄昏、哀愁、美しさ。優れた作曲と卓抜な編曲と演奏によって支えられた音楽ともいえる。たとえばネッド・ドヒニーなどを思い出してみても良いかもしれない。
 また、近年、世界的に再発見されているらしい山下達郎、大貫妙子などの日本の70年代後半から80年代前半のシティ・ポップや、近年のニューエイジ・ムーヴメントともリンク可能である。つまり「いまの時代ならではの再発見音楽の現在形」ともいえる。われわれの耳は「同時代的な感覚として80年代的なリゾート感覚」を強く求めているのだ。
 2016年にプレップは、“Cheapest Flight”を含む4曲入りのEP「Futures」をリリースしたわけだが、どうやら“Cheapest Flight”以降、日本のシティ・ポップをたくさん聴き、自分たちの音楽との近似性を確認したようである。「Futures」のオビがいかにも日本の80年代風なのはその表れだろう。今年の来日時、SNSで佐藤博の『awakening』(1982)のレコードを嬉々としてアップしていたことも記憶に新しい。

 彼らは「バンド」といっても、運命共同体的な重さはない。聴き手にとっても、そして作り手にとっても「心地よい音楽」を生み出すことを目的としている。「一種の音楽工場」と彼らは語るが、そこから生まれる音楽は、なんと混じりけのないピュアなポップ・ミュージックだろう。
 ふり注ぐ光のように清冽で、透明なプールサイドのように美しい。そしてそれらがとても儚いものだと感じさせるという意味で、どこか切ない。だが、そんな儚い美しさの瞬間があるからこそ辛い人生は尊くもなる。そんな感情を“Cheapest Flight”は放っている。当初、匿名的であった彼らだが、この曲のヒットによって音楽ファンに広く知られることになった。“Cheapest Flight”は、Spotify再生回数300万回誇るという。

 本作『Cold Fire』は、2年ぶりの新作EPである。オリジナルは計4曲収録で、日本盤CDにはさらに2曲のボーナス・トラックが加えられている。
 1曲めは人気の韓国人R&Bシンガー、ディーンがバッキング・ヴォーカルで、アンダーソン・パークの楽曲のプロデュースも手がけた〈HW&W Recordings〉のポモがリード・シンセサイザーで参加しているタイトル・トラック“Cold Fire”。 シンセのリフもキャッチーで耳に残るポップ・チューンだ。大胆に転調するソングライティングも見事。
 2曲めはポートランドのウーミ(Umii)のメンバーであるリーヴァ・デヴィート(Reva DeVito)が起用された“Snake Oil ”。アンビエント/R&Bなムードのミディアム・テンポのなか小技が聴いたトラック/編曲に唸ってしまう。
 3曲めはウルトラ・ポップ・トラック“Don't Bring Me Down”。夏の光を思わせるどこまでも爽やかな曲だ。テーム・インパラのMVの振付けを手掛けたTuixén Benetによってロサンゼルスのコリアタウンで撮影されたMVが印象的だ。
 4曲めはメロウ&ポップな名曲“Rachel”。どこか“Cheapest Flight”の系譜にある曲調で、夏の切なさ、ここに極まるといった趣である。まさに黄昏型の名曲。

 そして5曲め(日本盤ボーナス・トラック1曲め)は、マイケル・ジャクソンの“Human Nature”のカヴァー。マイケルのカヴァーというより、作曲・演奏をしたTOTOへのオマージュといった側面が強いようである。自分たちとTOTOを良質なポップ・ミュージック・ファクトリー的な存在として重ねているのだろうか。曲の本質を軽やかに表現する名カヴァーといえる。
 ラスト6曲め(日本盤ボーナス・トラック2曲め)は名曲“Cheapest Flight”のライヴ・ヴァージョンである。録音版と比べても遜色のない出来栄えで、彼らの演奏力の高さを証明しているようなトラックだ。録音版より全体にシンプルなアレンジになっている点も、「Futures」と「Cold Fire」の違いを表しているようで興味深い。以上、全6曲。程よい分量のためか、何度も繰り返し聴いてしまいたくなる。なにより曲、編曲、演奏、ヴォーカルが、実にスムース、ポップ、メロウで、完璧に近い出来栄えなのだ。

 世界はいま大きく動いている。普通も普遍も現実もまったく固定化されず、常に変化を遂げている。変動の時代は人の心に不安を呼ぶ。そのような時代において、あえて「普遍的なものは何か」と問われれば、「一時の刹那の、儚い夢のような幸福感」かもしれない。しかも「幸福感」は人の心に残る。それをいつも希求してもいる。だからこそポップ・ミュージックは、どんな時代であっても幸福の結晶のような「永遠の夏」を歌う必要があるのではないか。
 プレップはそんな普遍的なポップ・ミュージックを私たちに届けてくれる貴重な存在なのだ。サーフ・ミュージックのザ・ビーチ・ボーイズ=ブライアン・ウィルソンが実はサーフィンと無縁だったように、ヨットとまったく無縁でもプレップの音楽に心を奪われるはず。そう、ポップ・ミュージックだけが持っている永遠の/刹那の煌めきがあるのだから。

DYGL - ele-king

 デイグローが7インチEP「Bad Kicks / Hard to Love」をリリースするんだけど、初期のエコー・アンド・ザ・バニーメンを彷彿させるギターのカッティングとダンサブルな展開、これ、そうとう格好いいです。

 収録曲は、イギリスのとある港町の教会を改築したスタジオにおいて、なんとオープンリールを使用してのアナログ・レコーディングによって制作されている。そうなると、くだんのシングルはアナログ盤で聴きたくなるのが人の性というもの。この宝物は7月25日にたった1000枚の限定でリリースされる。どうか逃さないで。

(予約こちら)
https://dayglotheband.com/preorder

DYGL
Bad Kicks / Hard to Love

SIDE A “Bad Kicks“
SIDE B “Hard to Love”
2018/7/25(水)発売
1500円 (税抜)/1620円 (税込)
HardEnough


■LIVE INFO

08/11(土) RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO

08/18(土) SUMMER SONIC 2018@TOKYO

Lobster Theremin - ele-king

 昨年RDCで来日したパームス・トラックス、あるいはヴェニスのスティーヴ・マーフィやブダペストのルート・8(ジョージリー・シルヴェスター・ホルヴァート)などのリリースで知られる〈ロブスター・テルミン〉、最近〈ブレインフィーダー〉からのリリースで話題を集めているロス・フロム・フレンズの12インチもここから出ていましたけれども、ロンドンのこの奇特なレーベルが設立5周年を迎え、現在ヨーロッパや北米でショウケース・ツアーを展開しております。そしてこのたび、そのアジア版がソウルおよび東京・大阪でも開催されることが決定しました。レーベル主宰者のジミー・アスキスと、看板アーティストのルート・8が来日します。アンダーグラウンド・ダンス・ミュージックの熱い息吹に触れられるこの絶好の機会を逃すまじ。

LOBSTER THEREMIN 5 YEARS IN JAPAN

ロンドン発、レーベル兼ディストリビューターとして近年めきめきと勢いをみせる〈Lobster Theremin(ロブスター・テルミン)〉。
そのレーベル・ボスである Jimmy Asquith は、2013年にレーベル〈Lobster Theremin〉を設立。その傘下に〈Mörk〉、〈Distant Hawaii〉、〈Tidy Bedroom〉も始動し、昨年レコードショップ実店舗もオープンさせた。ロンドンの Corsica Studios での彼らのパーティー《FIND ME IN THE DARK》は毎回ソールドアウトになるほどの人気ぶりで、Asquith は常に新しい才能をサポートし、〈Discwoman〉、〈Workshop〉、〈Antinote〉などとのコラボレーションも行なっている。
レーベル設立5周年を祝うレーベル・ショーケースとして、レーベル看板アーティストであるハンガリー、ブダペストのDJ/プロデューサーRoute 8と共に初来日が決定!

