「Low」と一致するもの

Lowell Brams - ele-king

 中古レコード店にはたいてい「ライブラリー」と題されたコーナーがあって、燦然と輝くような高額商品が置かれているけれど、そのようなヴィンテージ商品を勝手に作ってしまおうという愉快なイミテイション・シリーズの第4弾。これまでに900Xことジェイムズ・マカリスター、ロー・オブ・ザ・リースト・イフォート、ケイジー・フォウバートという得体の知れない人ばかりがカタログを埋めていて、またしても謎の新人か......と思いきや、共作者名にスフィアン・スティーヴンスの名が。サウンドトラック盤だったとはいえ、昨09年にはポスト・クラシカルに作風を変えたことで賛否両論を巻き起こしたバンジョー弾きですね(メジャー・サイドのジム・オルークのような人です)。そういえば彼がオーナーのレーベルでした。オリジナル・アルバムのほかに「アメリカ50州シリーズ」もやっているわけだし、精力的なことこの上ない。

 ライブラリーというと基本は電子音楽の古典で、実験的なものが多く、「テレタビーズ」のご先祖様のような音楽が次から次へと飛び出してくるわけだけど、それらを見事にシミュレートした全6曲は、しかし、かつてのような実験臭も消え去って、ここでは非常に快楽的なものとして生まれ変わっている。もっといえば、実験音楽で遊んでいるという感覚に近く、たとえていえばシカゴ・ハウスが第2期に入ってディスコ・リコンストラクを試みた時と同じく「現代的な刷新」というのが妥当だろうか。まったくもって真剣じゃないジョン・ケージ。安らげるシュトックハウゼン。方向感覚を失ったペリー&キングスリー......等々。ジ・オーブからダンス・カルチャーの要素を差し引いたものが聴きたいという人にはこれしかないし、『BQE』以前のスフィアン・スティーヴンスが好きだったという人はキープ・アウトかも。

 とにかくどこを取っても音がくねくねとしてトグロを巻き続け、どこにも着地させてくれない。"アルファ・トゥ・シータ"にはノイ!にも匹敵する瞬間が何度もあり、"メラトニン・ララバイ"が見せてくれる風景は「3枚だと思ったら5枚はあった」感じ。ひたすら柔らかい音だけに包まれてしまう"ショート・サーカディアン・パルティタ"もたまらないですよ。あー。

 このところ、09年のベスト・アルバムは......と訊かれて、エリアル・ピンクが新たにはじめた4人組のテキサス・サイケ、シッツ&ギグルズかなーとかなんとか答えることが多かったんですが、撤回します。ジュノで発見して調べてみたところ、昨年末ギリギリでジェット・セットに入荷していたので、逆転です!
 フォーエバー・トリップ・ミュージック! ジャーニー・イズ・ア・オンリー・ウエイ!

3年振りのニュー・アルバム『Have One On Me』のリリースも決定した、ジョアンナ・ニューサムの来日が間近に迫りました!
東京・大阪公演、残りわずかながらチケット絶賛発売中です。あとで後悔しないように!

https://k.d.combzmail.jp/t/08xq/90aadxu0kgpnwt4wla

2/6(SAT) @ 大阪 鰻谷SUNSUI
open 18:00 / start 19:00
adv 5,000yen / door 5,500yen(別途ドリンク代)
opening act : dry river string
ticket : PIA(P:344-507) , LOWSON(L:54881), e+(eplus.jp)

2/7 (sun) @東京 代官山UNIT
open 18:00 / start 19:00
adv 5,000yen / door 5,500yen (別途ドリンク代)
opening act : dry river string
ticket : PIA (P: 344-507), LOWSON (L: 70845), e+(eplus.jp)

R.Kelly - ele-king

 R.ケリーを聴くと、少なくともひとつは良いことがあるのを僕は知っている。R&B好きの女性と音楽の話題を通して、愛や恋やセックスにまつわるトークを開けっぴろげに、ディープにできる。それはとても素敵な時間だ。普段は口にするのも恥ずかしい言葉を平然と言えてしまう。「R.ケリーはあの歌の中でこんなことを言っているけど、オレはこう思うんだよね」という感じに。盛り上がれば、「じゃあ今度、一緒に聴こうよ」なんて誘い文句を繰り出すこともできる。はははは、楽しいぞ! 男も女も魅了する愛のドラマを描けるR.ケリーはまったく偉大な男だ。野田編集長に拠れば、あの女傑、アリ・アップでさえR.ケリーに一目置いているという。

 ディスコ/ヒップホップ以降、つまり"ポスト・ソウル時代"に登場した黒人男性R&Bシンガー/ソングライター/プロデューサーで、R.ケリーほど成功した人間はいないだろう。80年代後半、テディ・ライリーが発明したニュー・ジャック・スウィングはヒップホップ・ビートとR&Bのソングライティングを融合し、ヒップホップとR&Bの壁を取り払うことに成功する。それはブラック・ミュージックの歴史におけるひとつの革命だった。ニュー・ジャック・スウィング・ブームの余韻が残る90年代初頭にR.ケリーは本格的にキャリアをスタートさせる。
 セカンド『愛の12プレイ』(93年)、サード『R.ケリー』(95年)で独自の所謂性愛路線を確立し、両アルバムはそれぞれ500万枚近くも売れたと言われている。『愛の12プレイ』に収録された「セックス・ミー(パート1&2)」のあけすけなセックス描写とねっとりと絡みつく甘いヴォーカルに、10代の僕はそれまで聴いたどんな音楽からも駆り立てられることのなかった卑猥な妄想を刺激されたものだ。
 他方で、マイケル・ジャクソン「ユー・アー・ノット・アローン」をプロデュースし、映画『タイタニック』のテーマ曲で一躍時の人となったセリーヌ・デュオンとの「アイム・ユア・エンジェル」というデュエット曲を作っている。両者ともメロディ・メイカーとしてのR.ケリーの才能が光る、美しいスロー・バラードで、2曲ともクロスオーヴァー・ヒットを成し遂げた。

 1967年、R.ケリーはシカゴのサウス・サイドのプロジェクト(低所得者向け公営住宅)で生まれる。彼は、ただただ甘ったるいバラードやセックス賛歌("セックス・ウィード"、"セックス・プラネット")や女たらしの歌(T.I.とT・ペインをフィーチャリングした「アイム・ア・フラート・リミックス」のスムースなグルーヴには溶けてしまいそうだ)だけを歌ってきたわけではない。ゲットーから抜け出すことを誓い合った彼女との思い出を回想する"ゲットー・クイーン"、シングル・マザーへの愛情を歌った"愛しのセイディ"、壮大なゴスペル調の"トレイド・イン・マイ・ライフ"といった曲があるように、宗教的な精神から貧しい黒人ゲットーの人々へ向けた同胞愛まで、様々なドラマを歌い分けてきた故に幅広い層からリスペクトされてきたのだろうし、常に(ダンスホール、レゲトンを含む)最新のアーバン・サウンドを取り入れるという意味でも、ストリートの感覚を反映させるという意味でも、ヒップホップ的感性はR.ケリーの音楽の重要な要素と言える。そしてなにより、どこか憂いのある艶かしく悩ましいあの声が聴く者のハートの深いところを締めつけてくる。それは、マーヴィン・ゲイにもプリンスにも通底するブラック・ミュージックにおけるもっとも濃密なソウル――性と快楽と剥き出しの魂が渾然一体となった黒い媚薬とでも言えるような――のひとつの象徴だろう。

 それにしても、R.ケリーにうっとりした後にテレビから流れてくるアイドル歌手が歌うラヴ・ソングを耳にすると、どうにも幼稚でつらい。成熟よりも幼児性に傾きがちな日本のポップ産業においては仕方のないことかもしれない。が、恋愛やセックスが必ずしもピュアで、汚れなくキラキラしているとは限らないのに......まったく深みがなさ過ぎて本当にげんなりするものが多い。「大人を舐めるなよ~」という気持ちだ。恋愛をしていれば、彼女に飛び蹴りされて、コンクリートの路面にしたたかに体を打ちつけることだってあるし、金のことで言い争うこともある。また、ときたま事故のように訪れる......(以下、自主規制)。皆さんもよくご存知のように、愛や恋やセックスには壮絶な、嵐のような出来事が付き物なのだ。まさにR.ケリーが地で行くように。

 児童ポルノや性的虐待に関する容疑による逮捕・起訴(無罪を勝ち取ってもいる)、離婚問題、2枚のタッグ・アルバムを制作したジェイ・Zとの仲違い。R・ケリーの周囲にはセックスや女性関係にまつわるスキャンダルをはじめ、裁判沙汰が後を絶たない。いまやR.ケリーをゴシップ・ネタとしか扱わない向きもあるのだろうが、ビヨンセ、リアーナ、アリシア・キーズなどの例を出すまでもなく、"女の時代"だった00年代のR&BシーンにおいてR.ケリーは第一線に立ち続けた。

 そこで、前作『ダブル・アップ』から2年ぶりに届けられた、オリジナル・アルバムとして通算10作目となる『アンタイトルド』を聴く。特筆すべき"新しさ"があるわけではないが、安易に4つ打ちを取り入れた2曲と取って付けたようなサウス系の1曲を除けば、まったく期待を裏切らない出来と言っていい。欲を言えば、R.ケリーらしいストーリー・テリングをもっと聴きたかったというのはある。まあ、それでも十分に満足できる。ケリ・ヒルソンと猛々しくセックスを求め合う男女を演じるエネルギッシュなデュエット曲「ナンバー・ワン」(「Sex that we`re having here girl ohh(セックス、僕らは抱き合う、ガール、ohh)」)、売れっ子シンガー/プロデューサー、ザ・ドリームらをゲストに迎えたアーバン・ソウル"プレグナント"( 「Give you make me wanna get you pregnant(ガール、キミを妊娠させたくなっちゃうよ)」)、90年代中盤のメロウR&Bを彷彿とさせるセルフ・プロデュース曲"ゴー・ロウ"と"ホール・ロッタ・キスイズ"。いまR.ケリーを聴こうと思うならば、過去作ではなく、間違いなくこの集大成的な新作(リリースは昨年末)を手に取るべきだろう。これぞブラック・ミュージックにおけるエロスの真骨頂。堪らない。

Charts by JAPONICA 2010.01 - ele-king

Shop Chart


1

AMAZIAH

AMAZIAH SLOWLY CLAREMONT 56/UK / 2010/1/4 »COMMENT GET MUSIC
大人気CLAREMONT 56の人気コンピ"ORIGINALS"最新第4弾に収録されていたスローモーなロッキン・ディスコの大傑作、AMAZIAH"SLOWLY"を片面一曲仕様で収録した限定10インチが入荷!全世界300枚、しかも国内ではジャポニカ独占少量入荷というレア化必至のアイテムです!これは見逃せませんよ!

