「Re」と一致するもの

Soundwalk Collective & Patti Smith - ele-king

 実験音楽やエレクトロニック・ミュージックを軸にこれまでさまざまなイヴェントを開催してきたMODE。昨年のスティル・ハウス・プランツとgoatのライヴもたいへん刺激的な一夜だったので、2025年はいったいどんな公演が控えているのか、気になっていた方も少なくないでしょう。そんなMODEの新たな一手が明らかになっている。驚くなかれ、パティ・スミスが来日します。
 これまでゴダールやナン・ゴールディンといった巨匠たちとコラボレイトを重ねてきた音響芸術集団サウンドウォーク・コレクティヴとの共演で、両者はすでに10年以上にわたり共同制作をつづけてきている。今回はその最新プロジェクト「コレスポンデンス」のお披露目ということで、展覧会とライヴの2形式。前者は東京都現代美術館にて4月26日からスタート、後者は京都(4月29日@ロームシアター京都)と東京(5月3日@新国立劇場)で2公演が催されます。これは即完の予感がひしひし。いますぐ下記詳細を確認しておきたい。

[3月28日追記]
 上記のサウンドウォーク・コレクティヴ×パティ・スミスの東京公演、好評につき完売となっていましたが、追加公演が決定しています。東京公演の前日、5月2日(金)におなじく新国立劇場 オペラパレスにて開催。最速先行販売(先着)はイープラスから。

Ethel Cain - ele-king

 エセル・ケイン『Perverts』。2025年1月のリリース以来、ほとんどこのアルバムばかり聴いていた。取り憑かれていたと言っても過言ではない。そう、このアルバムの音響には、人を「取り憑かせる」力がある。闇世のノイズが「世界」を切り裂き、呪う。そんなサウンドだった。私は「現実」を拒むように、そしてこの「現実」を予言するかのようなノイズの闇に埋もれるように、耳を澄ませていた。世界が帝国主義化していくなかで、それに対するアゲインストとして、ゴシックや魔女の概念が復活する──、そんなこの時代を象徴するアルバムに思えた。

 エセル・ケインは1998年生まれ、フロリダ出身のシンガーソングライター/音楽家である。前作『Preacher’s Daughter』は2022年にリリースされたアルバムであり、南部ゴシックに焦点を当てた歌詞とともに、ダークなフォークやドゥームゲイズの系譜に属する作品だった。リリース当時、ネット上の音楽マニアたちから称賛を受けていたことを覚えている。しかし、約3年を経てリリースされた『Perverts』では、楽曲もサウンドも大きな変化を遂げていた。前作以上に実験的な音響を探究・追求した作品に仕上がっていたのだ。よりダークに。より幽玄に。より深く。より静寂に。より不穏に。より強い怒りと共に。まるで冥界から響く音、ノイズ、声のような音響作品とでも言うべきか。『Perverts』は、2024年という「最悪の始まりの年」を終え、やがて訪れるであろう、この世界の不穏「すべて」を予言するかのごときアルバムである。

 私はここしばらく、本作を聴きながら、C・リンドホルムの『カリスマ』(ちくま学芸文庫・森下伸也訳)を読んでいた。「集団の狂気、あるいは集団形成の核に存在する特異な人格的威力=カリスマ」を詳細に分析するこの書物(原書は1990年刊)は、20世紀の「問題」を浮き彫りにしつつも、21世紀の世界の不穏そのものが、実はこの「カリスマ」という問題にすべて帰結するのではないかと思わせるものがあった。現・米国大統領の野蛮極まる振る舞いに支持が集まるのも、まさに「集団の狂気、あるいは集団形成の核に存在する特異な人格的威力」の表れといえるかもしれない。集団。狂気。熱狂。強烈な力で排除と選別が行われてしまう場。ことに闇と真夜中の世界に生きる芸術家は、この集団的熱狂においてことさらに排除されやすい存在だ。少なくとも、米国においてマイノリティの立場が、明朗な排他主義のもとで危機的状況にあることを想像するのは、決して難しくない。

 エセル・ケインの音楽は、そんな「明朗な排除」に対して否を突きつける。何によって? そう、霞んだノイズと消えそうな声によって。闇世の音楽によって。怒りは静謐な静寂の中でナイフのように研ぎ澄まされ、深く世界の底に沈殿していく。ケインが世界を覆う「力」に強い怒りを抱いていることは、そのSNS上の、いささか問題含みの発言からも読み取れる。自身の実存が無理解によって否定されることへの強烈な怒り。しかし、重要なのは、音楽家としてのエセル・ケインがその怒りを、冥界の向こう側へと融解させることで、まるで真夜中の世界の底に沈む塵や霧のように、静謐な怒りへと変換している点にある。「わたしの、この実存」を否定する連中には、あの世の向こうから刃を光らせてやる。そんな意志が、この音楽にはみなぎっている。だからこそ、すべてが「幽霊」のように変化していく。怒りそのものではなく、怒りの記憶によって、この世を漂う幽霊のように。

 アルバムは全9曲、計1時間29分に及ぶ。音楽的にはドローンと声を中心としたアルバムといえる。実験的なドローン+声のようなトラックと、声とピアノによるボーカル曲が収録されている。個人的にはドローン曲の方にとても惹かれた。1曲目“Perverts”は本作特有のコンポジションを聴けば分かるが、そのドローンは意識を没入させるような持続音ではなく、むしろ聴き手の感覚を突き放すようなコンポジションがなされていた。私見ではどこかミカ・ヴァイニオのソロ作品で聴かれるような切断と持続の音響作品に思える。持続される音が突如切断され別の持続に接続され、そしてやがて消える。それは陶酔と熱狂による世界に向けて「幽霊」からの一撃のような静謐な持続音なのだ。先に「取り憑く力」がこのアルバムにはあると書いたが、一方で冷徹に聴き手の感覚を断ち切るようなコンポジションがなされている。急激な切断と接続。あれは聴き手の意識を覚醒させるというより、別の闇から別の微睡へとシーンへと強制的に変化させるために思えた。陶酔の拒否。それが本作のエクスペリメンタルサイド、ドローンサイドの楽曲の特徴だ。2曲目 “Punish” はピアノを主体とするSSW的なボーカル曲である。ミニマルなコード展開に幽玄なケインのボーカル。あえて言えばどこかグローパーを思わせる楽曲である。シルキーにして、悲しく、しかし美しい。まるでこの世の悲哀そのものたろうとするようなケインの声に揺さぶられる。