7/20 (FRI) FAUST, Seoul
7/21 (SAT) CIRCUS Tokyo, Tokyo
7/22 (SUN) COMPUFUNK RECORDS, Osaka

7.21 (SAT) @Circus Tokyo
- LOBSTER THEREMIN 5YEARS IN TOKYO -

LINE UP:
-B1 FLOOR-
Asquith (Lobster Theremin)
Route 8 (Lobster Theremin / Nous)
Romy Mats (解体新書 / N.O.S.)

-1st FLOOR-
Sayuri
DJ Emerald
DJ Razz
T4CKY

Open 23:00
ADV 2,500 yen
Door 3,000 yen

TICKET:
https://lobstertokyo.peatix.com/

Info: CIRCUS TOKYO https://circus-tokyo.jp
東京都渋谷区渋谷3-26-16 第五叶ビル1F / B1F
TEL 03-6419-7520

7.22 (SUN) @Compufunk Records Osaka
- LOBSTER THEREMIN 5 YEARS IN OSAKA -

DJ: ASQUITH, ROUTE 8, DNT (POWWOW), KAITO (MOLDIVE), TOREI
Sound: Ryosuke Kosaka
VJ: catchpulse

Central Kitchen: YPO edenico

Open 17:00 - 24:00
ADV 2,000 yen +1 Drink
Door 2,500 yen +1 Drink

Info: Compufunk Records https://www.compufunk.com
大阪市中央区北浜東1-29 GROW北浜ビル 2F
TEL 06-6314-6541



■Asquith (Lobster Theremin / from London)

ロンドン発、新興レーベル兼ディストリビューターとして近年めきめきと勢いをみせる〈Lobster Theremin(ロブスター・テルミン)〉。そのレーベル・ボスである Jimmy Asquith は、2013年にレーベル〈Lobster Theremin〉を設立。〈Lobster Theremin〉傘下に3つのレーベル、〈Mörk〉、〈Distant Hawaii〉、〈Tidy Bedroom〉も始動し、また、エレクトロニック・ミュージック・シーンではグローバルに知られるディストリビューターである。2017年1月にはハックニーにレコードショップ実店舗もオープンさせた。
ロンドンの Corsica Studios でのパーティー《FIND ME IN THE DARK》は毎回ソールドアウトになるほどの人気ぶりで、Asquith は常に新しい才能をサポートし、〈Discwoman〉、〈Workshop〉、〈Antinote〉などとのコラボレーションも行なっている。
海外ツアーをこなしながらも、Rinse FM でレギュラーを担当し、Tom Hang や Chicago Flotation Device といったアーティスト名義でリリースを重ねている。2017年12月に Tom Hang 名義でのデビュー・アルバム『To Be Held In A Non Position』をリリース。
今年でレーベル設立5周年を迎え、〈Lobster Theremin〉のレーベル・ショーケースとしてのツアーを展開している。

Jimmy Asquith founded the well-renowned label Lobster Theremin in 2013. Since then the label boss has established three imprints including; Mörk, Distant Hawaii and Tidy Bedroom, as well as a respected distribution service used widely within the electronic music scene, and a physical record shop based in Hackney, East London.

Alongside the label, Asquith continues to sell out his Corsica Studios based night Find Me In The Dark, which champions emerging talents and sees collaborations with the likes of Discwoman, Workshop and Antinote. DJing internationally, Asquith simultaneously is producing and performing under multiples aliases all whilst holding down a regular Rinse slot.

On top of that, Asquith’s personal and ambiguous ambient alias, Tom Hang, will be releasing his debut album this December following a heart-wrenching Cafe Oto performance. Part ambient, drone, noise and a tapestry of clouded, intermingling emotions, ‘To Be Held In A Non Position’ is a three-and-a-half year release from stasis; an exhale from a long-held breathe; a shallow sleeper now awake.

On a DJ tip, increased gigs have led to a stylistic shift, a move back to UK-oriented sounds blended with old-school US influences and plenty of new names and talent littered throughout the set lists, alongside occasional older selected digs from the garage-house trove.

The start of 2018 will see a solo Asquith jaunt of North America as well as a Lobster Theremin debut showcase at Motion on January 20th, kicking off the 5 Years of Lobster Theremin European tour.

https://lobstertheremin.com



■Route 8 (Lobster Theremin / Nous)

ハンガリー、ブダペストのDJ/プロデューサー、Route 8。〈Lobster Theremin〉や〈Nous〉からのリリースによって、その名を知られるようになったが、ハードウェアを使っての音楽制作とその探求は10年以上前から始めている。USのロウなハウスやテクノからインスパイアされた、メランコリックなメロディーと巻き込むようなドラムパターンで、エレクトロやアンビエントまで拡大解釈できるオリジナルなサウンドを追求している。DJ Ciderman や Q3A という名義でも知られる。

Route 8 has only recently gained prominence through the Lobster Theremin and Nous labels, but his hardware production experiments date back almost 10 years. Inspired by the raw-edged US house and techno sound, he has also expanded his work into off-kilter electro and ambient, still inflicted with his melancholia-tinged melodies and ratcheting drum patterns.

https://soundcloud.com/route8

ShadowParty - ele-king

 ニュー・オーダー×ディーヴォ……!? なんとも気になる組み合わせです。ニュー・オーダーで活躍中のベーシスト=トム・チャップマンとギタリスト=フィル・カニンガム、そしてディーヴォで活躍中のギタリスト=ジョシュ・ヘイガーとドラマー=ジェフ・フリーデルの4人が集合した新バンド、シャドウパーティ。そのデビュー・アルバムが7月27日に〈ミュート〉よりリリースされます。現在白熱中のワールドカップに合わせて制作された先行シングルのMVが公開中です。いやー、やっぱりこういう感じのロック・サウンドには抗えませんね。アルバムが楽しみ。


シャドウパーティ、W杯を祝福し新MVを公開!
新作は7/27発売!

ニュー・オーダーとディーヴォのメンバーによる4人組ロック・バンド、シャドウパーティのデビュー・アルバム『シャドウパーティ』が7/27に発売される。その発売に伴い、また現在開催されているサッカー・ワールドカップを祝福し、新作より先行シングル“Cerebrate”のミュージック・ビデオを公開した。

決勝トーナメント1回戦のメキシコ対ブラジルのキックオフ直前に急遽公開されたこのビデオは、サッカーに情熱を傾けるメキシコの少年を描いている。
なおニュー・オーダーは、1990年サッカー・ワールドカップ・イタリア大会において、イングランドの公式応援ソング“ワールド・イン・モーション”をリリースし全英1位を記録している。

先行シングル“Cerebrate”
[YouTube] https://youtu.be/bk6uLLwrT1o
[Apple Music / iTunes] https://apple.co/2I3pBGd
[Spotify] https://spoti.fi/2FtqEKh

シャドウパーティは、ジョシュ・ヘイガーとトム・チャップマンがボストンで出会ったことがきっかけとなり、2014年に結成された4人組バンド。

ジョシュ・ヘイガーは、ザ・レンタルズの元メンバーであり現在はディーヴォでギターとキーボードを担当、トム・チャップマンは、2011年ニュー・オーダーの再結成以来のベーシスト、フィル・カニンガムは、元マリオン、現ニュー・オーダーのギタリスト、ジェフ・フリーデルは、ディーヴォのドラマーとて活躍中だ。