2

MARK E

MARK E WHITE SKYWAY UNDER THE SHADE/UK / 2010/1/14 »COMMENT GET MUSIC
MARK E新作!A面収録の"WHITE SKYWAY"は持前のへヴィなビートとグイグイと持っていかれる抜群のビルドアップ感を兼ね添えたスペイシーなビートダウン・トラックを披露!相変わらずいいとこ取りなウワネタ・サンプルのミニマル感もばっちりです!B面にはこちらもスペイシーなジャジーなリフに包まれながら進行する高揚感がたまらないディープ・ハウス・トラック"NOCTURN"を収録!

3

KINGDOM☆AFROCKS

KINGDOM☆AFROCKS イチカバチカーノ JAPONICA/JPN / 2009/12/20 »COMMENT GET MUSIC
ライブハウス/クラブに野外フェスまで数多くのイベントに出演、その熱いライブパフォーマンスが全国のダンスミュージック・フリークスの間で注目を集め、あのアフロ界の重鎮トニー・アレンも太鼓判を押す日本最強アフロバンド、キングダム☆アフロックス待望のファースト・シングル!今年リリースされたファースト・アルバムが日本全国、海外でも話題を呼んでいるBASED ON KYOTOのプロデューサーDAICHIによるリミックスも収録!

4

COFFEE & CIGARETTES BAND

COFFEE & CIGARETTES BAND ELECTRIC ROOTS 001 ELECTRIC ROOTS/JPN / 2009/12/24 »COMMENT GET MUSIC
BIRDSは定番ブレイク"EDWIN BIRDSONG/RAPPER DAPPER SNAPPER"をベース・サンプルに、小気味良いリズムで進行するドラムが重なりあうブレイクビーツ~ニュー・ディスコ・トラック!ヘヴィ・ドラムに 80'Sなヴォイス/シンセ・サンプルを随所に入れつつ巧みなドラムの抜き差しで展開をつけるヒップホップ・トラック"HEAVY SWING"、ビートダウン・マナーなビート構築にウワネタ・ループがハマる全方位対応型クロスオーヴァー・トラック"JAMS"と、どれも隅々までC&C BANDの細かい拘りが行き届いた全3トラック収録!

5

V.A.

V.A. TTJ EDITS #26 TTJ/FRA / 2009/12/25 »COMMENT GET MUSIC
RICHARD VILLALOBOSが2006年にPLAYHOUSEよりリリースした37分超えの長編大作クラシック"FIZHEUER ZIEHEUER"の元ネタを天才TODD TERJEがリエディット。乾いたパーカッションとフリーキーなフォーン、トランペットが織り成すオリエンタルな世界観を、原曲の雰囲気を壊すことなく相変わらずの抜群のセンスで展開させています。これは何が何でも押さえておきたい!

6

UNKNOWN

UNKNOWN ANGOLA -/FRA / 2010/1/11 »COMMENT GET MUSIC
ヒットを連発する"DAI"シリーズより、またも強力な一枚が到着しました!CARLCRAIGのリミックスが大きな話題を集めたCESARIA EVORAの大名曲"ANGOLA"を大胆使用!今でも耳にするエスニック/アフロの傑作ディープ・ハウスを使用し見事にダンサンブルなトライバル・ハウスに仕上げた傑作トラックです!今回も間違いなく話題となりそうですよ!

7

SETENTA

SETENTA APARIENCIAS HOT CASA/NL / 2010/1/14 »COMMENT GET MUSIC
パリのラテン・ディスコ・ファンク・バンドSETENTAによるクロスオーヴァー・サウンド全開の最高すぎる7inch!ラテン/ブラジリアンなジャズ・ファンク~ディスコ風味の"APARIENCIAS"はギターやエレピ、パーカッションによるトロピカルな味付けいい塩梅な爽快グッド・ナンバー!B面には疾走感溢れるパーカッシヴ・ビート、ラテン~アフロ・ヴォーカルとが爽快感を際立てるラテン・ジャズファンク・ディスコ"SONRISA"を収録でこちらもかなりいい出来です!

8

SCOTT FERGUSON

SCOTT FERGUSON EVOLUTION OF A REVOLUTIONARY EP FERRISPARK/US / 2010/1/11 »COMMENT GET MUSIC
デトロイト近郊ハイランドパークを拠点に、マニアックなディープ・ハウス作品をリリースしてきた人気を集めてきたベテランSCOTT FERGUSONの新作が到着!GIL SCOTT-HERON"THE REVOLUTION WILL NOT BE TELEVISED"のアジテーションを使用し、エモーショナルな漆黒のアーバン・ディープ・ハウスを展開!大推薦ビート・ダウン!

9

SLOW MOTION REPLAY

SLOW MOTION REPLAY THINK BETTER / RAGGED MUSTANG SOUL SOURCE/JPN / 2009/12/15 »COMMENT GET MUSIC
THE CHAMP×"THINK TWICE"とベタに大ネタを組み合わせながらもイナタさや違和感が全くなく逆に洗練されたタイトなグルーヴを織り成す超絶マッシュアップ・ブレイクスに仕上がった"THINK BETTER"!そしてB面にはアフロ・ジャズ傑作"CURTIS AMY/MUSTANG"を下敷きにし、ラグドなビートにグルーヴィなジャズ・アンサンブルで迫るジャジー・ブレイクビーツ"RUGGED MUSTANG"を収録!

10

KEZ YM

KEZ YM BUTTERFLY EP YORE / GER / 2009/12/14 »COMMENT GET MUSIC
KEZ YM新作!!THEOやKDJにも通じるスペイシーなシンセ・コードに黒光りした声ネタを被せたデトロイティッシュ・ディープハウス"BRIDGE TO BRIDGE"やピッチダウン・ハウス・トラック"LOW TIDE"等収録ですが、中でもやっぱりレアグルーヴ感に重点を置いた生な質感が最高すぎるブレイクビーツ・ハウス"BUTTERFLY"がとび抜けてます!!日本人離れしたこの黒い感覚やばいです。

[Techno] #2 by Metal - ele-king

 あけましておめでとうございます。相も変わらず労働とクラブ徘徊の生活を送っています。どうか今年もよろしくお願いします!
 ちなみに昨年の大晦日から新年はTHE KLO(BE-WAVE)→DJ NAMIDA(BE-WAVE)→中原昌也(BONOBO)→DJ WADA(SOUNDBAR+)→MIXMASTER MORRIS(SOUNDBAR+)といった流れでした。良い幕開けです。遅ればせながら野田さんに勧められ、ディスクユニオン限定のヘア・スタイリスティックスを買いました。ジョン・ケージを越えてます。恐れ入りました。
 さて、クラブ中毒者およびヴァイナル中毒者のためのテクノ系の12インチ、クリスマスから新年もリリースは好調で、いくつも面白いものが出ています。

1 Acid Pauli / Nymbiotic/Symbiotic | Smaul(GER)

90'Sのジャーマン・テクノを象徴するような無機質なレイヴ・サウンドを〈ディスコ・B〉(ミュンヘンの老舗のテクノ・レーベル)からリリースしていたマルタン・グレッシュマンことアシッド・ポールが、こんどは自身のレーベル〈スマウル〉からのリリース。作風はがらりと変わってソフトでシンプルなハウスを響かせている。
  A面はガムランを基調に、蛙の声や水音など自然音を巧みに取り込んだ個性的な響きのトラック。B面では哀愁をおびたストリングスのサンプルを使った落ち着いたディープ・ハウスが中盤のブレイクからプログレ調に変化していく珍妙なトラックを展開する。アイディアとネタ一発だが、それがまさに今日的な"リエディット"の形。そしてこれがまたフロアでは効力を発揮する。

2 Acid Pauli / Marvin / The Real Sidne | Bootleg

ちょっと古いけど、こいつも是非紹介したい。先にも挙げたアシッド・ポールの一作前のリリース。クラブで聴いている人も多いと思うが、マービン・ゲイの"ホワッツ・ゴーイング・オン"のヴォーカルがそのまま使用された、まるでシルクのように滑らかなディープ・ハウスだ。DJにとってはとても使いやすく、ヴォーカル・パートが入ってくるタイミングが遅いので前の曲からゆっくりとミックスすることができる。
  現場でかけてみると面白いのが、大ネタにもかかわらず歓声があがるような盛り上がりではなく、ほかほかした良い空気が流れるところです。曲のスピードを変えても音程がぶれない、サンプラーの機能向上がもたらした奇跡の1枚。もちろんヴァイナル・オンリーです。

3 Anthony Collins / Away From Home | Mule Electronic(JPN)

フランスの〈フリークン・チック〉に代表される新しいタイプのシカゴ・ハウス勢のなかで、目覚ましい活躍を見せているのがこのアンソニー・コリンズだ。DJあるいはダンス・マニアのあいだでいまいちばん信頼されているトラックメイカーのひとりでもある。
  A面ではレーベルのカラーに合わせてミニマルを意識したのか、彼の得意技であるシカゴ経由のディスコ・テイストは影を潜め、中低域の音の運びが上手いダビーで深みのあるテック・ハウスを展開している。B面ではピアノとシンセとホーンのからみが絶妙な、ジャジーなフィーリングのディープ・ハウスを展開する。ブラック・ミュージックとしてのハウスを求めている人にはドンピシャな音でもある。明るすぎず、綺麗すぎず、ほど良い塩梅です。

