「UR」と一致するもの

interview with Levon Vinent - ele-king

 バラク・オバマのアメリカにおける歴史。そこには、彼がフランキー・ナックルズの訃報を受け、偉大なるDJの家族へ哀悼の意を表する手紙を送った瞬間が刻まれている。この8年間、もしかしたら落胆しか感じなかった人びとの方が多かったのかもしれないが、アンダーグラウンドの祝祭的象徴であるハウスを聴く大統領の出現を予期できた者が10年前にどれだけいただろう。このインタヴューに出てくるアンディ・ウォーホルのかの有名なコーク(コーラ)に関するコメントは、資本主義がもたらす均一化への鋭いクリティークだ。大統領も街角のホームレスも、そして君も同じコークを飲む。ウォーホルのTシャツにレヴォン・ヴィンセントが袖を通す理由、それはこの言葉への共感に他ならない、と僕は勝手に確信している(詳細は本文を読まれたい)。
 90年代前半、グラフィティ・ペインター、スケーター、スコッターがひしめいていたニューヨークのマンハッタン。そのダンスミュージックの中心地でジョー・クラウゼルやシカゴのロン・トレントがセンセーションを巻き起こしていたとき、ティーンエイジャーのヴィンセントはDJとしての実力をめきめきと伸ばしていた。監視カメラの導入やルドルフ・ジュリアーニ市政が牙を剥き、街の表情が豹変してしまったときも、男はニューヨークを離れることはなかった。しかし、DJができる場所の数は激減し、マンハッタンのクラブ・カルチャーには冬が訪れた。このタイミングで彼は大学で作曲を学ぶ道を選択する。そして、その音のレンズはダンスフロアからジャズ、古代ギリシア、現代音楽へと視野を広げていくことになるのだ。
 シーンに戻ってきた2002年、自身初のレーベル〈More Music NY〉を始動させたヴィンセントにとって全てが順風満帆に動いていたわけではない。彼が注目を集めるのは2008年の〈Novel Sound〉と〈Deconstruct Music〉まで待たなければいけないのだが、そこからの跳躍がすごかった。ニューヨークの伝統とエレクトロニック・ミュージックの歴史が混在する、ディスクリートかつ深淵なミニマリズムと卓越したメロディ・センス。その斬新なサウンドは、同じく東海岸出身のジャス・エド、DJ QU、フレッドP、ジョーイ・アンダーソンらとともに世界のフロアをわかせた。UKのぺヴァラリストやピアソン・サウンドらによってヴィンセントのトラックがプレイされたとき、別の世界を知ったダブステップ世代の若者だっている。2010年に彼はベルリンへ移住し、そのシーンのトップDJであるマルセル・デットマンとも作品を発表した。


Levon Vincent
Novel Sound/Pヴァイン

HouseTechno

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Levon Vincent - Rarities
Pヴァイン

HouseTechno

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 徹底したインディペンデント・スピリットに裏打ちされたその活動も忘れてはいけない。友人のレコード職人と制作する毎回数枚しかレコード店に現れないシングル。“The Media Is The Message”や “Reves/Cost”など何かを物語るラベル上にスタンプされた曲名。デジタル時代における音楽メディアのあり方も、ヴィンセントは提示し続ける。2015年にフリー・ダウンロードと4枚組の12インチでリリースされたファースト・アルバムが多くの音楽サイトに絶賛されたことも記憶に新しい。2016年には日本限定コンピレーション『Rarities』もリリースされた。
 2016年10月、DJのためロンドンを訪れたレヴォン・ヴィンセントに僕は話を聞く機会を得た。そのとき、閉鎖していたロンドンの名門クラブであるファブリックの運営再開は霧の中で、不動産王はまだ候補席に鎮座していて、デヴィッド・マンキューソは存命だった。一寸先の未来は闇どころかブラックホールである今日、アンダーグラウンドのパイオニアは何を思い作曲し、音楽をどう捉え、それを取り巻く状況について何を思うのか。以下お届けするのはその記録である。場所はイースト・ロンドン、ショーディッチのカフェ。待ち合わせのホテルのロビーに僕が到着したとき、ヴィンセントの手元には活動家マヤ・アンジェロウの自伝『歌え、翔べない鳥たちよ』があった。

毎週新しい技術が生まれて学ぶことがたくさるある。というよりも、人は学ぶことを止めることができないだろう。60年代の現代音楽家のアルヴィン・ルシエールは脳波から音楽を作り出したけど、頭にUSBケーブルを繋いで作曲をする時代が本当に来るのかもしれない。

あなたのDJキャリアのスタートは16歳と、かなり早いですよね。

LV:ああ、92、93年頃の話だね。その頃、俺は地元でDJとしてそれなりに成功していた。だけど94年にジュリアーニがニューヨーク市長に当選すると、法律が改正されてDJの活動がかなり制限されてしまった。日本のクラブの状況と似たものかもしれない。

ジュリアーニ市政下におけるゼロ・トレランスなどの一連の「治安回復政策」ですね(注:警察官を増員し、犯罪取り締まりの強化、ホームレス排除、クラブの摘発などを行った)。

LV:あの法律によって、ニューヨークの多くのクラブDJたちが職を失ったんだ。俺は活動できる場所を求めて寿司レストランなんかでもプレイしていたな。まともにクラブでDJができる機会はそれから10年はなかったんだよ。

そこであなたは大学へ戻り、2002年の卒業と同時にレーベル〈More Music NY〉をはじめ、ダンスミュージックのシーンへ戻ってきたわけですね。

LV:その通り。大学では西洋音楽を中心に古代ギリシアから順に学んだよ。インドや中東の調性、そしてもちろんアフリカのリズムも。でも、主に勉強していたのは西洋のクラシックとアメリカのジャズ。その頃までにはダンスミュージックを作っていたんだけど、大学へ通い始めて、俺は制作から一旦離れたんだ。音楽そのものに強く惹かれていたら、もっと深く学ぼうと思ったというわけさ。
 その後はじめたレーベルは失敗に終わってしまったんだけどね(苦笑)。あの時期はMP3が台頭してきた時期で、レコード文化はかなり廃れてしまっていた。個人的にはMP3の扱いもそのフォーマットも、いままでそれが正しいと思ったことはない。ビートポートが登場して、ネット上でのダンス・ミュージックの配信が普及したのはそのすぐあとの出来事(2004年)。でもそんな状況下、多くの人びとがレコードの良さに着目するようになり、2008年頃から現在に至るレコード・リヴァイヴァルの流れが生まれたんだ。

あなた個人としては、そのリヴァイヴァルをどのように捉えていますか?

LV:とても肯定的に思っているよ。俺の両親はかなりレコード集めにシリアスだった。レコードに自分の名前を書いて、お互い別々の棚で保存していたくらいだ。そういう環境で育てば、そりゃレコードが好きになる。このトレンドが誰かに仕組まれているんじゃないかと思うこともあるが、これに限っては悪いことではないんじゃないかな。俺たちのコミュニティはMP3が全盛期だった時でも、レコードというメディアでアイディアを出し続けて、リヴァイヴァルを先導する力の一部になれたんだ。

レコード・ストア・デイ(以下、RSD)などの催しに合わせて、メジャー・レーベルがレコード工場のスケジュールを抑えてしまい、インディペンデントで活動するプロデューサーたちの制作が遅れてしまう事態も、リヴァイヴァルのなかで起きています。

LV:その問題には毎年悩まされているから、RSDには関わっていないしまったく支持もしていない。最初は素晴らしいアイディアだと思ったよ。RSDがはじまった当初、俺はレコード店で働いていて、とくに最初の2回はかなり真面目にプロモーションにも協力していた。でも、やはりイベントはビジネス優先の考えが強くてね。アーティストがインディペンデントに自律しようとする流れを、大きな企業が資本化してしまい、彼らの活動が変わってしまった面もある。
 欧米で春はレコードを出すベストな時期なんだけど、大手レコード会社は春を狙って、ザ・キュアやデペッシュ・モードのようなアーティストの再発盤を発売するから、インディペンデントで活動する俺みたいなミュージシャンは、その時期にレコードを作ることができない。夏は温度の影響もあって、多くのレコード工場は機械を稼働できないから、制作時期も限られているっていうのにさ。本当にたまったもんじゃない。レコードを制作するのに大体2ヶ月はかかるんだけど、メジャー会社のせいで1年のうち3ヶ月は自由に制作ができないんだ。9月も発売には良い時期だ。でもその時期に合わせることすらも難しい状況だね。ときには1作品をプレスするのに半年かかることもあるくらいで、作品のプロモーションのスケジューリングにも影響が出てくる。でもそういうトラブルも引っくるめて、俺はレコードで作品を発表することが大好きだ。昔から慣れ親しんできたフォーマットに自分の名前が載るのは、やはり特別な思いがする。

2015年にあなたはキャリア初のアルバム『Levon Vincent』をリリースしました。楽曲制作からデザインに至る行程を含めた制作期間はどのくらいかかったんですか?

