「CE」と一致するもの

Diva - ele-king

 厳しい残暑がつづくなか、みなさんはサイケデリック・サマーをお過ごしであろうか。
 ときに先月発売されたマシューデイヴィッドの『イン・マイ・ワールド』は聴かれましたか。まだ未聴のかたもヘヴィロテのかたも、マシューの独自のグルーヴと世界観を深める2本のテープが、自身が主宰する〈リーヴィング・レコーズ〉より届いたのでお知らせしよう。

 マシューDの嫁、ディーヴァ・ドンペ(Diva Dompe)と出会ったのはたしか2009年頃だ。当時の彼女は妹のローラとの超絶美人姉妹バンド、ブラックブラック(Blackblack)で、現ベスト・コーストのベスが抜けてバンド編成として新生したポカホーンテッド(Pocahaunted)で、その類い稀な美貌をふりまきながら完璧なファンク・ベースラインで偽物のリッケンバッカーを鳴らしながら歌ったりしていて、貧乏臭い風貌で冴えない演奏をだだ漏らすヘボベーシスト(俺)の存在意義を華麗に全否定していた。それでいて彼女は全く気取らない、LAの自由を象徴するようなオープン・マインドの持ち主でもあったわけで、僕にとってまさしく未知との遭遇であった。彼女やマシューDはまさしくエイリアン(ALIEN。タイプできないのだけどドジャーズのLAロゴを左右反転して頭に置く感じ)、ラスG風に言えばエル・エーリアン(EL-AYLIEN)だ。彼女の世界観のひとつであるガチなチャネラー感もここに説得力を持つ。
 そういえば何年か前まで彼女は月イチでゴス・パーティを主催していて、そこにはLA中のカワイイ女子エイリアンがハシャギながらノイズをまき散らし、LA中の男子ローカル・アーティストが群がっていた。レジデントDJはディーヴァのお父さん(バウハウスのケヴィン・ハスキンス)というハイ・レヴェルな内容。

 彼女がホストを務める〈ダブラブ〉の同名番組をサブ・タイトルに冠するこのテープ『イアルメリック・トランスミッション』は、彼女いわく、愛に満ちた楽園、別次元異空間世界イアルメリックへサウンドを通じてアクセスする行為のようだ。彼女のソングライティングは年々インプロ色を増し、いつのまにか溶けてしまった。近年の彼女は超絶レアなシンセ等を用いた(お父さんのおふるのEDPワスプデラックス)映画、狩人の夜のセットのようなきらめくトラックにスピリまくったポエトリー・リーディングをのせて、聴者の精神の内と外を反転させる。ローズ・クオーツ付きの可愛らしいパッケージはスピり気味の彼女へのプレゼントに最適! ……って普段ならファーック! と言うところですがディーヴァなので許しちゃいます。

 もう一方はビート・メーカー/ラッパーとしてのマシューDではなく、アンビエント・ミニマリストとしてのマシューDと彼の元ルームメイトであったエリック・ミカエル・ヴァリーことEMVによる超ニューエイジ・インプロ・コラボレーション。EMVの過去作『リソリューションズ(Resolutions)』は個人的には〈リーヴィング・レコーズ〉の過去リリースの中でもピカイチなテープで、彼もまたマシューDと同じくゼロ年代のドローンじみたサイケ・フォークに感化されながらもよりダークに、オピウムっぽいズブズブな美意識のビートを構築していた。
 このジャムはじつは2010年9月22日に録られたもので、その日が20年に一度とやらのスーパー・ハーヴェスト・ムーンだったそうで、とにかく何かがメガ・パワーだったとか。詳しくはNASAに書いてあったので興味のあるあなたはこちらへ。
https://science.nasa.gov/science-news/science-at-nasa/2010/22sep_harvestmoon/

 これを読むかぎり、おそらくはふたりがそれぞれ太陽と月を演じ、360度に広がる夏から秋への黄昏の神秘をサウンドで形にしようと試みたのだろう……とか勝手に想像しながらパッケージを作ってみた。パッケージは僕です。手前味噌で申し訳ないけど。

 どちらも限定のデジタルなし。正直に言えば、近年の〈リーヴィング〉はビート色も薄れていて、好きじゃないバンドもけっこういてアレだなーと思うところもあるのだけれども、この夫婦はホント、雰囲気じゃなくて完全に本気でやっているので素晴らしい。過去5年間のLAのインディー・ロック/ビートを溶かしてつくったおいしい飲み物みたいな2本でした。

 世界中で静かな盛り上がりを見せているコールドウェイヴ/ミニマルシンセ・シーン。とくにカナダにはさまざまなレーベルが存在し、イヴェントも多彩、独自の発展を築いている。とりわけ〈Visage Musique(ヴィサージュ・ムジーク)〉がリリースするシンセ・ウェイヴ・ポップ・デュオ、Violence(ヴァイオレンス)は、音楽ブログ「Weird Canada」や「Silent Shout」などで特集が組まれたり、NYの老舗イヴェント〈Weird Party〉の後継である〈Nothing Change〉への出演などによって注目を集める存在だ。

 そんなViolenceが初めて日本にやって来る。おもに楽曲を担当するエリックと、どこか懐かしいメロディを耽美でキュートなウィスパー・ボーカルでなぞるジュリー。ふたりの来日を記念して、話をきいた。

文:寺尾拓也
翻訳:高橋美佳

Violenceはどうやって結成されましたか。

エリック:2010年頃、カナダのモントリオールからイギリスのオックスフォードに移った。ジュリーはオックスフォード大学でポスドクの職を得ることができたんだ。
 海外でたくさんの自由な時間と少しのシンセサイザーがあったということは、音楽を制作するという意味で、結果的にはとてもクリエイティヴで生産的な時間を与えてくれたんだ。そんな頃、家族や友だちに会いにカナダに帰った際に、僕らの初めてのコンサートをロフト・パーティで行った。
 自分たちの美学は当然として、そういった音楽や芸術、パフォーマンスやダンスのイヴェントが僕らの音楽を形づくった。Violenceは、そういったやりとりやフレンドシップの中で成長してきたし、いまだコンスタントにこのときの友だちやアーティストからフィードバックをもらったり交流することで成り立っているんだ。
 たぶん共通の知り合いからかな、どういった経緯か詳しくは知らないんだけど、〈Visage Musique〉の人たちが僕らの作品を聴いて、いっしょにやらないかと言ってきたんだ。

「Silent Shout」で“EP of the Year”に選ばれたり、「Weird Canada」で特集されたり、とても順調に思えます。

エリック:音楽のことをキャリアという視点で考えることはまずないんだけど、専門のブログにいいことを書かれるのは気持ちがいいね。このプロジェクトをはじめてから、とても興味深い人たちに出会えたし、素晴らしいアーティスト集団とステージを共有したり、見知らぬ人とアートや音楽について興味深い議論をすることになったんだよね。

どういった音楽に影響を受けましたか。また、最近気になっているバンドやミュージシャンはいますか。

エリック:作曲するときは無意識に影響を受けるのが好きなんだ。でなければ、単に自分を訓練する文体練習(※1)になってしまう。
 僕はグルックやバッハ、ロッシーニといった、クラシックやバロック音楽が本当に好きなんだ。現代の音楽だと、最近は90年代初期のテクノやハウスをたくさん聴いているよ。

※1 フランスの小説家、レーモン・クノーによる一つの物語を99通りの文体で書いた作品

最近よく聴いている5曲はなんですか。

ジュリー:わたしはつねに5曲以上好きな曲があるの。でも最近ではAutomelodi(オートメロディ)(※2)のLPをよく聴いているわ。

※2同じくカナダのダーク・シンセポップ・バンド。〈Wired Records〉などからのリリースがある

どんな音楽を聴いて育ちましたか。最初に影響を受けた曲は何ですか。

エリック:最初の音楽の記憶は、おじいちゃんが弾いてくれた自作のフォークかな。そのあと5歳の誕生日にレコード・プレーヤーをプレゼントにもらったんだ。ちょうどその頃、ディスコが終焉を迎えて恥ずかしくなった僕のおばさんたちが、その当時流行ってたディスコのレコードを100枚近くくれたんだ!
 僕とイタロ・ディスコの親和性は、絶対そこから来ていると思うんだよね。あとは、フランスのコメディやイタリアの映画、日本のアニメの音楽を楽しんでいた覚えがあるな。

ジュリー:わたしがまだ小さかったとき、叔父がピアノを勉強していて、バッハやモーツァルトみたいな有名なクラシックの曲を、ジャズにアレンジして弾いてくれたのにとても感動したし、何よりうれしかったのを覚えているわ。
 自分でかけた最初のレコードは、Angèle Arsenault(アンジェレ・アルセノ)の『Libre(リブレ)』。

機材は何を使っていますか。作曲はどのように行いますか。

エリック:80年代と90年代初期の、アナログ・シンセとデジタル・シンセを合わせて使っているよ。最近は僕たちがいままでに持っていたシンセサイザーの中で、プログラムの可能性という意味ではもっとも複雑なRoland MKS 80を買ったよ。
 僕らはゼロから自分たちの音を作るのが好きなんだ。普通どうやって曲を作りはじめるかっていうと、シンセサイザーのパッチを組むとその音が自分たちの気分を決めてくれるんだ。それを作り込んでからレイヤーと歌詞を足していく。僕らは普段、タッグを組んでいっしょに作曲している。

〈Visage Musique〉やレーベルメイトについて教えてください。カナダには〈Visage Musique〉や〈Electoric Voice〉、〈Pretty Pletty〉などのシンセ系のレーベルがいくつかありますが、最近のカナダの音楽業界についてどう思いますか。

ジュリー:創造を広めるための道具が増えて、生産を縮小できるという事実は好きよ。わたし個人としては〈Visage Musique〉のように、人をベースとした環境の中でともに創り上げて行くっていうやり方がうまくいくの。彼らは長年にわたって成長してきたし、世界中にいるわたしたちのアートを理解してくれているだろう人にどんどん近づいているのよ。これってこれまでの音楽業界と比べて、すごくいまっぽいことよね。

他の国にもアンダーグラウンドなシンセ・シーンがありますが、他の国のバンドに興味はありますか。影響を受けていますか。

エリック:もちろん興味があるし、海外の音楽シーンにも触れようとしているよ。僕はその出所よりも音により注意がいくから、どんな言語で歌われた歌を聴くのも楽しいんだ。

どういったファッションが好きですか。カナダのお勧めの店を教えてください。

ジュリー:たまに意外なとこですごく素敵なモノを見つけたりするけど、アクセサリーだけは「Missy Industry」っていう友だちがやってるお店で買うわ。あとはAmélie Lavoie っていうとてもおもしろいパターンを描く友人がいるんだけど、その子の作るシャツが本当に最高なの。

東京に来たらどこに行きたいですか。またなぜ東京に来ようと思ったのですか。

ジュリー:地元のアーティストがインスピレーションを受けている場所や、若い人たちが、自分を出せたり、実験できたり、生きてるなあって感じられるような……というのもわたしは専門的に都市にいるハシブトガラスを観察することにも興味があって、どうやって鳥が都市に適応するか、特別に賢い鳥が人間と同じように自然環境無しにどうやって餌を食べることができるのかというようなことをとても興味深く見ているの。(※3)

※3 ジュリーはオタワ大学の助教授で認知学の研究をしている

エリック:東京の代表的な建築物とか、インディ・レコード・ショップ、あとは中古の楽器屋でシンセが見たいかな。

東京でライヴをするのは楽しみですか。

ジュリー:待ちきれないわ! ライヴをはじめたときから、いつか東京でやりたいって思ってたの。モントリオールやロンドン、ニューヨークみたいな都市が好きだから、東京には一度も行ったことがないけれど、きっと東京も一瞬で好きになっちゃうわ。

いっしょに出演するJesse RuinsとNaliza Mooはどう思いますか。

エリック:つい最近彼らを見つけたんだけど、僕らの聴いたものは好きだよ。彼らといっしょにライヴするのが楽しみだ!

質問に答えてくれてありがとうございました。最後に日本のファンに一言お願いします。

エリックとジュリー:わたしたちといっしょに踊りに来て!