ザ・ヴァーヴのニック・マッケイブがその素晴らしいギターの音色をアルバムの中の2曲“EvenSo”と“Marigold”で披露する一方で、ア・サートゥン・レシオやプライマル・スクリームなどで知られるシンガー、デニス・ジョンソンがその美声をアルバムで6曲に渡り聞かせており、先行シングル“Celebrate”の歌声も彼女である。

加えて、LAで活動するDJのホイットニー・フィアスがコーラスで参加したり、先日のマンチェスター・インターナショナル・フェスティヴァルでニュー・オーダーやエルボーのために12台のシンセによるオーケストラ・アレンジをしたマンチェスター在住のジョー・ダデルがその卓越したオーケストラ・テクニックを見せている。

シャドウパーティのサウンドは、その時々によって、数多のシンセ・サウンドのオーケストレーションに心奪われ、80年代風のビートが唸るギターとヴォーカル、そこに甘美なハーモニーが華を添える。

レコーディングはボストンやLA、マンチェスター、マックルズフィールドで行われた。

[参加アーティスト]
ニック・マッケイブ(元ザ・ヴァーヴ)
デニス・ジョンソン(プライマル・スクリーム作品等へのヴォーカル参加)等

[商品概要]
アーティスト:シャドウパーティ (ShadowParty)
タイトル: シャドウパーティ (ShadowParty)
発売日:2018年7月27日(金)
品番:TRCI-64
定価:2,100円(税抜)
JAN:4571260587847
解説:村尾泰郎/国内仕様輸入盤CD

[Tracklist]
01. Celebrate
02. Taking Over
03. Reverse The Curse
04. Marigold
05. Sooner Or Later
06. Present Tense
07. Even So
08. Truth
09. Vowel Movement
10. The Valley

■シャドウパーティ (ShadowParty)
メンバー:ジョシュ・ヘイガー(G, Key) / ジェフ・フリーデル(Drs.) / トム・チャップマン(B) / フィル・カニンガム(G)

2014年ボストンで結成。2018年7月27日、デビュー・アルバム『シャドウパーティ』リリース。

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仙人掌 - ele-king

 2016年末にリリースされた初のソロ・アルバム『VOICE』が大きな反響を呼んだ仙人掌ですが、去る6月27日、ついに待望のセカンド・アルバム『BOY MEETS WORLD』が発売されました。今月半ばにはNY在住のビートメイカー、DJ SCRATCH NICEのプロデュースによる“Show Off”のMVも公開されていますが、このたび9月14日に代官山UNITにて開催されるリリース・イベントの情報も解禁されております。要チェック!

MONJU/DOWN NORTH CAMPのラッパー、仙人掌のセカンド・アルバム『BOY MEETS WORLD』、6月27日発売! また同作のリリース・ライヴが代官山UNITにて9/14(金)に開催決定!

2016年リリースの初となるオフィシャル・ソロ・アルバム『VOICE』でシーン内外に大きなインパクトを残した仙人掌の待望のセカンド・アルバム『BOY MEETS WORLD』がついに6月27日リリース! そしてその『BOY MEETS WORLD』のリリースを祝したイベント《BOY MEETS WORLD LIVE 2018》が9/14(金/DAYTIME)に代官山UNITにて開催決定! 同作に参加しているjjjやMILES WORDも参加するスペシャルなパーティになる予定で今週末よりチケットが発売となります!

仙人掌「BOY MEETS WORLD LIVE 2018」
9月14日 (金) at 代官山UNIT

OPEN : 19:00
ENTRANCE : ¥3000 (WITHIN 1 DRINK)
LIVE : 仙人掌
GUEST : jjj, MILES WORD
OPENING ACT : COCKROACHEEE’Z
DJ : 原島“ど真ん中”宙芳 / 16FLIP / HURAMINGOS (CHANG YUU & YODEL)

TICKET取り扱い : 代官山UNIT
Pコード:122-575
Lコード:72539
6/30 (土曜日発売)

トラスムンド / UNIT / RAH / JAZZY SPORT / DISK UNION ***
各RECORD SHOPでは7/14より発売予定

supported by NIXON

* イベント当日は会場にて限定のタイトル / マーチャンダイズを販売します。(こちらは追って発表する「BOY MEETS WORLD 4 CITY TOUR 2018」の4会場でも販売します。)
* イベント終演後、代官山SALOONにてAFTER PARTYを開催。チケットの半券提示でDRINK代のみで入場できます。

仙人掌 - Show Off (BLACK FILE exclusive MV "NEIGHBORHOOD")
https://youtu.be/xI7ztc-aWaA

仙人掌『BOY MEETS WORLD』 Teaser
https://youtu.be/bEaU2f1_RJc

【アルバム情報】
アーティスト:仙人掌
タイトル:BOY MEETS WORLD
レーベル:WDsounds / Dogear Records / P-VINE
品番:PCD-26070
発売日:2018年6月27日(水)

【トラックリスト】
01. 99'Til Infinity
Prod by DJ SCRATCH NICE
02. Boy Meets World
Prod by CHUCK LA WAYNE & DJ SCRATCH NICE
03. Penetrate
Prod by GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE
04. Darlin' feat. jjj
Prod by DJ SCRATCH NICE
05. Water Flow
Prod by GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE
06. Bottles Up
Prod by DJ SCRATCH NICE
07. Rap Savor feat. MILES WORD
Prod by CHUCK LA WAYNE & DJ SCRATCH NICE
08. Show Off
Prod by DJ SCRATCH NICE
09. So Far
Prod by GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE
10. World Full Of Sadness
Prod by DJ SCRATCH NICE
Additional Vocal by SOGUMM

女の暴力映画

 いま、女性と暴力の問題を書くのはことさら慎重さが必要になるので、とても怖い。久々に女性にまつわるテーマで新連載を始める機会をいただいたが、うかつなことを書いてしまったらどうしようとビビリ腰になっている。とりあえず第一回目なので最後まで読んでいただけると嬉しい。

 映画で描かれた「女の暴力」。とはいっても今回は、女が振るわれる暴力についてではない。もうそんなものは映画史に溢れかえっているし、改めて解説されるのも読者は疲れるだけだろう。現在でも現実に、女が様々な形のハラスメントや抑圧、そしてまさに肉体的な暴行を受ける事案が日常的に起こっている。文明が進んだらマシになるのかと思いきや、全然性差別は解決していないうえ、それを声に出した女性がSNSなどで受ける二次的なハラスメントを、リアルタイムで見つめてさえいる時代だ。
 そんな暗雲の下で暮らしながらも女が抵抗し、戦い、もちろん良いことだけではなく利己的な欲望で他人を傷つける振る舞いは行われてきた。現実と同様に、映画も女が肉体的にも精神的にも他人にヴァイオレンスの矛先を向ける瞬間を描いている。それは華麗なアクションであったり、現実の我々にも訪れそうなリアリティに満ちたものだったり様々だ。
 映画業界は男性主導の世界である。だからこそ2017年にはハリウッドで驚くような、完全に犯罪の域である悪質なセクハラが明るみになり、それがまかり通ってきたことが改めて認識された。でもそういった報道に対して、逆に被害者をバッシングする反応が多いのも目についた出来事だ。そんな齟齬がある中で、男性の作り手が撮った女性主演のアクション映画は、本当に女性的なアクションといえるのかは判断に悩んでしまう。そもそも男性の監督や脚本家によっても、女性心理にうとい人/感受できる人は様々な度合いがある。それに女性監督が作った女性アクションだったら、正統だとか真実だともいえないだろう。女性なら女性心理が完全に汲めるのか? という疑問もある。それにわたしたち女性だって、長年男性が作った男性主体のアクション映画を観てきているので、映画ではそのことに慣れてしまっているのだ。これは男性であっても同様で、現実と表現は違うため、もし格闘技の経験のない人が「アクション映画を撮れ」と言い渡されたら、自身の経験から引き出すのではなく、これまで観てきた映画のヴァイオレンスを参考に表現を組み立てていくことになるだろう。日常の経験でも、見栄えのするアクションに街中ではそうそう遭遇しないものだし。