4 Telefon Tel Aviv / Immolate Yourself Remixies | Bpitch Control(GER)

トータスのジョン・マッケンタイアによるレーベル〈ヘフティ〉からオールドスクールなエレクトロを基調に数々の傑作を放ってきたテレフォン・テル・アビブのアルバムからのカットで、これはそのリミックス集。レーベルはベルリンのエレン・アリエン率いる〈ビッチ・コントロール〉から。豪華な面子がそろったお買い得盤である。
  A1はレーベルが期待を寄せる新人トーマス・ムラーによるダークなエレクトロを基調にした金属的な質感のアシッド・ハウス。おかずのパーカッションがいまのフロアの気分を象徴している。
  B1は人気の女性ミニマルDJ、ミス・フィッツによる原曲のヴォーカルを活かしたダビーなミニマル・ハウス。現在のミニマル・シーンを代表する〈パーロン〉からリリースされた前作の延長上で、よりシンプルに音の運びを意識したトラックに仕上がっている。この人の作る曲は、サンプルにエフェクトをかけたものが基調で、安易といえば安易なのだが、いまのDJならではのネタ感が良い。今回も毎度おなじみのブラック・ジャズからのサンプル使いだ。
  B2はベルグハインの人気DJ、ベン・クロックによるソフトでグルーヴィーなテック・ハウス。ハード・テクノに傾倒していた作風から見事なシフト・チェンジ。ただ体の動かし方にはテクノを感じる。後半に入ってくる多幸感のあるシンセがトランシーで心地よい。

5 Bauhaus / Bauhaus O1 | Bauhaus(GER)

ドイツの歴史的に有名な美術学校「バウハウス」の名前がホワイト版にスタンプされただけの、アート志向のハウス。アーティストは不明。音は、太いキックとザラついたハット、中高域のノイズで引っ張るインダストリアルな質感のハード・ミニマル。レディオ・スレイヴに代表される90年代テイストのテクノをモチーフにしている。いわば懐古主義的なトラックとも言えるだろう。ネーミング、楽曲、スタイル、すべてが現在のテクノを支配する"ミニマリズム"の美学に基づかれている。

6 Deepbass & Roman Toletski / Dark Beat(Remixies) | Dark Beat(UK)

UKの新しいレーベル〈ダーク・ビート〉よりストイックなハード・テクノが登場。A面はUKテクノ・シーンのベテラン、マーク・ブルームによるリミックス。ハットの抜き差しとホワイト・ノイズで引っ張り、後半には覚醒的なシンセが展開する、ほどよく走ったミニマル・テクノ。うすら遠くに聴こえる女性の声の入れ方にセンスの良さを感じる。
B面は、グラスゴーの〈ソーマ〉で活躍するパーシー・エックスによるエディット・セレクト名義でのリミックス。"The Orb Theory"という意味深なタイトルが付けられている。パーカッションを主体としたグルーヴィーなミニマル・テクノで、ジェフ・ミルズのように裏と表が入れ替わる繊細なトラック。マーク・ブルームといい、トム・ミドルトンといい、UKではベテラン勢を中心にテクノがふたたび盛り上がってきている。

7 Gary Beck / Over To You | Bek Audio(UK)

こちらはグラスゴーの新鋭ゲイリー・べックが自身で立ち上げた〈べック・オーディオ〉からの新譜。A面は中高域のフランジャーのかかったホワイト・ノイズで淡々と引っ張るミニマル・テクノ。
  B面は原曲とほぼ同じ構成でノイズを強調したエディット・セレクトによるリミックス。人気のプログレッシヴ・ハウスDJ、ロコ・ダイスのトラックのように柔軟なグルーヴながら、ハードにもソフトにも使える1枚で、まさにDJフレンドリー。基本的に展開の少ない地味な曲だが、聴かせ方次第ではDJのピークタイムにも使えまる。次世代も負けてはいない。

8 Gaspard De La Vega & Jenius / Beauty On Water Ep | Perplex Recordings(GER)

ドイツのテック・ハウスレーベル〈アワー・ヴィジョン・レコーズ〉などで活躍する新鋭ギャスパー・デ・ラ・ベガ&ジー二アスによる新作が〈パープレックス〉よりリリースされた。
  予定調和なデトロイティッシュ・テクノを聴かせるA1、B2はおいといて、B1のゆったりしたパーカッションにセクシーな女性ヴォーカルが絡むダブ・ハウスが面白い。ディレイによるダブ処理で音の"トビ"が強調されている。大箱でかかったら、スモークがバッチリはまりそうなイメージの曲だ。大げさで、ばかばかしくって、落差があるところが良い。先鋭的な試みや繊細構成はないものの、大箱でプレイされるために作られたプログレッシブ・ハウスのタフさが充分に滲み出ているクラブ・トラックだと言える。立体的で体感的な音楽。

9 NSI / Eitherway | NSP(GER)

NSIとは、テクノ・ファンにはサン・エレクトロニックの名前で古くから知られるベルリンのベテラン、マックス・ローダーバウアー、そしてリカルド・ヴィラロボスとのプロジェクト、オド・マシンをはじめ、ジーク・ウーバー・ディー・ゾンネ(Sieg Uber Die Sonne)のメンバーとしても活動するトビアス・フロイントによるユニット名である。NSIは2005年から活動をはじめ、すでに4枚のシングル、2007年には〈サッコ〉からは1枚のアルバムを発表している。
  本シングルは全編生楽器の演奏を中心に繰り広げられ、それをエレクトロニクスによって加工した音響的なツール集とうい体裁をとっている。ルチアーノの〈カデンツァ〉からリリースされたシングルではミニマル・ハウスのフォーマットを借用していたが、ここではどこまでも実験的でダンスを目的としたクラブ・ツールは1曲もない。かろうじてB1が曲として機能している程度だ。フリー・フォームなクラウト・ロック・バンド、ファウストを想起させる。新しいフル・アルバムが早く聴きたい。

10 Jacques Palminger / Tuedeldub Remixe | Pudel Produkte(GER)

これは酷いジャケット。プードル犬が糞を垂れている。ハンブルグのパフォーマーンス集団スタジオ・ブラウンのメンバーとして活躍するジャックス・パルミンガーのニュー・シングルだ。『鳥屋の梯子と人生はそも短くて糞まみれ―ドイツ民衆文化再考(アラン・ダンデス)平凡社』を参照しよう。
  新しいドイツのテック・ハウスを模索する〈パープレックス〉よりによると、ドイツ人にはスカトロジーを題材としたジョークを好む傾向があり、プードル犬が糞を垂れるモチーフも昔から頻繁に使われているそうだ。それはこの盤は、まさにドイツ人らしいユーモアの妙例なのだろう。
  A1は原曲のポエトリーを活かしたシャックルトンによるリミックスで、装飾はそぎ落とされ、ベースとドラム最小限のシンセという骨格だけで聴かせるダブステップ。ベースの抜き差しが、まるでダブの始祖キング・タビーを彷彿させる。
  A2はローレンスによる多幸感溢れるダウンテンポ・トラック。まるで元日の空のように美しく澄みきった穏やかさが魅力だ。B1はヘイ・O・ハンセンによるアシッド感のあるディレイがかったブロークンビーツ。B3はピーター・プレストによるメランコリックなピアノのメロディが印象的なエレクトロニカ。B2、B4はヴォーカルのみの短いスキット。現在のドイツの風俗が凝縮されているだけでなく、サウンド的にもとてもクオリティが高いリミックス集となっている。

電気グルーヴ - ele-king

 2009年末、電気グルーヴの結成20周年を記念した活動の一環として過去ヴィデオ(VHSですな)としてリリースされていた90年代を中心とする映像作品が3タイトルまとめて再発された。旧住所に宛ててギリギリに発送された招待状が郵便局に転送される間に終わってしまって見逃したリキッド・ルームでの4時間におよぶ20周年記念ライヴ、これはCMJKや篠原ともえもゲストに登場するカオスっぷりで、往年の名曲から昨年の2枚のアルバム『Yellow』『J-POP』、そして20周年記念盤すべてからまんべんなく曲が披露されたという。しかし、そのライヴを目撃した誰もが口にしたのは「長すぎ、やばすぎ、おもろすぎ」なMC。かつてのラジオでの喋りよろしく、ここ最近のステージではとにかく喋りたおす卓球と瀧が目についたが、それが究極の形にまでいってしまったようだ(実質2時間以上)。そ、そんな電気が戻ってきてるのかぁ......と感慨深いあなたは、とりあえずこのDVD3作をチェックして、まんまそのステージでの悪ふざけ的なノリで飛ばしまくるトーク(副音声)を楽しむのもありかもしれない。特に、初期の92年の「全国鼻毛あばれ牛ツアー」の模様(日本武道館での公演メインに複数の会場の映像を編集)を収めた『ミノタウルス』と、なにもかもが変わってしまったロンドン帰りの卓球が何かに取り憑かれたように踊りまくる94年1月NKホールでの「野村ツアー」最終日を収めた『ケンタウロス』は、時代のドキュメントしても超貴重。ゲストにまりんを迎えてビールを空け、完全に同窓会ムードになってるこの副音声と、精悍で若々しい彼らの姿、そして音を再確認するだけでも、かなり価値のあるDVDだ。

 それにしても、レイヴ~ハードコアな音、要するにサンプリング主体でイギリス的な響きの92年から、909のキック、303のアシッド・ベース、そしてトランシーなブレークなど完全にジャーマンな93~94年のあいだの隔たりがものすごい。デビュー当時からそのときどきに気に入った音を剽窃よろしくペロッと舌を出して取り入れてきた電気が、初めて自分たちの表現にサウンドの要素を借りてくるのではなく、自らが音の海に突進して融合してしまったかのようなすさまじいリアリティ。別にそれ以前がだめだというわけでなく、完全に音との向き合い方、表現の方向性が変わったのだと、誰がどう見てもわかる。コメンタリーを聞いてると結構恥ずかしそうな卓球だが、でも、このステージがきちんと映像として残されメジャーから発売されて、いままたこうやって再発されるっていうのが奇跡。ダンスフロアのE-Dancerたちを捉えたドキュメント映像はいまやYoutubeでもたくさん探せるけれど、ステージがこんな状態になってる上に、ちゃんとアーティストのそれまでやってきたことも継承してるしエンターテインメントとして成立してるっていうのは世界中探しても他にないんじゃないか。ラスト近くで定番の"富士山"やって、着ぐるみの瀧と汗だくで踊る卓球、そしてたくさんの子供がステージでぐるぐる歩きまわるっていうスゴイ画が見られる。たしかこのとき、エキストラでステージ上がれる子供いない? って言われて、探した気がするけど、今見るとほんとシュールだわ、これ。