Violence来日公演

■The Invention of Solitude - Chapter 4
8月24日 日曜日 18:00 at 渋谷HOME
Charge: ADV. 1,500 / DOOR 2,000 (+1D)
LIVE: Violence (from Canada), Jesse Ruins, Naliza Moo
DJ: Yanagiszawa, Tack Terror, Naohiro

来日公演に先立ち DOMMUNEでのライヴ配信も決定
■The Invention of Solitude - Chapter 3.141592
8月20日 水曜日 21:00 at DOMMUNE
Live: Violence (from Canada), Jesse Ruins, Naliza Moo
DJ: Naohiro Nishikawa

 来日公演を記念して、海外のインディ・シーンともリンクする東京のアーティストによるViolenceのリミックステープのリリースが決定。リミキサーは初来日公演でもプレイするJesse Ruins、Naliza Mooに加えリミックスワークは初めてとなるギーク系轟音ギターバンドSlowmarico。都会の孤独に翻弄された一人シンセバンドLSTNGTの計4組。そこにViolenceの未発表曲、その名も『Violence』を加えた計5曲。タイトルはViolenceのエリックの入力によるGoogle翻訳を駆使したViolenceの日本語訳「すさまじさ」のローマ字表記で『Susamajisa』。東京の新レーベルSolitude Solutionよりリリース。

『Susamajisa - Violence Remixes』
A-1 Dernier Cri - Slowmarico Remix
A-2 Halo - Jesse Ruins Remix
A-3 Violence - Violence feat. William Crop
B-1 The Curse of Dimensionality - Naliza Moo Remix
B-2 Disappearances - LSTNGT Remix
Solitude Solition - KDK-1
価格: 1,000円(限定77本)
8月20日発売予定
soundcloud: https://soundcloud.com/solitudesolutions

Violence プロフィール
 カナダで活動するシンセ・ウェイヴ・ポップ・男女デュオ。男エリックによるミニマルでダークウェイヴでありつつも時折ディスコに接近するシンセサウンドに乗るどこか懐かしささえ覚える美メロを唄う女ジュリーの冷淡でありながら耽美でキュートなウィスパー・ヴォーカルが魅力。地元カナダのVISAGE MUSIQUEよりEP『VIOLENCE EP』と LP『ERLEBNIS』とをリリース済み。
bandcamp: https://violence.bandcamp.com/
soundcloud: https://soundcloud.com/violence-2/


interview with The Bug - ele-king

 移民政策というのは、日本にとっていよいよ他人事ではなくなった関心事のひとつで、以下のケヴィン・マーティンのインタヴューからは、そしてザ・バグの音楽からは、ロンドンの、いろいろ混じり合って、さんざん衝突し合ってきた挙げ句のリアリズムが激しく立ち上がってくる。ロンドンにおいては間違いなく移民文化が音楽の活力剤となっている。美しい話かもしれないが、甘さだけのものではない。その甘くはない方に性懲りもなく、律儀に肩入れしてきたのが、ザ・バグである。

 ザ・バグは、ケヴィン・マーティンのソロ・プロジェクトである。もともと彼は、1990年代初頭、ゴッド、アイス、テクノ・アニマルという、3つのプロジェクトによって頭角を表している。パートナーは、元ナパーム・デス(ハードコア/スラッシュ・パンク)のジャスティン・ブロドリック。ハードコアとダブが彼らの魂の拠り所だった。ふたりはインダストリアル・ヒップホップやダーク・アンビエント、テクノやジャングルどなど、様々なスタイルを食い散らかしては取り入れたが、結局、どこのシーンにも属すことなく「孤立主義」を押し通した。彼の言葉を借りれば「どこにも属さない変人」、早い話、浮いていたのである(それでも、ゴストラッドのような、ケヴィン・マーティンの支持者はいた)。

 しかし、ザ・バグをはじめてからのケヴィン・マーティンは、より時代に馴染んでいるように見える。ダンスホールを取り入れた2003年の『プレッシャー』、UKグライムとロール・ディープをフィーチャーした2008年の『ロンドン・ズー』は、いま聴き返しても素晴らしいアルバムで、2枚とも移民文化のエネルギーを吸収しながら、あらゆる角度から小刻みなジャブのように攻めてくる。アグレッシヴで、ヘヴィー級だが、踊りのステップもある。ハードコアだが、ダンスホールでもある。90年代は「浮いていた」彼のパンク精神は、UKグライムのふてぶてしさと相性が良かったし、情け容赦ない低音を有するキング・ミダス・サウンドも、最初の1枚からリスナーに支持された。


THE BUG
Angels & Devils [帯解説・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤]

NINJA TUNE/ビート

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 この度リリースされる『エンジェル&デビル』は、20年以上にもおよぶケヴィン・マーティンのキャリアにおいて、いちばんの注目作となっている。
 アルバムは、そのタイトルが言う通り、「天使サイド」と「悪魔サイド」に分けられている(わりとこの人は、良くも悪くも言葉遣いが直球なのである)。「天使サイド」では、彼にとっての新しい試みと言えるであろう、妖艶な領域に足を踏み入れている。陶酔的なそのサイドでは、リズ・ハリスインガ・コープランドという、筆者もイチオシのふたりの女性シンガー、そしてフライング・ロータス一派のゴンジャスフィが歌っている。こうした配役は、90年代のマッシヴ・アタックを彷彿させるし、実際のところなかば退廃的なムードも似てなくはない。が、いっぽうの「悪魔サイド」は、USのデス・グリップスほか、ウォーリアー・クイーンやフローダンなどUKグライムのラッパーが威勢良く飛び出しては汚い言葉をわめき散らすという有様だ。「悪魔サイド」は、『ロンドン・ズー』以上にハードで、「怒り」がほとばしっている。その怒りを、ケヴィン・マーティンのビートは100%援護する。いちど溢れ出した水は、元には戻れない。いったいどうなっていくのだろう。ケヴィン・マーティンは、録音中、長年住み慣れたロンドンをあとにして、というか、たとえ愛するジャマイカ文化が身近にあっても、いや、さすがにもう、ここには住めんわーと決意して、ベルリンに移住した。


いまのイギリス政府はとにかく右翼で、人種差別者たちの集まりだから。だから彼らは他の国の人間を受け入れない。ロンドンを出ることはすでに考えていた。どうやっても、ここにこれ以上長くは住めないんじゃないかと思いはじめていたのさ。最後の年は、かなりの貧民地区に住んでいたからね。


通訳:こんにちは。今日はベルリンからですよね? 

ケヴィン・マーティン(KM):そう。ロンドンからベルリンに引っ越したんだ。もう1年以上になるね。

グルーパーのリズ・ハリスがザ・バグに参加するという情報は、たぶん1~2年前に聞いていて、ものすごく期待していたのですが、完成まで、けっこう時間がかかりましたね。実際、今作の準備はいつからはじまっていたのですか?

KM:このレコードを作ることには、ものすごく真剣だった。でも、だからこそベストな雰囲気やイメージをしばらく探していた。自分にとって、このレコードは個人的な旅のようなものというか……正しい言葉が見つからないけど。リズのヴォーカルはたしかに2年前に録った。でも、そこからまたあらためて曲を書き直して、それで時間がかかった。
 リズに関しては、まず彼女と一緒の作品をイメージして、そこから8~9曲くらい作って彼女に送った。彼女にそのなかから彼女自身に合うもの、もっとも彼女が繋がりを感じるものを選んでもらった。で、リズがその上にヴォーカルを乗せて送ってくれたんだけど、そこからまたオリジナル・トラックを書き直した。コラボレーションのプロセスも、音源を送って、そこにヴォーカルを乗せて、それをミックスするという普通のプロセスとは違っていたし、時間がかかってしまった。クリエイティヴなプロセスだったから。パーフェクトなレコードを作るのはどうせ不可能なんだけ……どんなレコードでも常に、あれが出来たら良かったなとか、これをすればよかったっていうのが出てきてしまうから。

通訳:準備自体はいつからはじまっていたのでしょう? 実際は、構想期間を入れると、どのくらいの時間を要したのでしょうか? ザ・バグとしては6年ぶりですよね?

KM:『ロンドン・ズー』が出来てからすぐだね。俺は仕事中毒だから(笑)。このレコードが出来上がるまでに、いくつかやり方を変えたりもしたし、自分に問い掛けたりもした。確かに長い時間だよな(笑)。そのあいだにキング・ミダス・サウンドのアルバムがあったりもしたしね。

録音はロンドンとベルリン?

KM:そう。最初はロンドンでレコーディングして、それからベルリンでミックスした。いくつかのトラックはベルリンで再レコーディングもした。“パンディ”はベルリンで書き直したし、“ファック・ユー”はゴッドフレッシュのショーの後書き直した。なんか、あのショーを見た後に自分のルーツを思い出してね。だからあのトラックをもっとヴァイオレントにしたくなった。あともう1曲あるんだけど……いま思い出せないな。とにかくその3曲はベルリンで書いてレコーディングした。

ベルリンに移住したのは1年と少し前とおっしゃっていましたね。あなたがベルリンを移住先に選んだ理由を教えてください。

KM:理由はいくつかある。まず、俺のパートナーは日本人で、彼女がイギリスに住むための新しいビザをもらえなかった。いまのイギリス政府はとにかく右翼で、人種差別者たちの集まりだから。だから彼らは他の国の人間を受け入れない。3ヶ月ずつ観光ビザで滞在させて、彼らにお金を落とさせるだけ。だから彼女もビザがとれなかった。
 同時に、『ロンドン・ズー』のときからロンドンを出ることはすでに考えていた。当時から、ロンドンに対しては大きなクエスチョン・マークがあった。どうやっても、ここにこれ以上長くは住めないんじゃないかと思いはじめていたのさ。最後の年は、かなりの貧民地区に住んでいたからね。ポプラーっていうエリアさ。
 ロンドンはいろいろな文化の坩堝と言われているけど、みんな貧困に悩んでて、滅入ってて、すごく悲しい街でもある。だから、もう住まなくてもいいんじゃないかと思った。もはや、それは住んでいるというより、無理して生き抜いてるという感じだったから。メインストリームの音楽ももう俺には関係ないしな。俺にとって、音楽というのは金がゴールなんかではない。音楽はセラピーだ。いつだって、俺はセラピーとしての音楽作りを求めてるからね。

あなたは80年代、まだ10代の頃にレゲエやデプス・チャージに共感する怒れる若者でした。ロンドンにやって来たばかりの頃は、フロ無しの部屋に住んでいたと、2008年に取材したときにあなたは語ってくれましたが、あなたが送ったボヘミアンな生活は、地価が急激に高騰した現代のロンドンではもう難しいのではないかと思います。あなた自身もベルリンに越されたそうだし、ドロップアウトという生き方が選べなくなっているように思いませんか?

KM:ロンドンにやって来たばかりの頃だけではなくて、まさに『ロンドン・ズー』を作ってるときもそうだったよ(笑)。スタジオに7年くらい住んでたんだけど、そこにはキッチンもシャワーもなかった。めちゃくちゃ汚かったな(笑)。法律やルールに従えば、ロンドンには住めるかもしれない。あとは、幸せを感じることが出来ないクソみたいな仕事をするか。その仕事ばばかりをやれば住めるかもな。俺はどちらも御免だ(笑)。だから街を出た。

通訳:ひとつ前の質問に戻りますが、ロンドンを出た理由はわかりました。ではなぜベルリンを選んだのでしょう?

KM:ベルリンにはもともと繋がりがあったんだ。ベルリンでは何回も何回もプレイしてきた。知り合いの音楽関係の人間でベルリンを拠点にしている人もたくさんいる。それに、ベルリンの雰囲気がずっと大好きだった。ヨーロッパの大都市のなかで、いまだにソウルを持っている数少ない街のひとつだと思う。ベルリンはオルタナティヴ・カルチャーを基盤としているし、政府もマシなほうだよ。いまはベルリンにとってすごく面白い時代だと思うよ。ヨーロッパの大都市のなかでも唯一物価の安い都市だしね。
 だからいま、ミュージシャンや画家、アーティストたちがたくさん集まってきている。アメリカからももちろんだけど、フランス、イタリア、スペインとか、とくにヨーロッパから。いま、急激に変化してきていると思う。もしかしたら、10年後にはロンドンみたいになってるかもしれないけどね。
 最初に越してきたとき、〈ワープ〉からレコードを出してるアンチポップ・コンソーティウムのプリーストが友だちなんで、彼のショーを見に行ったんだけど、そのとき彼が言ったんだ。「ベルリンは良かった頃のブルックリンを思い出させる」って。とはいえ、いまやベルリンにもたくさん人が来すぎてはいる。それでも、まだロンドンやニューヨークよりはマシだ。これからどうなるかはわからないけどね。

通訳:ベルリンとロンドンを比べてみてどうですか?

