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interview with Grimm Grimm

interview with Grimm Grimm

朽ちた廃墟に恋をして

──グリム・グリム、インタヴュー

取材・文:黒田隆憲    Jun 29,2018 UP

Grimm Grimm - Cliffhanger
MAGNIPH / ホステス

PsychedelicFolkDroneIndie Pop

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 マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの頭脳、ケヴィン・シールズが彼の元恋人シャルロット・マリオンヌ(ル・ヴォリューム・クールブ)とともに設立したレーベル〈Pickpocket〉からデビューを果たし、いまはなきインディー・ロックの祭典《All Tomorrow's Parties》には2度も出演、その〈ATP〉レーベルからも音源をリリースしたことのある日本人がいるのをご存じだろうか。ある種の人にとっては、嫉妬すら覚えるような輝かしい経歴を持つ彼は、東京出身・ロンドン在住のマルチ・インストゥルメンタリスト、Grimm Grimmことコウイチ・ヤマノハ。彼の通算2枚目のアルバム『Cliffhanger』がリリースされた。

 前作『Hazy Eyes Maybe』よりおよそ2年半ぶりとなる本作は、ウィリアム・S・バロウズのカットアップ技法を彷彿とさせる散文詩や、いまにも消え入りそうなウィスパー・ヴォイス、童謡やバロックなどにも通じるどこか懐かしいメロディ、アコギやピアノによるシンプルなトラックによって構成された、フォーキーでサイケデリックなサウンド。前作に引き続き、盟友BO NINGENのKohei Matsudaが参加しシンセを奏でている他、様々なライヴやイベントで共演を重ねているシャルロットや、エクスペリメンタル・バンド、ブルー・オン・ブルーのディー・サダもヴォーカリストとしてフィーチャーするなど、前作よりもさらに深みのある内容に仕上がっている。

 ロンドンに移住してすぐ、スクリーミング・ティー・パーティーなるバンドを結成し、その後ソロでの活動を始めたヤマノハ。彼の生み出す、どこの国のどの時代の音ともいえないサウンドは、一体どこから来ているのだろうか。

ときどき、「人と人は、深いところでは繋がっているな」と思うことがあるんです。「無意識の領域」というか、そこにはポジティヴでもなくネガティヴでもない、ニュートラルな感情がある。

まずは、ヤマノハさんがイギリスへ移住した理由を教えてもらえますか?

コウイチ・ヤマノハ(以下ヤマノハ):特に理由はありませんでした。イギリスの音楽が好きだったというワケでもなくて、ただちょっと日本が窮屈だなと思うことはあったんですけど、でもそれも理由でもないから「何となく」っていう感じですかね。ただ、こっちでは音楽はやろうと思っていました。

かれこれ10年以上、暮らしているんですよね。こんなに長く住むと思っていました?

ヤマノハ:いや、思ってなかったですね。2年くらいしたら住む場所を変えるつもりだったのに、気づけばこんなに経ってしまいました(笑)。ロンドンって、やっぱりちょっとイギリスじゃない感じがあって。コスモポリタンというか、多国籍空間で、変人も多いですし(笑)。何年いても不思議で。ここ10年くらいでテレーサ・メイみたいな右翼政府に変わってきているっていうのもあって、いまだに自分はエイリアンだなと感じます。そういうところは東京と似ているのかもしれないけど、ロンドンの方が僕にとっては居心地が良かったんですよね。

ロンドンで最初に結成したバンド、スクリーミング・ティー・パーティーは、どうやって始まったのですか?

ヤマノハ:ロンドンに着いて、割とすぐにドラマーとベーシストを探していたんです。街のあちこちの壁や電柱にメンバー募集の紙を貼ったりして。で、たまたま通りかかったスタジオの前に女の子がいて、ドラムケースの上に座ってたんですよ。「彼女、ひょっとしてドラマーかな?」と思いつつ一度は通り過ぎたんですけど、戻って声をかけたらやっぱりドラマーで(笑)。たったいま、ドラマーをクビになって、ドラムセットを家に持ち帰るところだって言うんですね。それで、その場で仲良くなったのが最初のドラマー、イタリア人のテレーサ・コラモナコだったんです。もうひとり、日本にいるときからの友人ニイヤンがロンドンに来て。彼はギタリストだったので、僕がベースをやることにして3人でスタジオに入ったのが、スクリーミング・ティー・パーティーの始まりですね。

バンドは2006年から2010年まで活動し、その間メンバーチェンジもありつつ3枚のシングル(「Between Air and Air」「Holy Disaster」「I'd Rather Be Stuck On The Stair Rail」)と2枚のミニ・アルバム(『Death Egg』『Golden Blue』)をリリースしています。バンド解散後は、ヤマノハさんはすぐソロ活動を始めたのですか?