LV:正確な時間は、この場では検討がつかないな。デザインは友人のヴィジュアル・アーティストのトマス・バーニック(Thomas Bernik)との共同制作なんだけど、レコードのラベル部分はサザビーズ(Sotheby’s;世界最高のオークション会社)のカタログや、日本の家具雑誌なんかを参照していて、その収集には5年は費やしてきたと思う。レコードのラベルは1枚1枚異なっていて、同じものは存在しないんだけど、この技術を応用したのは俺が初めてなんじゃないかな。業者との連携によって成し遂げることができたのさ。それから24時間ラベルを作り続けられる技術も使って、3000枚のレコードに貼り付けた。大多数はデザインを印刷会社に送って、約2ヶ月後にラベルが出来上がってレコードに貼り付けるんだけど、俺はその過程のすべてに携わったわけだ。
 近年のレコードの制作過程におけるイノヴェーションはそんなに多くはない。60年代に完成した古典的な技術がいまも引き継がれているからね。だからその点に着目すれば、進むべき進路は見出せるわけだ。でもそれを理解している業界人はあまり多くないように思う。そこを上手くやれたのいは、トマスによるところが大きいね。最初のレーベルの時から彼と仕事をしているから、もう長い付き合いだ。彼は奥さんとふたりレコード制作会社で働いていて、俺は彼らの最初のクライアントといったところかな。ふたりはよき友人でもあり、とても感謝している。

いまの話を聞いていて思い出すが、マーシャル・マクルーハンの言葉、「メディアはメッセージである(The media is the message)」です。あなたは2009年に発表した自身の曲名に同じ言葉を選びました。

LV:あの曲を出した時のメッセージは、音楽のフォーマットに関してのものだ。当時はいまほどレコードが人気を取り戻していたわけではなかったからね。だからその言葉を選んだんだけど、それももう数年前。いまは曲の配信でMP3を使うことだってある。もっと言えば俺はもうクラブでレコードをプレイしなくなったんだ。

昨日のDJを見ていてそれは思いました。僕が以前あなたのプレイを東京で見たのは2014年のことですが、あのときはレコードをプレイしていました。データでDJをするようになった経緯は何ですか?

LV:最近になってMCカートリッジを使うようになってね。ほら、MC型って扱いに気を使うだろう? 音質は素晴らしいけれど、下手にスピンは絶対にできない。良いプリアンプも手に入れたから、それらを組み合わせてレコードの曲をデータにしてクラブで使用するようになった。クラブでオルトフォンの針を使うよりも音質が格段にアップしたね。それから、80年代や90年代に比べるとクラブの音量がかなり大きくなってきているのも理由のひとつだ。ひとつのクラブが収容できる人数も多くなって、踊る余地もないほどのスペースに人びとが立たされることだってある。つまり、そういった環境で生まれる特有の音の反響があって、それはレコードのプレイにマッチしないんだ。

ではそういう状況でCDJを使う理由とは何ですか?

LV:もちろんDJたちのレコードに対する情熱は変わらないよ。レコードを買わない週はないし、リリースもやめることはない。プレイの面のことを考えての選択というだけのことだ。現場でドリンクをこぼされたり、移動中にレコードをなくしたりする心配もないしね。
 データは極力使いたくなかったから長年頭を抱えていたんだけど、ハイレゾの主流化と、最近のパイオニアの機材の進歩によって、俺もデータに切り替えることにした。最新のCDJは機能、音質、どれを取っても素晴らしいと思う。もちろん、データを閲覧するときにパスコードの制限をつけて、曲が盗まれるのを防ぐ機能とかは必要だと感じる。あと、CDJのキューボタンは、アカイMPCのパッドと同じくらい押しやすくなってもいいだろうね。

たしかにドラムマシンのようなCDJの使い方をするDJも増えてきています。MPCには思い入れがあるんですか?

LV:俺は世代的にMPCと育ったようなものだよ。最近はパイオニアがルーパーを出したけど、あのサンプリング機能もすごい。アカイが主流だった時代に、まさかパイオニアがサンプラー市場に進出するなんて思いもしなかった!

科学技術と音楽機材は手をつないでいるかのように、共に進歩してきました。あなたはこの関係をどう捉えていますか?

LV:子供の頃からデジタル機材には憧れがあってさ(笑)。初めてサンプラーを知ったのはファブ・ファイブ・フレディのインタヴューを読んだときだ。彼もニューヨークの地元のレジェンドでね。それで小さい頃、母親と一緒にマンハッタンの楽器屋に行ったわけだ。「ママ、お願い。僕、あのマシーンで本当に音楽を作りたいんだ!」という具合に。でも当時、サンプラーは10000ドルもしたんだよ。もちろん、買うことなんてできなかった。でもいまは数百ドルでパソコンが買えて、サンプラーも手に入る。すごい時代になったもんだ。
 クラシックの例を見てみよう。クラヴィアが普及しはじめたとき、バッハはすべての演奏者の基準となる調律を作り、それによって音楽を紙に書き、ポストで遠く離れた人へ送れるようになった。これは革新的なことだろう? それから人々が音楽を書くことがブームになって、モーツァルトなど職業音楽家だけではなくて、一般の趣味人だって曲をかけるようになった。これは現代と同じ状況だ。
 現在、1週間にリリースされるレコードの枚数なんて多すぎて検討もつかない。ひどい音楽が山のようにある一方で、素晴らしい音楽も多くある。これだけ音楽テクノロジーが発達した現在、誰でも音楽家になれると言っても過言じゃないかもね。ミュージシャンになるのにこれ以上適した時代なんて想像もできないよ。毎週新しい技術が生まれて学ぶことがたくさるある。というよりも、人は学ぶことを止めることができないだろう。60年代の現代音楽家のアルヴィン・ルシエールは脳波から音楽を作り出したけど、頭にUSBケーブルを繋いで作曲をする時代が本当に来るのかもしれない。

その昔、エイフェックス・ツインは、遠くない未来において「コンピュータが音楽作曲を作るようになっている」と言いました。コンピュータが全自動で音楽を作るという考えに、あなたは賛成しますか?

LV:音楽技術の発達という意味では賛成だけど、それってジェネラティヴ・ミュージック(注:プログラムに合わせてコンピュータが自律的に音楽を作ること)のことかな? だとしたら、プログラムを作ったプログラマーが作曲家ということになるから、話がちょっと変わってくるように思える。特定の法則に則って作曲をするのは、それこそ前衛音楽家が目指したことで、最終的に完成する曲が既存のいわゆる音楽とかけ離れることはしばしある。ジョン・ケージが良い例だ。ある種のジェネラティヴ・ミュージックは身の回りで発生した音から音楽を作り出すけれど、無音のなかで発生する音が「音楽」になるケージの『4分33秒』と共通する面もある。その意味では、何十年も前からあるアイディアが、違った形で広まりつつあると考えた方が適当なのかもしれないね。
 人間が演奏をやめてしまうことは残念に思うね。楽器と人間の間には会話があってそこに喜びが生まれる。こういった関係性は1回限りの重要なものだ。クラブにおけるサウンドシステムと人間の関係も同じで、低音を感じることに意味がある。だから、そういった意味で演奏は消えないでほしい。

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これは世界中の醜いアヒルの子、つまり白鳥のための音楽だ。もし君がくだらないラット・レース(出世争い)に夢中で、他のネズミたちと一緒に権力争いをしていたとしても、もちろんこのアルバムを聴いてくれてかまわない。でもこの音楽は君のためのものじゃなくて、君に対する反抗なんだってことを肝に命じておいてくれ。
──2015年のアルバム発表に際してレヴォン・ヴィンセントが綴ったメッセージ

今年、あなたはフェイスブックに自身が音楽理論を解説するいくつかのヴィデオを載せています。個人的には特にホールトーン・スケールの解説のなかで、序列のない音階と社会との関連性について触れているものが興味深かったです。

LV:音階についての概念的な議論はもうずっと昔からあるもので、大学時代に俺もそれについて学んだことがある。あのヴィデオで話したのは、後にシュルレアリズムに繋がるホールトーン理論の側面だ。各音階が持つ音程を市民にたとえ、そのつながりが形成するものを社会として捉えるんだ。西洋で使われる音階には、主音となる音程が存在していて、そこには音の序列があって、社会における階級序列にも類似する。上下関係から、特定の因子同士が特定の行為を生むような関係まで様々な解釈ができる。各音程が等間隔で配置されるホールトーン・スケールにおいて、各音には序列がない。つまりある種の人間関係の平等がそこ見ることもできるんだ。もっと視点を広げれば、いま世界で使われているチューニングの基準はドイツで作られたもので、そこに隠された「陰謀」のようなものについての議論もミュージシャンたちの間では行われてきたんだよ。

なぜ自分でそういった考えをヴィデオで伝えようと思ったのでしょうか?

LV:ここ最近、俺はインタヴューに対して疑問に思うことが多くてね。君とのこのインタヴューはかなり久しぶりに行うものなんだ。そのオルタナティヴとしてヴィデオの投稿をはじめたんだけど、カメラの前では率直に意見を言えてやり易いと感じたね。それが自分には合っていると思えたし、反応を含めいろいろとうまくいているよ。

SNSのがここまで発達した現代、利便性もある一方、誹謗中傷や「炎上」も頻発しています。あなたはインターネットの特性をどのように理解していますか?