KM:ロンドンには23年住んでいた。ベルリンはそのあと、初めて住むロンドン以外の場所だった。だから、引っ越すまではやはりナーヴァスだった。引っ越してからもそれは続くだろうと思っていた。ロンドンは俺に音楽を教えてくれた場所だし、俺の音楽的な基盤はロンドンだから。人付き合いだってここで育んできたわけだし。ロンドンはスペシャルな場所ではある。
 でも、いまベルリンに住んでみてロンドンを違う角度から見てみると、おかしなことに全く恋しくないんだ。恋しくなるに違いないと思ったのに。恋しいと思う唯一のものは建築だね。ベルリンの建築はつまらないから。そこはロンドンのほうが面白い。あとは、ロンドンは社会や文化的な坩堝だけど、ベルリンはヨーロッパの坩堝。だから、ジャマイカやインドのコミュニティが恋しいっていうのはある。俺のロンドンでの生活のほとんどは貧しい地域で過ごしてきたからね。近所は常にパングラディッシュ人やインド人、パキスタン人、ジャマイカ人、トルコ人だった。ベルリンにもトルコのコミュニティはあるけど。これがベルリンを特別な場所にしてると思う。ベルリンというか、ドイツ全体を。いまロンドンに戻ると全てのバカ高さに気づかされるし、街の緊張感を感じる。戻る度に、よくあんなに長く住めたなと言い続けてるんだ。

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ロンドンは社会や文化的な坩堝だけど、ベルリンはヨーロッパの坩堝。だから、ジャマイカやインドのコミュニティが恋しいっていうのはある。俺のロンドンでの生活のほとんどは貧しい地域で過ごしてきたからね。近所は常にパングラディッシュ人やインド人、パキスタン人、ジャマイカ人、トルコ人だった。


たしかに『ロンドン・ズー』は、サッチャー以上にサッチャー的と言われるデヴィッド・キャメロン首相がもたらしたUK、たとえばロンドン・オリンピック後の、荒廃したロンドンを先んじて描いたと評されています。そうした政治的なことで言えば、この6年でさらに悪化しているように思いますが、あなた自身は、今日の情況をどのように分析していますか。とても大きな質問ですが、『エンジェル&デビル』の背景を知る上でも重要だと思います。

KM:いまのロンドンは悪くなっている一方だ。金を重視してるからな。ほとんどのヨーロッパの都市がそうだと思う。経済の問題のいち部はヤッピー(変に金を持ってるエリート・サラリーマンたち)からも来ている。街も質の悪いアパートをそこらじゅうに建てて、高い家賃を投げつけてくる。その繰り返しだ。10年前まではいろいろな人種のミックスだったのに、いつの間にか、いまのマンハッタンみたいになってしまっている。スターバックスだらけで、同じ服を来て同じ行動をする奴らしかいない。
 俺はコントラストが好きなんだ。だからロンドンを出たんだよ。ほとんどの大都市が金に引きつけられている。マンハッタンなんて、個人的にはとくに気持ちの悪い場所だね(笑)。
 『ロンドン・ズー』を“投獄”と言えるなら、今回の新作は“現実逃避”だ。そういうロンドンの情況からのね。新作はロンドンにもリンクしてるし、同時にロンドンからの逃避も入っている。説明が難しいけど……その両面が入っているというか……このレコードを作りはじめたとき、『ロンドン・ズー』のサウンドを続けるか、それとも完全に変えてしまうか迷っていた。ダブステップという枠にとらわれてしまっている気もしたし、そう思われたことに対して決してハッピーじゃなかった。
 だが、何年か経って、この作品の他のスタイルやマテリアルに取り組み出したときに…そのマテリアルはラップだったんだけど、基本的に俺のお気に入りのアーティストはみんな職人で、みんな自分のサウンドをよりベターにしていっている人たちだということに気づいた。アーティストは、自分の特徴としてみんなに知られたレアなサウンドを残すことが多い。俺にとっては、それが突破口になった。『ロンドン・ズー』は『ロンドン・ズー』で自分が進んでいるひとつのチャプターだと思えば良い。そこから何かをスタートさせて、また他のチャプターに行けばいいと思った。だから、『ロンドン・ズー』から遠すぎもせず、かつ『ロンドン・ズー』から次へ進むような作品を作ることにした。

ちなみに、ベルリンにもアフリカ系の人たちがやっているサウンドシステムがありますが、行ったことはありますか?

KM:ひとつ大きなクラブがある。最近場所を移動したけど、〈Yaam〉というクラブ。ベルリンのなかでもトップのレゲエ・クラブで、アフリカン・ミュージックのヴェニューだ。面白い場所で、フェイクのビーチがある。その偽物のビーチの上にジャマイカのビーチハウスを建てて、ドリンクやつまみを売ってる。ベルリンっぽくなくてすごくいい感じだ。最近移転のために閉まってしまったけど。まわりにアパートが建ち初めて、家賃も高くなったから。20年くらいその場所にあったんじゃないかな。新しいロケーションを見つけたみたいで良かったよ。〈Yaam〉はすごく大切な場所だから。

インターネットは好きですか? どんな風に利用していますか?

KM:ハハハハ。他のみんなと同じように、中毒でもあるし、大切なツールでもある。ときに、スクリーンの前でこんなに時間を無駄にしてしまったのかってイヤにもなるけどね。でも、同時に信じられないくらいに便利でもある。昔はアンチ・インターネットだったんだけど、ロジャー・ロビンソンとキキ・ヒトミからインターネットを使わないことに対してごちゃごちゃ言われてさ(笑)。プロパガンダには必要だって。だからいまでは俺もFacebookをパーソナル・マガジンとして使ってもいる。
 最近お袋と話してたんだけど、俺が本当に小さい子どものとき、世界の全ての本がある図書館に入り込めたらいいのにっていう夢の話を母親にしてたらしい。それがいま、インターネットで実現されているようなものだからね。そういう意味ではインターネットは奇跡とも言える。もうすっかり当たり前になってしまっているけど。でも、同時に危険でもある。インターネットの前ではゾンビになりかねないから。何もせずに情報だけを受け取るだけになってしまう可能性もある。だからバランスが必要なんだよ。すべてのことと同じ。いい面もあれば悪い面もある。

あなたはロンドンのUKのサウンドシステム文化からの影響を受けていますが、それがUKから離れることで、あなたの制作においてどのような化学変化が起きたのでしょう?

KM:先週もいくつかインタヴューを受けたんだけど、みんなこの質問をしてくる。まあ、この質問が来るのは当然だとは思うけどね。でも、さっきも言ったように、ここに住んでまだ1年ちょっとしか経っていない。この街が自分にどれくらい影響をおよぼしてるかに気づくにはまだ早すぎる。レコードをミックスしてるあいだ、3ヶ月は車いすの生活をしてて、彼女がずっと俺を世話してスタジオまで毎日押していってくれた。そういう生活からは精神的に影響されたかもしれないけど……
 あと、ベルリンは景観的にも、ロンドンよりもオープンだ。俺のスタジオは川岸にあるから、地平線が見えるんだよ。そういうものからも影響はされてるだろうね。でも、他の影響や化学反応に気づくには、いまはまだ早すぎる。いまはまだ馴染んでるところ。そこから自分のサウンドがどう形作られていくかはまだわからないね。

通訳:ベルリンの音楽から何か感じるものはありますか?

KM:ベルリンにおいて大切なのは、ここが音楽都市だということ。多くの若者がそれを求めてここにやってくる。ヨーロッパ内だとフライトも安いし、たくさんの若者が24時間パーティをしに来るんだよ。ボロボロになりに。そういうヴァイブとエナジーがある場所が大好きだ。ベルリンには確実にそれがある。それが自分にアイディアをくれているとは思う。
 俺がここに自分のサウンドシステムを移したのは、音楽に欠けていている何かを埋めるものがあったから。いま俺が取りかかっている次のアルバムのひとつは、7インチ・レーベルの〈アシッド・ラガ〉がベースになってるものなんだけど、〈アシッド・ラガ〉とライヴ・サウンドのマテリアルを俺のサウンドシステムで、ベルリンのクラブの汚い地下でプレイしたものが基盤になってる。
 だから、ベルリンにすでにインスパイアされてるのは間違いない。アイディアをくれているし、素晴らしい人たちに囲まれている。本当に、ベルリンに越してきたのはすごくポジティヴな動きだったと思う。来る前はナーヴァスだったけどね。

キング・ミダス・サウンドでは、ダブ(ないしはダブ・ポエトリー)を追求するプロジェクトでしたが、そこには、あなたの重要なコンセプトである多文化主義的アプローチも反映されていたと思います。ザ・バグのサウンドにおいて、そうしたエスノ的なアプローチ、多文化主義的アプローチはどのように活かされているのでしょうか?

KM:答えになってるかわからないけど……キング・ミダス・サウンドに多文化主義的アプローチが反映されているというのは、メンバーのひとりがトリニダード・ドバゴ出身で、もうひとりが日本人、そして俺のルーツがスコットランドとアイルランドだからっているのがあると思う。それはキング・ミダス・サウンドの大きな部分だ。
 それに加えて大切なのがダブだよ。キング・ミダス・サウンドでもバグでも、ダブは大きな要素だ。ジャマイカの音楽は自分にとって大きなインスピレーションだから。それを考えるとここ何年かは悲劇だった。自分が影響を受けてきたようなジャマイカ音楽がまったくなかったから。でもある意味、その状況は、自分自身の未来的なジャマイカン・ミュージックを作ろうと俺に決心させてくれた。自分が聴きたい音楽が見つからないから、自分が作らないといけないと思った。俺にとって、レゲエ、ダンスホール、ラガをはじめとするダブと呼ばれるすべての美とは、先進的で、驚きを与えてくれる部分だ。冒険的で脱構築的なところが魅力だった。しかし、それが最近はつまらなくなってしまった。先が読めるし、アメリカンすぎる。だから、自分が聴きたい音楽がなければ自分で作るしかないという姿勢で、自分なりのそういった音楽を作ろうとしている。先進的だったり驚きを与えるための新しい音楽の言語を作り出そうとしてるとでも言うかな。答えになっていないかもしれないけど……。

今回、ビートについてはどのように考えましたか? 『プレッシャー』のときはダブ、ダンスホール、ブレイクコア、『ロンドン・ズー』のときはグライムを参照したと思いますが、『エンジェル&デビル』はダンスホール、アンダーグラウンド・ヒップホップ、ノイズなど、さまざまなものが吸収されています。何かを参照したというよりも、あなたがいままで影響を受けてきたものが自然に吐き出されたカタチと言えるのでしょうか?