 おまけ的についてる『シミズケンタウロス』は、田中秀幸が当時12インチでもリリースされた"Popcorn"と"新幹線"にものすごいチープなCG(たぶんアミーガ)で映像をつけたもので、これもすごい。これって要するに、当時田中さんが芝浦GOLDとかでやっていたVJの再現で、ただレインボーのサイケな光がグニャグニャしてるとか、いまやスマップとかキャメロン・ディアス使ってCM撮ってる田中さんの原点を確認するという意味でも感動的なのだ。(こちらへ続く)

SEEDA feat. ILL-BOSSTINO, EMI MARIA - ele-king

 シーダというラッパー(プロデューサー)が不良たちのヒーローに留まらず幅広い層から支持されたのは、メランコリーや悦びの感情を細やかに描く才能に恵まれていたのもあるし、どこか頼り無さげで儚い佇まいに色気が漂っていたのも大きかったのだろう。曲によって別人と思えるほど極端に変える声音や世界を異化するような(威嚇するような)笑い声には、ある種の分裂症的なものさえ感じさせる。シーダは一般的にはハードコアなイメージが強いが、実は非マッチョで、非ハードコアなラッパーだということが彼の作品をじっくり聴き直すとよくわかる。知り合いの女の子が就職活動で将来について悩んでいるときにシーダの音楽に癒されたと語っていたが、彼女にとってドラッグ・ディールというハードなトピックは二の次だったのだろう。僕がシーダの音楽に感化されたのも、何も彼が"悪かった"からではない。

 僕は、シーダほど黒人音楽のメロウネスを深いところで自分のリアリティと接続して消化できた日本のラッパーはいなかったと思っていて、90年代にアメリカのR&Bを宇多田ヒカルが独自に消化したのと近いことをやったと解釈している。例えば、シーダが日本語ラップ・シーンで評価を決定付けた通算4枚目のアルバム『花と雨』に収められた"Daydreaming"、あるいは彼の内省がもっとも素直に表出された通算6枚目のアルバム『Heaven』に収められた"紙とペンと音と自分"を聴いたときにそのことを強く感じたのだが、"Wisdom"を聴いて、その気持ちは確信へと変わった。

 "Wisdom"は、今年の5月に発表した通算7枚目のアルバム『Seeda』を最後に活動を休止していたシーダの復活作となる。僕はこのシングルを買ってからというもの何度も繰り返し聴いている。1週間でここまで聴いたシングルはここ数年なかったと思う。僕が"Wisdom"に惹かれたのは、ヒップホップ的なループ感よりもハーモニーが強調されたゴージャスなR&Bでありながら、単なるラヴ・ソングではなかったからだ(プロデューサー、オールド(OHLD)によるトラックは秀逸である)。シーダは甘いムードと戯れながら、しかし今でもストリートを歩き、街角の風景――空きビル、ホームレスを描写し、外気を吸い込むことを決して止めない。それが、同じくメロウなR&Bをほぼ全編に渡って展開した、クレバの密室的なラヴ・ソング・アルバム(と言っていいだろう)『心臓』との決定的な違いでもある(『心臓』は素晴らしい!)。

 "Wisdom"は、恋人と聴いても、志を共にする友人と聴いても、最後には同じ感動が待っているような、背後から恋の予感に抱きすくめられながら、生きる勇気を鼓舞してくるような......、幾重にも感情が織り込まれたソウル・ミュージックだ。ここには、愛があり、決意があり、ロマンがある。愛の歌と革命の歌が同時に歌われる70年代前半のニュー・ソウルを思い起こさせるし、ポール・ギルロイの「パッションの歌はしばしば同時に抵抗の歌を意味していた」という言葉が脳裏をかすめもする。シーダが黒人音楽と深いところでつながっていると僕が感じるのはそれ故だ。マイノリティは常にセクシーである。誰かが前にそんな文句を言っていたが、そう、"Wisdom"はセクシーなのだ。

 "Wisdom"は、「大きな力/俺等に必要無い/今より少しだけ/勇気でFLY」という、シーダが自身の無力さをすんなりと受け入れるラインから幕を開ける。これまで自身の無力さとの葛藤を音楽化してきたシーダからまるで憑き物が落ちたように。これは明確なアンチ・マッチョイズムの表明だろう。大きな力――暴力や巨大な資本力だけでねじ伏せられないものが音楽のコアにはあると言いたいのだろう。CDが売れないと言われる時代に、1曲入り300円という値段で、しかもオリコン・デイリーチャート5位を記録するというのもそれだけで希望じゃないか。

 シーダが日本語ラップのルールから解き放たれた普遍的なテーマでリリックを綴る一方、ゲスト・ラッパーであるザ・ブルー・ハーブのイル・ボスティーノはラップ・ゲームのサヴァイヴァルについて歌う。結果的にボスの存在が日本語ラップ・リスナーをつなぎ止める役割を果たしている(ように思える)。だから正直、ボスはこの曲の中では少し浮いているのだけれど、バランスとしては悪くない。他にもいろいろ語るべきことはあるが、最後にR&Bシンガー、エミ・マリアの歌声が素晴らしいことを記しておこう。彼女はセクシーな声で歌う。「誰にも支配されない/自分だけを生きたい」と。10年代に入ってからも「Wisdom」を何度も聴くことになるだろう。

Flashback 2009 - ele-king

the techno of the year! ルシアーノ。

 いよいよゼロ年代も終わろうとしてる。あっという間すぎて、とりとめがなさすぎて、消化しきれてないこの10年。その様相をギュッと凝縮したようにまったくもってカオスで行く末もなにも不明瞭だった今年。いろいろ話していく中で"テクノはNGワード"というショッキングなトピックすら出てきたが、こうなったら行くとこまで行ってしまえという思いも湧いてきたのだった。

 そもそも40すぎのおっさん一個人が体験できることなんてたかが知れてるし、「それで総括なんてちょっとおこがましいだろ」わたしの中のガイアがそう囁く。実は去年も某ではなく亡R誌の総括企画でいろいろ違う立場、違う世代のひとたちと語らって結構収穫があったのを思い出し、さっそく身近で現場にいちばん近いひとたちに声をかけた。ひとりは〈ageHa〉で積極的に旬のアーティストを招聘し、日本のDJたちもバシバシ登用してるパーティ〈CRASH〉のオーガナイザーの荒木くん、もうひとりは貴重なアナログを試聴して買える店舗として渋谷でがんばっている〈Technique〉のテクノ担当バイヤー佐藤くん。ふたりとも、それぞれの視点でなかなか外からは見えないことを語ってくれた。その貴重な発言を織り交ぜながら、09年を振り返ろう。

 今年意外だったリヴァイヴァル現象のひとつは、ハード・テクノが復活の兆しを見せたこと。ちょっと前までは"最も需要のないジャンル"とまで言われたハードテクノ/ミニマルが、息を吹き返した。

 「自分がテクノを好きになるきっかけのアーティストのひとりで、ルーク・スレイターは毎年呼んでるんですけど、今年はPlanetary名義のアルバムも出て、ヨーロッパでも評判が良くて調子も戻ってきてるって話を聞いて、すごい嬉しかったですね。一時低迷してる感じもあったでしょう。実際好調だっていうのを反映するように、DJプレイ自体すごく良かったし。このあいだ〈Drumcode〉のパーティで来たAdam Beyerもハードだったけどテクノ! って感じのプレイで、燃えました」(荒木)

 ベルリンで"世界一"との称号を得るクラブ〈Berghain〉が核となったこの動き、ルークのPlanetary Assault Systems名義のアルバム『Temporary Suspension』 が〈Berghain〉の運営するレーベル、〈Ostgut Ton〉からリリースされ、またWIRE09のハイライトになったLen Fakiが同クラブの公式盤としてリリースしたミックスCDも素晴らしかった。両者とも、クリック~ミニマルの流れは意識しつつも、図太いキックを響かせハードなサウンドの復活を象徴していた。

 「レーベルだと〈Blueprint〉とか〈Downwards〉が復活して、リイシューも含めると結構な数がリリースされる状況です。硬質なテクノはきてますね。ただ、シーンがハウス的なものばかりになってしまった反動で、30歳前後のかつてのハード・ミニマルの隆盛を知ってる層がまた聴きだしたという印象で、若いひとが新鮮に感じてるということはないんじゃないかなぁ。このあいだのSurgeonのDJでもフロアの年齢層高かったし」(佐藤)

 昨年のリーマン・ショック以降の世界恐慌一歩手前という経済状況は、もちろんクラブ/音楽業界にも寒風を吹かせた。特に欧州では意識変革や時流とも相まってアナログ盤のセールスの激減という事態に結びつく。Native InstrumentsのDJ用ソフト開発に関わっている人物によると、ドイツでのヴァイナルの販売数は今年1/3にまで落ち込んだそうだ。しかし、日本の状況はどうかというと、意外に市場全体の規模としては急激に縮小してるわけではないという。

 「レーベルだと〈Cadenza〉、もしくはリカルド(・ヴィラロボス)絡みのものだと、100~200枚売れることもありますが、それが最大。昔はウチだけで数百なんてよくある数字だったんですけどね。普通のものは10~30枚とかですよ。ただリリースの数がものすごく増えて、だから全体としてはそこまでセールスが落ち込んでない。ドイツのディストリビューターのひとと話したら、やはり多くのレーベルがアナログは全世界で300枚くらいしか売れないと言ってますね。そうなると日本はマーケットとしてすごくでかいし、次の展開としてアジアをどうにかしようと考えてるみたいです。ただ、そこまでプレス枚数が減ると値段上げて売り切りでもペイできないだろうし、DJとしてブッキング増やすためのプロモーション・ツールになってきてる」(佐藤)