暴力の多面性

 そして暴力は肉体的なものに限らない。ひとは裏切りや嘘でも心にダメージを受ける。マスコミによる著名人の不倫報道はいっとき病的なほど過熱していた。それは視聴者や読者の関心をひいて激しいバッシングを引き起こしたが、不貞がかまびすしく非難を浴びるのは、自分の身に受けることを想像しやすい精神的な暴力のひとつだからだ。わかっていて人を裏切るのはひどい行いである。とはいえ当事者にも事情は色々あるだろうし、不倫は申し開きをするほど「反省していない」といった反発をくらうため、甘んじて批判を受けるしかない。そこに付け込んだ報道のあり方や過剰なバッシングも、当事者に与えるダメージを見越した一種の暴力である。これらのような精神を傷つけ心を壊す行為も、やはりヴァイオレンスの形として見過ごせない。
映画において、女が暴力を振るう場面は娯楽だろうか。確かにシャーリーズ・セロンが戦う姿は、問答無用にかっこよくて魅了される。それでも女が振るってはダメな暴力という表現もあるのだろうか。それらの線引きは何を根拠になされるのか――考えると頭がグルグルしてしまうことばかりだ。だから映画の中で女優が繰り出すキックを観つつ、改めて女性と暴力についてゆっくり考えてみよう。

変遷するタランティーノの女性と暴力

 タランティーノはなんといっても『レザボア・ドッグス』(91年)を封切りで観て以来の付き合いという感がある。ハーヴェイ・ワインスタインの事件で名をあげたり下げたり色々あったうえ、新作がマンソンファミリーによるシャロン・テート殺害事件の映画化というのも物議を醸しそうだ。それでも完成すれば必ず観にいくだろうし、これまでもすべての作品は劇場で観ている監督である。
 登場人物が男だけの映画『レザボア・ドッグス』でメジャー監督デビューしたクエンティン・タランティーノは、現在では女性アクションの監督というイメージも強い。ユマ・サーマン主演の『キル・ビル』2部作(03年、04年)は、とても虚構性の強いアクション作品だ。ヒロインの“ザ・ブライド”は、元々暗殺者集団に所属する凄腕の殺し屋だった。しかし足を洗い、普通の女性として人生を送ろうとした矢先に、かつてのボスであり愛人であったビル(デヴィッド・キャラダイン)の命令によって、仲間の殺し屋たちに夫とお腹の子どもを殺され、彼女も死の縁をさまようことになる。映画は長い昏睡から目覚めたザ・ブライドが、彼女の人生を台無しにしたビルと殺し屋たちへ、復讐を果たしていく物語だ。

荒唐無稽な大殺戮に潜ませた愛憎劇

 1作目の見せ場は、伝説の名刀を求めて日本を訪れたザ・ブライドが、青葉屋という料亭で繰り広げる殺戮劇だ。この一連のシーンで、ザ・ブライドはブルース・リーを彷彿とさせるトラックスーツを着ているし、復讐の的であるオーレン・イシイ(ルーシー・リュー)の用心棒が鉄球使いの女子高生であったり、イシイの配下“クレイジー88”が日本刀を持った学生服集団であったりと、元々リアリティは意識していない設定である。

 男性監督や脚本家にとって主人公が女性であることは、地続きで想像できてしまう男性主人公と比べて、虚構として想像を膨らませやすいのだろう。今では女性アクション映画といえば『キル・ビル』は必ずタイトルがあがる。ザ・ブライドの殺した人数のインパクトが記憶に残るのもわかりやすいし、そんな過剰な復讐劇の動機が、最終的には母性に集約されていくのも、強い女性を想像する際のふんわりした理由やイメージの例だ。
 男性の主人公が娘の復讐のために立ち上がる映画だと、地に足のついた作品が次々と頭に浮かぶ。男が考える男の復讐劇は、リアリズムから逸脱しない。しかし女性の復讐劇である『キル・ビル』は、大量殺戮の面白さを見せることが一番の目的であって、動機に母性を持ってくるのはもっともらしく見せるためだけに思える。むしろビルとザ・ブライドの間にある、愛と憎しみの交じり合ったメロドラマ性の方が、言い知れぬ動機として魅力的であり物語を豊潤にしている。「愛しているけれどもくびきから逃れたい」「愛するあまり許せないから殺したい」「愛が招いた因果応報を素直に受け入れる」という感情の交錯が、本作を荒唐無稽なだけでは終わらないドラマとして成立させていた。

より生身の暴力へ

 その後の女性をヒロインに迎えたタランティーノ作品は、反動のように「女にも可能なヴァイオレンス」を追求していく。『デス・プルーフ in グラインドハウス』(07年)は、『キル・ビル』でユマ・サーマンのスタントをしていたゾーイ・ベルが、彼女自身として主演を務める。改造車を使った殺人鬼スタントマン・マイク(カート・ラッセル)に狙われた、ゾーイをはじめとする女性だけの車。なんとか逃げ延びたあと、命の危険にさらされた彼女たちは怒りに燃えて復讐に出る。本作でみせるゾーイ・ベルの身体能力が素晴らしい。ボンネットに掴まったままのカーチェイスや、彼女が走り出す車へ手にパイプを持ったままスルッと滑り込むように箱乗りする場面など、本当にゾーイ自身が演じているリアリズムによって、有無を言わせぬ効果をあげる。


©2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.

 本作はマイクの凶行を見せるための二部構成になっていて、まずは酒に溺れエロティックな危険を冒す女性グループが登場する。前半では彼女たちと、「グラインドハウス」のカップリング作品『プラネット・テラー in グラインドハウス』の主演ローズ・マッゴーワンが、被害者として恐怖に慄きむごい目に遭う。
 タランティーノの映画は被害者が男性であっても、監禁の恐怖や、観ていて痛みや凄惨さを強く覚える時がある。映画に耽溺してきた彼の「映画は虚構」という骨身にしみる感覚ゆえか、表現が細やかなあまり暴力シーンには過剰なサディズムが漂っているようだ。確かに映画は所詮作り物にすぎない。だから暴力表現において、創造の面白さに興味が傾くのも当然だ。だが同時に、スクリーンで何が起ころうと真に受けない感性が試されるような、逃げ場のなさや妙に皮膚感覚に迫る暴力性には、観ていて時々居心地の悪い気持ちがする。
 『デス・プルーフ』はそんな陰惨さと、白昼の勧善懲悪という晴れやかさが共存する作品だ。現実にスタントをこなせる女性が等身大のアクションを演じるのは、荒唐無稽な『キル・ビル』と正反対のアプローチである。『デス・プルーフ』で女が発揮する暴力は、「女性でも出来ること」の域を押し広げるリアルな強靭さがあり、これはゾーイ・ベルの存在なくしてありえない生身のアクションだった。