KM:サウンドに関しては、いままでに増してオープンになっている。このレコードを作る上でしたいくつかの重要な決断があった。そのうちのひとつは、ダンスホールとグライムをメインの影響にしないということだった。いや、グライムは違うな。ダンスホールとラガだ。アシッド・ラガのレコードを他で作ると決めていたから、そこは分けたかった。
 個人的に、ここ何年かでふたつの違う方法で音楽と繋がるようになってきたんだけど、それがどんどん明らかになってきている。ひとつは、クラブに行って、超クレイジーな音やヴォーカルで自分にショックを与える聴き方。精神的にドカンと来るような。で、もうひとつは、ダイナミックではなく、ゆっくりと身体に入ってくる音楽を聴くという音楽との繋がり方だ。旅行中や家にいるときはそういう音楽を聴く。ただ朦朧としたいからね。
 今回、俺はそのふたつの要素を新作のコアにしたかった。だからふたつのサイドに分けた。クラブ・ミュージックのサイドに関して言えば、昔よく聴いていたエレクトロニック・ミュージックをこの4~5年、ふたたび聴くようになった。最近のクラブ・ミュージックにがっかりしていたからね。最近のクラブ・ミュージックは、使い捨て感があって、鋭さが何もない。まるで工場で次から次に作られているみたいだ。俺が人生全体を通して好きな音楽は、超緊張感があって、革新的で新鮮なものだ。いまのクラブ・ミュージックにはそれがなくなっている。それが俺の目をエクスペリメンタルなアンダーグラウンドに向けさせているね。
 だから新作の半分は、自分が最近そういったクラブ・ミュージックに出会えていないことに対する救済策みたいなものだね。もう半分は、自分自身が朦朧としたいときに聴くような、パーソナルな部分だ。こうやってインタヴューをされると分析できるけど、作っているときは半々。行き詰まったりすれば考えたり分析するし、少し時間を与えてから、それに対する自分のリアクションを見たりする。だからサウンドの半分は自然に出て来たものだし、半分は意識して作ったものだね。

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右翼すぎる連中っていうのは、俺の最大の敵なんだ。それこそ怒りだよ(笑)。問題にはサイクルがあって、何かあればそういう連中はいつだって外国人や他の人を責める。反多文化主義で、了見が狭い。ああいうコンサバな奴らには、伝統にしがみつかず、未来に前進しろって言いたいね。


リズとコープランドという、それぞれ背景の異なった個性的な女性シンガーを起用した理由を教えてください。とくにリズは、USのドローン・フォークの人で、音楽的にみて、ザ・バグとはなかなか接点がないと思っていたので、ちょっと驚きました。

KM:俺が今回やりたかったことのひとつは、ザ・バグに対する決められた印象に対して異議を唱えること。世のなか、アニメのキャラクターみたいに、ひとつのイメージを作りたがる。だから、いつも俺はミスター・アングリーっていうイメージをもたれてるんだ(笑)。
 でも今回は、さっき言ったような、朦朧とするような部分も含め、イメージをぶち壊すような要素を入れたかった。自分には怒り以外の要素もあるし、アグレッシヴな音楽だけじゃなく、幅広い音楽を聴いて影響を受けていることを示したかった。それにはリズのようなサイケデリックな声がパーフェクトだと思った。
 最初彼女に依頼をしようと決めたとき、断られるだろうとも思ったし、ザ・バグのことを知りもしないかと思った。でも実際に依頼してみると快くオーケーしてくれて、しかも車のなかで彼女の母親に『ロンドン・ズー』を聴かせていたっていう話をしてくれてね。曲の内容は人殺しだったりするのに(笑)。それでますます思ったよ。彼女のようなシンガーだからといって、彼女が自分の曲のような音楽だけを聴いているわけじゃない。みんな、いろいろなテイストや側面を持っているんだってね。人が持っているイメージは関係ないのさ。

いま、ちょうど、怒りの質問をしようとしていたところでした(笑)。あなたは、いま、とくに何に対して何で怒っているのでしょうか?

KM:ははは(笑)。日本にはいいセラピストがたくさんいるだろうから紹介してくれよ(笑)。俺は常に怒っているわけじゃない。俺は怒ってばかりいるんじゃなくて、情熱的なんだ。音楽と人生に対してパッションがある。もちろんこの世のなかには腹が立つことがたくさんある。例えばイスラエルやガザでいま起こっていることもそうだ。ああいうのは心底腹が立つ。イギリスの政府に対してもそうだし、日本の政府もそうだ。俺を怒らせることは世のなかでたくさん起こってる。そういう怒りは、俺の音楽の燃料なんだ。それはそれでいいことだと思ってる。ただ、それは俺の一部であって、俺のすべてではないってことだよ。

通訳:今回のアルバムでも怒りはもちろん燃料に?

KM:怒りは増してると思う。さっきも言ったように、『ロンドン・ズー』ととまったく違うものじゃなく、そこからニュー・アルバムを構築していこうと決めて、そこからエンジェルとデビルのふたつの方向が生まれた。『ロンドン・ズー』からより広がっていくためにも。
 だから、一方では『ロンドン・ズー』よりもより美しく、そしてもう一方ではより醜くダーティーなサウンドを作りたかった。だからデビルの面では、より張りつめたサウンドを作り上げたかった。エンジェルの面では、より魅惑的で美しいサウンドを作りたかったしね。中途半端はつまらない。人生も、音楽も、アートも、政治もそうだ。エクストリームっていうのは、生きてるってことなんだ。真んなかにいて、なかなか動かず中身がないのはまるでマンハッタンだ(笑)。魂がないのさ。だから俺にとってこのアルバムは人生そのものだ。俺がどう生きたいか、どう人生をとらえたいか、自分が何に関心があるのか。それがこのアルバムだし、ふたつのサイドがある理由だよ。『ロンドン・ズー』のときはネガティヴなサイクルのなかにとらえられてたけど、今回はベルリンへの移住っていうポジティヴな面もあるしね。

あなたは日本の安部晋三の評判を知っていますか? 

KM:もちろん。パートナーも日本人だし、サウンドガイも日本人だし、いろんな人から話は聞いているからね。日本の政治には興味がある。日本の政治がいま軍事的になっているのはとてもショッキングだよ。最近東京の中心で自分に火をつけたジャーナリストもいたよな? いま、それくらい日本の政府は極端になってるんだと思う。大きな問題を抱えていると思うよ。前からそうなんだろうけど、とくにフクシマの後は。

通訳:EUの選挙結果も驚きでしたね。

KM:俺も驚いたよ。右翼すぎる連中っていうのは、俺の最大の敵なんだ。それこそ怒りだよ(笑)。問題にはサイクルがあって、何かあればそういう連中はいつだって外国人や他の人を責める。反多文化主義で、了見が狭い。ああいうコンサバな奴らには、伝統にしがみつかず、未来に前進しろって言いたいね。

アルバムは、「エンジェル」サイドからはじまっています。リズのほか、インガ・コープランド、ミス・レッド、ゴンジャスフィらが参加しています。「天使」と言いつつも、ユートピックな曲があるようにも思えないし、“パンディ”のように、どうにも不吉さが漂う曲があります。この「エンジェル」サイドの意図するところについてのあなたの説明を聞かせて下さい。

KM:言いたいことはわかるよ。エンジェル・サイドはハニー&シュガーではない(笑)。俺にとっては、現実逃避と希望かな。でも、俺はそれが可能だとは思っていない。大切なのは、このレコードで俺がデビルのなかのエンジェル、エンジェルのなかのデビルを表現していること。白黒にしようとしたわけではない。これは良い悪い、これは天使悪魔とハッキリわけられるものはないんだよ。必ず混ざっているものだと思う。

“ヴォイド”、フォール”、“マイ・ロスト”、“セイヴ・ミー”、非情に象徴的な曲名が並んでいますが、曲の歌詞、シンガーたちが書いたのですか? それともあなたがアルバムのコンセプトを指示したのでしょうか? 

KM:コンセプトを話し合ったりはしたけど、歌詞のほとんどはシンガーたちが書いてる。『ロンドン・ズー』ほど指示はしていない。

「デビル」サイドは、フロウダン、マンガ、デス・グリップス、ウォーリアー・クリーンらが登場しますが、こちらはよりアグレッシヴさが強調されていますが、あなたのイメージには何があったのでしょう?

KM:たしかによりアグレッシヴになってる。さっきも言ったように、今回はより緊張感のあるサウンドが欲しかったからね。それは大切な要素だった。イメージは、さっき言った通りさ。

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グライムは、俺にとってとても重要だ。グライムはロンドンの声だから。ロンドンのパンク・ヴォイス。決まりきったロンドンのものごとに対して、くたばれ! と言っている。俺が育った、そして生活していたロンドンの貧民街の声だ。俺の経験の声なんだ。


THE BUG
Angels & Devils [帯解説・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤]

NINJA TUNE/ビート

DubGrimeLeftfieldSynth-popAbstract

Amazon iTunes

アンガーというものは、悪魔サイドにおいては重要な要素だと思いますが、これはストリートからの怒りの表明と言えるのでしょうか? というのが次の質問でしたが、これはもう解答されてますね。

KM:だね。ストリートからだけじゃなく、いままで話してきたいろいろなこと。前に言ったように、怒りは大切な要素。何かを気にしてるからこそ怒りが生まれるんだ。怒りイコール・ネガティヴな感情ってわけじゃない。変化をもとめるからこそ生まれるものなんだ。子供の頃、パンク・ミュージックを通してそれを知った。ポスト・パンクが俺の(ミュージシャンになりたいと思うようになった)きっかけだった。当時や、当時を知る多くのアーティストは、怒りに駆り立てられていたから。

“ファック・ユー”や“ファック・ア・ビッチ”、“ダーティ”など、かなり直球な曲名が並んでいますが、どうしてこうなったのでしょう?

KM:歌詞から取っただけだよ。つまりヴォーカリストたちから来たってことだな。デビル・サイドをすごく反社会的にしたかったからこうなったんだ(笑)。こういうタイトルは、レコードの内容を現すのにまさにもってこいだったし。

“Fat Mac”は、マクドナルドのことでしょうか?

KM:大きな銃という意味。MAC-11のことさ。大きなマシンガンなんだ。でも、フロウダンが他の曲でマクドナルドのことを歌ってはいるけど。あ、待てよ。あれはたしかバーガーキングだったな(笑)。

リリックに関して、あなたの意見、考えが反映されているものはありますか?

KM:全てだね(笑)。驚く人もいるだろうけど。人によっては、俺がヴォーカリストをランダムにプロデュースしたコンピみたいな作品なんだと思ってる人もいるだろうから。でも適当にヴォーカリストを選んでいるわけではまったくなく、自分が繋がりを持てるアーティストを自ら選んでいる。歌詞のテーマはすべて俺の考えと繋がっている。だから、コラボの数々はある意味すごく組織的なんだよ。ランダムとは真逆のレコードなんだ。

2008年にあなたに取材したとき、グライムから影響を受けていると言われるのはかまわないけど、ダブステップと呼ばれるのは心外だと言っていたのが印象的でした。今作にもUKのMCが参加していますが、あなたがグライムを支持する理由は何なのでしょうか?

KM:そこまで強く言ったかな? ダブステップの世界に知り合いもたくさんいるし、尊敬もしている。コード9、マーラ、ローファー、ブリアル、シャックルトン……、そういうアーティストは素晴らしいと思う。彼らはみんなダブステップから来ている。ただ俺は、自分がやってることがダブステップだと思えなかっただけなんだ。ダブステップ・アーティストと呼ばれることに少し距離を感じていた。自分ではそうは思えなかったから。
 グライムは、俺にとってとても重要だ。グライムはロンドンの声だから。ロンドンのパンク・ヴォイス。決まりきったロンドンのものごとに対して、くたばれ! と言っている。俺が育った、そして生活していたロンドンの貧民街の声だ。俺の経験の声なんだ。だからある意味、グライムはストリートの言語なんだよ。俺にとっての最高のグライムは、ディジー・ラスカルみたいに考えさせられるグライムだね。ディープで、プロダクションがいままで自分が聴いたことのないプロダクションだから。歌詞もロンドンで、まるで俺の念写を表現してるみたいな感じがする。

デス・グリップスの起用も、あなたのリクエストだったのでしょうか?

KM:そうだよ。大ファンだからね。彼らが初めてロンドンでプレイしたショーを見たとき、自分がテクノ・アニマルにいた頃の音楽を思い出した。彼らはもう解散してしまったけど、いまだに大好きだ。彼らはどこにも属さない“変人”たちだ。彼らはまわりを気にしない。だから彼らを大好きな人たちもいれば、大嫌いな人たちもいる。中間がない。好きか嫌いか。それが俺のなかでグっとくる。多くのアーティストがリアクションを気にしているから。

現在ユース・カルチャーというものは、80年代以上にマーケティングの対象にされています。そして昔以上に、現代は、メインストリームの音楽と非メインストリームが分かれているように感じるのですが。

KM:100%そうだと思う。中間というものがなくなってると思う。ここ5年で、俺はずっと超アンダーグラウンドな音楽を聴きまくっているんだ。さっきも少し話したけど。中間で面白いものっていうのがないんだよな。超ビッグなポップ・ミュージックがアンダーグラウンドか。そのふたつになってる。だからその意見は正しいと思うよ。

最近見た映画、面白かったのは何でしょう?

