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Hope Sandoval And The Warm Inventions

EtherealShoegaze

Hope Sandoval And The Warm Inventions

Until The Hunter

Tendril Tales

Amazon

野田努   Dec 21,2016 UP

 音楽がなしうる最良なことはなんでしょう? という質問をぼくはミュージシャン相手によくする。自分の意識を変える、気づきに契機になる……いろいろな人がいろいろな意見を述べる。どれも正しいと思うけれど、いまぼく自身がその質問に答えるなら、まずそれは酔えるからと言うだろう。生産的ではないし、それでは変革など起こらない。だが、ぼくが音楽を好きになったのは、陶酔できるからだった。学校や家のこともすべて忘れることができる。パンク・ロックも何かをしでかそうと、政治的な関心から聴いたわけではない。最初のうちは、ハマっていたかっただけ。音楽は最高のシェルターである。
 
 ホープ・サンドヴァルはそういうシンガーだ。彼女が歌えば景色は変わる。部屋は違う世界になる。すべてを忘れ、音のなかに沈むことができる。サンドヴァルは90年代にマジー・スターとして過ごした後、ザ・ウォーム・インヴェンションズの力を借りて、2001年に『Bavarian Fruit Bread』という名盤を発表している。ぼくはこのアルバムの素晴らしさをいつでも簡単に説明できる。これほど黄昏が似合う音楽はないと。知らない人は“On The Low”という曲を聴いてくれればいい。
 それから彼女は2009年にもアルバムを出しているだけれど、残念なことに前作ほど印象的なものではなかった。彼女の気体めいた声は変わらずも、決定的な旋律に乏しく、黄昏どきには『Bavarian Fruit Bread』をふたたび訪ねるしかなかった。
 なので、7年ぶりの3枚目『Until The Hunter』にも疑念がなかったわけではない。しかしCD購入にはなんの迷いはなかった。ホープ・サンドヴァルの新作なのだから。
 話は変わるが、サンドヴァルは、ここ数年、地味に作品を出している。たとえばマジー・スターとしてのシングルは2014年に出したり、2016年にはマッシヴ・アタックの新曲にもフィーチャーされていた。マッシヴ・アタックはこれで2回目の起用。彼女とマッシヴ・アタックが組むとはそれはもう黄昏どころではない。インクのように黒い真夜中になる。生きていれば、そのぐらいのほうが相応しい夜もある。
 
 結果からいえば『Bavarian Fruit Bread』にはおよばないものの、『Until The Hunter』には前作よりも佳曲が揃っている。良いアルバムだし、もし君がまだ彼女の音楽を知らないという、じつにもったいない人生を歩んでいるなら、最初の1枚として聴くのもアリだ。この、歌とギターのアルバムを──
 2曲目の“ The Peasant”におけるアコースティック・ギターとスライドギターの序奏を聴いたとき、たぶん、ほとんどのファンは嬉しかったはずだ。特筆すべき曲は、ほかに4曲目の“Let Me Get There”。カート・ヴァイルとのデュエット曲で、ふたりがハモるメロディはアルバム中もっとも滑らかで、キャッチーだと言える。それはひとりでとことん悦にいる類の光沢だ。
 アルバムで最高の曲は、“The Hiking Song”。間違いない。アコースティック・ギターのアルペジオは完璧なファンタジーを用意して、サンドヴァルの美しい歌声を迎え入れる。さあ丘に登って──と彼女は歌っている。何もかも忘れて丘に登ろうじゃないか。

野田努