LV:インターネットには、周知の通り善悪の面がある。ときとして人は他人をけなし、安全性も確保されているわけじゃない。俺のヴィデオ投稿は、人との繋がりを作るという意味で自主的なパブリック・リレーションズ(PR)行為だ。これは良い関係を作ることができる反面、面識のない人びとから罵倒される可能性もある。ユーチューブ上の子猫のヴィデオにだって、ひどい言葉が浴びせられたりするだろう? 一対一の直接的なコミュニケーションじゃそんなことはまずありえない。あれは明らかに「モビング(集団による個人への攻撃)」だ。だからミュージシャンたちはソーシャルメディア上で責任感を持つことが必要になってくる。
 俺がフェイスブックとヴィデオを使って、自分のオーディエンスとダイレクトにコミュニケーションを取るもうひとつの理由は、モビングや誹謗中傷を避けて、リスナーに音楽そのものについて考えてもらうためだ。例えば、その昔、音楽雑誌でミュージシャンがファッションについて語ることはあっても、曲の作り方を話ことはほとんどなかった。ミュージシャンと音楽は別物として意識されることが多かったんだ。でもいまはそのギャップを自分で埋めることができる。つまりコミュニケーションのあり方をデザインできるようになった。それにもしかしたら、俺のヴィデオの投稿が若手に音楽の作り方のヒントを与えるかもしれないしね。

2015年の1月に、あなたは同様にヴィデオを使って自身のアルバム・リリースの告知をしました。映像はニューヨーク発ベルリン着の架空の電車にあなたが乗っているかのような編集がされています。そのコンセプトを教えていただけますか?

LV:俺が育ったニューヨークのストリートで生まれたサウンドと、90年代のベルリンのスタイルの対話が、自分のやっている音楽だと思ったからだ。あの映像で、ニューヨークを出発した電車が到着するのは、ベルリンのクラブ、ベルグハインの最寄り駅のオストバーンハーフなんだよ。

Levon Vincent – Launch Ramp To The Sky

アルバムには予期せぬ展開を遂げる曲がいくつかあります。例えば “Launch Ramp To The Sky”。この曲は終盤でビートが止まり、それまでとは異なったメロディが展開されていきます。いわゆるダンス・ミュージックのマナーを無視した進行でびっくりしました。

LV:実はビートが止まるときに流れているメロディはホールトーン・スケールでできているんだよ。ダンス・ミュージックの本質はもちろん人を踊らせることだろう? その点を守りつつも、アルバムを作っているときには、他のミュージシャンとの接点も考えていた。あれを聴いて、予想外」と捉える作り手もいれば、「これは自分にもできる」と考える者もいるはずだ。アルバムの利点は、そうやっていろんな層の人びとにアプローチできること。シングルは片面の十数分で、ダンス・ミュージックのダンスの部分にフォーカスしなければいけない、と俺は思っている。やはり、アルバムではそれとは違ったクリエイティヴな部分を出せるよね。

前回、ジョーイ・アンダーソンが東京でプレイしたときに、彼はこの曲をフル・レングスでかけたんですね。ビートが止まった瞬間、フロアの人々が戸惑っているようにも見えたんですが、徐々に音の展開に彼らが惹きつけられていくようにも見えたんです。あなたの言う、ダンスさせることにとどまらないアルバムのクリエイティヴィティは、ダンスを必要とするフロアでも功を奏しているようです。フルでかけたジョーイもすごいですけどね(笑)。おまけに、そこから彼は再びダンス・チューンに戻っていったんですよ!

LV:それは知らなかった!  ジョーイには感謝しないとな。俺もフルでかけたことはないよ(笑)。彼は素晴らしいミュージシャンであり、真のアーティストだと思う。ジョーイは型破りなことをするのに躊躇しないからね。彼の音楽は一種の場所だ。聴くたび違う場所に連れていってくれる。言うなればコズミック・プレイスだね。

“Anti-Corporate Music”も強烈なダブテクノで幕を開け、美しいメロディが徐々にはじまりますが、これもアルバムを意図したものですか?

LV:その曲ができたのは、アルバム制作の開始よりずっと前のことだったんだ。その昔、学校のオーケストラでトランペットを吹いたことがあってね。その経験から、単音でできたメロディが俺はとても好きで、そういった構成の曲を多く作ってきた。だから俺はみんな楽器を演奏するべきだと思うのかもしれない。それが作り手や聴き手の音楽に対する姿勢に影響するからね。

先ほどベルリンの音楽のスタイルについて触れていましたが、都市としてのベルリンからもインスピレーションは受けているのでしょうか?  “Junkies On Herman Strasse”という曲もあります。

LV:ドラッグの問題は現にベルリンで起きていることだからね。現在のベルリンは80年代のニューヨークに似ていると思う。ベルリンはグラフィティで溢れているけれど、あの美学はニューヨークに由来するものだ。この文化の対話について俺は考えることが多かったね。

最後の曲“Woman IS An Angel”は、2009年に発表した“Woman Is The Devil”の続編のようなものですか?

LV:続編というよりも、コインの面と裏の関係のようなものだね。“Angel”の方も何年も前に書いたものなんだ。完成させるのに6年もかかった。だからその2曲を思いついたのはほぼ同時期だ。もともとはレコードのA面とB面にデビル・サイドとエンジェル・サイドを収録するというアイディアだったんだよ。

このアルバムからクラフトワークやロン・トレントの影響を思ったりもしました。

LV:俺は本当にロン・トレントが好きだよ。その比較は聞いたことはないけれど、俺にとっては名誉だね。彼はシカゴ出身だけどニューヨークにも長いこといたんだ。〈Prescription〉も好きだけど、彼がニューヨークで関わっていた〈Giant Step〉のリリースもとてもよく聴いていた。
 いろんな存在に影響されていることは間違いない。でも、音楽の作り方にもいろいろあるから、影響がどう出てくるかはわからない。音楽をカタルシス的に作るときもあって、それは瞑想のようなものだ。機能的な面を考えてハウスを作るときは、それとはまったく異なる。はっきりと言えることは、音楽は俺の人生で最良の友人だということ。いつでも近くにいるし、状況が良いときも悪いときも音楽をやっている。そして、自分の人生で最も一貫して続いていることでもある。

アルバムを発表したとき、あなたはリリースの詳細だけではなく、世界にむけてメッセージも残しました。あの言葉の意図とはなんだったのでしょうか?

LV:世界は大衆、探求者、社会病質者に分けられると俺は思っている。大衆は探求者にリーダーシップを求める。でも大抵の場合、探求者は人類史に大きなインパクトを残すことがあるものの、大衆を操ることには興味はない。マハトマ・ガンジー、マーティン・ルーサー・キング、マヤ・アンジェロウのような人びとがその例だ。でも探求者のせいぜい全体の5パーセントしかない。その一方で10パーセントの社会病質者がいて、残りの大衆を管理しようとする。この暗黒の三角関係が歴史上存在してきた。それをラット・レースと『みにくいアヒルの子』の物語を例に表したんだ。俺に関わるDJやダンスフロアの人びと、リスナーは「みにくいアヒルの子」だ。残りの85%のなかで周囲に惑わされず、彼らは美しい白鳥に成長する存在だと俺は思っている。

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アンディ・ウォーホルは素晴らしい観察者でもあると思う。彼もまた俺が好きな人間だ。企業文化がもたらす均一化の二面性について、ウォーホルはかなり早い段階でコメントしているよね。それはまさに俺が言いたかったことだ。キャンベル・スープの作品にも表れているように、彼はその実践もしている。それに彼はニューヨーカーの持つ一面を体現しているとも思うんだ。

2016年、あなたは自身のレーベル〈Novel Sound〉のコンピレーション『Rarities』を日本限定でリリースしました。リリースに至った経緯を教えてくれますか?

LV:日本のために何か特別なことをしたかったんだよ。俺は小さい頃、野球カードを夢中になって集めていた。いまはスケード・ボードやレコードのコレクターでもあって、集めることが常に好きだった。日本ではすごいレコード・コレクターにも会ったことがあるんだけど、あの国は集めることに対して特別な意識を持っていると思ったんだ。だから彼らに貢献できるようなことをしたかった。欧米ではディスコグスに載せるためだけにレコードを買う輩がたくさんいるけれど、日本では単純に好きだから買う人が多いという印象を受けたね。それもあって、過去にはシングル「Six Figures」の日本語表記バージョンをリリースしたこともあった。今回のコンピレーションも好評だったと友人たちから聴いているし、とても喜んでいるよ。

どのような基準で曲を選んだのでしょうか?

LV:リスナーの反応が良く、かつ自分が特別だと思う曲のセレクションになっていて、曲同士のコンビネーションも重視した。それから未発表曲も入っている。

Levon Vincent – Revs/Cost


Levon Vincent
Novel Sound/Pヴァイン

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Levon Vincent - Rarities
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“Impression Of A Rainstorm”のようなキラー・チューンはどのように生まれたんですか?