 3曲目 “Housofpsychoticwomn”にも惹かれた。まるで深海を彷徨うような音響だ。反復するミニマムなノイズ。微かな声。霞んだ音響が13分も続く。いわば意識の底で遡行するような感覚とでもいうべきか。4曲目“Vacillator”は再びボーカル曲だ。ゆったりとした刻まれるリズムの上、よりメロディが明快となった曲をケインが歌う。この曲にだけ不思議な穏やかさがあるように感じられた。次第に折り重なっていくような声の響きが感動的である。5曲目 “Onanist” はミニマルなピアノに透明な霧のような声とドローンがレイヤーされていくトラックだ。“Vacillator”を受け継ぎつつ、どこか微かな光を感じさせてくれる曲といえよう。

 6曲目 “Pulldrone” は一転して漆黒の音響世界を展開する。囁くような、しかし感情を剥奪されたかのような声から無機質な質感のドローンへと変化する15分に及ぶ曲である。7曲目 “Etienne” では前曲を受け継ぐような持続音から始まり、やがてギターやピアノが静かに加わる曲だ。絶望から微かに光を感じさせるような楽曲だ。8曲目 “Thatorchia” は再び声とノイズによるダークなドローン音楽へと舞い戻る。耳の奥に “Etienne” のピアノの響きが残っているからだろうか。漆黒の中に微かに明るさや光を感じさせるトーンに変わっている。最終曲にして9曲目 “Amber Waves” はボーカル曲だが11分におよぶ長尺のトラック。ミニマルな楽曲構成の中、シルキーなケインの声が空間に溶けていくかのように展開する。暗く、悲しく、しかし穏やか。

 このアルバムは幻想的であり悪夢的な音響だが、夢の世界に逃避するという作風ではない。そうではなく悪しき「カリスマ」たちによって画一化と多様性の抑圧が進行する世界において、そこから排除されたものたちの「霊」が、いつか反撃の一撃を加えようと闇の向こうで息を殺して世界を見つめているような「殺気/気配」をとても強く感じるアルバムなのである。そう、本作は決してファンタジーではない。どこか戦争直前の時代特有の不穏な空気感覚と、身を切るような切実なリアリティが本作には満ちているのだ、だからこそ2025年の「今」聴くべき音楽といえよう。

Cock c'Nell - ele-king

 ここにまた日本のポスト・パンクの名盤がリイシューされました。元めんたんぴんの池田洋一郎とヴォーカリスト野方攝(せつ)が中心となった金沢出身のNew Waveバンド、コクシネルが1981年のEP「ライブ」以来、1986年に〈バルコニー・レコード〉からリリースしたファースト・アルバムがリリースされます。野方攝のヴォーカリゼーションや楽曲の面白さもさることながら、詩人で実験音楽家としていまも活動する工藤冬里も独自のピアノ演奏には引き込まれます。故ヤギヤスオによるオリジナル盤のデザインを再現し、銀を乗せた豪華でクールなジャケット仕様。名盤です。
 

Cock c'Nell
Boys Tree

P-ヴァイン
2月19日発売

Various - ele-king

 それにしてもなんてひまじ……いやいや、なんて研究熱心な方だろうか、ロンドン大学で文化研究を続けるルイジ・モンテアンニ(Luigi Monteanni)氏は、なんと、700タイトル以上を数える過去のインドネシアのホラー映画のうち43作品から、そのサウンドトラック、効果音、絶叫やセリフを編集し、ひとつの音楽アルバム作品にした。それがこの『お化け屋敷(Tempat Angker)』なのである。インドネシアがホラー映画大国であることをぼくは知らなかったけれど、インドネシアと同じくイスラム文化圏にあるイランでもホラー映画は人気ジャンルのようだ。
 ホラーに関する心理的なメカニズム、つまりひとは何故ホラーに惹かれるのか、についてはすでに多くの研究がある。ひとつにはアリストテレスの「悲劇」にそって、簡単にいえばカタルシス(浄化作用)があるからだという論がある。現実逃避のいち形態で、血なまぐさいシーンを観ながら「生きていることを実感し、生きていることに興奮する」からだと説いているひともいるが、まあ、ひと言でホラーと言ってもひたすら拷問と流血の『ソウ』と社会性を汲んだ『ゲットアウト』とでは受け手の心理はだいぶ違うわけで、インドネシアのホラー映画の多くは民間伝承や迷信など土着文化に根付いているそうだ。ことにイスラム文化圏におけるディストピア的で怪物のような存在には、その家父長制や極端な格差社会に対する怒りを反映したものも少なくないそうで、それはそれで興味深い話ではあるのだが、ここに紹介するのはそれら映画のサウンドをコラージュした音響作品、これ以上突っ込むのは止めておきましょう。

 モンテアンニ氏は、1970年代から2015年までに作られた映画のうちの43作から抜粋したサンプルを使用してこの『お化け屋敷』を制作した。こうしたサウンド・コラージュをサンプリング・ベースの音楽が普及した近年では、ジョン・オズワルドのエッセイにならって「プランダーフォニックス」と言い換えている。
 初期のプランダーフォニックスとしてはザ・レジデンツが有名だが、『お化け屋敷』の冒頭の叫び声を聞いていると、90年代半ば頃の暴力温泉芸者を思い出すかもしれない。が、この作品の面白さは、インドネシア・ホラー映画ならではの音響——竹楽器、邪悪な音程、ガムランなど——が耳に新鮮なこと、また、「インドネシア・ホラーの女王」として有名だという故・女優スザンナの叫び声がヴィンテージなシンセ音や効果音と絶妙にミックスされている点もここに記しておく。
 じつはモンテアンニ氏の文化研究の対象のひとつにインドネシアがある。氏はかの地の民族音楽の研究者であり紹介者でもあり、氏はあきらかに、尊敬を込めてインドネシア文化の断片をコラージュしている。また、モンテアンニ氏はアカデミシャンではあるが、バンド活動ソロ活動ふくめ、かなり積極的に音楽に関わっている。いろんなことに手を出しているこ氏は、だからまったくひまじんではないのである……って、誰がそんなこと言った!