ヤマノハ:いや、そこから3年くらい空きました。その間はずっと作曲やフィールド・レコーディングにハマっていて、ヨーロッパの古い建物や廃墟へよく行ってましたね。で、あるときベルリン西部にある廃墟でふとGrimm Grimmのコンセプトを思いついたんです。その頃はすでに曲を書きためていて、それをどういう形にするかを思いついた。言葉で言うのは難しいんですけど……うーん、懐かしい感じ? 死ぬときや、生まれる時の感じというか。ときどき、「人と人は、深いところでは繋がっているな」と思うことがあるんです。「無意識の領域」というか、そこにはポジティヴでもなくネガティヴでもない、ニュートラルな感情がある。基本的に僕は、ハッピーな音楽を作りたいと思う人間なのですが(笑)、そういう「無意識の領域」を想起させるような音楽が作りたいんですよね。

確かに、Grimm Grimmの音楽を聴いていると「懐かしさ」みたいな感情をかき立てられるのですが、それって日本人だからこそ感じるものなのでしょうか。イギリスの人には、ヤマノハさんの音楽はどう受け止められていますか?

ヤマノハ:「懐かしさ」といっても、いわゆる「ノスタルジー」とは少し違うと思っていて。さっきの「生と死」じゃないですけど、過去と未来が繋がっているような感じというか。そこを目指しているんですが、海外でも伝わる人には伝わっているなと感じますね。

いまっぽい音でも、昔懐かしい音でもなく、どこの時代の音楽かも分からないような、そういうサウンドを目指しているのでしょうかね。

ヤマノハ:そうですね。いまある音楽を否定したり、無視したりするつもりは全然ないのですが、時代感のない、タイムレスなメロディやサウンドに個人的には惹かれます。今回ミックスをしてくれたベルリン在住のミュージシャン、エンジニアのゴー君(Nakada Goh;ケヴィン・マーティンのThe Bugのサウンド・エンジニア)は古い友人で、ミックスをする時は1曲ごとに、例えば「視聴覚室で吹奏楽部が練習しているのが遠くから聞こえる学校感」とか「海辺の病院」とか、アンビエントの雰囲気や想像の場所を伝えてサウンドを決めていきました。

歩いていたら、ケヴィン(・シールズ)がいつもお金をあげてるホームレスたちが目的地のケバブ屋までついてきちゃった、ということがありました(笑)。一度に20ポンド(2800円)くらい平気であげちゃうから、みんな顔を覚えてるんですよ。

そもそも、曲作りをする上でヤマノハさんが影響を受けた人というと、誰になるのですか?

ヤマノハ:ここ5年くらいは、未来派の絵画などに刺激をもらっていると思うんですけど、音楽でいうと誰なんだろう。うーん、わかんないですね。ムーンドッグとかはいまでもよく聴いてます。あとはヴァシティ・バニアンとかの曲にあるメロディの永遠性に惹かれます。サイケフォークとか、そういうステレオタイプの定義ではなくて、なんというかどんなジャンルの音楽やコメディや建物や椅子でさえも、生死感が根底にうっすらあるものに影響を受けます。

童謡や、バロック音楽の影響もあるような気がします。

ヤマノハ:グレン・グールドが弾く、オルガンのバッハとかは昔から好きですね。あの「建築感」というか。それこそ過去と現在と未来が繋がっているような気がしますね。

2014年の夏には〈Pickpocket Records〉(マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズと、ル・ヴォリューム・クールブのシャルロット・マリオンヌが共同設立したレーベル)からシングルをリリースしていますよね。彼らとの出会いは?