フィルムを操る手

 『イングロリアス・バスターズ』(09年)ではまたアプローチを変え、女性にも可能な、策略による大掛かりな殺戮劇が描かれる。第二次世界大戦中のナチス統治下のフランス。かつてユダヤ人狩りによって家族を皆殺しにされたショシャナ・ドレフュス(メラニー・ロラン)は、一人だけ逃げ延び、今ではパリの映画館で働いている。ドイツ軍の狙撃兵フレデリック・ツォラー(ダニエル・ブリュール)が街でショシャナを見染めたのをきっかけに、ナチスのプロパガンダ映画が彼女の映画館でプレミア上映されることになった。その日はヒトラーをはじめとする、ナチスの最高幹部たちも集まるという。機を見たショシャナによるレジスタンスの幕開けだ。


Film (C)2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

 彼女と同時進行して、アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)を中心とする連合軍特殊部隊のナチス狩りもいる。彼らは男の子らしく得意技がバットのフルスウィングだったり、ナチであった身分を戦後に詐称できないよう、額へハーケンクロイツを刻み込んだりする。相対して、ショシャナが用いるのは手間暇をかけたフィルムでのメッセージと炎だ。この映画で一気呵成なヴァイオレンスシーンを繰り広げるのはショシャナだが、それは肉体を酷使するアクションではない。彼女が操るのはフィルムやスプライサーや映写機だけだ。そしてプレミア上映はショシャナ以外にも複数の思惑が交錯したことによって、甚大な被害をナチス陣営に与えることになる。
ここでも特殊部隊やレジスタンスの活動以外に、フレデリック・ツォラーの恋心がショシャナの復讐劇に別のドラマを生むことになる。フレデリックの熱烈さは復讐に燃えるショシャナに絶好の機会をもたらすと同時に、彼女の家族を殺したハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)との再会というショッキングな出来事も引き起こす。クライマックスでも彼はショシャナの企みの妨げとなる。フレデリックは執拗にショシャナを追い回し、プレミアの夜も最悪のタイミングで映写室に入り込もうとする。だがその後に起こる男女のアクシデントでは、ショシャナが思わず行動に出てしまった「復讐の邪魔だてを消す」行為だけにはとどまらず、敵とはいえ自分に恋している男を心配する心を起こしてしまう。ここで男女の姿を切り取る俯瞰のカメラワークは、とても悲劇的でロマンティックなものだ。タランティーノは『キル・ビル』や『ジャンゴ 繋がれざる者』(12年)においても、ドラマを持つ人物の死体の写し方が滅法うまい。いま活躍している監督の中で、死体の転がり方に毎回ハッとさせられ、落涙してしまう演出力ではタランティーノが最高峰だろう。その悲哀が本作においても、後を引く余韻のあるものとなる。

より生々しい暴力へ

 群像劇『ヘイトフル・エイト』(15年)の主要人物の中で、女性はジェニファー・ジェイソン・リー演じるデイジー・ドメルグだけだ。彼女は首に賞金をかけられた極悪人で、屈強でしたたかな賞金稼ぎの男たちを向こうに回して引けを取らない。
彼女が映画の中で振るうのは、汚い言葉や罵詈雑言による暴力である。デイジーは登場した時点ですでに目の周りにあざができており、賞金稼ぎのジョン・ルース(カート・ラッセル)に手ひどいやり方で捕らえられたのがわかる。それでも彼女は落ち着いており、新たに出会った賞金稼ぎのマーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)に、ニタニタと笑いながら「ニガー」と侮蔑的な呼びかけをする。住んでいる世界が元々暴力に満ちているから、殴られる恐怖の限界値が最初から無いに等しく、歯が折れるほど殴打されてもふてくされる程度の反応しか示さない。


© Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved. Artwork © 2015 The Weinstein Company LLC. AllRights Reserved.

 この映画の中で一番不穏な空気を放ち、殺人すら気にも留めない匂いがするのはデイジーだ。クセモノな俳優たちが揃い、それぞれの役柄が並々ならぬアウトローとしての背景を背負っている中で、拳をあげたり銃を撃ったりしないのに、一番暴力的な存在感を放つ女。平然と人を侮蔑し、窮地に立った人間にひとかけらも憐れみを抱かない、根っからの悪党という新たな暴力の体現である。これまでタランティーノが描いてきた女たちは、暴力を振るうにあたって、徐々にみずからの肉体を使う機会を減らしてきた。そして『ヘイトフル・エイト』は芸達者なジェニファー・ジェイソン・リーを迎えることで、ナイフのような言葉と、邪悪な人間はそこにいるだけで暴力性を醸しだす状態を描いた。
 女の首、という点でも本作は興味深い。殺人にまつわる「首」と「距離」は意味を持つ。手で首を絞めるという行為は当然至近距離で行われ、エロティックなプレイでも試す人々がいるほどだ。そもそも密接な姿勢には性的な気配が漂うのに、なおかつ殺すには凄まじい力が必要なため、殺人者は被害者と強いつながりを持つのは避けられない。それは恐ろしいほど、感触や感情に強い記憶を残すだろう。しかし絞首刑となると、ロープの介在は処刑人を死ぬ者から物理的に遠ざける。それは人の死を感覚に響かせないための冷酷な距離だ。映画においてはロープだけでなく、表現そのものもカメラがかなりの引きになったり、編集でショットが切り変わったりして、死ぬ過程を露骨に見せることは避けられる。
 だが『ヘイトフル・エイト』は処刑について、かなり踏み込んだ表現がされる。男が二人がかりでテコの原理を応用し、女の首にかけた縄をズルズルと引き上げていき吊るす。むごたらしいようだが、吊るされるデイジーはか弱く憐れな者という域を超えた邪悪さに満ちているので、観ていてもそういった心苦しさが少ない。カメラも近くて、彼女を引き上げるための労力が生々しい人の体重であるのを伝える。それと同時に、処刑のように落下での首吊りではないぶん、じりじりと引き上げられる姿は、彼女の邪悪さがまだ地から離れることを拒否するような悪魔的な重みに見える。デイジーの暴力性を見せるためには手段もカメラも編集も、ここまでしないと釣り合いがとれないほどなのだ。
 アクションは荒唐無稽なほど、スタントマンやCGの処理を漂わせて、誰が演じようと構わないものとなる。だからタランティーノの変化は面白い。スター俳優から、現実にそのアクションをできる女優、または女でも振るえる暴力という現実味への変遷。これは女性を描く際にフィクションへと追いやらず、男性と同じような存在としてキャラクターを見つめている証であると思う。

「デス・プルーフ」発売中。
Blu-ray 1,886円(税別)/ DVD 1,429円(税別)。
発売元:ブロードメディア・スタジオ
販売元:NBCユニバーサル
(C)2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.

