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NGLY

DécadenceElectroTechno

NGLY

Cities Of Illusion

L.I.E.S.

三田格   Dec 05,2016 UP

 河村祐介にL.I.E.S.を任せたのが間違いだった。今年の始めにエレキング・ブックスから発刊された『クラブ/インディ レーベル・ガイドブック』で河村祐介はなかなかいい仕事をしている。どのレーベルを取り上げるかという段階から参考になる意見をたくさん聞かせてくれたので、多くはそのまま丸投げしてしまったし、風邪を引いたとウソをついて会社を休んで残りの原稿も一気に書いてくれる……つもりが本当に風邪を引いた時はアホかと思ったけれど、WorkshopやPrologueなど作品のチョイスは総じて素晴らしかった。Further Recordsなどは実態がよくわかっていなくて僕も勉強になった。そうか、そんなレーベル・コンセプトがあったのか。断片的にしか分かっていなかった。いや、さすがである。河村祐介に頼んで本当によかった。まったくもって「ありよりのあり」だった。
 だがしかし。L.I.E.S.で2ページも取ったというのにNGLYはピック・アップされていなかった。送られてきた原稿を見て「え!」と思ったが、もはや差し替える時間はない。サブ・レーベルのRussian Torrent Versionsにはいくらなんでも入っているだろうと思ったのに、こっちにもリスティングされていなかった。ガン無視である。NGLYを入れないとは……。それはこのような業界で働く者としてどうなんだろうか。「Speechless Tape」がどれだけの注目を集めたと思っているのか。もはや形骸と化したインダストリアル・ミュージックをディスコ化し、ファッションとして再生させた野心作ではなかったか。三浦瑠璃に絶望している人のためのエレクトロ入門ではなかったか。それにしてもRussian Torrent Versionsとはフザけたレーベル名だよな~。

 そして、ついにアルゼンチンからシドニー・ライリーによるファースト・アルバムである。このところコロンビアのサノ(Sano)、ロシアのフィリップ・ゴルバチョフ、あるいはファクトリー・フロアやゴールデン・ティーチャーといったイギリス勢にも脈々と流れているボディ・ミュージック・リヴァイヴァルの総仕上げである。パウウェルがポスト・パンクをユーモアとエレクトロで刷新すれば、NGLYはニュー・ビートをファンクショナリティと最近のアシッド・エレクトロでアップデートさせたといえばいいだろうか。そう、アシッド・ボディ・ミュージックとでもいうか、ガビ・デルガドーがDAFからデルコムに移り変わる時期に遣り残した官能性をマックスまで引き出し、SMちっくに攻め立てるのである。何かというとクラシックの素養が漏れ出すアルゼンチンの音楽シーンからこんなに退廃的なヴィジョンが噴出してくるとは。ディジタル・クンビアでさえもう少し健康的だったではないか……(ニコラス・ウィンディング・レフンは『ネオン・ディーモン』のサウンドトラックをNGLYに担当させるべきだった)。

 オープニングからスロッビン・グリッスルのディスコ・ヴァージョンに聞こえてしまう。威圧的だけれど重くないビートが次から次へと繰り出され、ドレイクやビヨンセといったメジャー・チャートに慣れきった耳を嘲笑う。単なるドラッグ・ミュージックでしかないというのに、もう、ぜんぜん逆らえません。とくにハットの連打が圧巻。空間処理もハンパない。逃避するならこれぐらいやってくれよという感じ。バカだなー、オレ、いつまで経っても。

 異次元緩和やらアベノミクスにTTP推進とあくまでも豊かさの綱渡りに固執する日本に対し、経済的なデフォルト状態であることを楽しんでいるかのようなアルゼンチン。かつて経済学者のポール・サミュエルソンは、世界は豊かな国と貧しい国、そして日本とアルゼンチンに分類できると語ったことがある。映画を観ていると悪趣味極まりないし、女性に対する抑圧はヒドいのかなとも思うんだけど、アストル・ピアソラ、セバスチャン・エスコフィエ、ファナ・モリーナ、カブサッキ、アレハンドロ・フラノフ、ソーダ・ステレオ、ボーイング、アナ・ヘルダー、ディック・エル・ディマシアド、チャンチャ・ヴィア・スィルクイト……と、音楽は、ほんとに豊かな国なんだよなー。そしてNGLY がこのリストに加わったと。

三田格