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Panda Bear

ExperimentalIndie Rock

Panda Bear

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野田努   May 06,2019 UP

 リリースから3か月遅れのレヴュー。なので好きなひとはとっくに聴いておのおの感想を持っていることだろう。聴いてないひとは、パンダ・ベアが嫌いか,もう彼の表現に興味を持てないか、飽きたか、もしくは生活のなかに取るに足らない、役に立たない、無用な喜びを見出さないひとかもしれない。しかし彼のまったくぶれない夢想癖が好きなひとにとっては、じつはこの『Panda Bear Meets The Grim Reaper』以来、6枚目のソロ・アルバム『ブーイ』はけっこう良かったりする。評判の良かった『Panda Bear Meets The Grim Reaper』と『Tomboy』よりも、ぼくは新作のほうが良いと思っている。昨年、最初に“Dolphin”を聴いたときにそう思った。

 オートチューンを使って昨今のR&B/ヒップホップの影響を取り入れているからではない。パンダ・ベアの作品を特徴付ける音のがちゃがちゃした感じ、空間を埋めたがるやかましい感じが綺麗に整理されて、より奥行きのある音像になっているのがひとつ、で、もうひとつの長所はメロディラインが良い。音響工作にに関しては、思うに、前作でダブを意識したとはいえは、キング・タビーの最小限の音による広がる空間とはほど遠いダブをやったパンダ・ベアも、いやまてよ、ダブにはもっと空間(スペース)とミニマリズムが必要であると気がついたのかもしれない。
 アルバムは、“Dolphin”に続く“Cranked”と“Token”も良い流れになっている。

 この2曲にも魅力的なメロディがあるわけだが、本作のひとつのスタイルが明らかになっている。それはアコースティック・ギターと歌を基調にし、サンプル音か電子音が控え目にミックスされるというシンプルな構造だ。それはフリー・フォークと括られた時代の、在りし日のアニマル・コレクティヴを思い出させるかもしれないが、『ブーイ』に収録された9曲は1曲1曲が成熟している。
 なるべく良い音響再生装置で聴いて欲しいというのが〈ドミノ〉からのリクエストのようだが、それはたしかで、間違ってもPCやイヤフォンで満足しないように。なるべく大きな音量で、独立したスピーカーから音を出そう。わかっていると思うけど、パンダ・ベアの音楽に自己救済なんて求めても無駄。たとえあなたが窮していようとも、空想力で楽しいことや嬉しいことで頭を満たして、ただただ純粋に楽しめば良い。

野田努