LV:あの曲は音楽の印象主義に基づいたものだ。暴風雨をシンセサイザーとノイズで表現したというわけさ。12年ほど前に作った“Air Raid”は爆弾の爆発を音で表している。ドビュッシーが“海”において、波がぶつかるのを表現するためにピアノを用いたようにね。彼は印象主義の最初期の例だ。ドナルド・トランプを表現するとしたら、馬鹿な喋り方する、というような感じさ。

このコンピレーションには“Revs/Cost”が入っています。この曲はダブステップ・プロデューサーであるぺヴァラリストなど、ルーツがハウス/テクノではないDJにもプレイされてきました。曲がリリースされた2011年の前後は、ダブステップやその周辺のベース・ミュージックのプレイヤーたちがテクノへと幅を広げていった時期でもあり、彼らのミックスを通してあなたのことを知ったリスナーも多いです。

LV:ああたしかに。UKのダブステップ界隈から反応がけっこうあったんだよ。“Revs/Cost”をリリースしたとき、ベンUFOがやっている〈Hessle Audio〉や、ボディカも連絡をくれたね。2015年のアルバムは『Pitchfork』のようなロック系の媒体からもこれも評価されたんだけど、自分のコミュニティの外とクロスオーヴァーできるのはとてもクールなことだ。
 もちろん、俺はコミュニティの外の音楽もチェックしている。俺はずっとハウス/テクノをプレイしてきたけど、90年代にはヒップホップやドラムンベースもよく聴いた。そういったジャンルを別個として捉えているというよりは、ひとつのエレクトロニック・ミュージックとして理解していたよ。

この曲名はニューヨークのグラフィティ・アーティストのレヴスとアダム・コストの名前から取られていますね。

LV:その通り。俺が子供の頃、住んでいたマンハッタンの近所は彼らのグラフィティだらけだった。俺が10代の頃、確実に彼らに影響されたね。16歳の頃、ウェスト・フォースのタワーレコードで働いていたときのことだ。そこから自分のフラットへの帰り道、「Revs Cost」の文字が本当に至る所にあった。フラットの向かいのビルなんか、その文字で全体が埋め尽くされていたね。

そういった意味でも、あなたはベルリンにニューヨークを見出しているのかもしれませんね。

LV:ああ。それから現在のベルリンにはスコッター(廃墟となったビルや家屋の不法定住者)がたくさんいるんだけど、それも昔のニューヨークに似ているんだ。当時のロウワー・イースト・サイドはスコッターが多かった。現在のニューヨークからはそういった文化が消えてしまったんだけど、グラフィティと同様にそれがいまもベルリンには残っている。

あなたはアイルランドのプロデューサー・デュオのテリアーズに、ベルリンでの滞在費を与え、その間彼らが楽曲制作に集中できる環境を提供しました。その意図とは何だったのでしょうか?

LV:音楽ビジネスとは、そこに関わる人びとが何をするかによって作られている。ビジネスに「誠意が欠けている」とか「コマーシャルすぎる」とか不平を言うミュージシャンが多くいるけれど、自分たちで良いビジネスを作ることは可能なんだ。でも、新しい世代のミュージシャンたちの多くは、まず何をどうすればいいのかわからない。そこで大きな企業に頼る者もいる。企業文化は人間にとって共通のものだからそれを否定するつもりは全くないけれど、人間性が均一化されてしまうこともある。もちろん均一化によって、人々の生活の質も均一に保たれ、誰もが同じものに接することができるという利点もあるのも事実だ。そこでセルフ・プロデュースの点で納得がいかないんだったら、自分たちで状況を変える工夫をすればいい。

あなたはフロアの先を読むような的確な選曲センスでも知られています。DJにおいて何を重視しますか?

LV:自分のDJセットがひとつの物語になるようになって、フロアの人びとに何かしらのインパクトを残すよう心がけているよ。ダンス・ミュージックは偉大なイコライザー(平等をもたらすもの)だ。ゲイ、ストレート、ブラック、ホワイト、リッチ、プア……、多様な人びとがひとつの部屋で同じ活動をする。デヴィッド・マンキューソがそう言っていた。彼にはフロアにおける社会変革の促進という理念があっただろ。マンキューソには常に親しみを感じていたね。尊敬していたDJのひとりだ。

そういえば、ある写真であなたはアンディ・ウォーホルのTシャツを着ていますが、彼も同じようなことを言っています。「大統領がコカコーラを飲む、リズ・テーラーがコカコーラを飲む、そして考えたら君もコカコーラを飲むわけだ。コークはコーク、どれだけ金があっても街角のホームレスが飲んでいるものよりおいしいコークなんて買えない。コークはどれもおんなじでコークはぜんぶおいしい」。これは先ほどの均一性の話にもつながりませんか?

LV:ははは! その通りだね。ウォーホルは素晴らしい観察者でもあると思う。彼もまた俺が好きな人間だ。さっき言った企業文化がもたらす均一化の二面性について、ウォーホルはかなり早い段階でコメントしているよね。それはまさに俺が言いたかったことだ。キャンベル・スープの作品にも表れているように、彼はその実践もしている。また彼はニューヨーカーの持つ一面を体現しているとも思うんだ。

ロンドンのクラブ、ファブリックの閉鎖についてうかがいます。もともと10月のロンドンでのDJであなたはファブリックでプレイする予定でしたが、閉鎖を受けて別のクラブで開催されたファブリックを支援するイベントに出演しました。閉鎖のニュースを受けてどう思ったのでしょうか?

LV:率直にとても悲しかった。ファブリックが大好きだったからね。クラブ、DJブース、どれもお気に入りでホームだと思っている。多くの人々がサポートを表明しているし、支援金もたくさん集まっているから、次の新しい活動につながればと思う(注:11月、審議のもとファブリックは営業再開が決定した)。

ロンドンの街を歩いていると、「#savefabric」のステッカーが多くの場所に貼られていて、多くの人びとが一丸となって問題に取り組もうという姿勢が伝わってきます。あなたは90年代のジュリアーニ市政を経験したわけですが、当時、クラブ文化を守るムーヴメントはあったのでしょうか?

LV:そういうわけでもなかったんだよ。議論もプロテストも起きなかった。ある日起きたら、街全体が突然変わってしまったような感じだったからね。それからニューヨークが変わってしまったのはジュリアーニの責任だけじゃなく、監視カメラが街に導入されたのも大きな要因だ。最初にカメラが導入されたとき、とても大きなデモが起きた。多くのニューヨーカーが望んでいなかったことだったからね。でも、その流れは止まらなかった。たしかに殺人事件の件数は下がったよ。俺がいた頃のニューヨークは殺人率がかなり高かったんだ。その一方で、カメラは文化的な活動にも作用し、街が変わってしまった。路上のすべてが監視される状況だ。間接的にしろ、当然それはクラブ文化の精神にも影響があったと思う。そのようにして善悪の両方がもたらされたというわけだ。議論もプロテストも起きなかったと言ったけど、俺の世代はタバコのボイコットとか、なんらかの運動は多くしていたよ。俺もいままで様々なチャリティに関わってきた。

2017年、〈Novel Sound〉からエリック・マルツ(Eric Maltz)の作品が発表されます。あなた以外のミュージシャンが同レーベルからリリースするのは初めてですよね。その経緯を教えてくれますか?

LV:俺はエリックの音楽を長いこと聴いてきたんだけど、彼は素晴らしいミュージシャンだよ。理由はそれだけさ。彼のキャリアの新しい一歩に携わることができて光栄に思う。

Levon Vincent – Birds

〈Novel Sound〉のラベルはスタンプからイラストに変わりましたが、あれは誰の絵なんですか?

LV:俺だよ(笑)。レーベルを24時間作り続ける技術について話したけど、それを応用していて、ひとつの絵から複数のラベルを1日もあれば制作できる。今年出したシングル「Birds/Tubular Bells」は鳥がテーマだから鳥の絵を描いた(笑)。“Birds”の曲自体も数百羽の鳥の鳴き声のような音が聴こえる。このシングルにはまだ遊び心があって、“Birds”はヒッチコックの『鳥』を、“Tubular Bells”は『エクソシスト』を表している。つまり両方ともホラー映画につながっているというわけさ。

最後の質問です。すべてのミュージシャンがあなたのような活動をしているわけではありません。そのなかで、インディペンデントであり続けることがあなたに課せられた役割であると考えていますか?

LV:シーンやコミュニティでの俺自身の特別な役割があるとは思わない。アーティストとして働くこと。自分のやりたいことを100パーセントやること、これに尽きる。実験続きの人生さ。来年は俺に住む場所があるとは限らないだろう? だからとにかく仕事を続けることが目標だよ。その結果として、誰かをインスパイアできたら嬉しい。俺は意見を言うけれど論争をしたいわけじゃない。曲を作り上げるために、ミュージシャンは長い時間を孤独に過ごすから、その活動を持続させるためにも、何か言ってくれる人間が必要になる。それにDJが終わった後、「あなたのレコードが好き」って言われるのは本当に光栄なことだ。

何かリスナーにコメントはありますか?

LV:本当に感謝しているよ。近いうちに日本に戻れることが楽しみだ!