 ノイズ/グラインドコアの研究家でもある氏の考察でぼくがもっとも関心があるのは、「デジタル・アンダーグラウンド」をめぐっての論説だ。90年代初頭のまだユーモアを失う前トゥパック・シャクールが在籍していたことで知られるオークランドのラップ・グループのことではない。これはネット社会における文化をめぐる議論のひとつで、このことについて話すと長くなるのだが、要するに、アンダーグラウンドはもうない、という説がある。サイモン・レイノルズが、「インターネットの普及によって本当の意味でのアンダーグラウンドという概念は消えてしまった。いまでは誰もが簡単にあらゆる情報を見つけられる」と書いたことに端を発し、「いや、そんなことはない」「いや、facebookに載った時点で終わりでしょ」「いや、ロンドンのOTOでやっていることはアンダーグラウンドだろ」などと議論は活発だ。そこにモンテアンニ氏も参戦し、モデムから広がるアンダーグラウンド考を著し、氏は「アンダーグラウンド文化の精神を維持しながらも、新たな方法で進化を続けている」状況を紹介している。あらためて言えば、アンダーグラウンドとは、既存の商業的な大衆文化とは別のところで広がる領域を意味している。
 『お化け屋敷』を出したロンドンのレーベル〈Sucata Tapes〉は、カセットテープのフィジカル・リリースとBandcampでの配信を基盤にしたDIYレーベルで、その親レーベルの〈Discrepant〉は、スガイ・ケンからPeople Like Us、グローバル系からフィールド、エクスペリメンタルからプランダーフォニックスほかコンスタントに尖った作品を出し続けている。こうした場があるおかげで、東京にいるぼくがインドネシアのホラー映画の世界にアクセスできたのだった。たとえ肉切り包丁を振り回すサイコに追いかけられていたとしても、そこは現実のホラーから逃避した安全な世界なのだ。自分の部屋に友人を招いたときには、ぜひこっそりとBGMにお使いください。

Bon Iver - ele-king

 前作『i, i』から早6年。ウィスコンシンのシンガーソングライター、ジャスティン・ヴァーノンによるプロジェクト、あるいはライターの木津毅が心の底から愛しているボン・イヴェールがひさびさにアルバムをリリースする。昨秋発表されたEP「SABLE,」の延長にあたるそれは『SABLE, fABLE(漆黒、寓話)』と題され、ヴァーノンの新たな一歩を刻んだ1枚に仕上がっているようだ。4月11日、おなじみの〈Jagjaguwar〉から発売。新曲 “Everything Is Peaceful Love” が2月14日の24時に公開されるようなので、まずはそれを待機しておきたい。

ボン・イヴェール、6年ぶりとなるニュー・アルバム『SABLE, fABLE(セイブル、フェイブル)』を2025年4月11日、Jagjaguwarよりリリース。

2月14日(日本時間:2月15日 0:00)、シングル/ビデオ「Everything Is Peaceful Love」を公開。

Justin Vernonはページをめくり、Bon Iverの次の章、エピローグを始める。4月11日にJagjaguwarからリリースされる『SABLE, fABLE』は、このプロジェクトにとって6年ぶりのアルバムであり、瑞々しく輝くポップ・ミュージックに乗せたラヴストーリーが収録される。昨年秋にリリースされた3曲入りのEP『SABLE,』EPから始まるこのアルバムは、1人が2人になり、闇がサーモン色の美しさに変わり、悲しみが抑えきれない喜びに変わる、9曲からなる新たなサガ(物語)へとシームレスに展開していく。『SABLE,』が、長い間過去を決定づけていた痛みとの決別という希薄で孤独なものであったのに対し、『fABLE』は、パートナー、新しい思い出、おそらくは家族といった、光と目的と可能性に満ちた活気ある未来を見つめている。
4月11日のリリースに先駆けて、Bon Iverは今年のバレンタインデーに「Everything Is Peaceful Love」で正式に『fABLE』時代に突入する。このシングルは、HBOの『How To with John Wilson』の映像作家、John Wilsonが撮影/編集したミュージック・ビデオとともにリリースされる。
Justin VernonとJim-E Stackによってプロデュースされた『SABLE, fABLE』は、主にウィスコンシン州にあるVernonのApril Baseでレコーディングされた。このアルバムのコンセプトは、2.22.22(2022年2月2日)にStackがDanielle Haimを連れてApril Baseに到着したときに生まれた。雪に覆われた数日間、VernonとHaimの声は「If Only I Could Wait 」で交錯した。このデュエットは、「新しい愛の輝きの外では、自分自身の最高のバージョンになる強さを持っていない」という重要な視点を持ったデュエット曲である。
もし『SABLE,』がプロローグなら、『fABLE』は本である。しかし、ひとつになった『SABLE, fABLE』はアルバムであり、おとぎ話ではない。夢中になること、そしてそれがこれらの曲にもたらす強烈な明晰さ、集中力、正直さ、祝福には、紛れもない癒しがあるのかもしれない。「Everything Is Peaceful Love」は、恋に落ちる相手に出会って幸福感に打ちひしがれる男の肖像である。しかし、『SABLE,』の影はまだ迫っており、リセットして再出発しようと努力しても、古い感情が戻ってくることがある。
寓話のように、各トラックは教訓を植え付ける。『fABLE』は、他者や恋人と関わるときに必要とされる無私のリズム、つまり、より良くなるためのペースを見つけるための忍耐強いコミットメント、そして一体感について歌っている。『i,i』や『22, A Million』でJustin Vernonの声を守っていた、回避的で濃密な音の層はもうない。『SABLE, fABLE』は、真実を剥き出しにしたキャンバスなのだ。
Justin Vernonは2月21日、ピーボディ賞(アメリカのテレビやラジオ、ウェブサイトなどの放送作品に贈られる賞)を受賞した放送作家で、ナショナル・ヒューマニティーズ・メダリスト、そしてニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー作家であるKrista Tippett(The On Being Project)との多方面にわたる対談で、『SABLE, fABLE』についてさらに語る予定だ。ニューヨークのブルックリンで開催されるOn Air Festの最後を飾るこの対談で、2人は音楽、癒し、その他の中心的な問題について語り合う。また、インタビューの音声はKCRWのインターネット・ラジオ放送でライブ・ストリーミングされる。