KM:たくさんあるからな……どうしよう……新作と繋がるものを選んで答えようかな。ちょと待ってくれよ……狂気や熱狂に関して言えば、ギャスパー・ノエの『エンター・ザ・ボイド』。この映画のサウンドデザイン、ヴィジュアル・デザインは本当に素晴らしいし、普通とはかけ離れたストーリーラインがいい。映画全体を通してセックスとヴァイオレンスが極端に表現されてて、本当にクレイジーな作品だ。いままで見たことのないような映画だから、映画史のなかでも重要な作品のひとつだと思う。デス・グリップスと似てて、見た人の好き嫌いがわかれる。めちゃくちゃ好きか、めちゃくちゃ嫌いかのどちらかだ。俺のレコードの一部に共通する部分がある、そういった狂気で熱狂的な部分が。
 同時に俺は、すごくゆったりとした映画にも惹かれるんだ。『エンター・ザ・ボイド』とは真逆の作風の映画に。そういう映画では、ウォン・カーウァイの大ファンだ。彼の映画は何度も見ている。すごく美しいから。ベトナムの映画監督のトラン・アン・ユンの作品も面白い。美しくて、ヴァイオレントで面白い。

通訳:ありがとうございました。

KM:こちらこそ。来日を楽しみしているよ!



■ザ・バグ、来日情報!

新作をひっさげてザ・バグが来日! MCとしてフローダン(UKグライムの最高のMCのひとり)も一緒だ!
そして、今日のテクノを語る上で欠かせないアーティスト、今年の初め、『ゲットーヴィル』を発表したアクトレスも来日!

2014年9月19日(金)代官山UNIT
OPEN/START 23:00
前売 3,800YEN 当日 4,500YEN

LINEUP:
THE BUG FEAT. FLOWDAN
ACTRESS
AND MORE...
INFO: BEATINK 03-5768-1277[ info@beatink.com ]

TICKET INFORMATION
東京公演:前売3,800YEN
BEATINK先行販売:7/11(金)18:00~
ご購入はコチラ:https://shop.beatink.com
● 先行特典「THE BUG缶バッジ」付き!

2014年9月20日(土)CLUB MAGO
※詳細後日発表

2014年9月22日(月・祝前日)CIRCUS
※詳細後日発表

※各公演共20歳未満入場不可。要写真付き身分証持参。


RHYDA (VITAL) - ele-king

都内を中心に活動するサウンドフリーク集団「VITAL」のMC。B-BOY文学でありながらパンクとも形容されるLIVEは唯一無二!必見です!
吉祥寺WARPにて「You gonna PUFF?」を不定期開催中。
今回のチャートは暑い真夏のショートブレイク!って感じのHIPHOP!汗拭いてChillin!

8/14(木)渋谷Lamafa
8//22(金) 中野Heavysick
8/31(日) COSMOS CAFÉ
9/2(火) 吉祥寺CHEEKY
9/6(土) 銀座GL
9/15(月)渋谷NEO
9/20(土) 吉祥寺WARP
9/21(日) 中目黒SOLFA

真夏のHAVE A BREAK 8/7


1
Freddie Gibbs & Madlib - High - Madlib Invazion

2
Rapsody ft. BJ The Chicago Kid - Good Good Love - Jamla

3
Ka - Every... - Iron Works Records

4
The Pharcyde - She Said (Jay Dee Remix) - Delicious

5
VOLO&KECHA ft. SunademusAnts - Ants - Vlutent Records

6
Problem Feat. T.I. & Snoop Dogg - Roll Up - HR

7
Outkast - Funky Ride - LaFace Records

8
Snoop Dogg & The Eastsidaz - Payday - DatPiff

9
ScienZe ft. Melodi J - Mid Summer Night Dream - ScienZe

10
Wiz Khalifa - Pure - Atlantic Records

Lana Del Rey - ele-king

 「サイレンの音が聞こえるの。サイレンが。彼は私を殴った。それはまるでキスのよう」とタイトル曲‟Ultraviolence”でラナ・デル・レイは歌う。
 一方、英国のフローレンス・アンド・ザ・マシーンにも‟Kiss With A Fist”という曲があり、DVを連想させると批判されたものだが、「あなたが私を殴る。私は殴り返す。あなたが私を蹴る。私はビンタをかます。あなたが私の頭の上に投げた皿が割れる。私は家に火を点ける」という歌詞のフローレンスのほうは、なにげにユーモラスでザ・スリッツみたいなパンクっぽさがある。が、ラナ・デル・レイは殴り返さないし、ビンタもかまさない。打たれても殴られても、「あなたは私のカルト・リーダー。永遠に愛している」とか言ってディオールのショウ・アイコニック・エクストリーム・マスカラをバシバシに塗ったまつ毛で虚ろにまばたきするばかりだ。
 『Born To Die』を出した後で、ラナ・デル・レイは「もう言いたいことはすべて言ったので、音楽活動はやめるかもしれない」と言った。実際、デヴィッド・ボウイのジギーだって期間限定のキャラだったのである。リズ・グラントだっていつまでもこのキャラを演じることはできないだろう。2枚目にしてラナ・デル・レイ・プロジェクトはすでにひたすら反復的だ。

 彼女の最大の悲劇は‟Video Games”をキャリアのはじまりに作ってしまったことだ。だからザ・ブラック・キーズのダン・オーバックにプロデュースを依頼したのもわかる。「もうヒップホップはいいの。私の声を最大限に活かした‟Video Games” のような曲をつくりたい」と彼女が言ったかどうかは知らないが、2作目のほうがラナ・デル・レイ決定版にはなっている。米国の田舎のバサバサした光景を髣髴とさせるギター主体のサウンドは、どこか『ツイン・ピークス』みたいだ。ラナ・デル・レイはローラ・パーマーの美しい死体を演じたかったのだろう。
 が、同じダン・オーバックがプロデュースした女性シンガーのアルバムといえば、昨年わたしの一押しだったヴァレリー・ジューンの『Pushin' Against A Stone』という名盤があり、「ザ・ブラック・キーズより良い」と言われた当該作に比べると、本作は聴き劣りがする。R&Bはアンドロイドより生身の女と親和性が高いからだろう。
 「とても退屈な人びとについて歌った、とても良く出来た楽曲群」と『ガーディアン』紙は評していたが、ラナ・デル・レイ提唱の「サッドコア」なる音楽は、ソフィア・コッポラの映画みたいだ。または、スーサイダルなパリス・ヒルトンでもいい。

 とはいえ、‟Fuck My Way Up To The Top(男とファックして成り上がった)”という収録曲について、彼女が「私はたくさんの業界の男たちと寝た。でも、現実の世界では誰も私の曲のリリースなんて助けてくれなかった」と言っているのを読んだ。いつも判で押したように重苦しい発言ばかりする彼女にしては、珍しくユーモアを感じる。
 「彼女はフェミニストではないし、あんまり深く物を考える人でもない」と『ガーディアン』紙の女性ライターが書いていたのには笑ったが、ロール・モデルになろうとし過ぎてメンタルヘルス上の問題がある人みたいになってしまう歌姫だらけのポップ界にあり、ロール・モデルになることを拒否するスタンスは新鮮ではある。
 そろそろ「サッドコア」なんてティーン狙いのマーケティングはやめて、リズ・グラントとして歌ってみたらどうだろう。リリー・アレンやレディー・ガガなどの臆病で人の良さそうなロール・モデル志願ガールズとは違い、この人はずっとしたたかでずる賢い女の声を出すのでそう思うのである(いやいやいや、褒め言葉だ)。

Traxman - ele-king

 やっぱ、いいね~、このルーピング、このサンプリング、そしてこのグルーヴ。シカゴ・ハウスだわ~。
 週末に来日DJを披露するトラックスマンだが、インタヴューで彼自身が喋っているように、彼はCorky Strongという名義でハウス・プロジェクトも手がけている。今回の来日会場で、アルバムを先行発売することになった。タイトルは、シンプルに『Corky Srrong Show Vol.1』。ブラック・ミュージックの光沢をビシビシと感じます。
 週末は、ちょっと涼しくなるかもしれないし、どうせこの暑さでは頭がまわらないし、ジュークで爆発しましょうね。それがいいす。

SOMETHINN 6 - DA MIND OF TRAXMAN VOL.2 RELEASE TOUR -

■8.8 (FRI) @ Circus Osaka
OPEN / START 22:00 -
ADV ¥2,500 / Door ¥3,000
*別途1ドリンク代500円

Guest:
Traxman (Planet Mu / Lit City / Dance Mania / GETO DJ'Z / TEKLIFE / TEK DJ'Z)

DJs:
Kihira Naoki (Social Infection)
D.J.Fulltono (Booty Tune / SLIDE)
Metome
Keita Kawakami (Kool Switch Works)
DjKaoru Nakano
Hiroki Yamamura aka HRΔNY (Future Nova)

More Info: https://circus-osaka.com/events/traxman-release-tour/

TRAXMAN JAPAN TOUR 2014

■8.9 (SAT) @ Unit & Saloon Tokyo
OPEN / START 23:00 -
ADV ¥3,000 *150人限定 / Door ¥3,500

DJs:
Traxman (Planet Mu / Lit City / Dance Mania / GETO DJ'Z / TEKLIFE / TEK DJ'Z)

DJ Quietstorm
D.J.Fulltono (Booty Tune)
D.J.April (Booty Tune)

Live Acts:
CRZKNY
Technoman

Saloon:
JUKE 夏の甲子園 <日本全JUKE連> 開催!

DJs:
D.J.Kuroki Kouichi (Booty Tune, Tokyo)
Kent Alexander (PPP/Paislery Parks, Kanagawa)
naaaaaoooo (KOKLIFE, Fukuoka)

Live Acts:
Boogie Mann(Shinkaron, Tokyo)
Rap Brains (Tokyo)
隼人6号 (Booty Tune, Shizuoka)
Skip Club Orchestra (Dubriminal Bounce, Hiroshima)
Subsjorgren (Booty Tune, God Land)

More Info:
https://www.unit-tokyo.com/schedule/2014/08/09/140809_traxman.php 


 やれやれ、編集部に怪文書が届いてしまった。
 薄気味悪くもどこかやんちゃな頼もしさをのぞかせるこの謎文体の声明文(……告知……なのか?)を、仕方がないから全文掲載いたしましょう! 四の五のいわずにパーティに来い、盤を買え、俺たちのパーティは最高だと、つまりはそういうことが書かれているようだ。先日はついに七尾旅人まで登場し、「最高のパーティのかたち」を模索して展開をつづけているジューク・パーティ〈SHIN-JUKE〉、今秋には同イヴェントのコンピレーション・アルバムもリリースされるようだ。大人とメディアが褒めるのを彼らはいやがるだろうから、ちやほやは致しません! テニヲハは直しておいてやったぜ。

 RAW LIFEの熱狂から何年経つのだろうか。

 目つきの悪い細身の男は言った。
「ついに俺たちに挑戦権が回ってきたわけだ。派手に暴れてやろうぜ」

 恰幅のいい金髪の男は言った。
「いまの東京のバンドなんて100組中100組はクソだ」

 同じく恰幅のいいモジャ毛の男は言った。
「ライヴハウスは全部エントランス・フリー/チャージ・フリーにすればいい」

 目つきの悪い男がつけ加える。
「自作のゴリラステップというダンスを見てくれ」

──彼らこそは、今秋リリースされる、ある刺激的なオムニバス・アルバムの監修者である。

 恰幅のいい金髪の男は、新宿ロフトの副店主・望月慎之輔。
──東京のJUKE/BASSシーンを牽引するパーティー〈SHIN-JUKE〉を主催。

 恰幅のいいモジャ毛の男は、〈音楽前夜社〉主宰・スガナミユウ。
──新宿〈ロフト〉にて行っている完全無料のフリー・パーティー〈歌舞伎町Forever Free!!!〉の首謀者。

 そして目つきの悪い細身の男は、Have a nice day! のリーダー・浅見北斗。
──オルタナティヴとHIP HOP・BASSミュージックをつなぐ〈SCUM PARK〉というオルタナティヴ・パーティを主催。

 先達へのコンプレックスなんて捨てて、俺たちのモッシュピットの中に真実を見つけようぜ。そう誓い合った3人は、さるレコード・レーベルに話を持ちかけた。

 このコンピレーションには、ビッグネームも大金も、大人たちによる思惑は何も収められていないけれど、LIVE SCENE・CLUB SCENE・NET CULTUREの、まさに東京のいまの空気が閉じ込められている。

 いいパーティーの条件って何だろう?
話題のアーティストが出ていること? 人がいっぱい入っていること? ドリンクがいっぱい出ていること?
 ――そのどれもが正しいようで、本質は別にある。話題のアーティストがいなかろうが、人が入っていなかろうが、最高のパーティってあるよ。
 ヴェルヴェッツの初期のライヴには人が入らなかったみたいだけど、その場に居合わせた客のほとんどが音楽をはじめたというように、記録として残らないだけで、多くの歴史は毎夜いろんな場所で生まれている。
 最高にスカムでトラッシー、その一瞬のために駆ける星のごとく輝きを放ちながら、表舞台にいっさい出ることなく活動を終えるアーティストを俺たちは知っている。パーティの最中はいつだって夢中で、あとになってあの日は特別だったんだと気づかされることばかりだ。

 FRESH EVIL DEAD、
 新鮮な死霊のはらわた。
 新しい血を巡らそう、俺たちは生まれ変わった新鮮なゾンビラーさ。

 目つきの悪い細身の男は今日も言う、
「ついに挑戦権が回ってきたわけだ。俺たちのパーティーをはじめようぜ」



NATURE DANGER GANG、SOCCERBOY、§✝§(サス)などを収録した「テン年代の新しいミュージックシーン・パーティーのいま」を捉えるオムニバス、『FRESH EVIL DEAD』が9/17に発売。8/3には七尾旅人を迎えSHIN-JUKEを開催!