Double Clapperz Selection - ele-king

音楽系マーチャンダイス10選
レーベル・アーティスト・クラブオリジナルのTシャツ、トートバッグ、写真集、オリジナルZINE、ポスター

2017年1月6日グライムMC Novelist の初来日にDouble Clapperz出演します。
新年一発目遊びに来て欲しい!


(撮影 : 横山純)

[プロフィール]
Double Clapperz
UKDとSintaからなる、グライムのプロデューサー/DJチーム。
2016年は「EP - VIP」をアナログリリース、Boiler Room Tokyo出演、韓国・ソウルのCakeshopでプレイした。
ラジオDJとしてNOUS FMとロンドンのRadar Radioで番組を担当している。
https://doubleclapperz.com/

OG from Militant B - ele-king

パラダイス銀河3000

Rhetorica#03 - ele-king

 待つことのない時代は幸せなのだろうか。アマゾンも翌日届くし、情報にいたっては瞬時に広まり、その多くは、ほどなくして忘却される。webメディアをやっていながら言うのもナンだが、この速度には正直疲れる。歳のせいだろうか、毎日どころか毎時間、毎分、我先にとばかりに情報がアップされるさまはP.K.ディック的な悪い夢を見ているんじゃないかという気になる(歳を取るとP.K.ディック的悪夢にさいなまれ、朝起きると自分が虫けらのように感じるというカフカ的な悪夢をも実感する。嫌なモノだ)
 戻そう。たとえそれが悪夢だとしても、時代はつねに新しい言葉とメディアを欲する。『Rhetorica#03』は、インターネット普及とともに育った世代(トーフビーツなんかと同じ世代)が作る紙メディアで、米澤慎太朗くんによればゼロ年代批評の影響のもと2012年に創刊、本書はその3号目である。音楽誌ではなく、ジンでもなく、デザインや印刷に注力した立派な衣装の紙メディアだが、ISBNコードは偽物で、バーコードはダミー、書店の流通の紙メディアのパロディとも解釈できるだろう。
 なんにせよコンセプチュアルな紙メディアで、その特集タイトルは「FICTION AS NON-FICTION」。世界中のニュースが毎分更新され、ドラッグ逮捕とシリア内戦はフラットに並ぶ。情報は果てしなくリンクしつづけ、ともすれば真実が他人事(虚構)のように感じても不思議ではない今日のメディア環境に切り込むかのように、ここではその逆説的な用語=“ストリート”ないしは現場体験談がたびたび弄されている。全体の1/3以上を費やしている特集記事=スケプタ/UKグライムの論考、そしてマルチネのUSツアー/ロンドン・レポートがそれで、熱の入れ方、問題意識、“シーン”と呼びうるものについての言葉には当事者(アクチュアルなシーンの一部であるという感覚)ならではの迫力がある。
 横山純氏との対話で案内するUKグライムの記事は熱くほとばしり、音楽性や歌詞のみならず彼らを取り巻く政治的情況ないしはそのねじくれた歴史にいたるまでが語られ、考察されている。と同時に、同じ誌面からは、そのルックス、音楽性、おそらくは階級もふくめ、UKグライムの対岸にあると思わしきロンドンのPCミュージックやKero Kero Bonitoといったele-kingが得意ではない人たちの現場(シーン)、アティチュードも伝達されると。欧米における「クールジャパン」なるエキゾチズムも重々わかったうえで、が、しかし、じつはその商用タームをはね除けている彼ら内面および批評精神が読めるのが嬉しい。海外コンプレックスを持つインディ・バンドにありがちな、オレら海外でもウケてます的なレポートとはまったく別モノ。
 スケプタとtomadoが雑誌の2トップのように並列していることじたいが斬新で、同時代性ということもあるのだろうけれど、特集の大きなサブジェクトのひとつ、今日のもろもろの環境/状況(グローバリゼーションから音楽市場の冷え込みなど)において“インディペンデント”であることを強く意識している点では共通しており、その手段のひとつとしてネットがある。と、が、しかし、ネットは目的ではなく手段であるからこそ、彼らは現場をつくり、ツアーをし、言葉が醸成され、それを“より欲している読者に確実に伝えるために”紙メディアを刊行しているのだろうとぼくは受け取った。
 『Rhetorica#03』がもうひとつ良いのは、自由に好き放題やっている編集にある。当たり前といえば当たり前だが、そんな雑誌(紙エレキングは除く)ってじつは……ないでしょ。コラムがとにかく脈絡なく雑多で、料理から美術、哲学、SF、散歩、旅行、小説……自分たちが興味あることを好きなように書いていて、いちいち誰かの視線を気にしない──。これ、基本ですよね。
 ちなみにですが、コラムのひとつにアシッド・ハウス/セカンド・サマー・オブ・ラヴ回顧展のレポートがある。間違いなくあのムーヴメントは大衆音楽の分水嶺だった。スター不在、過去(サンプリング)を使い、いろんなところのいろんな連中が勝手に音源を発表し、いろんなところで勝手にパーティがはじまった時代──三田格は当時それを「自分たちの“側”に豊かさをもたらす」と書き表していたものだったが、実際の現場はただただよりぶっ飛びたいだけだったという(これもまた基本)、本書ではそれが“内輪”という言葉で表現されている。このニュアンスの違いは、別の文脈から紙エレキング年末号の座談会でも、「瞬時に人と繫がることが良いのか悪いのか」という、ちょっとした問題提起(というほどではないけれど、微妙な提起)になっている。うーむ、そういえば、95年〜96年のele-kingを見ると、近い将来パソコン通信で海外との交流がリアルタイムでできるようになるかも、すげーとか、URやベルリンのレーベルなどにもぼくたちは嬉々としながらFAXという通信テクノロジーでやり取りしていたのである、はははは、まさに隔世の感ですな。
 それでこの原稿の冒頭を反復すれば、ネットで素速くやればいいものを、いま彼らがわざわざ紙メディア=伝達の遅いメディアに着手することにぼくは関心を寄せている。それは記念にアナログ盤を、物販としてカセットテープを、ということではない。書を出し、町に出よう。ぼくもがんばらねば。──とはいえ、もう飽き飽きするほど知っていることもある。悪夢を払拭するには、1985年にホアン・アトキンスが自らのレコードに吹き込んだように、「飛ぶ(fly)」のがいちばんなのだ。
 
 
最新号はpaypalで入手可。https://rhetorica.jp/rhetorica-03/

Hecker - ele-king

 〈エディションズ・メゴ〉のクオリティの高さは折紙付きである。クリスチャン・フェネス&ジム・オルークピタクララ・ルイストーマス・ブリンクマンオーレン・アンバーチ、などなど、今年も安定して充実した作品をリリースしてきた同レーベルだが、このたびフロリアン・ヘッカーの新作のリリースがアナウンスされた。どうやら同レーベルは来年も刺戟的な作品を世に送り出してくれるようである。
 これまでも主に〈エディションズ・メゴ〉を中心に作品を発表してきたヘッカーは、フランスの哲学者クァンタン・メイヤスーとコラボレイトした経験もあり、ある意味ではいま最も知的なサウンド・アーティストだと言うことができるかもしれない(因みに彼は10年前に〈リフレックス〉からも作品をリリースしている)。
 気になる新作のタイトルは『A Script For Machine Synthesis』で、2017年2月24日に〈エディションズ・メゴ〉よりリリースされる。フォーマットはCDと配信の2種類。今回のアルバムでヘッカーはイラン出身の哲学者レザ・ネガレスタニ(Reza Negarestani)とコラボレイトしており、このふたりがタッグを組むのは『Chimärisation』(2012年)、『Articulação』(2014年)に続いて3度目ということになる。
 内容はサウンドとテクストから構成されるコンセプチュアルなものになっているようで、アルバムは“Prologue”、“A Script For Machine Synthesis”、“Credits”という3つのパートに分かれている。長さはそれぞれ7秒、57分21秒、3分13秒。現在、3曲目のトラック“Credits”が公開されているが、加工された音声のみから成るこのトラックは、実質的にはアウトロのようなものだろう。はたしてアルバムの全貌はどのようなものになっているのか――とりあえずいまはこの謎めいた音声を聴きながら、じっくりと妄想を膨らませておこう。

Alicia Keys - ele-king

「朝目が覚めた瞬間/メイクを一切したくないことだってあるでしょ/自分らしさを隠さなきゃいけないなんて/誰が決めたの/メイベリンの化粧品で覆い隠しているのは自信かもしれないのに」 “ガール・キャント・ビー・ハーセルフ”