01. THINGS BEHIND THINGS BEHIND THINGS
02. S P E Y S I D E
03. AWARDS SEASON
04. Short Story
05. Everything Is Peaceful Love
06. Walk Home
07. Day One (feat. Dijon and Flock of Dimes)
08. From
09. I'll Be There
10. If Only I Could Wait (feat. Danielle Haim)
11. There's A Rhythmn
12. Au Revoir

【BON IVER/ボン・イヴェール】
ウィスコンシン州出身のシンガー・ソング・ライター、Justin Vernonのソロ・プロジェクトとして始まったBon Iverは、2008年にデビュー・アルバム『For Emma, Forever Ago』をリリース。世界中の音楽メディア、批評家、アーティストから絶大な指示を獲得した。また、同年のEP『Blood Bank』収録曲「Woods」は、後にKanye Westにサンプリングされ話題となる。2011年のセカンド・アルバム『Bon Iver, Bon Iver』はPitchforkで9.5/10点を獲得し、全米2位/全英4位を記録。2012年には、第54回グラミーでは最優秀新人賞と最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞を受賞した。2016年のサード・アルバム『22, A Millian』は、全米/全英チャートで2位を記録し、世界各国のチャートで軒並み上位にランクイン。2019年には目下の最新作『i,i』をリリースした。その独創的でユニークなアプローチや表現は、作品を出す毎にメインストリームにまで影響を与える。

Music for Black Pigeons - ele-king

 2010年代後半以降、〈ECM〉から多くの作品を発表しているデンマークのジャズ・ギタリスト、ヤコブ・ブロ。さまざまな音楽家とセッションを繰り広げてきた彼を14年間にわたって撮影しつづけたドキュメンタリー映画が公開されることになった。題して『ミュージック・フォー・ブラック・ピジョン ――ジャズが生まれる瞬間――』。監督は、一昨年『ラース・フォン・トリアーの5つの挑戦』が話題となったデンマークの巨匠、ヨルゲン・レス。撮影中に逝去したリー・コニッツやポール・モチアンといった音楽家による最後の演奏も記録されている。さらに、高田みどりも出演しているようです。
 映画は2月28日よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺ほかにて、順次全国公開予定。前売り券も発売中です(https://www.major-j.com/cinema_information.php?id=M69113590023)。

[3月4日追記]
急遽イベントが決定しています。主演のジャズ・ギタリスト、ヤコブ・ブロさんとライターの原雅明さんによる上映後トーク・イベントで、下記の2回を予定。ぜひ足をお運びください。

①アップリンク吉祥寺 3月8日(土)13:20~の回
②ヒューマントラストシネマ渋谷 3月9日(日)12:00~の回

[作品概要]
ミュージック・フォー・ブラック・ピジョン ――ジャズが生まれる瞬間――
(原題:Music for Black Pigeons)
監督:ヨルゲン・レス、アンドレアス・コーフォード
字幕:バルーチャ・ハシム
2022年/デンマーク制作/92分/
出演:ヤコブ・ブロ、リー・コニッツ、ポール・モチアン、ビル・フリゼール、高田みどり、マーク・ターナー、ジョー・ロヴァーノ、ジョーイ・バロン、トーマス・モーガン、マンフレート・アイヒャー、他
配給:ディスクユニオン

オフィシャルURL: https://www.musicforblackpigeons.com/
予告編リンク:https://youtu.be/WL1P7Sv6AJM

guide to DUB - ele-king

 大変ご好評いただいている河村祐介(監修)『DUB入門』、その波はいまだとどまることを知らず。京都にて同書をフィーチャーしたイベントが開催されることになりました。2月21日、京都WEST HARLEMにて、半分はトーク・ショウ、もう半分はパーティという構成です。お近くの方はぜひお越しください。
 なお『DUB入門』、オンラインでは一部入手しづらい状況にありますが、全国の書店にはまだ在庫があります。気になる方は書店で探してみてください。

FRI 21 FEB
【W×H SOCIAL CLUB ft.DUB入門】

@京都WEST HARLEM

①Talk Show
7PM
1,000JPY
河村裕介、小野真、Kotsu

②PARTYTIME
10PM
DOOR 2,000JPY
Under 23 1,000JPY
(+1D for All entrance fees)
Live:
G Version Ⅲ


DJ:
河村裕介、kotsu、Naco、Vis
ykah
Flyer Desing:
Kotsu

Panda Bear - ele-king

 アニマル・コレクティヴのパンダ・ベア(ノア・レノックス)、近年はソニック・ブームとの共作も記憶に残る彼だけれど、ひさびさのソロ・アルバムの登場だ。前作『Buoys』から5年ぶりですな。発売は2月28日、おなじみの〈Domino〉から。現在新曲の “Ends Meet” が公開中です。ちなみに今回のリリースにあたって、先行シングル「Defense」のB面でプロダクションに参加していたOPNことダニエル・ロパティンがコメントを寄せている。詳しくは下記より。

Panda Bear

パンダ・ベアの5年ぶりとなる待望の新作
『Sinister Grift』より新曲「Ends Meet」を公開!
また、購入者先着特典としてポスターをプレゼント!