■アルバム情報

V.A.
『FRESH EVIL DEAD』
2014年9月17日発売
全21曲/2000円(税抜)
P-VINE RECORDS
PCD-20345

トラックリスト
1. Laugh Song (Laugh Gorge Laugh Song by Takaakirah Ishii with Gorge Clooney) / Fat Fox Fanclub

2. Legacy Horns (JINNIKUMAN JUKE EDIT) by Nature Danger Gang / DJ Torch

3. Dentapride / §✝§

4. super sale out (double price hihgtension remix) / mirrorball inferno

5. 聖リY音ND愛FEEる/ MMEEGG!!!

6. It's Hot to See Your Face / GORO GOLO

7. Sunctuary / RAP BRAINS

8. Dive to The Bass (remix) feat. Y.I.M & Have a Nice Day! / Gnyonpix

9. BIG BOOTY BITCH / NATURE DANGER GANG

10. J.E.F.F. / Harley&Quin

11. skit

12. わんにゃんパーク / チミドロ

13. CASCADE (pro.poivre) / ALchinBond

14. Message in a Battle (DJ MAYAKU Remix) / SOCCERBOY

15. Kill Me Tonight Remix (Feat. EQ Why) / Have A Nice Day!

16. Burning Up / Ascalypso & MC RyN (Glocal Pussys)

17. Big Hip (Dubb Parade mix) / Fat Fox Fanclub

18. 干す取り込む / Y.I.M

19. フォーエバーヤング / Have A Nice Day!

20. SUMMER HITS Boogie Mann Remix / GORO GOLO

21. outro


■LIVE情報

2014年8月25日(月)
『歌舞伎町Forever Free!!!』
新宿LOFT
19:00-24:00
完全無料!!!!!

Have a nice day!
GORO GOLO
NATURE DANGER GANG
脳性麻痺号
GLOCAL PUSSYS
Y.I.M
BOOL
D.J.APRIL
DJ ののの


interview with Traxman - ele-king


Traxman
Da Mind Of Traxman Vol.2

Planet Mu/Melting Bot

FootworkJukeGhetto

Amazon iTunes

 本当に暑い。夏の真っ直中だ。少しでも身体が動けば汗が噴き出る。え? フットワークだと? 
 人生に「たら」「れば」はないが、自分がいま20歳ぐらいだったら「シカゴのフットワーク以外に何を聴けばいい!?」ぐらいのことを言っていただろう。そして、DJラシャドが逝去したとき、本気でシーンの行く末を案じたに違いない。DJラシャドは、衝動的とも言えるこの音楽に多様な作品性を与えた重要なひとりだった。
 DJラシャドの他界の前には、シカゴ・ハウスのパイオニア、フランキー・ナックルズの悲報もあった。シカゴはふたりの大物を失った。
 で、しばらくするとトラックスマンの『Da Mind Of Traxman Vol.2』がリリースされた。
 以下のインタヴューで本人が言っているように、前作『Vol.1』と同じ時期に作られたものだそうだが、マイク・パラディナスの選曲だった『Vol.1』に対して、今作『Vol.2』は自身が手がけている。ヨーロッパからの眼差しをもってパッケージしたのが前作で、シカゴ好みが全面に出ているのが今作だと言えよう。どうりで……
 豪快な作品である。笑えるほどの大胆なサンプリング使いとユニークで力強いビートは、この音楽の勢いが衰えていないことの証左でもある。圧倒的なまでにファンキーだ。
 しかも……この猛暑のなか、トラックスマンは来日する。くれぐれも充分に水分を取ってから、ギグに向かおうじゃないか。

“ゲットー”は心理状態や人格だ。住んでいる場所や経済状況ではない。ゲットー・エリアに住んでいた奴がゲットーな街を出て行っても、そいつはゲットーなままだ。ネガティヴな意味で使われがちだけど、俺はポジティヴな意味で使う。ハングリーさとかそういうメンタリティを表しているからな。


海法:〈Juke Fest〉はどうでしたか? 今回は〈Booty Tune〉のD.J.AprilとD.J.Fulltono、あとダンサーのWeezy (SHINKARON) もいました。日本人がシカゴの現地のシーンへ訪問することをどう受け止めていますか?

トラックスマン:〈Juke Fest〉は最高だったよ。日本でジューク/フットワーク・シーンを広めてるDJやダンサーがジュークのメッカ、シカゴに来てくれた事は物凄く意義があったと感じている。シーンの現状を見せることが出来たし、彼らをシーンのパイオニアであるJammin' GeraldやDJ Deeon、X-Rayとか若手のSpinnやK.Locke、ダンサー集団のThe Eraに紹介することも出来たし、双方にとって素晴らしい機会になった。〈Dance Mania〉の本社にも連れて行ったよ。

DJラシャドの死についてまずはコメントをください。彼を失ったことはジューク/フットワークのシーンにおいて、どのような意味を持っているのだと思いますか?

トラックスマン:ラシャドの死についてコメントするのは本当に難しいな……。シカゴにはラシャドをDJとしてだけでなく、個人的に親しくしていた人もたくさんいたから彼の死はとても衝撃的だった。実際に会って話をして、彼を『DJ Rashad』ではなくひとりの人間として接すると、本当に素晴らしい人間だということがすぐにわかるし、そういう人たちにとってのショックは計り知れない。彼を失ったことは非常に残念だけど、彼がこの世を去った後もシカゴのプロデューサーやダンサーはかならずこのシーンをさらに世界中に広めようと心に誓っている。

少し前にフランキー・ナックルズが亡くなり、DJラシャドまで亡くなるというのは、シカゴ・ハウスの歴史を知るあなたにとって重い出来事だったと思います。

トラックスマン:そのふたりが亡くなったのは1か月も離れていないんだ。ラシャドとは17〜8年の付き合いだったので、本当の親友を失ったと感じているよ。フランキーの死に関しては、シカゴ全体がショックを受けたニュースだった。ハウス・シーンを最初期から見ている古い世代がもっともショックを受けていると思う。もちろんそれはシカゴに限ったことではなくて、世界中のハウス・ミュージック好きにショックを与えた出来事さ。いい出来事も、悪い出来事も、受け入れなくてはならない。

いまはジューク/フットワークのシーンは日本にも広がっているときだったので、彼の死はとても残念でした。とくにDJラシャドは音楽的な才能に恵まれた人だったし、あなたとはもう古い付き合いだったと思います。ぜひ、彼と出会った頃の話を聞かせてください。

トラックスマン:日本にジューク/フットワーク・シーンがここまで広まったのは本当に素晴らしいことだ。今度の来日も出来る事なら1ヶ月くらい滞在したいよ。
 ラシャドに出会ったのは、1997年か98年のことだな、あるパーティでRP Booに紹介されて初めて会った。その後しばらく会わない時期があったけれど、仲が悪かったわけでは決してなくて、DJでお互いの曲をプレイしていたりもした。2004年に再開して、そこからは完全に意気投合して、シカゴのウェストサイドで「K-Town 2 Da 100'z」というミックステープを俺とラシャド、スピンの3人でリリースしたりもした。その頃ラシャドとスピンはDJ Clentの〈Beat Down〉クルーに所属していたんだけど、それを抜けて俺を含めた3人で〈Ghettoteknitianz〉クルーを始動させた。そこから新しい時代が幕を開けたと言っても過言ではない。もちろん当時は俺らのやってる音楽がここまで大きなものになるなんて誰も予想すらしていなかったけどね。

あなたは子供の頃からディスコ、初期ハウス、ガラージ・ハウスを知っているし、そしてロン・ハーディのDJも知っています。そして、シカゴ・ハウスがミニマルでクレイジーな方向、ビート主体で、テンポも速いゲットー・ハウスへと展開していった過程も知っていますよね。先ほども言いましたが、シカゴの歴史を知っているひとりですが、まずはあなたにハウスを定義してもらいましょう。ハウスとは……何でしょう?

トラックスマン:ロン・ハーディをもの凄くリスペクトしているし、フランキー・ナックルズも尊敬してる。だが、彼らがシカゴのクラブでプレイしていた1983〜85年くらいの時期は、まだ俺は10歳くらいの子供で、クラブに行くことすら出来なかった。音楽の情報源はもっぱらラジオだった。ロンやフランキーのプレイを見ることが出来るようになったのはもう少し歳をとってからだ。
 これは本当に世に知られてないことだけど、俺らの世代のDJはみんなWBMXというラジオ局を聴いて、ハウス・ミュージックの洗礼を受けたのさ。俺は当時WBMXでDJをしていたKenny Jammin Jason、Scott Smokin Silz、そしてFarley Jackmaster Funkのプレイを聞いてハウスを学んだんだ。彼らのことは本当に死ぬほど愛しているし感謝しているよ。彼らラジオDJの存在がなければ、いまのシカゴにここまで多くのDJやプロデューサーがいる状況は生まれていなかっただろう。
 俺より上のロンやフランキーの時代にクラブに行ってた世代は、クラブで流れる曲に注目しただけで、DJのスキルやミックスのテクニックに注目はしていなかった。だがラジオDJは違った。例えば1曲かけるだけでも最初にインストゥルメンタルをかけて、じょじょにヴォーカル入りのヴァージョンにミックスして、そのあとダブミックスのブレイク部分をかけるなどして、ミキシングで展開を作った。俺らはそのスタイルにとても影響を受けている。
 ハウス・ミュージックの歴史に関しては、ラジオDJが後の世代にいかに大きな影響を与えたかなどの重要な情報は、シカゴの街から外に出ることは無かった。ハウス・ミュージックは70年代後半に生まれたと言う人もいるけど、現在も受け継がれているハウス・ミュージックのスタイルが誕生した本当のスタートは、1985年だ。その年にChip Eがリリースしたレコードに"House"(85年発表の「Itz House」)、そして"Jack"(同じく85年の「Time to Jack」)という言葉が初めて使われた。ちなみにChip Eは、十数年前に日本に引っ越して、いまも住んでいるよ。シカゴに戻りたくなくなったのかもね(笑)。
 俺にとってハウスは、キックとスネア、サンプルで構成されたとてもシンプルなもの。それのスタート、そして現在のハウスのスタイルの元となったものの誕生が1985年、とても重要な年だ。俺はハウス・ミュージックについての正しい知識と知識を広めるのが宿命だと思っている。そのためにCorky Strongという名義でも活動している。昔のことを知らないで、良い方向で未来に向かって行くことは難しいからね。
 シカゴは昔から、それこそアル・カポネの時代からとても閉鎖的で、隔離されていて、それでいて自分たちのテリトリーを重要視する街なんだ。ゲットー・ハウスもジュークもフットワークもシカゴではまったくリスペクトされていないのが実際のところで、地元で力のある多くのベテランDJやラジオ、テレビはまったくピックアップしない。インターネット上で盛り上がってるだけだ。これは本当に根深く大きな問題だ。自分たちの街で、自分たちに当てられるべきスポットライトが当たった試しがない。インターネットは比較的最近の媒体で、いまだに多くの人びとはラジオやテレビで新しい音楽と出会っている。なのにそれらのメディアが取り上げてくれないと広がりようがない。俺たちの作った音楽がいつの間にか海を渡って、日本やその他の国で愛されていることを知ったのもつい最近のことだ。いつも海外での評価の方が地元の評価より高いのさ、例えばジミ・ヘンドリクスがアメリカを出てヨーロッパで評価されるまでは、アメリカでまったくと言っていいほど評価されていなかった。それと似た感じだな。このあいだ日本のフットワーカーのWeezyがシカゴに来たとき、ゲットーのレストランでフットワークを披露したんだけど、地元の人間は本当に驚いた。フットワークのダンス・カルチャーが世界に広がってるなんて想像もしていないかったからね。