 クラシックの素養もあるし、気高く凛としていたので、デビュー当初は才色兼備の「いいとこのお嬢様」だと思っていた。だが初来日時のライヴを観に行った時、PAの具合が悪かったのだったか何だったか、理由ははっきり覚えていないが、ステージ上のアリシアが「チッ!」と言ったのを聞き、「あ、お嬢様じゃなかったんだ」と了解した。だが宣伝の戦略としての優等生イメージはその後もずっと続いたため、本人も次第にそれが重荷になって、虚飾をすべて取り払いたくなったのだろうか。先ごろ唐突にすっぴんの画像を自らを公開し、その一撃で、見事に虚飾の放擲を完遂した。
 大きなアフロ・ヘアに覆われたすっぴんの横顔をジャケットに据えた新作『ヒアー』には、そうしたアリシアの心持ちがストレートに反映されている。歌声はどこまでもナチュラルで、バックの演奏も音数を削ぎに削いで、とてもシンプルだ。だがそれで十分、足りないものは何もない。それどころか、まっすぐに胸の奥深くに届く音楽となって結実している。
 前半は綿花畑で歌われていたワーク・ソングを彷彿させるプリミティヴな曲を含め、ブルージーな曲が多いが、デビュー作からして『ソングス・イン・A・マイナー』だったアリシアのこと、こういう曲への気持ちの乗せ方は天下一品だ。プロデュースはほとんどをアリシアとスウィズ・ビーツ夫妻を含むチームのイルミナリーズが手がけているが、ファレル・ウィリアムスのプロデュース曲もある後半の数曲は明るく軽やかな曲調に変化して、すっぴんのアリシアの歌声は可愛らしくもサバサバして気持ちがいい。それに続く終盤は、ザ・ウィークエンドとの仕事で名を上げたイランジェロとアリシアの共同プロデュース曲を含めてトレンドもさり気なく押さえつつ、スピリチュアルなマイナー調にも戻る、という作りだ。ゴージャスさとは対照的な清楚な音世界は心身の鎧を脱ぎ捨てたアリシアの心持ちそのものであろうし、曲想がグラデーション的に推移する全体のスムースな流れも、ナチュラルな感情の流れの表れだろう。そして全編を通じて言えることは、歌声が力みのない自然な表現を伴っているのはもちろん、どこにも奇をてらったり意表を突いたりする要素がないということ。その結果、とても清々しい作品になっている。
 さて、かねてからSNSなどで、政治的なメッセージを発信することも少なくなかったアリシア。本作収録曲の歌詞ではストレートな表現はしていないが、そのかわりに婉曲な表現や実生活の描写を通して、メッセージをそこここに忍び込ませている。
 例えばこれは個人レベルで考えることもできるが、反戦ひいてはトランプ次期米大統領が主張する排外主義の批判にも繋がる。「聖なる戦争の爆弾を磨く代わりに/もしもセックスが神聖なら/そして戦争が淫らなら/そしてそれが勘違いじゃないなら/なんて素晴らしい夢なの/愛のために生きて/終りを恐れることもなく/許すことが唯一の真のリベンジ/そうすればわたしたちお互いを癒し合って/感じ合える/お互いの間に立ちはだかる壁を壊すことができる」“ホーリー・ウォー”

 そして“ホウェア・ドゥー・ウィー・ビギン・ナウ”ではLGBT(性的少数者)の人々へのエールを歌う。
 知らず知らずのうちに心に幾重にもまとわりついた、本来は必要のない余計なものが、戦争や差別をはじめとする世の中の不条理を、実につまらない理由から生じさせる。アリシアはそれを小難しい言葉でダイレクトに語るのではなく、日常生活の中にある言葉で日常の風景に引き寄せて綴り、誰にでもわかりやすく受け入れられる形で提示しているように思う。

 最後に、最近アリシアがフェイスブックにアップしていた引用の言葉を紹介しよう。
 「The pain taught me how to write and the writing taught me how to heal」 – Harman Kaur
(「苦しみは書き方を教えてくれて、書くことは癒し方を教えてくれた」)

 我々リスナーがこの包容力のあるアルバムに癒されるだけでなく、これを作ったすっぴんのアリシアも、自ら癒されていたのなら嬉しいことだ。

EQUIKNOXX - ele-king

 いま紙エレキングの年末号で死ぬほど忙しいのですが、重要なニュースを告知し忘れておりました。イキノックスが来日します!! 予告として言ってしまいますが、今年の年間ベスト30で、イキノックスは、満場一致でかなり上位に選んでおりまして、ダンス/クラブ系ではダントツ1位っすわ。
 まずはネットで探して聴いて。これ、ダブステップ/グライムの“次”を探していた人なら、間違いなく、「うぉ!」と唸りますよ。そして、このプロデューサーがジャマイカ人だと知ったら、さらに驚くでしょう。いや、ジャマイカの音の革新力、まったくいまも衰えていませんわ。UKのクラブでも大流行だっていうし。すげーよ、ホント、ダンス・ミュージックは更新される!

NGLY - ele-king

 河村祐介にL.I.E.S.を任せたのが間違いだった。今年の始めにエレキング・ブックスから発刊された『クラブ/インディ レーベル・ガイドブック』で河村祐介はなかなかいい仕事をしている。どのレーベルを取り上げるかという段階から参考になる意見をたくさん聞かせてくれたので、多くはそのまま丸投げしてしまったし、風邪を引いたとウソをついて会社を休んで残りの原稿も一気に書いてくれる……つもりが本当に風邪を引いた時はアホかと思ったけれど、WorkshopやPrologueなど作品のチョイスは総じて素晴らしかった。Further Recordsなどは実態がよくわかっていなくて僕も勉強になった。そうか、そんなレーベル・コンセプトがあったのか。断片的にしか分かっていなかった。いや、さすがである。河村祐介に頼んで本当によかった。まったくもって「ありよりのあり」だった。
 だがしかし。L.I.E.S.で2ページも取ったというのにNGLYはピック・アップされていなかった。送られてきた原稿を見て「え!」と思ったが、もはや差し替える時間はない。サブ・レーベルのRussian Torrent Versionsにはいくらなんでも入っているだろうと思ったのに、こっちにもリスティングされていなかった。ガン無視である。NGLYを入れないとは……。それはこのような業界で働く者としてどうなんだろうか。「Speechless Tape」がどれだけの注目を集めたと思っているのか。もはや形骸と化したインダストリアル・ミュージックをディスコ化し、ファッションとして再生させた野心作ではなかったか。三浦瑠璃に絶望している人のためのエレクトロ入門ではなかったか。それにしてもRussian Torrent Versionsとはフザけたレーベル名だよな~。

 そして、ついにアルゼンチンからシドニー・ライリーによるファースト・アルバムである。このところコロンビアのサノ(Sano)、ロシアのフィリップ・ゴルバチョフ、あるいはファクトリー・フロアやゴールデン・ティーチャーといったイギリス勢にも脈々と流れているボディ・ミュージック・リヴァイヴァルの総仕上げである。パウウェルがポスト・パンクをユーモアとエレクトロで刷新すれば、NGLYはニュー・ビートをファンクショナリティと最近のアシッド・エレクトロでアップデートさせたといえばいいだろうか。そう、アシッド・ボディ・ミュージックとでもいうか、ガビ・デルガドーがDAFからデルコムに移り変わる時期に遣り残した官能性をマックスまで引き出し、SMちっくに攻め立てるのである。何かというとクラシックの素養が漏れ出すアルゼンチンの音楽シーンからこんなに退廃的なヴィジョンが噴出してくるとは。ディジタル・クンビアでさえもう少し健康的だったではないか……(ニコラス・ウィンディング・レフンは『ネオン・ディーモン』のサウンドトラックをNGLYに担当させるべきだった)。

 オープニングからスロッビン・グリッスルのディスコ・ヴァージョンに聞こえてしまう。威圧的だけれど重くないビートが次から次へと繰り出され、ドレイクやビヨンセといったメジャー・チャートに慣れきった耳を嘲笑う。単なるドラッグ・ミュージックでしかないというのに、もう、ぜんぜん逆らえません。とくにハットの連打が圧巻。空間処理もハンパない。逃避するならこれぐらいやってくれよという感じ。バカだなー、オレ、いつまで経っても。

 異次元緩和やらアベノミクスにTTP推進とあくまでも豊かさの綱渡りに固執する日本に対し、経済的なデフォルト状態であることを楽しんでいるかのようなアルゼンチン。かつて経済学者のポール・サミュエルソンは、世界は豊かな国と貧しい国、そして日本とアルゼンチンに分類できると語ったことがある。映画を観ていると悪趣味極まりないし、女性に対する抑圧はヒドいのかなとも思うんだけど、アストル・ピアソラ、セバスチャン・エスコフィエ、ファナ・モリーナ、カブサッキ、アレハンドロ・フラノフ、ソーダ・ステレオ、ボーイング、アナ・ヘルダー、ディック・エル・ディマシアド、チャンチャ・ヴィア・スィルクイト……と、音楽は、ほんとに豊かな国なんだよなー。そしてNGLY がこのリストに加わったと。

vol. 89:アメリカ大統領選挙後 - ele-king

 その日、11月8日はアップステイトの田舎にいて、インターネットからもニュースからも離れていた。数々のスキャンダルなニュース、過去3回の討論会、数々のメディアはヒラリー氏を支持を表明し(メディアが支持者を明らかにするのは珍しい)、問題はないように思えたし、物申す雰囲気のあるこの選挙の経過を目の当たりにするのは無駄なように思えた。次の日NYに戻ると、雨が降り、ビルには国旗が掲げられ、厳粛な雰囲気が漂っていた。そこで今回の大統領選挙の結果を知った。バンドメイトに電話すると、「昨日の夜は悪夢だった」と。夜の11時ぐらいからまさかのトランプ氏が優勢し、ハラハラ、ムカムカし、なかには気分が悪くなって、倒れる人も出て来た。結果は、夜中の3時ぐらいまで決まらず、みんなゾンビのようになり、泣き出す人もいれば、叫び出す人もいた。最悪の状態だったと。
 NYではほとんどがヒラリー氏支持者なので、この結果にはびっくりした。が、アメリカは広い。大多数は、アメリカを元の素晴らしいアメリカにしたい保守派、そして複雑な選挙制度が今回の結果を招いたのだろう。