 実際のところアナログ盤を買うというのは、ある種の贅沢行為もしくは奇特な趣味になりつつあるのかもしれない。今年はまったく面識ない若い子と一緒にDJする機会が何度かあったけど、PCかCD-Rでやってるケースが大半で、ターンテーブルはもう物置場と化してるわ、カートリッジもついてないわ、隅のほうに縦置きされてるわで、なんとも悲しいブースだった。もっと名の知れたメジャーな箱でプレイしてるDJたちにしても最近は「アナログ使いますか?」と事前に確認されるとか、そうでなくてもデジタル・ソースで良く聞こえるようにPAが調整されていてアナログだとイマイチというケースも増えているそうだ。そして、11月末にはついにオーストラリア発で「パナソニックがテクニクスのターンテーブルの生産を中止する!」という噂までネット中を駆け巡り大騒ぎになった。ひとまずそれはガセと否定されたが、いつそんな状況になってもおかしくない、というのが現実か。

 09年の最大のフロアヒットがリカルドのレーベル〈Sei Es Drum〉から出たRebootの"Caminando"もしくはルシアーノが半年以上かけてプッシュし続けたMichel Cleis"La Mezcla"であることは疑いないだろう。両方とも、フォルクローレ・ミニマルという今年の一大潮流となったトレンドを規定するような仕上がりで、実際南米の楽曲をもろにサンプルしたトラックだが、目の付け所やループの組み方など絶妙でまさに時代にフィットした感があった。リカルドは現在もアナログ・オンリーでDJしているし〈Sei Es Drum〉はデジタル・リリースをやってない。ルシアーノは現場ではPCを使っているが〈Cadenza〉は大半のリリースでアナログ重視の姿勢を貫いている。日本でも石野卓球や田中フミヤといった影響力のあるプレイヤーがいまだアナログにこだわっているといったように、ロールモデルになるトップDJたちの姿勢によってなんとかまだ最後のエリアは死守しているという状態だろうか。なにせ、Loco DiceやChris Liebing、Josh Wink等の例を持ち出すまでもなく、ほとんどのインターナショナルDJはすでにデータでのプレイに移行しているからだ。

 「でも例えばDaniel Bellとか、Sascha Dive、Cassy、それとレーベル〈OSLO〉周辺のアーティストなんかはみんなアナログが大好きで、影響力あると思います。うちにも来るけど、ユニオンで中古盤買うのが楽しみみたいですね。ドイツだといい中古盤はあまりなくて、値段も高いからって。DBXなんて、ユニオンに行くために東京をツアーに組み込んでるんじゃないかな(笑)」(佐藤)

 さらに09年は、完全にインプロビゼーション的な手法を持ち込んだライヴを行うアーティストが成果を見せ始めた年だったとも言える。テクノのライヴというと、ラップトップとにらめっこというのが普通だったが、ついにそこから大きくはみ出すことをテクノロジーとアイデアが可能にした。例えば、年明け早々に日本でも見られるMoritz Von Oswald Trio(モーリッツ翁とマックス・ローダーバウワー、ヴラディスラヴ・ディレイのユニット)が数々のステージでの実験を発展させて素晴らしいアルバムに結実させたし、ルシアーノはレーベルの若手Reboot、Lee Van Dowski、Mirko Loko、Digitaline、そしてアルバムにも参加したハン・ドラムのOmri Hasonがそれぞれ演奏する音の要素、さらにはシンクロする映像をMac上のソフトで自在に操り、誰の音が流れているか一目でわかるように光でアイコン化するという画期的なステージAEtherを展開。世界中をツアーして驚かせた。ラップトップを使いながらもその場で自由に音を組み立て、多人数で空間を作りあげるという実験はほかにもRichie Hawtinが多くのプロデューサーたちと積極的に行っている。

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 さて、ele-king的にはあまり注目されない部分ではあると思うが、無視できない人気と勢力を維持しているのがエレクトロのシーンである。ベルギーで毎年行われている巨大テクノ・フェス"I ・ Techno"の公式コンピCDで、昨年Boys Noize、今年はCrookersがミックスを担当しているのは衝撃的だ。"テクノ"と銘打ってはいるが、実際のところメインどころで鳴っている音は巷でいうところのエレクトロが大半という事実。ある意味行くところまで行ってしまった"テクノ"のストイックすぎる音の対極にある派手で下世話でエネルギッシュなこの手の音が、昔でいうならレイヴ、ハードコアと同じような文脈で若いクラバーに支持されているのはよくわかる。〈WOMB〉が幕張メッセに出張して行う大規模イヴェント〈Womb Adventure〉は、2年目となる今年も、Richie HawtinとDubfireのユニットClick 2 ClickとDigitalismやDexpistolsが隣り合ってプレイするという普段のクラブ・イヴェントではなかなかお目にかかれない取り合わせを実現していた。

 「DEXのやってるレーベルの若いアーティストでMYSSっていう2人組がいて、まだ22歳くらいですっごい若いんです。ここ数年でDJはじめてガーッと人気が出てきたっていうヤツらなんですが、去年の〈Womb Adventure〉に行ってリッチー知らなかったですからね! でも、かけてる曲聴いてると結構テクノなんですよ。あれは衝撃的だったな。僕らとは全然成り立ちが違うんだなと思って。曲は耳で聴いて採り入れてても、それをテクノとは認識してないんでしょうね」(荒木)

 レコード店に足を運ぶのも、テクノのパーティで踊るのも、30歳から下というのが極端に減っているという。一方で、どんどん若い世代が飛び込んで育ち始めているのがエレクトロだと。極端ではあると思うが、同じ音でもテクノとラベルづけされるといきなり「暗い・難解」的なイメージで、人が呼べないという危惧があるからだって。なんたることだ! 今のエレクトロのDJやアーティストすべてが敬ってもいい"I'm a Disco Dancer"と"Popper"の生みの親であるChristopher Justさんなんて、いつのまにか「エレクトロの人気アーティスト」と宣伝されるようになっていたからなぁ......。

 では、テクノの文脈でまったく新しいひとたちが出てきてないのかというと、そんなことはない。ロンドンとベルリンを拠点とする世界最高峰のエレクトロニック・ミュージックのサイト「Resident Advisor」が先日発表した読者投票によるトップ100DJのリストをみれば、多くの大御所たちを押しのけてたくさんのフレッシュな名前を見つけることができる。Marcel Dettmann、Magda、Ben Klockといったミニマル勢、Dixon、Nick Curly、Omar-Sといったハウスを新しいカタチで提示する連中も元気だ。では、日本のアーティストは......?

 「海外でレコードでてるアーティストはたくさんいるんですよ。でも、日本のリスナーやDJはあまり日本人の作品プッシュしない印象ですね。メディアも取り上げないし、レコード出たからといって人気に火がつくわけでもなく、積極的にリリースしてるレーベルも〈Mule〉くらいですからね」(佐藤)

 う~ん、たしかに。〈Poker Flat〉からもリリースするRyo Murakami、〈Minus〉や〈Immigrant〉などからリリースするRyoh Mitomiなどポツポツと新しいアーティストはいるが......。「ベルリンでプレイと言ってもギャラもあまり出ず、帰ってきてからのプロモーションになるかなという感じでやりに行くというケースも多いですよね。自費でいいなら来いよ、みたいな。やはり向こうに住むくらいでないと、難しいかも」(佐藤)。Akiko KiyamaやDen等のように拠点をベルリンに移すアーティストも中にはいるが、やはり距離と言葉の問題、それはITがこれだけ発達して、世界が狭くなったと言っても20年前と変わらず大きな壁なのだ。「ただ、店という場所があるし、アーティストのサポートしたいんで、どこのレーベルにアプローチしたらいいかとかいろいろ相談にものるし、レコードが出たらバックアップできるように多めにストックして在庫切らさないようにするんです。そうやってうまくリリースにつながったり、少しでも活動しやすくなれば嬉しいですよね」(佐藤)

 今冬は気候も懐もずいぶん寒さが厳しい感じ。ついつい引きこもってぬくぬくしてても楽しいかもなどと自分をごまかしてしまいがちだ。特に今年後半一気に日本でもブレークしたTwitterのようなひととひとのつながりをうながす属人性の高いウェブサービスのおかげで、再会やあらたな出会いそんなもろもろが楽しい(テクノに限らずDJやクラブ音楽関係者もたくさんいる!)けれど、それでなにかを「わかった」気になってしまうのはいちばん危険。最後に、先日アルバムのリリース・ツアーを終えたDJ Tasakaがつぶやいていたツイートを転載しておこう。

 「各地で会った皆さんありがとう。どこもそれぞれかなりの手応え。特に印象的だったのは神戸と大分。09年の日本のテクノ・パーティに関しては"東京が中心でその他の都市はそれを追う地方"的図式で見てしまうと、本質を完全に見誤るだろうことがよくわかりました」

 「各地でパーティに熱意を持っている人達同士がリンクできる余地、まだまだありそうです。伝えて、広めて、続けるための環境作りに関して、みんな同じベクトル向いてる」

※ 月イチで国内外の旬なDJをフィーチャーする日本最大規模のテクノ・パーティ〈CRASH〉、来年一発目のオススメは2月に、〈Yellow〉や〈Unit〉を揺らし続けてきた〈REAL GROOVES〉との共催で、アルバムをリリースしたばかりのサンフランシスコのClaude VonStrokeなど多数のゲストを迎えてのフェス仕様で行うパーティ。詳細情報は〈ageHa〉もしくは〈REAL GROOVES〉公式サイトでチェックを!