『イングロリアス・バスターズ』
Blu-ray:1,886 円+税/DVD:1,429 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
Film (C)2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
**2018年6月の情報です。

『ヘイトフル・エイト』
価格:¥1,143(税抜)
発売・販売元:ギャガ
© Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved. Artwork © 2015 The Weinstein Company LLC. AllRights Reserved.

interview with Grimm Grimm - ele-king


Grimm Grimm - Cliffhanger
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 マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの頭脳、ケヴィン・シールズが彼の元恋人シャルロット・マリオンヌ(ル・ヴォリューム・クールブ)とともに設立したレーベル〈Pickpocket〉からデビューを果たし、いまはなきインディー・ロックの祭典《All Tomorrow's Parties》には2度も出演、その〈ATP〉レーベルからも音源をリリースしたことのある日本人がいるのをご存じだろうか。ある種の人にとっては、嫉妬すら覚えるような輝かしい経歴を持つ彼は、東京出身・ロンドン在住のマルチ・インストゥルメンタリスト、Grimm Grimmことコウイチ・ヤマノハ。彼の通算2枚目のアルバム『Cliffhanger』がリリースされた。

 前作『Hazy Eyes Maybe』よりおよそ2年半ぶりとなる本作は、ウィリアム・S・バロウズのカットアップ技法を彷彿とさせる散文詩や、いまにも消え入りそうなウィスパー・ヴォイス、童謡やバロックなどにも通じるどこか懐かしいメロディ、アコギやピアノによるシンプルなトラックによって構成された、フォーキーでサイケデリックなサウンド。前作に引き続き、盟友BO NINGENのKohei Matsudaが参加しシンセを奏でている他、様々なライヴやイベントで共演を重ねているシャルロットや、エクスペリメンタル・バンド、ブルー・オン・ブルーのディー・サダもヴォーカリストとしてフィーチャーするなど、前作よりもさらに深みのある内容に仕上がっている。

 ロンドンに移住してすぐ、スクリーミング・ティー・パーティーなるバンドを結成し、その後ソロでの活動を始めたヤマノハ。彼の生み出す、どこの国のどの時代の音ともいえないサウンドは、一体どこから来ているのだろうか。

ときどき、「人と人は、深いところでは繋がっているな」と思うことがあるんです。「無意識の領域」というか、そこにはポジティヴでもなくネガティヴでもない、ニュートラルな感情がある。

まずは、ヤマノハさんがイギリスへ移住した理由を教えてもらえますか?

コウイチ・ヤマノハ(以下ヤマノハ):特に理由はありませんでした。イギリスの音楽が好きだったというワケでもなくて、ただちょっと日本が窮屈だなと思うことはあったんですけど、でもそれも理由でもないから「何となく」っていう感じですかね。ただ、こっちでは音楽はやろうと思っていました。

かれこれ10年以上、暮らしているんですよね。こんなに長く住むと思っていました?

ヤマノハ:いや、思ってなかったですね。2年くらいしたら住む場所を変えるつもりだったのに、気づけばこんなに経ってしまいました(笑)。ロンドンって、やっぱりちょっとイギリスじゃない感じがあって。コスモポリタンというか、多国籍空間で、変人も多いですし(笑)。何年いても不思議で。ここ10年くらいでテレーサ・メイみたいな右翼政府に変わってきているっていうのもあって、いまだに自分はエイリアンだなと感じます。そういうところは東京と似ているのかもしれないけど、ロンドンの方が僕にとっては居心地が良かったんですよね。

ロンドンで最初に結成したバンド、スクリーミング・ティー・パーティーは、どうやって始まったのですか?

ヤマノハ:ロンドンに着いて、割とすぐにドラマーとベーシストを探していたんです。街のあちこちの壁や電柱にメンバー募集の紙を貼ったりして。で、たまたま通りかかったスタジオの前に女の子がいて、ドラムケースの上に座ってたんですよ。「彼女、ひょっとしてドラマーかな?」と思いつつ一度は通り過ぎたんですけど、戻って声をかけたらやっぱりドラマーで(笑)。たったいま、ドラマーをクビになって、ドラムセットを家に持ち帰るところだって言うんですね。それで、その場で仲良くなったのが最初のドラマー、イタリア人のテレーサ・コラモナコだったんです。もうひとり、日本にいるときからの友人ニイヤンがロンドンに来て。彼はギタリストだったので、僕がベースをやることにして3人でスタジオに入ったのが、スクリーミング・ティー・パーティーの始まりですね。

バンドは2006年から2010年まで活動し、その間メンバーチェンジもありつつ3枚のシングル(「Between Air and Air」「Holy Disaster」「I'd Rather Be Stuck On The Stair Rail」)と2枚のミニ・アルバム(『Death Egg』『Golden Blue』)をリリースしています。バンド解散後は、ヤマノハさんはすぐソロ活動を始めたのですか?

ヤマノハ:いや、そこから3年くらい空きました。その間はずっと作曲やフィールド・レコーディングにハマっていて、ヨーロッパの古い建物や廃墟へよく行ってましたね。で、あるときベルリン西部にある廃墟でふとGrimm Grimmのコンセプトを思いついたんです。その頃はすでに曲を書きためていて、それをどういう形にするかを思いついた。言葉で言うのは難しいんですけど……うーん、懐かしい感じ? 死ぬときや、生まれる時の感じというか。ときどき、「人と人は、深いところでは繋がっているな」と思うことがあるんです。「無意識の領域」というか、そこにはポジティヴでもなくネガティヴでもない、ニュートラルな感情がある。基本的に僕は、ハッピーな音楽を作りたいと思う人間なのですが(笑)、そういう「無意識の領域」を想起させるような音楽が作りたいんですよね。

確かに、Grimm Grimmの音楽を聴いていると「懐かしさ」みたいな感情をかき立てられるのですが、それって日本人だからこそ感じるものなのでしょうか。イギリスの人には、ヤマノハさんの音楽はどう受け止められていますか?

ヤマノハ:「懐かしさ」といっても、いわゆる「ノスタルジー」とは少し違うと思っていて。さっきの「生と死」じゃないですけど、過去と未来が繋がっているような感じというか。そこを目指しているんですが、海外でも伝わる人には伝わっているなと感じますね。

いまっぽい音でも、昔懐かしい音でもなく、どこの時代の音楽かも分からないような、そういうサウンドを目指しているのでしょうかね。

ヤマノハ:そうですね。いまある音楽を否定したり、無視したりするつもりは全然ないのですが、時代感のない、タイムレスなメロディやサウンドに個人的には惹かれます。今回ミックスをしてくれたベルリン在住のミュージシャン、エンジニアのゴー君(Nakada Goh;ケヴィン・マーティンのThe Bugのサウンド・エンジニア)は古い友人で、ミックスをする時は1曲ごとに、例えば「視聴覚室で吹奏楽部が練習しているのが遠くから聞こえる学校感」とか「海辺の病院」とか、アンビエントの雰囲気や想像の場所を伝えてサウンドを決めていきました。

歩いていたら、ケヴィン(・シールズ)がいつもお金をあげてるホームレスたちが目的地のケバブ屋までついてきちゃった、ということがありました(笑)。一度に20ポンド(2800円)くらい平気であげちゃうから、みんな顔を覚えてるんですよ。

そもそも、曲作りをする上でヤマノハさんが影響を受けた人というと、誰になるのですか?

ヤマノハ:ここ5年くらいは、未来派の絵画などに刺激をもらっていると思うんですけど、音楽でいうと誰なんだろう。うーん、わかんないですね。ムーンドッグとかはいまでもよく聴いてます。あとはヴァシティ・バニアンとかの曲にあるメロディの永遠性に惹かれます。サイケフォークとか、そういうステレオタイプの定義ではなくて、なんというかどんなジャンルの音楽やコメディや建物や椅子でさえも、生死感が根底にうっすらあるものに影響を受けます。

童謡や、バロック音楽の影響もあるような気がします。

ヤマノハ:グレン・グールドが弾く、オルガンのバッハとかは昔から好きですね。あの「建築感」というか。それこそ過去と現在と未来が繋がっているような気がしますね。

2014年の夏には〈Pickpocket Records〉(マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズと、ル・ヴォリューム・クールブのシャルロット・マリオンヌが共同設立したレーベル)からシングルをリリースしていますよね。彼らとの出会いは?