 次の日から、NYでは、トランプ氏を抗議するマーチが毎日のように行われた。「love trumps hate(愛は憎しみに勝る)」、「not our president(私たちの大統領ではない)」、「pussy grabs back(プッシー鷲掴みを返せ)」などの様々なプラカードを掲げ、ユニオン・スクエアからトランプ・タワーまで行進する。トランプ・タワーは厳重なセキュリティが施され、私も前を通っただけで、持ち物検査をくまなく受けた。今週の月曜11月28日には、dear_Ivankaというトランプ氏の娘イヴァンカに対してのデモ行進があった。ダウンタウンのアーティスト・グループHalt Action Groupが仕切り「あなたのお父さんに物申す」と様々なプラカードを持った500人がろうそくのライトを掲げ、イヴァンカ嬢が住むパック・ビルディングから、トランプ・ソーホー・ホテルまで行進した。アーティストは、ジョー・ブラッドリー、シンシア・ローリー、スペンサー・スウィーニーなどを含み、ジョナサン・ホロウィッツとアリソン・ジンジャラスが中心になって行われた。

 毎日のようにトランプ氏に関するニュースが流れ、自分の考えをSNS掲げ、話題が絶えない。実際、ヒラリー氏は一般投票ではトランプ氏を上回っているし、12月19日には大統領選挙人による投票が待っている。これは各州の代表の選挙人による投票で、ヒラリー氏が選ばれる可能性もある。
 ここまでくると何が起こってもおかしくない。実際、トランプ氏が当選した翌日から、憎しみから起きる犯罪(ヘイト・クライム)が急増したとか。例えばクイーンズで、10代の白人の男の子がバスに乗るときに黒人の女性に向かって「後ろに座って」と言ったり、ブルックリンのビースティ・ボーイズのアダム・ヤウク公園に鉤十字と「行けトランプ!」という落書きがされたり。NYですよ、皆さん。近代化した社会が、50年前に逆戻りですか? アメリカの本当の姿を見た気がしてゾッとした。

 だけど動向を見守りながら、私たちは、仕事をし、感謝祭のディナーをし、ワイワイ言いながら、その後を過ごしている。ショーにも行くし、映画にも行くし、曲も作るし、絵も描く。最近では、宇宙をテーマにしたバーJupiter discoがオープンし、ミュージック・テープスのジュニターのショーを見て、沖縄音楽を演奏し、現実逃避ではないが、これを楽しめるのなら悪くない、と感謝さえした。新しい物、事が次々生まれるブルックリンでは、間違った方向には行かないと信じている。苦しい逆境から、良い曲や物が生まれる予感もするし、頭の良いニューヨーカー達は、いろいろ試しながら、進んで行くのだろう。

11/30/2016
Yoko Sawai

with Derrick May & Francesco Tristano - ele-king

 この取材は、10月7日におこなわれている。つまり、大統領選のおよそ1カ月前。なんで、そのときにこの記事をアップしなかったんだよ〜と言うのはもっともな意見である。
 いや、アップしたかった。本当に! しかし訳あってアップできなかったのであるが、なにはともあれ、ぼくはトランプが勝利したとき、というか投票結果で最後にミシガン州が残っていたとき、デリック・メイの憂いを思い出していた。彼は、アメリカに広がるエクストリームな感情について知っていたのである。以下のインタヴューは、名目上は、〈トランスマット〉からリリースされたフランチェスコ・トリスターノの新作『サーフェイス・テンション』の取材で、本作によってデリック・メイは20年ぶりにスタジオに入ったらしい。20年前と言えば1996年だが、それってなんの作品だったんだろう、あ、訊くのを忘れた。
 忘れたというより、このときはそれ以上にデリックに訊かねばならないことが多く、そして、読んでいただければわかるように、ひじょうにショッキングが事実を彼は述べている。トランプのことじゃない。ダンス・カルチャーも、いまとなっては娯楽産業であるから、リバタリアンが身近にいても驚くほどのことではないのかもしれない。しかしよりによって……。(僕がここで何を言いたいか、各自探索すれば面白い事実を知るだろう)


Francesco Tristano
Surface Tension

Transmat/U/M/A/A Inc.

HouseTechno

Amazon

 気を取り直そう。ファランチェスコ・トリスターノの『サーフェス・テンション』がリリースされた。坂本龍一の“戦場のメリー・クリスマス”のフレーズからはじまるこのアルバムは、デリック・メイが参加しているのでぼくは聴いたわけだが、聴いて良かったと思った。オリジナル収録曲の8曲あるうちの4曲に参加し、ボーナストラックの1曲ではライヴ演奏に参加したときの模様が披露されている。栄えある〈トランスマット〉レーベルの30周年イヤーの最後を飾るのは、このコラボレーションなのだ。

うん、プリンスも死んだし……悪い年だな……悪い年だ。

デリック、いったいアメリカで何が起きているんだよ!?

デリック:うん、プリンスも死んだし……悪い年だな……悪い年だ。

日本でニュースを見ていても、ブラック・ピープルのコミュニティにただならぬことが起きているのがわかるよ。

デリック:それは、おまえが繫がっているからね。俺が311のとき日本に来たときみたいなものだ。(放射能が漏れているから)みんな「来るな」と言ったけど、俺は、来た。ヒロも20年の仲間だし、おまえも、ヨウコも……日本にいる俺の女たち全員も(笑)。来るしかなかった。

それほど酷いと。しかし、いまのアメリカを覆っている暗さは、さらにまた、より政治的なことだけど。

デリック:うん、とくにドナルド・トランプが大統領選挙に参加してるから。アメリカで国内戦争になってもおかしくないと思うよ、マジで。本当にヤバい時代だ。デトロイトもだいぶ変わった。デトロイト市が倒産したとかみんな貧乏だとか、そういうニュースとかドキュメンタリーのせいで、デトロイトに"悪い要素"の人たちを引きよせたと思う。金持ちで悪い人たち。わかるだろ。(いわゆるニュー・リッチと呼ばれる)あいつらが全部買い上げた。みんなを家から追い出して。だからいまデトロイトに来たら、全然違うよ。

デトロイトが再開発の対象になるなんて、よほどの……、たとえばメジャーなポップ・ミュージックを聴いても、ビヨンセやケンドリック・ラマーとかね……政治色が強まっている。かたや“Black Lives Matter" というムーヴメントもあるし……

デリック:(遮るように)ちょっと、待った待った。おまえが何を訊きたいのかもうわかるよ。ムーヴメント・フェスティヴァルをやってる奴らとか、そういう考え方から完全にかけ離れてるしね。全然わかってないよ。ウルトラ共和党、コンサヴァーティヴ、右翼のやつら。

え、Movementって……あのフェスティヴァルの?

デリック:そう、オーガナイザーたち。俺は(ネーミング・ライツを)売ったからね。俺が売ったやつ、トランプのサポーターだよ。

ホント?

デリック:Yes....

Unbelievable.

デリック:Unbelievable…

しかし、デトロイトみたいな、白人ではない人たちが多い街でなぜトランプみたいな人が支持されるのか……まったくよくわからないんだけど。

デリック:なぜだかわかるか? 俺は思う……トランプを理解しないと……自分から何か大事なものが取られたと思って怒ってる人たちに、彼はアピールしてるから……

Black Lives Matterに関してはどういうふうに思っているのよ?

デリック:俺は、それほど多くは知らないんだ。俺が知っていることは、そうだな、いまより必要なのは、よりもっと、さらにもっと、all peopleに大事なものじゃないのかな、black peopleだけじゃなく。

そうか。

デリック:いまは話さなきゃならないことがたくさんあるな。

重要なことだね。

デリック:俺にとって“Black Lives"とは、俺の娘、俺の母、俺の家族だ。

まさか、ブラック・パンサーやあの時代のようなことが起きるなんて、信じられなかった。ちょっと本当に……

デリック:ああ、なんて恐ろしい時代だろう。たとえば中東の人たちは、これが彼らにも影響する問題だと理解してないんじゃないかと思うよ。(実際はそうじゃないけど)何か大切なものを取られていると思い込んでるたくさんのアメリカの白人の怒りを理解してないんだよね。

この話、別の機会にしよう。あまり時間がないし、今日は、フランチェスコ・トリスターノの新作の話をしなくちゃね。良いアルバムだし、そう、1曲目と2曲目が本当にすごい……すばらしい。しかも2曲目のリズムを聴いたときに、デリック・メイの腕がまださびてないとわかって嬉しかったです。

デリック:どの曲のこと?