アニマル・コレクティヴの中心メンバーであり、稀代のメロディー・メイカーとして知られるノア・レノックスのソロ・プロジェクト、パンダ・ベアが、2月28日に〈Domino〉からリリースされる最新アルバム『Sinister Grift』より最後の先行シングル「Ends Meet」を解禁した。

「Ends Meet」では、アニマル・コレクティブのエイヴィ・テア (Avey Tare)とジオロジスト (Geologist)による演奏がフィーチャーされており、マリア・レイス (Maria Reis)とスピリット・オブ・ザ・ビーハイブのリヴカ・ラヴェデ (Rivka Ravede)がバックボーカルを務めている。

Panda Bear - ‘Ends Meet’
Youtube https://pandabear.ffm.to/endsmeet-yt
配信リンク  https://pandabear.ffm.to/endsmeet

アルバムからはこれまでに「Ends Meet」のほか、アルバム発表に合わせて解禁された先行シングル「Defense」と、2024年最も話題を集めたアーティストの一人、シンディ・リーがギターで参加している「Ferry Lady」の3曲が解禁されている。また、本日からトロ・イ・モアとのダブル・ヘッドライナー公演を含むUSツアーがスタートする。

アニマル・コレクティヴでドラマー兼ヴォーカリストとしてデビューしてから20年、ノア・レノックスはこれまでに様々なスタイルを通して作品を生み出し続け、またアニコレ作品やソロ作品以外にも、多くに愛される音楽作品に数多く携わってきた。そのため、彼の創造的ビジョンの一貫性は時に見過ごされてしまうこともあるが、2007年のソロ・アルバム『Person Pitch』や、2015年の『Panda Bear Meets the Grim Reaper』といった重要な作品から、アニマル・コレクティヴでのブレイクスルーとなった2004年の『Sung Tongs』や2009年の『Merriweather Post Pavilion』、さらにはダフト・パンク、ソランジュ、ディーン・ブラント、パラモア、ジェイミー・エックス・エックスらとの革新的なコラボレーションに至るまで、彼の作品は一貫して明確な軸を持ち、世代もジャンルも超えて、多くのアーティストに影響を与えてきた。

『Sinister Grift』は、5年振りとなるパンダ・ベアのソロ・アルバムで、これまでのキャリアの集大成でありながら、革新性も備えた作品となっている。彼のソロ作品は、深い悲しみを表現したものから、カラフルでエレクトロニックな大作まで様々だが、これほど温かく、即時的なサウンドはこれまでになかった。ポルトガルの自宅スタジオでアニマル・コレクティヴのバンドメイトであるディーケンことジョシュ・ディブと共に制作作業を行い、パンダ・ベアがあたかもオールドスクールなロック・アンサンブルに変貌したかのような新作を完成させた。ほぼ全ての楽器を自身で演奏しつつも、前述のシンディー・リーやスピリット・オブ・ザ・ビーハイヴのリヴカ・ラヴェデといった同志が集い、またソロ作品としては、アニマル・コレクティヴの他のメンバー全員が参加した初のアルバムとなっている。

美しいちょっとした悪夢も垣間見られるクラシックなロック・ドリームだ - ダニエル・ロパティン
僕たちが一緒に作り上げたこの作品に非常に誇りを持っているよ。『Sinister Grift』は、30年以上知っているソングライターの姿を感じさせながら、同時にノアにとって新しいチャプターのようにも感じる。完成した作品にはこれ以上ないほど誇りを感じている。 - ジョシュ “ディーケン” ディブ (アニマル・コレクティヴ)
こんな暗い時代には、人生を乗り切るための音楽が必要だ。パンダ・ベアはその魔法を持っていて、彼の声はこの世界を癒す薬のように感じる。ノアが私たちに贈ってくれた『Sinister Grift』で、リラックスすることができるし、ビーチの近くにいる気になるよ。 - DJファルコン
『Sinister Grift』は美しいアルバムだ。全てが本物で自然な音に聞こえ、まるでそれが常に存在し続けているかのように感じる。真実であり、タイムレスな作品だ。 - アラン・ブレイクス

パンダ・ベアの最新アルバム『Sinister Grift』は、CD、LP、デジタル/ストリーミング配信で2025年2月28日に (金)に世界同時リリース。国内盤CDには、ボーナストラック「Virginia Tech」が追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。LPは通常盤(ブラック・ヴァイナル)に加え、限定盤(キュラソー・ブルー・ヴァイナル)も発売される。 また、全形態を対象に先着特典でポスター(A2サイズ)の配布が決定!