ヤマノハ:元々僕は、シャルロットがやっているル・ヴォリューム・クールブが好きだったんですね。ロンドンに着いて、初めて友人に借りたCDが彼女のファーストで。「ベスト・フレンドを殺した」というタイトルの作品でした。それから7年ほど経ったとき、偶然入った近所の中古レコード屋で彼女が店員をしていて。それで話しかけたのがきっかけとなって仲良くなったんです。ケヴィンは、シャルロットに紹介されて知り合いました。みんな、イメージと違ってとても気さくな人たちです。

もうすぐMBVの活動が再開されますが、最近ケヴィンには会いました?

ヤマノハ:ひと月くらい前に、ダイナソーJr.がロンドンでライヴをやって、もともとJとケヴィンは兄弟みたいに仲が良くて、そのときに誘ってくれました。終演後、シャルロットも含めみんなでご飯を食べに行くことになって。カムデン・タウンを歩いていたら、ケヴィンがいつもお金をあげてるホームレスたちが目的地のケバブ屋までついてきちゃった、ということがありました(笑)。一度に20ポンド(2800円)くらい平気であげちゃうから、みんな顔を覚えてるんですよ。あ、ミュージシャンやってるケヴィンだ! って。

ケヴィンらしいエピソードですね(笑)。Grimm Grimmは、2015年と2016年の《All Tomorrow's Parties Iceland》にも出演していますよね。

ヤマノハ:はい。バリー・ホーガン(ATP主催者)は、たまたま飲みに行ったバーのカウンターで隣どうしになって。話してみたら、友人の友人だったりして、結構見えないところにある横のつながりに気づいたりしますね。ATPは問題児の集まりみたいな(笑)。子供がそのまま大人になったみたいな人たちばかりで、そういうところが好きでしたね。もちろん、ビジネスなんだけど、それを超えたところでやっているというか。そういう人たちは、会った瞬間に分かりますね。「この人とは仲良くなれそうだな」っていうのは、シャルロットにもケヴィンにもバリーにも、〈Stolen Recordings〉(スクリーミング・ティー・パーティーが所属していたレーベル)の人たちにも感じました。

Grimm Grimmとル・ヴォリューム・クールブは、よく一緒にイベントをやっているみたいですね。

ヤマノハ:ええ。ここ数年でシャルロットとは親友になって、ル・ヴォリューム・クールブ VS Grimm Grimmというユニットでお互いの曲を演奏しあうプロジェクトもしています。彼女は交友関係が広くて、特に90年代のいろんなミュージシャンと繋がることができました。10代のときに聴いていたマジー・スターのホープ・サンドヴァルや、ジーザス・アンド・メリーチェインの人たちとか。アラン・マッギー。刺激を受けることもたくさんあります。

彼女はいま、ノエル・ギャラガーと一緒にツアー回っているんですよね?

ヤマノハ:そう! あれは本当にビックリしましたね(笑)。ノエルのプロデューサー、デヴィッド・ホルムズがシャルロットの友人でもあり、それが縁で参加することになったみたいです。彼女は特に楽器が上手いわけでもなくて、主にコーラスとして参加することになったんですね。でも、「何かしら弾けた方がいいよね」っていう話になって、僕のところに相談に来たんです。「どうしよう?」って。それで、「ハサミの音で参加するのはどう?」って提案したんですよ。

(笑)。

ヤマノハ:僕は、ハサミの音が前からすごく好きだったので、パーカッション代わりに使ったらどうだろう? と思って。最初シャルロットは「ええ? ハサミ?」っていうリアクションだったけど、結局ライヴでやることになって。そしたら映像としてもハサミと女の人で、黒いオカルトっぽくてインパクトあるじゃないですか(笑)。一気に話題になって。ジュールズ・ホランドに出演したのが大きかったのかな(https://www.youtube.com/watch?v=iwV1lKNA0wU)。あれで炎上しちゃったんですよね。

リアム・ギャラガーも苛ついてましたよね(笑)。

ヤマノハ:いろいろと大変だったみたいですよ。オアシスのフーリガンみたいなファンから脅迫メールが来たりして。「ちゃんと楽器を弾きやがれ!」とか。ちょっと変わった子っぽく映っちゃったからか、風貌を中傷するような書き込みとかもあって。彼女自身は全く気にしてなくて、いまの状況を楽しんでますけどね。

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自分を含め周りにいる人たちの人生は、崖にぶら下がっているみたいだなって思ったところからですね(笑)。あと、崖からぶら下がっているような、クライマックスのいちばんいいところで「来週に続く」みたいに終わることを「cliffhanger」というらしくて。


Grimm Grimm - Cliffhanger
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それを聞いて安心しました。さて、Grimm Grimmの最新作『Cliffhanger』ですが、こちらはどのようにして生み出されたのですか?

ヤマノハ:アルバムは、この2、3年いろんなことがあったのとリンクしている部分はある気がします。親しかった友人が亡くなったり、生死をいままで以上に身近に感じました。それについて書いた曲がタイトル曲なのですが、そこからアルバムの構想が膨らんでいきました。それと今回は「いままでで以上に正直に作ろう」と思いました。前作よりも、 自分のいちばん弱い部分が剥き出しになって、結果的に張り詰めた雰囲気が出たというか。音数もだいぶ少なくなっているんですけど、「引き算」で音楽を作っていくのが楽しかったですね。

アルバム・タイトルはどこから来ていますか?

ヤマノハ:さっきの話じゃないですが、自分を含め周りにいる人たちの人生は、崖にぶら下がっているみたいだなって思ったところからですね(笑)。まあ、半分ジョークですが。あと、海外では映画のシリーズものとかで、崖からぶら下がっているような、クライマックスのいちばんいいところで「来週に続く」みたいに終わることを「cliffhanger」というらしくて。60年代に生まれた言葉で、それとかかっているのも面白いなと思いました。

ヤマノハさんは崖からぶら下がっているような人生ですか?(笑)

ヤマノハ:(笑)。きっと多かれ少なかれ、みんなそう感じるときはあるんじゃないかなと思います。もがいたり足掻いたりしながら誰もが生きていると思うし。「苦難があってこその人生」という風に、ポジティヴに受け止めて生きた方がいいんじゃないですかね。例えば、人生において不安はつきものだと思うんですけど、僕は「不安」はいいことだと思っていて。それを乗り越える力があれば、それこそ幸せだなと思うんです。

心強い言葉です。ちなみにタイトル曲は、ディー・サダという女性ヴォーカルをフィーチャーしています。

ヤマノハ:その曲は、いろいろとアレンジを試しながら何度かレコーディングしてみたんですが、なんか上手くいかなくて。ディーにヴォーカルをお願いして、歌とアコギだけのアレンジにしたらいい感じになったんです。彼女はブルー・オン・ブルーという、ロンドンのエクスペリメンタル・バンドに所属するネパール系女性ミュージシャンです。友人でもあるのですが、彼女の声が僕はすごく好きなんですよね。

ほんと、ジュディ・シルの未発表曲みたいな美しさがありますよね。

ヤマノハ:嬉しいです。このメロディが、頭のなかでずっと繰り返し流れていて、それを携帯のボイスメモに録っておいて後から歌詞を付けました。難しかったのは、普通にアレンジしたらポップになり過ぎてしまう曲だったこと。自分のなかにも、そういう邪念というか(笑)、「サビでもっと盛り上げて……」みたいなポップスの定石を、ついつい踏襲したくなる。悪魔のささやきですね。でも、何度か試しているうちに「あ、これ全部要らないや」と気づき、それでナイロン・ギターと歌だけにしたんです。

来日したとき、ライヴでも披露していた“Final World War”は、スクリーミング・ティー・パーティー時代にリリースした曲なんですよね?