2曲目の"The Mentor"ね。

デリック:まぁ……ちょっと待ってくれよ。美味しいワインに、チル、いい場所で、夜遅くに、ストレスもなく、焦ることもなく、オーディエンスもいない……そして最高のプロデューサーが居るわけだ!

といってますが、フランチェスコさん、どうでしょう?

フランチェスコ:ほぼバルセロナの自分のスタジオで……それと一部デトロイトで。“サカモト”のピアノはパリで。一部のリズム・シーケンスはローマで。“Esotheric Thing”の鳥はモーリシャス島で。

いろんなところでじゃあ……

フランチェスコ:フィールド・レコーディングだ。

デリック:坂本(龍一)さんに“サカモト”を聴いて欲しいな。

“サカモト”、いい曲だよね、インプロヴィゼーションなっていくところが格好いいんだよね。デリックは参加してるの?

デリック:いやいや、他の曲だね。サカモトの曲は完全にフランチェスコだ。

フランチェスコ:じつはアルバムに入れる予定じゃなかったんだけど、デリックに曲を聞かせながら喋ってたら、「これ聴こうとしてるんだからちょっと静かにっ!」って怒られて。で、「これ〈トランスマット〉にもらえない?」と言われて。そもそもDeccaのコンピレーション用だったので、サブライセンスもする必要があったけど、最終的にはアルバムに入れたし、みんな知ってる曲だからポールポジション(トラック1)にするしかなかったね。

デリックからたくさん学んだし、デトロイトという町からも。マジで……みんな俺を受け入れてくれた気がした。──フランチェスコ

大好きだよ、おまえ! ──デリック

「養子」にしてくれたような……俺はただの白人ユーロ・トラッシュ野郎なのに(笑)。 ──フランチェスコ

でもおまえは白人じゃないよ(笑)。 ──デリック

デリックはフランチェスコのどんなところを評価しているんですか?

デリック:そりゃおまえ、何度も言うけど彼のプロ意識だ。クラシックの人生とエレクトロニック・ミュージックの人生のちょうど間をたどれること。クラシックのミュージシャンでは珍しいよ。

フランチェスコはよくぞ、デリックをスタジオに閉じ込めて録音させましたね。いったいどんな手を使ったんですか?

フランチェスコ:なんていうかその……『不思議の国のアリス』だよ、デリックを巻き込む方法は。キャンディーとかをシンセサイザーに入れ替えて、デリックが現れる前に全部機材を接続しておいて、しかも彼が気づかないようすでに録音も初めておいて……そうやってやるんだよ(笑)。

デリック:ハッハッハ……俺をハメやがったな、このクソ野郎め!

フランチェスコ:「まだ録音するなよ!」と言われても「大丈夫、気にしないで!」と言いながら、でも既に録音してるという(笑)。

デリック:おまえ、あのとき俺を騙したのか! 騙したんだな!?

え、デリックはこれがリリースされるということを知らないで一緒にセッションしていたってわけ?

デリック:イヤイヤイヤイヤ、彼が言ってるのは……俺が最初に少し練習しようとしてたことを知ってて……俺はまだ録音しはじめてないと思ってたのに……でも録音してたんだ。俺もそれは結局わかったし、彼も教えてくれたからその時点ではサプライズじゃなかったけど。

フランチェスコ:でも、君は……

デリック:うん、ちょっと(録音のために)遊んでた……常に。

さっき言った2曲目("The Mentor")なんかは、クレジットを見なくてもデリック・メイだってわかるんだけど、初期のビートを思い出したな。あれどうやって作ったの? 機材は?

デリック:これはフランチェスコを評価しないと。だって……スタジオの写真はあるか? 

フランチェスコ:"The Mentor"のリズム・シーケンスには、生ドラムのサンプルを使った。もちろん少しプロデュースされてるけど、キックと一部のハイハット以外は生のドラムサウンドだ。で……やっぱり、デリックがいつも言うように、全部ミックス次第なんだよね。レベルの割合と音楽がどう噛み合うか。音楽といえば……メロディとかベースとか。その音楽の大切な部分をどうするかわからなくなってしまうから、やはりリズムはあまり出すぎないようにしないと。

デリック:非常に良いコラボレーションだったよ。彼は俺の考えをよく理解してくれ、それを評価してくれながらも、自分の視点、自分の考え方もうまく表現した。これはみんなに理解してほしい……これは「おまえ(フランチェスコ)のプロジェクト」だということ。それに俺はインバイトされたんだということを。

フランチェスコ:でも、僕もあなたのレーベルにインバイトされたんですよ。それをお返しできるのは光栄ですよ

デリック:いや、これはおまえのプロジェクトだよ!

フランチェスコ:いや……

デリック:おまえのプロジェクト!

フランチェスコは〈トランスマット〉のことをどう思っているの? またデリック・メイというDJについてもコメントして欲しいですね。

デリック:いい質問だな。

フランチェスコ:(笑)

デリック:ほら、おまえの質問が彼にプレッシャー与えてるぜ(笑)。

フランチェスコ:〈トランスマット〉といえば、僕にとって伝説のレーベルだし、デトロイトのサウンドを生み出した唯一のレーベルだと思う。もちろんメトロプレックスとかそのあとプラネットEとかもあるけど……でもやっぱり〈トランスマット〉なんだよ。しかも僕がアナログを買いはじめた当時、デトロイト・テクノにしか興味がなかった。たくさん持ってるよ……〈トランスマット〉のバックカタログをぜんぶ試聴した……たくさん持ってるんだ。
 それから、デリックはナンバーワンのDJだけど、この作品ではDJしていない。僕は彼を快適な場所から引っ張り出したかったんだ。とくにライヴに関しては。彼にDJしてもらいながら僕がその上からプレイすることもできたけど、それはやりたくなかった。デリックに何か違うことをして欲しかった。彼はもうずっとDJしてるし、誰よりもそれは上手……これからはライヴに挑戦するタイミングだ(笑)!

デリック:進化していくのもね。

もう、飽きてきたろうから最後の質問にするね。この作品にはメッセージがありますか?

フランチェスコ:まず、このアルバムは別々として考えるのではなく、全部連動した、流れ的な作品として考えて欲しいんだ。それからタイトルのSurface Tension(表面張力)とは、生化学、地質学における現象だ。液体の表面にある分子を引き寄せる力のこと。だから水の上を歩ける虫もいるよね。海とか、水じゃなくても、音も……その表面は非常にタイトで綺麗に磨かれたものだ。もちろん好きに解釈してもらっても構わないけど。だがその下には巨大な海がある。それがデリックが別の場所でも話していた、デトロイトの歴史、音楽の歴史、シンセの歴史であり、それが全部「海」でその上に存在する表面張力が僕たちを引き寄せてコラボさせてくれた。僕はこの考えがとても気に入っているんだ。それで僕が〈トランスマット〉からアルバムをリリースすることになるとは……ていうか、トランズマットからフルアルバムをリリースしたことはあるのかな?

デリック:うん、アリル・ブリカとか、『The Art of Vengeance』、Microworld……でもこれは全部日本独自規格で、シスコとやったものだけど。

フランチェスコ:だから、〈トランスマット〉で出すアルバムは特別だよ

デリック:数少ないよ。そこは気をつけてる。

フランチェスコ:本当に少数だよね。僕にはすごく大事。

デリック:俺たちにも大事だよ

フランチェスコ:本当に光栄だよ。しかも イノヴェーターに参加してもらうなんて……ある意味オマージュでもあるね。で、僕がそれのお返しをしたというか。

デリック:Wow、ありがとう。

フランチェスコ:デリックからたくさん学んだし、デトロイトという町からも。マジで……みんな俺を受け入れてくれた気がした。

デリック:大好きだよ、おまえ!

フランチェスコ:「養子」にしてくれたような……俺はただの白人ユーロ・トラッシュ野郎なのに(笑)。

デリック:でもおまえは白人じゃないよ(笑)。

フランチェスコ:でも、僕はデトロイトを感じる。だから〈トランスマット〉は……でかい存在だ。

デリック:ひとつだけ言いたいんだけど、今回のことはまた自分でも音楽作りにチャレンジしたいという気持ちのインスピレーション、モチベーションにもなったよ。それはフランチェスコのおかげだ。俺のオーケストラのコンセプト、それからフランチェスコとオーケストラの仕事をしたから、今回彼の作品にスタジオ参加することにもつながった。そしてそれを僕は受けた。
 俺は音楽をリリースするけど、1989年のデリック・メイにはなりたくない……前の自分になろうとしてるんじゃない。音楽的にどこか別のところに行きたいし、自分にチャレンジするのが大事だ。だから彼とこのプロジェクトに参加することにしたんだ。

フランチェスコ:光栄です。喜んで。

デリック:そう! (俺の)スイッチをオンにした!

フランチェスコ:残念ながら、みんな最近集中力がないからね。でもそう考えちゃダメだし、フェードアウトはしてはならない。

OK、ありがとう。


FRANCESCO TRISTANO P:ANORIG Feat. DERRICK MAY Live in Berlin

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