先着特典ポスター

label: Domino / Beat Records
artist: Panda Bear
title: Sinister Grift
release: 2025.2.28.
Tracklisting:
01. Praise
02. Anywhere but Here
03. 50mg
04. Ends Meet
05. Just as Well
06. Ferry Lady
07. Venom's In
08. Left in the Cold
09. Elegy for Noah Lou
10. Defense
11. Virginia Tech *Bonus track
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14474

 日本では、例えば誰かに「自分は、昨日の晩にこんな夢を見た」と言う。これは、英語では「夢」を「見た」ではなく、「Last night I dreamt that…」になる。「I saw a dream」ではない。日本語の表現の方が理にかなっているんじゃないか、ずっとそう思ってきた。眠っている間に夢を見ている時、POVは自分にある。ドリーマーは主役/カメラマン/監督を兼任する。

 映画館で映画を観るのは夢を見るのに似ている。光の芸術であるゆえに、この媒体はヴューワーに90分~2時間ほど(最近は3時間近い大作も珍しくないが)、闇の中で自発的にじっと座ることを求める。人間は普通闇を避ける生き物なので、その意味で妙なメディアだ。ホームシアター設備を備えている家庭は多いだろうし、携帯で映画をストリームできる今の時代、闇はもはや必要ないのかもしれない。しかしCMや他の映画の予告編が終わって淡く灯っていた客電が落ち、静寂が訪れ、映画本編上映が始まってからしばしの間、観客は起きたまま夢の中に入り込む。たとえ、外はまだ昼間であっても──デイヴィッド・リンチの訃報に触れて以来、そんなことを考えていた。

 「リンチの思い出を書いてみませんか」と声をかけていただきこの文章を書いているが、リンチ作品との最初の出会いは実は細かく憶えていない。恐らく『エレファント・マン』(1980)のテレビ放映だったのだろう。最後でおいおい泣いた。次はリンチ唯一の大予算巨編『デューン/砂の惑星』(1984)になるが、当時日本のSFアニメが好きで洋物実写に興味の薄かった筆者は公開時に観ていない。リンチの名前をちゃんと意識したのは、だから『ブルー・ベルベット』(1986)になる。ただしこれも、最初はビデオで観た。

 今とは違い、映画は劇場公開からしばらく経ち、地上波テレビ放映されれば御の字、あとはビデオソフト化(DVDではなくビデオカセット)を待つほかなかった。しかしソフトは高価だったので、レンタルビデオが隆盛した。『ブルー・ベルベット』は、映画評を読むとやばそうな内容だった。あの頃親から「お前はネクラだ」とたしなめられていたので、こっそり借りて、深夜にひとりで観た。正解だった。

 80年代は日本で単館〜独立系ミニシアターが増えた時期でもあった。大手系列館ではカバーできないアート/インディ映画やアングラ映画は、そうした水脈&土壌にも保護されていた。筆者が品揃え豊かなレンタルビデオ店やミニシアターの恩恵に与ったのは上京後。『このビデオを見ろ!(別冊宝島)』他をガイド役に個性的なビデオ店をはしごし、『ぴあ』をチェックして英国美少年映画祭オールナイト上映、六本木シネ・ヴィヴァン、新宿武蔵野館のやくざ映画二本立て、東中野シネマシオン、渋谷ユーロスペース、各種名画座/上映会等、ハイ/ロー入り乱れて色んな「闇」にもぐり込んだもの。中でも、ミッドナイトムーヴィー(あるいはカルト映画)は独特な磁力を放っていた。

 ミッドナイトムーヴィーの起源には諸説あるが、特に70年代にアメリカで盛り上がった現象とされる。問題作、アート/インディ/海外映画、ジャンル映画、エクスプロイテーションもの等が、物好きなお客相手に深夜に単館上映された。「観てはいけない」と言われると観たくなるのが人間の病的な性(さが)であり、人目を忍ぶように夜に観るのも背徳感がある。そのカルチャーが「ジャンル」として日本に波及したのは80年代だったと思う。

 リンチの長編処女作『イレイザーヘッド』(1977)を筆者が遂に観ることができたのもその流れだった。しかし、『ロッキー・ホラー・ショー』(1975)や『リキッド・スカイ』(1982)といったひいきのカルト作品とはまったく趣きが違ったので驚いた。構想は1970年にスタート、撮影開始から公開まで実に5年かかったこのモノクロ作品、当時のトレンドやサブカルチャー(ニューシネマ運動、キッチュ/キャンプ美学、グラム〜パンク〜ポストパンク等)と絶縁した、あまりにパーソナルに閉じた映画だった。

 主人公ヘンリー(ジャック・ナンス)のルックスはセルゲイ・エイゼンシュテインとジャン・コクトーと事務員の中間だし、一方で他の登場人物も含めミザンセーヌは40〜50年代アメリカ映画のノリ。映像のトリックや夢のロジックは、ジョルジュ・メリエスやシュルレアリスト映画(コクトー『詩人の血』/1932年、マヤ・デレン『午後の網目』/1943年、ハンス・リヒター『金で買える夢』/1947年等)の系列にある。唯一コンテンポラリーな要素は、荒廃した屋外の通りとインダストリアルなサウンドスケープ、そして2年後の『エイリアン』のゼノモーフを予期させる「赤ちゃん」のエグいデザインおよび特殊効果くらいだろう。

 それくらい、『イレイザーヘッド』の出来事が起こる空間は現実界とシンクロしていない。若くして父親となったリンチ本人の自伝的背景や、美大生時代を過ごしたフィラデルフィアのトポロジーも作用している(70年代のフィラデルフィアの雰囲気は1976年公開の『ロッキー』を観れば少し掴める)。とはいえ、主人公の部屋──その、壁紙、床板、カウチ、フロアランプから成るインテリアのヴァリエーションは以後繰り返し登場する──が最たるものだが、目に見える/耳に聞こえるすべてはリンチの想像力あるいは夢の世界の具現化と言える。

 実在人物を描いた物語(『エレファント・マン』、『ストレイト・ストーリー』/1999年)と架空の世界(『デューン』)を除くと、彼の映画およびテレビ作品の大半はこうした彼個人の想像力/無意識/オブセッションの現出だった。夢を真摯に、明晰に描いたがゆえに、その世界は常にどこかが「ズレて」いたのだし──リンチ映画のセリフや設定の陳腐さ、独特なペース、役者の超フラットあるいは激エキセントリックな演技は、他の監督の手に掛かったら成り立たないだろう──、普通に辻褄の合う映画を期待して観ると、「なんで?」の連続になる。だがそれは、自分でも気づいていなかった心の闇の部分を刺激される、「意味は分からないけど、もう一度観たい」と引き込まれる唯一無二な世界だ。