 

■hot techno releases 2009

(ALBUM)
Moritz von Oswald Trio / Vertical Accent (Honest John's)
Planetary Assault Systems / Temporary Suspension (Ostgut Ton)
Len Faki / Berghain 03 (Ostgut Ton)
Mirko Loko / Seventynine (Cadenza)
Luciano / Tribute To The Sun (Cadenza)
Josh Wink / When A Banana Was Just A Banana (Ovum)
DJ Tasaka / Soul Crap (Ki/oon)
Laurence / Until Then, Good Bye (Mule Electronics)
Telephone Tel Aviv / Immorate Yourself (Bpitch Control)
Shakleton / Three EPs (Perlon)
Crookers / Put Your Hands on Me (Southern Fried)
Reboot + Sascha Dive / From Frankfurt to Mannheim (Cecille)
Mihalis Safras / Cry For The Last Dance (Trapez)
Tiga / Ciao! (Last Gang)
Peaches / I Feel Cream (Warner)
La Roux / La Roux (Polydor)
Jesse Rose / What Do You Do If You Don't? (Dub Sided)
Ben Klock / One (Ostgut Ton)
2000 and One / Heritage (100% Pure)

(SINGLE)
Cesar Merveille & Pablo Cahn Speyer / Descarga (Cadenza)
Mistress Barbara / Dance Me Till The End of Love (Iturnem)
Depeche Mode / Wrong (Magda's Scallop Funk Remix) (Mute)
Laurent Garnier / Gnanmankoudji (PIAS)
Nick Curly / Series 1.1 (8Bit)
Timo Maas / Subtellite (Cocoon)
Radio Slave / Koma Koma (No Sleep Part 6) (Rekids)
Electric Rescue / Devil's Star (Cocoon)
Sis / Mas O Menos (Titbit Music)
Felipe Venegas & Francisco Allendes / Llovizna EP (Cadenza)
Orlando Voorn feat. Obama / Yes We Can! (Night Vison)
Michel Cleis / La Mezcla (Cadenza)
RV feat. Los Updates, Reboot / Baile, Caminando (Sei Es Drum)
La Pena / 004 (La Pena)
Steve Bug / Two of A Kind (Pokerflat)
Markus Fix / It Depends On You (Cecille)
Bloody Mary / Black Pearl (Contexterrior)
Gavin Herlihy / 26 Miles (Cadenza)
DJ T / Bateria (Get Physical)
Sebo K & Metro / Saxtrack (Cecille)
Click Box / Wake Up Call (M_nus)
Chris Liebing, Speedy J / Discombobulated , Klave (Rekids)
The Mountain People / Mountain People 08 (Mountain People)
Deetron / Zircon+Orange (Music Man)
Tiga / Beep Beep Beep (Soulwax+Loco Dice Remixes) (Different)
Paco Osuna / Lemon Juice (Plus 8)
Proxy / Who Are You? (Turbo)
Adam Port / Enoralehu (Liebe Detail Spezial)
Jesper Dahlback / Roda Rummet EP (Acid Fuckers Unite)
Massimo Di Lena / Gypsytown (Cadenza)

[Techno] #1 by Metal - ele-king

 ここ1年にかけて、ダブステップの影響もあってだろうか、従来の〈ベーシックチャンネル〉や〈ディープスペース〉などのレーベル以外にもヴァリエーション豊かでダビーな音響のテクノ/ハウスが続々とりリースされている。とはいえ、テクノとダブステップが実際に共振しているかと言えば、微妙なところだ。テクノのリスナーはまだそれほどダブステップを聴いていない。ただし、お互いに意識していることは確実なのだ。面白い動きはいろいろ起こっている。最近のダブステップをかけて、逆説的にテクノのクオリティの高さも再認識した。

1 Lee Jones / Yoyo Ep | Cityfox(CHE)

ミニマルのテック・ハウス化の中で〈サーカス・カンパニー〉に代表されるジャズや現代音楽をモチーフにした音楽性の高いトラックが多数見受けられるようになりました。その中で、スイスのクラブが設立した新レーベル〈シティ・フォックス〉より〈プレイハウス〉の中心的なアーティストで、マイマイのメンバーとして知られるリー・ジョーンズによる奥深いミニマル・ハウス音響的なところではジャジーな感覚を取り入れている。

2 Tolga Fidan / So Long Paris | Vakant(GER)

ルチアーノとともにミニマルのグルーヴの発展に貢献してきたトルガ・ファイデンによるニュー・シングル。従来よりも低音は強調され、サックスをメロディーとしてではなく"飛び"のアクセントとして用いる。より立体的なトラックへと変化している。

3 Matthias Meyer / Wareika / Infinity / Smiles | Liebe Detail(GER)

〈フリーレンジ〉とともに新世代のテック・ハウスを牽引する〈リエベ・ディテイル〉よりマティアス・メイヤーとワレイカによるスプリット。両面ともにクオリティが高く、2009年のアンセムと言っても過言ではない。ジャジーでエスニックなテック・ハウスにプログレッシヴ・ロック的な要素が加わり、高音あるいは中低域の持続音が不思議なトランス感を生み出している。ダブというよりはサイケデリック。ヴィラロボスとジョー・クラウゼルが共演したらこんな感じになるんじゃないか。

4 Conforce / CCCP EP | Modelisme(FAR)

そしてオランダよりの新鋭ボリス・バニックのダブ・プロジェクト、コンフォースがルーク・ヘスなどもリリースするフランスの〈モデリズム〉から。〈エコ・スペース〉や〈ベーシック・チャンネル〉タイプのミニマル・ダブでありながら、最近のミニマル・ハウスを通過している柔軟なグルーヴが素晴らしい。

5 Rui Da Silva & Craig Richards / Be There | Motivbank(GER)

ポルトガルのルイ・ダ・シルヴァとファブリックの看板DJ、クレイグ・リチャーズによる共作。ジェイ・トリップワイヤーなどにも通じる大箱に栄えるプログレッシヴなダブ・ハウス。最近では珍しい質感と言える。アシッド・ベースの使い方がクールなトビアスによるリミックスも収録している。

6 Marcel Dettmann / Prosumer & Tama Sumo / Phantasma Vol.3 | Diamonds And Pearls Music(GER)

今年も大活躍のベルグハイン勢によるスプリット。シンプルなアシッドハウスに、繊細な持続音が絡む、デットマンによるダビーミニマルと、シカゴハウスを上手く今のグルーヴに当てはめたタマ・スモとプロシューマーによるベースの効いたテックハウス。

7 Valma / Radiated Future | Blueprint Records(UK)

デットマンを中心としたハード・ミニマル回帰の中で再び注目を集めるジェームス・ラスキンによるレーベル〈ブループリント〉からヴァルメイによる新作。覚醒的なシンセをアクセントに、ストイックに展開していくハード・ミニマルとなっている。質感は昔のままながら、グルーヴやエディットに新しさを感じる。

8 Monolake / Atlas ーT++ Remix- | Monolake(GER)

エレクトロニカのフィールドからダブを追求するベテランのモノレイクのトラックで、メンバーのトーステン・プロフロックによるT++名義でのリミックス・ヴァージョン。ノイジーでカオティックで、ピッチの早いダブステップと言える。正直に言って、レゲエやグライムからの流れのダブステップは聴くに堪えないものが多い。が、モノレイクのそれは、そのなかで本当にクオリティが高い音響を見せつけている。あるいはまた、これこそがテクノとダブステップの理想的な融合のカタチのひとつだと言える。

9 Harmonia & Eno / Tracks and Traces Remixes | Amazing Sounds(GER)

E王これは衝撃的な1枚。ハルモニアとブライアン・イーノによる名作をシャックルトンとアップルブリムがリミックス。テクノでもダブステップでもない。摩訶不思議なアンビエントだと言えるし、ジ・オーブの『ポム・フリッツ』を連想させる。ダブステップ周辺のアーティストでは僕にとってはシャックルトンが抜きん出て面白い。分からないから面白いのであう。

10 The Sight Below / Murmur - EP | Ghostly International(US)

これはシアトル出身のアーティスト、サイト・ビロウによる深海系のダビー・ミニマル。リミキサーにはフィンランドからバイオスフィア。ドローニッシュで凍りつくようなハードコア・アンビエントである。

 深夜の12時をまわった頃だ。ブースでは替わったばかりの二木信がフォクシー・ブラウンが歌うレゲエをプレイして、そらからもう一発、ダンスホールに繋ぐ。僕はマイクを持ってDJを紹介。闇のなかからヤジが飛ぶ。ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ! よく知っている声......と思ったら高橋透さんが荒声を上げながらDJブースの前までやって来る。そして、その晩初めて会う二木に向かって「営業DJしてんじゃねーぞ、おら!」とでかい声でピシャリ。ひぇ~、そんなこと言わないでやってよ、透さん......。11月22日、ここは静岡市両替町。リアル・アンダーグラウンド、〈rajishan〉。

 それは21日の夜からはじまった、クラブ〈FOUR〉の4周年を祝うパーティだった。二日目のその晩はスペシャルということで〈rajishan〉と〈FOUR〉との共同開催となった。何故ならアンドリュー・ウェザオールがやって来る。〈エレクトラグライド〉のために来日していた彼は、翌日静岡まで来てくれたのだ。僕といえば、当初の予定ではイギリスの生んだ偉大なインディー・レーベルの祝祭に向かうはずだったけれど、躊躇なく予定を変更した。地元のパーティに参加することにしたのだ。

 時間を戻そう。21日の夜......えーと、7時過ぎぐらい? 両替町の裏通りにある〈PERCEPTO RECORD〉に二木を連れて行く。店内には、メルツバウ、ヘア・スタイリスティックス、ECDなんかのCDが壁にずらっと並んでいる。そして棚にはソウル・ミュージックとパンクの中古盤がごっそりある。全国の物好きな連中にはすっかり有名なこのユニークなお店を経営するのは、アイデア・オブ・ジョークの森川アツシさんだ。僕が初めてストラグル・フォー・プライド(SFP)のライヴを観たのも、森川さんが静岡で企画したイヴェントだった。あのときSFPはECDと一緒に静岡でライヴをやった。たしか......2003年の5月だ(清水エスパルスがジュビロ磐田に惨敗した夜だった)。

PERCEPTO RECORD〉はいまでも"ハート・オブ・オルタナティヴ"だ。僕はたちは......やけのはらのこと、中原昌也のこと、ドリアン君のこと、七尾旅人のこと等々、いま身近にある素晴らしい音楽について話した。「ローリン・ローリン」はもうとっくに売り切れてしまったんですよ、と彼は言った。いま追加注文分を待っているんです。へぇー、すごいね、あれは本当に良い曲だよね。うん、すごい良い曲。「ローリン・ローリン」は口ずさんでしまえるほど聴いている。やけのはらのパートを暗記するほどに。

「来年は、やけのはらとドリアンを静岡に呼びたいんだよね」と森川さん。それは良い、見たい! 中原昌也も呼ぼう! とか、テキトーなことを言っている間に、二木はお店にあった得体の知れないインディー盤を2枚買った。