ヤマノハ:この曲は、演奏しているうちに自分のなかで意味が変わってきたというか。最初に作ったときは「世界が滅亡して、それでもまだ流れている音楽」というイメージだったんですね。あるいは「事故で大破した車のカーステから流れている音楽」というか。ほんと、タイトル通り「世界最終戦争」という感じだったんですけど、いまは演奏していると、「最後の戦争が終わって、平和な世界が訪れるように生きる」というポジティヴな光景が目に浮かんでくるようになった。なので今回は、その解釈でレコーディングしたいなと思ったんです。

廃墟というとネガティヴな印象を持つ人もいると思うんですけど、僕のなかではポジティヴなイメージ。朽ちたままそこに存在している姿に、恋してしまったようなドキドキする感情を掻き立てられるんですよね。

そういう、ヤマノハさんの気持ちの変化はなぜ訪れたんでしょう。

ヤマノハ:特に何か、大きなキッカケがあったわけじゃないんですけどね。生きていく上で、ポジティヴに考えなければどうしようもないときってあるじゃないですか。新聞でやりきれない悲しいニュースとか読んだりしていて、そう感じることが多くなってきたのかもしれないですね。ただ、いまだにあの曲をやり続けている意味は、自分でもよく分からないんですよね(笑)。まあ、気に入ってる曲なんだと思います。演奏していて、気持ちがニュートラルになるというか。

もう1曲、スクリーミング・ティー・パーティー時代の“Shayou”も収録されています。これって、太宰治の『斜陽』と関係あります?

ヤマノハ:よく言われるんですけど、恥ずかしながらその本のこと知らなかったんですよ(笑)。最近まで読んだことがなかったんですけど、日本人の友人が帰国するときに本をたくさんくれて、そのなかに『斜陽』もあって読みました。ただこの曲は、ブダペストの工業地帯にある廃墟へ行ったとき、朽ちた建物の隙間から太陽光線がバーっと降っていて、その光景を見たときに思いついたものです。

お話を聞いていると、ヤマノハさんにとって「廃墟」はインスピレーションの源ようですよね?

ヤマノハ:そうかもしれない。廃墟というとネガティヴな印象を持つ人もいると思うんですけど、僕のなかではポジティヴなイメージ。朽ちたままそこに存在している姿に、恋してしまったようなドキドキする感情を掻き立てられるんですよね。ロンドン東部にカナリー・ワーフという、ウォーターフロント再開発地域があるんですけど、妙な未来感があってそこを歩いていていてもなぜか同じ気分になります。巨大建築物ってなんか切なくて。

ひとつとして同じ形のものはないですしね。人工的な建築物が、朽ちて自然と同化していく感じも好きです。

ヤマノハ:そう。他の惑星の生物のことを思ったりしますね。もっとわかりやすく言えば、廃墟は『天空の城ラピュタ』みたいな感じかな。

“Shayou”のシンセは、Bo NingenのKohhei Matsudaさんが弾いているんですよね。

ヤマノハ:はい。隣の部屋に住む彼に来てもらって(笑)、同じシンセを2台並べて一緒に弾きました。試し録りをそのまま使っています。イメージとしては、「小学校の屋上」みたいな感じ……(笑)? なんか小学校の屋上って、なんとも言えない無機質で巨大な非日常感があったと思うんです。あまり頻繁には行かないし。晴れた空が広がる、永遠に終わらない真っ青な空間というか。言葉にならない異世界感というか。

“Hybrid Moments”は、アメリカのホラー・パンク・バンド、ミスフィッツのアコースティック・カヴァーです。Grimm Grimmでは、カヴァーって他にもやりますか?

ヤマノハ:たまに。森田童子の歌や“ムーン・リヴァー”をやってます。そういえば森田さん、亡くなっちゃいましたね。日本に住んでいるときによく聴いている時期があって、童子好きが集まるイベントに出たことがあるんです。「森田童子の曲を演奏する」という内容だったのだけど、そのときに、ものすごく彼女に似ている声の人がいたんです。異様に張り詰めた雰囲気がある人で「あれは一体誰だったんだろう」って言い合っていたんですけど、どうやら本人だったらしく。

ええ?

ヤマノハ:そうなんです。名前も変えて。で、みんなが気がついたときには、すでにいなくなってた。後日手紙が送られてきて、「いま、童子は横にいます」と書いてあった。超現実的で、白昼夢のような体験でした。

不思議な体験ですね……。でも確かに、Grimm Grimmと森田童子のメロディには、どことなく通じるものがある気がします。前作『Hazy Eyes Maybe』に収録されていた“Kazega Fuitara Sayonara”とか。

ヤマノハ:あ、本当ですか。童子の歌って、飲み屋とかバーで流れたら、それまで賑やかだった場がしんと静まりかえってしまうような、空気を一変させる力がありますよね。そこが僕はとても好きです。歌詞の世界も、根本的というか。恋愛だけじゃない精神世界的な何かがあって。

ところでヤマノハさんは、歌詞でどんなことを書きたいですか?

ヤマノハ:10代の頃って英詞の内容がわからないまま音楽聴いていて。いま思うと、英詩とかを日本語にするっていう翻訳の作業は、本当のところ繊細すぎてほとんど不可能みたいなことだと思うんです。その若干間違った歌詞翻訳を読んだりして、辻褄の合わない雰囲気、距離感に影響を受けました。僕は、歌詞の内容より音の響きや音質の方にプライオリティがあって。歌詞は散文詩じゃないですけど、1行ずつ考えていくので繋げたときに意味がなくなることも多いんですね。それでも、メロディと一緒に聴いたときに何かイメージが想起されればそれでいい。そういう歌詞の方が、聴き手のイメージが限定されず、いろいろと湧いてきたりすると思うんですよね。

ウィリアム・S・バロウズのカットアップという技法に似ている部分があります。“Orange Coloured Everywhere”の、ナレーションみたいな声は?

ヤマノハ:タイトル曲でゲスト参加してくれたディーや、友人たちに喋ってもらいました。もともとこれは、デイジー・ディッキンソンという映像作家の『Blue But Pale Blue』という短編映画の作品のために作った曲なんです。

シャルロットが参加している“Si”は、日本語の「死」という意味?

ヤマノハ:いえ、フランス語で「if」という意味です。シャルロットと会って、一緒に作った曲なんですが、僕がメロディを考え、彼女が歌詞を付けてくれました。

今後はどんな活動展開を考えていますか?

ヤマノハ:7月にジュネーヴにあるCERN(セルン)という欧州合同原子核研究機関でライヴをする予定があります。スティーヴン・W・ホーキング博士が「ビッグバン・セオリー」を研究していた巨大なドームで、普段滅多に演奏できるところではないのですごく楽しみです。メンバーと一緒にドラムマシンやシンセを使って取り組んでいて。そこからインスピレーションを受けながらアルバムの準備をしています、いまはドラムマシンで曲を作っていますね。

へえ、じゃあまた違った雰囲気の作品になるかもしれないですね。

ヤマノハ:最終的には、今作よりももっと削ぎ落としたものになるかもしれないですけど。逆にチェロやホーンを入れたり、いろんなことができたらいいなと思案中です。いずれにせよベーシックな作曲の部分は変わらないと思いますね。

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