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俺より上のロンやフランキーの時代にクラブに行ってた世代は、クラブで流れる曲に注目しただけで、DJのスキルやミックスのテクニックに注目はしていなかった。だがラジオDJは違った。例えば1曲かけるだけでも最初にインストゥルメンタルをかけて、じょじょにヴォーカル入りのヴァージョンにミックスして、そのあとダブミックスのブレイク部分をかけるなどして、ミキシングで展開を作った。


あなたがハウスにハマった理由について教えて下さい。

トラックスマン:いい質問だな。最初にChip Eの「Itz House」を聞いたときは全然好きになれなかったんだ。いまは大好きだけどね。同時期にChip Eが発表した「Time to Jack」がハウスにハマった大きなきっかけのひとつだな。電子的なシーケンス・パターンに完全にやられたよ。
 その前年にJesse Saundersが「On and On」を発表して、リズムマシンを使ってファンクを表現するスタイルを確立した。初期のハウスはTR-808リズムマシンのサウンドが多く使われていたんだけど、808のドラム・サウンドに本当に虜になった。その後1987年にハウス・ミュージックのサウンドに変化が見えはじめた。TB-303を用いたアシッド・ハウスが登場して、そのサウンドにも夢中にさせられたね。当時ちょうどティーンネイジャーだった俺は、ロン・ハーディらがDJしていた〈ファクトリー〉に遊びに行きだした。いまでも仲がいいHouseboyって友人とよく一緒に遊びに行っていたよ。〈ファクトリー〉はシカゴのウエストサイドにあったティーンのクラブで、Jammin Geraldとかがプレイしていた。
 あるとき〈ファクトリー〉で遊んだ帰り、夜中の2時くらいにHouseboyが「サウスサイドのクラブに行ってみよう」と誘ってきて行ってみたんだ。そこではロン・ハーディがDJしていて、初めてドラッグ・クイーンとかゲイのパーティ・ピープルを見て衝撃受けた。ロン・ハーディーは選曲のセンスはパワフルで人を引き付ける物があった。だけどDJとしてのテクニックはいまひとつだと感じたのを覚えてる。そのサウスサイドのクラブで流れていたのは、メロディやハーモニーが重視されたキレイ目な楽曲が多かった。いっぽうウエストサイドではビート重視でリズムマシンが多用された電子的な、さっき出たChip Eの楽曲のようなスタイルが好まれた。同じハウス・ミュージックでも、サウスがハウス・クラウド(客)、ウエストがビート・クラウドという風に言われていて、同じ市内でもビート系とハウス系ではまったく違うシーンだったよ。俺はもちろんビート・クラウドさ。

どうしてあなたは、ゲットー・ハウスの流れの方に進んだのでしょうか? たとえばディープ・ハウスではなく、ゲットー・ハウスの側に惹かれた理由を教えて下さい。

トラックスマン:最大の要因はまわりの人間だな。俺がいまでも住んでいるウエストサイドの人間、みんなビート系ハウスの流れを組んだゲットー・ハウスが好きだった。もちろん自分でも好きだったけど、パーティに遊びにくる人たちも、まわりのDJもみんなゲットー・ハウス好きだった。まわりの人たちを喜ばせるためにもゲットー・ハウスに進んだのは自然な流れだったね。80年台後半から90年代初頭にはハウス・ミュージックはシカゴでは落ち着いてしまって、ヒップホップの時代に突入した。そのかわりハウスは、世界中に波及して、当時シカゴを盛り上げていた尊敬していた先輩DJはイギリスやヨーロッパの国々に行ってしまった。
 ヒップホップが勢いを増すなか、シカゴに残ったプロデューサー、Armando、Steve Poindexter、Robert Armani、Slugo、Deeon、そして俺なんかは、ラジオでもすっかりプレイされなくなってしまったハウス・ミュージックを作り続けていた。つまり、ハウスはストリートに戻ったってことさ。その頃は400〜500ドルくらいの少額な契約金でレコード契約を地元レーベルと結んでいた、何より作品を発表し続けたかったからね。その頃から考えるといまの現状は考えられないね。

Traxmanを名乗ったのも、〈TRAX〉ものが好きだったからですよね?

トラックスマン:良くわったね。その通りだよ。〈TRAX〉レーベルから出ていた楽曲は的を得ていたというか、何か俺に語りかけているような魅力があったんだ。DJをやりだした頃はDJ Corky Blastっていう名前で、そのあと90年頃からDJ Jazzyっていう名前だったな、Jazzy Jeffが好きだったからね。93年頃にTRAXMANと名乗りだしたんだ。93年ごろにPaul Johnsonと知り合った。彼は銃で背中を撃たれた直後で車いす生活を余儀なくされたばかりだった。同時期にTraxmenメンバーのEric Martinと親しくなり同じくTraxmenのメンバーとして活動していたGant-manを紹介された、当時まだ13〜4歳の子供だったよ。仲間が増えてきた矢先に、俺たちの活動の場だったウェストサイドの〈ファクトリー〉が火事で焼失してしまい、〈ファクトリー〉の歴史は急に終わってしまった。その直後からJammin Gerald、DJ FUNK、Paul Johnsonなどがレコードをリリースしはじめて、その流れに乗って俺もリリースをはじめた。
 同時期にサウスサイドのDJ/プロデューサーの噂が耳に入るようになってきた。DJ Deeon、Slugo、Miltonとかだ、サウンドを聞いたら彼らは最高にイケてたよ。ちょうどこの時期が85年以降のハウスのオリジネーターとゲットー・ハウス世代の世代交代の時期だったな。その頃はギャング抗争がもの凄く激しくて、ストリートはとても危険だった。俺たちは音楽に救われていた、音楽にハマっていなかったらギャング抗争に巻き込まれて、殺されていてもおかしくなかったからな。実際に殺されてしまった友人もたくさんいる。音楽が俺を救ってくれたから、いまシカゴでくだらない争いに巻き込まれている若いヤツらだって、音楽に救われることが出来るんだということを伝えていきたいと本気で思っている。

DJとして活動するのは何年からですか?

トラックスマン:1981年だね。

DJ以外の仕事はしたことがありますか?

トラックスマン:それもいい質問だ。むかし、1989年から1年ちょっとのあいだ地元のトイザラスで働いて、それ以外の仕事は全部音楽に携わる仕事さ。レコード屋で働いたり、〈Dance Mania〉のディストリビューションの手伝いをしたりしてた。

あなたが〈Dance Mania〉からデビュー・シングルを発表するのは、1996年ですが、自分でトラックを作るようになったきっかけは何だったのでしょうか?

トラックスマン:俺の原点ともいえる初期のハウス・ミュージックに大きく影響されている。アシッド・ハウスも好きだったけど、ビートやシーケンスが強調されたスタイルがやはり好きで、作曲に関してはそれにもっとも影響を受けているな。〈ファクトリー〉でJammin Geraldがプレイしていたり、ラジオで流れていたSleazy Dの“Lost Control"を聴いて、俺もトラックを作ってみようと決めた。Adonisの“No Way Back"っていう曲もかなり影響を受けたな。
 当時は近所にリズムマシンを持っている人が本当に少なくて、87年か88年ごろにSlick Rick Da Masterと知り合い、彼がチャック(=DJ FUNK)を紹介してくれた。リズムマシンを持っていたのは、そのふたりだった。Fast Eddieも割と近所に居たけど、彼はヒップ・ハウスが流行ってきて忙しくなってきた頃だから全然会えなかった。当時はレコードはたくさん持っていたけど、リズムマシンは持っていなかったんだ。DJ Raindeerっていう仲間がいたんだけど、そいつは逮捕されしまって今度はそいつの弟とよく遊ぶようになって、ある日「俺、実はリズムマシンもターンテーブルも持ってるよ」と言ってきたんだ。その頃、DJ FUNKも近所に越してきていて、俺のターンテーブルとFUNKのカシオRZ-1を交換した。ついに機材が揃ったから曲作りが出来るようになった。そこからは夢中になって、トラック制作に取り組んだね。DeeonとかGantmanとかサウスサイドの連中ともどんどん仲良くなって、ゲットー・ハウスシーンが広がっていった。

「Westside Boogie Traxs - Vol I」を出してから、「vol.2」はいつ出たんですか?

トラックスマン:Vol.2はフランスの〈Booty Call〉から2012年に発表したよ。1と3は〈Dance Mania〉だね。

90年代末から2000年代の最初の10年前、あなたはとくに目立った作品のリリースはしていませんが、それは何故でしょうか?

トラックスマン:コンスタントに曲は作っていたんだけど、〈Dance Mania〉も止まってしまい、発表の場が無くなった。デトロイトのDJ Godfatherがそのあいだの時期にシカゴのアーティストの作品をリリースしていたが、俺は彼とはあまり繋がっていなかったからな。それからじょじょにフランスの〈Moveltraxx〉みたいなレーベルから声がかかるようになって、自分の作品を発表する場が出来てきた。

ゲットー・ハウスがどんどん発展して、音楽的に独創的になり、ジュークが世界的に認知されるまでのあいだ、シカゴのシーンはどんな感じだったのでしょうか?

トラックスマン:シーンはあったんだけど、前後の時期ほど盛り上がってはいなかったね。なんとなく続いていた感じかな。

ちなみにシカゴでは、いつぐらいからヴァイナルではなくファイルへと変わっていったのでしょう?

トラックスマン:それは他の連中がPCでDJをはじめて時期と一緒くらいだよ。2000年代半ば頃から、ちらほら増えだしたな。俺は筋金入りのヴァイナル・フリークでターンテーブリストだけど、昔からテクノロジーも好きだから、いまはPCも使っているよ。PCDJを否定する連中もいるけど、彼らはテクノロジーをどこか恐れている部分がある気がする。


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初期のハウス・ミュージックに大きく影響されている。アシッド・ハウスも好きだったけど、ビートやシーケンスが強調されたスタイルがやはり好だ。Sleazy Dの“Lost Control"を聴いて、俺もトラックを作ってみようと決めた。Adonisの“No Way Back"にもかなり影響を受けたな。


Traxman
Da Mind Of Traxman Vol.2

Planet Mu/Melting Bot

FootworkJukeGhetto

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2012年の『Da Mind Of Traxman』以来のセカンド・アルバム、『Da Mind Of Traxman vol.2』は、相変わらず勢いのある作品で、ビートがさらにユニークになっているし、カットアップもより大胆になっているように感じました。

トラックスマン:実は『Vol.2』も『Vol.1』も収録楽曲はほぼ同時期に作られている。もちろん新しい曲も収録されているけどね。いちばんの違いは、前作は〈Planet Mu〉が楽曲をチョイスした楽曲しているが、今作のほとんどは俺が選曲したってことだ。もちろん前作も気に入っているけど、今作の方が実験的な曲を収録出来たし、気にっているよ。

ジャングルからの影響はありますか? 15曲目の“Your Just Movin”など聴くとそう思うのですが。

トラックスマン:言われてみればそう聞こえるかもな。良いところをついてくるな。とくにジャングルを意識して作ったわけではないよ。さっきも言ったように、今作は本当に実験的なアルバムだから、かなり珍しいサンプルとか、変わったネタ使いをしているというだけ。

ジューク/フットワークはダンスのための音楽なわけですが、あなたはアルバムというものをどのように考えていますか?