次はのだやにGO! 二階の座敷には、その晩のゲストとして東京から来てくれたDJ NORIさんがいた。今年DJ生活30周年を迎えた大ベテランだ。そして、〈Luv & Dub Paradise〉を主催する五十嵐慎太郎とその仲間たち――市内で服屋〈NEWPORT〉を営む三ヶ尻吉伸君、〈FOUR〉を切り盛りする海野隆之君、〈Luv & Dub〉を手伝うDJ Rumy、で、二木も一緒になっておでんを貪り、ビールを飲んだ。

 きっとどこの町にも音楽好きがいる。ダンス・ミュージック好きが何人か集まればパーティがはじまる。DJが生まれ、クラブがオープンして、クラバーがやって来る。より多くのアルコールが消費され、より多くの汗とより多くの小便が流され、より多くの水が飛ぶように売れる、より多くの夢とより多くの虚無が生まれる......静岡もそうだ。
 この15年以上ものあいだ、静岡のクラブ・シーンは他のどの町とも同じように、良いときも悪いときもあった。最悪なこともあれば最良のこともある。その町でいちばんのDJはその町を仕切る......などという幻想がこのシーンを支配したこともあった。派閥ができて、仲違いも生まれた。いろんな試練が小さな町の小さなシーンを襲った。

 どこかで聞いたような話だろう? でもね、静岡のような小さい町は少なからずそうした影響から逃れられない。いろいろ大変なことが起きる......面倒な事態に巻き込まれる......ところが、町の音楽好きは自分たちがやってきたことを止められない。過去の努力が報われることを信じているというよりは、本当にそれぐらいしかやりたいことがないからだ。犬が走ることを止めないように......いや、この喩えはよくない。

 とにかく、その曲がりくねった歴史のなかで、シーンの開拓者として、あるいはテクノDJとして初期からずっとそこにいるDJ KATSUは、昨年、10年ものあいだ地元のDJ連中やDJ予備軍たちに12インチを配給し続けていたレコード店〈MASSIVE RECORD〉を失った。シーンは動揺した。涙した人もいれば失笑した人もいた。それでもおおよそは親身になっていた。が、新しくはじめたクラブも思うようにいかなかった。静岡、大丈夫?などと東京の関係者たちが囁いた。大丈夫だ、静岡ではテクノとサッカーは信仰なのだ。たぶん。

 同じようにシーンの初期からいる五十嵐は、10年前に自分の店を失い、彼の歯も失っている。それでも懲りずにパーティを続けている。3年前に家族の事情によって静岡を離れ、東京を拠点にするようになったいまでも、五十嵐は静岡と東京を往復する。僕は長いあいだこの男の正体がわからなかったが、いまは理解しているつもりだ。DJ KATSUについても、ある程度は。

 DJ KATSUと五十嵐――ふたりとも長くシーンに関わりながら、それなりの代価を払ってきた。必要以上に手痛い目にも遭っている。タフと言えば本当にタフな連中だ......というか、高くを望まなければなんとかなるのだ。ま、いっか。それでなんとかやっていける。だから(......と言っていいのかどうか)静岡には他にも面白いDJやクラバーが何人もいる。みんなに共通しているのは、町に対する愛情と遊びへの飽くなき追求心だ。それが彼らを町に出させる。この町のミュージック・ラヴァーが週末を部屋で過ごすことなど、まず許されない。
 
 二木がおでんを食べているその前で、僕はビールをがぶ飲みしていた。21日の晩、そうしなければならない理由が僕にはあった。個人的な理由であり、共同体的な理由でもある。その日の午後、静岡のサッカー競技場では、清水エスパルスが公式戦4連敗を喫した。これでリーグ戦3位以内の望みも途絶えた。試合内容も希望を持てるものではなかった。この敗戦はサポーターをしたたかに打ちのめし、土曜日の夜のアルコールをうながした。チクショー、今夜は飲むぜ、二木! と言ったところで、話は盛りあがらないので、僕は二木を〈rajishan〉に連れて行くことにした。

 〈rajishan〉......それは静岡で暮らすミュージック・ラヴァーにとって"帰る家"だ。ここではDJ NOBUがまわし、ヨーグルトもALTZもDJ HIKARUも、あるいはイルリメも、とにかくこの国の腕の良いDJ連中がこの小さなハコでまわしている。バーのカウンターにはディスチャージのレコード(1984年のベスト盤『Never Again』)がいつまで経っても飾られている。このハードコア・バンドは自分たちのジャケに何度かサッチャーの顔を引用したものだけれど、その本当の意味をあの頃の僕はわかっていなかった。もちろんいまは骨身に染みてよくわかる。つまり、それほど彼らは"痛めつけられていた"のだ。「Life is like a pubic hair on a toilet seat」――「人生とは便座の上の陰毛のようだ」、ディスチャージはこう言ったものだった。「sooner or later you get pissed off」――「遅かれ早かれ、うんざりするときがくる」

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 その晩は〈SCUBA〉というパーティで、ブースには若い女性DJがいた。思わず鼻の下を伸ばす二木に冷や水を浴びせるかのように、彼女はハードなダブステップやグライムを繋ぐ。いま流行のハウシーなダブステップなんかではない。重たくてラウドなダブステップだ。格好いいね~。二木と一緒にしばらくその場にいることにした。「これって爆音で聴くとパンクだね~」などと話しながら踊った。ダブステップやグライムの魅力のひとつは、パンキッシュなハードさにある。クラブで聴くとそれがよくわかる。あのゴリゴリしたベースラインが、抑圧された感情をえぐってくるようなのだ。激しく身体を揺らしている二木を見ながら、僕はそう思った。

 それから僕たちは〈FOUR〉に行くことにした。〈rajishan〉から〈FOUR〉まで歩いて1~2分。夜の町をゆっくり歩きながらクラブに着くと、DJはちょうどSHOさんからNORIさんに替わるところだった。SHOさんもNORIさんや透さんと同じように、この国のオリジナル世代のひとりだ。1986年、NORIさんと透さんがNYに行ったその年、六本木の〈玉椿〉で働いていた五十嵐にハウス・ミュージックの洗礼を浴びせたDJのひとりでもある。

 SHOさんからNORIさんへ、オリジナル世代がブースに並ぶと、フロアの温度は否応なしに上がる。NORIさんがまわしはじめると、いたるところから叫び声、そしてクラッカーが鳴る。4周年オメデトー! NORIさん30周年オメデトー!などという雄叫びがハウスのビートに合間に聞こえてくる。その「オメデトー」は心の底からのオメデトーだ。

 東京のゴージャスなクラブに慣れた人がここに来たら肩すかしを食らうかもしれない。なんじゃこりゃ? これがクラブ? そう言うかもしれない。そんなヤツはさっそと帰ってくれ。地方の小さな町で、資本の後ろ盾もなくクラブを続けることは並大抵のことではない。というか、とてもクラブ営業だけではまわしていけない。海野君も昼間は他の仕事をしながら、夜は〈FOUR〉に顔を出す。まったくのDIY、まったくのインディペンデント・クラブ。このクラブのスタッフのひとりには、DJのCITYBOYがいる。彼は元々は東京の子で、働きながら都内でDJをやっていた。数年前、転勤で初めて静岡にやって来た彼は、町のシーンが気に入ってしまい、永住を決めた。それから会社も辞めて、いまは〈FOUR〉のスタッフのひとりとして働いている。

 NORIさんのパーカッシヴなハウスに身を任せながら〈FOUR〉で踊っていると、海野君から静岡のヒップホップ・チーム〈SUGAR CRU〉のメンバーを紹介された。二木も一緒ということで、いろいろと自主制作のCDをもらった(その音源についてはいずれ二木が紹介してくれる)。彼らは、その晩、最近両替町にできたヒップホップの小屋〈VIGO Black〉でイヴェントがあることを教えてくれた。〈VIGO Black〉のことは、実はSFPの今里君から聞いていた。この夏、今里君が静岡に行ったときに行ったそうだ。

 二木を連れて、〈VIGO Black〉に出向いた。そこは〈FOUR〉からほんの1~2分の、市内の小さな歓楽街のど真ん中にある。入口にはヒップホップらしい雰囲気が、集まってくる子たちからビシビシと溢れている。着ている服、年齢(若い!)、歩き方、そして音楽......。僕と二木はすっかり圧倒されながらこの文化の真っ直中でしばらく佇んでいた。「すげー、いいクラブでしたよ」と今里君は言っていたが、本当にそうだった。

 〈FOUR〉に戻ると、バーのあたりは夜の王族たちで溢れかえっていた。クラバー、町の顔役......ごっそりいる。DJ KATSUも来ていた。彼に会ったのは久しぶりだったので、いろいろ話したかったのだけれど、僕の口は重たくなっていた。「また店をやりますよ!」と、静岡のベテラン・テクノDJは頼もしい言葉を叫んでいた。そうか、それはすげーな、マジでがんばってくれよ。それにしたって......七転び八起きというか、このヴァイタリティは......。それともこれはレス・イズ・モアということなのだろうか......。

 ここのクラブ・シーンでは有名な話だが、DJ KATSUと五十嵐はある種のライヴァル同士だ。フランキー・ナックルズとロン・ハーディのようなものだ......と言ったら怒られるだろう。本当に哲学の違いなのかもしれないし、ただの意地の張り合いかもしれない。大方の見方としては、いまとなっては大した話じゃない。DJ KATSUがテクノなら五十嵐はハウスだが、それはマクロで見れば、カレーが好きかハヤシが好きかの違い程度だ。もちろん、小さな町ではどうしても週末の客を取り合うことになってしまう......。しかし、いまはそんなことを言っている場合じゃない。そうだろ! と我々はここ数年、何回も〈rajishan〉で話している。背中を丸めながらカウンターに並んで、いい歳した連中が酒臭い息を相手の顔に吹きかけながらムキになっているわけだ。

 話は変わるが、静岡のような小さな町の利点は、意見が違うヤツとも同じ場所にいざる得ないということだ。え? どういうことかって? つまり、東京みたいな大きな町では、会いたくないヤツとは会わなくて済ませることができる。しかし、小さな町では行く場所が限られているのでそうはいかない。とりあえず遭ってしまうし、一緒にやっていくしかない。もはや家族みたいなもので、共存するしかない。こうして地方特有のバレアリック感が育まれるのだ。

