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SEEDA feat. ILL-BOSSTINO, EMI MARIA

SEEDA feat. ILL-BOSSTINO, EMI MARIA

Wisdom

Concrete Green

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二木 信 Dec 29,2009 UP
E王

 シーダというラッパー(プロデューサー)が不良たちのヒーローに留まらず幅広い層から支持されたのは、メランコリーや悦びの感情を細やかに描く才能に恵まれていたのもあるし、どこか頼り無さげで儚い佇まいに色気が漂っていたのも大きかったのだろう。曲によって別人と思えるほど極端に変える声音や世界を異化するような(威嚇するような)笑い声には、ある種の分裂症的なものさえ感じさせる。シーダは一般的にはハードコアなイメージが強いが、実は非マッチョで、非ハードコアなラッパーだということが彼の作品をじっくり聴き直すとよくわかる。知り合いの女の子が就職活動で将来について悩んでいるときにシーダの音楽に癒されたと語っていたが、彼女にとってドラッグ・ディールというハードなトピックは二の次だったのだろう。僕がシーダの音楽に感化されたのも、何も彼が"悪かった"からではない。

 僕は、シーダほど黒人音楽のメロウネスを深いところで自分のリアリティと接続して消化できた日本のラッパーはいなかったと思っていて、90年代にアメリカのR&Bを宇多田ヒカルが独自に消化したのと近いことをやったと解釈している。例えば、シーダが日本語ラップ・シーンで評価を決定付けた通算4枚目のアルバム『花と雨』に収められた"Daydreaming"、あるいは彼の内省がもっとも素直に表出された通算6枚目のアルバム『Heaven』に収められた"紙とペンと音と自分"を聴いたときにそのことを強く感じたのだが、"Wisdom"を聴いて、その気持ちは確信へと変わった。

 "Wisdom"は、今年の5月に発表した通算7枚目のアルバム『Seeda』を最後に活動を休止していたシーダの復活作となる。僕はこのシングルを買ってからというもの何度も繰り返し聴いている。1週間でここまで聴いたシングルはここ数年なかったと思う。僕が"Wisdom"に惹かれたのは、ヒップホップ的なループ感よりもハーモニーが強調されたゴージャスなR&Bでありながら、単なるラヴ・ソングではなかったからだ(プロデューサー、オールド(OHLD)によるトラックは秀逸である)。シーダは甘いムードと戯れながら、しかし今でもストリートを歩き、街角の風景――空きビル、ホームレスを描写し、外気を吸い込むことを決して止めない。それが、同じくメロウなR&Bをほぼ全編に渡って展開した、クレバの密室的なラヴ・ソング・アルバム(と言っていいだろう)『心臓』との決定的な違いでもある(『心臓』は素晴らしい!)。

 "Wisdom"は、恋人と聴いても、志を共にする友人と聴いても、最後には同じ感動が待っているような、背後から恋の予感に抱きすくめられながら、生きる勇気を鼓舞してくるような......、幾重にも感情が織り込まれたソウル・ミュージックだ。ここには、愛があり、決意があり、ロマンがある。愛の歌と革命の歌が同時に歌われる70年代前半のニュー・ソウルを思い起こさせるし、ポール・ギルロイの「パッションの歌はしばしば同時に抵抗の歌を意味していた」という言葉が脳裏をかすめもする。シーダが黒人音楽と深いところでつながっていると僕が感じるのはそれ故だ。マイノリティは常にセクシーである。誰かが前にそんな文句を言っていたが、そう、"Wisdom"はセクシーなのだ。

 "Wisdom"は、「大きな力/俺等に必要無い/今より少しだけ/勇気でFLY」という、シーダが自身の無力さをすんなりと受け入れるラインから幕を開ける。これまで自身の無力さとの葛藤を音楽化してきたシーダからまるで憑き物が落ちたように。これは明確なアンチ・マッチョイズムの表明だろう。大きな力――暴力や巨大な資本力だけでねじ伏せられないものが音楽のコアにはあると言いたいのだろう。CDが売れないと言われる時代に、1曲入り300円という値段で、しかもオリコン・デイリーチャート5位を記録するというのもそれだけで希望じゃないか。

 シーダが日本語ラップのルールから解き放たれた普遍的なテーマでリリックを綴る一方、ゲスト・ラッパーであるザ・ブルー・ハーブのイル・ボスティーノはラップ・ゲームのサヴァイヴァルについて歌う。結果的にボスの存在が日本語ラップ・リスナーをつなぎ止める役割を果たしている(ように思える)。だから正直、ボスはこの曲の中では少し浮いているのだけれど、バランスとしては悪くない。他にもいろいろ語るべきことはあるが、最後にR&Bシンガー、エミ・マリアの歌声が素晴らしいことを記しておこう。彼女はセクシーな声で歌う。「誰にも支配されない/自分だけを生きたい」と。10年代に入ってからも「Wisdom」を何度も聴くことになるだろう。

二木 信