ヤマノハ:元々僕は、シャルロットがやっているル・ヴォリューム・クールブが好きだったんですね。ロンドンに着いて、初めて友人に借りたCDが彼女のファーストで。「ベスト・フレンドを殺した」というタイトルの作品でした。それから7年ほど経ったとき、偶然入った近所の中古レコード屋で彼女が店員をしていて。それで話しかけたのがきっかけとなって仲良くなったんです。ケヴィンは、シャルロットに紹介されて知り合いました。みんな、イメージと違ってとても気さくな人たちです。

もうすぐMBVの活動が再開されますが、最近ケヴィンには会いました?

ヤマノハ:ひと月くらい前に、ダイナソーJr.がロンドンでライヴをやって、もともとJとケヴィンは兄弟みたいに仲が良くて、そのときに誘ってくれました。終演後、シャルロットも含めみんなでご飯を食べに行くことになって。カムデン・タウンを歩いていたら、ケヴィンがいつもお金をあげてるホームレスたちが目的地のケバブ屋までついてきちゃった、ということがありました(笑)。一度に20ポンド(2800円)くらい平気であげちゃうから、みんな顔を覚えてるんですよ。あ、ミュージシャンやってるケヴィンだ! って。

ケヴィンらしいエピソードですね(笑)。Grimm Grimmは、2015年と2016年の《All Tomorrow's Parties Iceland》にも出演していますよね。

ヤマノハ:はい。バリー・ホーガン(ATP主催者)は、たまたま飲みに行ったバーのカウンターで隣どうしになって。話してみたら、友人の友人だったりして、結構見えないところにある横のつながりに気づいたりしますね。ATPは問題児の集まりみたいな(笑)。子供がそのまま大人になったみたいな人たちばかりで、そういうところが好きでしたね。もちろん、ビジネスなんだけど、それを超えたところでやっているというか。そういう人たちは、会った瞬間に分かりますね。「この人とは仲良くなれそうだな」っていうのは、シャルロットにもケヴィンにもバリーにも、〈Stolen Recordings〉(スクリーミング・ティー・パーティーが所属していたレーベル)の人たちにも感じました。

Grimm Grimmとル・ヴォリューム・クールブは、よく一緒にイベントをやっているみたいですね。

ヤマノハ:ええ。ここ数年でシャルロットとは親友になって、ル・ヴォリューム・クールブ VS Grimm Grimmというユニットでお互いの曲を演奏しあうプロジェクトもしています。彼女は交友関係が広くて、特に90年代のいろんなミュージシャンと繋がることができました。10代のときに聴いていたマジー・スターのホープ・サンドヴァルや、ジーザス・アンド・メリーチェインの人たちとか。アラン・マッギー。刺激を受けることもたくさんあります。

彼女はいま、ノエル・ギャラガーと一緒にツアー回っているんですよね?

ヤマノハ:そう! あれは本当にビックリしましたね(笑)。ノエルのプロデューサー、デヴィッド・ホルムズがシャルロットの友人でもあり、それが縁で参加することになったみたいです。彼女は特に楽器が上手いわけでもなくて、主にコーラスとして参加することになったんですね。でも、「何かしら弾けた方がいいよね」っていう話になって、僕のところに相談に来たんです。「どうしよう?」って。それで、「ハサミの音で参加するのはどう?」って提案したんですよ。

(笑)。

ヤマノハ:僕は、ハサミの音が前からすごく好きだったので、パーカッション代わりに使ったらどうだろう? と思って。最初シャルロットは「ええ? ハサミ?」っていうリアクションだったけど、結局ライヴでやることになって。そしたら映像としてもハサミと女の人で、黒いオカルトっぽくてインパクトあるじゃないですか(笑)。一気に話題になって。ジュールズ・ホランドに出演したのが大きかったのかな(https://www.youtube.com/watch?v=iwV1lKNA0wU)。あれで炎上しちゃったんですよね。

リアム・ギャラガーも苛ついてましたよね(笑)。

ヤマノハ:いろいろと大変だったみたいですよ。オアシスのフーリガンみたいなファンから脅迫メールが来たりして。「ちゃんと楽器を弾きやがれ!」とか。ちょっと変わった子っぽく映っちゃったからか、風貌を中傷するような書き込みとかもあって。彼女自身は全く気にしてなくて、いまの状況を楽しんでますけどね。

取材・文:黒田隆憲(2018年6月29日)

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