 二木は、僕の高校の同級生である森藤の家に泊めてもらうことになった。この年になって、高校の同級生でいまでも一緒に踊ってくれるヤツはもう森藤ひとりしかいない。淋しい話だが、46という年齢を考えれば妥当かもしれない。ちなみにこの男は、10年前は週末になると夜ひとりで高速を飛ばして西麻布の〈Yellow〉まで行って、朝まで踊って、そして朝日を浴びながら静岡まで帰ってくる生活を続けていた男だ。そう、彼は心底ダンス・ミュージックが好きなのだ。
 森藤は奥さんと一緒に〈FOUR〉まで迎えに来てくれた。もちろんただ来ただけではない。しっかり踊っていった......。
 そして午前3時過ぎ。僕は、二木をよろしくね~と言ってから〈FOUR〉を後にして、ひとりで夜の町を歩いて家に帰った。どうやって帰ったのかはあまり記憶にはないのだけれど......。

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 22日の夜8時、場所は再びのだやの座敷。透さんとDJのWang-Gung、地元のDJのYamada、そして五十嵐、海野君、あるいは二木と一緒に食べて、ビールを飲んでいた。透さんは前日に神戸でDJをやってその足でそのまま静岡へ、Wang-Gung君は江ノ島の〈OPPA-LA〉でDJをやってそのまま静岡へ、というふたりともご苦労なスケジュールだ。Wang-Gung君はデトロイト系のパーティでよくまわしている。働きながら好きでDJをやっている。この国の多くのDJと同じように。
 で、しばらくすると......なんとまあ驚いたことに、ムードマン一家が入ってきた。ムードマンに会ったこと自体が久しぶりだった。この一家は、三重の〈Eleven〉に参加して、そのまま静岡に寄ったという。急遽その晩〈FOUR〉でまわすことにしたそうだ。いやー、恐れ入る。彼らはどんな小さなパーティでも呼ばれれば行くのだろう。大雑把に言って、どこまでも音楽を愛するこういう人たちが、この国のクラブ・カルチャーのもっとも美しい場所を支えているに違いない。そういう意味で、ここはまだシーンの純粋さが保たれている......と、思っていたら、東京から下北沢〈SLITS〉店長だった山下直樹さんまで登場。ウェザオールのDJを聴きに高速バスに乗ってきたそうだ。で、地元の先輩で「両替町ブリストル化計画」を目論むKAKEIさんもやって来る。座敷に上がるなり第一声は「どうしたのよ、清水!」、ああ、ようやく僕と話が通じる人が来た。「いや、もう、健太は限界なんですかね?」、「すぐそういうこと言ってはダメだよ~」とKAKEIさん。なんの話かって? 清水エスパルスの話ですよ!

 10時を過ぎた。みんなでクラブに行く。まずは〈rajishan〉へ。

 〈rajishan〉では、五十嵐――DJネームはHakka-K(歯がないので)がすでにプレイしている。彼のキャラを物語るように、どっぷりと濃厚なハウスで攻めている。それから五十嵐より20も若いDJ Rumyにバトンタッチする。濃厚なハウスからセクシーなハウスに替わるとフロアからは思わず安堵のため息が漏れた......ようだった。
 12時からは二木の番だ。1時からは僕だ。酔いを醒ますためにウーロン茶をがばがば飲む。フロアでは地元のテクノDJ、YSKが暴れている。「清水どうしちゃったんだよぉぉぉぉ!」と彼は叫んでいる。そう、YSKは、地元の若手を代表するテクノDJであり、生活における軸ってもんを知っている男でもある。彼の叫びは僕の叫びでもある。奥ちゃんもいた。奥ちゃんもDJで、自分でもパーティを主催したり、DJ NOBUを静岡に呼んだりしている。〈FUTURE TERROR〉があるときは千葉まで行っている。
 役者が揃ってきた。暗闇の奥からは透さんの鋭い眼光が光り、DJ KATSUの姿も......、だんだん気合いが入ってきたので、僕は思わずマイクを握る。そして先述したようにしっかり二木を紹介してやった。「DJ Rumyさん、そして東京からやって来た二木信です!」

 久しぶりのDJは緊張する。レコードは前日の夜に慌てて選んできた。忙しくて選曲している時間がなかった。テキトーだったが、最初の曲を何するかだけはけっこう悩んだ。ビリー・フューリーの甘いバラードにするべきか、それともジニアスにするべきか。ジニアスはオール・トゥモロウズ・パーティのドキュメントタリー映画の試写に行って、もっとも感動したアクトだった。あのオルタナの祭典において、ウータン・クランの最年長者は特別な存在感を発揮していた。あらためて格好いいと思った。
 さあ、なにからはじめよう。二木の横に並んで考えた。ふと、数年前ここで初っぱなにアニマル・コレクティヴの"ザ・ソフテスト・ヴォイス"をかまして客にドン引きされた記憶が脳裏をかすめる。思わず、バッグから「リキッド・スウォーズ」を探した。そして、かけた。それから何をかけたのかは、書かない。neco眠るの「Dashi Culture」のALTZミックスは受けたよ。ありがとう、宮城。......それはまあともかく、今回は、自分のミックスの致命的なまずさを誤魔化すためにMCをやることにした。「えー、次の曲はですね、僕が今年いちばん気に入っているシングルです」とか言いながら、ブリアルをかけるわけだ。はははは。何やってんだか......。

 僕の次はKAKEIさんだ。KAKEIさんはずいぶんとエクスペリメンタルな選曲だった。彼がDJをしているとビートインクのスタッフに連れられてアンドリュー・ウェザオールがやって来た。前日の〈エレクトラグライド〉でウォッカを飲み過ぎたらしく、僕と同じ年のDJはホテルで休んでいたそうだ。が、ウェザオールは容赦ない握手攻めに遭い、そして背中をまるめて〈FOUR〉に向かった。僕もウェザオールの後を追って〈FOUR〉に行った。
 〈FOUR〉では透さんがまわしている。ファンキーなテクノがフロアを盛り上げる。ボーダーシャツを着たウェザオールがブースに入る。そして"孤独な剣士"は、いかにも彼らしいエレクトロ調のイルなミニマルをミックスする。あれほどミニマルは嫌いだと主張していた二木もフロアで踊っている。ま、いっか。
 しばらく踊ってからドリンクを買いにバーに行くと透さんがいた。「二木君、DJにとってもっとも大切なものは何かわかるか?」、ゴッドファーザーのひとりはバカでかい声で若い音楽ライターに問いかける。「何でしょう?」「それはな......」、二木の目をじっと見つめて話している。「スケベ心だよ!」、80年代のNYのアンダーグラウンドを経験しているこのベテランは、いきなり本質をぶつける。二木の顔がこわばっている......。
 議論に熱中するふたりをよそに僕はふたたびフロアへ戻る。いやー、こんなに踊ったのってすげー久しぶりだ。楽しいね! そう思いながら......あれ、そういえば、一緒に来たはずの我が妻はどこへ? クラブ内を探し回ったがどこにも見あたらない。〈rajishan〉にでも行ったのかな?
 踊りながら、どんどん気になってきたので、ミニマルで踊る二木を強引に連れ立って〈rajishan〉に行く。時間は......たぶん、4時前だろう。

 〈rajishan〉ではいつの間にか五十嵐がまわしている。仕方ない、しばらく彼の濃厚なハウスを浴びるよう。しかし......うー、さすがにもう飲めないな......でも、レッドアイを一杯。カウンターにいるミックンもすっかり音にハマっているようだった。気がつくとDJの石川君がいる。いつの間に二木がまわしている。そしてKAKEIさんとのバック・トゥ・バックがはじまる。店内にはムードマンの姿が......。
 ミックン、もう一杯レッドアイを......で、このあたりから記憶が途切れていく......森藤もいたな......たしか......。気がつくとソファーの上で寝ていた。
 やばいやばい。「野田、もう一回、〈FOUR〉行かねーか?」......誰だ? 森藤か? わかった、待てよ、行きますよ......DJは二木とKAKEIさん。二木がヒップホップをかけるとKAKEIさんは実験的なダビーな音で返す。うー、頭のなかがどうにかなりそうだ......。それから〈FOUR〉に行ってもう一杯。悪徳の液体が身体から感覚を奪っていく......って、何をいまさら......もうとっくにそうだった。DJはまだウェザオールで、相変わらず彼はエレクトロ調のミニマルだった。ドッチー・ドッチー・ドッチー・ドッチー......フロアで東京からやって来た友人たちに遭う。おお、藤井君じゃないか、すげーな、みんな......俺は......もうダメかも......付き合いの悪い男だと思わないでくれ......胃のなかから生暖かいものが喉のあたりまで上がってくる......もうこれ以上フロアにいてはならない......地獄のような虚無感が襲ってくる、悪魔のように容赦なく......トイレの前には人が並んでいる......五十嵐にひと言断って店を出る。
 通りをふらついてコンビニに入って、お茶を買うかどうか考えた。考えても無駄だった、財布は妻が持っているのだ。自分のレコードバッグ、衣類がどこに置いてあるのか記憶を辿った......。あとは記憶力と逆流したがる胃酸とどっちが速いかの勝負だ......。そ、そう、じ、じ、じ、じぃぃぃぃ人生とは......。


 
 翌日の昼過ぎ、五十嵐から電話。「お疲れで~す! あのさ、あの後、〈rajishan〉でムードマンと透さんのバック・トゥ・バックがはじまっちゃってさ、もう最高! すごかったよ!」......48時間マラソンを完走したばかりのランナーは元気な声でそう言った。そうか、それは良かった。本当に良かったよ......お疲れさま、みんな......それから永遠のルーディーたち......。
 今回の話はこれでおしまい。これはきっと日本のいろんな町に転がっている話。こんどはキミが、キミの言葉でキミの町について語ってください。よろしくな、頼むよ。


 
 ダンス・カルチャーは街の夜に欠かせない光景となった。(略)昼の明るい光がいまだにかなえられない理想郷の夢を見ながら、夜は光り、揺らめき続けている。
         ――ティム・ローレンス『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』

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