 その不可思議さが「味」として確立されたのが、『ブルー・ベルベット』と『ツイン・ピークス』の第一シーズン(1990)だろう。クラブ他でシンガーが歌うダイジェティックな場面、時の止まったごとき平和な町と不健康な暗部の共存、常識はずれの悪(evil)、オフビートなユーモア。それらが相まって形成される、アナクロニズムの魅惑(オールドスクールなロックンロールやジャズが占めるリンチの世界では、1964年のビートルズ米上陸──リンチ本人は64年にビートルズのライヴを観ているものの──は起きなかったかのような錯覚に陥る。そこから先はコンテンポラリーな90年代メタル/インダストリアルにジャンプしてしまう)。『ツイン・ピークス』は日本でも盛り上がり、関連書籍も色々と出た。筆者はレンタルで観たが、毎回コーヒーとドーナツを用意して鑑賞したものだった(チェリーパイは当時日本では見かけなかった)。

 この2作で主役兼ヴューワーの身代わり(=謎を探る主体)を務めたのはリンチのオルター・エゴであるカイル・マクラクランだ。リンチはよく、『スミス都へ行く』(1939)や『素晴らしき哉、人生!』(1946)といったヒューマニスト映画で名を馳せた「ミスター・ナイスガイ」、ジェームズ・スチュワートに似ていると言われた。そのイメージにひねりを効かせたのがヒッチコックで、特に『裏窓』(1954)と『めまい』(1958)で覗き魔/探偵の境界線をぼかし、夢の女にフェティッシュな執着を抱く役柄をそれぞれ演じたスチュワートは、『ブルー・ベルベット』のジェフリー(『裏窓』の主人公の姓名はジェフリーズ)と『ツイン・ピークス』の堅物捜査官デイル・クーパー(「最も美しい死体」と称されたローラ・パーマーに、彼は魅入られたと言える)がだぶる。

 すれたところがなく誠実そうなマクラクランは、「善VS悪」を軸とするリンチ世界で善とその戦いを体現するヒーローと言える。しかしスモール・タウン〔※〕を出て、リンチがアメリカ映画の別のトロープ、すなわちロード・ムーヴィー(およびそのリミックス)を撮り始めたところで、モラルの境界線は錯綜していく。『ワイルド・アット・ハート』(1990)の主役のひとり=ルーラ(ローラ・ダーン)が言うように、「This whole world's wild at heart and weird on top(この世って根っから荒っぽくて、その上妙ちきりん)」なのだ。

 『ワイルド・アット・ハート』のもうひとりの主人公セイラー(ニコラス・ケイジ)は、マーロン・ブランドを思わせるヘビ革ジャケットを愛用しプレスリーを歌う、マクラクランの好青年とは真逆のアンチヒーロー。この善悪の反転はメビウスの輪へとねじれ、「ハリウッド三部作」=『ロスト・ハイウェイ』(1997)、『マルホランド・ドライブ』(2001)、『インランド・エンパイア』(2006)で加速していく。リンチにしか説明できないロジック&抽象を押し進めた、ハルシネーション(幻覚)とハレーションの交響楽──美/醜、感傷/怪奇、アイデンティティが錯綜するこれら3作は、「感じる」映画だ。オチがつかず、しかも抜け出せない悪夢にうなされる時のように、じかに感覚が揺さぶられる。

 そんな濃厚な夢に付き合うには観る側もそれなりの覚悟がいる。リンチの劇場映画はどんどん長くなっていった(雇われ仕事である『エレファント・マン』や『デューン』も2時間越えだが、原作の性質上仕方ない。『デューン』が長編1本で収まらないサーガなのは、ドゥニ・ヴィルヌーヴ版でご承知の通り)。『ワイルド・アット・ハート』で2時間の線を破り、『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』(1992)と『ロスト・ハイウェイ』は134分、『マルホランド・ドライブ』で147分、映画では最後となった『インランド・エンパイア』に至っては180分だ。

 その意味で、実験/アート映画の方向をとるのではなく、リンチが2017年に『ツイン・ピークス The Return』で大衆向けのドラマに久々に立ち戻ってくれたのは、英断だったし溜飲が下がった。18話に及んでハルシネーションを展開することでロングフォームTVの可能性を広げたのはもちろん、様々な「盟友」と再会を果たし、ライトモチーフやお家芸やテクニックを洗練・更新したあの作品は、彼の現役ぶりを示すと同時に総決算でもあった。

 もはや彼の新たな夢を見ることがかなわなくなった現在、謎(エニグマ)の山をどっさり残してくれたあの合計約17時間は貴重だ。ポリマスなアーティストだったゆえに、音楽、絵画、写真、書籍、ウェブ等、その感性はマルチなアウトレットを通じて発された。しかしリンチの遺した10本の劇場映画および『ツイン・ピークス』は、やはりそれらを集約した「総合芸術」であり、稀に見る夢の映像化だったと思う。

 『ツイン・ピークス』に出て来る用語に「青いバラ」というのがある。「Blue rose」は自然界に存在しない=「不可能/ミステリー」の意味でもあり、作品中では異界のフォースや超常現象を指すが、これはリンチというエニグマにもぴったりな気がする。彼は2010年にディオールのハンドバッグ、レディ・ディオールの連作広告のひとつ『Lady Blue Shanghai』篇を作った。主演のマリオン・コティヤールは記憶が混乱したまま、ホテルの部屋に鎮座した謎のバッグを開ける。ロバート・アルドリッチの『キッスで殺せ!』(1955)を想起せずにいられない場面だが、しかしその中に彼女が見つけるのは──記憶の中の恋人から渡された青いバラ、愛のシンボルだ。