トラックスマン:アルバムは俺の子供みたいなものだ、1曲1曲に俺の好きなアイディアを詰め込んであるし、自分の子供たちを世に送り出すような感覚だね。

よりテンポを落として、ハウスやテクノとミックスしやすいようにしようとは考えませんか?

トラックスマン:それは別名義のCorky Storngでやっているよ。トラックスマンはジューク/フットワークの名義だ。それにDJをやるときは160BPMからはじめることはまずない。いきなり160から入ったら、あまりに窮屈だからね。最初は比較的ゆっくり、128BPMくらいからはじめて、じょじょに上げていくのが俺の基本スタイルかな。

クイーン、クラフトワークなど、大ネタを使っていますが、サンプリングのネタはどのようにして探しているのですか?

トラックスマン:サンプルは俺の家にある音源と親友のX-Rayのレコード・コレクションから選んでいる。X-Rayは本当に凄いコレクターで、彼のコレクションはまさに“Mind of Traxman"だよ。使うサンプルを探してるときはいろいろなレコードを聴いて、気に入るサンプルを見つけるまでひたすらアイディアを巡らせている。気に入った部分を見つけたら部分的に保存しておいて貯金するようにためておくんだ。

あなたにとって「getto」とは、どんな意味が込められていますか? 人はそれをネガティヴな意味で使いますが、あなたはこの言葉をなかば前向きに使っているように感じます。

トラックスマン:gettoは心理状態や人格だ。住んでいる場所とか経済状況ではない。ゲットー・エリアに住んでる奴がいるとして、そいつがゲットーな街から引っ越して出て行っても、そいつはゲットーなままだ。ネガティヴな意味で使われがちだけど、俺はポジティヴな意味で使う。ハングリーさとかそういうメンタリティを表している。ちなみに俺はG.E.T.O. DJzっていうDJクルーに入っているんだけどそれは"Greatest Enterprise Taking Over"(制圧する最高の企業)の略だ。

ゲットー・ハウスは、このままワイルドなスタイルを貫くのでしょうか? それとも音楽的に成熟する方向を目指すのでしょうか? あなたは未来についてどう考えていますか?

トラックスマン:俺たちシカゴの人間、そして世界中のゲットー・ハウス、ジューク/フットワークのプロューサーがいる限り、音楽のスタイルは変わらない。進化は続けるけれど本質が変わることはないよ。

海法:まもなく日本でのツアーが始まりますがその意気込みをきかせて下さい。

トラックスマン:日本にまた行けるのを本当に楽しみにしている! 嬉しくて、フットワークが踊れたらこの場で踊ってしまいたいくらいだ! 前回よりも絶対に最高の内容になるのは保障する! 是非見に来てくれ!



Da Mind Of Traxman Vol.2 Release Tour 2014 In Japan




数多くの逸話を残した衝撃の初来日から2年。80年代シカゴ・ハウス、90年代ゲットー・ハウス、そして00年代ジューク、シカゴ・ゲットーの歴史と共に30年以上のキャリアを誇るシカゴ・マスター、 Cornelius Ferguson (コーネリアス・ファーグソン)こと Traxman (トラックスマン) aka Corky Strong (コーキー ・ストロング)が最新アルバム『Da Mind Of Traxman Vol.2』を携えて待望の帰還!

ツアー会場先行 & 限定特価でTraxmanのハウス名義Corky Strongでの日本限定来日記念盤CDのリリースやオリジナルのTシャツの物販も要チェック!

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SOMETHINN 6 - DA MIND OF TRAXMAN VOL.2 RELEASE TOUR -
■8.8 (FRI) @ Circus Osaka
OPEN / START 22:00 - ADV ¥2,500 / Door ¥3,000 *別途1ドリンク代500円

Guest:
Traxman (Planet Mu / Lit City / Dance Mania / GETO DJ'Z / TEKLIFE / TEK DJ'Z)

DJs:
Kihira Naoki (Social Infection)
D.J.Fulltono (Booty Tune / SLIDE)
Metome
Keita Kawakami (Kool Switch Works)
DjKaoru Nakano
Hiroki Yamamura aka HRΔNY (Future Nova)

More Info: https://circus-osaka.com/events/traxman-release-tour/

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TRAXMAN JAPAN TOUR 2014
■8.9 (SAT) @ Unit & Saloon Tokyo
OPEN / START 23:00 - ADV ¥3,000 *150人限定 / Door ¥3,500

DJs:
Traxman (Planet Mu / Lit City / Dance Mania / GETO DJ'Z / TEKLIFE / TEK DJ'Z)

DJ Quietstorm
D.J.Fulltono (Booty Tune)
D.J.April (Booty Tune)

Live Acts:
CRZKNY
Technoman

Saloon:
JUKE 夏の甲子園 <日本全JUKE連> 開催!

DJs:
D.J.Kuroki Kouichi (Booty Tune, Tokyo)
Kent Alexander (PPP/Paislery Parks, Kanagawa)
naaaaaoooo (KOKLIFE, Fukuoka)

Live Acts:
Boogie Mann(Shinkaron, Tokyo)
Rap Brains (Tokyo)
隼人6号 (Booty Tune, Shizuoka)
Skip Club Orchestra (Dubriminal Bounce, Hiroshima)
Subsjorgren (Booty Tune, God Land)

More Info:
https://www.unit-tokyo.com/schedule/2014/08/09/140809_traxman.php

Gr◯un土 (Chill Mountain / 御山EDIT) - ele-king

○S△K△生まれ古墳郡育ち。
今年10祭の誕生日を迎える大阪奥河内発のSoundCampParty (CHILL MOUNTAIN)主謀者。
全国各地大小様々なCLUB、BAR、CAFE、野外PARTY、はたまたTV塔展望台など DJをツールにレコードと供に年100回以上巡業するOSAKA UTORI世代DJ。
大阪十三に四年間存在した幻しのDJ喫茶ChillMountainHutteを運営&プロデュース。

楽曲制作も行い
“御山△EDIT a.k.aTHE△EDIT”名義でUK.MAGICWAND(UK)からの2枚の12inch.
ROTATING SOULS(US)からの1枚の12inch.
absolute timeとのスプリット12INCH(ChillMountainEp).
7枚のMIXCD.
FEELBACKRECからの計3枚のコンピCDにオリジナル楽曲を提供(ドイツのケーブルTVで使用放送される).
昨年ChillMountainRecより関西奇才19組大集合となるコンピCD(ChillMountainClassics)をプロデュースするなど活動、仕掛け、発想は多義にわたる。
只今チルアウト&アンビエント&ニューエイジに焦点をあてたNEW MIX(Koyabient)を発売中。
今年のCHILL MOUNTAINは9月20日~23日の4日間、河内長野荒滝キャンプ場にて開催。


1
Late Night Tuff Guy - Edits - Razor N Tape (US)

2
Damiand Von Erckert - Giant Pandas And Other Nice Things In Life - AVA

3
Africaine 808 - Lagos, Newyork - Golf Channel

4
John Wizards - Muizenberg - Planet MU Records LTD

5
Clap! Clap! - Tambacounda EP - Black Acre

6
Men In Burka - Techno Allah - Robot Elephant Records

7
Butric - UP - Sei Es Drum

8
Passavanti - Afro Boogie Super Hombre (Full) - Sunlightsquare

9
Chill Mountain Classics - V.A - Chill Mountain Rec(JPN)

10
The△Edit - Magic Wand Vol.5 - Magic Wand

Morrissey - ele-king

 Swaggerという言葉がある。
 英和辞書には「威張って歩く」とか「ふんぞり返って歩く様」とか書かれている。が、わたしがSwaggerという言葉を聞いて連想するのは、リングに入場する時のボクサーの姿だ。肩をいからせ、ゆらりと相手を威嚇しながら歩くボクサー。
 Swaggerという言葉を思い出したモリッシーのアルバムが、これまでに2枚あった。
 『Vauxhall & I』と『You Are The Quarry』である。で、『World Peace Is None of Your Business』は3枚目にあたる。どこからでもかかって来やがれ。と、にやにや笑いながら崖っぷちに立っているようなSwaggerを感じるのだ。
 なぜだろう。誰もが不安になってライトウィングにレフトウィングに文字通り右往左往しているこの時代に、モリッシーは力強くなっている。

            ++++++++++

 『World Peace Is None of Your Business』という象徴的なタイトル(アベ政権下の日本でもそうだろうが、イラク戦争の合法性が再びクローズアップされ、ブレア元首相が連日メディアに叩かれている英国でだって壮大な嫌味に聞こえる)の本作は、音楽的には灰色の英国を歌うモリッシー・ワールドから完全に剥離している。強烈にカラフルなのである。
 スペインのフラメンコ・ギター、トルコ音楽のコブシ、ポルトガルのアコーディオンとピアノの絡み。などを随所に織り込み、ヨーロッパ大陸万歳!みたいなサウンドになっているので、ユーロヴィジョン・ソング・コンテストを見ているような感覚にさえ陥る(そらピッチフォークは嫌うだろう。ははは)。しかし、アンチEUの右翼政党UKIPが勢力を伸ばしている英国で、モリッシーがここまでヨーロピアンなサウンドを打ち出してくるとは面白い。
 が、これは単なる偶然だろう。というのも、このアルバムを作っていた時点で、モリッシーが2カ月前のEU議会選と地方選で起きたUKIPの大躍進を予想していたとは考えづらいし、過去にはモリッシー自身がUKIPのシンパであることを表明したこともあったのだ。
 けれども2014年7月にこのアルバムを聴くと、UKIPの大躍進や排外主義に対するアンチ・ステイトメントに聞こえてしまう。
 ラッキー・バスタード。
 とは言いたくないが、周期的にモリッシーにはこういう時期がくる。彼自身が言っていることは30年間まったく変わってないのに、英国の歴史のほうで彼を痛切に必要とする時期があるのだ。
 で、もちろんモリッシーはそのことをよく知っている。だからこそ本作にはSwaggerがあるのだ。

            ++++++++++

 世界平和なんて知ったこっちゃないだろう
 決まり事に腹を立てちゃいけない
 懸命に働いて、愛らしく税金を払え
 「何のため?」なんて訊いちゃいけない
 哀れで小さい愚民
 ばかな愚民
World Peace Is None of Your Business

 モリッシーが「人類は仲良くすることはできない」、「基本的に人間は互いが大嫌いだ」といった発言をする時、英国人は笑う。みんなそう思っているからだ。思っちゃいるが、だけど何もそこまで言わなくても。といったおかしみを感じるので笑ってしまうのだ。モリッシーのユーモアの本質はそこにある。
 正義だ平和だイデオロギーだと大騒ぎして喧嘩している貴様ら人間自体が、そもそも何よりくだらない。といった身も蓋もないオチが彼は得意だ。
 が、第二次世界大戦でもイラク戦争でもいい。戦争をはじめたのは、独裁者でも政府でも首相でもなかったのだ。その気になって「やったれ!」、「いてこましたれ!」と竹槍を突き上げはじめた一般ピープル(モリッシー風に言うなら、ばかな愚民)だった。そして、もし仮にまた戦争があるとすれば同じ経緯で起こるだろう。

 モリッシーが政治を歌う時は凄まじい。それは、例えばU2のように人差し指を振りながら「これはいけません。ノー、ノー、ノー」とシャロウな説教をするのではなく、人間の根源的な醜さや絶望的なアホさといった深層まで抉ってしまうからだ。

            ++++++++++

 「歌詞という点でいえば、モリッシーと同格に並べられるのはボブ・ディランだけ」
 と言ったのがラッセル・ブランドだったかノエル・ギャラガーだったか、はたまたブライトンの地べた民だったかは思い出せない。ずっとこういう英国人のモリッシー礼賛には反抗してきたのだが、「僕たちはみんな負けるー」と50代半ばの男が反復する“Mountjoy”を聴いていると妙な気分になってきた。

 Swaggerは内側の怖れを隠すため
 このルールによって僕たちは息をつく
 そしてこの地球上には
 去ることが悲しいなんて思う人間はいない
Mountjoy

 この人はディランのように60になっても70になってもポピュラー・ミュージック界の老獪詩人として疾走を続けるのかもしれない。
 米国にボブ・ディランがいるように、英国にもスティーヴン・パトリック・モリッシーがいた。とわたしにも思えるようになってきてしまった。
 (後者は間違ってもノーベル賞候補にはならないだろうが)

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