 バラと言えば、『ブルー・ベルベット』の冒頭で鮮やかに咲き乱れる赤いバラのイメージも有名だ。しかし「Red rose」は「Dead rose(死んだバラ)」と韻を踏みたくなるし、対して「Blue rose」は「New rose(新たなバラ)」と思える。『エレファント・マン』のラストにはテニスンの詩「Nothing Will Die」が引用されるが、テニスンはその対を成す無常を歌った詩「All Things Will Die」も書いていた。そう考えるとリンチは、なんだかんだ言って善や愛が最後に勝つ、再生を信じていた人だったと思う。だから彼の夢の中に入るのは怖くないのだ。幕はいったん引かれたかもしれないが、映画館で、テレビで、ウェブで、彼の青いバラはどこかの闇の中で繰り返し花開き続ける。そんな風に何度でも夢で逢えるのは、素敵なことだ。

〔※〕『ブルー・ベルベット』の舞台ランバートンのあるノースカロライナ州、および『ツイン・ピークス』の主な舞台であるツイン・ピークスのあるワシントン州は、いずれもリンチが子供時代に暮らした州。

Waajeed - ele-king

 1年と少し前、CIRCUS Tokyoで体験したワジードのDJはほんとうにすばらしかった。その感動をふたたび味わえる日がこんなに早く来ようとは、僥倖以外のなにものでもあるまい。2023年朝霧ジャム出演以来の再来日、今回は名古屋(3/1@CLUB MAGO)、東京(3/7@CLUB ASIA)、京都(3/8@CLUB METRO)の3都市をまわる。前回都合がつかなかった方は、今回こそは見逃せませんよ!!
 なお、前回来日時に取材したワジードのインタヴューはこちらから。とてもいい話をしてくれているのでぜひご一読を。

WAAJEED JAPAN TOUR 2025

3.1 (Sat) CLUB MAGO, Nagoya

Main Floor
DJ
WAAJEED
Williams (Conomark, Taihei)

LIVE
OBRIGARD
Ramza
Goemon

Second Floor
MAKOSSA BOYS
GAL
Taiyo Maruyama
DJ KANBE

Food
Island Service

Open 22:00
ADV 3,000yen Ticket on Sale club-mago.zaiko.io/item/369387
DOOR 4,000yen

Info: Club Mago http://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F Tel 052-243-1818

3.7 (Fri) CLUB ASIA, Tokyo
- THE HOUSE TOKYO -
Waajeed Japan Tour 2025
&
clubasia 29th anniversary

-MAIN FLOOR-
dj:
WAAJEED (Dirt Tech Reck / from Detroit)
Toshiyuki Goto
桑田つとむ a.k.a. DJ QUIETSTORM
conomark

live:
TOSH7

Vj:
Peeping Tom & Big! a.k.a. Sumokings
VIDEOGRAM

-2F FLOOR-
dj:
Kaori Ichikawa
Kentaro TT
Leo Gabriel
and more...

-1F BAR FLOOR-
dj:
Bungo
and more...

Open 23:00
Door 4,300yen + 1Drink
ADV 3,300yen + 1Drink *TICKET → zaiko https://cultureofasia.zaiko.io/buy/1yar:EwS:eaef4

Info: Club Asia https://clubasia.jp
東京都渋谷区円山町1-8 Tel 03-5458-2551

3.8 (Sat) CLUB METRO, Kyoto
- Jazzy Sport Kyoto 7th Anniversary × WAAJEED JAPAN TOUR 2025 -

SPECIAL GUEST DJ:
WAAJEED

DJs:
MASAYA FANTASISTA & MIKEY VAROT (Jazzy Sport)
YUKARI BB (Jazzy Sport Kyoto)
SHUN145 (Jazzy Sport Kyoto)
SHUNPURI (Club Metro)
PICHUU (Hatake Junkie)

VJ:
HSMR
mahiro

Pop up:
HATAKE JUNKIE

Food:
HIGETACO

Open 22:00
早割¥2,500 ドリンク代別途 [受付期間:1/21~1/24 23:59迄]
前売¥3,000 ドリンク代別途 e+ ( https://eplus.jp/sf/detail/4253530001-P0030001 )
当日¥3,500 ドリンク代別途

Info: Club Metro https://www.metro.ne.jp
京都市左京区川端丸太町下ル下堤町82 恵美須ビルB1F Tel 075-752-4765

Waajeed (Dirt Tech Reck / from Detroit)
Waajeed (ワジード)ことRobert O'Bryantはミシガン州デトロイト出身のDJ、プロデューサー、アーティスト。
10代の時、デトロイト・ヒップホップを代表するグループ、Slum VillageのT3、 Baatin、J Dillaと出会い、DJやビートメイカーとしてSlum Villageに参加する。
奨学金を得て大学でイラストレーションを学ぶ時期もあったが、Slum Villageのヨーロッパツアーに同行した時に、音楽を生業とすることを決めたという。
2000年にはSaadiq (Darnell Bolden)とPlatinum Pied Pipersを結成し、ネオソウルやR&B色強いサウンドを打ち出した。Platinum Pied Pipersとして、Ubiquityよりアルバム『Triple P』、『Abundance』がある。2002年からレーベルBling 47を主宰し、自身やPlatinum Pied Pipersの作品の他、 J DillaのインストアルバムJay Dee Vol. 1: Unreleased や Vol. 2: Vintageをリリースしている。
2012年、レーベルDIRT TECH RECKを立ち上げ、より斬新なダンスミュージックサウンドを追求している。
Mad Mike Banks、Theo Parrish、Amp Fiddlerとのコラボレーションを経て、2018年、Waajeedとしてのソロアルバム『FROM THE DIRT LP』を完成させた。
2019年、デトロイトでより多くの人々がアンダーグラウンドミュージックの制作ができるように、DTM、DAWでの音楽制作を中心としたワークショップコミュニティ、Underground Music Academy (UMA)を設立する。
2022年、最新アルバム『Memoirs of Hi-Tech Jazz』をドイツテクノ名門、Tresorから発表。

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